経済成長と減税を可能にする魔法の税制---累進所得税

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(第1章)急激な累進的所得税が大きな役割を演ずるべきこと、および、でき得るかぎり間接税の範囲を狭めることをわれわれが勧告する理由の一つは、上述の方法によって経済安定に自動的に寄与できる税制が必要であるからである。

(第4章)最も重要な問題は、一般国民が政府を支えるために、所得税をその主要な手段として利用するという試みを続けるか否かにある。(中略)
 もう一つの道は、一般国民が政府のためどれ程の寄与をしているか、その量をあいまいにし、寄与していることさえ気付かないようにしてしまう重い間接税の制度に戻ることである。そうなると、政府は、これら国民にとって縁遠い存在となり、国民は、ときおり政府の恩恵にあずかる以外、全くこれと関係のないものとなる。そのうえ、間接税では適正に、所得や富の懸隔および家族負担の差異を考慮に入れることができない。 それは、近代国家が必要とする高額の税を公平に徴収するには、あまりにも不完備な機構である。

------シャウプ使節団日本税制報告書(1949年)より(*1)


壮大な世界バブルに支えられた外需の好調も、終わりが見えてきたようです。一方、国内に目を向けると、貯蓄が全くゼロという世帯が全世帯の4分の1。一年間、額に汗して働いても、収入が200万円に達しない人が20%近くになろうとしています。

どうして日本はこれほど住みにくく、未来に希望のもてない国になってしまったのでしょうか。

この国にバブルが発生したこと。その崩壊後、経済成長が事実上、止まってしまったこと。所得と富の格差が大きくなったこと。これらに共通する原因が税制にあります。1980年代後半からの、所得税の累進性の緩和、消費税の導入、そして法人税の減税です(*2)。

なぜ、急激な累進的所得税が、経済成長と減税を可能にするのか。なぜ、消費税は、経済停滞と増税をもたらすのか。今回はその理由を考えてみたいと思います。少しばかり、算数とのおつきあいをお許しください。


■政府が存在しない国を考えてみる

簡単のため、政府が存在しない国を想像します。この国の家計は、所得が次の表のように、3つの階層A, B, Cに分かれていると仮定しましょう。各階層内では、どの世帯の月収も同じで、順に20万円、40万円、80万円だとします。

消費性向は順に、100%、80%、60%だと仮定します。高所得の世帯は一般に、所得の多くの部分を消費には回さず、貯蓄や投資を行うからです。

所得階層 A B C
世帯数(万) 2000 4000 2000
月収(万円) 20 40 80
消費性向 1.0 0.8 0.6
消費(万円) 20 32 48
消費計(兆円) 4.0 12.8 9.6
家計消費(兆円)26.4
表1:モデル国の所得と消費(はじめ)

ごらんのように、家計消費(一世帯)は順に、20万円、32万円、48万円で、この国の家計消費の合計は、ひと月に26.4兆円となります。


■政府が累進所得税で再分配を行うとどうなるか

次に、この国に政府ができ、所得税を集めて再分配を行う場合を考えます。税率は、収入に応じた累進税率で、順に0%、10%、20%であるとしましょう。簡単のため、政府はその税収のすべてを、各家計に均等に分配すると仮定します。

各家計の所得税額と再分配額、再分配後の所得(可処分所得)は次の表のようになります。

所得階層 A B C
月収(万円) 20 40 80
税率(%) 0 10 20
税額(万円) 0 4 16
世帯数(万) 2000 4000 2000
税額計(兆円) 0 1.6 3.2
税収(兆円)4.8
再分配額(万円) 6 6 6
可処分所得(万円) 26 42 70
消費性向 1.0 0.8 0.6
消費(万円) 26 33.6 42
消費計(兆円) 5.2 13.44 8.4
家計消費(兆円)27.04
表2:モデル国の所得と消費(再分配後)

消費性向が再分配で変わらないとすれば、ごらんのように、国全体の家計消費の総額はひと月27.04兆円に増えます。再分配前の26.4兆円と比べて、金額で6400億円、率にして2.4%の増加です。

国全体の消費が増えたのは、所得の再分配によって、中低所得層の可処分所得が増えたことによります。


■消費の拡大が投資の拡大をうむ

売り上げの増加を予想した企業は当然、生産の拡大に乗り出します。そのためには設備投資が必要です。その資金は、高所得層の貯蓄が提供します。

強い累進税制は、一見、高所得層にとって不利に思えます。しかし、再分配による売り上げの増加によってもっとも利益を受けるのは、企業を経営あるいは所有している、高所得層です。しかも、消費の拡大は、高所得層の貯蓄のよい運用先やよい投資先を生み出してくれます。累進税制は結局のところ、だれも損をしない税制なのです。


■累進所得税は内需主導の自立的な成長を可能にする

消費が2.4%増えました。当然、民間投資も増えます。仮に、同じく2.4%増えたとしましょう。国民の所得も2.4%増えるでしょう。つまり、表1や表2において、各家計の収入が2.4%ずつ増えます。消費性向が同じなら、当然、各家計の消費も2.4%増え、国全体の消費も2.4%増えます。したがって、また投資が増えます。

これが毎月、繰り返されます。毎月2.4%ですよ! すごい成長です。しかも、内需に牽引された自立的で爆発的な成長です(*3)。

もちろん、話はそんなにうまくは運びません。耐久消費財はそんなに急激には生産が増やせません。また、皆が設備投資したがったら、金利が上昇して、成長を抑えてしまいます。働き手や原材料や電力が不足して、生産の拡大が思うように進まないかも知れません。現実の成長経路は、さまざまな制約の影響を受けます。

重要なのは、累進所得税を組み込んだ経済システムは、内需主導の自立的な高成長(それも驚くほど高率の成長)を可能にするしくみを、しっかりと内蔵しているという点です。


■累進所得税は減税を可能にする

内需が盛りあがって景気が良くなり、数年後に各家計の収入が2倍になったと仮定しましょう。つまり、A階層の家計はB階層に、BはCに、CはD(月収160万円、税率30%)に移行したとします。このとき、税収はどうなるでしょうか。

所得階層 A B C D
月収(万円) 20 40 80 160
税率(%) 0 10 20 30
税額(万円) 0 4 16 48
世帯数(万) 0 2000 4000 2000
税額計(兆円) 0 0.8 6.4 9.6
税収(兆円)16.8
表3:モデル国の所得と税収(2倍に成長したとき)

ごらんのように、16.8兆円になります。もともとは4.8兆円でしたから、3.5倍に増えています。経済規模が2倍になるとき、税収は3.5倍に増えるのです。

これでは税金のとりすぎだ。経済規模が2倍なら、税収も2倍にとどめるべきだ、ということなら、次のように税率を(4/7倍に)引き下げればいいでしょう。減税です。

所得階層 A B C D
月収(万円) 20 40 80 160
税率(%) 0 5.71 11.4 17.1
もとの税率(%) 0 10 20 30
表4:モデル国の減税後の税率

たとえば、もともと所得階層がCで税率が20%であった家計を考えてみます。経済が成長して、この家計は階層Dへ移動しますが、移動後の税率は30%よりはるかに低い17.1%で済んでいます。

これが以前の記事で紹介した「あのイザナギ景気のときには、二・五倍日本の経済規模が大きくなり、毎年減税をやったのに二・四倍税収がふえた」ことの秘密です。日本にはかつて宝物があった。経済成長と減税を可能にする、累進性の強い所得税制という宝物があったのです。

もう1つ、不運な家計を考えてみましょう。もともと中所得層Bで税率が10%であったが、経済が成長しても何らかの理由でそのまま階層Bにとどまった家計です。この家計は収入は増えませんでしたが、税率が10%から5.71%にほぼ半減するので、可処分所得は増えます。国の経済成長につれて減税が可能になる累進税制は、不運な家計にも優しい税制です。

もし、国民の同意が得られるならば、減税幅を少し小さくして、かわりに、社会保障や教育、エネルギーや環境分野に資金を振り向けることもできます。


■もう、経済成長を語る時代ではないのでは?

もう、モノはひと通り各家庭に行き渡った。かつてのように成長を求める時代じゃないよ、という声があるかも知れません。しかし、WSはそうした意見に賛成できません。

たとえば、もし、お金に余裕があるなら、クルマをエコカーに買い換えたい、という家計は多いのではないでしょうか。薄型テレビやデジカメ、携帯端末、光ファイバー、太陽光発電、あるいは、住宅をエコハウスに建て替えたり、耐震補強をほどこしたりとか、大規模スーパーだけになってしまった郊外を出て、中心市街地にマンションを買いたいとか、少し高くても安心できる食品を食べたいとか、子供にピアノを習わせたいとか、よい塾に通わせたいとか、生涯学習とか、ほかにも潜在需要はたくさんあると思います。

家計の可処分所得が増税で奪われ続けているために、そうした潜在需要のほとんどは眠ったままです。その結果、企業は日本を見捨てて海外に投資をする。銀行も預金を(もとにマネーを刷って)海外へ融資する。ますます国内需要が低迷する。悪循環です。

逆に、可処分所得を増やし、内需を盛り上げる。すると国内に投資が戻ってくる。所得が増える。未来に希望が持てる。有望な新分野に、資金と労働力が移動する。ますます、企業と家計が豊かになる。若い世代が家庭を持ち、子供を作る。年金制度や健康保険制度に将来の不安がなくなる。豊かになった日本に、海外から投資が殺到する。巨大な日本市場へのアクセスを確保するため、どの国の企業も日本のルールを無視できなくなる。

このような循環を作り出さなければなりません。適切な政策を選択すれば、それは十分に可能である、とWSは思います。累進性の強い所得税の復活は、そうした政策に不可欠な要素です。


■消費税はどうなのか

消費税は全体として、中低所得層から可処分所得を奪い、高所得層へと移転します。(それゆえ、導入初期には投機によりバブルが生じることがあります。)同じような算数と議論を繰り返すことはしませんが、上で調べた累進的所得税の場合とは全く逆のことが生じます。

つまり、国全体の消費は減少し、それが民間投資の減少を招きます。給料が下がり、消費はさらに冷え込みます。悪循環です。税収が減って、税率アップ(増税)が必要になります。ますます可処分所得が減少します。こうして、家計も企業もどんどん貧しくなります。

高所得層の貯蓄は、国内に良い投資先が見つからないために、海外へと流出します。

1980年代後半からの日本は、まさにこのコースを歩んだのではないでしょうか。


■財政赤字や累積債務の問題と、税制との関係

1980年代の消費税の導入と、1990年代の消費税率アップ、そして所得税の累進性緩和は、日本の財政赤字と累積債務の問題を深刻にしました。

ひとことでいうなら、消費税は、国全体の消費性向を低下させるので、財政赤字を悪化させます。逆に、累進的所得税は消費性向を向上させるので、財政赤字を改善します。

こうした点についてはすでに、小生のホームページ「財政赤字の持続可能性について」(特に、第5節と第9節)で詳しく論じました。よろしければご覧下さい。


■米国の歴史を振り返る

次に示す図は、1948年から2007年までの、米国の所得税最高税率と失業率の推移です。

Us_income_tax
図5 (クリックで拡大)

所得税最高税率の推移については、税理士 吉越勝之氏の大変な力作ホームページ「税制改革による強力な経済成長と財政再建」を参考にさせていただきました。WSは、吉越氏の視点をほとんど共有できます。

吉越氏の分析を参考に、図4に簡単にコメントします。

黄金の60年代、米国の所得税最高税率は90%でした。その後、ベトナム戦争の泥沼と原油価格の高騰によって、米国の景気は悪化します。

所得税最高税率は70%台に引き下げられましたが、それは景気浮揚につながりませんでした。逆に1980年代以降、共和党政権下での最高税率引き下げ(70%→50%→30%)にともなって、景気が悪化する(失業率が上昇する)傾向が顕著にみられます。

レーガン、パパ・ブッシュ、現ブッシュのいずれの政権の初期においても、累進性の緩和にともない景気の悪化がみられました。失業率の上昇は2〜4ポイントにもなります。そして、景気対策のための財政出動により、財政赤字が拡大しました。

一方、累進性の強化を行ったクリントン政権(1993〜2000年)はどうだったでしょうか。吉越氏のHPから引用しましょう。

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クリントン大統領はルーズベルト税制を参考に「消費税非導入の最高税率引上げ増税(分母の国民所得が増加するので、租税負担率は大きく変わらない)」を断行し国際競争力を再強化し株高と経済成長と財政再建に大成功した

2,927億ドルもの巨額の財政赤字をわずか5年で黒字に転じたクリンントンの施策

所得税について、最高税率だけを31%から36%へ引き上げ、一定水準以上の高額所得者に10%の付加税も導入した(最高税率39.6%)
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クリントン元大統領は、大恐慌を克服したルーズベルトの税制を参考にしたようです。それはどのようなものだったのでしょうか。再び、吉越氏のHPから引用します。(...その税制を...)の部分はWSが補足しました。

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米国で第一次世界大戦開始に必要な戦費調達のため、民主党のウィルソン大統領が1917年(大正6年)7%を75%へ増税して第一次大戦に勝利し 税制改革と財政再建(1921年・大正10年に単年度財政黒字)に大成功し、奇跡的副次効果として「自力経済成長による記録的な好景気と税収増加の出現」

フーバー大統領が誕生した1929年・昭和4年の世界大恐慌の発生原因は「米国共和党クーリッジ大統領が1926年に最高所得税率を25%へ大幅引下げた税制

(...その税制を...)フーバー大統領が引継いだその年に 株価暴落が本論どおり発生した

世界大恐慌勃発後の経済再建とそれに続く第二次世界大戦の戦費調達のため、米国民主党ルーズベルト大統領は第一次大戦時と同様、63-92%と最高所得税率を大幅に高めた高累進税制改革を、1933年(昭和8年)採用し

(...米国はその税制を...)以後「50年近く継続し」 直ちに経済を復興してあらゆる経済問題と、膨大な戦費の掛かった第二次世界大戦に軍事的にも財政的にも勝利し、大戦終了二年後の1948年(昭和23年)には財政再建を完了し、ヨーロッパを上回る経済成長を達成し続け世界一の超経済大国になった
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経済が成長する。もうこれ以上の税収は必要ないからと、最高税率を引き下げて高所得層のこれまでの負担に報いようとする。皮肉なことに、まさにその結果、国全体が貧しくなる。そんな図式が見えてきます。


■日本の戦後を振り返る

日本の場合もみておきましょう。次の図は、1950年から2007年までの、日本の所得税最高税率と失業率の推移です。所得税最高税率の推移については、やはり吉越氏のホームページを参考にさせていただきました。

Japan_income_tax
図6 (クリックで拡大)

もう、ほとんど説明が不要なくらい、あざやかな相関関係がみられます。この相関は因果関係でもある、とWSは確信しています。つまり、所得税の累進性を強めれば景気が良くなる(失業が減る)。逆に、累進性を弱めたり、逆進的な消費税の役割を強めれば、(場合によっては投機バブルを招いたあとで)景気が悪くなる(失業が増える)。

再び、吉越氏から引用させていただきます。(句読点など、一部、WSが補いました)

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敗戦で焦土と化した日本において吉田茂首相が、戦勝国アメリカ民主党の高累進所得税制を研究していた大蔵省主税局長だった池田勇人を見出し、日本はシャープ勧告以上の75%の高累進所得税制を採用し、事業消費税廃止を昭和29年に断行

以後「30年以上」「無資源国で平和でも他国以上の高累進単独の税制改革」が経済成長の大継続原因になる事を証明し、敗戦後、全てが破壊つくされ縮小された国土から僅か43年後の平成元年には、日本は戦勝国アメリカを追い越す世界第一の国際競争力国家となり、高層ビルが林立する経済大国となった

平成元年にこの税制を放棄し、1954年(昭和29年)フランスで初施行された50年の歴史しかない、全個人消費を課税抑圧して経済成長を低下させて税を徴収する欧州型消費税制(...を導入...)

共和党レーガン政権採用の低累進所得税制への危険性の無知から、この税制導入の結果、「改革10ヶ月後からバブル崩壊が開始」した

平成9年10年の消費税の3%から5%への増税と最高所得税率50%を37%への減税が、更なる経済不況をもたらし、莫大な財政支出を行っても景気回復不能であった

敗戦後、高累進所得税制単独で毎年経済成長を実現し、毎年国民所得を増強し豊かな購買力を実現し、毎年膨大な税の自然増収を43年間繰り返していたのに、平成元年の税制改革後は改革とは名ばかりであり、結果は20年間経済成長せず、国民所得も伸びず、税収も全く増加しない国家へ変質し、国際競争力も1位から24位へ転落した
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1980年代の直間比率の見直しがバブルを招いた大きな要因の一つであること。さらに、バブル崩壊からこれまでの税制改革も、全く方向性を誤っていた、ということではないでしょうか。

世界でもっとも優れた理想の税制を日本に創る、という情熱にもえていたシャウプ博士がなぜ、急激な累進的所得税が大きな役割を演ずるべきこと、および、でき得るかぎり間接税の範囲を狭めることをあれほど強調したのか。利害関係を離れてその理由を熟考することが、いまほど重要なときはないと思います。

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注 *1) 訳文は、ろーどさいど・らいぶらりーさんの「シャウプ使節団日本税制報告書」E-text版を参考にさせていただきました。

*2) 法人税については今回は触れません。

*3) 海外市場に頼らず、国内市場をベースにした自立的な成長が可能になること。これは国家間の平和に大きく寄与します。

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地球温暖化CO2原因説への懐疑論について(2)

もし、過去の地球の気温はおもに太陽活動(太陽磁場)で決まってきた、というスベンスマルクたちの説が正しいならば、CO2排出削減は必要ないのか。

いや、それでもやっぱり、CO2削減をしたほうがよさそうだ、という話をしたいと思います。

ポイントを先に述べますと、現在の大気中のCO2濃度は歴史的に未経験の領域にある。だから、将来を予測する上で、頼るべきは古気候からの類推ではなく、物理法則である。物理法則は(少なくとも100年くらいの間は)温暖化の進行を示す、ということです。


■古気候が示すこと

過去65万年にわたり、大気中のCO2濃度は180〜300ppmの範囲を変動してきました。それに同期して、気温も7℃くらいの幅で上下しています。氷期と間氷期が10万年を1サイクルとして繰り返されてきました。

その変動の様子は、たとえば南極ドームふじ氷床コア分析や東工大の丸山茂徳教授のpdf 異説、気球温暖化 の図3や図9に見ることができます(過去の気温は、いくつかの仮定の下で同位体比率から復元できます)。

気温の変化がCO2濃度の変化に先行している、という解釈もできるようです。丸山教授は、コーラを温めると泡(CO2)が出てくる、と説明しておられます。

気温が上がると海水に溶けていたCO2が大気中に出てくるのでCO2濃度があがる。それが(温室効果により)さらに気温の上昇をもたらします(説明はたとえばこちらの「化学的バランス」の項)。同じメカニズムが、気温が下がる場合には、CO2濃度が下がり、それがさらに気温の低下をもたらす、という働き方をします(*1)。

スベンスマルクたちの仮説が正しいなら、宇宙線量の変化が雲の量(反射率)を変え、まず地球の気温が少し変わります。この小さな変化が、上記のコーラ・メカニズム(正のフィードバック)により増幅されて、先の図のような温度やCO2濃度の変化を生み出していることになります。


■現在の高いCO2濃度は歴史的に未経験

2005年現在、CO2濃度は379ppmに達して増え続けています。過去65万年間の範囲180〜300ppmを上回り、21世紀末には2倍の600ppmに達する勢いです。

確かに、過去においては気温の変化がCO2濃度の変化に先行していたかも知れない。しかし、現在は、CO2濃度が気温に先行して、異常に上がっている状態です。こんな事態は未経験です。

将来を予測する上で、頼れるものは、確かな物理法則しかありません。


■CO2濃度倍増の帰結

CO2の温室効果は、100ppmにつき約0.4℃です。WSは正しいと思っていますが、この値については、いろいろ懐疑論があるようです。付録で少しふれるつもりです。

21世紀末までにCO2濃度がさらに300ppm増えると仮定すると、0.4℃の3倍で、約1.2℃の気温上昇になります。

話はこれだけでは終わりません。海水面の温度が1.2℃上がると、水の蒸散がさかんになり、大気中の水蒸気(H2O)が増えます。H20も温室効果をもち、その効果はCO2の約2倍、つまり、2.4℃の気温上昇を引き起こします。

詳しくは、たとえば ココが知りたい温暖化「水蒸気の温室効果」 をご覧ください。

(丸山教授は上記のpdfの中で、CO2の温室効果(100ppmにつき0.4℃)は認めておられるのですが、水蒸気に触れておられません。海の比熱が大きいから蒸散は起きないと考えて、無視しておられるのだろうか。このあたりがIPCCの見解との違いなのかも知れません。)

結局、CO2と水蒸気の効果をあわせて、約3.6℃の気温上昇が引き起こされることになります。


■予防原則

3.6℃というと大したことではない、という感じがするかも知れませんが、気温が平均で3.6℃上がるというのは、かなり強烈なことです。

たとえば、1993年の夏、日本は冷夏でコメの実りが悪く、タイなどの海外から輸入しました(平成米騒動)。この年の北日本の夏(6〜8月)平均気温は、平年より2℃ほど低かっただけです。

よく知られているように、気温上昇にともなって、海面上昇や極端な気候、農業や生態系への影響があります。現時点では正確な評価ができないけど、ちょっとまずい正のフィードバック(暖まった浅海底からメタンの泡がブクブク...とか)で温暖化が加速するおそれもあります。

約3.6℃の気温上昇がおきる可能性が高いならば、予防原則で、やはりただちに対策をとるべき、という結論が妥当であると思われます。

(近年のCO2濃度の急上昇がおもに、化石燃料の燃焼でもたらされたことは、O2濃度の減少や大気CO2の炭素同位体比から、ほぼ確定的です。対策の中心は、CO2排出削減ということになります。)


■抜けていた話

ここでスベンスマルクに戻ります。

上の話では、雲の量(地球の太陽光反射率)は一定と仮定して、大気の温室効果だけ考えていました。

でも、もし何らかの外的理由で雲が増えるなら、反射率が上がり、地球を冷やします。その冷却効果が温室効果を打ち消す、あるいは場合によっては、温室効果にうち勝って、気温が下がるかも知れません。そのような可能性があるのでしょうか。

上記のpdfで丸山教授はまさにそのような可能性を指摘しておられます。堆積物の分析からわかる過去数十万年の気温変化を見ると、明日にでも寒冷化が始まり、50年で7℃下がってもおかしくないそうです。

ということは、CO2などによる温室効果がたとえば4℃なら、それを引いて、気温が3℃下がることになるのだろうか。あるいは、地球はそんな中途半端な状態は許容せずに、やっぱり7℃下がるのだろうか。

ただ、寒冷化が明日始まるのか、もう少しあとなのか、あるいは100年以内に起きるのかどうか、を10年くらいの精度で求めるには、琵琶湖の堆積物などを用いた、あと数年のさらなる研究が必要だそうです。ご研究の進展を期待したいと思います。


■地磁気と気温変動の関係

寒冷化の開始はいつなのでしょうか。これから先は半分、WSの妄想です。

まず、地球磁場にも氷期-間氷期のサイクルと同じ約10万年の周期で変動する成分が含まれていることに注目します(こちらの文献「赤道インド洋……」も)。

地球磁場は現在、弱まり続けています。このペースで減少を続けると、あと1000年を待たずして、消失する計算になります(ソース:地磁気を研究することの重要性の2ページ目の右図)。

太陽磁場と同様、地球磁場も、飛来する銀河宇宙線を妨げるバリアの役割をしています。その地球磁場が弱まると、宇宙線がたくさん降りそそぎ、雲がたくさんできます。すると、反射率が上がる。つまり、地球は寒冷化するはずです。

地球磁場が半減するまで約500年、その頃から寒冷化が始まると仮定しても、暴論ではないでしょう(かなり、強引^^;)。

つまり、丸山教授のおっしゃる地球の寒冷化はおそらく500年先の問題。
一方、CO2による地球温暖化はここ100年の問題です。

ということは、現時点では寒冷化より温暖化への対策を急ぐべき、とWSは妄想します。(本文、おしまい)


■付録

IPCCの見解に対する懐疑はたくさん表明されていて、反論もなされています(たとえば「地球温暖化問題懐疑論へのコメント」)。

この付録では、CO2の温室効果が100ppmにつき約0.4℃、という見積もりに対する有名な懐疑論のひとつ(上記文献の議論15、下記)について、WSなりに直観的な説明による反論を述べてみたいと思います。


議論15. 二酸化炭素は地球放射の赤外線をこれ以上吸収しない。したがってさらなる温室効果を持たない


<WSの反論>
地表(*2)の熱は、宇宙に向かって開いた赤外線の窓から逃げます。窓が99%閉じられ、1%しか隙間がないとしましょう。その隙間をさらに0.5%閉じて半分にすることは、実は気温に大きな影響を及ぼします。それを比喩で説明します。

底に穴のあいたバケツに、水道の蛇口から一定のスピードで水を注ぎ続けます。穴が大きければ水はほとんど貯まりません。穴から漏れてしまうからです。

穴が小さければ、ある程度たまります。水面はある高さ(たとえば底から10cm)に保たれます。

穴の大きさを半分にすれば、さらにたくさんの水がたまります。水面はさきほどより高く(たとえば底から20cmに)保たれます。

穴の大きさが小さいほど、水面は高くなります。バケツがじゅうぶんに深ければ、水面は非常に高くなりえます。

もちろん、ここでバケツの穴は赤外線の窓に、水面の高さは地球の気温に対応しています。CO2濃度が増えると、すでに十分に狭い窓の隙間が、さらに狭くなる。でも、そのわずかな違いが、気温の大きな上昇をもたらします。これがまさにおとなりの惑星、金星で起きていることです。(おしまい)

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*1) 省略しましたが、水蒸気(H2O)の温室効果の方がより重要です。
*2) より正確には、対流圏上部。

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(2008.7.4付記)関連報道:屋久杉を使って1100年前の太陽活動の復元に成功
(2008.7.8付記)ブログ記事:増田耕一氏の読書ノート [本] 『地球温暖化』論に騙されるな!(丸山 茂徳, 2008, 講談社)
(2008.10.30付記)ブログ記事:丸山茂徳氏の地球寒冷化論への反論(関良基氏のブログ『代替案』、2008年10月16日)
 ---地球上の植物に関しては、現在までのところ地球温暖化正のフィードバック効果を加速させる要因にしかなっておらず、負のフィードバック効果が発生する兆候すら見えないのです。珊瑚も同様です。---

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地球温暖化CO2原因説への懐疑論について(1)

京都会議から10年あまり。各国がやっとC02排出削減に本気になり始めた(?)いま、ネットでは温暖化CO2原因説への懐疑論が話題になっています。WSも気になって、少し調べてみました。

とはいえ、専門家じゃないので、思わぬ勘ちがいをしているかも知れません。おかしな点があれば、ご指摘いただければ幸いです。


■スベンスマルクというスター科学者の仮説

アフリカ大陸と南米大陸の海岸線の形が似ていることに気象学者ウェゲナーが気づいて「大陸移動説」を提案したのが1915年。彼の死後、その奇抜なアイデアの正しさが認められ、プレートテクトニクス理論として完成したのは約50年後のことでした。

私たちもいま、「宇宙気候学」とでもいうべき、新しい学問の誕生に立ち会っている可能性があります。気象学者ウェゲナーは地質学を驚かせましたが、今度は気象学がおどろく番かも知れません。

ちょうど京都会議と同じ1997年、デンマークの科学者スベンスマルクは、過去の地球の気候(気温)を決めるもっとも重要なファクターは、地球に降りそそぐ銀河宇宙線(高エネルギーの粒子)の量であった、という大胆な仮説を提案しました。この仮説は現在、(非気象学者の研究グループの間では)かなり有力なようです。

どういうことかというと、まず、CO2による温室効果などの他の要因を除外した場合、地球の気温はその反射率できまります。雲がたくさんあると太陽からの光線を宇宙へと反射してしまうので、地表は寒い。雲が少ないとあまり反射しないで日光が地面までとどき、地表は温かい。

では、雲の量はなにで決まるのか。それは、銀河宇宙線の量で決まる、とかれは主張します。銀河宇宙線がたくさん降りそそぐと、空気の分子を電離して、たくさんのイオンができます。そのイオンが凝結核となって水蒸気を集めるので、雲ができやすい、というわけです。ここまでをまとめてみます。

・銀河宇宙線が多い →雲がたくさんできる→気温が低くなる
・銀河宇宙線が少ない→雲があまりできない→気温が高くなる


■太陽活動の影響

では、地球に降りそそぐ銀河宇宙線の量はなにで決まるのか。それは太陽の磁場で決まります。

地球もふくめて、太陽系の広い領域を覆う太陽の磁場は、外からの銀河宇宙線のシャワーに対するバリアの役割をしています。太陽磁場が強いと、宇宙線はさまたげられて、あまり地球まで届きません。太陽磁場が弱いと、銀河宇宙線はたくさん地表にとどきます。

これを上の話と合わせると次のようになります(*1)。

・太陽磁場が強い→……→気温が高くなる
・太陽磁場が弱い→……→気温が低くなる


■仮説は正しいのか

太陽活動に11年周期があることは、太陽黒点の数の増減などの事実でよく知られています。太陽活動にあわせて太陽磁場も22年周期で変化しています(11年で磁場の向きが反転します)。

木の年輪が記憶しているデータによると、地上の気温の変動は、太陽光の強さ(11年周期)だけでなく、太陽磁場(22年周期)の影響も受けているようです。スベンスマルクの仮説を、単なる空想として退けるのは難しそうです。

太陽活動には、11年周期だけでなく、もっと長期の変動もあります。また、銀河宇宙線の量そのものも(おおもとの銀河由来の原因によって)変動します。それらがおもに、過去の地球の気温を決めてきた、というのがスベンスマルクたちの仮説です。


■温暖化CO2原因説はどうなのか

スベンスマルクたちの仮説はまだ、これから多くの検証が必要な段階だと思います。でも、WSの直観では、これはホンモノ。降りそそぐ宇宙線量が地球の気温を決める重要なファクターである、というアイデアはおそらく、未来の常識となるのではないでしょうか。

でも、だからといって、CO2が重要でない、というわけでは全くありません。

(続く)

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*1) 地球に届く銀河宇宙線(主に陽子)の量は、太陽磁場の強さだけでなく、その向き(極性)の影響も受けるようです。理由はWSにはよくわかりません。どうしてなんでしょう(地球磁場との重ね合わせの問題かも)。

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米国住宅価格の推移と今後

バブル崩壊後の日本では、貸出の担保である不動産の価格下落が続いている間は、不良債権問題は深刻になる一方でした。

サブプライムローンの焦げ付きをきっかけとする米国の信用バブルの崩壊も、震源地である住宅価格が下げ止まらないと、解決の目途が立たないと思われます。


■米国住宅価格の推移

次の図1は、過去10年の米国の住宅価格の推移です(*1)。住宅価格は約2年前、2006年6月頃にピークをつけ、そのあとは一貫して下がっています。2008年4月現在でピークから約18%下がりました。いったい、いつまで下落が続くのでしょうか。

Cs_index
図1(クリックで拡大)

12か月移動平均からの乖離率(赤色の線)を見て下さい。移動平均乖離率が2005年後半に下がり始めてから半年ほどのちに、住宅価格そのものが低下を始めています。今後はまず、移動平均乖離率が底を打って上昇に転じる。それからさらに半年ほどして、やっと住宅価格が底を打って上がり始める、という経過になるでしょう。

いまところ、移動平均乖離率は下がり続けています。下落開始が早かった5都市(サンディエゴ、デンバー、ワシントンDC、ボストン、クリーブランド)の平均乖離率(緑色の線)をみても、下げ止まったようには見えません(*2)。

金融緩和と財政出動(戻し減税)による下支え効果がどれくらいになるのか。WSにはわかりません。ただ、グラフで見る限り、住宅価格の下落スピードが底をうつまで少なくともあと半年、住宅価格そのものが下げ止まるのは、最短でも1年はかかるのではないか、という気がします。


■米国は破産する?

金融機関を救うために金利の急低下が誘導されました。ドルが大量に刷られて、ドル安、資源価格の急騰をもたらしました。この先、どうなるでしょうか。資金が国外へと逃げ出して、純債務国である米国は、資金繰りに行き詰まってしまうのでしょうか。

少なくとも対外的には、米国の破産はありえません。
図2は米国が外国に負っている債務と、外国に持っている資産、および、その差である純債務を示します(*3)。

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図2(クリックで拡大)

確かに、ここ数年で急増した米国の対外純債務は2兆ドルを超える莫大なものです。しかし、米国の対外資産は17兆ドルともっと大きく、純債務は資産の2割にも満たない。

しかも、対外資産の大半は直接投資で外国通貨建てなのに対し、対外債務はドル建てです。かりにドルが他の通貨に対して2割減価すれば、ドルで見た対外資産は約2割増加し、純債務は解消してしまいます。

金融システムに不安が生じて資金が国外へと逃げ出せば、ドル安が進みます。すると米国の対外資産が増価して、都合良く、純債務はなくなる。信用バブルがはじけても、金融機関がつぶれたりドル安が進むだけで、国全体としての支払い能力に問題は生じません。


■国内のアンバランス

問題は国全体としての収支ではなく、このドル安と純債務解消のプロセスによって、国内にもたらされる格差です。

ドル安は物価上昇をもたらし、庶民を苦しめます。政府の財政を赤字にします。

一方、対外資産の増価の果実を味わうのは政府ではなく、多国籍企業です。かれらは自己のアイデンティティーを米国という国には置かないかも知れない。

国内の調和、もっと直接的な言い方をすれば、多国籍企業から、政府や庶民や国内企業への所得移転がどの程度なされるか、という点に、これから問題の焦点が移ってくるのだと思います。

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注 *1) S&Pケース・シラー住宅価格指数(2008年4月)
*2) 2008年4月の値は上昇しているので、下げ止まった可能性もゼロではありません。しかし、ひと月だけでは判断できません。これから数ヶ月間の値を確認する必要があります。
*3) 米国商務省 経済分析部門, International Economic Accounts

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(2008年10月30日追記)
・参考リンク : 900 アメリカ:住宅の地域別動向 (内閣府「今週の指標」、平成20年10月6日)
 2008年7月のS&Pケース・シラー住宅価格指数(20都市)は前年同期比で16.35%の下落と過去最大の落ち込みを記録。しかし、価格の動きは地域によって大きく異なり、30%近い下落が続く都市がある一方で、足元前月比で価格が上昇している都市もみられる。

・参考リンク : ビジネス知識源:晩秋の落日のドルとユーロ (吉田繁治氏、平成20年10月27日)
 米国FRBの貸借対照表(B/S)の検討。FRBの資産内容は金融危機への対策で急速に劣化。

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国民基礎年金の試算に思う---目先の給付増に惑わされて長期的な経済成長を損なってはダメ

このところ、来訪者が激増しているので何事かと思っておりましたが、復活!三輪のレッドアラート!さんがブログでWSの記事を紹介して下さったようです。

まだ一部を拝見しただけですが、フリードマン流の市場原理主義や過度な財政均衡主義(*1)に対する問題意識が当ブログと共通で、心強く思いました。これからも、ハッとさせられるような気づきのある、経済分野の記事を読ませていただけたら、と思ってしまいます。

   ***

さて、政府は先月(2008年5月)、基礎年金をすべて税でまかなう場合に国民負担がどうなるか、という試算をまとめました。

「必要となる追加の(消費)税率の高さ」に驚かれた方も多いと思います。

でも、実はこれにはトリックがあります。まず、いま企業が負担している保険料をゼロにして、代わりに(消費)税でまかなうということが仮定されています。また、ある試算ケースでは、これまで保険料を納めてこなかった人も含めて65歳以上の全員に月6.6万円相当を給付した上で、不公平がないよう、保険料を納めてきた人には月3.3万円(あるいは6.6万円)相当を追加で給付する、という、給付総額が多くなるような仮定がなされています。それゆえ、税負担が増える結果になるのは当然なのです。

(ただし、負担増を消費税率に換算して表示してある部分を除けば、試算そのものはバックデータも詳細に明らかにした、ていねいで良心的なものだと感じました)

こうした点はすでにいろいろな方(たとえば森永卓郎さんの記事)が指摘しておられますので、今回は、もう少し長期的な視点で、経済成長の問題もからめて基礎年金の問題を考えてみたいと思います。


■年金問題はあと10年でやわらぐ

次に示すのは、65歳以上人口の年増加率の推移(国立社会保障・人口問題研究所の平成18年12月・中位推計による)です。
Jinkou65
図1 (クリックで拡大)

いわゆる団塊世代の加齢にともなって、2018年までは高齢者人口が年1〜3.5%増加しますが、2019年以降は増加率が年1%を割り込みます。つまり、年金問題は本質的には、あと10年だけの短期的問題なのです。

ちゃんとした負担と給付の仕組みが2019年の段階で整っていれば、それ以降は安定した経済成長さえ確保できれば、財源が保険料であっても税であっても、基礎年金制度の持続可能性に全く問題は生じません(*2)。

図1には、支える側である15〜64歳人口の減少率もあわせて示しました。2020年代後半から減少率が年1%を超えていますが、これはあくまでも推計です。今後、もし出生率が向上すれば労働力人口の減少は起きません。若い世代が結婚して家庭をもち、子供の教育費を払う経済的余裕もあり、安心して子育てのできる経済環境を作ることが、長期的には大事です。

このように、高齢者人口の増加率の点から見ても、支える側である働き手の人口の確保の点から見ても、長期的には安定した経済成長を確保し、家計の可処分所得を増やして、家計が必要なお金を気兼ねなく使える経済環境を作ることが重要です。

確かに、2018年までの10年間の年金給付の増加には何らかの対処が必要です。しかし、その短期的問題への対処に目を奪われて、長期的な経済成長を損なってしまっては元も子もありません。

企業の保険料負担を減らし、その分を消費税率アップでまかなうような対処法は、愚の骨頂といえます。

家計の可処分所得を(逆進的な税で)奪えば、長期的な経済成長を損なうからです。はじめの3か月はうまくいったと思うかも知れませんが、それ以降は売り上げが急減し、景気対策で財政赤字が激増。1997年の消費税率アップのときと同様に、真っ青になることが目に見えています。

ではどうすればよいのか。もう少し上記の試算を詳しく見たあとで、WSの考えを書きます。


■あらい試算---給付総額は賃金上昇率で大きく変わる

そもそも、基礎年金の給付総額はどのくらい必要なのか。それをごく大雑把に計算してみます。

65歳以上の全員に、つまり保険料に未納期間がある人にも、現在の満額給付額である月6.6万円を給付することにしましょう。人口として中位推計のものを使えば、次に示す図2の一番下の曲線を得ます。この曲線が示す給付総額は、6.6万円の12倍に高齢者人口を掛けたものです。
Kyufu
図2 (クリックで拡大)

他の3つの曲線は何かというと、若い世代の賃金上昇を考慮して、一人あたりの給付額を2009年以降、年率で1%、2.5%、あるいは4%ずつ増やしていった場合です。若い世代の給料が増えれば、高齢者世代への給付額もそれに合わせて増やすのが理にかなっているからです。

数十年後の給付総額は、賃金上昇率(より正確には、賃金上昇率を参考に設定される、一人あたり給付額の年増加率)によって、大きく変わってくることがわかります。


■政府試算との比較---短期的問題と長期的問題

このあらい試算と5月の政府試算の給付総額を比べたのが次に示す図3です。あらい試算は灰色の3つの線で示し、政府試算は色つきの線で示してあります。
Hikaku
図3 (クリックで拡大)

実は、政府試算と言っても、基本的なケースだけで16通りもあります(経済前提に4通り、保険料未納期間の扱いで4通り。4×4=16)。図には代表的な6つのケースを示しました(順にB21、B25、B37、C21、C25、C37とします)。

21とか25の数字は、経済前提を示します。21は賃金上昇率が年2.1%であること、25は2.5%であること、37は3.7%であることを示します。賃金上昇率はだいたい、名目GDP成長率と同じと考えていいでしょう。

BやCの記号は、未納期間の扱い方を示します。
Bでは給付は月6.6万円より少なくなり、Cでは多くなります。給付の面に限って大雑把にいうと、Bは現行制度に近い形での全額税方式への移行で、ただし現行制度での無年金者は月3.3万円を得ます。
Cは現行制度の1.5倍くらいに給付額を増やした上での全額税方式への移行で、現行制度での無年金者は月6.6万円を得ます。

---(
詳しくいうと、Bは、原則として全員に月6.6万円相当を給付しますが、2008年以前に保険料未納期間がある人には、給付を最大で月3.3万円相当、減額することを示します。Cは、全員に月6.6万円相当を給付した上で、2008年以前の保険料納付期間に応じて、最大で月3.3万円相当を(6.6万円に加えて)給付することを示します。Cのケースで2009年に突然、給付総額がはねあがるのは、この年からほとんどの人に(6.6万円ではなくて)月9.9万円を給付することになるからです。
)---

図3からわかるように、政府試算でも長期的には、給付総額は(賃金上昇率に連動して設定されている)1人あたり給付額の年増加率で決まってきます。

この年増加率を、物価上昇率(1%くらい)より高く、名目GDP成長率(2〜5%)より少し低いくらいに選んでおけば、いずれは給付総額をまかなうに足る税収(あるいは保険料収入)が得られます。名目で年4〜5%くらいの安定した経済成長さえ確保できれば、長期的には年金財源を気にする必要はありません。

ただし、団塊世代の加齢や若年層の未納問題にともなう、ここ10〜15年の短期的な問題は残ります。


■短期的な問題をどうするか

高齢無年金者や若い世代の保険料未納といった問題を考えると、基礎年金の全額税方式というのは1つの有力な選択肢だと思います。

ただし、税は消費税ではなく、現在の企業の保険料負担分の法人税と、現在の個人の保険料負担分の所得税が望ましい。消費税だと、長期的な経済成長を損なってしまうからです。

税方式への移行が実質的な増税になってもいけません。現在の保険料負担をなくす分だけ、かわりに法人税と所得税の税率を増やすにとどめるべきです。実質的な増税を行うと、景気を冷まし、期待したほどの税収は得られません。

では、財源はどうするのか、と言う声が聞こえてきそうですね。

たしかに、試算のケースCのように、無年金者をなくした上で、最大3.3万円を追加給付するならば、2009年以降、毎年およそ15兆円の財源が不足します。しかし、この計算には、最低保障年金の導入により将来への不安が(一部)解消されることに伴う、消費性向の向上の効果が含まれていません。

かりに、消費性向(=民間可処分所得に占める個人消費の割合、現在の日本では70%弱)が1%向上するなら、(税率が同じでも)税収は約5兆円増えるので、不足する財源は15兆円ではなく、10兆円になります。消費性向の向上がもっと大きければ、不足する財源はさらに少なくなります。

(消費税は逆進的なので、家計の可処分所得を減らし、消費性向も下げます。このような税収増の効果は得られません。これも保険料を消費税ではなくて、法人税と所得税で置き換えるべき理由です)

試算Cのように2009年からいきなり給付を大幅アップするのではなく、試算Bのようにおだやかに導入したあと、10年後くらいから段階的に試算Cレベルの給付へと移行するならば、増税せずとも消費性向の向上だけで財源が足りる可能性もあると思います。


■それでも不足したらどうするか

ずばり、政府がお金を刷る(硬貨を発行する)のがよいと思います(*3)。
金かプラチナで、あんパンくらいの大きさの10兆円硬貨を5枚ほど鋳造する。もちろん、鋳型のデザインは人間国宝級の方に依頼した、希少価値のある硬貨です。それを日銀に納める。その代金として、政府は日本銀行券50兆円を手にします(実際は帳簿に金額が記載されるだけです)。

この50兆円は利息の付かないお金です。赤字国債を発行したわけではないので、将来、利払いに苦しむ必要もありません。

こうした操作は、もし乱用するなら激しいインフレを招く可能性がありますが、節度のあるやり方で行えば、日銀による公開市場操作や預金準備率の操作でインフレはコントロールできるでしょう。

憲法はこうした操作を禁止していないので、国会における議決か立法があれば、50兆円は問題なく得られます(乱用を避けるために、その都度、立法するのがよいとは思いますが)。

2009年には、そのうちの15兆円を基礎年金給付の不足分にあてます。翌年は、消費性向があがって経済が成長し、税収が増えているので、たぶん5〜10兆円くらいで済むでしょう。翌々年はさらに少なくて済むでしょう。結局、50兆円の一部は余ってしまうかも知れません。そうなったら、医療や介護、教育、財政難の地方自治体への交付に使えばいいのです。


■本当にそんなことをしてもいいの?

「お金を刷る」とはあまりにあっけない解決策なので、本当にそんなことをしてもいいの?と抵抗を感じる方もおられるでしょう。不況下の厳しい経済環境のなかで1円を絞り出そうとしている方も多い。それは当然の感情だと思います。

でも、バブル崩壊以前の状況を思い出して下さい。銀行は、値上がりの期待できる土地や建物を担保に、どんどん融資を行いました。その不動産に1億円の価値があると銀行マンが思ったら、その場で1億円が融資されました。

ご存じのように、この融資の大半は、預金者があずけた預金や銀行の資本金からきているわけではありません。いわゆる「信用創造のメカニズム」により、帳簿の上で、融資の瞬間に無から創造されたものです。その瞬間に「お金が刷られた」のです。

一人の民間銀行マンは私益のためにお金を刷ることができる。でも、国民から選ばれた政府は公益のためにお金を刷ってはいけない、というのも妙な話です。

以前の日本では、不動産価格が値上がりしていたので、民間銀行に任せておけば自然に、不動産を担保に発行される紙のマネーの総量が、経済規模に比例して増えました。

「不動産値上がり神話」が消え去ったバブル崩壊後の日本では、かつての不動産のように経済規模に比例して価値の増える自然な担保がまだ存在しません。民間銀行に任せておいても、紙のマネーの総量は増えなくなっています(デフレの原因)。

だから、政府が積極的にお金を刷って、紙のマネーの総量を(潜在的な)経済規模に比例して増やす必要があるのです。

国民基礎年金のためにお金が印刷されるならば、それはいわば、これまでの国民の勤労の成果の蓄積を担保として刷られるものとなるでしょう。

   *

さて、政府がお金を刷ったとき、そのお金をどうやって家計に渡すべきでしょうか。

従来のように、補助金により企業経由で渡すのも1つの方法ですが、さまざまな癒着の弊害が生じたことはご承知の通りです。消費税の廃止や社会保障給付により直接、家計に渡すという新しい方法を試す時期が来ているように思います。

では、今回はこれで。
次回は、米国の住宅価格か、あるいは、経済成長と減税の両方を可能にする魔法の税制について考えてみる予定です。

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*1) 財政均衡主義の弊害については、日本財政を考えるさんが、精力的に記事をアップしておられます。

*2) 若年人口(労働力人口)の減少は、いわれているほど深刻な問題だとは思えません。たとえば、日本の農業を考えてみて下さい。

1955年には、3655万人で年1.66兆円の農業生産額でした。2000年には、1047万人で年91.3兆円の農業生産額です。この間の45年間に、一人あたりの農業生産額は191倍に増えました。これは名目で年12.4%の伸び率です。

この生産性のめざましい向上を可能にしたのは、農薬や機械の使用などの技術の進歩であり、それを支えたのは、余剰農業人口の吸収を可能にした経済規模の拡大でした。さまざまな産業が調和して発展できる環境さえあれば、生産性は大きく向上し、労働力人口の減少の悪影響など軽く吹き飛ばしてしまうことでしょう。

*3) 「お金を刷る」という発想をWSは、日本経済復活の会さんのHPや神州の泉さんのHPで学びました。

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