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気柱 5 指数減衰モード(1)

5回目の今日は、気柱内の管口付近に局在する定常波のモード(指数減衰モード)についてお話しします。

管内の定常波については、おなじみの正弦波モードだけに注目するのがふつうです。しかし、前回の考察で示したように、共鳴している気柱において開口端補正の長さが決まるメカニズムには、指数減衰モードが重要な役割を演じています。

前回の考察はちょっと式に頼りすぎ、あまり物理的イメージが伝わらなかったかも知れないので、今回は最初に、開口端補正の長さと指数減衰モードがどう関係しているのかを直観的に説明したあとで、指数減衰モードが生じるわけをお話ししたいと思います。


■開口端補正の長さを決める指数減衰モードの役割

指数減衰モードは管口付近に局在する定常波の振動モードです。その振幅は管口のところで一番大きく、奥へ入るにつれ急激に減少します。振幅の減少は単調で、正弦波モードのように、節(振動しないところ)はありません。

さて、開口のところが腹(つまり開口端補正がゼロ)であるような正弦波モードをコサインモード、開口のところが節(つまり開口端補正が波長の1/4)であるような正弦波モードをサインモードと呼ぶことにします。

現実の管に生じる正弦波モードは、コサインモードとサインモードをある割合で足し合わせたものです。後者の割合が大きいほど、開口端補正は長くなります。この正弦波モードに、さらに指数減衰モードをある割合で足し合わせたものが、管内の実際の定常波になります。

指数減衰モードは管口付近でだけ大きな値を持つので、コサインモードとの重なりが大きく、サインモードとはあまり重なりがありません。ですから、もし、コサインモードに指数減衰モードを逆の符号で重ね合わせれば、両者が打ち消し合って、管口付近で振幅の小さな定常波が生じることになり、管壁でのまさつによるエネルギー損失を小さく抑えることができます。これが、管口付近がだいたい(正弦波モードの)腹になる理由です。

しかし、さらに詳しく考えれば、指数減衰モードにコサインモードだけを(逆の符号で)重ねあわせるときより、少しのサインモードを追加で加える方が、よりエネルギー損失を小さくできるのです。これが、開口端補正が生じる理由です。

追加すべきサインモードの割合は、指数減衰モードの具体的な形によって決まります。このあとで見るように、その形は管の太さ(幅)によって変わるので、管の太さが開口端補正の長さに関係してくるのです。

管が太いと、指数減衰モードの振幅は管の奥へ進んでもゆっくりとしか減少しません。この場合にはコサインモードとの重なりが大きく、開口端補正はゼロに近くなります。逆に、管が細いと、指数減衰モードは管の奥へいくにつれ、急激に減少します。この場合にはサインモードとの重なりが相対的に増え、開口端補正は大きくなります。そして、管が無限に細い場合には、開口端補正の長さは波長の1/8になるのです。


■全反射とは

まず、管口付近に指数減衰モードが生じるわけを、高校物理でおなじみの全反射のたとえを使って直観的に説明します。そのあとで、同じことを数式を使って説明します。

全反射は、2つの媒質の境界で起きる現象です。普通は境界面で、透過と反射の両方が起きるのですが、波が入射する角度によっては、反射だけになって透過が起きない場合があります。それが全反射です。

例えば、透明な液体中を進んできた光が液面に斜めに入射した場合、ふつうは一部が液面で反射して液体中へと戻り、残りが空気中へと透過(屈折)します。反射する光は反射の法則(入射角=反射角)を満たす方向へと反射します。また、屈折する光は屈折の法則(スネルの法則)を満たす方向へと進みます。

図は、液面に入射する光線の一部を何億倍にも拡大したものです。光の波長(数百ナノメートル)が目に見えるくらいまで拡大しています。図の矢印が光の進行方向を、平行な線が光の波の山(や谷)を表します。

5zu1.jpg

空気中での波長:液体中での波長 = 2:1


屈折する方向は、図のように2つの媒質それぞれの中での波長の比率によって決まっています(図では、下側の液体中での波長が、空気中での波長の半分であるとしています)。

ここで、液面に入射する光が、上の図よりもっと浅い角度で入射するならば、空気中の波の進行方向をどのように選んでも、「空気中での波長:液体中での波長 = 2:1」という関係を満たすことができない、ということがわかると思います。この場合には、透過(屈折)は起きず、反射のみが起きます(図がごちゃごちゃするので、反射する波は書いていませんが)。

透過光がないといっても、実際には液面近くの空気中には、ごくわずかに光はもれだしています。しかし、その強度は液面から上へと進むと急激に減衰するので、空気中の離れたところまでは事実上、届かないのです。その様子を、ホイヘンスの原理から見てみましょう。

上の図からわかるように、液面には下方から次々に波がやってきます。ある時刻に、液面のある場所は山、隣は谷、その隣は山といった具合です。つまり、液面の各場所は少しずつずれた位相で、同じ周期で振動しています。それが新たな波源となって、球面上の波を四方八方に送り出します。

液面の下側の十分に離れたところには、水面の各部からの波が到達します。ある場所は、ちょうど液面各部からの波が同じ位相で到達して、強めあう点になっています。その場所がちょうど、反射光が到達するところで、反射の法則を満たす方向の延長上の点です。他のたいていの場所は、水面各部からの波がばらばらの位相で到達するため、波が打ち消し合ってしまいます。そのような場所は、反射の法則を満たす方向の延長上にはありません。

液面の上側、空気中の十分に離れたところでも同様な議論ができます。液面各部からの波が同じ位相で到達して、強めあう点がちょうど、屈折光が到達するところで、屈折の法則を満たす方向の延長上の点にあたります。

ところが、液面に下方から入射する光の角度が浅い場合には、液面の各点の振動の位相の場所による違いが、空気中の波の波長よりも速いペースで変わってしまうため、液面の上側の空気中の遠くの点で、液面各部からの球面波が同じ位相で到達して強めあうことが、決して起きなくなってしまうのです。そのために、屈折光(透過光)が遠方まで届きません。これが全反射です。

しかし、全反射が起きている場合でも、液面に十分に近い空気中の点では、ごくそばの液面からの球面波が、他の部分からの球面波によって打ち消されず、少しだけ残るので、いくらかは光が届きます。これが液面からわずかに漏れ出す光です(気柱での指数減衰モードに対応)。ただし、液面から離れると、液面の各部からの光がほとんど完全に打ち消しあうので、漏れ出す光の強度は急激に弱まります。


■指数減衰モードが生じるわけ---直観的説明

上で見た全反射では、波が斜めに進んでいます。実は、気柱内でも波は斜めに進んでおり、それが指数減衰モードの生じるわけに関係しているのです。

定常波は一般に、逆方向に進む2つの波の重ね合わせとみることができます。ふつう、気柱内の定常波は、気柱の奥の方へと進む波と、奥の固定端(水面など)で反射して管口に向かって戻る波を重ね合わせたもの、として説明されます。気柱内の定常波のうち、正弦波モードについてはこの理解でOKです。

一方、指数減衰モードの方は、管壁で反射しながら斜めにジグザクに奥の方へと進む波と、同様に反射しながら管口へと戻る波を重ね合わせたものとして理解できるのです。

5zu2.jpg


簡単のため、2枚の広い平面板が距離aを隔てて平行に向かい合っており、外から斜めに入射して、その間を反射しながら奥の方へと進む、波長λの波があるとしましょう。平面板は、波の山を山として反射するとします(自由端)。図がごちゃごちゃするので、右の方にある固定端で反射して戻ってくる波は書いていません。ちゃんと定常波が生じているなら、その戻ってくる波の山や谷は、上の図の入射波とうまく重なって、進まない波ができているはずです。山と山が重なるところは定常波の腹、山と谷だと節です。

さて、上の図の状況では板の間隔aに較べて波長λが小さいので、左の管口のところで、上端が定常波の腹で、下端も腹になっており(中央にも腹が一個あります)、自由端の条件を満たしています。

波長λが同じで板の間隔aが上の状況の半分になっても、上端が腹、下端も腹で、間には腹がない状態で、自由端の条件を満たすことができます。

では、半分よりほんの少しだけ板の間隔が狭くなったらどうでしょうか。この場合には、そのままでは自由端の条件を満たすことはできませんが、もし、波がもう少し下の方から深い角度で入射するならば、自由端の条件を満たすことができるでしょう。

では、もっと間隔aが狭くなったらどうでしょうか。この場合にはもはや、波が斜めからどのような角度で入射しようとも、自由端の条件を満たすことができません(注)。言いかえれば、反射を繰り返して奥へ進むにつれ、いろんな場所で反射した波どうしが打ち消し合って、振幅は急激に減衰するのです。これが管口付近に指数減衰モードが生じるわけの、直観的な説明です。

注:真横から波が入射する場合は例外的です。この場合には、自由端の条件は常に満たされます。これが正弦波モードです。

減衰の程度と間隔aとの関係の定量的な話をこのあと書くつもりだったのですが、眠くなってきたので、次回にします。では、今回はこれで。

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