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「昼より夜に微小地震が多い」のは人間活動の雑音が原因なのか -T12

11月の末、WSは天地がひっくり返るほど驚きました。 この1年あまりの努力が完全に無に帰する(かも知れない)瞬間を味わったからです。

昼と夜の地震発生数に見られる10パーセントほどの違いはなにが原因なのか。電磁的なものだろうか。そのメカニズムを解き明かして、可能ならば地震予測に役立てたい、というのがこの1年あまり、WSの頭の大きな部分を占める考えでした。
(参考 関連記事 その他の関連記事

どこか甘く、楽観的な想像を楽しみ、研究の道の厳しさを忘れたWSの浮ついた頭を思いっきりぶん殴ってくれたのは、zakzakというサイトに掲載された島村英紀博士の次の記事です。

難解な地震の法則性 「月の引力が地震の引き金を引く」説は?
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20131122/dms1311220726001-n1.htm

この記事のはじめのほうで、島村氏が次のようにさらっと書いておられる部分、これがまさに「じぇじぇじぇ〜」の大ショックだったのです。

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地震計の発明以後、しだいに地震のデータが集まってくると、
世界の地震学者が最初に取り組んだのは、地震の起きかたは
何によって左右されるのだろうという地震の「法則性」だった。

しかし、これはなかなかの難問であった。

最初の「発見」は、昼より夜の方が地震が多いことだった。
だが、これはまったくの間違いだった。
昼間は人間活動の雑音が高いために、昼間の地震が夜ほどは
検知できなかっただけだったのだ。
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なんですって?

*** 昼間は人間活動の雑音が高いために、昼間の地震が夜ほどは検知できなかっただけ ***

なんとまあ恐ろしいことを、あたかも当然のことのように、さらっと記述してあることか。これが本当なら、どこかのだれかの1年分の努力が無に帰するというのに(笑)。

   *

あまりのショックにしばらく放心状態でしたが、少し時間が経って冷静に考えてみると、この記事は逆に、WSの地震予測の構想を実現するうえで重要な要素である人間活動の雑音をちゃんと考えて補正せよ、と教えてくれていることに気づきました。

少し冷静になれたときに最初に思い出したのは、北アメリカ西部の微小地震データを解析したときの経験です。 記録された地震数に見られる昼夜の違いは、そのすべてが人間活動の雑音に帰するわけではない。 巨大地震の前には、その周辺地域で、地震発生数に見られる24時間周期の変動が明らかに乱れている、という強い確信がWSにはあるのです。

今回の記事ではまず、地震発生数に見られる昼夜の違いには、たしかに人間活動による雑音の影響らしきものが見られるという点を日米それぞれのデータで確認します。

規模の小さい地震ほど雑音の影響を受けやすいはずですが、実際にそうなっているのかどうか。また、土日は人間活動が低いので雑音の影響が少ないはずですが、そうなっているのか、といった点を確認します。

そのあとで、人間活動の雑音の影響はたしかにあるが、それを補正することで、地震発生数に見られる24時間周期の乱れがよりはっきりと見え、巨大地震の予測に役立つのではないか、という構想にふれます。

   *

§ 地震記録数にみられる24時間周期の変動を再考する

次に示すのは、以前の記事で紹介した、日本周辺の地震発生数(記録数)に見られる24時間周期の変動です。

Fig0
図1

夜には地震が多く、昼には地震が少ない。

明け方の6時、7時、8時と時刻が進むにつれて地震記録数が少なくなり、逆に、夕方の16時、17時、18時と進むにつれて地震記録数が増えるさまは、あたかも人間活動が活発になるようすや静かになるようすを表しているようです。

お昼の12時代、13時台に少し地震記録数が増えています。これはもしかして、お昼休みのために人間活動の雑音が減って、地震記録数が増えているのでしょうか。

WSはこれまで、この正午付近にみられる地震記録数の小さなピークはこの時刻に、電離層に流れるSq電流の渦の目の真下に日本周辺が位置することによる、電磁的な影響のためではないか、と夢想していました。 かりにそれが人間活動の雑音(=みんなお昼ご飯を食べているので機械は止まってるよ)で説明されてしまうならば、(WSにとって)なんともショッキングなことです。

   *

§ 地震の規模と昼夜別の地震数との関係

人間活動の雑音の有無が、昼と夜で地震記録数にちがいが生じる原因であるならば、より小さな地震ほど雑音の影響を受けやすいはずです。 大きな地震は少々の雑音があってもそれにうち勝って、地震として記録されるはずだからです。 それを日米の地震データでそれぞれ調べてみました。

次の図は、日本周辺の地震について、地震の規模ごとに、昼夜別に地震記録数を比べたものです。 気象庁一元化震源データを使用させていただきました。

Mag_count1
図2

赤色が昼間の地震数、緑色が夜間の地震数を示します。誤差棒は±2σの範囲です。

マグニチュード5以上の地震では、地震数に昼夜のちがいは見られません。 マグニチュード6以上の地震で見かけ上、差があるように見えますが、誤差の範囲内にとどまっており、差は統計的に有意ではありません。

一方、マグニチュード4未満の地震では、夜間の地震数が昼間の地震数を上回っています。 上の図2の左半分(地震規模の小さな部分)を拡大した図を次に示します。

Mag_count2
図3

昼間と夜間の地震記録数のちがいは統計的に有意で、その差は地震の規模(マグニチュード)が小さくなるほど大きくなっています。 これは、昼夜の違い(の大きな部分)は人間活動の雑音が原因であるという仮説と矛盾しません。

次の2つの図は、北アメリカ西部についての同様なグラフです。 ANSSデータを利用させていただきました。

Mag_count_us1
図4

Mag_count_us2
図5

北アメリカ西部の地震データでも、昼間と夜間の地震記録数のちがいは、微小な地震については統計的に有意で、その差は地震の規模(マグニチュード)が小さくなるほど大きくなっています。

これらのグラフを見るかぎり、人間活動の雑音が地震記録数に影響しているように感じられます。 でも本当にそうなのでしょうか。 もっとグーの音も出ないような決定的な証拠をつかめないでしょうか。

いろいろ考えてみて、「曜日」というファクター(因子)に気づきました。そうだ、もし、人間活動が影響しているなら、日曜日などの休日には雑音が少ないはずだ。だから、休日には記録される地震数は増えるであろう、と。

そこで曜日と地震数の関係を調べてみることにしました。

   *

§ 曜日と昼夜別の地震数との関係

次の図は、日本周辺での、曜日ごと昼夜別の地震記録数です。 12時間あたりに記録されるマグニチュード0.1以上の地震の平均数を示します。 とりあえず祝日は考慮していません。

Weekday_count
図6

ごらんのように、日曜昼間の地震数が夜間に匹敵するほど多くなっています。 土曜昼間も、平日昼間より少しだけ多くなっています。

休日は人間活動が低調なので雑音が少なく、記録される地震数が増えるであろう、という予想が当たりました。

次の図は、同様なグラフを北アメリカ西部について描いたものです。

Weekday_count_us
図7

やはり、土曜昼間と日曜昼間の地震記録数が、平日昼間より多くなっています。

人間活動による雑音が、昼夜の地震記録数のちがいに大きく影響していることがわかります。

   *

§ それでも、人間活動による雑音がすべてではない

人間活動による雑音が、昼と夜の地震記録数にちがいが生じる原因のすべてなのでしょうか。

WSにはそうではない、という確信があります。

それは、アラスカ州で2002年に起きたM7.9の巨大地震の前後5年間に、周辺地域の地震数にみられた24時間周期の乱れを分析した経験からきています(下図参照。関連記事はこちら)。

Fig1
図8

通常はおそらく人間活動による雑音のために、1日のうちで真夜中に地震記録数のピークをむかえます。図をみると、大地震が発生したあとの5年間は確かにそのようになっています。

しかし、大地震が発生する前の5年間は、地震記録数がピークをむかえる時刻が大きく乱れています。 この乱れは、人間活動による雑音以外のなんらかの別の要因によって起こされたのではないでしょうか。

   *

島村氏の記事のおかげで、人間活動による雑音という重要な因子に気づくことができました。

地震記録数にみられる24時間周期の変動から、この因子の影響を除外する(補正する)ことで、これまで雑音に埋もれて見えなかった、大地震の前兆につながるなんらかの因子を抜き出せるのではないか。

そのような方向で、探求を進めてみようと思います。

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地震活動の24時間周期の乱れから大地震を予測する試み(北アメリカ西部)-T11

前回の記事では、M7.5以上(あるいはM7.0以上)の大地震の前には、微小地震発生数にみられる24時間周期の<位相>が乱れる、という「発見」について触れました。

これは、大地震が起こった後で、その周辺地域の微小地震活動を日付をさかのぼって調べてみると、24時間周期の「乱れ」が見いだされる、という話です。

もし、この話を逆にできるならば、つまり、微小地震活動を広域でモニタして、24時間周期の大きな「乱れ」が起きている地域には、将来(たとえば「乱れ」が収束したときに)、大地震が発生する、ということがもし言えるならば、地震予測につながります。

今回はその可能性を探求してみます。

前回の記事で、微小地震発生数にみられる24時間周期の<位相>と<振幅>の推移を、震源の場所別・深さ別に示しました(下に再掲、図A−1とAー2)。

これらをもう少し見やすくデータ処理して、より客観的に「地震予測」に役立つ形にできないだろうか、というのが今回の試みです。

Fig_h_all

Fig_amp_all

2つの方法を試しました。

1つめはフーリエ変換です。長周期成分や短周期成分など、特定の周期をもつ変動成分だけを取り出して、眺めてみる方法です。

2つめは主成分分析です。ある期間内(16か月としました)の典型的な変動のパターン(主成分)をいくつか求めて、どのパターンが現れているときに(あるいはその直後に)大地震が発生したのかを調べてみる方法です。

順に見ていきます。

   *

フーリエ成分に分けて眺めてみる

周期が4〜8か月の成分、8〜16か月の成分、16〜32か月の成分、32か月以上の成分、の4通りに分けて眺めてみます。

まず、周期4〜8か月の成分から、<位相>、<振幅>の順に示します。


周期4〜8か月の成分

Fig_h_4_8

Fig_amp_4_8

もとの図とくらべて、長周期成分の「うねり」がとれて、周期の短い「乱れ」がよく見えるようになりました。

M7.5クラスの大地震だけでなく、たとえば1999年後半に北緯35度付近で発生したM7.0クラスのやや大きな地震の2〜1年前にかけても、中深度(緑色の折れ線)の<位相>と<振幅>に「乱れ」がみられることがわかります。

少なくともM7クラス以上の地震では、地震の前に24時間周期が乱れる、とは言えそうです。

問題は「乱れ」のあとで、つねに大地震が発生しているわけではないこと。「地震性の乱れ」とそうでない「乱れ」を見分ける分析方法を見いだす必要があります。

次に周期8〜16か月の成分を見ます。


周期8〜16か月の成分

Fig_h_8_16

Fig_amp_8_16

さきほどの4〜8か月の成分に比べて、ノイズが減って、地震との対応が良くなりました。大地震の数年前に「乱れ」があらわれて大きくなり、地震発生が近づくにつれて、<振幅>や<位相>の「乱れ」が減少するように見えます。

次に周期16〜32か月の成分を見ます。


周期16〜32か月の成分

Fig_h_16_32

Fig_amp_16_32

一見すると、さきほどの8〜16か月の成分に比べて、地震との対応は悪いようです。しかし、図Aー7で<位相>の推移をよく見ると、各地域で、浅い領域(赤線)より深い領域(青線)で変動が大きい時期と、その逆の時期とが交互に繰り返しており、前者の時期から後者の時期に移る境目のころに、大きな地震が発生しているように見えます。

次に周期32か月以上の成分を見ます。


周期32か月以上の成分

Fig_h_32_max

Fig_amp_32_max

地震との対応ははっきりしません。北緯50度付近の領域と、北緯25度付近の領域では、つねに、<振幅>と<位相>に「乱れ」が見られます。

   *

以上、4つの周波数帯で、微小地震活動の24時間周期の「乱れ」を観察しました。

いちばん「地震予測」に使えそうなのは、「周期8〜16か月の成分」で、加えて補助的に「周期4〜8か月の成分」と「周期16〜32か月の成分」を眺めるのがよいでしょうか。

このようにしてごく最近(2012年以降)の各緯度帯の「乱れ」を観察してみると、北緯20度付近(メキシコ地域)にやや大きな「乱れ」が見られます。拡大図を示します。

Fig_h_8_16_zoom

さらに1年くらい観察してみて、この「乱れ」が減衰してくるようなら要注意かも知れません。

フーリエ変換についてはこのくらいにして、次に主成分分析のお話をします。

   *

主成分分析で典型的な変動パターンを調べてみる

ある期間内(16か月間としました)の典型的な変動のパターン(主成分)を主要なものから10個(第1主成分〜第10主成分)求めてみました。

次の2つの図は、第1主成分から第5主成分の16か月間の変動パターンです。最初の図は<位相>の変動パターン、次の図は<振幅>の変動パターンを示しています。

Fig_h_vec_1_5

Fig_amp_vec_1_5

第1主成分は、16か月間の<位相>や<振幅>の全体が大きくなったり小さくなったりする(レベル自体が全体的に上あるいは下へとシフトするような)変動パターンです。

それに対して、第2成分以降は、特定の緯度帯や深さで<位相>や<振幅>が、16か月間の前半は小さくて後半は大きくなったり、その逆だったり、あるいは、16か月間の途中でピークを持っていたりするなど、時間変化を伴う変動パターンです。

次の2つの図は、第6主成分から第10主成分についての同様な図です。

Fig_h_vec_6_10

Fig_amp_vec_6_10

   *

さて、このような主成分で表される変動パターンが、実際の微小地震活動にいつ発現していたのか、を示すのが次の図です。

Fig_factors

グラフで「各主成分の係数」の絶対値が大きくなっている時期には、実際の微小地震活動が、対応する主成分で示される変動パターンに似ていたことになります。

たとえば、2002年1月には第3主成分の係数(F3、青色の線)が-0.8という(絶対値が)大きな値をとっています。この時期の微小地震活動は、図B−1と図B−2で示した第3主成分の変動パターン(正確には、その符号を逆にしたような変動パターン)に、似ていたわけです。

図B−1と図B−2をみると、第3主成分が示す変動パターンは、高緯度地域で<位相>にピークがあり、かつ、浅い領域の<振幅>が増加しつつあるようなパターンです。

このパターンが現れて約1年後の2002年末に、アラスカ地域でM7.5クラスの大地震が発生しました。

将来、もし同様なパターンが現れたら、アラスカ地域の地震を警戒すべきかも知れません。
(このようなことを語るには、大地震のサンプル数が少なく、データ期間も短かすぎます。本当は100年間くらいのデータがあればよいのですが、微小地震のデータは十数年ぶんがやっとです。)

あと、根拠の弱いことを重ねて書くことをお許し願いたいのですが、直近のF4とF5の値は、2001年初に似ています。2年後の2002年末と2003年初にアラスカとメキシコでM7.5クラスの大地震が連続しました。2年後の2015年ごろにこれらの地域では警戒が必要かも知れません。

   *

最後に、こうした主成分で示される変動パターンが、実際の微小地震活動の24時間周期の「乱れ」に、それぞれどれくらい現れていたのか、を棒グラフで示します。

Fig_power

第1主成分がもっとも強く現れ、第2、第3となるにつれ、弱くなっていきます。

第10主成分では第1主成分のおよそ4分の1くらいの強さになり、第20主成分は同じく10分の1くらいの強さで現れています。

減り方はずいぶん穏やかです。これは、かなりたくさんの主成分を考慮しないと、24時間周期の「乱れ」を正確には表現できないことを示しています。ちょっと残念な事実ですが。

   *

今回は「フーリエ変換」と「主成分分析」の2つの手法を試してみました。大地震のサンプル数が少なすぎることが難点ですが、前者のほうが少し有望でしょうか。

「地震予測」を実現するためには、微小地震活動の24時間周期の「乱れ」から、より客観的に「地震前兆」を取り出す手法を開発する必要があります。他にもいろいろ考えて試してみるつもりです。では、また。

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大地震の前には地震活動の24時間周期の位相がずれる(北アメリカ西部) -T10

明けましておめでとうございます。

今年のブログは、「大地震の震源の周辺では、地震の数年前から、微小地震発生数にみられる24時間周期が乱れる」という発見(?)の話で始めたいと思います。

昨年末の記事で、M7.5以上の大地震の震源の周辺では、地震の数年前から、どうも微小地震発生数にみられる24時間周期の振幅が大きくなるようだ、と述べました。

この年末年始に、もう少し規模の小さい地震(M7.0〜7.5)についても調べてみました。すると、24時間周期の<振幅>については変化をみにくいのですが(*1)、<位相>(=1日24時間のうちで微小地震発生数が最多になる時刻や最少となる時刻)は明瞭な変化を示すことがわかりました。

今回の記事では、この、<位相>にみられる変化、についてお話しします。

(なお、この記事での「微小地震」とはM0.0以上の地震のことです。大きな地震も含んでいますが、小さな地震のほうが数が圧倒的に多いので、発生数のほとんどをごく小さな地震が占めることになります。)

   *

次の図1は、2005年6月にサンフランシスコ北西沖の深さ16kmで発生したM7.2という、やや大きな地震の前後で、周辺(=震源を中心とする半径1200kmの円の内側)の微小地震発生数にみられた24時間周期の位相の推移を示しています。

H_6dep_idx4
図1(クリックで拡大)

よこ軸にはM7.2地震発生からの日数をとってあります。中央の赤線がM7.2地震発生日で、それより左側が地震前、右側が地震後です。グラフの左端はM7.2地震のちょうど5年前、右端は5年後にあたります。

たて軸には、微小地震が1日のうちでもっとも多く発生した時刻(最頻発生時刻)をとってあります。いずれの点もそれまでの1年間の地震データから計算しています。

ふつうは0時前後、つまり真夜中に微小地震の発生が多いのです。しかし図1からわかるように、M7.2地震の前には、その時刻が乱れています。

M7.2地震の2年半ほど前には、最頻発生時刻は真夜中の0時前後でした。それがM7.2地震の2年前から1年前にかけては-6時、つまり夕方18時ごろにずれこみました。その後、最頻発生時刻が徐々に真夜中に向かって戻っていきます。そして完全に真夜中に戻ったあたりで、M7.2地震が発生しました(*2)。

点を色分けしたのは、微小地震たちの震源の深さによる違いを見るためです。たとえば緑色の点は、上記の円内で、震源の深さが0km以上10km未満の微小地震について求めた最頻発生時刻を示し、紫色の点は、同じく、4km以上14km未満の微小地震について求めた最頻発生時刻を示します。

M7.2地震前の約2年半にわたる最頻発生時刻のシフトは、震源の浅い微小地震ほど大きいこと、また、深さによって違っていたシフト量が収束したときにM7.2地震が発生したことが読み取れます。

   *

いま見たのはM7.2というやや大きな地震のケースでした。

では、もっと大きな地震ではどうでしょうか。 それを2002年11月にアラスカ地域の深さ4kmで発生したM7.9という大地震のケースでみてみます。

H_6dep_idx2
図2(クリックで拡大)

ごらんのように、M7.9大地震の5年以上前から、震源周辺(半径1200kmの円内)での微小地震の最頻発生時刻は、大きく乱れています。

先ほどのM7.2地震の場合には、最頻発生時刻が真夜中から数時間シフトする程度でした。しかし、このM7.9大地震の場合には、シフトが12時間以上、つまり正午を越えてぐるぐる回るくらい乱れています。

浅い領域は乱れが大きすぎるので、多少はましな深い領域を少し詳しく見てみましょう。うす茶色の点(深さ10〜20km)に注目します。

この深さの最頻発生時刻は、M7.9大地震の約5年前に、真夜中0時ごろから8時(朝)にシフトしました。その後の推移を示すと

5.0年前 0時ごろ
4.8年前 8時ごろ(ジャンプ)
4.5年前 2時ごろ ↓
4.0年前 -3時ごろ ↓
3.5年前 -8時ごろ ↓
3.0年前 7時ごろ ↓ (反転)
2.5年前 9時ごろ ↑
2.0年前 10時ごろ ↑ (反転)
1.5年前 6時ごろ ↓
1.0年前 4時ごろ ↓
0.5年前 0時ごろ ↓

のようになります。最頻発生時刻は大地震3年前までどんどん早まりましたが、そこで反転して1年ほどの間ゆっくり遅くなり、3時間ほど戻しました。大地震2年前にまた反転して、その後は地震発生まで早まり続けました。そして真夜中0時に戻ったころにM7.9大地震が発生しました。

深さ別にみると、浅い領域の最頻発生時刻の変化がもっとも大きいことや、深さ別の最頻発生時刻が真夜中に収束していくタイミングで大地震が発生したことは先ほどのM7.2地震のケースと同じです。 完全に収束する少し前に大地震が発生したように見えるのは、3か月後の2003年1月に約6000km離れたメキシコでM7.6大地震が発生したことに関係があるかも知れません。

   *

上でみた2つのケース(No.4とNo.2)では、大地震前の最頻発生時刻の変化が比較的クリアに見えています。

他のケースでは、おそらく複数の地震の影響が重ね合わされているため、ここまでクリアなグラフとはなりません。次にそれらを示します。

Eq_center_line
図3(クリックで拡大)

まず、対象期間(1997年〜2012年の約16年間)に対象地域(北アメリカ西部)ではM7.0以上のやや大きな地震が9個発生しました。順にNo.0〜No.8とします。

このうちNo.2, No.3, No.7, No.8の4つの地震はM7.5以上の大地震でした。

残りの5つの地震(No.0, No.1, No.4, No.5, No.6)はM7.0以上M7.5未満のやや大きな地震です。これらについて地震発生前後の最頻発生時刻の推移を示したのが次の図4です。

H_3dep_70
図4(クリックで拡大)

さきほどとほぼ同様なグラフですが、2つほど違うところがあります。

まず、さきほどは1か月おきの値をプロットしていましたが図4では2か月おきの値をプロットしています。

また、さきほどは微小地震の深さとして6つの深さ領域を色別にプロットしましたが、図4では3つの深さ領域としています。緑色は0km〜10km、青色は5〜15km、紫色は10〜20kmです。誤差棒は±2σです。

順に見て行きます。

No.0の地震は対象期間の開始時点に近すぎるので地震前のデータがありません。
(地震後の最頻発生時刻が多いに乱れているのは、おそらく直近で6年後に発生したM7.6大地震(No.3)の前兆を捉えているのだと思います。)

No.1の地震は地震前2年弱と地震後のデータを検討可能です。
地震の2年足らず前にはすでに最頻発生時刻の乱れ(真夜中より4時間ほど遅れる)は始まっていました。
パターン通り、最頻発生時刻が0時ごろ(真夜中)に収束して地震が発生しています。
浅い領域(緑)より深い領域(紫)の乱れのほうが大きいのがやや例外的です。

No.4の地震は地震前5年間と地震後5年間の計10年間を解析できるM7.0以上で唯一の地震です。これについてはすでに上で詳しく調べました。

No.5の地震は地震前は5年間、地震後は2年半まで調べることができます。
地震の2年ほど前には、最頻発生時刻はいずれの深さでも真夜中0時付近でした。その後、深さによって最頻発生時刻がまちまちになり、2〜3時間ほどの広がりが生じました。地震発生の1年ほど前からそれらが収束傾向となり、完全に収束した頃に地震が発生しています。
地震後に再び、最頻発生時刻が大きく乱れていますが、これは2年後の2012年4月に南東に300kmほど離れた地点で発生したM7.0地震(No.6)の前兆であろうと思われます。(No.6の地震のケースははすぐ下のグラフで示されていますが、No.5のグラフを左に2年分ずらすと、No.6のグラフにほぼ重なります。深さ別の最頻発生時刻の推移には、個々の大地震によって違う顔(個性)があるようです。)

No.6の地震は地震前は5年間、地震後は半年ほど調べることができます。
地震の約2年前から乱れ始めた最頻発生時刻がほぼ収束したころに地震が発生しています。
地震後の半年間にも、最頻発生時刻が乱れていますが、これは半年後の2012年10月に北西に4000kmほど離れた地点で発生したM7.8地震(No.7)やM7.7地震(No.8)の前兆を拾っている可能性があります。

次に、M7.5以上の大地震4つについても見てみます。

H_3dep_75
図5(クリックで拡大)

No.2のM7.9大地震についてはすでに、上で詳しく調べました。

No.3のM7.6大地震はメキシコで2003年1月に発生しました。 No.2のケースと同様に、地震前の5年間以上に渡って最頻発生時刻が大きく乱れています。
たとえば深い領域(紫色)を見ますと、大地震の約5年前には最頻発生時刻は-3時(午後9時)ごろでした。それが徐々に早まって3年半前には正午ごろとなり、さらに2年前ごろには+5時(午前5時)となります。ここで反転して、最頻発生時刻は徐々に遅くなり、正午をこえて、地震発生の2か月前には-6時(午後6時)ごろに戻っています。発生直前には広がっていた他の深さの最頻発生時刻も収束傾向にあります。

No.2とNo.3のケースには、大地震前の最頻発生時刻の大きな乱れ、約2年前の反転、深さによる違いが直前に収束に向かうこと、といった共通点があります。

No.7とNo.8の2つの大地震はほぼ同じ地点で同じ日に発生した双子の大地震(M7.8とM7.7)です。そのため最頻発生時刻のグラフはほぼ同一になっています。
つい先日に発生した大地震なので、分析できるのはほぼ地震前のデータだけです。
やはり、5年以上の期間にわたる最頻発生時刻の大きな乱れ、地震の約2年前(深さによっては3年前あるいは1年前)の反転といった特徴がみられます。
しかし、深さによる違いの大地震直前の収束ははっきりとは見えません。これは、ほぼ同じ地点でわずか2か月後(2013年1月)に発生したM7.5の大地震の前兆のためかも知れません。

   *

大きな地震の前には数年間にわたって最頻発生時刻が乱れること。また、乱れの大きさや期間と、発生する地震の規模とが対応している可能性が浮かび上がってきました。

これを地震の予測(規模、場所、時期)に使うことができるでは?

というわけで、次の図6のようなグラフを作ってみました。

Line_h_3dep
図6(クリックで拡大)

これは場所別(緯度別)に最頻発生時刻の乱れ具合の推移を示したグラフです。

よこ軸には日時(年/月)をとってあります。

たて軸には緯度(北緯[度])をとってあります。この「緯度」の意味ですが、上に示した図3(北アメリカの地図)を見てください。

西海岸に沿って緑色の折れ線が描いてあります。この折れ線(「震央ライン」と呼びます)は過去の大地震の震央をつないだものです。

たとえば「北緯60度」であれば、この震央ライン上で北緯60度の点を考えます(緑の白丸)。この点を中心として地表に半径1200kmの円を考えます。ある時点までの1年間にこの円内で発生した微小地震たち(=M0.0以上)について最頻発生時刻が計算できます。図6に描いたのはその最頻発生時刻の乱れ(=真夜中からのずれ)です。

図6の折れ線グラフの色には、赤、緑、青の3種類がありますが、これは深さによる違いを色分けして示したものです。赤色は深さ0〜10km、緑色は深さ5〜15km、青色は深さ10〜20kmでそれぞれ発生した微小地震たちの最頻発生時刻の乱れを示します。

なお、図中の紫色の丸印は発生した大地震の日時と震央の場所を示します。 大きな丸印はM7.5以上の地震、やや大きな丸印はM7.0以上7.5未満の地震、小さな丸印はM6.5以上7.0未満の地震です。

では、図を左(つまり昔)のほうから見ていきます。

最初に目につくのは、1998年から2002年にかけて、北緯57度あたりから70度まで、大きな乱れが見られ、それが収まった頃(2002年11月)にM7.5以上の大地震(No.2)が発生したことです。(アラスカ)

また、下のほうでは、同じく1998年から2002年にかけて、北緯10度から23度あたりまで、大きな乱れが見られ、それが収まる少し前(2003年1月)に大地震(No.3)が発生しています。(メキシコ)

この2つのケースのような大きな乱れが再び観察されれば、M7.5クラスの地震がどの緯度帯で起きそうか、直前に予測できるかも知れません。

図の真ん中より少し上の右端を見ますと、2011年から2012年末にかけて、北緯42度から55度あたりまで、やや大きな乱れが見られたあとで、2012年10月から3連発の大地震(No.7, No.8, および2013年1月の地震)が発生しています。(カナダ西方沖)

ただし、アラスカやメキシコのケースとは異なって、このカナダ西方沖の緯度帯(北緯45度〜55度あたり)の最頻発生時刻は大地震の前に乱れるというよりむしろ、常に乱れているように見えます。なんらかの理由で遠方、他の緯度帯の地震の影響を受けやすいのでしょうか。

より小さな地震(M7.5未満)については、残念ながら「そう思って見れば地震前の乱れが感知できる」というレベルです。図6を見るだけでは、どのあたりでいつ、やや大きな地震(M7.5未満)が発生するかを予測するのは困難に思えます。

ただし、上で詳しく見たように、このクラス(M7.0〜7.5)のやや大きな地震であっても、震央を中心とする円内の微小地震たちの深さ別の最頻発生時刻が、地震の2、3年前から特徴的な推移を示すことは事実です。これを「予知」に活かさない手はないでしょう。
他の緯度帯で発生する大きな地震の前兆の影響を除去して、その地域だけの地震前兆を取り出す手法が必要です。近日中に主成分分析の手法を試してみようと思います。

最後に、図6の右下のほうを見ます。

北緯10度から25度あたりで、2005年半ばから2008年初めにかけてと、2009年半ばから2010年初めにかけて、ともにやや大きな乱れが見られます。 にも関わらず、対応する大地震がそのあとで発生していないように見えます。

この疑問は、対象地域を少し拡大して地震活動を調べたら解消しました。

Eq_cs_america
図7(クリックで拡大)

図7は、中米地域で2004年以降に発生したやや大きな地震を示します。

今回の対象地域は、図の左上の青枠で区切られた左上の領域ですが、そのすぐ外側で2009年5月(M7.3)、2010年1月(M7.0)、2012年3月(M7.4)にそれぞれ、やや大きな地震が発生しています。これらの地震の前兆が、図6の低緯度地域の乱れとして現れたものと考えます。

   *

最後に、「微小地震発生数にみられる24時間周期の振幅」についても、図6と同様な緯度別のグラフを作ってみました。図8です。

Line_amp_3dep
図8(クリックで拡大)

2012年秋のカナダ西方沖の大地震(No.7, No.8)のように、地震の1年ほど前から明瞭に「24時間周期の振幅」が増加している大地震もありますが、他の大地震については、地震前の振幅の変化がそれほどクリアには見えません。

今回は以上です。

今後の課題は、

・「24時間周期の位相」の乱れに、いくつかの大地震の前兆が重なって現れているとき、それらを互いに分離する手法を見いだす

・日本付近の地震データを同様に調べてみる

・「24時間周期の位相」に地震前兆があらわれる物理的メカニズムを推定する

などです。では。

------

*1) 本文では「24時間周期の位相」の推移を図4に示しました。この注1では、「24時間周期の振幅」について同様なグラフを示します。図9です。M7.0以上7.5未満のやや大きな地震5つのケースです。(M7.5以上の大地震については前回のブログ記事で調べました。)

Amp_3dep_70
図9(クリックで拡大)

「位相」の場合とは異なって、大きな地震の前にクリアな変化は見られません。(No.1の地震だけは明瞭に、1年半ほど前から浅い領域(緑、青)で「振幅」が増加していますが。)

「24時間周期の振幅」については、どのケースでも、深い領域ほど(つまり、緑、青、紫の順に)「振幅」が大きくなっていることがわかります。地殻内では深いところほど24時間周期が明瞭になるようです。

これは、本文で調べた「24時間周期の位相の乱れ」とは逆の結果です。「位相の乱れ」は浅いところほど大きくなっていました。

おそらく、「微小地震発生数にみられる24時間周期」をもたらしている物理現象は、地殻深く、あるいは、地球内部に関係があります。また、「24時間周期の位相の乱れ」をもたらしている現象は、ごく浅い地表付近に関係があるのでしょう。


*2) なお、図1では、M7.2地震の5年前から3年前にかけても最頻発生時刻の乱れ(地表付近では明け方方向へのシフトとシフトバック)がみられます。

これはおそらく、M7.2地震(No.4)の約2年半前に連続して発生した2つの大地震、すなわち、アラスカで発生したM7.9地震(No.2)およびメキシコで発生したM7.6地震(No.3)の前兆であると思われます。

M7.5クラスの大地震は、その発生の数年前から、約3000km離れた地域の微小地震活動の日変化の位相にも影響を及ぼしていると考えます。

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大地震の前には地震数の昼夜の違いが大きくなる(北アメリカ西部)-T9

みなさま、お久しぶりです。

大地震の前にはわずかな潮汐力でも地震の引き金に

「なゐふる」という日本地震学会の広報紙2012年10月号(pdf) p.2〜3 に、たいへん興味深い記事が載っていました。

巨大地震の前兆? 1 地球潮汐が「最後の一押し」
防災技術研究所 田中佐千子 氏

がその記事です。

ひずみが十分にたまった断層では、地球潮汐(=月や太陽の引力の場所による違い)のわずかな力が地震の引き金になる可能性が高い、とのこと。

2011年3月11日に発生した東北沖地震の前後に、周辺で発生した地震を調べたところ、1976年以降の約25年間は、地球潮汐と地震発生のタイミングに相関関係はみられなかったが、2000年ごろからこの相関関係が、東北沖地震の震源地付近で強くみられるようになり、東北沖地震の発生直前には極めて密接な関係が存在していたことが明らかになったそうです。また、東北沖地震の発生後には、相関関係は再びみられなくなったとのこと。

この記事を読んですぐにWSの頭に閃いたのは、

もしかしたら、地震発生数の日変化の振幅も、大地震の前後で変わるのではないか?

というアイデアです。


大地震の前には地震発生数の昼夜の違いが大きくなるのか?

最近の記事でお話ししておりますように、地球上のどこでも、地震は夜間に多く、昼間に少なくなっています。夜と昼の違いは数パーセントから十数パーセントで(場所や深さによります)、統計的に有意な違いです。

この日変化が生じる原因は(少なくともWSには)まだわかりません。わかりませんが、たとえば電離層に流れるSq電流が作る磁場など、日変化を示すなんらかの外部の原因があって、それが地震発生数に昼夜の違いを生んでいると思われます。

ひずみが十分にたまった地殻にとっては、わずかな潮汐力でも地震の引き金となる。それなら、地震発生数に日変化を生んでいるなんらかの外部の原因に対する反応が、ひずみのたまり具合によって違ってもよいはずです。おそらく、ひずみがたまるほど、反応が大きくなる、つまり、地震数の昼夜の違いが大きくなるのではないでしょうか。

そこで次の仮説を実際の地震データで確かめてみることにしました。

<仮説:大地震の直前には、震源の周辺で地震発生数の日変化の振幅(昼夜の違い)が大きくなる>

今回の記事では北アメリカ西部の地震について調べます。日本周辺についても後日調べてみる予定です。


対象地域と期間

対象とする地域(北アメリカ西部)は、図1の青枠の長方形で囲われた領域(西経160度から100度、北緯10度から70度)です。

Coast_and_eqs
図1

対象とする期間は、1997年1月1日から2012年12月3日までの約16年間です。

ANSSのデータベースに載っている、上記の地域で期間内に発生した、震源の深さ500km未満、マグニチュード0.0以上の地震を対象とします。


期間内にM7.5以上の地震は4つ発生

次の図2は、対象地域で期間内に発生した地震の数を、地震の規模別に示したものです。 地震数の対数と地震規模が直線的関係にあることが見てとれます(グーテンベルク・リヒターの関係)。

Eq_stat
図2

M7.5以上の地震は4つ発生したことがわかります。

アラスカ地域で1つ、BC(ブリティッシュ・コロンビア)地域で2つ、メキシコ地域で1つです。 それぞれのマグニチュード、発生地点、深さ、発生日をさきほどの図1に記入してあります。 これらを「大地震」と呼びます。

各々の大地震の震央を中心として「長方形」を描いてあります。これらの長方形の内部を、それぞれアラスカ地域、BC地域、メキシコ地域と呼ぶことにします。

この長方形は、たとえば、アラスカ地域の場合には、大地震の震央を中心として緯度幅が10度で、経度幅が緯度幅とほぼ同じ距離(10/cos(64度)度)となるように選んであります。

BC地域の場合には、発生した地震数が少ないので精度を確保するために、緯度幅は2倍の20度とし、経度幅は同様に決めました。

メキシコ地域の場合も同様の理由で緯度幅を20度としています。 ただしメキシコ地域の右端と下端は、西経100度と北緯10度のラインで切り取られています。

では、それぞれの地域で、大地震の前後に、地震発生数の日変化の振幅がどのように推移したのかを調べてみます。


アラスカ地域の日変化の振幅の推移

まずアラスカ地域から見てみます。

この地域では2002年11月3日にM7.9の地震が発生しました。この大地震までの4年間について、1年ごとに4つの期間に分けて、地方時でみた時間帯別の地震発生数の推移を示したのが次の図3aです。

Alaska_distri
図3a

赤色の棒グラフは地震の4年前から3年前までの1年間のM0.0以上の地震数を示しますが、このころは地震も少なく、地震発生数の日変化もはっきりしません。

しかし、大地震が近づくにつれて地震数が増えると同時に、日変化が大きくなる、すなわち、地震が昼に少なく夜間に多いという傾向がはっきりとみられます。
(紫色の棒は大地震直前の1年間の地震数を示しています。地震数が多いので、実際の地震数から200を引いて図示しました。)

上の棒グラフを、平均の地震数を100にスケールし直して表示したのが次の図3bです。 誤差棒は±2σの範囲を示します。(ポアソン分布を仮定し、各時間帯の地震数nに対してσ=√nとおきました。)

Alaska_distri2
図3b

タテに4つのグラフが並んでいますが、下へいくほど大地震に近い時期になります。

各グラフに記入した太い曲線は、24時間周期の三角関数で、地方時でみた地震発生時刻の確率分布をフィットしたものです(*1)。 Aの値はその振幅です。

また、各グラフの細い曲線は、24時間周期といくつかの高調成分(12時間周期、8時間周期、6時間周期)の和で、同様にフィットしたものです。

振幅Aの値は、大地震までの4年間に、4.0 → 3.0 → 7.4 → 11.1 と推移しています。 大地震前の3年間は、大地震が近づくほど、地震発生数の日変化の振幅が大きくなっていることがわかります。

次の図3cは、より長い期間(1997年〜2012年)について、上の図3bで見た地震発生数の日変化の振幅Aの推移を示したものです。

Alaska_amp_mix
図3c

タテに3つの図が並んでいますが、いずれも横軸は時間(年/月)です。

いちばん上の図はアラスカ地域の地震について計算した振幅Aの推移です。

中央の図はアラスカ地域以外の地震について計算した振幅Aの推移です。

いちばん下の図は、アラスカ地域およびアラスカ地域以外で発生した地震と規模を棒で示したもので、前者は青色、後者は赤色の棒で示しました。

大地震までの数年間、アラスカ地域では振幅Aが増加傾向にあったことが読み取れます。しかし、アラスカ地域以外ではそのような傾向は読み取れません。

これらの結果は、「M7.5〜8クラスの大地震の直前の数年間には、震源の周辺で、地震発生数の日変化の振幅が増加する」ことを強く示唆しています。

また、大地震の後では、大きくなった振幅Aが変動を繰り返しながら数年〜10年の時間をかけて、ゆっくりと減少していくように見えます。

アラスカ地域の考察の最後に、最頻発生時刻の長期推移も見ておきます。

最頻発生時刻とは、地震がもっとも発生しやすい時間帯のことです。 今回の記事では、上の図3bの各グラフの太い曲線(24時間周期の三角関数)が最大値をとる時刻と定義しています。 最頻発生時刻はたいていの地域で真夜中(0時とか1.3時とか-1時(=23時))になります。

Alaska_h_mix
図3d

アラスカ地域の最頻発生時刻は、大地震までの数年間に真夜中に収束していく傾向が見られます。 アラスカ地域以外の最頻発生時刻にはそのような傾向は見られません。


ブリティッシュ・コロンビア(BC)地域の日変化の振幅の推移

次にブリティッシュ・コロンビア(BC)地域についても同様に4つのグラフで見てみます。 いずれも見方はアラスカ地域と同じです。

Bc_distri
図4a

BC地域では2012年10月28日にM7.8とM7.7の2つの大地震が連続して発生しました。 大地震直前の3年間、この地域の地震数は徐々に増加し、日変化の振幅も徐々に大きくなっています。

Bc_distri2
図4b

地震発生数に見られる24時間周期の振幅Aの値は、大地震までの4年間に、7.5 → 4.0 → 11.4 → 13.9 と推移しています。 大地震前の3年間は、大地震が近づくほど、地震発生数の日変化の振幅が大きくなっていることがわかります。

Bc_amp_mix
図4c

より長い期間の推移をみると、大地震までの数年間、BC地域では振幅Aが増加傾向にあったことが読み取れます。しかし、BC地域以外ではそのような傾向は読み取れません。

この結果も、「M7.5〜8クラスの大地震の直前の数年間には、震源の周辺で、地震発生数の日変化の振幅が増加する」ことを強く示唆しています。

Bc_h_mix
図4d

BC地域の最頻発生時刻は、大地震までの数年間に大きくシフトして正午ごろに収束していく傾向が見られます。 BC地域以外の最頻発生時刻にはそのような傾向は見られません。


メキシコ地域の日変化の振幅の推移

最後にメキシコ地域についても同様に4つのグラフで見てみます。

Mexico_distri
図5a

メキシコ地域では2003年1月22日にM7.6の大地震が発生しました。 大地震直前の4年間、この地域の地震数は徐々に増加しています。

Mexico_distri2
図5b

地震発生数に見られる24時間周期の振幅Aの値は、大地震までの4年間に、5.2 → 32.3 → 6.6 → 12.3 と推移しています。

地震数が少なく振幅Aの推定誤差が大きいために、大地震が近づくほど、地震発生数の日変化の振幅が大きくなっているかどうかはわかりません。

Mexico_amp_mix
図5c

より長い期間の推移についても、推定誤差が大きいために、大地震までの数年間、メキシコ地域では振幅Aが増加傾向にあったかどうかはわかりません。しかし、期間内のほとんどの時期において、大地震が発生したメキシコ地域が、メキシコ地域以外に比べて、振幅Aの値がより大きかったとは言えます。

Mexico_h_mix
図5d

メキシコ地域の最頻発生時刻は、大地震までの数年間に大きくシフトして夕方3〜6時ごろに収束していく傾向が見られます。(もしかして大地震発生時刻へ収束していくのだろうか?) メキシコ地域以外の最頻発生時刻にはそのような傾向は見られません。

   *

今回は以上です。

今後は、より小規模な大地震(M7.0〜7.5)についても、地震直前に周辺地域で、地震発生数の日変化の振幅が大きくなるのかどうか。もしそうならば、日変化の振幅に影響の出る地域の広さや期間は、大地震の規模とどのような関係があるのか、といったことを調べてみる予定です。

また、日本周辺の地震についても調べてみたいと思っています。

では。

------
注)
*1) より正確には、24時間周期といくつかの高調成分(12時間周期、8時間周期、6時間周期)の和で、地方時でみた地震発生時刻の確率分布をフィットしたものから、24時間周期の成分のみを取り出して描いたものです。 Aの値はその24時間周期の成分の振幅です。

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海陸分布と地震発生時刻に関係あり---太平洋は巨大なシールド -T8

<今回の内容>
・大陸の東岸では真夜中すぎに、西岸では真夜中前に地震が発生しやすい
・地球のどこでも、太平洋が昼間のときに地震が発生しやすい
・グローバルな地表電流は地震発生を抑制するのではないか?
-----

前回の記事からずいぶんと時間が経ってしまいました。1日のうちで地震の起こりやすい時間帯について新たな事実に気づいたので報告します。

いきなり結論から述べますが、新たな事実というものを図にしますと次のようになります。根拠となったデータについてはあとで詳しく説明します。

Fig1_2
図1 (クリックで拡大)

まず、地球のどこでも昼間より夜間の方が2割ほど地震発生数が多いわけですが、これについてはすでに以前の記事でも指摘していました。

今回新たに気づいた事実は2つあります。

1つは、大きな大陸の東岸と西岸で地震の発生しやすい時刻が違うということです。東岸では真夜中より後に地震発生数のピークがきますが、西岸では真夜中より前にピークがくるのです。

もう1つは、最大の海洋である太平洋が昼間になっている時間帯には、地球のどこでも地震が発生しやすいということです。

   *

地震発生数がこのような日変化を示すのはなぜなのか。

いろいろ考えてWSがたどりついた(作業)仮説はこうです : <グローバルな地表電流は地震発生を抑制する>。

詳しくはあとで述べますが、ここではざっと全体のストーリーをまずお話しします。

地球表面には、大規模なうず電流(「グローバルな地表電流」と呼びます)が流れています。これは、太陽光が原因で上空110km付近の電離層に流れる大規模なうず電流に対応する形で、地表面に流れる電流です。

(昼間の電離層に流れるうず電流についてはこちらのNASAのページでアニメーションをみることができます。ぜひご覧になってイメージをつかんでください。)

このうず電流の位置は太陽に対して固定されているので、日変化を示します。地表電流は、昼間の地域で強く、夜間の地域で弱くなります。

さて <作業仮説:グローバルな地表電流は地震発生を抑制する> を仮定してみます。

するとまず、電流が強い昼間の地域で地震発生が少なく、逆に、電流の弱い夜間の地域で地震発生が多くなるとして、昼夜で地震発生数が異なることが説明できます。

次に、「太平洋が昼間になっている時間帯には、地球のどこでも地震が発生しやすい」のはどうしてでしょうか。実はこれも上の作業仮説で説明がつきます。

海水は、塩分を含むので非常に良い伝導体です。一般に陸地の岩石にくらべて1000倍ほどの電気伝導度を示します。太平洋は非常に大きな海洋なので、太平洋が昼間の時間帯には、太陽光を受けた電離層起源の変動磁場の影響から、地球全体をシールドすることになります。太平洋の海水という良導体の大きなシールドの裏側に、地球全体がすっぽりと入ってしまうわけです。

Fig2_2
図2 (クリックで拡大)

そのため、太平洋が昼間となる時間帯には、この変動磁場が地表面に誘導する電流である「グローバルな地表電流」も弱くなり、地震発生の抑制効果が弱まる(∵上記の作業仮説)ので、地球全体で地震発生が多くなるというわけです。

最後に、「大きな大陸の東岸では地震発生が真夜中より後で多くなり、西岸では真夜中より前に多くなる」のはどうしてでしょうか。これも上の仮説で説明がつきます。太平洋のモデルを少し小さくして局所的に適用すればよいのです。

大きな大陸の東岸ということは、その東側には海洋が広がっています。たとえば、大陸の東岸が真夜中過ぎから明け方を迎える時刻には、東側の海洋(とその上空の電離層)はお昼を迎えています。このとき、東側の海洋は、大陸東岸の岩石にとって、昼間領域にある電離層からの変動磁場の影響を遮断するシールドになっています。地表電流はそのぶん弱くなり、地震発生は増えることでしょう。

同様にして、大きな大陸の西岸では夕方から真夜中にかけての時間帯に、西側に広がる海洋がシールドの役目をし、地震発生が増えることでしょう。

このように、新たに気づいた2つの観測事実も、夜間に地震発生が多いという従来からの観測事実も、いずれも <作業仮説:グローバルな地表電流は地震発生を抑制する> によって説明できます。

では、この<作業仮説>が成り立つ(ように見える)のはどうしてでしょうか。これについてもWSにアイデアがありますが、ちょっと筆が先走りしすぎてしまったようです。まず上で述べた事実をデータでちゃんと裏付けてから、記事をあらためてお話することにします。

(ちょっとだけ書きますと、岩石は地下深くでP型半導体として振る舞っており、アクセプター準位に励起した局在電子と、かなり自由に動いているホールとの再結合の際に放出されるエネルギーが地震発生過程に関係している。ホールはふだん、アクセプター準位に励起した電子の近く(10原子以内)にいるが、グローバルな地表電流が流れるような電場がかかった状況では遠くまで離れてしまい、再結合しにくくなる、というアイデアです。ただし、電流がつねに再結合を抑制するわけではなく、周囲に電子の供給源が接してるばあいには逆に促進することもありえると思います。)

   *

以上が、今回あらたに気づいた事実と、それに対する説明の概略です。これからデータをみながら詳しく説明します。

まず、「地球のどこでも、太平洋が昼間のときに地震が発生しやすい」からです。次の図を見てください。

Freq_local_utc
図3 (クリックで拡大)

これは過去11年間に世界で発生したM2.0以上の地震(約25万個)の発生時刻の統計です。

以前の記事ですでに一度みたものですが、そのときには地方時(Local Time)での発生時刻にすっかり気をとられておりました。 世界時(UTC)(=東経0度の場所の地方時=日本標準時マイナス9時間)での発生時刻にも明瞭な規則性がみられることを見落としていたのです。

図3から明らかなように、世界時(UTC)で22時〜1時ごろに地球全体で地震発生が多く、12時ごろに少ないことがわかります。地震発生が多いのはちょうど太平洋が昼間の時刻です。

太平洋が昼間の時刻には、太平洋の広大な海水が、昼間の電離層起源の電磁場から地球全体を保護するシールドの役目をするので、グローバルな地表電流が減り、地震発生が少なくなる、というのがWSの仮説です。

   *

次に、「大陸の東岸では真夜中すぎに、西岸では真夜中前に地震が発生しやすい」という事実をデータで確認します。

以前にお示しした最頻発生時刻の分布図でイメージをつかんだあとで、統計数字でも確かめてみます。

次の図4も、以前の記事ですでに一度みたものですが、過去11年間に深さ30km〜40kmで発生した地震について地域別の地震最頻発生時刻を色分けして示したものです。データのソースは図3と同じです。

Lon_lat_maxhour30_40
図4 (クリックで拡大)

図のたて軸は緯度、よこ軸は経度です(目盛の単位が間違っていました。正しくは[degree]です)。欧州・アフリカあたりを図の中央とする世界地図になっています。

ユーラシア大陸や中南米大陸の、東岸は赤色に、西岸は緑から青色に着色されています。つまり、大陸の東岸では真夜中より後に、西岸では真夜中より前に地震が発生しやすいことが読みとれます。 こうした事実は <作業仮説> で説明がつきます。

では、震源の深さが30km未満の地震についてはどうでしょうか。

Lon_lat_maxhour30
図5 (クリックで拡大)

図5がそれです。

浅いところでは地質構造、したがって電気伝導度の構造が複雑なためでしょうか。いろんな色が入り組んでいます。が、全体としてみれば、大陸の東岸は赤色が多く、西岸は緑〜青色が多いように見えます。(このあと、ちゃんと数字で裏付けます)。

いま仮に、<作業仮説:グローバルな地表電流は地震発生を抑制する> が正しいとしてみましょう。 地殻の電気伝導度の分布と昼間の電離層の電流分布を与えれば、グローバルな地殻電流(や海面電流)の強さを各時刻、各地域で(原理的には)計算できます。したがって、図4や図5の、地震最頻発生時刻の分布図を再現できるはずです。いずれできたらいいなあ、と思っています。

  *

次に、いま図でみたことを数字で確かめてみます。

図6は過去11年間に世界で発生したM2.0以上の地震について、経度幅10度の経度帯別に地震最頻発生時刻(地方時)を求めたものです。

Maxhour1
図6 (クリックで拡大)

基本的には夜間に地震が発生しやすいこと。ただし、真夜中より前に最頻発生時刻がくる経度帯もあれば、後に最頻発生時刻がくる経度帯もあることがわかります。

これを地表の海陸分布と比較してみましょう。

図7は、地球表面を経度幅10度の経度帯にわけ、各帯ごとの陸地面積の割合を示したものです。たとえば陸が3、海が7の割合ならば陸地面積の割合は30%です。

Ratio1
図7 地球表面の経度帯別の海陸比率(クリックで拡大)

図7と図6を比べてみてください。大陸の西岸(図7で青色の棒が東へいくほど長くなる場所)では最頻発生時刻が真夜中前になり、大陸の東岸(青色の棒が東へいくほど短くなる場所)では真夜中後になることが読みとれます。

これをはっきりとみるため、図7で青色の棒の長さの差分(赤色の棒)をとってみましょう。

差分(赤色の棒)は、隣り合う陸地面積比率の差を表し、東へ行くほど陸地面積比率が増える場合にはプラス、減る場合にはマイナスになります。つまり、差分がプラスの領域は大陸の西岸、マイナスの領域は東岸に対応しています。

図8は、上記の差分をよこ軸に、地震最頻発生時刻をたて軸にとって、経度帯ごとに両者の対応関係を示したものです。

Raito_diff_maxhour1
図8 (クリックで拡大)

差分がプラス(西岸)だと最頻発生時刻が真夜中前になり、差分がマイナス(東岸)だと真夜中後になることがはっきりと読みとれます。

   *

今回は以上です。ではまた。


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地殻とマントルで地震の発生しやすい時間帯が異なる---北アメリカ西部の場合 -T7

ここしばらくWSの関心は「地球上のどこでも小さな地震は夜中に発生しやすく、昼間に発生しにくい。 地震発生数は夜間には日平均の約15%増となり、昼間には約15%減となる」という興味深い事実に向いています(*0)。

どうして地震発生数に時刻による違いが生じるのか。 この疑問の答えを探るために、基礎的なデータをいろいろ眺めて考えています。

日本周辺にくらべて地下の構造が単純な北アメリカ大陸西部のデータ(ANSSの地震カタログ)を用いて、地震の発生しやすい時間帯(最頻発生時刻)が震源の深さによってどう異なるか、を調べてみました。 すると、モホ面(=地殻とマントルの境界面)を境に、最頻発生時刻が大きく異なることがわかりました。

モホ面の少し上(=下部地殻)では夕刻に、モホ面の少し下(=上部マントル)では明け方に地震発生が多くなります。

日本周辺の地震でも同様な特徴が見られるのですが、最頻発生時刻の真夜中からのずれは1時間以内で、北アメリカ大陸西部でみられるほど大きくありません。 今回の記事ではこうした分析結果を報告します。

   *

まず、分析の対象とした震源データについて記します。 ANSSの震源リストに載っている、2006年1月から2010年12月の期間に、図1の赤い長方形領域内(西経140度〜100度、北緯10度〜50度)で発生した、マグニチュード0.0以上の地震で、震源の深さが500kmより浅いもの計262,522個を用いました。

North_west_america
図1 対象地域 (PNSNのHPにある最近の震央分布図に重ねて記入しました。)

次の図は対象期間(5年間)に発生した地震の震央分布を示します。

Eq_distri
図2-1

図の左上がシアトル周辺、中央少し上がサンフランシスコやロサンゼルス、右下がメキシコです。 ほぼ海岸線に平行に地震の多い地域が並んでいます。 内陸部のユタ州からアイダホ州のあたりでも地震が多くなっています。

なお、この地域のプレート構造は次のようになっています。

Bcplates
図2-2 (カナダ水産海洋省のHPより引用)

西海岸西方沖にある海嶺で生まれた海洋プレート(ファンデフカプレートあるいはココスプレート)が東進して、大陸プレート(北アメリカプレート)の下に沈み込んでいます。

   *

次の図3は対象地域における、震源の深さと最頻発生時刻(=1日のうちで地震の発生しやすい時刻。詳しい定義は先日の記事を参照)の関係を示したものです(*1)。

Dep_maxhour
図3

横軸には震源の地表からの深さをとっています。

地震は夜間に発生しやすいのですが、発生がピークを迎える時刻は深さによって大きな違いがみられ、とくにモホ面(地殻とマントルの境界面)付近を境に最頻発生時刻が急激に変わっています。

まず、図の左の方(地表近くの浅いところ、深さ0km〜10km)をみますと、0時〜-1時(=23時)ごろに地震が発生しやすいことがわかります。ほぼ真夜中が最頻発生時刻です。

もう少し深くなって深さ30kmあたりでは、-4時(=20時)ごろに地震が発生しやすくなっています。夕刻です。

さらに深くなると、深さ35kmあたりで地震の発生しやすい時刻が大きく変化します。おそらくこのあたりにモホ面があります(*2)。 非常に興味深いことです。

深さ40〜50kmでは5時〜6時ごろが最頻発生時刻になります。明け方です。

さらに深いところ、深さ60kmあたりでは最頻発生時刻が再び早まって、-4時(=20時)ごろになっています。夕刻です。(このあたりは地震数が少ないために誤差が大きいので信頼性に若干疑問が残るのですが、モホ面からさらに20kmほど深いところで最頻発生時刻が再び早まるという傾向は、日本周辺の地震データでも確認できます。 以下を参照)

次にこうした特徴を、深さ別に切り出した地震データの発生時刻分布で確認してみます。

   *

図4は対象とする地震のうち、深さ5kmから15kmで発生した地震についてその発生時刻の分布を示したものです。

Eq_hour_5_15
図4

ほぼ真夜中(23時頃)に地震発生数がピークとなっています。

図5は深さ25kmから35kmで発生した地震についてその発生時刻の分布を示したものです。

Eq_hour_25_35
図5

夕刻(19時ごろ)に地震発生数がピークとなっています。

図6は深さ38kmから50kmで発生した地震についてその発生時刻の分布を示したものです。

Eq_hour_38_50
図6

朝方(8時ごろ)に地震発生数がピークとなっています。

次の図7はこれら3つの、深さ別の地震発生時刻の分布を、重ねて描いて比較したものです。誤差棒は省略しました。

Eq_hour_all
図7

地震発生数がピークを迎える時刻は、順に真夜中、夕刻、朝方となっており、深さによって異なることがはっきりと読みとれます。

ひとつ面白い特徴はいずれの深さにおいても、地震発生数が少なくて谷となる時刻あたりに、小さなピーク(極大)が見られることです。

たとえば、緑色のグラフ(深さ38km〜50kmのケース)を見ますと、夕刻に地震発生数は谷となりますが、単純な谷ではなくて、中央に小さな突起をもった2重の谷になっています(15時と20時に極小があり、それらに挟まれた17時に極大がある)。

地震発生時刻分布の極小が2重の谷の形状をもつ、というこうした特徴は、日本周辺やアルプスの地震データにも共通してみられる普遍的なものです。

図7を見ると、2重の谷に挟まれた小さな極大の大きさは、震源の深さが深いほど明瞭で大きくなっています。 これはおそらく、地震発生数に24時間周期の変動が見られる原因を解明する上で、重要な情報の1つだと思います。

   *

日本周辺についても見てみます。

図8は、気象庁一元化震源データをもとに、日本周辺で過去6年間に発生したM0.0以上の地震の最頻発生時刻が震源の深さによってどう変わるかを示したものです。

Jp_dep_maxhour
図8

地表付近の浅いところでは午前0時30分ごろに地震が多いのですが、深くなるにつれて最頻発生時刻が遅くなり、深さ20km〜30kmあたりでは午前1時10分ごろとなっています。

モホ面の付近で最頻発生時刻が変わるのは北アメリカ西部の地震と同じ特徴です。 ただ、北アメリカでは最頻発生時刻に、モホ面の上下で数時間の差があったのに、日本周辺では1時間以内の変化にとどまっています。

こうした違いは、日本周辺の地下の構造が北アメリカに比べて複雑で、モホ面の深さが場所によって大きく異なるためであるかも知れない、とWSは考えました。

そこで、地表面からの震源の深さではなくて、モホ面から計った震源の深さを横軸にとって、グラフを描いてみたのが次の図9です(*3)。

Jp_dep_maxhour_moho
図9

残念ながら、図8と同様に、モホ面付近での最頻発生時刻の変化は1時間以内にとどまっています。

しかしながら、図9からは新たに興味深い特徴も見つかります。 モホ面の下25kmのあたりに、最頻発生時刻が1時間ほど早まる領域があるのです。 これは北アメリカのデータにも見られる特徴です(図3参照)。 この特徴にはなんらかの普遍性があるかも知れません。 もっとも北アメリカの場合には1時間ではなくて数時間早まるのですが。

   *

今回は以上です。

どうして最頻発生時刻が深さとともにこのような変化を見せるのか。 いまのところWSには全くの謎です。 これからもデータを集めながら考察を続けていこうと思っています。 では。

------

*0) 今回の記事で述べたように北アメリカ大陸西部では、地表近くの浅いところでは最頻発生時刻は真夜中、下部地殻では夕刻、上部マントルでは明け方です。 しかし、地震発生は地表近くの浅い領域に集中しているので、深さを区別しないで最頻発生時刻を求めると真夜中となります。 深部の地震データは数が少なく、あまり寄与しないからです。


*1) 誤差の求め方

図3では、最頻発生時刻が深さによってどう変わるかを求めました。 図には±2σの誤差範囲が描いてあります。 この誤差をどうやって求めたかを簡単に記しておきます。

たとえば、深さ20kmでの最頻発生時刻を求める場合、ある深さ範囲(たとえば17.5km〜22.5km)で期間内に発生した地震をすべてピックアップします。

仮に1万個の地震がピックアップされたとすると、1万個の発生時刻(Local Time)のデータ(標本)が得られます。 この標本から、先日の記事の定義にしたがって、「最頻発生時刻」が計算できます。

しかし、この「標本から求めた最頻発生時刻」は、深さ20kmでの「真の最頻発生時刻」と同じとは限りません。

この事情は、標本数が非常に少ない場合を考えれば明らかです。 たとえば、極端なケースとして標本数が1(=1つの地震だけが発生)の場合を考えてみます。 この場合、「標本から求めた最頻発生時刻」は、その地震の発生時刻そのもので、たいてい「真の最頻発生時刻」とは大きく異なっているでしょう。

標本数が増えるにつれて、誤差、つまり「標本から求めた最頻発生時刻」と「真の最頻発生時刻」とのずれ、は減少します。

誤差は標本数が増えるとどのように変わるのか。

それを調べるため、次の図10のように、地震発生時刻の真の分布がコサインカーブになるモデルを考えます。 このモデルでは、真夜中0時に地震が発生しやすく、正午12時に発生しにくくなっています。 地震発生数の日平均値からのずれは順に+15%、-15%です。

Localtime_distri_model
図10

図10の確率分布に従うように、地震発生時刻を何個かランダムに生成し(標本)、それらの時刻から「標本の最頻発生時刻」を計算します。

これを何度も繰り返して、「標本の最頻発生時刻」の分布を調べたのが次の図11です。

Mh_distri_model
図11

標本数mが500個と少ない場合には「標本の最頻発生時刻」の分布は広がりますが(緑色の棒グラフ)、標本数mが5000個と多い場合には「標本の最頻発生時刻」の分布は真夜中を中心に狭く鋭いピークを持ちます(青色の棒グラフ)。

この分布の広がりの大きさ(標準偏差σ)と標本数の関係を見たのが次の図12です。

Log_fit_sigma
図12

標本数が増えると、シグマはおよそ標本数の平方根に反比例して減少することが読みとれます。

今回の記事で取り上げた図では、図12にオレンジ色で示した回帰式を用いて、標本数から最頻発生時刻の誤差を計算しています。 誤差はシグマの2倍としています。


*2) 北アメリカ大陸西部のモホ面の深さについては USGSの以下のHPのFigure 2が参考になります。
http://earthquake.usgs.gov/research/structure/crust/nam.php

場所によって違いがありますが、震源が集中している地域のモホ面の深さはおよそ30〜40kmであると考えられます。


*3) 日本周辺のモホ面の深さの計算には、D. ZhaoさんがWeb上で公開しておられるプログラムを使用させていただきました。

論文 Zhao, D., A. Hasegawa, H. Kanamori (1994) Deep structure of Japan subduction zone as derived from local, regional and teleseismic events. J. Geophys. Res. 99, 22313-22329.

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地震波速度と最頻発生時刻の分布(2)震源の深さ別 -T6

前回の記事では、地震波速度の遅い領域と速い領域の境界部分で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる、という関係があることを、4つの地域の鉛直断面図を見ることで確認しました。

今回の記事では同じ事実を、震源の深さ別に日本周辺の平面図で確認します。

やはり、「やわらかい」領域と「かたい」領域の境界付近で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる傾向が見られます。

解析の期間(2006年12月〜2011年1月)は前回までの一連の記事と同じです。

地震データは気象庁一元化震源、地震波速度のデータは防災科研(2011)による日本列島下の3次元地震波速度構造モデル(海域拡大版)を利用させていただきました。


では、震源の深さ別に地震波速度と最頻発生時刻(Local Time)との関係を見ていきます。

震源の深さとしては次の5つの区間を順に調べます。
・深さ0〜10km(上部地殻←ここでの名称はだいたいのイメージであって厳密なものではありません。以下も同様)
・深さ10〜25km(下部地殻)
・深さ25〜50km(地殻とマントルの境界付近)
・深さ50〜100km(上部マントル、リソスフェア)
・深さ100〜200km(上部マントル、アセノスフェア)

まずは深さ0〜10km(上部地殻)から。

 

深さ0〜10kmにおける地震波速度と最頻発生時刻

この深さ領域(上部地殻)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図1のようになっています。

図1には4つのグラフが描かれていますが、右上の図が最頻発生時刻の分布です。 他の3つの図は、それぞれP波速度、S波速度、速度比(S/P)の、深さによって決まる平均的な値からの偏差(ずれ)を示しています。 後者の単位はパーミル(‰)です(*1)。

All_dep0
図1

右上の図で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる地域(青色や赤色)は、P波速度の低下率(左上の図)がプラスの地域とマイナスの地域の境界部に位置していることが読み取れます。

なお、この深さ領域(上部地殻)では、日本列島の陸地部でS波の速度が小さいようです。 おそらく堆積物等の間隙に地下水などが分布してS波の伝搬を妨げているためだと思われます。 P波速度は、西日本の花崗岩地帯や東北地方太平洋沿岸(沈み込むプレート部)で速くなっています。

次の図2は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。 経度、緯度ともに1度おきの格子点上の値をプロットしています。

Cor_plot_0
図2

図2にはグラフが3つありますが、いずれのグラフもたて軸は最頻発生時刻です。 横軸は、それぞれP波速度、S波速度、速度比(S/P)の偏差(ずれ)を示しています。

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもに(P波やS波の)地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。 地震波速度が(平均より)速い地域や遅い地域では、最頻発生時刻はほぼ真夜中近くの数時間に限られることが読み取れます。

このことから、「やわらかい」領域や「かたい」領域の内部では最頻発生時刻はほぼ真夜中であるが、2つの領域の境界付近ではしばしば真夜中から大きくずれる、という特徴が読み取れます。

次に深さ10〜25km(下部地殻)を見ます。

 

深さ10〜25kmにおける地震波速度と最頻発生時刻

この深さ領域(下部地殻)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図3のようになっています。

All_dep1
図3

この深さでは、日本列島の陸地部でS波の速度が大きくなっています。 (先ほどみた上部地殻ではS波速度が遅くなっていました。)

東北日本の東岸や日本海沿岸に最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる地域があります。 そうした地域はやはり、P波速度(やS波速度)が大きい領域と小さい領域の境界付近に位置しています。

次の図4は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。 

Cor_plot_1
図4

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。 地震波速度が(平均より)速い地域や遅い地域では、最頻発生時刻はほぼ真夜中近くの数時間に限られます。

次に深さ25〜50km(地殻とマントルの境界付近)を見ます。

 

深さ25〜50kmにおける地震波速度と最頻発生時刻

この深さ領域(地殻とマントルの境界付近)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図5のようになっています。

All_dep2
図5

この深さでは、東北日本から西南日本の太平洋沿岸に沿って帯状に地震波速度の大きい領域(青色)が分布し、そのすぐ北側に地震波速度の小さい領域が帯状に分布しています。 前者は沈み込んでいく太平洋プレートやフィリピン海プレート(「かたい」領域)で、後者はプレートからしみ出して上昇する流体を含むもの(「やわらかい」領域)を表していると思われます。

両者の境界付近に、最頻発生時刻が真夜中より遅い領域(赤色)が分布しています。

最頻発生時刻が真夜中より早い領域(青色)は、おもに両者の境界付近にありますが、「かたい」領域の内部にも分布しています。

次の図6は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。 

Cor_plot_2
図6

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。 地震波速度が(平均より)遅い地域では、最頻発生時刻はほぼ真夜中近くの数時間に限られます。

次に深さ50〜100km(上部マントル、リソスフェア)を見ます。

 

深さ50〜100kmにおける地震波速度と最頻発生時刻

この深さ領域(上部マントル、リソスフェア)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図7のようになっています。

All_dep3
図7

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる領域(赤色や青色)はおもに、S波速度が大きい領域と小さい領域の境界付近に分布しています。

次の図8は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。 

Cor_plot_3
図8

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。

この深さの著しい特徴として、S波(あるいはP波)の地震波速度が(平均より)速い地域(=「かたい」地域)では、最頻発生時刻は真夜中より後であり、真夜中より前になることはほとんどない、と言えます。

最後に深さ100〜200km(上部マントル、アセノスフェア)を見ます。

 

深さ100〜200kmにおける地震波速度と最頻発生時刻

この深さ領域(上部マントル、アセノスフェア)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図9のようになっています。

All_dep4
図9

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる領域(赤色や青色)はおもに、S波速度が大きい領域と小さい領域の境界付近に分布しています。

次の図10は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。 

Cor_plot_4
図10

最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。

   *

このように、「かたい」領域と「やわらかい」領域の境界付近で最頻発生時刻がしばしば真夜中から大きくずれる傾向があること。また、「かたい」領域や「やわらかい」領域のそれぞれの内部では、最頻発生時刻が真夜中近くの数時間内に限られること、がわかりました。

今回は以上です。 次回は最頻発生時刻の時系列と大きな地震の発生との関係を調べてみる予定です。 最頻発生時刻の変化が地震の短期予知に有益な情報をもたらしてくれればよいのですが。 では。

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*1) 実際には、非線形な関数 f(x) = 10*atan(x/10) を使って変換することにより、±15‰を越える値も区間 [-15.7, +15.7]内に収まるようにして表示しています。

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地震波速度と最頻発生時刻の分布 (1)4つの地域別 -T5

小さな地震は真夜中に発生しやすいのですが、地域や深さによっては最頻発生時刻が真夜中の少し前であったり後であったりする。 真夜中より後になる領域は、どうも震源域の直下にあるようだ、ということを前回の記事で報告しました。

一方、従来より、震源域直下の地殻あるいは上部マントルには、地震波の速度が遅くなる領域(流体を含む?)がしばしば存在することが知られています。

そこで、最頻発生時刻の分布と、地震波速度の分布を直接くらべてみるのは興味深いことです。 今回と次回の記事でその比較を行います。

結論から述べますと、両者にはやはり関係があるようです。

ただし、当初考えていた、地震波速度の遅い領域で最頻発生時刻が真夜中より後になる、というような単純な関係ではありません。 むしろ、地震波速度の遅い領域と速い領域の境界部分で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる、という関係があることがわかりました。

 

解析の対象地域と期間

今回の記事で解析する地域4つ(北海道、東北、九州、小笠原諸島)と期間(2006年12月〜2011年1月)は前回の記事と同じです。

地震データは気象庁一元化震源、地震波速度のデータは防災科研(2011)による日本列島下の3次元地震波速度構造モデル(海域拡大版)を利用させていただきました。

対象地域を記した地図を再掲します。

Hinet_mod
図1

では、地域別に地震波速度と最頻発生時刻(Local Time)との関係を見ていきます。

まずは北海道地域から。

 

北海道地域の地震波速度と最頻発生時刻

北海道地域の地震波速度分布(南南東-北北西方向の鉛直断面への射影)は図2のようになっています。

Ho_vel
図2

これを、前回の記事で求めた最頻発生時刻分布(図3)と比べます。

Mh_ho
図3

最頻発生時刻が真夜中より後の領域(図3で赤色に着色)が、図2でどこに該当するかを見てみます。

たとえば、図3で北緯45度、深さ50km付近の横長領域が赤色になっていますが、この領域は図2では、S波速度の低下率がプラスの領域(赤)とマイナスの領域(青)の境界付近にあたっています。

他の、最頻発生時刻が真夜中より後の領域(図3で3箇所ほど確認できる赤色の領域)も、S波速度(あるいはP波速度)の低下率がプラスの領域(赤)とマイナスの領域(青)の境界付近にあります。

一般に、P波はたて波(疎密波)ですから、P波の速度が低下するということは、密度のわりには圧縮伸長に対して「やわらかい」物質があるということです。

また、S波は横波ですから、S波の速度が低下するということは、密度のわりには横ずれに対する復元力にとぼしい「やわらかい」物質があるということです。 固体より液体に近いものですね。

図2と図3から、「やわらかい」物質と「かたい」物質の境界付近で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる(たいてい、真夜中より後にずれる)、ということが読み取れます。

次に東北地域を見ます。

 

東北地域の地震波速度と最頻発生時刻

東北地域の地震波速度分布(西北西-東南東方向の鉛直断面への射影)は図4のようになっています。

To_vel
図4

これを、前回の記事で求めた最頻発生時刻分布(図5)と比べます。

Mh_to
図5

やはり、S波速度(あるいはP波速度)の低下率がプラスの領域(赤)とマイナスの領域(青)の境界付近、つまり、「やわらかい」物質と「かたい」物質の境界付近で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる傾向が読み取れます。

次に、九州地域を見ます。

 

九州地域の地震波速度と最頻発生時刻

九州地域の地震波速度分布(南東-北西方向の鉛直断面への射影)は図6のようになっています。

Ky_vel
図6

これを、前回の記事で求めた最頻発生時刻分布(図7)と比べます。

Mh_ky_2
図7

やはり、「やわらかい」物質と「かたい」物質の境界付近で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる傾向が読み取れます。

最後に、小笠原諸島地域を見ます。

 

小笠原諸島地域の地震波速度と最頻発生時刻

小笠原諸島地域の地震波速度分布(東西方向の鉛直断面への射影)は図8のようになっています。

Og_vel
図8

これを、前回の記事で求めた最頻発生時刻分布(図9)と比べます。

Mh_og
図9

深さ100kmより浅い領域では同様な傾向が見られます。 つまり、P波速度低下率の正領域と負領域の境界付近でしばしば、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれています。

深さ100kmより深い領域では、S波速度低下率と最頻発生時刻に同様な傾向がある可能性があります。 しかし(おそらく観測点数が少ないために)S波速度の推定精度が粗く、十分な読み取りができません。

   *

今回は以上です。 次回は対象地域を拡大して、日本周辺の広域で、震源の深さ別に、地震波速度と最頻発生時刻の関係を調べる予定です。 では。

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震源域の直下では最頻発生時刻が遅い---流体が関与か -T4

前回の記事では、気象庁一元化震源リストの約6年分のデータを解析して、日本周辺でおきる地震の発生時刻に見られる次のような特徴を紹介しました。


  1. 地震は昼間より夜間に発生しやすい。 昼間の地震発生頻度は日平均より15%ほど少なく、夜間の発生数は15%ほど多い。
  2. 最頻発生時刻(Local Time)はおおむね真夜中頃であるが、地域や深さによって数時間の違いがある(*1)。
  3. 最頻発生時刻を震源の深さ別に大きく見ると、地表付近では午前0.5時頃で、深くなるにつれ最頻発生時刻は徐々に遅くなり、深さ100km付近(リソスフェアとアセノスフェアの境界?)で最も遅くて午前1.5時頃となる。 さらに深くなると最頻発生時刻は早まり、深さ200km付近で午前0.5時頃に戻る。
  4. 最頻発生時刻を細かく見ると、深さ20〜30kmのあたり(地殻とマントルの境界?)で最頻発生時刻が特異的に遅くなる(午前1.3時頃)。
  5. 最頻発生時刻の地域分布を見ると、複数のプレートが重なり合う地域では、深さ(プレート)によって最頻発生時刻が大きく異なることがある。

今回の記事ではさらに、日本周辺の4つの地域(九州、東北、北海道、小笠原諸島)について、それぞれ地震の最頻発生時刻の鉛直断面内の分布を詳しく調べます。

結果を先に述べますと、「大きな地震の震源域の直下には最頻発生時刻が遅い領域が存在する」ことがわかりました。

ところで、地震波トモグラフィーの手法による地震波速度の3次元分布から、震源域の直下にはしばしば地震波速度が小さい領域があることが知られています。地震波速度低下の原因として、流体(地下水(浅部)あるいはマグマ(深部)など)の存在が推定されます(*2)。

また、MT法による地下の電気伝導度分布の推定結果からは、震源域の直下にしばしば電気伝導度の大きな領域があることが知られています。高い電気伝導度の原因としてやはり、流体の存在が推定されています(*3)。

つまり、従来の研究で、震源域の直下にはしばしば(おそらく流体の存在が原因で)地震波速度が小さく、かつ、電気伝導度が大きい領域があることがわかっていました。

まさにその領域で「地震の最頻発生時刻が遅い」、つまり、その領域では真夜中より遅い時刻に地震が発生しやすいことがわかりました。(WSの知る限り、こんなことを言っているのは、いまのところ世界でこのブログだけですが…)

 

解析の対象とする4つの地域と期間

次の図1は、今回の解析の対象とする4つの地域(九州 Ky、東北 To、北海道 Ho、小笠原諸島 Og)を示しています。 防災科学技術研究所(Hi-net)による日本付近の最近の震央分布図に重ねて描きました。

Hinet_mod
図1

前回と同じく、気象庁一元化処理 震源要素(*)に記載された、2006/12/01〜2011/01/31の期間に発生したM0.0以上で震源の深さが200km以浅の地震 計492,038個を解析の対象とします。

 

九州地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図2は、九州地域の震源分布を南北-鉛直断面で示したものです。 地震の規模(マグニチュード)により点を色わけしています。

Sec_plot_ky
図2

図2は、北陸沖の日本海あたりから(透視できる目で)九州地方を眺めた図だとお考えください。 図の右側が北九州、左側が南九州です。 図のたて軸は深さで、図の上側が地表付近、下側が深さ200kmです。

図の横軸は「射影緯度(北緯)」となっています。 この意味を説明します。

少し戻って図1を見てください。 九州地域を囲う赤い四角枠Kyの中には北東から南西に向かう細線が何本も書かれています。 同じ細線上で発生した地震は、図2で同じ横軸の位置にプロットしてあります。

たとえば山陰沖の点Aで発生した地震を考えます。 点Aを通る細線と東経130度の経線(太い点線)との交点A'の緯度は北緯32度です。 そこで、この地震の震源(点A)の射影緯度は北緯32度であると決めています。

つまり、「射影緯度」というのは、どの細線上で地震が発生したかを表す数値です。

さて、図2を見ると、図の左上から中央下に向かって沈み込んでいくフィリピン海プレートと、図の中央上部から右上部にわたるユーラシアプレートの存在が想像できます。

最頻発生時刻の分布はどのようになっているでしょうか。

Mh_ky
図3

図3は、九州地域の最頻発生時刻の南北-鉛直分布です。

黄色の星印は、図2の震源分布で、M4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

ごらんのように、震源域の直下にしばしば、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。

 

東北地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図4は、東北地域の震源分布を東西-鉛直断面で示したものです。

Sec_plot_to
図4

図4は、伊豆半島あたりから(透視できる目で)東北地方を眺めた図だとお考えください。 図の右側が太平洋、左側が日本海です。

図の右上から左下に向かって沈み込んでいく太平洋プレートと、図の中央上部から左上部にわたる北米プレートの存在が想像できます。

次の図5は、東北地域の最頻発生時刻の東西-鉛直分布です。 黄色の星印はM4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

Mh_to
図5

やはり、震源域の直下にしばしば、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。

 

北海道地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図6は、北海道地域の震源分布を南北-鉛直断面で示したものです。

Sec_plot_ho
図6

図6は、千島列島あたりから(透視できる目で)北海道地方を眺めた図だとお考えください。 図の右側がオホーツク海、左側が太平洋です。

図の左上から中央下に向かって沈み込んでいく太平洋プレートと、図の中央上部から右上部にわたる北米プレートの存在が想像できます。

次の図7は、北海道地域の最頻発生時刻の南北-鉛直分布です。 黄色の星印はM4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

Mh_ho
図7

やはり、震源域の直下にしばしば、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。(射影緯度で北緯43度あたりでは少し不明瞭ですが)

 

小笠原地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図8は、小笠原地域の震源分布を東西-鉛直断面で示したものです。

Sec_plot_og
図8

図8は、マリアナ諸島あたりから(透視できる目で)小笠原諸島を眺めた図だとお考えください。 図の右側がハワイ方向、左側が沖縄方向です。

図の右上から中央下に向かって沈み込んでいく太平洋プレートと、図の中央上部から左上部にわたるフィリピン海プレートの存在が想像できるはずなのですが、やや不明瞭です。

次の図9は、小笠原地域の最頻発生時刻の東西-鉛直分布です。 黄色の星印はM4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

Mh_og
図9

やはり、震源域の直下に、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。

   *

このように、日本周辺の4つの地域では、震源域の直下にしばしば最頻発生時刻が遅い領域が存在します。

一方、従来より地震波トモグラフィーによる地震波速度分布およびMT法による電気伝導度分布の推定結果から、震源域の直下にしばしば(流体に起因すると思われる)低速度・高電気伝導度の領域があることが指摘されています。

両者の関連は非常に興味深いことだと思います。

   *

さて、どうして地下のある領域では最頻発生時刻が真夜中より遅く、他の領域では真夜中より早い、といったばらつきが生じるのでしょうか。

正直なところ全くわからないのですが、この現象を見て最初に思ったのは、なんか共鳴現象に似ているなあ、ということです。 たとえば、力学の最初で学ぶ、減衰力(速度に比例する抵抗力)を受ける調和振動子(バネ振り子)の強制振動を考えてみてください。

振動子の固有振動数をf0とし、外力の振動数をfとします。

fがf0より小さいときには、振動子の振動の位相は、外力より遅れます。 一方、fがf0より大きいときには、振動子の振動の位相は、外力より早くなります。

そこで、たとえば次のような想像ができます。

・地下で起きる何らかの周期現象X(イオン移動?)があって、それが地震発生に関与している。 現象Xの固有周期は、岩石が流体的な成分を含むか否かで、1日(=24時間)より長くなったり短くなったりする。

・一方、1日周期で振動する外力(たとえばFreund博士ご提案(動画の9分30秒あたりから11分30秒あたりを参照)の、電離層由来のグローバルな誘導電場のようなもの?)が現象Xに影響している。

   *

今回は以上です。

地震波トモグラフィーによる地震波速度分布の推定結果はHi-netで公開していただいているようです。 次回は、その地震波速度分布と今回の4つの地域の最頻発生時刻分布とを直接比較してみたいと思います。

MT法による電気伝導度分布については、同様な公開データ(3次元格子)が見つからなかったのですが、もしご存じの方がいらしたら、教えていただけましたら幸いです。

では。

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*1) 最頻発生時刻の求め方(定義)については以前のこちらの記事をご覧ください。

*2), *3) 地震波トモグラフィーによる地震波速度分布やMT法による地下の電気伝導度分布と、地殻下部にある「やわらかいもの(低速度・高電導度)」や震源域などに関係のあるHPやpdfをいくつか列挙します(敬称略)。 これは容易に検索で見つかったもののリストで、完全なリストとはほど遠いものです。


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*) 謝辞
この記事および同じカテゴリの最近の記事で取り上げた暫定的な分析には、Hi-netのHPからダウンロードした気象庁一元化処理 震源要素を使用しました。 気象庁一元化処理 震源要素は独立行政法人防災科学技術研究所、気象庁、及び、国立大学の地震観測データを使用して、気象庁が文部科学省と協力して整理したものです。 ここに記して感謝いたします。

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日本周辺でも地震は夜間に多く発生する -T3

前回の記事では、USGSの約11年分の震源要素データを解析して、世界のどの地域でも地震は夜間に発生しやすい、という事実を紹介しました。

また、深さ100kmあたり(リソスフェアとアセノスフェアの境界付近?)と深さ30〜40kmあたり(地殻とマントルの境界付近?)に、最頻発生時刻が特異的に遅くなる領域が存在すること、および、複数のプレートが重なり合う地域では、深さ(プレート)によって最頻発生時刻に違いが見られることも指摘しました。

今回の記事では、日本周辺の地震に限定して同様な解析を行います。 結果を先に述べますと、やはり、地震発生時刻に上記と同様な特徴が見られることがわかりました。 たとえば、真夜中の地震頻度は平均的な値より15%ほど多く、昼間は逆に15%ほど少なくなっています(前々回の記事を参照)。

 

解析の対象とする地域と期間

次の図1は、防災科学技術研究所(Hi-net)のHP からの引用で、日本付近の最近の震央分布図です。

Hinet
図1

今回の記事では、ほぼ図1と同じ範囲(日本付近)で発生した地震について解析します。 具体的には、気象庁一元化処理 震源要素(*)に記載された、2006/12/01〜2011/01/31の期間に発生したM0.0以上で震源の深さが200km以浅の地震 計492,038個を解析の対象とします。

参考までに、経度別・緯度別に、震源の平均の深さを分布図に表したのが次の図2です。

Jp_lon_lat_dep
図2

小笠原諸島近海や北海道北西沿岸で深い地震が多いことがわかります。

(図の横軸の見出しが 経度(東経)/ [hour] となっていますが 経度(東経)/ [degree] のケアレスミスです。以下の図も全部間違えてしまいました。 )

 

震源の深さと最頻発生時刻

次の図3は、震源の深さ別に、最頻発生時刻(Local Time)を調べたものです。 なお、最頻発生時刻の求め方(定義)については前々回の記事をご覧ください。


Jp_dep_maxhour
図3

大きく見ると、深さ100kmあたり(リソスフェアとアセノスフェアの境界?)で最頻発生時刻は最も遅くて午前1.5時ごろとなります。 この深さより深くても浅くても最頻発生時刻は早くなり、地表付近や深さ200kmのあたりでは最頻発生時刻は午前0.5時ごろです。

細かく見ると、深さ20〜30kmのあたり(地殻とマントルの境界?)で最頻発生時刻が特異的に遅くなります(午前1.3時頃)。

 

最頻発生時刻の地域分布

次の図4は緯度別・経度別に最頻発生時刻の分布を濃淡図で表したものです。

Jp_lon_lat_maxhour
図4

東経138〜145度、北緯25度付近(硫黄島周辺)で最頻発生時刻が早くなっています。

また、東経136〜137度、北緯40〜46度付近(北海道西方沖)と東経145〜150度、北緯48度付近(千島列島北方沖)で最頻発生時刻が遅くなっています。

図4に示した最頻発生時刻の地域分布をさらに震源の深さで分類して示したのが次の図5〜図8です。

順に、図5は震源の深さが20km以下の地震、図6は20〜40kmの地震、図7は40km以上の地震、図8は90〜130kmの地震の、最頻発生時刻の地域分布を示しています。

Jp_lon_lat_maxhour20
図5

Jp_lon_lat_maxhour20_40
図6

Jp_lon_lat_maxhour40
図7

Jp_lon_lat_maxhour90_130
図8

東経143度、北緯26度付近(母島南方)に注目してみます。 この地域は、図5では赤色(最頻発生時刻が午前5時頃)、図8では青色(同じく午後7時頃)に着色されており、深さによって最頻発生時刻が大きく異なっています。 母島南方は、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいる地域です。

もう1つ、東経132度、北緯32度付近(日向灘、宮崎県東方沖)に注目してみます。 この地域は、図5では黄色(最頻発生時刻が午前0時頃)、図8では赤色(同じく午前5時頃)に着色されており、深さによって最頻発生時刻が異なっています。 宮崎県東方沖は、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込んでいる地域です。

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このように、世界の地震についてみられた最頻発生時刻の特徴が、日本付近の地震に限っても見られることがわかりました。 箇条書きにしてまとめると次のようになります。

<日本付近の地震の発生時刻(Local Time)の特徴>


  1. 地震は夜間に発生しやすい。
  2. 最頻発生時刻を震源の深さ別に大きく見ると、地表付近では午前0.5時頃で、深くなるにつれ最頻発生時刻は徐々に遅くなり、深さ100km付近(リソスフェアとアセノスフェアの境界?)で最も遅くて午前1.5時頃となる。 さらに深くなると最頻発生時刻は早まり、深さ200km付近で午前0.5時頃に戻る。
  3. 最頻発生時刻を細かく見ると、深さ20〜30kmのあたり(地殻とマントルの境界?)で最頻発生時刻が特異的に遅くなる(午前1.3時頃)。
  4. 最頻発生時刻の地域分布を見ると、複数のプレートが重なり合う地域では、深さ(プレート)によって最頻発生時刻が大きく異なることがある。

今回は以上です。

次回は、最頻発生時刻の地域別時系列データを地震の短期予測に利用できないだろうか、という方向で考察を進めてみる予定です。 柿岡の大気電場データの日平均時系列と広域の地震活動との相関についても興味深い結果を得ていますので、近日中にご報告できると思います。 大気電場はどうもかなり広域(半径数百km)の地震活動を反映するようです。

2012年が皆様にとって幸い多き年でありますように。では。

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*) 謝辞
この記事および同じカテゴリの最近の記事で取り上げた暫定的な分析には、Hi-netのHPからダウンロードした気象庁一元化処理 震源要素を使用しました。 気象庁一元化処理 震源要素は独立行政法人防災科学技術研究所、気象庁、及び、国立大学の地震観測データを使用して、気象庁が文部科学省と協力して整理したものです。 ここに記して感謝いたします。

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