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気柱 9 粘性の影響を無視した場合の理論値その1

9回目の今日は、粘性の影響を無視した場合の、円筒形の管の開口端補正の理論値についてお話しします。

この理論値についてはすでに、1948年にレビンとシュヴィンガーが厳密な解を与えています。管の内径に較べて音の波長が十分に長い場合には、「開口端補正は半径の0.6133倍」になる、というものです。

ご承知のように Wave of Sound は、空気の粘性の影響を考慮すると開口端補正はもっと大きくなると考えており、このブログではその厳密な表式を見出すことを試みています。レビンとシュヴィンガーの方法に粘性の影響を取り入れることができればよいのですが、それはどうも難しそうです。彼らの方法では、粘性の影響を考慮する際に必要な、管内の定常波の具体的な表式を見出すのが大変だからです。

そこで今回は、やや単純化したモデルで、(粘性の影響を無視する場合に)開口端補正がどのように求まるのかを説明したいと思います。モデルが現実を正確に反映していないので、「半径の0.6133倍」という厳密な理論値は導出できず、「半径の0.5倍」になってしまうのですが、簡単であることと粘性の影響を考慮しやすいという点がこのモデルの利点です。

また最後に、モデルを現実に近づけるために、どのような変更が必要かについても述べます。


■今後の研究の予定

話を始める前に、今後の予定をお話しします。

  近似的なモデル 厳密なモデル
粘性を無視 モデル1 モデル2
粘性を考慮 モデル3 モデル4


今回取り扱うのは、モデル1です。これは近似的に現実の状況を反映したモデルで、かつ、粘性の影響を無視したものです。

モデル2は、粘性の影響は無視するものの、その他の点では正確に現実を反映しています。このモデルでの開口端補正の理論値は、レビンとシュヴィンガーの結果に一致するはずですが、取り扱いの仕方が異なります。

モデル3は、モデル1に粘性の影響を取り入れたもの。モデル4は、モデル2に粘性の影響を取り入れたものです。

モデル1(今回)→モデル2→モデル3→モデル4
 または
モデル1(今回)→モデル3→モデル2→モデル4

の順に考察を進めていくつもりです。モデル4での理論値の導出が最終的な目標です。


■反射による位相のずれと定常波の腹・節

開口端補正は、管内を伝わる音波が作る定常波の腹の位置に関係した概念です。そこで、あらかじめ、反射による位相のずれと定常波の腹の位置について復習しておきます。

2つの媒質が接していて、波がある媒質から別の媒質の側へと進もうとするとき、2つの媒質の境界では一般に反射と透過が起こります。このうち境界で反射して戻る波は、もとの波より振幅がやや小さくなっています。別の媒質へと透過していく波が入射波のエネルギーの一部を持ち去るからです。

では、反射波の位相はどうでしょうか。
これには大雑把に分けて2つの場合があります。入射波と同じ位相で反射する場合(自由端的反射)と、入射波と逆の位相(=πずれた位相)で反射する場合(固定端的反射)です。いずれの場合にも、もとの媒質中では互いに逆向きに進む2つの波(入射波と反射波)が足し合わされて(=干渉して)、進まない波(定常波)が生じます。

自由端的な反射では、境界の媒質は波によって動くことができるので、境界は定常波の腹になります。固定端的な反射では、境界の媒質は波によって動かず、境界は定常波の節になります。

反射波の位相が入射波に対してどのようにずれるか、ということが、定常波の腹の位置を決めている点に注意して下さい。


■気柱の開口端での反射波の発生

次に気柱の場合を考えます。
図のように管内を進んできた波(波1=入射波)が、開口のところから球面上に広がっていきます(波2=透過波)。しかし、それだけではありません。開口部から管内を逆方向に戻っていく波(波3=反射波)もあるはずです。



なぜ反射波があるのだろう、と疑問に思われるかも知れません。今の場合、管内も管外も媒質はどちらも空気で、2つの異なる媒質が接しているわけではないからです。

この場合に反射波が生じるわけを理解するには、音の伝わるメカニズムを考えるとよいでしょう。音は粗密波です。空気の密度が周囲よりわずかに大きいところができると、その部分の圧力が高くなり、まわりの空気を押しやります。その結果、もとの部分の圧力は下がり、まわりの空気が圧縮されます。それがさらにその周りの空気を圧縮し…ということが繰り返されて音は伝わっていきます。

いま、管内の空気は管壁でその動きが制限されています。一方、管外の空気は、そのような制限は受けていません。管外の空気は管内の空気より自由に動けるわけです。つまり、管外と管内はおなじ空気という媒質ではありますが、音の伝わり方に違いがあります。

この違いのために、管内を進んできて管外へと出て行こうする波は、管口のところで「つまずいて」しまいます(比喩的ですが…)。このときに反射波が生じます。


■反射波の位相のずれと開口端補正

この反射波の位相は入射波に対してどうずれているでしょうか。
開口のところの空気はほとんど自由に動けるので、あたかも開口部が自由端であるかのように反射波が生じるのではないか、と予想されます。

実際にもほぼその通りなのですが、厳密には開口部の少し外側に自由端があるかのように反射波が生じます。このずれる距離を開口端補正と呼ぶことはご承知の通りです。

ポイントは、開口部で反射して管内を戻っていく波(反射波)の、入射波に対する位相のずれさえ計算できれば開口端補正が計算できる、という点です。


■単純化したモデル

そこでこの位相のずれを、単純化したモデルで計算してみます。以下では、多少の物理数学の知識(特に、複素関数としての指数関数と、それによる波の記述)を仮定します。詳しくない方は、適当に斜め読みして、結論の部分で、位相のずれ(2δとします)から開口端補正(Δとします)が求まっている、という流れを把握していただければと思います。



x軸に沿って伸びた半径aの無限に長くてごく薄い円筒があるとし、開口部がx=0で、円筒はx<0の領域にあるとします。
円筒には、円錐台の側面の形をした無限に伸びた「つば」がついていて、その円錐の頂角はα、円錐台の側面の延長は、x軸上の正の部分にある一点Cで交わるとします。(以後はα=180度の場合を考えます。つまり、つばが円筒の外壁に密着した場合を考えるわけです)

φを音波の速度ポテンシャルとします(v=−grad φが速度場)。管内の音波はx方向に進む平面波であるとし、その波形をkを波数として

φ1 = A exp(ikx) + B exp(−ikx)

とおきます。ここで時間tに依存する因子exp(−iωt)は省略しています。この因子を考慮すれば、上の式で、Aは右向きに進む波(入射波)の複素振幅、Bは左向きに進む波(反射波)の複素振幅です。

次に、管外を考えます。
波長に較べて広い隙間を通る波はあまり広がらず、狭い隙間を通る波は大きく広がるという、波の回折の特徴を思いだすと、開口部を出て広がる波は、波長にくらべて管の半径が小さい場合には、球面上に大きく広がると考えてよいでしょう。管の半径が小さくない場合には、広がる球面波のエネルギーは前方に集中するので、波の強さが角度に依存するはずですが、今回は各方向に一様に広がると近似することにします。すると、広がる球面波の波形は

φ2 = C exp(ikr)/r

とおくことができます。ここでrはx軸上の点Cからの距離です。

この、管内と管外の2つの領域での波の表式がなめらかにつながる、という条件から、入射波と反射波の位相のずれがわかるのです。

では、この2つの表式をどのようにつなげばよいでしょうか。
ここでは、少々荒っぽい仮定を導入して、取り扱いが簡単になるようにしましょう。もちろん、以下の仮定は近似であって、現実の状況を正確に反映したものではありません。

管の断面積がπaであることに注目します。これと同じ面積をもつ球面の半径をbとすると πa2 = 4πb より b=a/2 となります。そこで、次の2つの仮定をおきます。

・x=0におけるφ1と、r=bにおけるφ2とが等しい(連続性)
・x=0におけるdφ1/dxと、r=bにおけるdφ2/drとが等しい(導関数の連続性)

具体的に式で表すと第一のものは

A + B = C exp(ikb)/b

第2のものは

ik(A − B) = (ikb − 1)C exp(ikb)/b2 

となります。両式からCを消去して

−B/A = (1−2ikb)-1

最後の式の右辺の複素数のargument(偏角)を2δとおくと、これが求める位相のずれです。 ちょっと計算すると、この半分、つまりδが(位相であらわした)開口端補正になることがわかります(注)。

δ = arctan(2kb)/2
  ≒ ka/2 ー (ka)3/6

よって、開口端補正の長さΔを波長λと管の半径aで表すと

Δ = λ×δ/(2π)
  ≒ λ/(2π) × (2π/λ) a/2 (1+ O((a/λ)2))
  = a ( c1 + O((a/λ)2))

ただし、c1 = 0.5 となります。

レビンとシュヴィンガーによる厳密解では c1 = 0.6133 なので、このモデルでの理論値は厳密解よりやや小さめになりました。その理由は2つあります。1つには、内部と外部の解をなめらかにつなぐ際に荒っぽい(天下り的な)仮定を導入したこと。もう一つは、開口部から管外へと広がっていく球面波の強さが方向によらないという近似を行ったことです。

これらの問題点は、モデル2において改善したいと思っています。

以上で、粘性の影響を考慮しない場合の開口端補正についての、単純化したモデル(モデル1)による理論値の話を終わります。

注:上で求めた位相のずれδが開口端補正を表していることを簡単に説明しておきます。
入射波をA exp(ikx) 、反射波をB exp(−ikx)とするとき、上では複素数−B/Aの偏角を2δとおきました。

さて、水面の位置を上下させて共鳴点を探る実際の気柱共鳴の実験では、入射波A exp(ikx) は、水面で反射して管口へと向かう波を表しています。また、管内には、管口で反射して管内に戻る波B exp(−ikx)に加えて、管外のスピーカーなどから管内に入射して、水面へと進む波が存在します。この波が、反射波B exp(−ikx)と同じ位相を持つように水面の位置を調節しているわけですから、結局、水面から管口へ進む波と、逆方向へと進む波はほぼ同じ振幅になっているはずです。ただし、両者の位相は2δだけずれています。

よって、管内の音波の波形(速度ポテンシャル)は、以下の量に比例するでしょう。

exp(+ikx) ー exp(2iδ ー ikx)

= 2i exp(iδ)sin(kx − δ)

速度場は、速度ポテンシャルの勾配なので、この量をxで微分した量

定数 × cos(kx − δ)

に比例します。この最後の表式は、定常波の腹が kx − δ = (πの整数倍)を満たす位置にあることを示しています。(説明終わり)

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