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日本の財政赤字(3)消費税率アップという「苦い薬」はホントに良薬ですか、Yさん?

社会保障費が毎年約1兆円ずつふえていて、この傾向は今後15年くらい続きそうなので、その分の税収の増加が必要なことは事実です。しかし、それを消費税の増税でやろうとしたら、景気を冷まし、悲惨な未来が待っています。その様子を調べるために、一国の経済についてのサミュエルソンの簡易モデル(*1)を使って、この先の10年間のシミュレーションを行いました。

政府支出は毎年1兆円ずつ増加すると仮定して、3つのケースを調べました。仮定の詳細は、あとで説明します。

調べた3つのケースは次の通りです。
(a) 消費税率を毎年1.0%ずつ引き上げるケース
(b) 消費税率を毎年0.5%ずつ引き上げるケース
(c) 消費税を10年かけて段階的に廃止して所得税・法人税などで置き換え、消費性向を毎年0.5%ずつ向上させるケース


■ケース(a)

まず、(a)の消費税率を毎年1.0%ずつ引き上げるケースから。
Case_a
グラフ(a)

ごらんのように、毎年の財政赤字のGDPに対する比率(右目盛)は10年間で5%から4.7%に減りますが、減少はごくわずかです。10年たっても財政再建にはほど遠い状況です。

それ以上に深刻なのは、GDP(左目盛)が500兆円から440兆円まで、割合にして12%も減少してしまうことです。これは、消費税の増税が個人消費を冷まし、それが民間投資の減少を招き、企業の利益や給与の減少につながるという負の循環の結果です。

財政収支が改善しないのは、国民所得が減少するため、法人税や所得税の税収が減って、消費税の税収増を打ち消してしまうからです。このケース(a)は「恐慌」と呼ぶのがふさわしい状態です。悲惨な未来像と言えるでしょう。


■ケース(b)

では、消費税率を毎年0.5%ずつ上げていく、もう少しマイルドなケース(b)ではどうでしょうか。
Case_b
グラフ(b)

GDPの減少は、ケース(a)ほどではありませんが、所得は増えるどころか減るのですから、やはり悲惨な未来像です。財政収支の改善もわずかで、10年たっても財政再建はできません。


■ケース(c)

実は、消費税率をどういじるか、といったつじつま合わせをいくらやっても、財政赤字のGDP比率は変わりません。財政再建に必要なのは、日本経済のパラメータを変える政策です。それがわかるのがケース(c)のシミュレーションです。
Case_c
グラフ(c)

ケース(c)では、消費税率を現在の5%から毎年0.5%ずつ下げて10年後にゼロにします。その分の税収減を補うため、消費税以外の税(所得税や法人税など)の税率を少しずつ上げます。現在、消費税以外の税の税率(GDPに対する比率)は12%ですが、これを毎年0.25%ずつ上げて10年後に14.5%にします。

この税率変更のおかげで、日本経済の ある重要なパラメータが変化します。消費性向です。逆進的な消費税を廃止し、累進的な所得税や法人税などに置き換えることで、消費性向が上がります。ケース(c)では、現在0.70である消費性向が毎年0.5%ずつ上がり、10年後に0.75になる、と仮定しました。

結果は明らかです。消費性向が上がることでお金が国内を巡るようになるため、内需が盛り上がり、10年でGDPは800兆円に達します。財政収支も大幅に改善します。景気拡大により、税収が増加するからです。10年で財政収支は黒字に転じるのです。

10年でGDPが500兆円から800兆円に増えるというと、そんな高成長はあり得ない、と思うかも知れませんが、これは名目で年4.8%の成長率にすぎません。前回の記事でも見たように、これはOECD諸国の最近20年の平均的な成長率と同じくらいです。最近15年の日本がむしろ異常です。政策の選択さえ正しければ、ケース(c)の描く未来像は十分に達成が可能である、とWSは考えます。

さて、この変化が、低所得層に恩恵をもたらすことは明らかです。では、富裕層はどうでしょうか。


■ケース(c)は富裕層にとっても得である

消費税を廃止し、減収分を累進性の強い所得税・法人税でまかなうと聞けば、富裕層に不利である、と思われるかも知れません。しかし、事実は異なります。富裕層の所得は景気変動に敏感であり、経済が10%拡大すれば、2倍3倍になることもごく普通です。もちろん、不況時には半分あるいはゼロ以下に減ることもありえますが…。

10年でGDPが800兆円に増えて1.6倍に達するとき、富裕層の所得増が1.6倍にとどまる、というのはきわめて考えにくいことです。おそらく、所得税率・法人税率の2.5%の増加など全く気にならないくらい増えるに違いありません。このあたりの詳しい見積もりは、いずれちゃんとやるつもりです。

まとめますと、消費税の廃止と所得税・法人税への置き換えは、誰も損をしないWinWinの政策です。逆に、消費税率のアップは皆が損をする愚策です。


■本気なの? ちゃんと考えたの?

総選挙後の消費税率の引き上げが「不可避」という雰囲気がマスコミ等により醸し出されつつありますが、WSにはその根拠が納得できないのです。特に、消費税率の引き上げによる景気冷え込みの効果をちゃんと考察した引き上げ肯定論には、まだお目にかかっていません。

ひとつ参考になるデータは、1997年の消費税率引き上げ(3%→5%)の結果です。引き上げ前、国と地方および社会保障基金を合わせた財政収支は約20兆円の赤字でした。引き上げ後、(国鉄民営化に伴う特殊要因を除いて)赤字は30〜35兆円に増えました。GDP約500兆円に対する財政赤字の割合は、4%から6〜7%に増えたのです(*2)。

上のケース(a)や(b)で見たように、消費税率を上げるとGDPが落ち込みます。所得税や法人税の税収が減少します。景気悪化を避けるため、緊急の経済対策(財政出動)が必要になります。税収減と追加の政府支出のため、財政収支が改善するどころか、1997年の消費税率アップでは逆に、財政赤字が10〜15兆円も拡大してしまったのです。

以上のシミュレーションの結果と、1997年の経験をふまえて、WSは、消費税率のアップよりも消費税の廃止が望ましい、と強く主張したいと思います。


■付記:シミュレーションで用いた仮定

シミュレーションで用いた仮定は以下の通りです。国と地方と年金基金などを合わせて「政府」と呼んでいます。SNAにおける「一般政府」のことです。

・国内総生産GDP(2007年 500)は、個人消費(同 300)と民間投資(同 100、純輸出を繰り込む)と政府支出(同 100)の和である
・政府支出は毎年 1 ずつ増える
・個人消費は可処分所得に比例する。比例係数を消費性向と呼ぶ
・民間投資は個人消費に比例する
・税収は、消費税の税収と消費税以外の税収の和である
・社会保障負担は税収に含めない。社会保障純支出を政府支出に含める
・消費税の税収は個人消費に比例する。比例係数を消費税率と呼ぶ
・消費税以外の税収はGDPに比例する
・可処分所得は、GDPから税収を引いたものに等しい、と定義する

なお、シミュレーションでは、消費税率やケース(c)での消費性向は年度によって変えていますが、他の比例係数は、すべて定数としています。
_______
注 *1) このモデルについての論文(エッセイ)の翻訳が「所得決定の簡単な数学」として、サミュエルソン経済学体系第1巻 (勁草書房) p104に収録されています。
*2) ESRI Discussion Paper Series No.167 国民経済計算から見た日本経済の新動向 p42のグラフを参照 (Web上で入手可)

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