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気柱 4 減衰しにくい定常波の形

気柱 3 減衰しにくい定常波

4回目の今日は、空気の粘性による管壁での熱の発生を最小にする定常波の形についてお話しします。その結果として、細い管での開口端補正の長さが、管内の音の波長の8分の1になることも示します。

話のだいたいの流れは以下のようになります。

例えば、ギターやバイオリンの弦には、基本振動、2倍振動、3倍振動、…などのさまざまなモードの振動がおこります。実際に弦をはじいたときの振動は、(厳密にいうと振幅が小さい場合には)これらを適当な重みで重ね合わせたものになります。

同様に、気柱内の空気にも、さまざまなモードの振動がおこります。音叉などを気柱のそばにおいたときの気柱内の空気の振動は、それらのモードを適当な重みで重ね合わせたものです。このうち、管壁とのまさつなどで減衰しにくいような重ね合わせの比率をもつ振動の状態が、最後まで生き残ります。そのような重ね合わせの比率から、開口端補正の長さも決まるのです。

以下の説明から、ふつう「管口付近での空気の振動の乱れ」と言われている現象がどのようなものなのか、についても理解して頂けることと思います。

というわけで、まずは気柱内の様々な振動のモードから話を始めたいのですが、断面が円形の管では少し数学が難しくなるので、今回はちょっと単純化して考えることにします。


■問題を単純化して考察すること

以下では話を簡単にするため、ひとまず、断面の形状が円ではなくて、長方形であるような管を考えることにします。さらに、その長方形の一辺が非常に(無限に)長いとし、空気の振動状態は、その長い辺に平行な方向に(=皆さんが見ておられる画面に垂直に)移動しても同じであると仮定します。このように仮定しても、問題の本質的な部分は変わりません。最後に得られる公式に表れる係数の値がずれるだけです。(円管の場合も次回以降に説明します。)

3zu1.jpg


また、他の辺の長さをaとし、管の開口はx=0の位置にあって、管はそこからx軸の正の方向に伸びているとします。 管の幅aは波長に較べて小さいと仮定しましょう。
図の青い線(x=L)は水面を表します。水面のところの空気は振るえていません(固定端)。なお、上の図は、実際の気柱を90度回転して横に寝かせて描いてあります。また、長さaの辺に平行な方向をy軸の方向とします。


■定常波の一般形

準備が続いて恐縮ですが、ここで定常波を式で表す方法を一般的にみておきます。外から振動数fの音叉などで気柱内の空気の振動を励起するならば、同じ振動数fで各点の空気が振るえます。次回以降に示すように、振動は左右方向(x軸に平行)と考えて構いません。

定常波というのは進まない波のことなので、各点の振動の位相はそろっています(あるいは180度だけずれた逆の位相で振動しています)。時刻tの原点を適当にとれば、その振動による空気のx方向への変位は
   変位 = 振幅 × cos(ωt)
のように書くことができます。ここでωは角振動数でω=2πfです。

しかし、振動の振幅は場所 (x,y) によっても違っても構いません。そこで、振幅を g(x,y) とすれば、 (x,y) の場所の空気の、時刻tにおける変位は一般に
   変位 = g(x,y) × cos(ωt)

のように書くことができます。g(x,y)のことを振幅関数と呼ぶことにしましょう。

振幅関数g(x,y)には負の値も許す方が話が簡単になります。g(x,y)<0のときには、場所(x,y)の空気の振動の振幅は |g(x,y)| で、逆の位相で振動していることになります。

これで準備ができました。気柱内の定常波にはどのようなモードがあるのかを見ていきましょう。


■正弦波モード

気柱内に生じる定常波の無数のモードの中で、もっとも重要なもの(そして開口端補正の長さに直接関係しているもの)はおなじみの正弦波モードです。このモードの振幅関数は、もし開口のところが腹ならば、λを管内の音の波長、Aを定数として
   g(x,y) 〜 A cos((2π/λ) x)

3zu2.jpg


と書けます。上の式の2π/λの部分は波数と呼ばれ、長さ-1と同じ単位(次元)を持ちます。これからよく使うので、この量をkとおくことにしましょう(k=2π/λ)。波数kが大きいほど、波の波長は短くなります。

さて、開口より左にΔだけずれたところに腹があるならば、正弦波モードの振幅関数は上の A cos(kx)のxをx+Δで置きかえたもの、つまり
   g(x,y) 〜 A cos(k(x+Δ)) = A cos(kx+δ)

となります。

ここで、位相(角度)で表した腹の位置のずれδを、kΔ=δ で定義しました。例えばδ=45°ならば、腹は波長の8分の1だけ開口より外側(=左側)にあり、δ=30°ならば、波長の12分の1だけ外側にあります。

腹の位置のずれδ(あるいはΔ)はもちろん、水面の位置に関係しています。水面(x=L)は固定端なので、x=Lでは振幅関数はゼロでなければなりません。つまり
   cos(kL+δ)=0

となっています。

(なお、上の式でイコール(=)ではなくて記号〜を用いたのは、振幅関数が座標y(管壁からの距離)によってどう変わるのかを、まだ考えていないからです。)


■振幅関数g(x,y)は高さyによってどう変わるか

少し細かい点なのですが、振幅関数が管壁からの距離にどう関係しているか、言いかえると、yの値によってどう変わるかを説明しておきます。

空気の粘性についての前回の考察からわかるように、管壁近くの空気は管壁にへばりついていますが、管壁から離れたところの空気は左右方向にほとんど自由に動きます。ふつうの音の振動数(1000ヘルツくらい)ならば、へばりついている空気の厚み(表皮厚)は1ミリにも満たないごく薄いものです。

ですから、正弦波モードの定常波が生じているとき、管内のほとんどの部分の空気は一斉に左右へと、同じ振幅で動いていると見なして構いません。管壁の近くのごく薄い空気の層(表皮層)だけが粘性による摩擦のために、管壁に近づくほど小さいな振幅で、かつ、遅れた位相で振動しているのです。

よって、表皮層以外の管内では、正弦波モードの振幅はy方向には一定で
   g(x,y) = A cos(k(x+Δ)) = A cos(kx+δ)

と考えて構いません。

(物理数学に詳しい方のための補足:上での扱いは、表皮層とその内側との境目のところで自由端境界条件を課した上で、節のないモードを取り出すことに相当しており、やや単純化を行っています。境界条件についてのもう少し詳しい考察は、次回以降に行う予定です)


■指数減衰モード

実は管内の空気の振動には、上で見たおなじみの正弦波モードに加えて、管口付近に局在する定常波のモードがあります。これを指数減衰モードと呼ぶことにします(図の赤線)。指数減衰モードは無数にあり、モードによって減衰の仕方が異なります。減衰の程度が穏やかなものから順に、1,2,3,…と番号をつけることにします。

3zu3.jpg


1番目のモードの振幅は場所xに対して exp(−p1 x) 、2番目のモードは exp(−p2 x) 、一般にn番目のモードは exp(−pn x) のように変わります(「exp」はe=2.71828…を底とする指数関数)。番号の付け方から
   0 < p1 < p2 < … < pn < …
となっています。この pn をn番目のモードの「減衰率」と呼びましょう。減衰率は「長さ-1」と同じ単位(次元)を持ちます(波数と同様)。減衰率が大きいモードほど、xが増えるにつれ、振幅は急激に減少します。

管内に生じる定常波の振幅関数 g(x,y) は一般に、正弦波モードとこれらのモードの重ね合わせで表すことができます(A, B1, B2, …はそれぞれにかかる係数です)。
   g(x,y) 〜 A cos(k x+δ) + B1 exp(−p1 x) + B2 exp(−p2 x) +…

この管口付近に局在するモード(指数減衰モード)については、気柱共鳴の話の中で取りあげられることがあまりないので、本当にそんなモードが生じるのだろうか、と疑問に思われるかも知れません。実は、これはそんなになじみのない話ではないのです。

例えば、水中から空気中へと出る光が、水面で全反射して水中へと戻っていくとき、水面近くの空気中にも少しだけ光が「浸みだして」います。その振幅は水面から遠ざかると急激に減衰するのですが…。気柱で生じ、開口部の近くで定常波の形を変形させる指数減衰モードもこれに似た現象として理解できます。詳しくは次回に説明する予定です。

あと、指数減衰モードでは実は、左右方向に(x軸に平行に)振るえている空気の振動の振幅は、y方向に一定ではありません。両側(図では上下)の管壁がほぼ腹で、間にいくつかの節(と腹)ができています。これも上の話に関係があるので、次回にまとめて説明します。今回の議論では、振幅がx方向に指数関数的に減少することだけを使います。


■位相のずれδの物理的意味

ちょっとした補足ですが、先ほど見た、正弦波モードの腹が開口端から飛び出す程度(位相のずれδ)も、モードの重ね合わせの比率として理解できます。それをみるには、三角関数の加法定理で
   A cos(k x+δ)  = A ( cosδ cos(k x) − sinδsin(k x) )
           = A1 cos(k x) + A2 sin(k x)

と変形できることに注意すればOKです。ここで A1 = A cosδ、A2 = −A sinδ とおきました。開口部が腹になるコサインモード cos(k x) と、開口部が節になるサインモード sin(k x) の重ね合わせの係数 A1, A2 から、位相のずれδは式
   tan δ = −A2/A1

で決まります。


■減衰しにくい定常波の形 --- 指数減衰モードが1つの場合

話を簡単にするために、管内に生じる指数減衰モードが exp(−p1 x) の1つだけである場合をまず考えてみます。この場合、定常波の振幅関数は、上のモードと正弦波モードの重ね合わせで
   g(x,y) 〜 A cos(k x+δ) + B1 exp(−p1 x)

となります。

3つのパラメータ A, B1, δが定常波の形を決めています。空気の粘性による管壁での摩擦熱の発生が最小になるように、これらのパラメータを決定することにしましょう。その中でδが(位相で表した)開口端補正に対応しています。

指数減衰モードはx=0付近でのみ大きな値を持っています(以前の図を参照)。コサインモードを少し左にずらして、符号を反対にして指数減衰モードを打ち消せば、管口付近の定常波を小さくできそうですね。つまり、直観的には、開口端補正の位相δが0°と90°の間の鋭角に決まりそうで、話がうまくいっています。このアイデアを式で追究してみましょう。

まず、どのような条件の下で、摩擦熱の最小値を求めればよいのかを考えます。

音叉を気柱のそばにおくとき、音叉からは音の波が球面状に広がります。遠方では、それは平面波とみなしてよいでしょう。これが気柱に入射し、(その一部が)奥へ(先ほどの図では右へと)進みます。水面で反射した波は、左へと戻ります。この右へと進む波と左へと進む波が重ね合わされたものが、ほぼ、上の正弦波モードです。

これは音叉によって直接に励起されるモードなので、その振幅 A は定数であると考えてよいでしょう。そこで、A を固定して、他の2つのパラメータ B1とδを動かしたときの摩擦熱の最小値を考えることにします。

(指数減衰モードは主に、管壁の振動を通じて励起されると思われます。その振幅B1は、時間がたつと、摩擦熱の発生を最小にする値に落ち着くでしょう)


■摩擦熱の発生を最小にするパラメータを求める

いま考えているのは、管の内壁にへばりついたごく薄い表皮層に接する部分(表皮層のすぐ外)の空気の振動です。前回見たように、単位時間に発生する摩擦熱は、その空気の速度の2乗に比例するのでした。

さて、振動数が同じなら、空気の速度は振幅の2乗に比例しますから、管壁の、ある部分で発生する摩擦熱の時間平均は、その部分の振幅関数の2乗に比例します。よって、管壁の、xからx+Δxの範囲の微小な幅で発生する摩擦熱の時間平均は
   { A cos(k x+δ) + B1 exp(−p1 x) }2 Δx

に比例します。これをx=0(開口端)からx=L(水面)まで足し合わせると、管壁全体での摩擦熱の表式が得られます。つまり、A=一定という条件の下で、定積分
    L
   ∫ { A cos(k x+δ) + B1 exp(−p1 x) }2 dx
    0
を最小にするδとB1の値を求めれば良いことになります。 


■計算する前の注意

次回に説明しますが、減衰率 p1 は 1/a 程度の大きさの量です(aは管の断面の長方形の短い方の辺の長さ)。つまり、距離aだけ右に進むと、振幅が約3分の1になるということです。ふつうの実験状況では水面は十分に遠いので(a≪L)、水面の位置x=Lで指数減衰モードの振幅は事実上ゼロと見なして構いません(注)。つまり
   exp(−p1 L) = 0

とおくことができます。

また、水面(x=L)は固定端なので、そこで定常波の振幅はゼロでなければなりません。上の条件と合わせると
   cos(k L+δ) = 0

であることがわかります。

(注:物理数学に詳しい方へ:厳密な考察がしたければ、指数関数exp(−p1 x)の代わりに双曲線関数
   sinh(−p1 (L−x) ) = {exp(p1(x−L)) ー exp(p1(L−x)) }/2
           = 定数・exp(p1(xーL)) +定数'・exp(−p1 x)
を使うと、x=Lが固定端であることを式の中に自然に取り込めます。ここでの扱いでは、最後の式の第1項が、開口端補正の考察で重要な開口部(x〜0)で非常に小さいゆえ無視し、また、定数' をB1とおいています。)


■計算結果

定積分の計算は高校数学の範囲で実行可能です。部分積分を2回行うと、元の形が出てくるので定積分の値がわかるタイプです(あるいは、複素関数に詳しい方なら、三角関数を指数関数に直してから積分するのが容易です)。いずれにせよ、上で述べた条件を使うと、結果は B1 についての2次関数となり、平方完成すると

   定積分 = (1/(2 p1)) (B1 − I1)2 + I2

の形になります。ここで、I1とI2はδのみの関数です。I1の具体的な形は以下では使いません。また、I2は、三角関数を合成した形で示すと次のようになります。βは tanβ= k/p1 を満たす鋭角です。

   I2 = L/2 − 1/(4 k) { sin(2δ+4β) + 2 sin(2β) }

最初の式からわかるように、δを固定して、B1を動かすと、定積分はB1=I1のときに最小値I2をとります。次にδを動かしてI2の最小値を求めると、それが定積分の本当の最小値を与えます。

ここで、ちょっとした物理的考察が必要です。I2の式は、気柱の長さLに比例する項 L/2 を含んでいます。この項は、本当は固定端条件 cos(k L +δ)=0 を通して、δに依存しているのですが、ここではその依存性を無視して、定数であると思うことにします。言いかえれば、I2の式の右辺の項のうち、第1項は無視して、最小値を求めるということです。

その理由は以下の通りです。水面が下がって気柱の長さが増えれば、それだけ管壁の表面積が増えるので、摩擦熱が多く発生するのは当たり前です。いま興味があるのは、そのような水面の移動による摩擦熱の発生量の変化ではなく、開口端の付近での定常波の形の変化による、摩擦熱の変化です。その部分を取り出すために、気柱の長さに比例する項は落とすことにします。

そこで、Lを定数と思ってδを動かすと、I2が最小となる条件
   sin(2δ+4β) = 1

を得ます。よってnを整数として、条件
   2δ+4β = π/2 + 2 nπ

が得られます。−π/2 < δ ≦ π/2 の範囲にこの条件を満たすδは1つだけあります。
   δ = π/4 − 2 β  (ただし、tanβ= k/p1
     = π/4 − 2 Arctan(k/p1)

これが位相(角度)で表した開口端補正の理論値です。

先ほど述べたように、p1〜1/aなので、第2項は、2 Arctan(k/p1) 〜 2 Arctan(k a) となります。波長に較べて狭い管では kaが小さいので、この項は
   2 Arctan(k a) 〜 2 k a
と近似できます。

つまり、非常に狭い管ではδはほとんどπ/4 、つまり、2πの8分の1であり、管の幅aが広くなるにつれ、それにほぼ比例してδは減少するのです。

開口端補正の長さΔと、上の角度δの関係は、Δ = kδ = {λ/(2π)} δ でした。このことから、管が狭い極限で開口端補正の長さは波長の8分の1であり、管の幅が広がるにつれ、それにほぼ比例して、開口端補正は短くなることがわかります。

この結果は、一辺が非常に長い長方形の管について、指数減衰モードを1つだけ考慮して得られたものです。しかし、今後の考察で示すように、上で述べた特徴は、任意の断面を持つ管に対して、任意個数の指数減衰モードを考慮した場合にも成り立ちます。


■減衰しにくい定常波の形 --- 指数減衰モードが複数の場合

上で求めたδの式を δ = π/4 − θ1 と表すことにします。ここで、θ1は1番目の指数減衰モードだけがあるときに開口端補正の位相がπ/4からずれる量を表します。もちろん、先ほどの結果よりθ1=2 Arctan(k/p1) です。

同様に、2番目の指数減衰モードだけがあるときに開口端補正の位相がπ/4からずれる量をθ2=2 Arctan(k/p2) で表します。θ3、θ4、…なども同様に定義します。

では、1番目からN番目までのN個の指数減衰モードがすべて励起可能なときに、開口端補正の位相δはいくらになるでしょうか。先験的には、これが簡単な式で表される理由はないのですが、計算してみると、結果は実に簡単になるのです。答は

   δ = π/4 − (θ1 + θ2 + … + θN)

と、単に各モードの効果を足し合わせたものになります。

どうしてこんなにきれいな式になるのか、その理由をWave of soundはまだよく理解していません。いまのところ、上の式を導く計算は相当大変です(コーシーの行列式というものを使ってできます。そのうち紹介するつもりです)。これから、その背景をじっくり探ってみたいと思っています。


■今後の予定

これで大筋の説明が終わりました。粘性の役割、管内の定常波に指数減衰モードがあることと、それらのモードの減衰率p1, p2, p3, …が重要な役割を果たしていることがご理解いただけたかと思います。

次回からは、指数減衰モードに焦点をあてます。まず、指数減衰モードの振動が生じる理由を説明します。また、管の断面の形状や、管壁で課すべき境界条件(これまでちょっと曖昧にしたまま説明してきました)によって、減衰率p1, p2, p3, …がどう決まっているのか、についても説明する予定です。

今回はずいぶん長くなりましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。実験できる環境が身近にある方は、ぜひ、実験でこの理論値が正しいかどうか、確かめてみて下さい。ご報告をお待ちしております。

では。


気柱共鳴の実験での開口端補正の実際の長さは、「管の半径×定数」という形の従来の「公式」には全く当てはまらないのではないか、とWave of soundは考えています。「細い管での開口端補正の長さは、波長の8分の1」になるはずです。それを順を追って説明し、関心のある皆様と情報交換をするのがこのブログの目的です。

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コメント

以前質問したacousticです.
指数減衰モードに関して質問があります.

ここでは管内流体の変位の時間変化を,変位 = g(x,y) × cos(ωt)とおいています.g(x,y)が変位振幅を表し,空間に依存しています.g(x,y)が正弦波で書かれることは理解できました.しかし同時に指数減衰モードがあるということがよくわかりません.
これら二つが共存しているならば,変位測定器を用いて流体の変位を測定したとき,どのような時間変化が見えるのでしょうか?
二つのモードとも角振動数ωで振動しているので,測定器で得られたデーターをフーリエ変換すれば,同じ周波数のピークで表されるはずです.正弦波モードが節となるような位置でも,指数関数モードが有限であるので節が節として見えなくなることが起きるのではないでしょうか?

投稿: acoustic | 2007.01.15 11:56

acousticさん

指数減衰モードがなぜあるかですが、なるべく高校レベルで説明しようとしたため、かえってわかりにくくなっているかも知れません。音波の満たす波動方程式がそのような解をもつから、というのではどうでしょうか(下で簡単に書きます。もし、波動方程式とか複素数の範囲での指数・三角関数に慣れておられなかったら、ごめんなさい。説明のある適当なページを探してみます)。

2点目の指数減衰モードの節への影響ですが、ご指摘の通り、確かにあるはずです。ただ、指数減衰モードの減衰はかなり急激です。管口から管の直径の長さくらい入り込むと、振幅が10分の1くらいに減るので、最初の節のところでも、節が見えなくなるところまではいかないでしょう。実験で節に影響を見いだすのは難しいかも知れません。

むしろ、管口の近くで(管の軸方向(x)ではなくて)半径方向(y)に変位測定器を動かしてみると、振幅に変化があるでしょう。正弦波モードの振幅はy方向に一定なので、振幅のy方向の変化は指数減衰モードの存在する証拠になります。その変化がx方向に指数減衰するところまでわかれば面白いですね。

あと、どの部分の空気の変位も角振動数ωで振動しているという点はご指摘の通りです。以下、波動方程式の解について書きます(iは虚数単位、expは指数関数)。

あまり強くない音波の場合、圧力の平均圧力からのずれu(x、y、z、t)が波動方程式と呼ばれる次の方程式をみたすことが知られています。圧力の代わりに、密度のずれやあるいは速度ポテンシャルと呼ばれる量などを考えても同様な議論ができますが、ここでは一応、uを圧力のずれと考えることにします。

波動方程式 (∂t)^2 u−c^2{(∂x)^2+(∂y)^2+(∂z)^2}u=0

cは音波の速さで、気体の平均圧力、平均密度、比熱比で決まります。

例としてx方向に進む正弦波の平面波(波面が平面という意味)の解を考えてみます。1次元の進行波 u=exp(i(kxーωt))は、代入するとわかるように、次の関係(分散関係)が満たされる場合に限り、上の波動方程式の解になっています。

ω^2 ー c^2 k^2 = 0

この関係から、波数kはk=±ω/cであることがわかります。「±」のいずれの場合も解uは正弦波を表します(kの符号の違いは進む方向の違いに対応します)。

次に、xy面内のある方向に進む正弦波の平面波の解を考えてみます。2次元の進行波 u=exp(i(k1 x+k2 yーωt))は、代入するとわかるように、次の関係(分散関係)が満たされる場合に限り、上の波動方程式の解になっています。

ω^2 ー c^2 (k1^2+k2^2) = 0

ここでk2=0である場合には1次元の場合と同じで、uは±x方向に進む正弦波を表します。

次に、k2≠0でしかもk2が大きい場合を考えてみます。
(y=±aに壁があるので、y=±aを(圧力変動の)腹とするような定常波を想定しています。その定常波は、それぞれ±y方向に進む2つの進行波の重ね合わせで書けますが、その進行波の波数がk2です。k2は1/a程度なので、大きい量です。)。
分散関係を書き直すと

c k1 = √{ω^2 ー c^2 k2^2}

となります。k2が大きいためルートの中が負になるので、分散関係を満たすためには(=波動方程式の解であるためには)、k1は純虚数でなければなりません。そこで

k1 = ±ip (pは正の実数で、ω、k1で決まる)

と書けば、解uのxに対する依存性はu〜exp(±px)となることがわかります。このうち、「+」のほうは、管の中(+x方向)へいくほど振幅が増加することを意味するので、物理的に捨てるべき解ですが、「ー」の方は振幅が指数減衰するので捨てる理由がありません。これが指数減衰モードです。

投稿: Wave of sound | 2007.01.16 01:15

指数減衰モードの存在の説明の中で,2次元の波動方程式を算出の際,
>>k2≠0でしかもk2が大きい場合を考えてみます
とあります.
波数k=(k1,k2)とおく時,ωはk1,k2共に等しいとおいているので,k1とk2が異なるのは,音速がc=(c1,c2)となることに起因しているのですか?
そうなると,
>>k2≠0でしかもk2が大きい場合を考えてみます
ということは,前提として第3回で述べたように流路半径が非常に小さい時には,c1に比べてc2が小さくなることがあるということですね?

投稿: acoustics | 2007.01.16 13:31

> 音速がc=(c1,c2)となることに起因しているのですか?

> 流路半径が非常に小さい時には,c1に比べてc2が小さくなる
> ことがあるということですね?

だいたいOKです。速度の逆数の波数kで考えますと、

k1^2 + k2^2 = 一定

という関係があり、k2が大きければk1が小さいのです。ふつうの状況では、k1は0以上なのでk2の大きさには限界があるのですが、片側だけに無限に伸びた管では、k1^2が負になることができます(k1が純虚数=指数関数モード)。そのため、k2には大きな値がゆるされ、管壁が腹という境界条件を満たすことができます。

***

以下、式で詳しく説明します。

前に書いた2次元の平面波の式u=exp(i(…))の式の実部をとりだすと

uの実部 〜 cos(k1 x+k2 yーωt)

となりますが、これはある方向に進む正弦波を表しています。波数ベクトル(k1、k2)の大きさをkと書いて、k1=k cosθ、k2=k sinθで角度θを定義するなら、この波はx軸と角度θをなす方向に進んでいます。

波動方程式から導かれる分散関係は k1^2+k2^2 = (ω/c)^2 (*)となります。この式は波数ベクトルの大きさkが一定であることを示しています。いろんな方向θに進む波がすべて、波動方程式の解として許されるわけです。

以上は無限に広がった空間での話ですが、今は管壁があるので境界条件から定常波が生じ、波数ベクトルに制限が付きます。壁のところが圧力の腹という境界条件から、k2はとびとびの値(k2=0、π/a、2π/a、…)だけが可能です。この制限のため、波の式は次の形が許されます(nは節の数=0,1,2,…)。

u 〜 cos(k2 y)exp(ik1 x)exp(ーiωt)

ただし、k2 = nπ/aで、k1は(*)から定まる。

この式は、k1が実数なら正弦波モード、純虚数なら指数関数モードを表します。

もし、管がx軸に沿って両側に無限に伸びているなら、指数関数の解は許されないのでk1は実数でなければなりません。なので、関係(*)においてk2^2はそれほど大きくなれません。よってn=0のモード(ふつうの正弦波モード)だけが許されます。

しかし、管がx軸に沿って片側だけに無限に伸びているなら、指数関数の解(k1が純虚数)もゆるされます。k1が純虚数なら、k1^2は負なので、(*)においてk2が大きな値をとることが可能です。つまり、n=1,2,3、…の解(指数減衰モード)もあり得ます。

投稿: Wave of sound | 2007.01.17 18:04

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