経済成長と減税を可能にする魔法の税制---累進所得税(2)
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・本書が提唱したいのは(中略)、子どもの数を増やすだけでなく、幸せな子どもの数を増やすことを目標とする政策である
・すべての子どもが享受すべき最低限の生活と教育を社会が保障するべきである
・親の経済状況や家庭環境にかかわりなく、すべての子どもが、幸せで健全な発育の場と、教育の機会が与えられること、これこそが政策の最重要課題であり、...(中略)...児童手当を引き上げても...(中略)...同時期に社会保険料や税の負担を増やし、労働市場では非正規化が推し進められているのであれば、子どもの状況は悪化してしまう
(「子どもの貧困」(阿部彩、岩波新書) p243-244より引用)
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以前の記事で、所得再分配による個人消費の拡大が持続的な内需主導の経済成長をもたらし、減税が可能になることを、簡単なモデルで説明しました。
今回の記事では、実際の家計データ(総務省「家計調査」2007年の年報)をもちいて、以下の条件をすべて満たす累進所得税制が現在の日本において可能であることを示します。
・どの世帯の可処分所得も月20万円以上
・2年後にはすべての世帯の可処分所得が増加
・年5%の経済成長
米国のオバマ大統領は選挙期間中、95%の世帯にとって減税となる税制改革を公約していましたが、それが日本においても可能であるということです。
また、消費税増税との比較も行います。
なお、米国では、家計の消費は保有資産額によって大きく違うのですが(関連記事)、日本の家計では資産効果が小さいようです。 多くの資産を持っている高齢層が、将来不安からあまり消費しないことが原因かも知れません。 今回は、資産効果は考えないで試算します。
■家計の月収と消費支出、実効税率
まず、家計の月収と可処分所得、ひと月の消費支出がどうなっているか、を収入10分位ごとに2007年の家計調査のデータで見てみます(「総世帯のうち勤労者世帯」のデータ)。
収入の下位10%と上位10%とでは、収入で約7倍、可処分所得で約4倍、消費支出で約3倍の違いがあります。
消費支出が可処分所得にしめる割合を消費性向と呼びます。 消費性向はご覧の通りです。
消費性向は、最低所得層で約0.86、最高所得層で約0.65となっています。
月収から税や社会保障負担を差し引き、社会保障給付を加えたものが可処分所得です。 月収と可処分所得の差を負担額と呼びます。 負担額を月収で割ると、実効税率になります。 実効税率は次の通りです(図のピンク色の棒です。 緑色の棒については、すぐ後で説明します)。
以前の記事で紹介した米国のデータと比較すると、日本では低所得層の負担が重いことがわかります。
■所得再分配と実効税率変更のプラン
ここで、各家計の実効税率を図の緑色の棒のように変更して所得再分配を行った場合に、各家計の可処分所得と消費支出がどのように変化するか、を調べてみましょう。
なお、この新しい実効税率(緑色の棒)は、以下のような方針で決めてあります。
まず、総税収は変わっていません。 増税になる家計も減税になる家計もあるが、全体としては増税でも減税でもない、という税率になっています。
次に、最低所得層(下位10%)の税率-20.9%ですが、これは、最低所得層のひと月の可処分所得が20万円になるように決めてあります。
最後に、税率変更のよる実効税率の低下幅(上昇の場合は負の値)は、低所得層側から順に11.8%, 9.8%, 7.8%, 5.8%, 3.8%, 1.8%, -0.2%, -2.2%, -4.2%, -6.2%のように、等間隔で並んでいます。
■税率変更直後の可処分所得と消費支出
このような税率変更を行った場合、変更直後の各家計の可処分所得は次のようになります(図の赤色の棒)。
税率変更直後の可処分所得は、低所得層で増加し、高所得層で減少します。 低所得側から第6分位では微増、第7分位ではほぼ不変、第8分位では微減です。
各所得層で消費性向が不変であるとして消費支出を計算すると、全家計のひと月の消費支出の合計は、この税率変更により0.43%増加します。
■個人消費の拡大が所得の増加をもたらすこと
売り上げの増加を予想した企業は、当然、設備投資を行います。 その結果、景気が良くなり、給与が増えます。 家計の収入が増えて、また消費が増えます。 こうして内需が盛りあがります。 金利上昇などの他の要因を無視できるならば、しばらくの間、毎月0.43%の消費の持続的な増加が期待できるでしょう。 これは年率で約5%の増加に相当します。
もちろん、やや高額の省エネ家電やエコカーも飛ぶように売れることでしょう。
■税率変更から1年後の可処分所得
こうして1年後に経済が5%成長したときの、各家計の可処分所得を、図4の黄色の棒で示しました。
低所得側から第8分位までの所得階層で、税率変更前にくらべて1年後の可処分所得が増えています。
第9分位では0.7万円、第10分位では3.7万円、可処分所得が減少していますが、これは1年後の結果にすぎません。 もし2年後を考えるならば、第9分位では税率変更前より可処分所得は増加し、第10分位でもほぼ不変となります。
実際には、このように経済が成長するときには、株価や他の資産価格も上昇しますから、最高所得層ですら、一時的なマイナスを補ってじゅうぶんにお釣りがくるほどの恩恵を受けることでしょう。
このように、総税収を変えないで消費性向を上げる再分配(累進性強化)は、誰も損をしない税率変更です。
■累進税制の負担感と税率表の見直しについて
ちょっと脱線になりますが、よくある誤解にコメントしておきます。
累進税制の場合、収入が増えると税率が上がるから、がんばる気がおきない(だから累進税制はよろしくない)との主張があります。
たしかに、突然、ある人の収入が激増して前年の2倍になったりしたら、その人の税率はアップするでしょう。 しかし、国全体の経済成長に比例して自分の収入が増える場合には、税率は変わらないのです。
たとえば、現在、第5分位に属する、月収45万円、実効税率が21.5%の家計を考えてみます。 年5%成長が14年続き、この家計の月収が2倍の90万円になったとしましょう。 そのとき、この家計の実効税率は21.5%のままです。 なぜなら、他の家計の月収も増えているので、この家計は相変わらず第5分位(税率21.5%)に属しているからです。 現在、月収90万円の家計は第10分位に属し、その実効税率は40%以上ですが、現在、月収45万円の人が、将来、月収が増えて90万円に達したときの税率はもっと低いのです。
実際、1960年代、1970年代の日本では毎年、税率表の見直しがされていました。 おなじ収入に対する税率で見れば、毎年、減税が行われていたのです。
累進税制が可能にする、需要の増殖効果は、毎年の税率表見直しによる「減税」がもたらす効果である、とも言えます。
■消費税の税率アップが所得に及ぼす影響
上では、おもに所得税の累進性強化を念頭に、再分配が可処分所得や消費に及ぼす影響を試算しました。
では、消費税率のアップはどのような効果をもたらすでしょうか。 それを以下の2つの場合について試算してみましょう。
a)消費税率を2%アップし、社会保障の赤字を穴埋めする場合
b)消費税率を5%アップし、増税分の全額を各家計に定額給付する場合
■a)消費税率2%アップ+赤字穴埋めの影響
まず、消費税率を2%アップし、社会保障の赤字穴埋めにあてる場合を考えてみましょう。
各家計の実効税率は、消費税率の2%アップにより、次のように変化します。 なお、消費税率アップの効果は、単純に消費支出に消費税率をかけ算した量だけ各家計の税負担が増え、その負担増を月収で割った分だけ実効税率が変化すると仮定して計算することにします。
実効税率は、最高所得層で0.86%、最低所得層で1.89%アップします。 低所得層ほど税率アップが大きくなります。 消費税が逆進的といわれるのはこのためです。
さて、実効税率が上がるので各家計の可処分所得は減少し、それが消費支出の減少を招きます。 これが企業の売り上げの減少、設備投資の減少、給与の減少を経て、ふたたび各家計の収入の減少をもたらし、さらなる消費支出の減少を招きます。 可処分所得の変化は次のようになります。
増税した分で赤字を穴埋めしたら(=政府支出を増やさなかったら)、デフレスパイラルに突入することがよく分かります。 1997年に起きたことです。 この試算ではさらに、増税が逆進的な税(消費税)で行われているので、抜群の所得減少効果を示しています(苦笑)。
「増税分を社会保障に使う」という言葉は、注意して聞く必要があります。一口に「社会保障に使う」といっても、それが、社会保障の(すでにある)赤字を穴埋めするという意味であれば、上で見たように、国民総所得の減少を招いてしまうのです。
では、赤字を穴埋めするのではなく、増税分だけ実際に給付する(あるいは政府支出を実際に増やす)とどうなるのか、を次に見てみます。
■b)消費税率5%アップ+定額給付の影響
消費税率を5%アップし、増税分の全額を各家計に定額給付する場合を考えてみましょう。 a)の場合と同様、実効税率の変化に置き換えて影響を試算します。
各家計の実効税率は、消費税率の5%アップ+定額給付により、次のように変化します。
実効税率は、第7分位以上で増加、第6分位以下で減少します。 最高所得層では0.87%増加し、最低所得層では3.75%減少します。 多少の再分配効果をもつことが分かります。
可処分所得の変化は次のようになります。
1年後を見ますと、最低所得層の可処分所得が0.8万円増えるなど、第9分位まで可処分所得は微増です。 第10分位は微減ですが、2年後にはほぼ元の水準に戻ります。 これは再分配による需要増殖効果で年約1%の経済成長が期待できるためです。
■累進所得税と較べると
このb)のケースを最初に調べた累進所得税のケースと較べると、低所得層の所得底上げ効果がやや弱いですね。 消費税率のアップ幅を大きくして「消費税率10%アップ+定額給付」とするならば、最低所得層の可処分所得が月20万円に到達しますが、それでも需要増殖効果は年2%と弱く、年5%の成長をもたらす累進所得税には全くかないません。
では、もっと消費税率を上げ、同時に、消費税収の増加分を定額給付でなく、低所得層に手厚く給付したらどうなのか。
たしかに、それなら、やり方によっては累進所得税のケースと同様な効果をもたらすことも可能でしょう。 でも、そこまでやるなら、どうして最初から累進強化でやらないのか、という疑問に突き当たります。
分配面での配慮の必要性や需要増殖効果の弱さは、消費税の逆進性に由来します。 富士山に登るのに、わざわざ相模湾の底、深さ数千メートルの海底から登る必要はありません。 2合目か3合目から登れば、もっと楽に登れるはずです。
消費税の廃止と所得税累進性の強化が王道だとWSは思います。
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リーマンショック後の世界不況の悪影響を緩和するための、あらたな追加経済対策として試みに、一時的に消費税率をゼロに引き下げ、同時に所得税の累進カーブをわずかばかり急にしてみてはどうでしょうか。 消費税の減税と合わせて見たとき、すべての所得階層で減税となる程度の、わずかな累進強化です。
きっと、予期せぬ持続的な好況と税収増加が訪れて、国民も喜び、世界も喜ぶ。もう少し、続けてみましょうか、となるに違いありません。
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