« 気柱 1 はじめに | トップページ | 気柱 3 空気の粘性の役割 »

気柱 2 気柱共鳴と開口端補正の長さ

気柱 1 気柱共鳴の実験と開口

<気柱共鳴の実験での開口端補正の実際の長さは、「管の半径×定数」という形の従来の「公式」には全く当てはまらないのではないか、とWave ofsoundは考えています。それを順を追って説明し、関心のある皆様と情報交換をするのがこのブログの目的です。>


2回目の今日は、まず、気柱の共鳴実験とはどんな実験であったか、を振り返り、次に、「共鳴する」場合には何が気柱の中で起きているのか、について考えてみたいと思います。最後に、開口端補正の長さがどうなるか、という予想も述べます。


●気柱共鳴の実験で音速を測定する

高校で物理を選択された方は、「気柱共鳴の実験」で音速を測定したことを覚えておられるのではないか、と思います。鉛直に立てた管の中に、途中まで水を入れ、上の開いた口のそばで音叉を鳴らして、水面の位置を変えながら、音が大きく聞こえる(共鳴する)ときの水面の位置を調べる実験です。

気柱に生じる定常波の腹と節の位置


この実験で音速を求めることができるのは、共鳴の起きる水面の位置が、音の波長(波の山から隣の山までの距離)と関係しているからでした。水面の位置から音の波長λが求まれば、音速cは、関係
   c=fλ

から決まります。音の振動数fは、わかっている音叉の振動数と同じだからです。


そこで、気柱内の水面の位置と音の波長との関係を簡単に復習しておきましょう。
 
管内の空気(気柱)のところでは、互いに逆方向に進む2つの波があり、それらが足し合わされます(干渉を起こしています)。音叉から出て水面へと向かう音の波と、水面で反射して上へと戻っていく波の2つです。この2つの波が干渉する結果、気柱内には進まない波(定常波)が生じています。

水面のところは節(空気が振動しない点)になります。音は縦波※なので、水面のごく近くの空気はふるえることができないからです。

※縦波とは、媒質(波を伝える物質で、いまの場合は空気)が波の進む方向に沿ってふるえている波のことです。例えば、音が西向きに伝わっているなら、各場所の空気は東西方向にふるえています。

開口(上の口)のところは腹(大きく振動する点)になります。開口のところの空気は比較的自由に上下方向にふるえることができるからです。実はこの腹の位置は、厳密にいうと、管口より少しだけ上になる、といわれています。このずれる距離が「開口端補正(Δと書きます。読み方はデルタ)」と呼ばれ、これから考察しようとしているものですが、まずは音速測定の話を続けましょう。

そこで、管内の空気の振動を模式的に表せば、先ほどの図のようになります。

一番高い水面の位置で共鳴している状況では、開口から水面までの長さ(=気柱の長さ)L1に開口端補正Δを加えた長さが、音の波長λの4分の1になります。式で書くと
   L1+Δ = 1/4 λ

もう少し水面の位置が低くて共鳴している状況(図の状況)では、同様な長さL2+Δが、音の波長の4分の3に等しく
   L2+Δ = 3/4 λ

さらに低い水面の位置で共鳴する状況では、同様な長さL3+Δが、音の波長の4分の5に等しく
   L3+Δ = 5/4 λ
となります。
以下同様に、水面の位置が長さにしてλ/2(半波長)下がるごとに、新しい共鳴が起こります。

これらの共鳴点での気柱の長さL1, L2, L3,…を測定すると、その間隔が半波長に等しいので、波長λがわかる。波長λがわかれば、関係c=fλによって、音速cがわかる、というのが、気柱共鳴実験による音速測定の原理です。

(実は、上の実験で求まる音速cは、正確に言うと「管内での軸方向への音速」とでも呼ぶべきものです。この音速は一般に、外部の自由空間での音速とは異なっています。この事情は、開口端補正の長さが決まるメカニズムとも関係しているので、また日を改めて詳しく書く予定です。)


●気柱で起きていること

気柱の共鳴実験では、音叉やスピーカーなどの音源を開口部に近づけて、管内とその周囲の空気に振動を生じさせます。このとき、気柱内の空気には音源からエネルギーが注入され続けますが、振動はどこまでも大きくなるわけではありません。

例えば、開口部から外へと円形に広がっていく音波がエネルギーを運び去ります(放射によるエネルギー散逸)。また、部屋の壁による音の吸収や、管自体の振動によって逃げていく音波のエネルギーがあります。さらに、(これが最も重要なのですが)空気に粘り気(粘性)があるために、音によって小刻みに行ったり来たりしている(振動している)空気が管の内壁で擦られて、摩擦熱が発生します(粘性によるエネルギー散逸)。

つまり、空気の振動が音源によって励起される一方、他方では、さまざまな原因で散逸していくエネルギーの流れがあるということです。これらの入力と出力がつりあった振動状態が、定常的に維持されている、というのが実際におこっていることです。


●気柱が共鳴するときに起きていること

決まった振動数で振るえる音源を、気柱のそばにおいてみます。気柱内には、正弦波の形の定常波が生じ、水面のところが節になっています。振動数が決まれば波長が決まるので、節と腹、腹と節の間隔も決まり、各々の腹や節の位置も決まります。

しかし、水面の位置によって共鳴する場合とそうでない場合があります。共鳴する場合とは、上で生じる定常波の振幅が大きいときです。そうでない場合には、振幅の小さな定常波しか生じません。この、共鳴する場合について、開口端のそばの腹の位置が、開口端からどれだけ外にずれているか、を表す量が「開口端補正の長さ」と呼んでいるものです。

では、どのような場合に振幅の大きな定常波が生じる(共鳴する)のでしょうか。

大きな定常波が生じているときには、気柱内に大きなエネルギーが保たれています。音源から気柱内に流れ込むエネルギーを一定とすれば、逃げていくエネルギーが少ないときに、大きなエネルギーが保たれます。つまり、逃げていくエネルギーが少ないような水面の位置のときに、共鳴が起きるに違いありません。


●共鳴が起きる条件

では、どのような水面の位置のときに(あるいはいいかえると、腹の位置が開口端からどれだけ外へ出ているときに)、外へと逃げていくエネルギーが少ないのでしょうか。

Wave ofsoundは、管内での音波の波長λに較べて細い管では、空気の粘性による管壁でのエネルギー散逸がもっとも重要であることを見出しました。その効果を計算してみると(詳細は次回以降に書きます)、腹の位置が開口端から出ている長さをΔとして

   Δ = λ/8 − b1 × 管の半径

のときに、エネルギー散逸のスピードが最小になることがわかりました。つまり、開口端補正の長さΔが上の式で与えられる、ということです。ここでb1は単位のない正の量で、管の半径にも依存しますが、管が細いときにはほとんど定数と考えて構いません。

上の式で「管の半径→0」とおいてみると、開口端補正の長さはλ/8になることがわかります。つまり

   細い管の開口端補正は、管内の波長の8分の1 

なのです。この予想は、管の断面の形によらずに成り立ちます。断面が四角い管でも楕円形の管でもおむすび型の管でも、その管が細ければ、開口端補正の長さはほぼλ/8です。従来の公式「管の半径×0.6」とは一致しないはずです。

身近に気柱共鳴の実験ができる環境のある皆さん、ぜひぜひ、この予想を実験で確かめてみて下さい。そしてその結果を教えて下さい。よろしくお願いします。

さらに、上の式の第2項の前にマイナスがついているので、管が太くなるにつれ、開口端補正の長さは減少することが予想できます。これも従来の公式とは逆の結果です。こちらもぜひ実験で確認してみて下さい。

では、また日を改めて。次回は、空気の粘性の役割について書く予定です。

|

« 気柱 1 はじめに | トップページ | 気柱 3 空気の粘性の役割 »

気柱共鳴の物理」カテゴリの記事

コメント

質問させてください。
Δ = λ/8 − b1 × 管の半径
に於きまして 単位はどのように取ればよいでしょうか?

たとえばVP13(内径13mm)の塩ビ管を、管長375mmにしまして閉管として共振させますと、244.26Hz にて共振しました。
音速は340mとしますと、どのような単位の数値を入れたらよいでしょうか?

それではよろしくお願い致します。

投稿: 猫翁 | 2013.08.16 16:25

追伸 笛にする場合 指穴は、共振長の腹より大分短い目にしないと いけないのですが 相関を計算する方法はありますでしょうか?
指穴は管径の巾50%位、長さ80%位を目安にしています。
かしこ

投稿: 猫翁 | 2013.08.16 16:31

猫翁さま、はじめまして。

Δ = λ/8 − b1 × 管の半径

の式についてのご質問をありがとうございます。たいへん申し訳ないのですが、結論から申し上げますと、b1の具体的な値がWSにはまだわかりません。b1の値の計算結果が発散してしまったのです。 上の式は、管の半径が小さくなる極限で、開口端補正Δは波長の8分の1に近づくであろう、という(WSの)予想を表現したものとお考えください。

   *

> VP13(内径13mm)の塩ビ管を、管長375mmにしまして
> 閉管として共振させますと、244.26Hz にて共振しました。
> 音速は340mとしますと

測定結果をありがとうございます。
波長は λ=340/244.26m = 1.392m、管端(閉端)から振動の腹までは λ/4 = 0.348m ゆえ、開口端補正は Δ=0.348m - 0.375m = -27mm であれ?マイナス値?ですね。 計測値や測定値の信頼性はたしかでしょうか。音速に影響する、気温や湿度などの実験条件はわかりますか。 他の共振条件(たとえば管端から振動の腹まで3/4 λ)で共振するときの振動数などは測定できますでしょうか。

   *

> 笛にする場合 指穴は、共振長の腹より大分短い目にしないと
> いけないのですが 相関を計算する方法はありますでしょうか?
> 指穴は管径の巾50%位、長さ80%位を目安にしています。

管壁に横穴があいている場合の計算は(対称性がとぼしいので)さらに難しく、WSにはよくわかりません。ただ、管径の巾50%位、長さ80%位の穴ですと相当に大きいので、この指穴が事実上の開端として振る舞うものと思われます。

一端を閉じた内径aの塩ビ管に横穴をあけたとき、波長λで共振したとします。共振長より横穴位置が短くなる距離を「横穴補正」と呼ぶことにします。

一端を閉じた同じ内径aの塩ビ管に=横穴を開けない=とき、おなじ波長λで共振したとします。(つまり、塩ビ管は切り取られて短くなっています。)このときの通常の開口端補正の長さをΔとします。

WSの想像ですが、横穴が極端に小さい、といったことでもないかぎり、横穴補正とΔの比は1程度(1〜2くらい?)ではないでしょうか。

横穴の面積が管の断面積にくらべて大きくなるにつれて、横穴補正はΔに近づく。逆に、横穴の面積が管の断面積にくらべて小さくなるにつれて、横穴補正はΔより大きくなる。 横穴の面積がさらに小さくなると、共振は消えて、別の共振条件へと飛ぶ、と想像します。

   *

気柱共鳴と開口端補正についてのこれらの記事は、8〜9年前に計算を進めながら執筆しました。ちゃんとした結論が得られると期待していたのですが、予想外にも、計算で得られたb1の値が発散してしまいました。おそらくWSが行った問題の定式化にどこか難があります。

なお、b1の値が発散してしまったことに関しては、以下の記事に記述しています。

気柱共鳴についての記事の全体目次
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/cat1544697/index.html
気柱 7 開口端補正の長さ(管の断面が長方形の場合)
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2004/10/_7_.html
気柱 8 円筒形の管の開口端補正
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2004/11/_8_.html

投稿: Wave of sound | 2013.08.25 14:39

昨夜はクラリネット式発音器で(閉管楽器と呼ばれています)内径13φPVC 全長357mm(マウスピース70mmを含む)周波数232Hz 測定はパソコンの楽器チューニングツールと
http://www1.ocn.ne.jp/~tuner/tuner.html
ダイナミックマイク(実際にはヘッドホン)をマイク端子に入れています。

管端から7mm、次は10mm で 21個の6.5φの音孔を開け、ビニールテープを二重にして蓋をして、順番に1個ずつ開け、周波数を計っています、(管端から7個は 計りました)温度などが変わるので、本当は一気に計ってしまわないと少し変わります。
結果はまたお知らせします。
(気柱 8 円筒形の管の開口端補正)の方に間違って、管の比較などのコメントを書きました。

投稿: 猫翁 | 2013.09.21 11:58

電子ネコノコ2
にて、管端補正 と 音孔補正
のデータをUP致しました。
何かの参考になれば幸いです。

投稿: 猫翁 | 2013.09.21 20:46

興味深い実験データのお知らせをありがとうございます。

「電子ネコノコ2」のほうにもコメントさせていただきましたが
内直径13mmの塩ビ管についてのネコノコさんの測定値をグラフにしてみますと
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/oec/exp_pcv.png

広い波長領域(4分の1波長が180mmから350mmくらい)にわたって、音孔補正値がほぼ23mmで一定になっていて(やはりプラス値ですね)、その両側では短くなるようです。
(ただし節の位置は吹き込み口と一致すると仮定)


> 気柱 8 円筒形の管の開口端補正)の方に間違って、管の比較などのコメントを書きました。

探しましたが、該当するコメントが見つかりません。

投稿: Wave of sound | 2013.10.13 13:23

新たに閉管と開管 気柱振動について、データを取り直してみました。
管楽器のおもちゃを作る目的ですが、最適管径と有効周波数域(音程)が有るらしいのが判りました。
まず閉管では基音は管長に関係しますが倍音(3倍音)は管径によって最高が決まってしまうようです。(葦リードに拠るのかもしれません)
開管の場合は笛エアリードを音源とし、管長を幾ら長くしても、基音は出ないで管径で決まる倍音列の中から最低音が決まってしまうようです。
最高音も、管径によって決まってしまうようです。
これらのデータは、開端補正などは考慮していません。

開管系は ソプラノD、ソプラノC、アルトG等の音程が
(ソプラノという表記よりはD5とかの方が周波数に変換しやすいのですが)
実際の楽器としては、全音程を使うのが必要ないようで、有名な音楽などはそれらの音程で構成されています、(ダイアトニック方式)

閉管系はBb音程が一番一般的ですが、キー装置などが要り
無しにするならCやGが一番作りやすいのが判りました。
(スロート領域は出せません)
後の問題は管径を14、18、22の内どれから選ぶかです。
ちなみにBbクラリネットは15φが一番多いようです。
シャリュモー領域でオクターブ範囲を持ちそれより上をスルー領域と言われる、穴やキーで持ち、レジスターキーで少し空気を漏らして、3倍音を出しますがレジスターキーを閉めても、基本音には戻らず少し吹き方を変えて、基本音に戻します。

投稿: 猫翁 | 2014.01.14 15:22

最近オープンオフィスがアパッチ版に換わっています。
さて本題は、ペニーホイッスルといいます、吹き口が笛で6音孔のアイリシュ系開管楽器があります。
そのうち普通最低音は、Lo-D の 音階は D E F# G A B C#
の様な長音階に成っていまして、その他の調管も 似た配列です。

よく使われる Hi-D管は ピッコロと同じ音程で やはり 6音孔で作られており、あまり複雑な運指を使わず、順番に開けてゆき、特殊な音だけ2音孔を塞いだり、スライドといわれるずらしながら開けたり閉めたりして、その時の音程の変化を与えたり、少し開けたりして音程を換えるくらいです。

今回 Lo-D と Hi-D の テーパ管を入手しまして、
寸法を計測しました。

これを元に係数や計算方法をこじつけ 直管部、テーパー部とその管長、直管部を含めた、笛までの長さなどから、テーパー管径などを、算出する、表を作りました。

単位を考えなかったため、変な係数になりましたが、一度ご覧ください。
**.XLSをアップロードすることは出来ますでしょうか?、
あるいは.ZIPの圧縮することも出来ます。

かしこ

投稿: 猫翁 | 2014.04.29 14:12

この記事へのコメントは終了しました。

« 気柱 1 はじめに | トップページ | 気柱 3 空気の粘性の役割 »