気柱 10 粘性が効く管の太さ
10回目の今日は、粘性の影響が問題となる管の太さ(半径)についてお話しします。
気柱で共鳴がおきているとき、スピーカーなどから1秒間に入射するエネルギーと、管から出ていくエネルギーの量が同じになっています。エネルギーが出ていくメカニズムには主に2つがあると考えられます。管口からの音波の放射と、管壁での摩擦によるエネルギー散逸(熱の発生)です。管内の音の定常波は、これらのエネルギー散逸の合計が最小になるように各振動モードを重ね合わせたものです。
直観的には、音の波長に較べて太い管では、管口からの放射によるエネルギー散逸が主になり、逆に細い管では、粘性によるエネルギー散逸が主になる、と考えられます。
開口端補正もそれに応じて決まるはずです。
太い管では粘性の影響は小さいので、レビンとシュヴィンガーによる理論値、つまり「開口端補正≒半径×0.61」がよい近似となるでしょう。
それに対して細い管では粘性の影響が大きいので、このブログでお話ししているように(まだ理論が完全ではありませんが…)「開口端補正≒波長×1/8」がよい近似となるはずです。
そこで、両者の境目となる管の太さがどのくらいなのかを定性的に考えてみます。これは前回お話ししたモデル3(粘性の影響を考慮した単純化モデル)の考察のための下準備です。
■エネルギー散逸を見積もる(失敗編)
管の半径をa、空気の平均密度をρ、音波による空気の振動速度(の最大値)をV、波長をλ、音速をcとします。
管口から単位時間あたりに放射される音波のエネルギーPは、「単位体積あたりの振動エネルギー×音速×断面積」なので、およそ
P 〜 ρV2 × c × a2
の程度です(1/2やπのような数係数はすべて1に置きかえています。量のおよその大きさを見積もるための大雑把な議論なので)。
また、粘性による単位時間あたりのエネルギー散逸Qは、「壁の面積×単位面積あたりの摩擦力×空気の速度」で、ここで、「単位面積あたりの摩擦力=密度×動粘性係数(ν)×速度勾配」なので、
Q 〜 aλ × ρνV/d × V
ただし、dは表皮厚(第3回参照)でd=√{ν/ω}〜√{νλ/c}です。
PとQの表式を較べると、Pは半径aの2次関数、Qは1次関数で、いずれも原点を通ります。aが大きいときにはPの方が急激に増えます。逆にaが小さいときにはPはQに較べて小さくなります。では、PとQの大小関係が入れ替わる半径aはどれくらいでしょうか。
もちろん、それは音の波長λなどの他のパラメータによって異なりますが、例えばλ=34 cmとしてみましょう。音速はおよそ340 m/sなので、これは振動数1000 Hzの音です。等式
P ≒ Q
を変形すると、
a/λ 〜 √{ν/(cλ)}
となるので、空気の動粘性率ν=1.5×10-5 m2/sも用いて
a 〜 0.1 mm
を得ます。
非常に小さな値です。こんな細い管でないと粘性が効いてこないなんて、直観に合わない気がしませんか? 半径5ミリくらいの管でも、中で共鳴して空気が振動していれば、粘性の影響が大きい気がするのに…。
実はひとつ、考え忘れていることがあります。管端で起きることをよく考える必要があるのです。
■エネルギー散逸を見積もる(成功編…たぶん)
細い管では、中に音がこもります。管端からあまり外へ出て行かないのです。このため、管が細いほど、外部の音の振幅は内部に較べて小さくなります。
これは前回「気柱9」で中と外の波を接続したときの式を眺めていただくとわかるのですが、管が細い場合、管内の音が管外へと透過していくとき、透過波の振幅は管内の振幅の(数定数を除いて)およそa/λ倍になります。波が運ぶエネルギーは振幅の2乗に比例するので、上で求めた管口からのエネルギー放射のスピードPは、正しくは(a/λ)2倍しなければなりません。つまり
P 〜 (a/λ)2 × ρV2 × c × a2
となり、管口からの放射エネルギーは、管の半径aの2乗ではなくて4乗に比例することになります。
これに伴い、PとQが同程度の大きさとなる管の半径も異なってきます。同様な計算をすると
a 〜 0.1 × (λ5 × 4 [cm])1/6
が、粘性の効果と管口からの放射の効果が同程度になる管の半径であることがわかります。以下に表にまとめてみます。(c=340 m/sとしています)
この見積もりは数係数を無視して大雑把に行ったので、正しい値は数倍あるいは数分の1くらいかも知れませんが、定性的な傾向は正しくつかめているはずです。
表からわかるように、放射と粘性の効果が同程度になる管の半径aは、音の波長が長いほど(振動数が小さいほど)大きくなりますが、ふつうの音(数千ヘルツから100ヘルツ)なら、境目の半径は数ミリから数センチです。微妙なことに、ちょうどよく高校での実験で使われるあたりです。
リコーダーのような細い管で、開口端補正が大きいという報告があるのは、やはり粘性の効果が効いているからではないでしょうか。この場合には開口端補正の値は波長のほぼ8分の1になる、というのが私の予想です。
■興味深い実験結果
北海道の札幌南陵高校化学部の皆さんの「ソプラノリコーダーの研究」という ホームページに、 リコーダー(半径0.4cm)の開口端補正と、塩ビ管(0.65cm)の開口端補正Δの実験値がのっています。
指穴をすべて閉じた場合の開口端補正は、リコーダーの場合にはΔ=2.3 cmで、明らかに管の半径a=0.4 cmより長くなっています。(閉管と考えて2Δを補正とみると、4.6 cm。なお、振動数(525 Hz)から計算される波長は66.3cm)
一方、塩ビ管の方はΔ=0.8 cmで、管の半径の1.2倍程度となっており、やはり理論値(半径の0.61倍)より大きくなっていますが、リコーダーほどではありません。
これらの実験値が(粘性の影響を無視した場合の)理論値からずれたのは、ともに粘性の効果によるものでしょう。半径の小さいリコーダーの方が粘性の影響が強く表れたものと思われます。
------ 付記(2008.6.27):空気の動粘性係数の値をひと桁まちがえていたので、表などの数値を訂正しました。定性的な結論は変わりません。なお、表皮厚の式にもミスプリ(分母と分子が逆)がありました。混乱した方がいらしたら、申し訳ありません。
気柱で共鳴がおきているとき、スピーカーなどから1秒間に入射するエネルギーと、管から出ていくエネルギーの量が同じになっています。エネルギーが出ていくメカニズムには主に2つがあると考えられます。管口からの音波の放射と、管壁での摩擦によるエネルギー散逸(熱の発生)です。管内の音の定常波は、これらのエネルギー散逸の合計が最小になるように各振動モードを重ね合わせたものです。
直観的には、音の波長に較べて太い管では、管口からの放射によるエネルギー散逸が主になり、逆に細い管では、粘性によるエネルギー散逸が主になる、と考えられます。
開口端補正もそれに応じて決まるはずです。
太い管では粘性の影響は小さいので、レビンとシュヴィンガーによる理論値、つまり「開口端補正≒半径×0.61」がよい近似となるでしょう。
それに対して細い管では粘性の影響が大きいので、このブログでお話ししているように(まだ理論が完全ではありませんが…)「開口端補正≒波長×1/8」がよい近似となるはずです。
そこで、両者の境目となる管の太さがどのくらいなのかを定性的に考えてみます。これは前回お話ししたモデル3(粘性の影響を考慮した単純化モデル)の考察のための下準備です。
■エネルギー散逸を見積もる(失敗編)
管の半径をa、空気の平均密度をρ、音波による空気の振動速度(の最大値)をV、波長をλ、音速をcとします。
管口から単位時間あたりに放射される音波のエネルギーPは、「単位体積あたりの振動エネルギー×音速×断面積」なので、およそ
P 〜 ρV2 × c × a2
の程度です(1/2やπのような数係数はすべて1に置きかえています。量のおよその大きさを見積もるための大雑把な議論なので)。
また、粘性による単位時間あたりのエネルギー散逸Qは、「壁の面積×単位面積あたりの摩擦力×空気の速度」で、ここで、「単位面積あたりの摩擦力=密度×動粘性係数(ν)×速度勾配」なので、
Q 〜 aλ × ρνV/d × V
ただし、dは表皮厚(第3回参照)でd=√{ν/ω}〜√{νλ/c}です。
PとQの表式を較べると、Pは半径aの2次関数、Qは1次関数で、いずれも原点を通ります。aが大きいときにはPの方が急激に増えます。逆にaが小さいときにはPはQに較べて小さくなります。では、PとQの大小関係が入れ替わる半径aはどれくらいでしょうか。
もちろん、それは音の波長λなどの他のパラメータによって異なりますが、例えばλ=34 cmとしてみましょう。音速はおよそ340 m/sなので、これは振動数1000 Hzの音です。等式
P ≒ Q
を変形すると、
a/λ 〜 √{ν/(cλ)}
となるので、空気の動粘性率ν=1.5×10-5 m2/sも用いて
a 〜 0.1 mm
を得ます。
非常に小さな値です。こんな細い管でないと粘性が効いてこないなんて、直観に合わない気がしませんか? 半径5ミリくらいの管でも、中で共鳴して空気が振動していれば、粘性の影響が大きい気がするのに…。
実はひとつ、考え忘れていることがあります。管端で起きることをよく考える必要があるのです。
■エネルギー散逸を見積もる(成功編…たぶん)
細い管では、中に音がこもります。管端からあまり外へ出て行かないのです。このため、管が細いほど、外部の音の振幅は内部に較べて小さくなります。
これは前回「気柱9」で中と外の波を接続したときの式を眺めていただくとわかるのですが、管が細い場合、管内の音が管外へと透過していくとき、透過波の振幅は管内の振幅の(数定数を除いて)およそa/λ倍になります。波が運ぶエネルギーは振幅の2乗に比例するので、上で求めた管口からのエネルギー放射のスピードPは、正しくは(a/λ)2倍しなければなりません。つまり
P 〜 (a/λ)2 × ρV2 × c × a2
となり、管口からの放射エネルギーは、管の半径aの2乗ではなくて4乗に比例することになります。
これに伴い、PとQが同程度の大きさとなる管の半径も異なってきます。同様な計算をすると
a 〜 0.1 × (λ5 × 4 [cm])1/6
が、粘性の効果と管口からの放射の効果が同程度になる管の半径であることがわかります。以下に表にまとめてみます。(c=340 m/sとしています)
振動数[Hz] | 17000 | 6800 | 3400 | 1700 | 850 | 425 | 212.5 |
波長[cm] | 2.0 | 5.0 | 10 | 20 | 40 | 80 | 160 |
半径[cm] | 0.22 | 0.48 | 0.86 | 1.5 | 2.7 | 4.9 | 8.7 |
この見積もりは数係数を無視して大雑把に行ったので、正しい値は数倍あるいは数分の1くらいかも知れませんが、定性的な傾向は正しくつかめているはずです。
表からわかるように、放射と粘性の効果が同程度になる管の半径aは、音の波長が長いほど(振動数が小さいほど)大きくなりますが、ふつうの音(数千ヘルツから100ヘルツ)なら、境目の半径は数ミリから数センチです。微妙なことに、ちょうどよく高校での実験で使われるあたりです。
リコーダーのような細い管で、開口端補正が大きいという報告があるのは、やはり粘性の効果が効いているからではないでしょうか。この場合には開口端補正の値は波長のほぼ8分の1になる、というのが私の予想です。
■興味深い実験結果
北海道の札幌南陵高校化学部の皆さんの「ソプラノリコーダーの研究」という ホームページに、 リコーダー(半径0.4cm)の開口端補正と、塩ビ管(0.65cm)の開口端補正Δの実験値がのっています。
指穴をすべて閉じた場合の開口端補正は、リコーダーの場合にはΔ=2.3 cmで、明らかに管の半径a=0.4 cmより長くなっています。(閉管と考えて2Δを補正とみると、4.6 cm。なお、振動数(525 Hz)から計算される波長は66.3cm)
一方、塩ビ管の方はΔ=0.8 cmで、管の半径の1.2倍程度となっており、やはり理論値(半径の0.61倍)より大きくなっていますが、リコーダーほどではありません。
これらの実験値が(粘性の影響を無視した場合の)理論値からずれたのは、ともに粘性の効果によるものでしょう。半径の小さいリコーダーの方が粘性の影響が強く表れたものと思われます。
------ 付記(2008.6.27):空気の動粘性係数の値をひと桁まちがえていたので、表などの数値を訂正しました。定性的な結論は変わりません。なお、表皮厚の式にもミスプリ(分母と分子が逆)がありました。混乱した方がいらしたら、申し訳ありません。
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コメント
空気の動粘性率は1.0x10-5のはずですが?
投稿: ryutai-ya | 2008.06.26 18:57
ryutai-yaさま、どうもありがとうございます。
お名前からして、これはWSのミスに違いない(冷や汗)…理科年表から値を拾ったはずなのですが、どこで間違えたのやら。
空気の動粘度がわかる、こちらのホームページ http://stream.nagaokaut.ac.jp/private/pof.html などで確認してみても、ご指摘のとおりでした。
本文中の表などを訂正させていただきました。定性的な結論は変わりません。
今後とも、なにかお気づきの点がありましたら、アドバイスをいただけましたら幸いです。
投稿: Wave of sound | 2008.06.27 18:36
共鳴管の気柱共鳴について質問があります。
片方が閉じていて、片方が開いている場合、
閉じているほうが固定端で、その位置で粒子速度が0の境界条件。
開いているほうが自由端で、その位置で音圧が0の境界条件。
この条件で、波動方程式を解くと、モードの波長がわかるというものです。
ここまでは、高校でも教えてもらう内容なのでわかります。
共鳴が起こるのは、例えば、開口端からスピーカーで音波を入れた場合、固定端から開放端へ向かう
音波が開放端で反射して、再び管中へ戻るため、延々と音のエネルギーの蓄積が起こるためだとどこかのサイトに書いてありました。実際には、空気の粘性などによりエネルギーは散逸して、どこかで定常状態になるようですが・・。
ここからが質問です。
開口位置で反射が起こるのはなぜでしょうか。閉端で粒子速度0は納得できますが、開端で反射が起こる
というのは納得できません。開端での音響インピーダンスは両側空気で連続ですので、
閉端では反射が起こらないと考えるのが自然だと思いますが、その位置で何か特異な現象が起こるという
ことでしょうか。そもそも定在波ができるため、閉端で粒子速度0であれば、共鳴波長のときに開口端で音圧が0になるのは必然じゃないでしょうか。
ということは、スピーカーで共鳴波長以外の波長の音波を入れた場合の開端での境界条件は音圧0ではないということですよね?その場合の境界条件はどうなるのでしょうか。
自由端ですべての音が反射するとすれば、外にいる人には共鳴音は聞こえないですよね?
実際におこっている現象が何なのか全然理解できません。
教えてください。
投稿: テリモ | 2010.07.30 21:59
テリモさん
以下のご説明は本質を突いていてすばらしいです。WSも気柱共鳴の現象をこのように捉えています。
>共鳴が起こるのは、例えば、開口端からスピーカーで音波を入れた場合、
>固定端から開放端へ向かう音波が開放端で反射して、再び管中へ戻るため、
>延々と音のエネルギーの蓄積が起こるためだとどこかのサイトに書いてあ
>りました。実際には、空気の粘性などによりエネルギーは散逸して、どこ
>かで定常状態になるようですが・・。
ただ、上記とは別の部分の記述で、開口部や音の反射に関して、起きている現象を誤解しておられる点がいくつかあるように思いますので、はじめにそれを指摘したあとで、なぜ開口部で反射がおきるのかを直観的に説明してみます。
*
まず、管内を進んできた音波が開口部で反射するといっても、すべてが反射するわけではありません。通過して外部へと球面上に広がっていく音波もあります。つまり、部分反射です。
これはたとえば、水面に光が入射するとき、(全反射する角度でなければ)屈折光と反射光が両方生じるのと同じことです。
次に、境界条件についてです。
>閉じているほうが固定端で、その位置で粒子速度が0の境界条件
>開いているほうが自由端で、その位置で音圧が0の境界条件
「閉端で粒子速度が0」というのはOKです。でも、「開端で音圧が0」というのはたいへん大雑把な近似に過ぎません。
実際には開端の位置でも音圧はわずかに変化しています。「開端の少し外側で音圧がゼロと見なす」というのが通常行われるもう少しましな近似で、これが開口端補正と呼ばれるものですが、これも多少はましとは言えやはり近似に過ぎません。
(WSは音響インピーダンスについて詳しくありませんが、開口部に用いる場合にはやはり近似的な取扱になるだろうと思います。)
実際に開端で何がおきているのか、を知るためには、流体力学などの方程式を解いて空気の運動をちゃんと分析しなければなりません(*1)。
*
本題の「開口位置で反射が起こるのはなぜか」を直観的にホイヘンスの原理を使って説明してみます。
まず、管は忘れてスピーカーから音が球面状に広がっていく場合を想像します。音波が媒質(空気)の各部を振動させ、振動する媒質の各点から2次波と呼ばれる球面波が出ます。ある時刻の波面(スピーカーを中心とする大きな球面)上の媒質のいろんな部分から出る2次球面波の連なりが次の時刻の波面(包絡面)を形成します。そうやって2次波が足し合わさせた結果として、次の時刻の波面が形成され、波面は外へ外へと進行していくことになります。
この説明は高校の教科書などでご覧になったことがあるかと思いますが、図だけで考えると、外側へと広がっていく波面(球面)だけでなく、内側(スピーカー)へと萎んでいく波面(球面)も出来そうに思えます。このあたりは図による説明の限界です。ちゃんと計算すると、波面が外側へ向かって進んできたならば、内側へ向かう波面(球面)はできないことがわかります。
上では広がっていく球面波で説明しましたが、(たとえば左から右へと進む)平面波(波面は平面)の進行も、ホイヘンスの原理により理解できます。
さて、いよいよ水平に寝かせた長い円管の中を左から右へと向かって平面波の音波が進む場合を考えてみましょう。この場合、波面は円管の断面(円板)です。
ある時刻の波面(円板)上の各点から2次球面波が出て、それが次の時刻の波面(円板)を作ります。もとの波面より少し右側に新しい波面(包絡面=円板)ができるでしょう。これまでとほとんど同じですが、管壁付近の2次球面波の一部は壁で反射させて(=壁に関して面対称に折り返して)考えてください。そうした反射波も入れて、新しい波面が少し右側に形成されるわけです。
(円管なので管壁は曲がっていますけど、じゅうぶんに管壁に近づけば(=管壁付近にいるアリにとっては)ほとんど平面とみなせます。上で「面対称」と書いたのはそのためです。)
図の上では、もとの波面より少し左側にも包絡面ができそうに思えますが、さきほどと同様、波面が左から右へと進んできたという情報を入れて計算すると、これは実際にはできません(天下りでごめんなさい)。
ここで、左から右へと進んできた波面が、開口部まできたと仮定します。管はそこでとぎれていて、右側はただの空気です。
開口の0.001ミリ手前(=左)の波面(円板)上の各点から2次球面波がでます。しかし、右側にはこれまでのように壁はもうないので、壁から反射波は返ってきません。なので、少し右側に出来る新しい波面(包絡面)はこれまでとは少し違ってきます。このために、外へと進んでいく新しい波面の形はもはや円板ではなくて、少し球面状に曲がることになります。これが開口部を通過して外側へと広がっていく球面波です。
一方、左側はどうでしょうか。波面(ほぼ円板)が開口の0.001ミリ外(=右)にある場合を想像して下さい。これまでであれば、もとの波面の左側では2次球面波が完全に打ち消し合って、左側に新たな波面は生じなかったのです。この完璧な打ち消しは、壁近くで出来た2次球面波はぜんぶ壁で反射される、という状況で起きていました。
しかし、いまの場合には2次球面波のうち、壁で反射されないで外へと漏れていく部分があります。開口の右側には壁がないからです。さきほどとは状況が違っています。なので、左側でおきる打ち消しは完全にはならない可能性があり、それが実際におきることです。つまり、左側へと戻っていく波面(ほぼ円板)が生じてしまうのです。これが開口部で生じる反射波です。
*
注 *1) 気柱内の空気の振動については、実際におきていることは粘性の影響などもあってWSもよく理解できていない部分があり、このブログではWSの仮説を提示しています。
しかし、円筒管で粘性の影響を無視した場合の理論は完全にわかっています。粘性のないケースでの開端の開口端補正についてはレビンとシュヴィンガーの論文(当ブログの以下の記事を参照)が最終的なものだと思います。ちょっと数学が難しいですが。
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2005/09/11__b4ff.html
投稿: Wave of sound | 2010.08.02 01:09
以前書きました 8 には確かにありませんでした。
誤操作で迷子になってしまったようです。
さて「ソプラノリコーダーの研究」についてですが、
www.ricen.hokkaido-c.ed.jp/424computer/buturi/sopurano/rikoda1.html
で見ますと、円筒管で書いておられますが、普通のリコーダは先窄まりの円錐管で、
百均などの安物では、先が細すぎて音が出なかったりします。
載っている説明図はティンホイッスルの円筒管と同じですが、窓下が直角でアールがありません。
(メーカーが沢山あり全てにアールがあるかは調べていません)
また円錐管のメーカーもあるようですが、リコーダーほどきつくは絞っていないようです。
円筒管にリコーダー笛部を加熱変形させて14φに広げた物
(差し込むときリップクリームを塗っておきますと入れやすいです)を付けて、鳴らしますと、
(s8tunerと言うPCソフトにヘッドホンをマイク代わりに繋ぎ測定しました)
クラリネットモード 倍音が多い中から 聞こえやすい音が拾いやすいです。
Log 2400Hz 表示
内径14φ 窓後端 管端 の距離
409mm 382Hz 768Hz 1155Hz 1531Hz 1952Hz と 5倍音位まで出ました、
音孔を開けて高い音にしたら、上の倍音は出にくいです。
193mm 753Hz 1522Hz 2367Hz 3倍音(音孔ではなく短い管です)
また、円筒管と円錐管では倍音に比率関係が違うようです。
基音はGb~G4相当
と各種の倍音が確認できました。
今はアルトG管に適した笛口と管径を試行錯誤しています。
かしこ
投稿: 猫翁 | 2014.01.15 12:33