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国民基礎年金の試算に思う---目先の給付増に惑わされて長期的な経済成長を損なってはダメ

このところ、来訪者が激増しているので何事かと思っておりましたが、復活!三輪のレッドアラート!さんがブログでWSの記事を紹介して下さったようです。

まだ一部を拝見しただけですが、フリードマン流の市場原理主義や過度な財政均衡主義(*1)に対する問題意識が当ブログと共通で、心強く思いました。これからも、ハッとさせられるような気づきのある、経済分野の記事を読ませていただけたら、と思ってしまいます。

   ***

さて、政府は先月(2008年5月)、基礎年金をすべて税でまかなう場合に国民負担がどうなるか、という試算をまとめました。

「必要となる追加の(消費)税率の高さ」に驚かれた方も多いと思います。

でも、実はこれにはトリックがあります。まず、いま企業が負担している保険料をゼロにして、代わりに(消費)税でまかなうということが仮定されています。また、ある試算ケースでは、これまで保険料を納めてこなかった人も含めて65歳以上の全員に月6.6万円相当を給付した上で、不公平がないよう、保険料を納めてきた人には月3.3万円(あるいは6.6万円)相当を追加で給付する、という、給付総額が多くなるような仮定がなされています。それゆえ、税負担が増える結果になるのは当然なのです。

(ただし、負担増を消費税率に換算して表示してある部分を除けば、試算そのものはバックデータも詳細に明らかにした、ていねいで良心的なものだと感じました)

こうした点はすでにいろいろな方(たとえば森永卓郎さんの記事)が指摘しておられますので、今回は、もう少し長期的な視点で、経済成長の問題もからめて基礎年金の問題を考えてみたいと思います。


■年金問題はあと10年でやわらぐ

次に示すのは、65歳以上人口の年増加率の推移(国立社会保障・人口問題研究所の平成18年12月・中位推計による)です。
Jinkou65
図1 (クリックで拡大)

いわゆる団塊世代の加齢にともなって、2018年までは高齢者人口が年1〜3.5%増加しますが、2019年以降は増加率が年1%を割り込みます。つまり、年金問題は本質的には、あと10年だけの短期的問題なのです。

ちゃんとした負担と給付の仕組みが2019年の段階で整っていれば、それ以降は安定した経済成長さえ確保できれば、財源が保険料であっても税であっても、基礎年金制度の持続可能性に全く問題は生じません(*2)。

図1には、支える側である15〜64歳人口の減少率もあわせて示しました。2020年代後半から減少率が年1%を超えていますが、これはあくまでも推計です。今後、もし出生率が向上すれば労働力人口の減少は起きません。若い世代が結婚して家庭をもち、子供の教育費を払う経済的余裕もあり、安心して子育てのできる経済環境を作ることが、長期的には大事です。

このように、高齢者人口の増加率の点から見ても、支える側である働き手の人口の確保の点から見ても、長期的には安定した経済成長を確保し、家計の可処分所得を増やして、家計が必要なお金を気兼ねなく使える経済環境を作ることが重要です。

確かに、2018年までの10年間の年金給付の増加には何らかの対処が必要です。しかし、その短期的問題への対処に目を奪われて、長期的な経済成長を損なってしまっては元も子もありません。

企業の保険料負担を減らし、その分を消費税率アップでまかなうような対処法は、愚の骨頂といえます。

家計の可処分所得を(逆進的な税で)奪えば、長期的な経済成長を損なうからです。はじめの3か月はうまくいったと思うかも知れませんが、それ以降は売り上げが急減し、景気対策で財政赤字が激増。1997年の消費税率アップのときと同様に、真っ青になることが目に見えています。

ではどうすればよいのか。もう少し上記の試算を詳しく見たあとで、WSの考えを書きます。


■あらい試算---給付総額は賃金上昇率で大きく変わる

そもそも、基礎年金の給付総額はどのくらい必要なのか。それをごく大雑把に計算してみます。

65歳以上の全員に、つまり保険料に未納期間がある人にも、現在の満額給付額である月6.6万円を給付することにしましょう。人口として中位推計のものを使えば、次に示す図2の一番下の曲線を得ます。この曲線が示す給付総額は、6.6万円の12倍に高齢者人口を掛けたものです。
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図2 (クリックで拡大)

他の3つの曲線は何かというと、若い世代の賃金上昇を考慮して、一人あたりの給付額を2009年以降、年率で1%、2.5%、あるいは4%ずつ増やしていった場合です。若い世代の給料が増えれば、高齢者世代への給付額もそれに合わせて増やすのが理にかなっているからです。

数十年後の給付総額は、賃金上昇率(より正確には、賃金上昇率を参考に設定される、一人あたり給付額の年増加率)によって、大きく変わってくることがわかります。


■政府試算との比較---短期的問題と長期的問題

このあらい試算と5月の政府試算の給付総額を比べたのが次に示す図3です。あらい試算は灰色の3つの線で示し、政府試算は色つきの線で示してあります。
Hikaku
図3 (クリックで拡大)

実は、政府試算と言っても、基本的なケースだけで16通りもあります(経済前提に4通り、保険料未納期間の扱いで4通り。4×4=16)。図には代表的な6つのケースを示しました(順にB21、B25、B37、C21、C25、C37とします)。

21とか25の数字は、経済前提を示します。21は賃金上昇率が年2.1%であること、25は2.5%であること、37は3.7%であることを示します。賃金上昇率はだいたい、名目GDP成長率と同じと考えていいでしょう。

BやCの記号は、未納期間の扱い方を示します。
Bでは給付は月6.6万円より少なくなり、Cでは多くなります。給付の面に限って大雑把にいうと、Bは現行制度に近い形での全額税方式への移行で、ただし現行制度での無年金者は月3.3万円を得ます。
Cは現行制度の1.5倍くらいに給付額を増やした上での全額税方式への移行で、現行制度での無年金者は月6.6万円を得ます。

---(
詳しくいうと、Bは、原則として全員に月6.6万円相当を給付しますが、2008年以前に保険料未納期間がある人には、給付を最大で月3.3万円相当、減額することを示します。Cは、全員に月6.6万円相当を給付した上で、2008年以前の保険料納付期間に応じて、最大で月3.3万円相当を(6.6万円に加えて)給付することを示します。Cのケースで2009年に突然、給付総額がはねあがるのは、この年からほとんどの人に(6.6万円ではなくて)月9.9万円を給付することになるからです。
)---

図3からわかるように、政府試算でも長期的には、給付総額は(賃金上昇率に連動して設定されている)1人あたり給付額の年増加率で決まってきます。

この年増加率を、物価上昇率(1%くらい)より高く、名目GDP成長率(2〜5%)より少し低いくらいに選んでおけば、いずれは給付総額をまかなうに足る税収(あるいは保険料収入)が得られます。名目で年4〜5%くらいの安定した経済成長さえ確保できれば、長期的には年金財源を気にする必要はありません。

ただし、団塊世代の加齢や若年層の未納問題にともなう、ここ10〜15年の短期的な問題は残ります。


■短期的な問題をどうするか

高齢無年金者や若い世代の保険料未納といった問題を考えると、基礎年金の全額税方式というのは1つの有力な選択肢だと思います。

ただし、税は消費税ではなく、現在の企業の保険料負担分の法人税と、現在の個人の保険料負担分の所得税が望ましい。消費税だと、長期的な経済成長を損なってしまうからです。

税方式への移行が実質的な増税になってもいけません。現在の保険料負担をなくす分だけ、かわりに法人税と所得税の税率を増やすにとどめるべきです。実質的な増税を行うと、景気を冷まし、期待したほどの税収は得られません。

では、財源はどうするのか、と言う声が聞こえてきそうですね。

たしかに、試算のケースCのように、無年金者をなくした上で、最大3.3万円を追加給付するならば、2009年以降、毎年およそ15兆円の財源が不足します。しかし、この計算には、最低保障年金の導入により将来への不安が(一部)解消されることに伴う、消費性向の向上の効果が含まれていません。

かりに、消費性向(=民間可処分所得に占める個人消費の割合、現在の日本では70%弱)が1%向上するなら、(税率が同じでも)税収は約5兆円増えるので、不足する財源は15兆円ではなく、10兆円になります。消費性向の向上がもっと大きければ、不足する財源はさらに少なくなります。

(消費税は逆進的なので、家計の可処分所得を減らし、消費性向も下げます。このような税収増の効果は得られません。これも保険料を消費税ではなくて、法人税と所得税で置き換えるべき理由です)

試算Cのように2009年からいきなり給付を大幅アップするのではなく、試算Bのようにおだやかに導入したあと、10年後くらいから段階的に試算Cレベルの給付へと移行するならば、増税せずとも消費性向の向上だけで財源が足りる可能性もあると思います。


■それでも不足したらどうするか

ずばり、政府がお金を刷る(硬貨を発行する)のがよいと思います(*3)。
金かプラチナで、あんパンくらいの大きさの10兆円硬貨を5枚ほど鋳造する。もちろん、鋳型のデザインは人間国宝級の方に依頼した、希少価値のある硬貨です。それを日銀に納める。その代金として、政府は日本銀行券50兆円を手にします(実際は帳簿に金額が記載されるだけです)。

この50兆円は利息の付かないお金です。赤字国債を発行したわけではないので、将来、利払いに苦しむ必要もありません。

こうした操作は、もし乱用するなら激しいインフレを招く可能性がありますが、節度のあるやり方で行えば、日銀による公開市場操作や預金準備率の操作でインフレはコントロールできるでしょう。

憲法はこうした操作を禁止していないので、国会における議決か立法があれば、50兆円は問題なく得られます(乱用を避けるために、その都度、立法するのがよいとは思いますが)。

2009年には、そのうちの15兆円を基礎年金給付の不足分にあてます。翌年は、消費性向があがって経済が成長し、税収が増えているので、たぶん5〜10兆円くらいで済むでしょう。翌々年はさらに少なくて済むでしょう。結局、50兆円の一部は余ってしまうかも知れません。そうなったら、医療や介護、教育、財政難の地方自治体への交付に使えばいいのです。


■本当にそんなことをしてもいいの?

「お金を刷る」とはあまりにあっけない解決策なので、本当にそんなことをしてもいいの?と抵抗を感じる方もおられるでしょう。不況下の厳しい経済環境のなかで1円を絞り出そうとしている方も多い。それは当然の感情だと思います。

でも、バブル崩壊以前の状況を思い出して下さい。銀行は、値上がりの期待できる土地や建物を担保に、どんどん融資を行いました。その不動産に1億円の価値があると銀行マンが思ったら、その場で1億円が融資されました。

ご存じのように、この融資の大半は、預金者があずけた預金や銀行の資本金からきているわけではありません。いわゆる「信用創造のメカニズム」により、帳簿の上で、融資の瞬間に無から創造されたものです。その瞬間に「お金が刷られた」のです。

一人の民間銀行マンは私益のためにお金を刷ることができる。でも、国民から選ばれた政府は公益のためにお金を刷ってはいけない、というのも妙な話です。

以前の日本では、不動産価格が値上がりしていたので、民間銀行に任せておけば自然に、不動産を担保に発行される紙のマネーの総量が、経済規模に比例して増えました。

「不動産値上がり神話」が消え去ったバブル崩壊後の日本では、かつての不動産のように経済規模に比例して価値の増える自然な担保がまだ存在しません。民間銀行に任せておいても、紙のマネーの総量は増えなくなっています(デフレの原因)。

だから、政府が積極的にお金を刷って、紙のマネーの総量を(潜在的な)経済規模に比例して増やす必要があるのです。

国民基礎年金のためにお金が印刷されるならば、それはいわば、これまでの国民の勤労の成果の蓄積を担保として刷られるものとなるでしょう。

   *

さて、政府がお金を刷ったとき、そのお金をどうやって家計に渡すべきでしょうか。

従来のように、補助金により企業経由で渡すのも1つの方法ですが、さまざまな癒着の弊害が生じたことはご承知の通りです。消費税の廃止や社会保障給付により直接、家計に渡すという新しい方法を試す時期が来ているように思います。

では、今回はこれで。
次回は、米国の住宅価格か、あるいは、経済成長と減税の両方を可能にする魔法の税制について考えてみる予定です。

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*1) 財政均衡主義の弊害については、日本財政を考えるさんが、精力的に記事をアップしておられます。

*2) 若年人口(労働力人口)の減少は、いわれているほど深刻な問題だとは思えません。たとえば、日本の農業を考えてみて下さい。

1955年には、3655万人で年1.66兆円の農業生産額でした。2000年には、1047万人で年91.3兆円の農業生産額です。この間の45年間に、一人あたりの農業生産額は191倍に増えました。これは名目で年12.4%の伸び率です。

この生産性のめざましい向上を可能にしたのは、農薬や機械の使用などの技術の進歩であり、それを支えたのは、余剰農業人口の吸収を可能にした経済規模の拡大でした。さまざまな産業が調和して発展できる環境さえあれば、生産性は大きく向上し、労働力人口の減少の悪影響など軽く吹き飛ばしてしまうことでしょう。

*3) 「お金を刷る」という発想をWSは、日本経済復活の会さんのHPや神州の泉さんのHPで学びました。

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