言葉の力---亀井久興議員の演説
---ですから、私は、やはり需要をふやしていく、そしてGDPを大きくして、国民所得をふやして、一人当たり国民所得をふやし、可処分所得をふやして、その個人消費の旺盛な力によって景気回復をさせるというのが本筋だというように思うんです---
亀井久興議員(国民新党) 平成19年10月10日衆議院予算委員会での質疑より
この方の演説を衆議院TVのビデオライブラリで聞いて驚きました。これほど力のある言葉を発することのできる国会議員さんが、いまの日本におられるとは。
決して声を荒げたりされることなく、淡々とお話になるのですが、その言葉には力があります。問題の本質を実に平易な言葉で話されます。お時間のあるときにぜひ一度聞いてみて下さい。
福田総理をして「亀井先生のお話を伺って、ついつい引き込まれるような、そういう思いをいたしております」と言わしめた、その質疑(後半部はほとんど演説でした)から、最後の数分間を以下に紹介したいと思います(衆議院TVをもとに、国会会議録にWSが少しだけ手を加えました)。
***ここから引用***
その点もまたいずれ追及をしたいと思いますけれども、それはともかくとして、今何か着実に景気が回復してきているかのようなことをしきりに政府は言いますけれども、私は決して景気が本格的に回復しているとは思わない。一九九八年以降始まったデフレがいまだに解消していない。
私は竹中大臣にあのとき随分、その、いろんなことを申し上げたけれども、需給ギャップが解消されない限り景気はよくなりませんよ、とにかく需要が決定的に不足しているわけですから需要をふやす政策をとらなくちゃいけない、特に内需拡大を図る政策をとらなければ絶対に景気は回復しませんということを言った。ところが、緊縮財政、緊縮財政ということで、それでしかも国債発行は三十兆円に抑えると言われたけれども、そんなものできるわけないですよ、必ず国債増発になりますよと申し上げた。
確かにあのときは補正を組んで、五兆円も増発をしたわけで、小泉内閣を通じて二百兆の国債増発をやってしまったわけですから、これは、財政再建をやろうとした結果として、かえって財政の負担がふえてしまったという結果だと思います。ですから、私は、やはり需要をふやしていく、そしてGDPを大きくして、国民所得をふやして、一人当たり国民所得をふやし、可処分所得をふやして、その個人消費の旺盛な力によって景気回復をさせるというのが本筋だというように思うんですね。
ですから今、可処分所得がね、この六年間で十八兆円、毎年三兆ずつ減ってるんです。その分みんなは、皆さんは貯金を取り崩すしかしようがないから、個人貯蓄が十八兆、それとちょうど見合いの数字だけ減っているんですよね。それでかつては、日本というのは貯蓄大国と言われた。その日本が、今や貯蓄率は一・八%まで落ちてしまった。貯蓄が全くゼロという、そういう世帯が全世帯のもう四分の一、ということですね。
こういう中でね、やはり私は、自民党政治がなぜ続いていったかといえば、一億総中流社会をつくったからだと思うんですよ。ね、私は、よく円盤形社会と言っておりますけれども、やはり、あなたはお金持ち、あなたは貧乏ですかということを聞くと、そんな金持ちじゃないよ、だけれども、そんなひどい貧乏じゃないな、まあ、中の下ぐらいですかな、まあ、ほどほどのところですかな、多くの人がそういう返答をされる。そういう社会というのをね、自由主義、市場経済を通じてつくったということが、日本の保守政治の私は誇るべきことだったと思いますね。その中間所得層が今どんどんどんどん下に落ちていくという危機感を持っているわけですね。
それで、とにかく一年間額に汗して働いても、二百万、年収が二百万にいかないという、そういう人が、もう一九・何%、二〇%近くある。これは私はね、日本の保守政治がせっかくつくり上げていったものを、この六年間で完全にそれを崩し始めている、ま、そういうことだと思います。
私はやはり、一億総中流社会というのはその中間層が大宗でございますから、その人たちが可処分所得をふやして思い切ってお金を使えるという、そういう状況をつくり出さない限り、今の経済の立て直しというのは不可能だというように思います。
それから、財政のことについていいましても、財政再建、財政再建と言われるけれども、今、国が抱えております借金、これは八百三十六兆と言われておりますけれども、しかし、国が持っている金融資産というのは五百八十兆あるわけですから、その金融資産というものを引いてみれば二百五十六兆ですよ、純債務というものは。これは、OECDの国と比べてみてもね、GDPの五〇%ぐらいですから、そんなにびっくりするようなことではない。しかも、外国から金、借りているんじゃなくて、国内でそれをきちっと消化しているわけで、個人金融資産はまだ千六百兆あるわけですからね。
だから、外国の私の友人等に言わせますと、日本ってどうなっているの、自分でお金を持っているのに、そのお金を自国の経済のために使わないでね、アメリカの国債を買ってみたり外貨準備でドルを支えてみたり、ちょっとおかしいんじゃない、もうちょっと国内でね、その個人金融資産がうまく回るような、そういう政策をとるべきじゃないのということを言われるわけですね(拍手)。私は、まさにそのとおりだと思うんです。
ですから、経済財政運営の基本が間違ってきたのではないか。イザナギ景気を超える景気拡大が続いているといっても、あれは計算上のトリックみたいなものでね、デフレのときに実質経済でもって表示をしたらば、プラスになるのは当たり前なんですよ。それは、名目成長率からGDPデフレーターを引くわけですから、マイナスからマイナスでプラスになっちゃう。プラス八・五%の実質成長だなんて、そんなばかなことないですよね。
ですから、もしそうだったら、何で消費税の、あの、増税だとか、増税の議論が出てくるのか。あのイザナギ景気のときには、二・五倍日本の経済規模が大きくなり、毎年減税をやったのに二・四倍税収がふえているんです。そういう流れをつくり出すということを真剣になってお考えをいただいて、思い切った政策転換をやっていただきたい、そのことを私の意見として申し上げまして、私の時間が参りましたので、終わります。
***引用おわり***
WSは1年ほど前、日本の財政赤字と累積債務を解消するにはどうすればよいのか、について考察したことがあります。それで得た結論は、消費性向を上げることがもっとも効果がある、というものでした。
消費性向とは、可処分所得(税金などを差し引いた手取りの金額)のうち、消費に振り向けられる割合のことです。現在65%程度の消費性向が4%上がるだけで、増税や財政出動をしなくても、財政収支が約20兆円も改善します。つまり、中間層の所得を回復し、消費を後押しする政策をとることが大事なのです。
それに対して、最近話題になっている消費税の増税はどうでしょうか。
消費税率を上げても、税収増は一時的です。数年で全体の経済規模(GDP)が劇的に縮小してしまい、財政赤字は全く解消できません。たとえば、消費税率が現在の2倍の10%になったとしましょう。この場合、GDPが60兆円(割合にして12%)も減少し、国民は塗炭の苦しみを味わいます。しかも、消費税の税収は増えても所得税などの税収が減る結果、総税収は3兆円しか増えないのです(根拠)。消費税増税路線の先には、総所得が減少するのに税負担が増えるという、暗い未来しか見えません。
では、公共投資(中身は従来型とは限りません)による内需拡大路線はどうでしょうか。
こちらの方がはるかに有望です。それは今の日本経済は実にまれで特殊な状態にあるからです。民間投資が個人消費の増減におそろしく過敏になっているのです。
一国の民間投資の規模はGDPの1割から2割程度と小さいけれども、実は、その小さな尻尾(投資)が巨体(一国の経済)を振り回していることはよく知られています。その重要な民間投資が、現在の日本では、個人消費の増減にかつてないほど強く反応する状態にあります。
個人消費が前年より1兆円増えれば、民間投資がいくら増えるか、ご存じですか。答は2.5兆円です。1980年代以前、この数字は1兆円に満たないものでしたから、現在、2倍以上になっているのです。昨今の国内需要の低迷の結果、なにかが売れるとなったら、あらゆる企業が殺到してその商品の生産に邁進する、という状況が、この過敏性をもたらしているのでしょう。
公共投資が無駄になるのは、「個人消費の増大→民間投資の拡大→給与の上昇→個人消費の増大」という良い循環の回路に点火できない場合ですが、現在、そのような心配は杞憂に過ぎません。個人消費を萎えさせる政策ではなく、力強く後押しする政策が求められているのです。
海外に投資されている金融資産のごく一部、おそらく10兆円もあれば十分でしょう。それが国内に振り向けられるだけで、国内需要の爆発的な拡大が生み出され、好循環が始まります。
「何で消費税の、あの、増税だとか、増税の議論が出てくるのか。あのイザナギ景気のときには、二・五倍日本の経済規模が大きくなり、毎年減税をやったのに二・四倍税収がふえているんです。そういう流れをつくり出すということを真剣になってお考えをいただいて、思い切った政策転換をやっていただきたい」という亀井議員の願いは、WSの願いでもあります。
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