« 気柱 5 指数減衰モード(1) | トップページ | 気柱 7 開口端補正の長さ »

気柱 6 指数減衰モード(2)

6回目の今日は、前回に引き続いて、気柱内の管口付近に局在する定常波のモード(指数減衰モード)についてお話しします。

今回の目標は、管の太さが指数減衰モードにどう関係しているのかを調べることです。

管が細い(あるいは幅が狭い)ほど、指数減衰モードの減衰率(管口から奥へ入るときに振幅が減衰する程度)が大きくなることを示します。これは、開口端補正の長さを管の太さで表す公式を導くための重要なステップです。

以下では、音の波長λは与えられた定数と考えます。音速(これは気温や気圧、湿度で決まります)と音源の振動数が与えられれば、λは決まるからです。


■斜めに進む波の、各方向への波長と波数

前回お話ししたように、管内に生じる定常波は一般に、逆方向に進む2つの波を重ねあわせたものとみなせます。そのうち、正弦波モードは、管の軸に沿った方向に進む波を重ね合わせたものですが、指数減衰モードは、管壁で何度も反射しながら斜め方向にジグザクに進む波を重ね合わせたものです。

6zu1.jpg


そこで、斜め方向に進む波に注目します。波の波長をλとします。これは、図の青線の間隔(ある時刻の、となりあう波の山と山の間の最短距離)です。

左右方向に歩いていったときの波の山どうしの間隔、つまり左右方向の波長λLや、同じようにして定義される上下方向の波長λTは、λとは異なります。図からわかるように、波の方向をθとして

   cosθ = λ/λL 、   sinθ = λ/λT

の関係があります。サインとコサインの間には cos2θ+sin2θ=1 の関係が常に成り立つので、上の式を代入すると (λ/λL) 2+(λ/λT )2=1 あるいは変形して

   (1/λL) 2+(1/λT )2 = (1/λ)2   (*)

の関係が、各方向の波長の間に成り立つことがわかります。

左右方向の波長λLは、上の式からわかるように、一般にはλより大きくなります。(実数の2乗は0以上であることを思い出して下さい。)図から考えても明らかですね。

ただし、真横に進む波では、図からわかるようにλTが無限大となるので、左右方向の波長λLとλは一致します気柱共鳴の実験で測定しているのはふつう、管壁で反射したりせずに真横に進む正弦波モードの波長ですが、この正弦波モードの場合にはλLとλは一致すると考えて構いません(注)。

注:管壁で課すべき境界条件が自由端条件でない場合には、λLとλは少しずれてきますが、今回は自由端境界条件を仮定することにします。


■管内を斜めに進む波の各方向の波長

2枚の広い平行な板が、距離aを隔てて向かい合っているとします。板は左右方向にのびているとします。この間に生じる定常波の、各方向への波長を考えます。板の所では、山は山として、谷は谷として反射されるとします(自由端境界条件)。まず、上下方向(板に垂直な方向)の波の波長を考えます。

この場合には、上下方向の波の波長λTは、板どうしの間隔aと関係してきます。なぜなら、板のところが(上下方向にみたときの)定常波の腹になるからです。

上下の板が腹で、中間に節が1つだけある状況では、間隔aはちょうど波長の半分ですから
   a = 1/2 λT

上下の板が腹で、間に節、腹、節と並ぶ状況では、間隔aはちょうど波長の2/2倍ですから
   a = 2/2 λT

上下の板が腹で、間に節、腹、節、腹、節と並ぶ状況では、間隔aはちょうど波長の3/2倍ですから
   a = 3/2 λT

一般に、間に節がn個ならぶ状況(振動モード)では、間隔aはちょうど波長の n/2 倍ですから
   a = n/2 λT
あるいは変形して
   1/λT = n/(2a) (n=1,2,3,…) (★)

となります。節の数nが多いモードほど、上下方向の波長λTは短くなります。

(この項と、関連する以下の部分にケアレスミスがあったので、ちょっと書き直しました。 10.14 記)

■左右方向の波長

左右方向(板に平行な方向)の波長λLは、上下方向の波長が決まれば自動的に式(*)から決まります(下に再掲)。
   (1/λL) 2+(1/λT )2 = (1/λ)2   (*)

節の数nが多いモードになるほど、λTが短くなり、λLは逆に長くなります。最初に示した図からわかるように、このことは、波の進む方向が、左右方向からだんだんと上下方向へと傾くことを意味します。つまり、上下方向の節の数が多いモードというのは、管の内壁で何回も反射しながら進む波に対応しているのです。

さて、図から明らかなように、上下方向の波長λTは、音の波長λを越えて小さくなることはできません。これを式★とあわせて考えると、十分に大きなnに対しては関係(*)を満たすような進行波は存在しないことがわかります。

この事情は、屈折の法則を満たす屈折角がない状況で全反射がおきることに似ています(前回の解説を参照)。この場合、遠方まで届く屈折光はなく、境界付近からわずかに漏れ出す光は、境界から離れると急激に減少するのでした。

気柱の場合には、これは管口付近にだけ存在し、奥へ進むと振幅が急激に減衰するモード(指数減衰モード)に対応しています。

ふつう気柱共鳴に使うのは、音の波長λに較べて細い管(aが小さい)です(λは数十センチ、aは数センチくらい)。そのような状況では、さらに興味深いことがおこります。式★からわかるように、そのような管では、n=1のモードに対してすら、λTは波長より十分に小さいのです。つまり、事実上すべての斜めに進む波が、指数減衰モードに対応することになります。奥まで届くのは、真横に進む正弦波モードだけです。


■波の式と波数

左右方向の座標をxとします。原点を適当にきめれば、ある時刻の、2枚の板から一定の距離のところの、座標xの場所における媒質の変位fは一般に

   f = A cos((2π/λL)x)

のように書くことができます。λは波の波長で、Aは定数です(Aの値は上下方向の座標によって違いますが、いまは縦座標は一定として考えています)。上の式で、座標xがλLだけ増えれば、ちょうど位相(=cosの中の角度の部分=(2π/λL)x)が、2π(一周)だけ増えます。波長には、位相が2πだけ変わる長さ、という意味があります。

指数減衰モードの減衰率を管の太さaで表すために、波数という量を考えます。波数とは、
   波数 = 2π/波長

で定義される量で、場所による位相の変化の度合いの尺度です。ちょうど、角振動数が
   角振動数 = 2π/周期

で定義され、時刻による位相の変化の度合いの尺度であるのと同様です。

関係(*)により、波の波数k(=2π/λ)、上下方向の波数kT(=2π/λT)、左右方向の波数kL(=2π/λL)の間には

   
2 = kT2 + kL2

の関係があります。よって kL = √{k2 − kT2}。これに式(★)を代入して、左右方向の波数を幅aと節の数nで表すと

   kL  =  √{k2 − n2 (π/a)2}   

さて、この式は、ルートの中が正の量であると仮定して得られたものです。しかし、先ほど述べたように、狭い管(今は2枚の板です)ではaが小さく、ルートの中は負の量ですから、波数kLは虚数になってしまいます。つまりiを虚数単位(i2 = −1)として

   kL = ±pi ただし p = √{ n2 (π/a)2 −k2 }

となるわけです。

この場合に、場所xの媒質の変位fを表す式

   f = A cos((2π/λL)x) = A cos(kL x)

には、なんらかの意味があるのでしょうか。


■オイラーの公式(指数関数と三角関数の関係)

実はこの問題は、数の範囲を複素数にまで拡張すると、三角関数と指数関数の間に関係が生じる、という深くて美しい数学に関係しています。その関係はオイラーの公式と呼ばれ、

   exp(iθ) = cosθ+ isinθ

と表されます。上の式でθ=πとおくと

   eiπ = −1

となり、円周率π、虚数単位i、自然対数の底eという、数学で重要な3つの定数の間にある、神秘的にすら見える関係式が現れます。詳しい説明は解説書にゆずり、ここではオイラーの公式を認めて話を進めます。

上の式は、指数関数を三角関数で表す式ですが、逆に、三角関数を指数関数で表す式を求めてみましょう。上の式でθを−θで置きかえて、関係cos(−θ)=cosθ、sin(−θ)=−sinθに注意すると

   exp(−iθ) = cosθ− isinθ

これを先ほどの式と各辺どうし加えて2で割って

   (exp(iθ) + exp(−iθ))/2 = cosθ

これで、コサインを指数関数で表す式が得られました。各辺どうし引いて2で割ると、サインを指数関数で表す式も得ることができます。

   (exp(iθ) − exp(−iθ))/(2i) = sinθ

さて、コサインを指数関数で表す式のθに、先ほどのkLx = ±pixを代入してみます。コサインは偶関数なので、±のどちらを代入しても同じですから、θ = pixとおくことにしましょう。するとi2 = −1 に注意して

   cos(pix) = (exp(i・pix) + exp(−i・pix))/2

        = (exp(−px) + exp(+px))/2
  
を得ます。この右辺の第1項は右方向へ減衰率pで減衰する指数減衰モードを表し、第2項は左方向へ同じ割合で減衰する項を表しています(注)。つまり、純虚数の波数は、減衰する定常波のモードの、減衰率を表していたのです。

注:ここでは簡単のためコサインしか考えていませんが、一般には、定常波の各モードの振幅はA cos(kL x) + B sin(kL x) のようにサインとコサインの重ね合わせで表されます。上のように波数kL が純虚数になる場合には、それは結局、exp(−px) と exp(+px)の重ね合わせになります。重ね合わせの重みは、水面の位置(x=L)で振幅がゼロになるように選ぶべきです(固定端)。そうすると、管口付近(x≒0)では、第1項の指数減衰モード exp(−px) が大きく、第2項のexp(+px)は無視できるほど小さくなります。


■指数減衰モードの減衰率pnと管の幅aとの関係

2枚の板が間隔aで向かい合っている「管」の場合に、第n番目の指数減衰モードの減衰率pnと「管」の幅aの関係は、いま求めたように、

   pn = √{ n2 (π/a)2 −k2 }

     = √{ n2 (π/a)2 − (2π/λ)2 }


となります(k=2π/λ)。ここで、nは板の間に存在する節の数を表します。

ふつう、波長λに較べて管の幅aは十分に小さいとみなせます。その場合には、|ε|≪1のときの近似式 √{1+ε} ≒ 1+ 1/2 ε− …を用いると、減衰率は

   pn = n (π/a) √{1 − (2a/(n λ))2 }

     ≒ n (π/a) (1 − 2 (a/(n λ))2 −…)

で近似できます。特に、a/λ ≒ 0のときには、pn ≒ n (π/a) であって、減衰率は幅aが減るとともに、幅aに反比例して増大します。管の幅が狭いほど、減衰率は大きいのです。

この結果は、2枚の平行板が「管」をなす場合に導かれたものですが、定性的には任意の形の断面をもつ管で成立します。

では今回はこれで。次回は、上の結果を基にして、開口端補正の長さΔを管の幅aで表す表式を導きます。できれば円筒形の管も扱いたいと思っています。

|

« 気柱 5 指数減衰モード(1) | トップページ | 気柱 7 開口端補正の長さ »

「気柱共鳴の物理」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 気柱 5 指数減衰モード(1) | トップページ | 気柱 7 開口端補正の長さ »