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日本の財政赤字(9)---ガソリン暫定税率廃止が税収に与える影響

ガソリン税の暫定税率を廃止した場合に不足する税収は、国と地方を合わせて2兆7千億円である、と宣伝されています。しかし、実際に不足する税収は約8千億円である、と以前に書きました(記事)。このことについて、もう一度、詳しく見ておきたいと思います。


■考えられる4つのケース

あまり語られませんが、

(A) 2兆7千億円の税収を維持するのか、やめるのか、

ということに加えて、もう一つ大事なのは

(B) 2兆7千億円分の政府支出を行うのか、行わないのか

という選択があり得るということです。

「暫定税率が廃止されれば(道路などへの)政府支出を行わない」ことが当然のように仮定されていますが、理屈の上では「暫定税率を廃止して、かつ、政府支出は続ける」という選択もあり得ます。

「それは、財源なきバラマキだ。財政赤字を考えたらとてもできない」と思われるかも知れませんが、少し待って下さい。減税すれば家計の可処分所得が増えて内需が盛り上がり、他の税収が増える効果も期待できます。それに、政府支出をやめてしまったら、その公共工事で給与を得ていた人の消費が消えるので、モノが売れなくなります。どのような政策をとれば、税収や財政赤字がどういう状態になるのか、その試算を見てから判断しても遅くありません。

そこで次の4つのケースを考えます。

(1) 暫定税率を 維持、2.7兆円の政府支出を 行う
(2) 暫定税率を 維持、2.7兆円の政府支出は 止める
(3) 暫定税率を 廃止、2.7兆円の政府支出を 行う
(4) 暫定税率を 廃止、2.7兆円の政府支出は 止める


■暫定税率廃止の影響の見積もり

それぞれのケースで(年間の)、GDP(国内総生産)、税収、財政赤字は次のように変わります(単位:兆円)(*1)。

ケース GDP 税収 財政赤字
(1) 維持+支出 +0.0 +0.0 +0.0
(2) 維持+やめ -13.5 -2.2 -0.5
(3) 廃止+支出 +13.2 -0.7 +0.7
(4) 廃止+やめ -0.7 -2.8 +0.1

ケース(1)は現状維持で、与党が望んでいたものです。

ケース(2)は税率を維持したまま、政府支出を2.7兆円減らす緊縮財政路線。「輸出が絶好調」といった神風でも吹かない限り、経済規模(GDP)が13兆円も縮小します。さすがに現在、この政策を主張する政党はないようです。

野党の主張はケース(3)か(4)だと思いますが、いずれなのか、今ひとつはっきりしません。

さきにケース(4)から見ます。これは減税分だけ政府支出も減らす路線です。GDPも財政赤字もほとんど変わりませんが、大きな痛みを伴います。まず、2兆7千億円分の政府支出で食べていた人が職を失います。次に、その人々の消費に依存していた小売店や企業の売り上げが減少します。もちろん、良いこともあります。ガソリン代が減る分、他の商品の消費が増えます。だから全体としてGDPはほとんど変わらないのですが、格差拡大が生じます。おそらく、景気の悪い地方には厳しく、景気の良い地方には優しい政策になるでしょう。

ケース(3)は暫定税率は廃止しつつ、政府支出は維持するという政策。バラマキ批判をおそれてか、あまり話題になりませんが、ごらんのように財政赤字は7千億円しか増えません(*2)。減税で消費が盛り上がって民間投資も増え、ガソリン以外の税収が増えるからです。WSはこの政策がもっとも望ましいと考えます。

もちろんケース(3)では、財政赤字7千億円分の国債発行が必要になり、累積債務にも7千億円がプラスされます。しかし、内需が盛り上がって経済規模(GDP)が13兆円増えるので、累積債務のGDPに対する比率はむしろ低下するのです。

現在の政治状況をみると、ケース(3)か(4)かの選択になりそうです。米国経済の大失速、国内景況感の悪化、中小企業の倒産が増え始めていること、経済的困窮が原因と思われる若者の事件の多発といった痛ましい状況を考えれば、弱者に負担をしいるケース(4)はあり得ない選択です。無思慮な人々によるバラマキ批判をものともせず、勇気を持って、誰も損をしないケース(3)---暫定税率を廃止して、政府支出は維持する---をぜひ選択していただきたいと願います。

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注 *1) 試算の方法については冒頭に紹介した過去記事をごらんください。
*2) 前回の記事では8千億円としましたが、違いの原因は、投資性向や消費性向などのパラメータの桁落ち(四捨五入)です。

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