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現在の名目GDPの値は消費税約11兆円分だけ かさ上げされている?

表題の件について、これまで知らなかったのですが、GDPが消費税の分だけ かさ上げされていると考えると、これまで疑問だったことがうまく説明できる気がしています。

まずWSにとって何が疑問だったのか、というところから話を始めます。


■1997年の消費税率アップで税収が減ってしまったこと

以前の記事「消費税率アップという「苦い薬」はホントに良薬ですか、Yさん?」で1997年4月の消費税率アップ(3%→5%)では、総税収が増えるどころか、逆に減ってしまったという事実を紹介しました。

住宅投資や民間設備投資の急激な落ち込みなどにあらわれた景気悪化のために、所得税や法人税の税収が落ち込み、それらの税収減が、消費税収の増加を上回ったためです。

ちょっと数字を見ておきましょう。

いま、税制調査会の以下のホームページに、所得税関係の参考資料がたくさんアップされています。

税制調査会 第2回 専門家委員会(平成22年3月26日) 資料一覧
http://www.cao.go.jp/zei-cho/senmon/sen2kai.html

このなかに「資料(総論)pdf 707KB」というのがあって、その5ページ目に「主要税目の税収(一般会計分)の推移」のグラフ(下の図1)が載っています。

Tax_hist
図1

消費税率が引き上げられたのは平成9年度(1997年)です。 そこで、引き上げの前後ということで、平成7年度と平成11年度の税収(一般会計分)を比較してみます(*1)。

消費税の税収は、平成7年度に5.8兆円でしたが、平成11年度には10.4兆円となりました。 4.6兆円の増加です。

しかし、所得税と法人税の税収は減少しました。

所得税の税収は、19.5兆円から15.4兆円まで、4.1兆円減少しました。

法人税の税収は、13.7兆円から10.8兆円まで、2.9兆円減少しました。

その結果、これら3つの税収の和は、2.4兆円のマイナスとなりました。 消費税の増収(4.6兆円)より、所得税と法人税の減収(計7兆円)のほうが大きかったのです。

他の税も合わせた一般会計の税収全体では、51.9兆円から47.2兆円まで、4.7兆円減少しました。


■激減した民間投資

所得税と法人税の税収が大きく減少したのは、景気が悪化したためです。

次の図は1997年前後の5年間の、民間消費や民間投資、GDP(国内総生産)の推移を示します(*2)。

Cons_hist
図2

消費税率が+2%アップされた1997年の4-6月期以降、1999年までの間に民間投資が約30%も減少するなど、景気後退が起きたことがわかります。(単にかけこみ需要の反動と見なすには大きすぎる景気後退です。)

それで、WSの疑問というのは、これほどの景気後退が生じているにも関わらず、民間消費(緑色の実線のほうです。点線についてはあとで説明します)がほとんど減っていないことなのです。

いや、むしろ、民間消費がほとんど減っていないのに、なぜ民間投資だけがこんなにも落ち込んだのか、と言った方がわかりやすいでしょうか。

企業が設備投資を行うのは、消費者が買ってくれると期待して生産体制を整えるためです。 消費が維持されるならば、設備投資をここまで減らす理由がありません。

もちろん、民間投資には、国内消費だけでなく、政府支出や輸出の動向も影響を与えます。 それを確認してみましょう。


■政府支出や輸出額の推移では、民間投資の減少を説明できない

次の図は、1997年前後の5年間の、政府支出(*3)や輸出額、輸入額の推移です。

Gov_hist
図3

輸入額は国内景気(と為替レート)に反応して受動的に推移します。 ここでは政府支出と輸出額に注目します。

政府支出は1998年半ばまでの2年ほどの間、緊縮的でした(橋本構造改革)。 2年間で4%ほど支出が抑制されたことが読みとれます。 しかし、1998年半ば以降は増加に転じています。

この政府支出が4%ほど削減された2年間には、輸出は逆に20%ほど増えていました。 1995年の異常な円高の反動で、円安が進行していたためです。

政府支出と輸出を合わせて考えたとき、民間投資をここまで減らすほど、それらが景気抑制的であったとは考えにくいのです。


■疑問の答が(たぶん)見つかった

「国民経済計算の推計レビューの検討状況報告」
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/051117/shiryou3.pdf

という文書に、以下のような記述がありました。 色字の強調はWSです。 (...)はWSが省略したところです。

>>>>>
1. 利用者からの意見
(1) (...省略...)
(2) GDP測定と消費税の取扱いについて
(概要)我が国においてSNAの測定にあたり採用している生産者価格及び購入者価格の概念は、消費税を含んでいる。 最近のGDPは消費税により約11兆円上げ底となっており、今後消費税率が変動するたびに名目GDPが変動することになる。 また、消費税を含んでいないOECD等の諸外国との正確な国際比較を阻害する問題がある。 我が国における一般消費税の取り扱いについて、整理・検討をお願いしたい。

(対応等)⇒市場価格表示であるGDPは、93SNAの勧告において、控除可能でない付加価値型税(VAT)を含むとされる。我が国において、GDPに控除可能でないVATを含めているのは、国際基準におけるGDPの定義に沿ったものである。
 生産者価格表示の総付加価値については、93SNAの勧告において、購入者にインボイスされたVATを控除することとされているが、我が国では93SNAの導入の際に検討した結果、「産業連関表」に基づく生産者価格(インボイスされたVATを含む)から商品別にインボイスされたVATを控除することは困難であるため、93SNA勧告に従った生産者価格の導入は見送っている
<<<<<

えっと、もしかするとWSが何か勘違いしているのかも知れませんが、こういうことだと思うのです。

100円のものを買ったら、5%つまり5円分の消費税と合わせて105円を我々は支払うわけですが、これは

・100円=真の消費
・5円=消費税

と分けることができます。 本来は、真の消費額である100円をすべての人のすべての買い物について加えたものが民間消費になるべきです。

しかし、それらを統計上分離するのが困難なので、国民経済計算では消費税分を含めて105円を民間消費としてカウントしているらしいのです。

たとえば、2009年の場合、(持ち家の帰属家賃を除く)民間消費は229.5兆円となっています。

ところが、実は、このうち割合にして105分の5は消費税なので、真の民間消費は105分の100、つまり、218.6兆円であるということになります。

両者の差は消費税の分の10.9兆円です。 民間消費もGDPも、消費税約11兆円だけ真の値より かさ上げされています。

   *

そうするとどういうことになるでしょうか。

1997年4月以降は、それまで3%だった消費税率が5%に引き上げられました。

真の民間消費は、それまでは統計上の値の103分の100でしたが、それが105分の100になったわけです。

このことを考慮して、真の民間消費(*4)の推移を示したのが次の図の緑色の点線です。

Cons_hist
図4 (図2の再掲)

統計上の民間消費はほとんど変わりませんでしたが、真の民間消費は、1997年から1998年半ばにかけて約5兆円(割合にして2%ほど)減少していました。 この民間消費の減少に呼応して、民間投資が大幅に減ったのでしょう。

この時期には輸出が大幅に増えていましたが、国内景気の悪化を止めるまでには至りませんでした。 輸出企業が得た利益を国内に分配する仕組みが以前より弱まったのかも知れません(輸出戻し税やカイカクなどにより)。

以上が1997年前後に起きたことの定性的な分析です。 主張のいくつかには、本来は定量的な裏付けが必要です。 モデル化のよいアイデアが浮かんだら、後日、できればもっと定量的で説得力のある分析をしてみたいと思います。

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*1) 消費税率アップの前年である平成8年度はかけこみ需要の影響を受けているので、2年前の平成7年度を考えます。

また、所得税と法人税の税収は平成11年度で底を打ったあと、平成12〜13年度に一時的に増加しています。この増加の原因は、小渕政権下の財政出動などによる景気回復のほかに、平成12年度に扶養控除の割増が廃止されたことや同年度に郵便預金(定額貯金)の満期が集中した、といった一時要因です。

*2) ソースは「2000(12暦)年連鎖価格GDP時系列表(1980(昭和55)年〜)」
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe094-2/gdemenu_ja.html
の「名目原系列」です。

グラフの曲線は4期(1年間)の移動平均値を示しています。 ここで

・民間投資 = 民間住宅+民間企業設備+民間在庫品増加

とおいています。

*3) ここで

・政府支出 = 政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加

とおいています。

*4) 持ち家の帰属家賃を除く部分にだけ消費税がかかると仮定して、真の民間消費を計算しました。

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高度成長期から35年間の日本の家計の所得伸び率の推移

高度成長期の1963年からバブル崩壊後の1997年までの35年間に、日本の家計の所得の伸び率がどう推移してきたか。

中間所得家計や高所得家計や低所得家計で伸び率に違いがあったのかどうか、を貯蓄動向調査報告(現在の「家計調査」の前身)で調べてみました。

1960年代には、低所得家計の所得の伸びが高所得家計のそれをいくらか上回っていました。 しかし、所得の伸び率自体が大きかったので、伸び率のばらつきは比率でみるとわずかでした。

1970年代には、第一次オイルショックの時期に低所得家計の所得が他の所得層にくらべて伸び悩んだものの、70年代後半にすぐにその遅れを取り戻しています。 70年代を平均してみれば、全所得層でほぼ均一な所得の伸びが実現していたと言えます。

1980年以降は、一貫して、高所得家計の所得ののびが低所得家計のそれを上回っています。

今回の記事では、上記のような推移をグラフで観察して、伸び率がそのように推移した原因を税制などと絡めて考察してみたいと思います。

   *

次の図1は、各年の貯蓄動向調査報告の所得分布のデータ(*3)をべき分布を変形した関数でフィットしたものです(*1)。 すべての年のデータを表示すると見にくくなるので、5年おきに示しました。

Income_growth
図1 (クリックで拡大)

1980年ごろまでは所得は大きく伸びていましたが、それ以降は伸び率が落ちています。 とくに低所得家計の所得が伸びなくなっていることが読みとれます。

これからいろんなグラフを示しますが、すべて、上記のようにフィットした曲線をもとに作成しています(*2)。

   *

次の図2は、所得の推移を所得層別に示しています。

Income_history
図2 (クリックで拡大)

たとえば、緑色の曲線は、低所得側から60%目に位置する家計(中間層の真ん中よりやや上)の所得の推移を示します。

1980年ごろから曲線どうしの間隔が広がってきた、つまり、格差が大きくなってきたことが読みとれます。

   *

そうした格差の推移を取り出してグラフにしたのが次の図3です。

Kakusa
図3 (クリックで拡大)

青色の線は全体的な格差の大きさを示します。すなわち、上位10%目の家計の所得が下位10%目の家計の所得の何倍であるか、を示しています。

赤色の線と緑色の線は全体的な格差を、それぞれ低所得側と高所得側に分解したものです。

赤色の線は低所得側の格差を表します。 すなわち、中央(50%目)の家計の所得が下位10%目の家計の所得の何倍であるか、を示します。

緑色の線は高所得側の格差を表します。 すなわち、上位10%目の家計の所得が中央(50%目)の家計の所得の何倍であるか、を示します。

   *

おそらく景気変動のためと思われるゆらぎを除いて見れば、1960年代から第一次オイルショック(1973年)までは、格差は徐々に縮小していたことがわかります。

第一次オイルショックから1975年ごろまで3年間、格差はおもに低所得側で拡大しましたが、1970年代後半に再び縮小に転じました。

ところが1980年から1982年ごろに格差の縮小が底をうち、その後は一貫して低所得側でも高所得側でも、格差が拡大しています。

次に、こうした格差の拡大を、所得の伸び率という観点から見てみます。

   *

次の図4は、各家計の5年間の所得の伸び率(年率換算)を示します。

たとえばグラフからは、下位から10%目の家計(赤色の線)の1968年の所得の伸び率が13.3%/年と読みとれますが、その意味は、1963年から1968年までの5年間の所得の伸びを年率換算すると13.3%になる、ということです。

Grate
図4 (クリックで拡大)

図4を、「全所得層の平均的な伸び率」からのずれ(相対的な伸び率)に注目して描き直すと、次の図5になります。

Rel_grate
図5 (クリックで拡大)

1960年代から1982年までは、低所得家計の所得の伸びが高所得家計の所得の伸びを上回っています(ただし第一次オイルショック直後の数年間のみ例外)。

この時期の格差の縮小は、朝鮮戦争特需(1950年〜)からの経済成長で社会に蓄積したひずみを意図的に解消する政策(池田税制、所得倍増計画、列島改造論など)の結果であったのだと思います。

対照的に1982年以降は一貫して、高所得家計の所得の伸びが低所得家計のそれを上回っています。

   *

上で見たような格差や所得の伸び率の推移を、税制や潜在成長率といった視点から考察してみます。

次の図6は、日本の所得税最高税率や消費税率の推移です。 以前に当ブログの記事「経済成長と減税を可能にする魔法の税制---累進所得税」で紹介したものと同じです。

Japan_income_tax
図6 (クリックで拡大)

所得税最高税率は、税制の累進度(再分配の強さ)のよい目安です。

1960年代から1980年ごろまでの格差の縮小が進んだ時期は、所得税最高税率が70〜75%であった時期と一致しています。

1980年代に最高税率は段階的に引き下げられました。 それとともに格差は拡大し、1980年代後半には不動産バブルが発生しました。

1990年には50%まで下がりました(前年の89年4月には3%の消費税も導入)。 この年にバブルが崩壊しています。

   *

次に示す図7は、日本の潜在成長率とオーカン係数の推移です(WSによる推定中央値)。 以前に当ブログの記事「日本の潜在成長率の推移と雇用の安定性---オーカンの法則」で紹介したものと同じです。

Growth_ocun
図7 (クリックで拡大)

ここでは、潜在成長率を「失業率を悪化させない実質GDP成長率」と定義しています。

また、オーカン係数を「実質成長率が1%上がるときの失業率の改善幅(%)」と定義しています。

オーカン係数が小さい状態は、雇用が安定していることを示します。 多少の景気悪化があっても、経営者が容易には労働者を解雇しない状態を意味します。 逆に、オーカン係数が大きいのは、雇用が不安定であるということです。

潜在成長率は1950年代後半に急速に上昇し、1980年頃まで約10%/年という高い水準を保っていました。 この時期には、オーカン係数は急速に低下して低い水準に保たれました。

これは所得税最高税率が75%まで引き上げられ、所得格差が毎年縮小し、あらゆる所得層で高い所得の伸び率が達成されていた時期と一致します。

ところが1980年以降、一貫して、潜在成長率は低下し、オーカン係数は上昇しています。

これは所得税最高税率が37%未満まで段階的に引き下げられて(消費税も導入されて)、所得格差が毎年拡大した時期と一致しています。

   *

1950年代からの高度経済成長で当初生じた、家計間や産業間、地域間の経済格差は、1980年ごろまでは、政策によって解消に向かっていました。

税制面では、この期間を通じて累進カーブの傾きの強い所得税制が、輸出産業が獲得した富を、すべての家計へと分配しました。

1960年ごろから大幅に増加した公共投資は、都市部の富を地方へと移転し、地域格差の少ない均衡ある経済成長をもたらしました。

こうして実現した安定した経済成長が、リーディング産業のスムーズな転換を可能にし、また、1970年代にはオイルショックの衝撃を緩和するのにも役立ちました。

一方、1980年ごろからの所得税の累進緩和と公共投資の削減による所得再分配機能の低下は、2つの変化をもたらしたと考えられます。

ひとつは国内消費の低迷です。 消費性向の低い高所得層へと富が集中するにつれて、国内消費が低迷し、輸出依存が強まりました。 1980年代半ばに米国で日本車打ち壊しのパフォーマンスが見られたのはそれを象徴しています。

もうひとつは、富裕層に滞留した富が不動産などへの投機に向かったことです。 投機を抑えるためには、金利水準を、実体経済が必要とするよりも高い水準に保つ必要があります。 以前よりも金融政策による調節が難しくなったと考えられます。

実体経済に合わせて金利を低く保つならば、投機を抑制することができません。

投機の抑制のために金利を高く保つならば、円高を招き、民間投資を抑制しすぎてしまいます。

1980年代から1990年代初めにはこの両方の間で金融政策が大きく揺れて、ついには不動産バブルの生成と過剰なバブル潰し、その後の長期経済低迷という最悪の結果を招いてしまいました。

そして、1990年以降から現在に至るまで、状況はなんら改善していない、あるいは余計に悪化しているように思います。

   *

これらすべての、大きな大きな原因は、所得再分配機能の低下にあるのではないでしょうか。

かつて所得税の高い累進性が可能にしていた自動的な経済調節の仕組みが、累進緩和や消費税の導入によって除去されてしまいました。 その結果、(国際的な圧力によって手を縛られている?)金融政策に大きな負荷がかかっています。

投機へと向かい、無駄に費消されている「余った」富を、主に国内の、衣食住や医療・介護や教育、研究、インフラ整備といった具体的な対象へと振り向ける必要があります。

投機の抑制には、国内の実質金利を下げ、民間投資を促す効果もあります。

1980年以降これまでの30年間で日本経済に生じた大きな歪みを

・消費税の廃止
・所得税の累進性強化
・金融取引税の導入(トービン税を含む)

などの所得再分配と、投機を抑制する政策により、是正しなければならないと考えます。

では。
-----
*1) (税引き前の)年収が低い順から計って割合p(0<p<1)の位置にある家計の年収をyとします。

y = y0 * p^a *(1-p)^(-b)

という曲線で年収分布をフィットしています(対数をとって予測誤差の2乗和を最小にしています)。 y0, a, bが各年の所得分布のデータから決める定数(パラメータ)です。

*2) 1966年の貯蓄動向調査報告のデータが手元になかったので、1966年の値は省略しています。あるいはグラフによっては、1965年と1967年の値の相乗平均を1966年の値として用いている場合もあります。

*3) 貯蓄動向調査報告は、現在の家計調査にあたる調査ですが、調査結果をエクセルファイルなどの形でネットで見ることはできないようです。 以下にWSがメモした総世帯の年収分布の生データを、解析結果の一部を添えてテキストファイルで添付します。 間違いがあるといけませんので、利用される場合には必ず原典にあたって数値を確認してください。 そうでない場合には自己責任でご利用ください。

添付するのはWSの手元にある1963年から1997年(1966年を除く)のデータです。 (貯蓄動向調査報告自体は、1961年から2001年まで刊行されているようです。)

ファイルの内容は3つのデータからなります。 年収分布の生データ(毎年)、フィットした曲線のパラメータ(推定値、毎年)、各所得順位の所得(推定値、毎年)です。

年収分布の生データは、以下のようなフォーマット(例)で示しています。

2100 1 298.2 1580 4
100 200 300 -999
341 302 703 234

データの読み方を説明します。

一行目は、本データは2100年のデータで、境界所得のデータ(2行目)を含み、サンプル家計の平均所得が298.2万円で、サンプル家計は1580世帯で、所得階層の数が4つであることを示します。(なお、平均所得のデータはフィットには使用していません。)

2行目は、所得階層の境界所得を示します。 -999は終了記号に用いています。

3行目は、各所得階層に含まれる家計の数を示します。つまり、税引き前の年収でわけた世帯数が
・0〜100万円 341世帯
・100〜200万円 302世帯
・200〜300万円 703世帯
・300万円〜 234世帯
ということです。

次のように、年によっては2行からなるデータもあります。 境界所得のデータが省かれています。

2101 0 318.2 1583 4
340 301 702 240

この場合には、年のすぐ右横の数字が0になっています。 その場合の境界所得は前年のものと同じです。

なお、世帯数の数字は、抽出率調整をして整数化したもののようです。


フィットした曲線のパラメータ(推定値、毎年)は上で説明した通りです。 誤差というのは、所得の自然対数の予測誤差の標準偏差です。

各所得順位の所得(推定値、毎年)も、見ていただくとわかると思います。 ただ、この所得の推移(グラフは上で見た図2)をみると1990年代にも所得はゆるやかに上昇を続けているのですが、実はサンプル家計の世帯主の平均年齢が年々上昇しています。 本当に1990年代に所得が増えていたのかを議論するためには、年齢補正を加えるべきかも知れません。

では、以下のファイルをダウンロードして自己責任でご利用ください。
「date_params_incomes.txt」をダウンロード

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消費税の真実---誰が消費税を負担しているか

このところ消費税率をアップして社会保障に使う、という声がよく聞こえてきます。

でも、それは、水を満々とたたえた大河には手を付けないで、たくさんの小鳥や小動物が憩う小川から大量の取水をするようなものです。

次に示す図1は、2007年の家計調査と2007年度の国税庁統計年報から推定した、家計の税引き前の所得(年収)と消費額です(*1)。 年収で20階級にわけ、それぞれの階級での中央値を示しました。

Income_cons_3
図1

高所得側へ行くほど年収は急激に増えますが、消費額の増え方はそれほどでもありません(*2)。

その結果、消費税負担の年収に対する割合は低所得家計で重く、高所得家計では軽くなります。

次に示す図2は、家計を年収合計が同じ3つのグループに分けて、それぞれのグループの家計数や消費額の合計を示したものです。

3つのグループを順に、低所得家計のグループ、中所得家計のグループ、高所得家計のグループと呼ぶことにします。

Share_2
図2

まず、一番右側にある棒グラフを見てください。 これは、家計数でみたとき、低所得家計が全体の約60%を占め、中所得家計が約28%、高所得家計が約12%を占めることを示します。 (所得のシェアはどのグループも3分の1で同じです)

数では全体の約12%の家計が、税引き前の所得では3分の1を占めています。

消費額のシェアは真ん中の棒グラフでわかります。 低所得家計の消費は全体の約45%を占めます。 高所得家計の消費は全体の約22%にすぎません。

消費税負担は消費額に比例します。 消費税の負担は低所得家計に重く、高所得家計に軽くなります。 45割る22ですから、約2倍の違いです。

消費税を財源に社会保障を充実させるという主張は、高所得家計を隔離した再分配に他ならず、強い疑問を感じざるを得ません。 再分配には、消費税を廃止して所得税の累進性を強めるのが王道ではないでしょうか。

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*1) 推定の方法を簡単に記します。 まず、所得分布を推定しました。

Income_distri_3
図3

2007年の家計調査(総世帯)のデータをべき分布を変形した関数y1でフィットして、高所得側をべき分布y2(国税庁統計年報(2007年度)の申告所得者のデータから決めたもの)に置き換えています。

推定された所得分布は、低所得側からの所得順位がp(ただしpは0以上1以下の実数)である家計の、税引き前の年収をy(万円)として

y = max(y1, y2)

ただし
y1 = A*p^a *(1-p)^(-b)
y2 = B*(1-p)^(-c)

ここで各定数は以下の値です。
a = 0.448
b = 0.316
c = 0.615
A = 510.5
B = 132.3

次に、消費性向を推定しました。 ふつう、可処分所得に対する消費性向を考えますが、ここでは税引き前の所得に対する消費性向を考えています。 家計調査のデータで可処分所得に対する消費性向がわかるのは勤労者世帯に限られるためです。

Cons_ratio
図4

2007年の家計調査(総世帯)のデータをもとに、所得y(万円)の家計の(平均)消費性向βを

・β = 8.569 y^(-0.422)

と推定します。

これより、所得y(万円)の家計の消費額cons(万円)は

・cons = β*y = 8.569 y^(0.578)

で与えられます。

*2) 高所得家計の消費額が(税引き前の)年収にくらべて小さいのは、ひとつには(可処分所得に対する)消費性向が小さいためです。

他に、高所得家計は所得税などを多く取られるので、可処分所得が年収に占める割合が小さくなることも原因として挙げておくべきでしょう。 ただし、この指摘があてはまるのはだいたい年収1億円以下の家計までです。

年収が増えると所得税の実効税率が上がるのは年収1億円くらいまでで、それより高収入の人はかえって実効税率が低くなっています。 証券優遇税制などのためです。

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所得税の最高税率引き上げで税収は何十兆円増えるのか

「累進, 所得税, twitter」のようなキーワードでググッてみると、最高税率を引き上げてもそんなに税収は増えないよ、という趣旨のツブヤキが引っかかりました。

本当でしょうか。

ほぼ、いいえ、と答えてよいでしょう。 「ほぼ」とつけ加えたのは、累進強化による税収の増加幅は、税率の設計しだいで大きく変わるからです。 少なければ3兆円、多ければ30兆円くらいの税収増になります。

今回は、最高税率の引き上げなど、所得税の累進性を強めることで税収はどれくらい増えるのか、を2007年度の国税庁統計年報のデータを用いて見積もってみます。

   *

本題に入る前に、確認です。
累進所得税の税率をアップする場合、税率表を決める大事な要素は3つあります(あとで出てくる図4を見ていただくとわかりやすいかと思います)。

1つめは、開始所得(税率が上がり始める所得)です。

たとえば、所得が2000万円以上の高所得者の税率をアップするが、2000万円未満の人の税率は変えないような、税率変更があり得ます。 この場合、開始所得は2000万円です。

開始所得を1000万円とする税率変更もあり得るでしょう。 あるいは、所得500万円以上のすべての人の税率をアップするケースもあるでしょう(この場合は、開始所得=500万円)。 さまざまな開始所得があり得ます。
開始所得が低いほど、税収増は大きくなります。

2つめは、累進カーブの傾きです。

開始所得から所得が増えるにつれて、税率が上がっていきます。 その上がり方が急なのか緩やかなのかに応じて税率表が変わってきます。 所得につれて税率が上がるスピードが大きいほど、累進カーブは急です。
累進カーブが急なほど、税収増は大きくなります。

3つめは、(限界)最高税率の引き上げ幅です。

非常に高い所得(ふつう1億〜10億円)において、実効税率は最高税率に漸近します。

現在の日本では所得税の最高税率は住民税とあわせて50%です。 1980年代始めには93%であったこともあります。 仮にその当時の値に戻すならば、最高税率の引き上げ幅は+43%となります。
引き上げ幅が大きいほど、税収増は大きくなります。

これら3つの要素、つまり、開始所得と、累進カーブの傾きと、最高税率の引き上げ幅、が違えば、税収の増加額も大きく変わってきます。

以下ではそれを定量的に調べます。


■申告所得者と給与所得者の所得分布

まず、所得分布のデータが必要です。 次の図は、所得がある金額以上の人が何人いるか、を申告所得者と給与所得者に分けて示しています。

N_of_persons
図1

以下のようなことが読みとれます。
・所得が1億円以上の申告所得者は1.7万人、給与所得者は約千人です。
・所得が2000万円以上の申告所得者は29.2万人、給与所得者は22.2万人です。
・所得が1000万円以上の申告所得者は85万人、給与所得者は233万人です。
・所得が500万円以上の申告所得者は208万人、給与所得者は1400万人です。

およそ2000万円くらいの所得を境に、それより高所得側では申告所得者の人数が多く、低所得側では給与所得者の人数が多くなっています。

図中の曲線はデータをフィットしたものです。 べき分布を少し修正した曲線(*1)です。 これ以降の計算に用います。

給与所得者については、データは2500万円以下のところにしかないのに、曲線のほうは所得5億円あたりまで延長されています。 注意深い方は、この曲線が表す分布ははたして信用できるのだろうか、と疑問に思われるかも知れません。

国税庁統計年報には、所得が2500万円以上の給与所得者の所得合計が3.8兆円であると記載されています。 一方、同じ所得合計を図の近似曲線(青色)から計算すると3.9兆円になり、ほぼ一致します。 給与所得者の所得分布は、高所得側でも図の曲線でよく近似できると考えてよいでしょう。


■所得がある金額以上の所得者の所得合計

上で推定した所得分布曲線を用いると、所得がある金額以上の所得者の所得合計を計算できます。 それが次の図です。

Total_income
図2

申告所得者と給与所得者に分けて計算し、それらの和を緑色の曲線で示しました。

金額が小さくなると、その金額以上の所得を稼ぐ人の所得合計は急激に増えます。 具体的には以下のような事実が読みとれます。 2007年度の値です。

・所得が4000万円以上の所得者の所得合計は10.0兆円である。
・所得が3000万円以上の所得者の所得合計は13.1兆円である。
・所得が2000万円以上の所得者の所得合計は20.6兆円である。
・所得が1500万円以上の所得者の所得合計は30.0兆円である。
・所得が1250万円以上の所得者の所得合計は38.9兆円である。
・所得が1000万円以上の所得者の所得合計は55.2兆円である。
・所得が750万円以上の所得者の所得合計は86.2兆円である。
・所得が500万円以上の所得者の所得合計は142.2兆円である。

これらの値から容易に計算できるように、たとえば所得が4000万円以上の人の税率を10%アップしても税収は1.0兆円しか増えませんが、所得が500万円以上の人すべての税率を10%アップすれば税収が14.2兆円も増えることがわかります。

所得500万円付近の中間所得者は人数が多いので、そのあたりの人から増税の対象にすれば、大きな税収の増加が見込めるわけです。 こうした税金を徴収する側の論理が、1980年代後半からの、中間層への安易な増税(たとえば消費税など)の原因のひとつであろうと思われます。

しかし現実の経済においては、そうした中間所得層への増税は個人消費を冷やします。 それで民間投資が減り、国民所得の伸び悩みや減少を招いて、税収の低迷へとつながりました。

累進所得税の税率表は複雑に見えますが、一定の税収を確保しながら、消費性向の高い中低所得層の消費を殺さないように、かつ、高所得層の負担が増えすぎないようにと、配慮されたものです。 どれほど税率表の設計が面倒でも、さまざまな要請を考慮して「最適な」設計を行う手間を惜しむべきではありません。


■税率表の一例

次に示すのは、累進所得税の税率アップの具体例です。

Example
図3

税率アップを開始する所得は500万円。 最高税率の上げ幅は+45%。 累進カーブ(の引き上げ幅)は図の青い線(階段状のグラフ)で表されます。

この税率表の場合の実効税率(=税額/所得)を図のオレンジ色の曲線で示しました。 所得が増えるとき、実効税率は限界税率(青色)よりも遅れて上がっていきます。 たとえば所得4000万円の人の場合、限界税率のアップは+45%ですが、実効税率のアップは約+25%です。

最高税率の上げ幅が+45%と聞くと、とんでもない大増税に思えるかも知れません。 しかし、実効税率のアップは所得1000万円で約+4%、1500万円で約+8%であり、中間層だけでなくプチ高所得層にとってもマイルドな税率アップとなっています。

この場合の税率アップにともなう税収増加を計算すると20.6兆円となります。 消費税の全廃(15兆円)をした上で、他の任意の目的(子ども手当なり、基礎年金なり、未来型公共投資なり、なんなりと)に使える5.6兆円の財源が生まれます。

ただし、5.6兆円を財源に借金を返してはいけません。 それだけはやってはダメです。 政府支出を減らすと経済規模が縮小して、翌月からは期待した税収は得られません。

給付や公共投資あるいは消費税の減税が個人消費の拡大と民間投資の増加をもたらし、景気が良くなります。 経済は成長し、自動的に税収が増えます。 債務のGDP比も低下します。 それで十分です。


■累進性強化のさまざまなパターンと税収の増加額

所得税の税率アップのさまざまなパターンを整理して考えてみましょう。

簡単のため、限界税率の引き上げ幅が、所得の指数関数を用いて表される場合を考えます(*2)。

次の図は、そのような税率アップのパターンを2つ例示したものです。

Explain
図4

赤い曲線は、最高税率のアップが+30%、開始所得が500万円、開始所得付近での曲線の傾きが0.03%/万円の場合です。 対応する実効税率は緑色の曲線で示しました。 税収の増加は約13兆円です。

青い曲線は、最高税率のアップが+40%、開始所得が1500万円、開始所得付近での曲線の傾きが0.06%/万円の場合です。 対応する実効税率は紫色の曲線で示してあります。 税収の増加は約8兆円です。

なお、曲線の傾きが0.03%/万円であるとは、所得が100万円増えたときに限界税率が3%増えることを意味します。 曲線の傾きが0.06%/万円ならば、所得が100万円増えたときに限界税率は6%増えます。

一般に、税率アップのパターンは、最高税率と、開始所得と、(開始所得における)曲線の傾き、の3つによって指定できます。

これら3つをいろいろ変えたとき、税収の増加がいくらになるか、を調べたのが次の図です。

Zeishuu
図5

傾きは0.02%/万円から0.10%/万円まで0.02刻みで5通りを調べました。

横軸には開始所得をとりました。 500万円から2000万円まで開始所得を変えて調べています。

最高税率の上げ幅は+40%としています。 もし最高税率の上げ幅が+20%なら税収の増加はグラフの半分、もし上げ幅が10%なら税収の増加はグラフの1/4となります。

グラフからわかるように、傾きにより税収の増加額は異なり、傾きが大きいほど税収増は大きくなります。

開始所得が2000万円ならば税収増は5〜7兆円です。
開始所得が1000万円ならば税収増は8〜16兆円です。
開始所得が500万円ならば税収増は14〜32兆円です。

このように設計しだいで、税収の増加額は大きく変わってくることがわかります。

いずれにせよ、このようにして所得税の累進性を強めることで得た税収を、消費性向を高め民間投資を増やすような政府支出に使ったり、あるいは、同様な効果をもつ減税(たとえば消費税の廃止)の財源とすることが、デフレ脱却にきわめて効果的であると考えます。

------
注 *1) 所得が金額y(百万円)以上の申告所得者の人数をN(y)(人)とします。 フィットに用いた近似曲線は、 N0, b, c1, c2, c3, c4 をデータから決める定数として

N(y) = N0 y^(-b) (1 + c1/y + c2/y^2 + c3/y^3 + c4/y^4)

です。 この近似曲線は、べき分布を (1/y) の4次多項式で修正したものです。 これは y>5 (5百万円以上)ではよい近似を与えますが、y≒0では使えません。 あくまでも高所得側の分布を表すためのものです。

給与所得者についても別に、同じ関数形をもつ曲線でフィットしました。

*2) 所得yの人が直面する限界税率のアップ幅m(y)を
・yがy1未満のとき
 m(y) = 0
・yがy1以上のとき
 m(y) = m1 * (1 - exp(-(a/m1)*(y-y1)))
とおいています。ここで、y1は開始所得、m1は最高税率のアップ幅、aはy=y1における曲線の傾きです。

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「最適な」所得税制を求めてみる(2)---所得の伸び率からのアプローチ

過去10年間に、高所得家計や低所得家計にくらべて、中間所得家計の所得は大きく落ち込みました。

次の棒グラフは、2人以上の世帯の5年前の所得を100としたときに、現在の所得がいくらであるかを示しています。
短期的なゆらぎを除くために5年(60か月)移動平均をとって、その5年前の値と比較したものです。 過去10年分の月次データから計算しました。 ソースは
統計局ホーム/統計データ/家計調査/家計収支編 調査結果/6.参考結果表
です。

Fig6
図1

横軸には、家計の所得分位をとってあります。 たとえば、20%とあるのは低所得側から20%目の家計という意味です。 仮に全部で8000世帯があるならば、1600番目の世帯の所得を5年前と比べていることになります。

すべての所得層で所得は減少しています。 この所得は名目所得なので、デフレ(物価下落)の影響もあるのでしょう。

所得層別に見ると、図の棒は中央付近で短く、両端で長くなっています。 つまり、この10年の間に、高所得家計や低所得家計にくらべて、中所得家計の所得が大きく落ち込んだことがわかります。

所得の減少率(5年あたり)は次のようになっています。
・低所得家計 約4〜5%
・中所得家計 約8%
・高所得家計 約6%

税制でこの歪みを是正するためには、中間所得(年収500万円付近)に対する限界税率を現在より低くし、低所得側と高所得側で限界税率を高めるような税率の調整が必要であると思います。 調整後の限界税率(=超過累進税率)のイメージは、ちょうど前回の記事の図1のようなものになります。

なお、かりに低所得側の限界税率を高めるならば、給付(EITCのような)と併用するなどして、低所得家計の負担増を避ける必要があります。

あと、最近、「消費税率を上げて社会保障に使う」という声がよく聞こえてくるのですが、WSは賛成できません。 これは、中低所得家計からもっと多くの税金をとって低所得家計に給付する、と言うのとほぼ同じことだからです。 高所得家計を隔離した再分配には賛成できません。

上の棒グラフからわかるとおり、この10年でもっとも所得が減少したのが中所得家計です。 日本の経済成長を支えてきた分厚い中間層が消え去ろうとしています。 消費税でこれ以上、中所得家計に大きな負担を押しつけて、経済が成り立つとは思えません。


■望ましい最高税率の決め方

現在、所得税の最高税率(限界税率)は、住民税を含めて50%です(年収2380万円以上)。 1983年以前には、最高税率は93%(=所得税75%+住民税18%、年収8775万円以上)でした(参考図)。 WSは、ある程度の最高税率の引き上げはやむを得ないと考えます。

しかし、最高税率を仮に引き上げた場合、財政赤字などを口実にどんどん税率が上がって、高所得家計の負担が際限なく増える、という恐れはないでしょうか。

それを止めるよいアイデアがあります。

上の棒グラフ(図1)では、中所得家計の所得が大きく減少しているのに、高所得家計の所得減はそれほどでもありません。 このような状態はおそらく、最高税率を現状より高めるのが望ましい状態です。

それに対して、仮に、最高税率を引き上げて何年かして、中所得家計の所得が大きく伸びているのに、高所得家計の所得はそれほど伸びていないことがわかった、としましょう。 そのような状態はおそらく、最高税率をその時点での値より引き下げるのが望ましい状態です。

このように、各所得階層の(税引き前の)所得の伸び率が均一になるように、最高税率や税率表を調整していく、という方法が考えられます。

最初は過去の経験や各所得層の厚生への配慮をもとに天下り的に税率表を決めるしかないでしょうが、そのあとは毎年、各所得階層の所得の伸び率を観察して、税率表の調整をしていけばよいわけです。 ただし、あとで触れますが、サンプリングに起因する統計的なゆらぎや、短期的な景気変動の影響を除くために注意が必要です。


■Uさんからのメール

所得の伸び率を均一にするというアイデアは、Uさんがメールで提案して下さったものです。 以下に該当部分を紹介します(少しだけ手を加えました)。

>>>
「消費を最大化する所得税制」の連載を拝見してメールさせて頂きました。

 *

所得再分配によって低所得層の可処分所得を増やせば増やすほど国内総所得が最大化される・・・というのは確かにその通りなのですが、いざ実行しようとすると高所得層の抵抗が激しくなりそうなのが心配です。一方で、所得階層別の消費性向の違いを考えればやはり所得再分配は必要不可欠でしょうし、ロールズ基準も考慮しなければならないでしょう。

では所得再分配を行うに当たりいかなる基準を用いるのが妥当か。Wave of sound様の過去のエントリー

所得は努力や才能に比例するか---分布の形からの考察
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2009/01/post-b71e.html

と絡みますが、ポール・クルーグマン教授が著書

『クルーグマン教授の経済入門』 P045 図8 実質所得の変化率
と 
『経済政策を売り歩く人々』 P192 図6 所得階層による所得成長率の相違

で、1947年〜1973年のアメリカでは適切な?所得再分配政策により高所得者から低所得者まで所得成長率が平均化されていたことを示しています。

アメリカは高所得者から低所得者まで消費性向が高いという特異性があります。そのような経済でさえ所得再分配を緩和したら歪みが生じてしまった。ということは、所得再分配の必要性は消費性向よりも実は所得成長率に関係しているのではなかろうか?と感じるのです。

そして、もし所得再分配の必要性が所得成長率に関係するなら、思い切って所得成長率の平均化をターゲットにすれば、結果的に消費性向の調整になるのはもちろんのこと、ロールズ基準もギリギリ満たせるのではないだろうか・・・と思うのです。そして明快なルールのため「これ以上累進をきつくしてはならない」というラインが明示され高所得層の理解が得やすくなるはずです。
<<<
(引用終わり)

WSは、「所得再分配の必要性が消費性向よりも所得成長率に関係している」というアイデアに全面的に賛成することはできません。

しかし、少なくとも、高所得層ほど所得増加率が高いような状態がずっと継続すれば、所得格差がどんどん開いてしまって、望ましくないことは明らかです。 これはある時点での最高税率が高すぎるのか、あるいは低すぎるのか、を判定する実用的な方法を与えてくれます。

米国の消費性向の特異性については、以前の記事「意外にも手厚い社会保障が消費性向を引き上げる米国」でWSの考え(資産効果による説明)を述べました。 よろしければご覧下さい。


■データを調べていて気付いたこと

所得階層別の(税引き前の)所得の伸び率を均一化するように税率表を修正していく、という今回の記事のメインのアイデアについては上で、ほぼ言いたいことを書きました。

これ以降は、2人以上の世帯について、低所得家計の所得の減少率が、中所得家計ほど大きくない点について考察してみます。 また、所得階層別の所得の推移を生データで観察してみます。 さらに、もし、もっと統計的ゆらぎの影響の少ない月次データが入手できれば、所得変動率から「最適な」限界税率表を決めることができる、というアイデアについても書きます。


■低所得家計の所得減少率が小さいのは本当か?

上では2人以上の世帯の所得の減少率が、低所得家計では5年あたり4〜5%であるのに対し、中所得家計では同8%であることを見ました。 低所得家計の所得は中所得家計ほどは減っていません。 これはどう解釈するべきでしょうか。

そこで単身者世帯のデータを見てみます。

Fig7
図2

平均的な単身者世帯の所得は、5年で約7%減ったことがわかります。 低所得あるいは高所得の単身者世帯では所得減少率がもう少し小さくて、4〜5%程度です。

単身者世帯の所得は2人以上の世帯にくらべて少なく、単身者世帯でほぼ中央である40%めの家計の所得が2009年で215万円であるのに対し、2人以上の世帯では、低所得側にあたる10%めの家計の所得が281万円です。

これらのデータからWSは、次のように推測します。

2人以上の低所得世帯の所得減少率が小さいのは、実際に個々の世帯の所得があまり減っていないからではなくて、所得が減少した世帯がサンプルから漏れてしまったからではないでしょうか(一家離散? 若年層が地方から大都市圏へ働きに出る等)。

また、これも推測になってしまいますが、単身者世帯の場合に、低所得世帯のほうが中所得世帯より所得減少率が小さい理由も、住所変更などで追跡ができなくなった等の理由による可能性もあるかと思います。

こうした推測ははずれているかも知れませんが、この10年間の低所得家計の所得減少率が中所得家計より小さかった、というこの家計調査のデータは十分に注意して扱わなければならない、と感じます。


■所得の月次推移を観察する

2人以上の世帯について、上の分析のもとになった生データを見てみましょう。

Fig1
図3

図3は所得分位別に、この10年間の家計の所得(税引き前)の推移を示したものです。 たとえば、20%と書かれたオレンジ色の線は、低所得側から20%目の家計の所得を示しています。

どの分位の家計の所得もゆるやかに減少を続けています。 このままでは見にくいので、開始時点(2000年1月)での所得を100として、それぞれの曲線を描き直したのが次の図4です。

Fig2
図4

中所得家計の所得の減少が一番大きいことが読みとれます。 しかし、所得のゆらぎ(ぎざぎざ)が大きくてまだ見にくいので、さらに1年間(12か月)の移動平均をとったのが図5です。

Fig3
図5

ずいぶん見やすくなりました。 中所得家計の所得減少が大きいことがわかります。 また、高所得家計の所得減少は、2003〜2004年ごろまでは中所得家計と同程度に大きかったが、そのあとはあまり所得が減っていないことも読みとれます。 低所得家計の所得減少は小さいように見えますが、この点については上で述べたように、注意深い検討が必要であると考えます。


■所得のゆらぎを観察する

月次データと12か月移動平均のデータを比べてみましょう。 次の図6は、低所得側から60%目の家計の所得の推移です。

Fig4
図6

月次所得のデータは、移動平均よりやや低い値を中心にして上下にゆらいでいます。 そのゆらぎ(移動平均乖離率)の幅(標準偏差)を、各所得分位について調べたのが次の棒グラフです。

Fig5
図7

所得の変動率は、低所得家計と高所得家計で大きく、中所得家計で小さくなっています。

これは、景気変動に伴う家計の所得の変動という経済構造を反映したものでしょうか。 それとも、なにか別のものでしょうか。

調べてみると、大変残念なことがわかりました。

図7に示した変動率のふるまいは、9割がた、単なる統計的なゆらぎで説明できるのです。

家計調査はサンプル数が約8000世帯の調査です。 コンピュータでサンプリングを模擬実験してみました。 以前の記事「日本の家計の所得分布と消費性向」で説明したような変形べき分布の形の所得分布(ただし2人以上の世帯の2009年のデータに合うようにパラメータを変えたもの)を仮定します。 ランダムに8000世帯を抜き出し、各分位の所得をメモします。 これを120回繰り返します。 それぞれ12回分の移動平均も求めます。 そうしてみると、図7にそっくりな変動率が再現できます。

がんばって調べたわりには、図7は単なる統計的なゆらぎであった、という残念な結果になってしまいました。


■アイデア---所得の変動率から「最適な」限界税率を決定する

しかし、所得10分位の境界の所得ではなくて、各所得層の平均所得の月次データがもし手に入るならば(探してみましたが家計調査の公開データにはない?ようです)、「最適な」限界税率をもっと客観的に決定できるかも知れません。

平均所得は境界値よりもはるかに、サンプリングに起因する統計的ゆらぎの影響を受けにくいものです。 平均所得を使えば、統計的ゆらぎから景気変動によるゆらぎを分離できる可能性が出てきます。

仮にそれができたとして、所得の変動率をもとに「最適な」限界税率を決めるアイデアはこうです。

ある家計が直面する限界税率(=超過累進税率)とは、その家計が1万円所得を増やしたとき、追加で払わなければならない税金の1万円に対する割合のことです。

当然、限界税率が大きいほど、その家計の所得獲得意欲は減退するでしょう。 景気変動に伴って、各家計の所得は増えたり減ったりしますが、その変動の割合は、直面する限界税率が大きいほど小さくなるはずです。

つまり、(景気変動による)各家計の所得の変動率を均一化するように限界税率表を決める、という方針があり得ます。

一般に、所得yの人が払うべき税金の額をt(y)と書きましょう。

税額表は{t(y)}、限界税率表は{t'(y)}と表せます(プライム'は微分を示します。{}は集合の記号です)。

細かい点は省略しますが、一般に、所得の変動率を均一化するという要請から、t(y)が満たすべき2階の微分方程式が出てきます。

2階の微分方程式の一般解は積分定数2つを含んでいます。 それらを決めるために、2つの条件が必要です。

1つは、マクロな平均税率が(たとえば)20%になる、という条件をとることができます。

もう1つの条件の選択はいろいろあり得ます。 たとえば、マクロな消費性向を現在の0.70から0.04引き上げて0.74にする、という条件を置いてもいいでしょう。 あるいは、低所得家計の厚生を考慮して t(0) の値を手で与えてもよいでしょう。

今回の記事では必要なデータが手元にないのでこれ以上の分析はできませんが、このようにして所得の変動率から「最適な」所得税の税率表を求めるアプローチがあり得る、ということを記しておきます。

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「最適な」所得税制を求めてみる(1)---社会的厚生関数からのアプローチ

先日の記事ではマクロ経済効果も考慮して、税収がGDPの20%であるような所得税単独税制の場合に、民間消費を最大化するような税率表を決定しました。

家計の消費性向は高所得になるほど小さくなります。 この事実から予想できることですが、求まった税率表は最高限界税率が90%超となるなど、累進性が強く、高所得家計に非常に厳しいものでした。

歴史的には、所得税の最高税率が92%であった1950〜1960年代の米国など、このような税率表もなかったわけではありません。 日本でも1983年以前は、個人住民税(18%)と合わせた所得税の最高税率は93%でした(参考:財務省HP 所得税の税率構造の推移推移のイメージ図)。

しかし、現在の日本の最高税率が50%であることを考えると、90%を越える最高税率は現状ではさすがに「高すぎて」非現実的かも知れません。

そこで今回は、あとで詳しく説明するいくつかの仮定のもとに、もう少しマイルドで現実的な所得税の税率表を求めてみます。


■「最適な」所得税の限界税率

累進所得税で再分配を行う場合、再分配による低所得家計の厚生の向上と、高い税率による高所得家計の痛みとの間でバランスをとる必要があります。

そのバランスの取り方をパラメータkで表します。 kは0から1までの間のいずれかの値をとります。

k=0は高福祉(ロールズ的な)ケースで、低所得家計の厚生を高所得家計のそれよりも重視します。

k=1はゼロ福祉(功利主義の)ケースで、低所得家計の厚生も高所得家計の厚生も(ある意味で)同等に扱います。

k=0.5やk=0.75など両者の中間のケースは、kの値が0と1のどちらに近いかにより、中福祉ケースや低福祉ケースなどと考えることができます。

まず、結果を示します。 税収はGDPの20%と仮定しています。 税率表を決める際に用いた他の仮定についてはあとで説明します。

次の図は、4つのケース(k=0.00, 0.50, 0.75, 0.90)での限界税率と給付額(=所得ゼロの家計の負の税額)です。

Mt_rate
図1

限界税率の最大値(最高税率)は高福祉ケース(k=0)で76%、やや高福祉ケース(k=0.5)で71%、中福祉ケース(k=0.75)で64%、低福祉ケース(k=0.9)で51%となっています。

いずれのケースでも限界税率は、多くの家計が属する中間所得層(所得500万円付近)で一番低い、U字型になっています。 中間所得層の限界税率はそれぞれのケースで、最高税率より20〜25%ほど低くなっています。

低所得家計の限界税率はいずれのケースでも、中間所得層より5〜10%ほど高くなっています(実効税率はもちろん低所得家計のほうが低くなります。 給付があるからです)。

給付額(所得ゼロの家計が払う負の税額)は、高福祉ケースから順に、271万円、230万円、181万円、119万円となりました。

ゼロ福祉ケース(k=1)は図に示していませんが、k=1に近づくと限界税率は約20%でほぼ一定、給付額はほぼゼロとなります。


■「最適な」所得税の実効税率(中低所得家計)

実効税率は次のようになります。 実効税率は上の限界税率の表と給付額から計算できます。 まず年収1000万円以下の家計について示します。

Et_rate1
図2

低所得家計の実効税率はマイナスになっています。 低福祉ケースでは年収330万円以下、その他のケースでは年収400万円ないし450万円以下の家計の実効税率はマイナスです。

年収が増えるにつれて実効税率は高くなりますが、年収1000万円以下の家計ならばいずれのケースでも35%を越えません。

年収1000万円の家計の実効税率は、高福祉ケースで約35%、その他のケースでは20〜30%となっています。


■「最適な」所得税の実効税率(高所得家計)

年収1000万円以上の家計の実効税率は次のようになります。 横軸(年収)は対数目盛です。

Et_rate2

図3

年収1000万円から3000万円くらいまで、実効税率は(年収の対数に対してほぼ直線的に)急激に増えます。 年収1億円以上では実効税率は年収とともにゆるやかに増え、限界最高税率に漸近します。

年収3000万円の家計の実効税率は、高福祉ケースから順におよそ、58%、52%、45%、36%です。


■マクロ経済への影響

4つのケースのいずれも税収はGDPの20%ですが、民間消費(各家計の消費額の合計)は違ってきます。 消費性向の高い、低所得家計へ多く分配するケースのほうが、消費額の合計が増えるからです。

図は民間消費が可処分所得に占める割合、つまり、(国の家計全体の)平均消費性向をケースごとに示したものです。

Macro_cons_ratio
図4

平均消費性向は、高福祉ケースで0.694、低福祉ケースで0.660となっています。 0.034の違いですが、これはわずかな違いではありません。

家計の消費は民間投資の呼び水となり、企業の売り上げや給与に反映します。 給与は再び家計に入って、次の消費を生みます。 このように繰り返し需要の喚起が起きるので、その経済へのインパクトはbを消費性向として(輸入による漏れを無視すれば)

1 + b + b^2 + b^3 + ....

= 1/(1-b)

のように乗数因子 1/(1-b) で表されるからです(図のオレンジ色の棒)。

乗数因子は、高福祉ケースで3.27、低福祉ケースで2.94となっており、約10%もの違いがあります。 じゅうぶんに時間が経過したあとの均衡GDPの水準を比べると、高福祉ケースでは低福祉ケースより約10%大きくなるでしょう。

あるいは、均衡に未到達な経済の成長率に、乗数因子を反映した大きな差が生じると考えられます。


■kの値と社会的厚生関数の選択

簡単のため、3つの家計1,2,3から構成された社会を考えます。

さらに、各家計の効用は、可処分所得に比例するとします。 たとえば、可処分所得が100万円の家計の効用は1で、550万円の家計の効用は5.5といった具合です。

あとで説明する最適税率の計算では、各家計の効用は可処分所得だけでなく、(税引き前の)所得にも依存すると仮定します。 税が重いと効用が減るという効果を考えるためです。 しかし、ここでは簡単のため、効用は可処分所得のみで決まると想像して下さい。

例として、各家計の効用がそれぞれ次の表のようになる、3つのケースA, B, Cを考えます。

ケースA ケースB ケースC kの値
家計1 2 3 1
家計2 3 3 3
家計3 4 3 5
社会的厚生(和) 9 9 9 k=1
社会的厚生(積) 24 27 15 k=0
表:各家計の効用

3つのケースA, B, Cはいずれも、各家計の効用の和は9で同じになっています。

したがって、もし社会的厚生を各家計の効用の単純和であると定義するならば、いずれのケースでも社会的厚生は同じになります(功利主義の厚生関数)。

しかし、効用の和は同じでも、ケースBでは各家計の効用は同じですが、ケースCでは大きくばらついています。 ケースCには効用の非常に少ない家計(家計1)があり、「健康で文化的な最低限度の生活」のレベルに達していない可能性があります。

もし、効用の積を社会的厚生関数として採用するならば、効用の極端に低い家計があるかないかを反映することができます(ロールズ的な厚生関数)。

表から読みとれるように、社会的厚生(積)は、ばらつきの大きなケースCでは15と低いですが、ばらつきのないケースBでは27と高く、ケースAでは中間の値24となっています。

一般に、多数の家計i=1,2,3,....Nがあるとき、i番目の家計の効用をu(i)、kを0と1の間の値をとる実数パラメータとして、次の式

F = Sum((1/k)*u(i)^k, [i=1,2,...,N])

により社会的厚生Fを定義しましょう。

k=1の場合にはFは功利主義の厚生関数となり、k=+0の場合にはFはロールズ的な厚生関数となります(*1)。


■「最適な」税率表を計算する際に用いた仮定

まず、各家計iは所得獲得能力n(i)を持っていると仮定します。 能力n(i)は、もし税が課されなければその家計が稼ぐであろう所得のことです。

能力nの分布は、先日の記事「消費を最大化する所得税制(2)---日本の家計の所得分布と消費性向」で述べた分布(図4の青色の曲線y)であると仮定します。 能力nの中央値を500万円と仮定しました。

能力nの家計が実際に稼ぐ所得yは、税率に影響されます。 今回はマクロ経済効果を無視して以下の方程式を満たすように、所得yが決まると仮定します。

y = n * (1 - t'(y))^e

ここで、t'(y)はその家計が直面する限界税率です。 また、eは所得の税率に対する弾力性で、e=0.20を仮定しました。

上の方程式で定まる所得yは、予算制約条件

z = y - t(y) (z:可処分所得、t(y):税額)

のもとで、以下のような各家計の効用u(z,y)を最大化する所得yになっています。

u(z,y) = z - (n/(1+1/e)) * (y/n)^(1+1/e)

右辺に表れた量(y/n)は、(あらい言い方をすると)その家計の労働時間にあたります。 可処分所得が多いほど、また、労働時間が少ないほど、その家計の効用は大きくなると仮定しています。

この効用の関数形を見ると、効用が負になる可能性があると心配になるかも知れません。 上で説明した社会的厚生関数が効用のべき乗の形を含んでいるので、負になると困るのです。

実際に計算してみると、e=0.20ならば、よほどでこぼこした税率表でも仮定しない限り、効用が負になることはありません(e=0.50くらいだと、税率表によっては効用が負になるケースが出てきて問題が生じます)。

平均税率が20%、つまり、全家計の税収の和が所得の和の20%であるとの拘束条件のもとで、さまざまなkの値について、社会的厚生関数を最大化する税率表(10階層)を求めました。 上でグラフで示したのはその結果です。


■おわりに

今回は、所得格差の是正をどれくらい重視するか、を示すパラメータkを導入して、kの値が異なるいくつかのケースで、「最適な」所得税の税率表と給付額(負の所得税額)を求めました。 税収のすべてが所得税であるような所得税単独税制です。

税率表の決定ではマクロ経済的な考察は一切行いませんでしたが、一般的に言えるのは、再分配を強化するほど民間消費が増えて、国内総所得の水準が上がるであろう、ということです。

もちろん、いずれのケースが望ましいか、を数理的考察から決めることはできません。 これは政治的、社会的選択の問題です。

今回のような数理的考察では、社会的厚生関数を天下り的に与えるしかありません。なので、その関数の妥当性を事後的にチェックする仕組みが必要であると思われます。

それに関連して、ある方(Uさん)から興味深いメールをいただきました。

最高税率が90%超になることもあった、高累進所得税制が敷かれていた1947年〜1973年の米国では、適切な所得再分配政策により、各所得階層の所得の伸び率が均一であったそうです。 そうした事実が、クルーグマン氏の著書
・『クルーグマン教授の経済入門』P45 図8 実質所得の変化率
・『経済政策を売り歩く人々』  P192 図6 所得階層による所得成長率の相違
に述べられているとのことです。

累進所得税は毎年の税率表見直しが宿命づけられた税制です。 そうしないと、経済成長するたびに実質的な増税になってしまうからです。

その税率表見直しの際に、各所得階層の所得の伸び率をチェックし、伸び率が均一化するように税率表(や社会的厚生関数)を修正していく、という実践的なやり方が良いかも知れません。

------
注 *1) k→+0のとき、(1/k)*u(i)^kはlog(u(i))に近づきます。 よってexp(F)が、各家計の効用u(i)の積に近づきます。 Fを最大にするような税率表は、exp(F)も最大にしています。

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消費を最大化する所得税制(5)---消費税との比較:消費税で社会保障はできない

「最適」所得税制の話の5回目です。 今回は、消費税との比較をしてみます。

前回は、あるマクロ経済的な前提(税収と政府支出がいずれもGDPの20%で、かつ、民間投資が民間消費の33%)のもとで、税が所得税だけの場合に、民間消費を最大にする所得税制を求めました。

今回は、税が消費税だけの場合に、同じマクロ前提のもとで消費税率を決定します。 そして、GDPや、各家計の実効税率や可処分所得について、前回の所得税の結果と比較します。

その結果から読みとれる重要な点は、消費税単独で社会保障をやることは不可能である、ということです。

消費税の場合、低所得家計への扶助の財源を得るために、中間所得家計に大きな負担がかかります。 消費性向が低い高所得家計の税負担が非常に軽いためです。

その結果、民間消費を支える中間層が薄くなり、消費が低迷して民間投資も少なくなり、GDPの水準が下がってしまいます。 95%の比較的「平等な」低所得家計と5%の富裕家計に二極分化した社会ができあがります。

消費税単独でこのような結果になるのであれば、「消費税率を上げて社会保障に使う」ことが本当に可能なのか、疑問に思わざるを得ません。

こうした結果について順に説明します。


■低所得家計への給付額の仮定

前回、所得税を考えたときには以下のように、所得ゼロの家計にマイナスの税額(給付)を仮定しました。
・低福祉ケース...給付120万円
・中福祉ケース...給付240万円
・高福祉ケース...給付360万円

今回しらべる消費税の場合でも、低所得家計に以下のような給付を仮定します(図参照)。 収入が増えるにつれて給付額が一定の割合で減るようになっています。
・低福祉ケース...給付は最大で120万円
・中福祉ケース...給付は最大で240万円
・高福祉ケース...給付は最大で360万円

Supply
図1

このような逓減的な給付を考えるのは簡単のためです。 EITCのように、収入ゼロ付近の家計への給付が就労促進的なものになっているタイプの給付より、逓減的な給付のほうが望ましい、と主張するつもりはありません。


■消費税を等価な所得税に置き換えて考える

前回の分析の枠組みを使うために、消費税を等価な所得税に置き換えて考えます。

たとえば、(税引き前の)所得が600万円の家計が、500万円の(見かけの)消費をしたとします。 消費税率を25%と仮定しましょう。

このとき、真の消費額は400万円で、家計が払う消費税は100万円です。

この100万円の消費税を所得税であるとみなします。 つまり、所得600万円に所得税100万円がかかったとします。 この家計の可処分所得は 600-100 = 500万円 です。 (等価な)所得税の税率は 100/600 = 16.7% であったことになります。

500万円の可処分所得から、この家計は、真の消費400万円を行いました。 この家計の消費性向は 400/500 = 0.80 であったことになります。

上のような方法で、各家計が払う消費税を所得税であると見なし、可処分所得から真の消費が行われる、と考えると、前回の分析の枠組みをそのまま使うことができます(*1)。


■マクロ経済前提を満たす消費税率

マクロ経済前提から、一定と仮定する消費税率(と景気変数y0)が決まります。 それぞれのケースで以下のようになりました。 なお、所得の税率に対する弾力性eは0.20と仮定しました。

・低福祉ケース... 消費税率 49.2%
・中福祉ケース... 消費税率 88.7%
・高福祉ケース... 消費税率 131%

税収のすべてを消費税でまかない、かつ、低所得家計への給付があるので、非常に高い税率になっています。

なお、低所得家計への給付がなければ、消費税率は33.3%になります(マクロ前提からの帰結です)。


■消費税単独の場合の国内総所得(GDP)

消費税単独の場合の、一家計あたりの国内総所得を、前回の所得税の場合の結果とともに次の図に示します。

Gdp
図2

消費税単独の場合のGDPは、いずれのケースでも、所得税の場合の5割〜7割にしかなりません。

消費税単独の場合のGDPは、低福祉ケースで一番小さく、高福祉ケースで一番大きくなります。


■各家計の実効税率(消費税と所得税の比較)

各家計の実効税率は以下のようになります。 まず、中低所得家計から示します。

Erate1
図3

消費税単独の場合の実効税率は、低所得家計で低く、所得200万円〜600万円で最大(30〜50%)となり、それより所得が大きいとゆるやかに下がります。

前回の所得税の場合と比べると、低中所得家計の実効税率は、消費税単独の場合のほうが、所得税の場合より大きくなります。

次に、高所得家計の実効税率を見てみます。

Erate2
図4

消費税単独の場合の実効税率は、年収1000万円以上の高所得家計では、所得が増えるほど小さくなります。 たとえば年収1億円の家計では、実効税率は高福祉ケースでは35%、低福祉ケースでは17%です。 年収10億円以上の家計では、いずれのケースでも実効税率は25%以下となります。

これは、前回の所得税の場合とは対照的な結果です。 消費を最大化する所得税の場合には、高所得家計の実効税率は、所得が増えるほど大きくなり90%に近づきました。


■各家計の可処分所得(消費税と所得税の比較)

消費税単独の場合に、高所得家計の実効税率が低いからといって、可処分所得も多い、とは限りません。 国内総所得の水準そのものが低下しているからです。 それをみてみましょう。

まず、中低所得家計の可処分所得を見ます。

Dispoinc1
図5

消費税単独の場合、いずれのケースでも、80%をこえる家計の可処分所得が220万円以下、90%をこえる家計の可処分所得が350万円以下となっています(*2)。

前回の所得税の場合には、いずれのケースでも、85%をこえる家計の可処分所得が200万円以上となっていました。 対照的な結果です。

消費税単独の税制は、たとえ低所得家計への給付があっても、中低所得家計の可処分所得を押し下げます。

つぎに、高所得家計の可処分所得を見ます。

Dispoinc2
図6

ごらんのように、ごく一部の高所得家計に限り、消費税単独の場合の可処分所得が、所得税の場合を上回ります。 それぞれのケースでは次の家計が該当します。

・低福祉ケース...上位3%の家計(可処分所得750万円以上)
・中福祉ケース...上位5%の家計(可処分所得550万円以上)
・高福祉ケース...上位2%の家計(可処分所得1200万円以上)


■まとめ

税収と政府支出がともにGDPの20%で、かつ、民間投資が消費の33%である、という条件の下で、消費税単独の税制と、消費(あるいはGDP)を最大化する所得税制を比較しました。

消費税単独の場合のGDPの水準は、所得税制の場合の5〜7割と低くなります。 民間消費を支える中間層が薄くなるからです。

実効税率は、消費税単独の場合には中間層で高くなります。 所得税制の場合には高所得家計で高くなります。

可処分所得は、所得上位2〜5%の家計では消費税単独の場合の方が、所得税制の場合よりも多くなります。 他の大部分の家計では、所得税制の場合の方が可処分所得が(大幅に)多くなります。

消費税単独の場合、低所得家計への扶助を行っても、90%以上の比較的平等な低所得家計と、10%以下の高所得家計への、2極分解が起こります。

社会保障の主な財源として消費税を用いることは不可能に思えます。

消費税単独の場合、高所得家計の実効税率が小さいので、低所得家計への扶助は中間層が担わざるを得ません。 それは、民間消費の主役であるべき中間層の可処分所得や消費を抑制して、GDPの水準が低下します。

   *

前回は、とにかく国内消費を最大化すればいい、という前提で最適な累進所得税制を求めました。 年収10億円で実効税率が90%にもなる、高所得家計の痛みには全く配慮しませんでした。

今回は、消費税単独税制ということで、中低所得家計には非常につらい税制を扱いました。

いずれも、非常に極端な税制です。 「最適な」税制がこれらのいずれでもなく、中間のどこかにあることは論を待ちません。

では、中間のどのあたりに「最適な」税制があるでしょうか。

中間層の消滅と所得や富の格差の広がり、民間消費の低迷など、昨今の日本経済に起きている諸現象を見るとき、答は明らかであると思います。

消費税単独と、消費を最大化する累進所得税制の中間点よりも、より後者に近い側に「最適な」税制があるに違いありません。

しかし、後者の実効税率が最高で90%というのは、ちょっと高すぎるように思えます。 1960〜1970年代の高度成長期の日本では、限界税率の最高は75%でした。 1950〜1960年代の米国など、92%といった例もあるようですが(*3)。 (でも、いずれも、それぞれの国の経済の黄金時代ですね。)

最高税率はどのくらいが「最適」なのか。 また、低所得家計への給付額はどのくらいが「最適」なのか。

こうした問題に答えるには、なんらかの社会的な意志決定が必要になります。 数理的な議論だけで決めることはできません。

しかし、意志決定の根拠となる、いくつかの自然な価値判断の族(ファミリー)を提示して、それぞれの場合に、最高税率や税率表、給付額がどうなるのかを論じることはできます。

次回はそれをやる予定です。

------
注 *1) 一般に、(税引き前の)所得がyの家計が払う消費税額t=t(y)は、次のようにして求めることができます。

消費税率をaとします。 たとえば税率5%ならばa=0.05です。 また、可処分所得がzの家計の(真の)消費額をc(z)とします(第3回目の記事の式(3)参照)。 関数c(z)には、家計の消費性向の情報が含まれています。

この家計の可処分所得はy-tなので、真の消費額は c(y-t) です。 よって、消費税額は a*c(y-t) となります。 これが、 tと等しいので、

 t = a*c(y-t)

の関係が成り立ちます。 この式をtについての方程式とみて解くと、消費税額 t=t(y) が得られます。

低所得の家計には給付がある場合があります。 (税引き前の)所得がyで、金額sの給付を受ける低所得家計の場合、支払う消費税額をtとすると

 t = a*c(y+s-t)

の関係が成り立ちます。 これをtについての方程式とみて解くと、消費税額 t=t(y,s) が得られます。

この家計が払う消費税(から受け取る給付を控除したもの)に等価な所得税の額は、 t(y,s) - s となります。


*2) たとえば、高福祉ケースの場合、所得ゼロの家計に360万円の給付を行っているのに、同家計の可処分所得が約250万円になっているのはなぜなのか、と疑問に思われるかも知れません。

それは、この家計が支払う消費税を所得税と見なして360万円から差し引いたものを、この家計の可処分所得と見なしているからです。


*3) 米国では1920年代に最高税率が75%から25%に引き下げられてバブルが発生、10年をまたずそれが崩壊して大恐慌となりました。

その後、米国は最高税率を92%まで引き上げて、景気回復に成功します。

日本でも1980年代に最高税率が75%から段階的に引き下げられてバブルが発生。 消費税の導入と同時にバブル崩壊。 その後、「失われた20年」が継続中です。

こうした事情を、渡久地明の時事解説さんが「吉越税理士の景気回復理論」という記事で、グラフでわかりやすく説明しておられます。 財政赤字や累積債務の増加と、最高税率との関係も一目瞭然。 必見です。

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消費を最大化する所得税制(4)---推定結果

「最適」所得税制の話の4回目です。 今回は推定結果を示します。


■国内消費を最大化する限界税率の表

次に示す3つの図は、国内の消費(あるいは国内総所得)を最大化するような、所得税の限界税率の推定結果です。 最適な税率には1〜2%程度の誤差が含まれている可能性があります(*1)。

所得の税率に対する弾力性eの値が異なる、3つのケースを調べました。 順に
e=0.2 (図1)
e=0.3 (図2)
e=0.4 (図3)
のケースです。 (日本の家計では、弾力性eは0.2程度であると思われます。)

Mtrate020
図1

Mtrate030
図2

Mtrate040
図3

いずれの図においても、所得ゼロの人の税額t0が
t0=-120 (低福祉ケース)
t0=-240 (中福祉ケース)
t0=-360 (高福祉ケース)
の3通りの場合を示しています(所得の単位は万円)。

税額がマイナスなので、これは実際には給付がある、ということです(給付つき税額控除)。

たとえば、図1のt0=-120のケースでは、すべての家計に年120万円が給付された上で、(税引きや給付以前の)所得の各部分に、図の限界税率で定まる税が課されることになります。

図の限界税率はいずれも非常に高く見えるかも知れませんが、給付分(t0)があるので、(とくに中低所得層の場合)実効税率ははるかに低くなります(あとで示します)。 (限界税率とは、年収が1万円増えたとき、余分に納めなければならない税金の、1万円に対する割合のことです。) 

なお、今回の分析では簡単のため定額給付の場合を調べています。 定額給付のほうがEITC(勤労所得税額控除)のような仕組みより望ましい、と主張したいわけではありません。

では、図1(e=0.2の場合)を詳しくみてみます。

給付額(-t0)が120万円の場合(青色の棒)には、年収800万円以下の限界税率は約45%で一定です。 年収800万円以上では限界税率は徐々に高くなり、年収2000万円で約80%、年収4000万円以上では約96%となります。

給付額(-t0)が240万円と360万円の場合(黄色あるいはオレンジ色の棒)はよく似ています。 いずれも、年収1400万円以下では限界税率は70%台前半でほぼ一定です。 年収1400万円以上では限界税率はゆるやかに高くなり、年収4000万以上では約95%となります。

図2(e=0.3)と図3(e=0.4)の場合も、限界税率の年収に対する定性的な振る舞いは図1とよく似ています。 おもな違いは、弾力性eが大きいほど、高所得層の限界税率が下がることです。 年収4000万以上の限界税率は、e=0.2の場合には94〜96%でしたが、e=0.3の場合には93%、e=0.4の場合には90〜92%となります。


■消費を最大にする税制の場合の、実効税率の表

上では最適な限界税率の推定結果を示しましたが、実効税率(=税額/所得)はもっと低くなります。 上記の限界税率から計算される実効税率を次に示します。 まず、年収1000万以下の場合です。

Etrate1
図4

ごらんのように、中低所得層の実効税率は、おもに給付額(-t0)で決まり、弾力性eにはほとんど無関係となります。

年収400万円以下では、実効税率は高福祉ケース(t0=-360)で一番低く、低福祉ケース(t0=-120)で一番高くなります。 いずれのケースでも実効税率は20%以下です。

年収が400万円から900万円では、低福祉ケースと中福祉ケースの税率が入れ替わります。 実効税率が高福祉ケース(t0=-360)で一番低いのは同じですが、実効税率が一番高いのは中福祉ケース(t0=-240)となります。 実効税率は35〜45%です。

年収が900万円から約2000万円では(図5も参照)、さらに高福祉ケースと低福祉ケースが逆転します。 実効税率は低いほうから順に、低福祉ケース、高福祉ケース、中福祉ケースとなります。 実効税率は35〜65%です。

次に年収1000万円以上の場合の実効税率を示します。 (年収4000万円付近でやや凹凸が大きくなっています。 これは計算の便宜から、限界税率を階段状の関数で表していることによる、人工的な凹凸です。)

Etrate2
図5

高収入になるほど実効税率は高くなり、年収1億円では約80〜85%、年収10億円では約90%に達します。 高所得層の実効税率は、弾力性eによる違いが無視できなくなります。

たとえば、e=0.20の場合に注目しますと、年収2000万円以上では、実効税率は低い方から順に、高福祉ケース、低福祉ケース、中福祉ケースとなります(年収4000万円以上では、低福祉ケース≒中福祉ケース)。

3つのケースを比較すると、中福祉ケースは魅力に乏しいように思われます。 年収400〜2000万円の中所得層〜プチ高所得層の負担が、他のケースに比べて重いからです。

もう1つ、注目に値する事実は、年収900万円以上の高所得層で、高福祉ケースのほうが低福祉ケースよりも実効税率が低くなることです。 この少々意外な結果は、以下で見るように、再分配による需要増殖効果に関係があります。 高福祉ケースでは、低所得層の旺盛な消費が、国内総所得の水準を引き上げるのです。


■消費を最大化する税制の場合の可処分所得

消費を最大化する税制を採った場合の、可処分所得を次の図に示します。 まず、中低所得家計の可処分所得から。 限界税率を階段状の関数に選んでいるために、多少の人工的な凹凸が生じています。

Dispo_income1
図6

下位45%の家計では、可処分所得は高福祉ケース(t0=-360)で一番多く、次いで中福祉ケース(t0=-240)となり、一番少ないのは低福祉ケース(t0=-120)です。

上位55%の家計では、可処分所得は高福祉ケースで一番多く、次いで低福祉ケースとなり、一番少ないのは中福祉ケースです。 (可処分所得1000万円付近では、低福祉ケースのほうが高福祉ケースよりわずかに大きくなります。)

高所得層の可処分所得を次に示します。 高所得層の可処分所得は、弾力性eによる違いが無視できなくなります。

Dispo_income2
図7

e=0.2の場合に注目します。 可処分所得が1500万円以上となる所得層では、高福祉ケースの可処分所得が最も多くなります。 低福祉ケースと中福祉ケースはほぼ同じで、いずれも高福祉ケースの半分程度の可処分所得となります。

どうして、高福祉ケースのほうが低福祉ケースより、高所得家計の税負担が軽く、可処分所得が多くなるのでしょうか。 それは国内総所得の水準が違うからです。


■消費を最大化する税制の場合の国内総所得(GDP)

消費を最大化する税制を取った場合の、一家計あたりの国内総所得を次の図に示します(*)。

Gdp
図8

たとえばe=0.2の場合(青色の棒)に注目します(*2)。 一家計あたりの国内総所得は、低福祉ケースを基準として、中福祉ケースでは約1.03倍、高福祉ケースでは1.56倍となり、給付額(-t0)が大きいほど、国内総所得が増えることがわかります。

他の場合(e=0.3またはe=0.4)も同様で、高福祉ケースの国内総所得が一番多くなっています。

高福祉ケースでは、定額給付額は1家計あたり360万円と多いのですが、国民総所得も約1.6倍に増えるので、高所得層の税負担率はそれほど増えないことがわかります。

(*2月17日 付記:当初アップした一家計あたりのGDPの図に誤りがあったので差し替えました。 国内総所得ではなく、景気変数y0を縦軸にとってしまっていました。)


■まとめ

税収と政府支出がともにGDPの20%で、かつ、民間投資が消費の33%である、という条件の下で、消費(あるいはGDP)を最大化する所得税制を求めました。 他の税はないものとしています。

中低所得層の実効税率は、定額給付額でほぼ決まります。 高所得層の実効税率は、定額給付額に加えて、弾力性eの値によって違ってきます。

中福祉ケースは、相対的に中間層の負担が重く、あまりメリットがないように思われます。

高福祉ケースでは、GDPの水準が高くなるため、高所得層の負担率は低福祉ケースよりむしろ低く、可処分所得も多くなります。


■今後の予定

時間をみつけて、以下のような考察をしてみたい、と考えています。

・10代の子供を2人もつ家計のように、消費性向が高い家計が通常の家計と混在している場合に、家計のタイプごとに、最適な税率表を同時に決定すること。

・社会的厚生関数(ロールズ的な関数、あるいは、功利主義の関数、あるいは、それらの中間の関数)を用いて、定額給付額(-t0)も含めた「最適」税制を求めること

------
注 *1) 各家計の所得yを求める際に、前回の記事で出てきた方程式1を何度も解く必要があります。 この処理に結構、時間がかかるので、少し精度を落として解いています。

*2) ある国の弾力性eの値は、人々の勤勉さや労働に対する価値観などによって決まるもので、政策によって容易に変えることのできるものではありません。 なので、eの違う値についてGDPの大きさを比較することにはほとんど意味がありません。

しかし、図8を見て、所得獲得能力の分布と給付額(-t0)が同じケースで、eの値が大きいほどGDPが大きいのはなぜか、という疑問を持たれた方のために、そのわけを書きます。

答は、需要によってGDPが決まる、というマクロ経済モデルを採用しているからです。

通常そうであるように限界税率が累進的ならば、eの値が大きいほど、実際の所得分布は所得格差が小さくなり、高所得層の消費性向が大きくなります。 そのために(景気変数y0が同じならば)eの値が大きいほど消費はGDPの大きな割合を占めます。 これは民間投資の拡大を促します。

仮定したマクロモデルでは、均衡状態で消費はGDPの60%を占めることが仮定されています。 そうなるためには、景気変数y0が大きくなって、高所得層の消費性向がじゅうぶんに低くなるまで所得が増える必要があるのです。

高所得層の立場からいうと、当初は重税感から仕事を減らし所得が減ったけど、思った以上に売り上げが伸びるので、もう少し働くことにした。 そうこうするうちに所得が増えて、結局、はじめより多くなってしまった、となるでしょう。

まとめますと、eの値が大きいほど、所得格差が小さくなって国全体の消費性向が上がるので、均衡GDPの水準が高くなるのです。

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消費を最大化する所得税制(3)---推定の方法

「最適」所得税制を決定する話の3回目です。

目標は、国内の消費(あるいは国内総所得)を最大化するような、所得税の税率表を求めることです。

その際、税収はGDPの20%であるという制限を置きます。 他の税はないものとします。

まず、どのような考え方で「最適」所得税を決定するのか、その方法について説明し、あとで結果を示します。 方法の説明の部分は数式が多くなります。

各家計の所得や可処分所得、さらに、それによって決まる消費額が基本になるので、それから話を始めます。


■各家計の所得

まず、各家計はそれぞれ所得獲得能力(nとします)を持っていると仮定します。

各家計の実際の所得yは、能力nだけはなく、その家計が直面する限界税率t'(y)と景気y0の影響を受けると仮定しましょう。

t(y)は所得yの家計に課される税額で、t'(y)は所得がyから少し増えたときに税額が増える割合(変化率)です。 また、y0を景気変数と呼びます。 景気変数y0はすべての家計に共通です。

所得が限界税率に依存すると仮定するのは、税が重いと労働意欲をなくして所得が減る効果を考えてのことです。(図参照)

Fig_ex1
図1

所得が景気の影響を受けると仮定するのは、同じ能力をもった家計でも、景気が良ければ収入が増え、景気が悪ければ収入が減る効果を考えてのことです。 (図参照)

Fig_ex2
図2

能力nの家計の所得yは次の式を満たすように決まると仮定します(右辺にもyが登場するので、yについての方程式になっています)。

y = y0 n (1-t'(y))^e  ...(1)

eは、所得の税率に対する弾力性と呼ばれ、税が重いと所得が減る効果の強さを表しています。多くの国でeは0.12から0.4程度の値をとり、日本では0.2弱であるとの推計があります(*1, *2)。

前回の記事でデータから推計した、家計の所得獲得能力n(ただし 0 <= n < +∞)の分布をf(n)で表します。 つまり、能力がnからn+dnの範囲にある家計の数はf(n)dnであるとします。 分布の両端ではべき分布(パレート分布)になるのでした。

能力nの分布は景気変数y0の影響を受けず、y0が変わっても不変であると仮定します。

分布関数f(n)の全区間にわたる積分は1であると規格化しておきます。

Integral(f(n), [n,0,+∞]) = 1

また、能力nの中央値は1であると規格化しておきます。

Integral(f(n), [n,0,1]) = 1/2

この規格化により、能力nは無次元量となり、所得の中央値がだいたいy0になります((1-t')^eの項を除いて)。

式1を見ると、t'(y)が0より大きく1未満の値を取るゆっくりと変化する関数ならば、景気変数y0が大きいほど所得yが大きくなることがわかります。 これは、景気がよいほど各家計の所得が増えることを表しています。


■各家計の可処分所得と消費額

所得yの家計の可処分所得zは、所得から税額を引いたものになります。 所得yの家計に課される税額をt(y)と書くと

z = y - t(y)  ...(2)

となります。

可処分所得zの家計の年間の消費額c(z)は、前回の記事で推定した消費性向を用いると

c(z) = 2.31 × z^0.808  ...(3)

と書けます(金額の単位は万円)。


■マクロな総所得Yや消費C、税収T

国内の各家計の所得や消費を合計した量を考えます。 まず、能力nの家計に対し、式1で決まる所得をy(n)と表すことにします。 明示的に書いてはいませんが、y(n)は実際には、景気変数y0や税率表{t(y)}にもよります。

総所得Yは、全家計でy(n)を足し合わせたものになります。

Y = Integral(f(n) y(n), [n,0,+∞])  ...(4)

家計消費c(z)の合計Cは次の式で与えられます。

C = Integral(f(n) c(y(n)-t(y(n))), [n,0,+∞])  ...(5)

総税収Tは次のようになります。

T = Integral(f(n) t(y(n)), [n,0,+∞])  ...(6)

税収は国内総所得の20%と仮定するので

T = 0.20 Y  ...(7)

の関係を要請します。 式7は、景気変数や税率表が満たさなければならない拘束条件です。


■民間投資Iと政府支出Gについての仮定

民間投資Iは消費Cに比例すると仮定します。 日本の場合、300兆円弱の家計消費に対して、民間投資は約100兆円です。 そこで

I = 0.33 C  ...(8)

の関係を要請します。 式8も、景気変数や税率表が満たさなければならない拘束条件です。

政府支出Gは、均衡財政を仮定して、税収Tと等しいとします。

G = T  ...(9)


■マクロ経済に関する恒等式

簡単のため、輸出入のない閉鎖経済を仮定します(*3)。 恒等式

Y = C + I + G

に、式8と均衡財政の式9を代入して、式7を用いると

Y = C + 0.33 C + 0.20 Y

これから

C = 0.60 Y  ...(10)

を得ます。


■「最適な」税率表を決める方針

景気変数y0と税率表{t(y)}が満たすべき拘束条件は、式(7)と式(10)です。 これらの拘束条件を満たすような y0と{t(y)} のなかで、消費Cを最大にするものを求めれば、それが求める税制{t(y)}になります。

式10より、そのような税制は、国内総所得Yも最大化しています。


■拘束条件の処理

簡単のため、家計の所得を以下の10個の区間に分け、それぞれの区間で限界税率が一定であるような税率表だけを考えます。

     所得   限界税率
区間1  0〜200万円  m1
区間2 200〜400万円 m2
区間3 400〜600万円 m3
区間4 600〜800万円 m4
区間5 800〜1000万円 m5
区間6 1000〜1400万円 m6
区間7 1400〜2000万円 m7
区間8 2000〜2800万円 m8
区間9 2800〜4000万円 m9
区間10 4000万円〜    m10
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所得ゼロの家計の税額  t0

また、所得ゼロの家計の税額をt0とします。 t0は一般にはマイナスです。 すなわち、所得ゼロの家計には税の徴収ではなく、給付が行われます。 t0は給付つきの税額控除に相当します。

たとえば、 t0=-120、 m1=0.20、 m2=0.30 の場合に、所得230万円の家計の税額を考えてみます。
収入のうち、最初の200万円にかかる税率は0.20なので、この部分の税額は40万円。
残りの30万円にかかる税率は0.30なので、この部分の税額は9万円。
一方、t0のために120万円の給付つき税額控除があります。
よって、この家計の税額は
-120 + 40 + 9 = -71万円です。 (71万円の給付)

もちろん、もっと収入の大きな家計の税額はプラスになります。 そうした税額(低所得家計はマイナス)をすべての家計について加え合わせると、国内総所得の20%になってほしいわけです。

上の税率表は (t0, m1, m2, ... , m10) の11個のパラメータで決まっています。 これに加えて、景気変数y0があります。 合計12個のパラメータがあります。

これら12個のパラメータは独立には選べません。 2つの拘束条件(式7と式10)を満たす必要があるからです。

最低所得層の福利厚生を表すt0は手で与えることにします。 t0 = -120, -240, -360の3通りの場合を考えます。

残り11個のパラメータを拘束条件を満たすように動かしながら、消費Cを最大にするパラメータの組を探すのは難しいので、かわりに

(y0, m1, m2, ... , ,m10) の11個のパラメータを自由に動かしながら

消費C から 拘束条件からのずれを表す量 を引いた量

を最大にするパラメータの組を探すことにします(*4)。

最大値の探索には、遺伝的アルゴリズムの一種である、DE (Dynamical Evolution) を用いました(参考リンク pdf)。

このようにして求めた、消費を最大化する税率表を次に示します。

(続く。 次回は結果を示します。)

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*1) 日本の課税所得の弾力性
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30924823.html


*2) 能力nの家計の所得yを決定するこの式1は、以下の効用関数uから導くことができます。

u(z, y) = z - (y0 n)/(1+1/e) (y/(y0 n))^(1+1/e)

ここで、可処分所得zに、 z = y - t(y) を代入して、uが最大になること(du/dy = 0)を要請すると、式1が得られます。

効用uの式に現れた量 y/(y0 n) はだいたい労働時間(労働投入)です。 少ない労働時間で大きな可処分所得が得られる場合に、効用uが大きくなっています。


*3) 輸出や輸入の影響を考慮することも容易です。 たとえば、輸出Xを定数とし、輸入Mが総所得Yに比例するとして M = m Y (mは定数)と仮定すれば、恒等式

Y = C + I + G + X - m Y

より、

(0.80 + m) Y = 1.33 C + X

なる拘束条件を得ます。 これを式10の代わりに用いれば、輸出入の影響を考慮して、最適税制を推定することができます。

さらに、Xやmの値を実際より少し大きく設定することで、国内金利上昇によるクラウディングアウトの影響を近似的に取り込むこともできるでしょう。

*4) たとえば、拘束条件からのずれdを d = sqrt( (C/Y - 0.60)^2 + (T/Y - 0.20)^2 ) としたとき、 d > 0.001 ならば消費Cを実際より500兆円少ないとみなし、d > 0.002 ならば消費Cをさらに500兆円少ないとみなし、といった具合に、拘束条件からのずれを考慮した河岸段丘(を逆さまにした)形状の評価関数を用います。

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消費を最大化する所得税制(2)---日本の家計の所得分布と消費性向

需要側の視点を取り入れた枠組みで、「最適」所得税制を決定する話の2回目です。

需要側の視点というのは、所得再分配によって家計消費が増え、それが民間投資の増加につながり、国民総所得の水準を引き上げるという、マクロ経済効果を考慮することを指します。 以降の分析では

・(課税がない場合の)家計の所得分布
・所得の税率に対する弾力性
・家計の(可処分所得に対する)消費性向

のデータが必要になります。 これらを順に見ていきましょう。 (弾力性については次回に触れます。)


■高所得家計の所得分布

次に示すのは、高額所得者の所得分布です。 横軸に年収をとり、縦軸にはその年収以上の人の人数をとってあります。 たとえば、年収が100億円を超える人は日本に約10人いる、ということがわかります。 ソースは国税庁統計年報(平成19年度)p.65の、申告所得者の所得分布の表です。

Income_distri3
図1

ごらんのように両対数グラフ上で見事に直線に乗っています。 これは、高額所得者の所得分布がべき分布(=パレート分布)になっていることを示します。 式で書くと、yを所得、pを所得yの人の低所得側からの割合(0 <= p <= 1。 たとえば、一番所得の低いひとはp=0、高い人はp=1、中央の人はp=0.5)として

y = 定数 / (1-p)^c

となります。 定数cはおよそ c = 0.602 です。


■低所得家計の所得分布

次に示すのは、老齢年金受給者実態調査(平成18年)でみた所得分布です。 年金受給者の所得分布は、生涯にわたる所得を反映したもので、近似的には、現地点での全家計の所得分布と同じ特徴をもつと期待できます。

Income_distri1
図2

この図の左端の立ち上がりの部分(年収50万円以下)を両対数グラフにプロットしたのが次の図です。

Income_distri2
図3

少しバラツキがありますが、ほぼ直線にのっています。低所得家計の所得分布もべき分布(=パレート分布)になっています。 式で書くと、yを所得、pを所得yの家計の低所得側からの割合(0 <= p <= 1)として

y = 定数' × p^c

となります。 定数cはおよそ 1/1.69 = 0.592 となり、先ほどの高所得家計の分布の場合の定数(べき)0.602 とほとんど同じなので、同じ記号cで表しました。 これ以降は c = 0.602 とおきます。


■中間所得層の家計の所得分布

高所得家計の分布が y = 定数 / (1-p)^c  ...(y3)
低所得家計の分布が y = 定数' × p^c   ...(y1)

となるのであれば、中間層の所得は、これらを自然につなぐ形として

y = 定数'' × (p/(1-p))^c

あるいは、もっと一般にa, bを定数として

y = 定数'' × p^a (1-p)^(-b)  ...(y2)

のような形の、べき分布を変形した分布になっているのではないか、と予想できます。

次の家計調査(2008年、総世帯)のデータを見ると、その予想が正しいことがわかります。

Household1
図4

オレンジ色の曲線(上の式y2で定数a=0.444, b=0.314の場合)がデータに非常によく当てはまっています(*1)。


■これからの分析で仮定する所得分布

以上の分析を踏まえて、これらの3つの所得分布をなめらかにつないだ所得分布(図の青色の線y)を仮定することにします。

0 <= p < M では y = 定数 × p^c
M <= p < N では y = 定数' × p^a (1-p)^(-b)
M <= p <= 1 では y = 定数'' × (1-p)^(-c)

ここで、低所得層、中間層、高所得層の境目を表す定数M, Nは、

M = (c-a)/(c-a+b) = 0.335
N = a/(c-b+a) = 0.941

です。

図をみると、オレンジ色の曲線(y2)の方が、青色の曲線(y)よりも家計調査のデータによく当てはまっているのに、どうして青色の曲線のほうを採用するのか、と疑問に思われるかも知れません。

それは家計調査が、9000サンプル程度の、多いとはいえ、やはり有限のサンプルに基づく調査だからです。 所得分布のようなすそ野の広い分布では、高所得側と低所得側の両極端は、端に行けば行くほど、有限のサンプルで分布を代表させることが困難になります。 そうした端の部分では、全数調査である税務データなどの信頼性が勝ります。


■これからの分析で仮定する所得獲得能力の分布

上で日本の家計の所得分布を求めましたが、実は、これから最適税制を決定する際に必要なのは、所得獲得能力の分布(=課税がない場合の所得分布)なのです。

実際の所得分布は、課税による変形を受けています。 税負担が重いと、働く意欲をなくした家計がわざと所得を減らす、という作用が働くためです。

本来は、この変形の影響を取り除かなければなりません。 しかし今回は簡単のため、それを無視します。

すなわち、所得獲得能力の分布は、上で求めた実際の所得分布と同じ形をしていると仮定します。 たとえば、図の青い線上において、ある所得順位の家計Aが別の家計Bの2倍の年収になっているならば、所得獲得能力も、AはBの2倍であると仮定します。


■家計の、可処分所得に対する消費性向

次の図は、家計調査(2007年、総世帯のうち勤労者世帯)による、消費性向のデータです。 高所得の家計ほど消費性向が低くなっています。

Cons_rate
図5

図の青い線は式

β = 2.31 / z^0.192

を表しています。 ここで、βは消費性向、zは年間の可処分所得(万円)です。 上の式は次のように書き直すこともできます。

β = (z0/z)^0.192, ただし z0 = 79.0

この式から、年間の可処分所得が79万円のところで消費性向がちょうど1になり、可処分所得がそれより小さいと消費性向が1を越えることがわかります。

また、消費性向が0.95(=可処分所得の5%を貯蓄)となる家計の可処分所得は102.3万円、消費性向が0.90(=可処分所得の10%を貯蓄)となる家計の可処分所得は135.6万円です。 このあたりの年収が、「最低限度の暮らし」に必要な年収の目安になるはずです(*2)。

ごらんのように、図の青い線は中低所得家計の消費性向をよく表していますが、同じ曲線が、可処分所得が1000万円以上の高所得家計の消費性向のデータにもあてはまるのかどうか、は不明です(WSは知りません)。

しかしながら、今回は、この曲線が高所得層の消費性向にもあてはまると仮定します。

したがって、一般に、可処分所得がzの家計の、年間消費額をc(z)とすると

c(z) = β z = 2.31 × z^0.808

と表されることになります。

下表は、上の式で仮定されている、可処分所得と消費性向の関係です。

可処分所得  消費性向
 250万円   0.80
 500万円   0.70
1000万円   0.61
2000万円   0.54
4000万円   0.47
8000万円   0.41
16000万円   0.36
32000万円   0.32

(続く。次回は、マクロ経済効果を考慮して「最適な」所得税制を決定します。)

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*1) 以前の記事で、家計の所得分布はほぼ対数正規分布になる、と述べました。 少し訂正しなければなりません。 分布の両端(高所得側と低所得側)の端のほうはむしろ、べき分布(パレート分布)と呼ぶのが適切です。 それに対して、両極端を除く分布の中間部分は、対数正規分布でもよく近似できます。

*2) 家計調査のサンプルでは、低所得の家計は、構成員(家族)の人数が1人とか2人の家計が多くなっています。 3人あるいは4人以上の家族からなる家計が必要とする「最低限度の収入」はこれより多いと思われます。

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