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日本の財政赤字(5)「消費税率を10%に上げて、サラリーマンが基礎年金保険料を払わなくて済むようになれば、消費が大きく落ち込むことはない」ってホントだろうか?

次期首相候補のひとりであるA氏が、基礎年金を全額税方式にすること、および、そのための財源として消費税率を10%に上げる、という提案をされました。

国民年金の現状からみて全額税方式にはとくに異論はありませんが、「消費が大きく落ち込むことがない」という主張と「財源は消費税の増税」という2点には強い疑問を感じます。

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まず、消費の落ち込みについてですが、もしかりに、税収の増加分がすべて年金給付、あるいは、借金返済以外の政府支出に使われるならば、たしかに消費が大きく落ち込むことはないでしょう。

しかし、日本の財政や社会保障費の現状をみると、税収の増えた分がすべて給付にまわるとは考えにくいのです。かりに給付せずに借金返済にまわす分が1兆円あるなら、個人消費は約3兆円落ち込みます。2兆円ならその倍の約6兆円の落ち込みになります。

ここで日本の現状を確認しておきましょう。

まず、財政については、ご承知のように政府支出が税収を上まわっており、景気変動因子を除いたベースで毎年、約20〜25兆円の赤字になっています。

次に、社会保障(年金や健康保険など)については平成18年度でみると、社会保障給付の総額が80.1兆円であるのに対し(*1)、社会保障負担(保険料収入など)の総額は52.3兆円にとどまっており(*2)、負担と給付の差額は27.8兆円に達しています。

税収の増加分で、この差額を埋めあわせたり(つまり純給付(=給付と負担の差)を減らしたり)、あるいは財政赤字を埋めあわせたりすれば、即座に消費は落ち込むことでしょう。しかし、増えた税収を手にした政府が、差額や赤字を埋め合わせたいという誘惑に、はたして打ち勝つことができるでしょうか。

おそらく無理でしょう。そして誘惑に打ち勝つことができないゆえに、消費は大きく落ち込むことでしょう。マイナスから出発しなければならない日本は、長年、消費税の税収を再分配して消費を維持している欧州とは、出発点がちがいます。

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次に財源について。なぜ財源を消費税に求めるのでしょうか。

現在の日本経済の問題は内需の不振にあります。その原因は、過去最高の利益を上げている企業部門の所得が家計に分配されないことです。増税は年金や累積債務の問題の解決策ではないとWSは考えていますが、かりに増税したいのならば、財源は法人税の増税(というより減税の廃止、つまり法人税率40%への復帰)や所得税の累進制の回復に求めるのが自然です。消費税を廃止して消費の拡大をうながすのが望ましく、消費税率アップで消費を減退させる状況ではありません。

また、所得税や法人税には景気変動をゆるやかにして経済を安定させる効果がありますが、消費税にはそれがありません。消費税に頼りすぎると、金利で経済をコントロールする必要がうまれ、累積債務をかかえる日本の財政の持続可能性にとってマイナスです。消費税税収の、みかけの安定性にだまされてはいけません。

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このブログで何度も言ってきたことのくり返しになりますが、税率の変更や政府支出の増減といったつじつま合わせをいくらやっても、財政赤字は消えないし、年金問題の将来もみえてきません。必要なのは、消費性向や投資性向などの日本経済のパラメータを変える政策です。

税制を80年代以前の状態に戻し、消費性向を5ポイント上げれば、内需がもり上がって税収がふえ、財政収支が25兆円改善して黒字化を達成、家計もハッピー、企業もハッピー。年金の問題も少子化の問題も魔法のように(ホントは理の当然として)解決するのに…。 どうしてそういう政策をおやりにならないんでしょう?

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注 *1) 給付の主な内訳は、厚生年金22.2兆円、 国民年金15.3兆円、国民健康保険8.3兆円、共済組合7.4兆円、社会扶助給付7.4兆円、介護保険5.9兆円など。(国民経済計算平成18年度確報による)

*2) 負担の主な内訳は、厚生年金21.0兆円、 共済組合6.3兆円、厚生健康保険6.1兆円、組合管掌健康保険6.0兆円、国民健康保険3.9兆円、雇用保険3.0兆円など。(同上)

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