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気柱 7 開口端補正の長さ

7回目の今日は、前回やり残した、開口端補正の長さを管の太さ(幅)で表す公式を導きたいと思います。引き続き、幅(一辺)がaで、他の辺が無限に長い長方形の管について考えますが、最後に、円筒形の管の場合の開口端補正の長さについてもお話しします。

材料はすべて揃っているので、あとは式に代入するだけなのですが、本題に入る前に、管口付近に局在するモードでの管内の空気の振動の様子について図で説明しておこうと思います。これは、出てきた公式の物理的意味を理解するために、あとで必要になります。


■指数減衰モードでの振動状態

7zu1.jpg


上の図は、n=1の指数減衰モード(管壁に垂直な方向の節の数nが1のモード)での、ある瞬間の管内の空気の速度を示しています。左端が開口で、右へ行くほど振動の振幅は小さくなります。半周期後には、各場所の速度は逆向きになります。

図からわかるように、壁のすぐそばの空気の振動は、上下の壁で逆向きになっています。
上の図は中央に1つだけ節があるモードの振動の様子ですが、一般に、壁と壁の間に奇数個の節があるモード(n=1,3,5,…)では、上下の壁で空気の速度が逆向きになります。

それに対して、壁と壁の間に偶数個の節があるモード(n=2,4,6,…)では、上下の壁で空気の速度が同じ向きになります。

また、節の数nが大きいモードほど、奥へ(右方向へ)の振動の振幅の減衰の仕方が急激になります。nが大きいほど、開口付近に局在しています。

なお、n=0のモードだけは特別で、奥へ行っても減衰しません。これはおなじみの正弦波モードです。振動の様子は第3回で示した図の周期的な繰り返しになります。


■開口端補正の長さを表す公式

前回、節の数がnであるモードの減衰率pnを求めました。結果は

   pn = (πn/a) {1 − (2a/(λn))2 }1/2

です。また、第4回で、無数にある指数減衰モードのうち、n番目のモードだけが励起可能な場合に、位相(角度)で表した開口端補正δが

   δ = π/4  ー θn  

ただし θn = 2 Arctan(k/pn)   (k=2π/λに注意)
   
であることを導きました。そして、指数減衰モードのうち、1番目からN番目までのすべてのモードが励起可能な場合には、位相で表した開口端補正が

   δ = π/4 − (θ1+θ2+…+θN)  (*)

と、各モードの寄与の単純な和になることもお話ししました(結果は簡単ですが、計算は大変なので、説明は省きました)。

重要なポイントを復習しておきます。波長λに較べて管の幅aが小さい場合にはθnたちは小さいので、δ≒π/4となります。位相2πが一波長λに対応するので、開口端補正の長さΔは、

   Δ = δ/(2π) λ ≒ λ/8

と、波長のほぼ8分の1になるのでした。

今回はさらに詳しく、上の式(*)の右辺のθnたちの効果もちゃんと考えたいと思います。しかし、その前に1つ、ちょっとした修正が必要です。


■節の数nの偶奇と開口端補正への寄与

第4回では、指数減衰モードでの空気の速度が、上下の壁のところで同じ向きであると仮定して議論を進めましたが、上で見たように、nが奇数のモードではその条件は成立していません。

計算してみるとわかるのですが、nが奇数のモードは開口端補正に全く寄与しないのです。これは、nが奇数のモードの場合、それが正弦波モードと上の壁で強め合うならば、下の壁では弱め合うからです。共鳴するときの正弦波モードの腹の位置は、管壁でのまさつ熱の発生量を最小にする位置ですが、それはnが奇数のモードがどの程度強く励起されているかには全くよらないことがわかります。

というわけで、(*)の式は以下のように修正しなければなりません。偶数番目のモードの寄与だけが現れるのです。

   δ = π/4 − (θ2+θ4+…+θ2m)  (**)

ただし、N=2m(mは自然数)とおきました。


■公式

あとは式(**)が幅aのどのような関数なのかを調べるだけです。いまは、幅aの波長λに対する比 a/λ が小さい量なので、この量で展開してみましょう。|ε|が微小なときの展開式

   (1+ε)n  =  1 + n ε + …

   Arctanε = ε − 1/3 ε3 + …

を用いることができます。結果を開口端補正の長さΔのほうで示すと、次のようになります。

   Δ = λ/8 − a × {A1 + A3 (a/λ)2 + A5 (a/λ)4 + …}

A1、 A3、 A5、…は以下のような定数です。

   A1 = 1/π  {1 + 1/2 + 1/3 + … + 1/m}
   A3 = 1/(6π)  {1 + 1/23 + 1/33 + … + 1/m3}
   A5 = 定数 × {1 + 1/25 + 1/35 + … + 1/m5}
   ……

幅aが波長λに較べて小さい管では、A3以降の項は無視できるほど小さいので、開口端補正の長さΔはaの一次関数でよく近似でき、aが0に近づく極限では波長の8分の1に近づきます。


■円筒形の管の場合

円筒形の管の場合にも結論から言えば、Δは、管の半径aの関数として上と同様な公式で与えられます。ただし、定数A1、 A3、 A5、…の値は異なります。先ほどは、これらの定数には、1,2,3,…という等間隔に並ぶ整数を、何乗かして分母においた分数の和が現れました。この等間隔の整数の起源をさかのぼると、上下の管壁が自由端になるという境界条件にたどりつきます。式で言えば

   d/dy cos(πy)  =  0

を満たす正の実数yがy=1,2,3,…であったということです。

円筒形の管の場合には、境界条件に、三角関数の代わりにベッセル関数 J0(ρ) が登場します。ベッセル関数というのは、円筒状に広がる波(離れるにつれ振幅は減衰する)を表す場合にいつも現れる関数で、三角関数の兄弟のようなものです。ベッセル関数という名で呼ばれる関数は無数にあって、添え字の0はそのうち「第0次」のベッセル関数であることを表す記号です。さて、

   d/dρ J0(ρ)  =  0

を満たす正の実数ρがρ=ξ1、ξ2、ξ3、…(こんどは等間隔ではありません)であるとして、これらが、1,2,3,…の代わりに円筒形の管のΔを表す公式に登場します。

また、一辺が無限に長い長方形の管では、指数減衰モードのうち、上下の壁のところで空気の動きが逆になっているモードは開口端補正に寄与しませんでした。これに類似したことは円筒形の管でもおこります。管の断面の円周に沿って回ったとき、ある場所では空気は奥の方へと動いているが、同じ瞬間に、円周の別の場所では管口へ向かって動いているようなモードは、開口端補正に寄与しません。こうしたモードは、管壁で反射しつつ、回りながら進む波に対応しています。そうしたモードは考える必要はなく、円周上の点が同じ位相で振動しているモードだけを考えればよいことになります。

円筒形の管については、また後日、詳しくお話しする予定です。


■発散の問題について

公式に現れた定数 A1 について、さらに考えるべきことがあります。励起される(節が偶数の)指数減衰モードの個数mが大きくなると、定数A1

    A1 〜 log m

のように振る舞います。mを無限大に近づければ、ゆっくりとではありますが、A1は発散してしまうのです( その他の定数 A3、 A5、…は有限値に近づくので問題ありません)。これは明らかにおかしな結果です。なにがまずかったのでしょうか。

発散が起きてしまった理由は、指数減衰の各モードは、(管壁でのまさつ熱の発生を最小にするような)任意の振幅をとることができる、と仮定したことです。これは、必要なら外からいくらでもエネルギーが供給される、と仮定したことにほかなりません。

実際には、指数減衰モードが期待した振幅で励起されるとは限りません。特に、節の数が大きなモードは、管口付近にしか存在しないため、励起されにくく、また、波の形がなめらかではないので、粘性によりエネルギーを失いやすいのです。


■発散の問題の解決法

こうした現実の物理的状況を取り入れる一番簡単な方法は、定数A1を計算する和においてmを無限大だとは考えずに、m=4とかm=7とか、他の適当なところで止めた有限和を考えることです。どこで止めるかは、(理論探求の放棄ですが)実験にあうように決める!(笑)

もう少しましな方法は、公式を天下り的に修正して

   δ = π/4 − (c2 θ2 + c4 θ4+ c6 θ6+…)

とすることです。ここで c2、c4、c6、…は「手でおく」定数で、最初の方は1に近い値をとりますが、あとへ行くほど減少して0に近づきます。各モードがどの程度期待どおりに励起されているかを表す定数です。これらの具体的な値は、モードが励起されるメカニズム(管壁の振動や音波の非線形性による他のモードとの相互作用)やエネルギー散逸のメカニズムを考慮して決めるとよいでしょう。この修正によって、定数 A1の発散をなくすことができます。

とはいえ、この方法で「手でおく定数」である c2、c4、c6、…を決める際には、管の材質で決まる(内部の空気の振動ではない)管自体の固有振動の周期など、気柱共鳴の現象とは無関係な物理現象の考察が必要になるので、不満が残ります。直観的には、そうした外部の環境要因とは無関係な、最大公約数的な公式がありそうに思えます。

より洗練された方法は、問題の設定自体を変えてしまうことでしょう。第4回では正弦波モードの振幅を一定と仮定しましたから、指数減衰モードがどれほど大きなエネルギーを持ってもよかったのです。これが問題を引き起こしました。

その代わりに、管内の定常波の総エネルギーを一定とおけばよいでしょう。その条件のもとで、管壁でのエネルギー散逸を最小にするように、正弦波モードの腹の位置(つまり開口端補正)と各指数減衰モードの振幅を決めれば、無限大はあらわれないはずです。計算上の困難があって、十分に調べていないのでまだあまり書けないのですが、研究が進んだらまた報告します。

では、今日はこれで。次回は、円筒形の管とベッセル関数の話をする予定です。

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