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気柱 8 円筒形の管の開口端補正

少し日が空いてしまいましたが、8回目の今日は、円筒形の管の開口端補正の長さについてお話しします。どんな順番で書くべきかちょっと迷いました。というのは、物理数学(波動方程式の円筒座標での分離やベッセル関数)を使わないで説明する方法を思いつかなかったからです。そこで、まず、最初に大まかな話の流れを図で説明してから、計算の概略を補足でつけることにしようと思います。


■円筒形の管内部の空気の振動状態

円筒形の管の内部の空気が、外からの決まった振動数の音波によって振動し、定常波が生じているとします。管の一方は空いており(開口)、他方は閉じている(あるいは水面などの存在によって固定端になっている)とします。管の長さは十分に長いとします。

細い管(外からの音の波長に較べて管の半径が十分に小さい管)では、管内の空気の振動はこれまでと同様、奥までとどく正弦波モードと、開口付近に局在する無数の指数減衰モードの重ね合わせになります。それぞれの振動モードでの空気の振動の様子を、管の断面で切って見てみましょう。

まず、正弦波モードの場合、空気は断面のどこでも一様に、管口から奥へ、奥から管口へと軸に沿った方向に振動しています。といっても、その振動の振幅は通常の音の強さならごくごく小さい距離ですが。これを次のような図で表すことにします。プラス記号はある時刻に空気が向こうに向かって動いていることを示します。もし、振動の半周期だけ後の時刻なら、手前に向かって動いていることを示すマイナス記号を書くべきでしょう。

_8_1.jpg



管壁に近い部分の空気も、中心付近と同様の振幅で振動しています。ただし、厚さ0.1ミリにも満たない表皮層の部分の空気だけは違います。管壁のごくごく近くの表皮層では管壁に近づくほど振幅は小さくなり、管壁に接するところの空気は動いていません。空気の粘性のためです(第3回参照)。上の図が示しているのは、表皮層の部分を除いた、管の内部の振動状態です。これから示す図も同様です。

次に、指数減衰モードの場合ですが、以下のようにさまざまな振動状態(無数)があります。太鼓の膜の振動に似ています。ただし違いもあって、太鼓の場合には縁のところが振動しないのですが(固定端)、今の場合には管壁のところの空気は振動します(自由端)。

_8_2.jpg



左上の図は指数減衰モードではなくて正弦波モードですが、比較のために入れてあります。

点線は節線(空気が振動しない場所)です。見てわかるように、節線には半径方向に放射状に走るものと、円形のものとがあります。

左の2つの図は、半径方向の節線がないモード、いいかえると、円周に沿って移動しても半径が同じなら振動状態が変わらない振動モード(軸対称な振動モード)です。これらのモードは、円形に広がる波と管壁から中心へと円形に縮む波とが重ね合わされた結果生じているものです(実際には波は管の軸に沿った方向にも進みますが今は断面に沿った方向の進行に注目しています)。もちろん、この下には、円形の節線が2本あるモード、3本あるモード、…などの図が続いています。

次に、他の図(中央や右側の4つの図)に注目します。これらは、半径方向の節線を1つあるいは2つもつ振動モードです。半径を一定に保ちながら円周に沿って移動すると、空気の振動の様子が違っています(軸対称でない振動モード)。ある時刻に、ある場所で空気が手前向きに動いているとして、別の場所では向こう向きに動いていることもあります。これらは、円周に沿って回転しながら広がる波と、逆方向に回転しながら中心に向かって縮む波とが重ね合わされた結果生じているものです。この右には、半径方向の節線が3本あるモード、4本あるモード、…などの図が続いています。

つまり、指数減衰モードは無数にあって、各モードは、半径方向の節線の数m=0,1,2,…と円形の節線の数n=0,1,2,…の組(m、n)で指定できます。ただし、(m、n)=(0,0)のモードだけは例外で、これはおなじみの正弦波モードです。

詳しく言うと、mが1以上のモード(軸対称でないモード)は、半径方向の隣り合う節線どうしがなす角度の半分だけ回転してやると(例えばm=1のモードなら90度、m=2のモードなら45度回転)、回転前とは独立な振動モードを表します。それらをm=ー1,m=ー2などと表すことにすれば、結局、指数減衰モードのそれぞれは、整数m=…、ー2,ー1,0,1,2,…と整数n=0,1,2,…の組(m、n)で指定できることになります(ただし(m、n)≠(0,0))。


■指数減衰モードの減衰率と(m、n)

上では断面で切って振動状態を見ましたが、管の軸に沿った方向に空気の振動状態はどう変化しているでしょうか。

答を言えば、断面図に現れる節線の数(mやn)が多いモードほど、管口から奥へと進むにつれ定常波の振動の振幅は急激に減衰します。これは、第6回で調べた、一辺が無限に長い長方形の断面をもつ管の場合と同様な結果です。


■開口端補正に影響しないモード

ここで紹介している仮説によると、指数減衰モードが正弦波モードとうまく打ち消し合って、管壁での摩擦熱の発生量を抑えるような各モードの重ね合わせの比率から、開口端補正の長さが決まります。

一辺が無限に長い長方形の管の場合には、指数減衰モードのうち、向かい合う2つの面で空気の振動方向が逆になっているような振動モードは開口端補正に寄与しませんでした。そのような指数減衰モードは、正弦波モードと一方の面で強め合うならば、他方の面では弱めあい、2つの面での効果が打ち消し合うからです。

同様なことが、円筒形の管でも起こります。軸対称でない指数減衰モード(mがゼロでないモード)は、開口端補正に寄与しないのです。管壁のある部分(例えば先ほどの図で+と書いたところ)でそれらのモードと正弦波モードが強め合っても、別の場所(ーと書いたところ)では弱め合うからです。

開口端補正に影響するのは、軸対称なモード(m=0,つまり、先ほどの図で一番左側の列にある無数のモード)だけです。


■軸対称な指数減衰モードの減衰率

そこで、n=1,2,…に対して、(m、n)=(0,n)のモード(軸対称な指数減衰モード)の減衰率pnを知る必要があります。この減衰率が、開口端補正を求める公式に現れるからです(第7回参照)。以下の補足で示すように、結果は

   pn = (ξn/a ) √{1 ー ( 2πa/(ξn λ) )2}

です。ここで、aは管の半径、λは音の波長、ξnは第1次ベッセル関数 J1(z) の正のn番目の零点です。ベッセル関数のグラフは例えばこのページで見ることができます。J1(z) は関数 sin(z)/√{z} をちょっと変形したような関数だと思ってみると、だいだいの様子が理解できます。

零点の値はξ1 ≒ 3.8、ξ2 ≒ 7.0、ξ3 ≒ 10.2、…となっています。関数 J1(z) は、第0次ベッセル関数 J0(z) を微分したものになっています。

   J1(z) = ー d/dz J0 (z)


■円筒形の管の開口端補正の長さを表す公式

あとは、第7回で述べた公式(*)にこの減衰率を代入すれば、円筒形の管の開口端補正がわかります。結果を開口端補正の長さΔのほうで示すと、次のようになります。軸対称な指数減衰モードのうち、最初のN個が励起されていると仮定しています。

   Δ = λ/8 − a × {A + B (a/λ)2 + C (a/λ)4 + …}

A、 B、 C、…は以下のような定数です。

   A = 2 {1/ξ1 + 1/ξ2 + 1/ξ3 + … + 1/ξN }
   B = 4π2/3 {(1/ξ1)3 + (1/ξ2)3 + (1/ξ3)3 + … + (1/ξN)3 }
   C = 定数 ×{(1/ξ1)5 + (1/ξ2)5 + (1/ξ3)5 + … + (1/ξN)5 }
   ……

管の半径aが波長λに較べて小さい管では、開口端補正の長さΔはaの一次関数でよく近似でき、aが0に近づく極限では波長の8分の1に近づきます。


■発散の問題

ベッセル関数の零点ξnは、だいたいnに比例して大きくなるので、係数Aは、長方形の管の場合と同様、N→∞の極限で対数的に発散してしまいます。この発散を処理して有限の答を得ることが目下の課題です。長方形の管のところで述べたアイデアを追究することで、実験結果を説明する公式を得ることが可能だと予想しています。


■補足(計算の概略)

上で省略した計算の概略をお話しします。多少の物理数学の知識を仮定します。

<問題の定式化>
管壁の近くの表皮層以外の領域では、弱い音波は、粘性項を無視した単純な線形の波動方程式

   ( c-22/∂t2 ー ∇2 ) ψ = 0    (1)

を満たすと考えることができます(cは音速)。ここでスカラー場ψは速度ポテンシャルで、空気の速度場vと

   v = ー∇ψ

の関係にあります(電位と電場の関係をイメージして下さい)。

(注:表皮層内では空気が渦巻くので、速度場はスカラー場ψの勾配∇ψだけで表すことはできず、もっと詳しい考察が必要になりますが、ここでは立ち入りません。)

空気は管壁を突き破っては動けないので、管壁のところでは、速度場vの管に垂直な成分は零でなければなりません。この条件を速度ポテンシャルψで表すと

   ∂ψ/∂n = 0 (管壁のところで)  (2)

となります。nは管壁に垂直なベクトル(法線ベクトル)です。速度場の管壁に平行な成分には制限はありません。結局、波動方程式(1)の定常解で、境界条件(2)を満たすものを求めれば、(粘性による管壁でのエネルギー散逸を無視した場合の)管内の定常波がわかります。

いま、半径aの管がx軸に沿ってx>0の方向に無限にのびていて、x=0の位置に開口があるとします。円筒座標をとり、中心軸(x軸)からの距離をr、角度をθとします。この座標系でラプラシアンは

   ∇2 = ∂2/∂x2 2/∂r2 r-1 ∂/∂r + r-22/∂θ2

となります。

<波動方程式の定常振動解>
波動方程式(1)の変数分離形の管内での解を通常のようにして求めることができます。いまは、定常振動解で、かつ、x方向に指数減衰し、かつ、角度θに依存しないものものに興味があるので

   ψ = cos(ωt) exp(ーpx) R(r)

とおき、(1)に代入すると R(r) が満たすべき微分方程式

   ( d2/dr2 r-1 d/dr + α2 ) R(r) = 0

ただし、α = √{k2 + p2}、k = ω/c を得ます。

この解は一般に R(r) = A J0(αr) + B Y0(αr) (A, Bは定数)と書けますが、ノイマン関数(第2種のベッセル関数) Y0(αr)はr=0で対数的に発散するので、速度ポテンシャルを表すには適しません。よって、R(r) = A J0(αr) となります。

境界条件(2)よりr=aにおいて d/dr J0(αr) = 0 が成り立つ必要があります。J0の微分はーJ1なので

   J1(αa) = 0

これを満たすαは無数にあります。すなわち、α=ξn/a (n=0, 1, 2, 3, …)。

関係α = √{k2 + p2}に代入すると、n=1,2,3,…に対し、減衰率pn

   pn = √{(ξn/a)2 ー k2}

であることがわかりました(これを少し変形すると、上で紹介した減衰率の表式に一致します)。

なお、n=0のモードは減衰率pnが純虚数になるのでx方向に減衰しません。もちろん、これは正弦波モードに対応しています。
(補足おわり)

   *

今後は、表皮層でおきることを詳しく考え、エネルギー一定の条件下で開口端補正を求める話を書いていく予定です。次回の更新はすこし遅れるかも。では。

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