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従業員給与を減らして株主への配当を増やす経営者が悪いのか

■ 過去最高益を更新し続けた法人企業

次の図は、ここ数年の法人企業の売上高と営業利益の推移です(法人企業統計年報による)。好調だった外需を背景に、つい昨年の夏まで、輸出関連大企業を中心に過去最高益を更新していました。しかし、その好景気の恩恵は給与として従業員に還元されたとは言えません。

Gain


■ 倍増した配当と増えなかった従業員給与

次の図は、企業の利益が何に使われたのか、その割合を示します。
 ・従業員給与
 ・株主への配当
 ・役員報酬
 ・法人税など
 ・内部留保
の5つの項目について、5項目の合計に対する割合を示しています。

Normal

見やすくするため、下半分を拡大すると次のようになります。

Zoom

1990年のバブル崩壊時に従業員給与の割合は約70%でした。それ以降2000年ごろまで、従業員給与の割合は約80%まで増えました。その分、内部留保と法人税の割合が減っています。役員報酬の割合はほとんど変わりません。企業が雇用と給与の維持に努力したことがわかります。

しかし、2000年以降、様子が一変します。従業員給与の割合は急減して、2007年度には70%を割り込み、その分、株主への配当と内部留保が増えています。とくに、株主への配当は2007年度に約6%とかつてない高い水準に達しています。一方、(少し意外に思われるかも知れませんが)役員報酬の割合はほとんど変わっていません。法人税の割合も増えていますが、これは好況時には自然なことです。

このように見てみると、2000年以降の変化の一番の特徴は、株主への配当が増えたことと、従業員給与の割合が減少したことです。

従業員をどんどんリストラする一方で高額のボーナスを自ら受け取る、米国の腐敗した経営者のニュースなどを耳にしていると、日本でも、従業員給与が増えないのに役員報酬は増えている、という印象をもってしまいがちです。しかし、法人企業統計でみるかぎり、役員報酬はそれほど増えていません。経営者は、従業員への給与を削った分、株主への配当を増やしたというのが適切です。


■なぜ配当が重視されるのか

荒れ狂うカジノ資本主義は、モノやサービスだけでなく、企業そのものを売買の対象にするようになりました。株価を高く保っておかないと、いつハゲタカがおそってこないとも限りません。そのためには高配当を続ける必要があります。

内部留保はかつて、未来への投資に使うための資金でした。しかし、現在は違っています。万が一、業績の不振があっても配当を減らさないで済むように、非常時の配当用の資金として、内部留保が積み上げられている、という面があります。

株価暴落(2003年)と三角合併の解禁によってハゲタカの脅威を増したことも、株主への配当が増え、内部留保が積み上がり、従業員給与が抑えられた原因です。


■配当を減らし、従業員給与を増やすとどうなるか

配当に回る割合は、現在6%程度です。これを仮に、2000年以前のように3%まで半減させ、その分を従業員給与に回したとしたら、なにが起きるでしょうか。仮定の話ですが、想像をたくましくして予想してみましょう。

従業員給与の割合は現在68%ですが、これが71%まで増えます。割合にして約4.4%の増加です。これにより、家計の可処分所得が約5%増え、個人消費が約5%増えるでしょう。個人消費は、あらゆる企業の売上高の源泉ですから、企業の売り上げ高が約5%増えるでしょう。

そこで、最初の図を見て下さい。法人企業の営業利益は、売上高の変化に非常に敏感に反応して変わることが分かります。大雑把にみて、売上高が5%増えるとき、営業利益はその約5倍、つまり25%増えると考えてもそれほど違ってはいないでしょう。

従業員給与以外の部分(配当、役員報酬、内部留保、法人税)に回している利益の割合は現在30%ですが、これが約4分の1(25%)増える。つまり、現在の利益を基準に計って7〜8%分を、新たに配当や内部留保に回せることになります。つまり、減らした配当(6%→3%)を補って、お釣りがくる可能性があります。

配当を減らして従業員給与を増やすことで、個人消費が盛り上がり、企業の売り上げと利益が増えて、結果的に株主も得をする可能性があるのです。言いかえると、現在の配当割合が大きすぎる、ということでもあります。


■ オイルショックからの回復の経験

実はかつての不況下で、それに類似した解決策が実施されたことがあります。上のグラフから読みとれるように、1973年の第一次オイルショックのあとでは、内部留保を削って雇用を守り、従業員給与の確保がなされました。その結果、日本経済は世界で一番早く、オイルショック後の不況から抜け出したのです。


■ 一企業では無理。政策による誘導が必要

しかしながら、政治が何もしなければ、従業員も株主も得をする上記の解決策が実現することはありません。多くの企業が一斉に(一時的に)配当を半減させて従業員給与に回さなければ、上記の好循環は起きないからです。

現行制度のもとでは、個々の企業にとっては、一時的にでも配当を減らすことはできない相談です。買収の脅威から身を守る必要があるからです。

「企業は株主(だけ)のものである」という、日本の風土に合わない法制度を捨てて、かつての制度に戻す必要があります。三角合併の解禁も見直して、再び禁止すべきです。そうした上で、労働分配率の高い企業を税制面で優遇し、逆に、低い企業には懲罰的税率を課すことで、売り上げと利益の増大を促すのがよいと思います。


■ 松下幸之助氏の哲学

1929年の世界大恐慌のときに松下幸之助氏のとった行動を、株式日記と経済展望さんの記事---企業はアルバイト等を使い人件費コストを下げる事で、自分で自分の会社を「倒産に追い込んでいる」事に気付かない。---経由で知りました。元の記事は、伊勢雅臣氏の---国際派日本人養成講座 人物探訪:松下幸之助~七転び八起きの心意気 H14.02.10---です。以下に一部を引用して紹介します。

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従業員も設備や建物と同様に金儲けの手段だと考える、いかにもドライな現代アメリカ流の経営思想であるが、最近の日本の経営者の中にも派手な人員削減策を打ち出して、株価を上げようという手合いも見受けられるから他人事ではない。

ここで思い起こされるのが松下幸之助である。「松下電器は何を作っている会社ですか、と聞かれたら、人を作っている会社です。あわせて電気製品も作っていますと答えなさい」と幸之助は社員に教えた。人を事業の手段だと考えるアメリカ的経営とはまったく異質な発想がここにある。そこには現代の日本人が忘れてしまった大切な教えがあるのではないか。(中略)

この年の10月24日のニューヨーク株式市場の大暴落に端を発した世界大恐慌は、日本経済も痛撃し、巷には首切り、人員整理の嵐が吹き荒れ、失業者が街にあふれた。次々と新工場を設立していた松下の売り上げもぴたりととまった。12月の半ばには出荷がほとんどなくなり、連日生産される製品で倉庫は充満し、工場の土間一杯に積み上げられた。井植は療養中の幸之助に情況を説明し、ひとまず従業員を半減して窮状を打開するしかない、と訴えた。

幸之助も思案に暮れたが、腹をくくってみると打開策が閃いた。

明日から工場は半日勤務にして生産は半減、しかし、従業員には日給の全額を支給する。そのかわり店員は休日を返上し、ストックの販売に全力を傾注すること。・・・半日分の工賃の損失ぐらい、長い目ぇでみれば一時的の損失で大した問題やない。それよりも採用して仕事に馴染んだ従業員を解雇して、松下工場への信頼にヒビが入る方が辛いのや。

翌日、井植が工員や店員を集めて幸之助の決断を伝えた。いよいよ首切りかと覚悟していた所に、思いも寄らぬ話で皆「うわっ」と躍り上がった。店員たちは鞄に商品見本を詰め込んで、「さあ、売りまくりじゃあ!」と市中に飛びだしていった。販売は心意気である。2ヶ月後には在庫の山がきれいに消え、半日待機をしていた工員たちもふたたびフル操業を開始した。(中略)

松下が発展した大正から昭和前期の日本は不況、震災、恐慌、台風、敗戦と、危機また危機の連続であった。それらの危機を乗り越え、そのたびに松下は大きく発展していった。結局、製品や設備を開発したり、問題を解決するという創造性は、人間のみが持ちうる能力である。幸之助の「人を作り、人を大切にする」という経営は従業員や得意先との「和親一致の協力」を引き出し、そこから生まれた想像力と心意気で度重なる危機を乗り越えてきたのであった。

現在のわが国もバブル以降、10年に及ぶ不況の底に沈んでいるが、危機の大きさからすれば幸之助の時代とは比べものにならない。それなのに一向に危機を乗り越えられないのは、多くの企業で「人を作り、人を大切にする」という理念を忘れ、「和親一致」の精神を見失ってしまったからではないだろうか。それでは企業が繁栄できないだけでなく、従業員を仕合わせにすることもできない。幸之助が生涯をかけて示した繁栄と幸せへの道筋をもう一度、思い起こすべき時だろう。
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これは2002年に書かれた記事ですが、バブル崩壊ののち、おそらく2000年頃までは経営者も、松下幸之助氏が示した哲学に沿った方向で懸命に努力していたのではないか。それができなくなって、一気に雪崩を打ったように従業員の解雇や非正規雇用の拡大、給与の抑制へと突き進みました。

そのような事態を招いたのは、=カイカク=を絶叫した政治と行政でした。それを元に戻せるのもまた、政治と行政だと思います。

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コメント

質問です。

■ 倍増した配当と増えなかった従業員給与

という項目に続いて、

「次の図は、企業の利益が何に使われたのか、その割合を示します。」

とありますが、営業利益に対する割合でしょうか?
初歩的な質問ですいませんが、回答よろしくお願いします。

投稿: 大久保 | 2010.01.07 05:21

大久保 様

コメントをありがとうございます。

ご質問ですが、ここで言う割合は、取りあげた項目の合計に対する割合です。 つまり、
 ・従業員給与
 ・株主への配当
 ・役員報酬
 ・法人税など
 ・内部留保
の合計に対する、各項目の割合をグラフに示しています。

これらの合計は、およそ、営業利益に自社の人件費を加えたもの、にあたっているのではないかと思いますが、WSは会計に詳しくないので、ご自分で確認していただければと思います。

投稿: Wave of sound | 2010.01.08 22:02

なるほど、
ではおそらく純利益に人件費を合わせたものですね。
参考になりました。
回答ありがとうございます。

投稿: 大久保 | 2010.01.09 09:25

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