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消費税率を上げても税収は増えない

9月以降、世界バブル崩壊の悪影響が怒濤のように押し寄せ、経済政策に2つの変化がみられました。

ひとつめは、過度な均衡財政主義が一時的に放棄され、真水で10兆円(GDP比2%)規模の財政出動がなされそうなこと。遅すぎたし、規模も小さすぎます。中身に文句がある人もおられるでしょう。しかしながら、ベッドの長さに合わせて病人の足を切断するような、冷たい政策が10年来続いてきたことを思えば、ひとまずは歓迎すべき変化です。

もうひとつは、景気回復を前提に、社会保障財源として、3年後の消費税率の引き上げが与党内で合意されたこと。こちらは、憂慮すべき変化です。

なぜ、憂慮すべきなのか。
それは、消費税率を上げても税収は増えないからです。消費税はわずかに増えますが、所得税や法人税の税収が減るので、全体としては減ってしまうのです。


■1997年の経験

10年前のデータを見てみましょう。97年度に消費税率が2%引き上げられました(3%→5%)。このときの、国税収入合計、所得税、法人税、消費税の税収はそれぞれ次のようになりました。 TORI研究所さんの記事「消費税引き上げの是非を問う⑥~国の税収は増加するのか?」から数値を引用させていただきます。

表:1996~1999年度の国税収入(単位:兆円)


年度国税収入所得税法人税消費税
199652.119.014.56.1
199753.919.213.59.3
199849.417.011.410.1
199947.215.410.810.4
出所:国税庁「統計年報」

単純に計算すると、消費税の税率が3%から5%に1.67倍になると、消費税収も1.67倍になります。 1996年の消費税税収6.1兆円の1.67倍は10.2兆円です。確かに、1998年にはその水準に達しています。約4兆円の増加です。(しかし、これは財政出動によって消費が下支えされたためで、もし財政出動がなかったら、税収は見込みに達しなかったはずです。)

しかし、その背後で起きたことに注目する必要があります。 所得税で3.6兆円、法人税でも3.7兆円税収が減りました。消費税収の増加をすべて打ち消しても足りず、国税全体では4.9兆円の減少になりました。景気の悪化に伴う税収減に加えて、景気対策のための減税がその原因です。

消費税率アップで4兆円の税収の増加を期待しましたが、実際には、総税収が4.9兆円減ったのです。


■景気悪化のメカニズム

再び、TORI研究所さんの記事「消費税引き上げの是非を問う④~増税のマイナス効果」から引用します。(一部、改行を変更しました)

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では、1997年4月に消費税率が創設時の3%から現行の5%へと引き上げられた時は、どのような影響があったのでしょうか?まず、真っ先に影響が出たのは、住宅やマンションの購入といった「住宅投資」と「民間消費」でした。

1997年4~6月期の民間住宅投資は前期比で11.4%減少し、その後の7~9月期、10~12月期においても前期比でそれぞれ7.4%、4.8%と大きく減少を続けました。

さらに、GDPの6割近くを占める民間消費も、1997年4~6月期で前期比で3.9%減少し、7~9月期は前期比でプラスに転じたものの10~12月期以降はしばらく前期比マイナスが続きました。

こうした民間消費や住宅投資の減少は、企業の設備投資にも影を落とします。1997年は前期比プラスで推移していたものの、1998年に入って設備投資は減少の一途を辿ります。

その結果、1998年の経済成長率(実質)は-1.8%となり、戦後2度目のマイナス成長を記録しました。さらに、翌1999年も実質成長率は-0.2%となり、2年間で実質GDPを2%前後押し下げた形になります。そのマイナス要因のすべてが「消費税増税のせい」というわけではないでしょうが、GDPを押し下げ、マクロ経済に少なからず悪影響を与えるのは間違いないようです。
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■消費税率アップで財政赤字が拡大

しかも、話はこれだけでは済みません。歳出の増加があったにもかかわらず、税収が減ったのです。

消費税率アップが家計消費の減退や住宅投資の減少を招き、それが設備投資の減少という形で企業部門に波及していきました。 景気を下支えするため、巨額の財政出動(減税と公共投資)がなされました。税収減と財政出動。財政収支にはタブルパンチです。

結果として、何がが起きたか。次の図を見てください(*)。 国と地方および社会保障基金を合わせた一般政府のプライマリーバランスは、1996年度に約15兆円の赤字であったものが、1999年以降、およそ30兆円の赤字に拡大しました。1990年のバブル崩壊以降、やっと回復の兆しが見えてきた景気を、消費税率アップでたたき落とし、財政収支のさらなる悪化を招いたことがはっきりとわかります。

Balance

*出典:ESRI Discussion Paper Series No.167 国民経済計算から見た日本経済の新動向 第3章 財政収支(Web上で入手可)


■消費税率アップは法人税率引き下げのため?

税率を上げても税収は増えません。景気が悪くなるからです。消費税率のアップは、むしろ総税収の減少につながる可能性が高いのです。

にも関わらず、消費税率アップをさけぶ人々はまじめなのでしょうか。それが孫や子の世代に対する責任ある態度なのでしょうか。これまでの経緯を見ると、消費税率のアップは、法人税の減税という結果しか生んでいません。

消費税率を上げれば確実に景気後退が生じます。そこで、景気対策にと法人税の減税が叫ばれます。不況下でのそのような声に対し、反対することは難しい。結果として、法人税の税収が減った分を消費税の増税が穴埋めすることになります。社会保障は貧弱なままで。

前回、2%の消費税率アップが決まったのは1994年でした。実際に税率が上がったのは3年後の1997年でした。景気回復が確実になるのを待っていたからです。まるで、つい最近、どこかで聞いたような話ですね。そして、景気が回復したからと税率を上げたら、見事に(ねらい通りに?)大不況に突入したというわけです。どうして、わずか10年前のこの経験から学ぼうとしないのでしょうか。


■手段は消費性向の向上しかない

財政収支に大穴があいているのは事実であり、社会保障費があと10年くらいの間、年1兆円のペースで増加することも事実です。税収の増加が必要であることに異論はありません。

しかし、だからといって、税率を上げても、税収は増えません。では、どうすればいいのか。

景気をよくすれば税収は自然に増えます。そのためには再分配政策による分厚い中間層の復活が必要です。池田税制を再び敷いて、個人消費を盛り上げる。すると、民間投資が増え、給料が増え、また消費が増える。税収も増える。この繰り返しで、ワープアの問題も、財政赤字と累積債務も、少子化も、所得と富の格差も、近年のあらゆる問題が解決の方向に向かいます。

解決策は消費税率のアップではない。消費性向のアップこそが解決策です。

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