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北欧諸国の社会保障を支えるのは消費税か、ドーマーの定理、道州制

WSは2年ほど前に、日本の財政赤字と累積債務の問題を考察して、解決策は消費性向のアップによる内需拡大である、と確信しました。その概要をまとめた当時のレポートが「財政赤字の持続可能性について」です。

このレポートに書いたことの大部分は、2年後の現在でもそのままの形で通用すると思っています。昨年来、世界バブルの崩壊で外需によるサポートという仮面がはがれ、内需の重要性が認識されるようになりました。そうした現状では、レポートに書いた、消費性向アップが必要との指摘は、陳腐化するどころか、むしろますますその重要性を増しているようです。

しかしながら、この2年間、経済の問題に関心をもって多くのブログ記事などで勉強させていただくなかで、レポートに書いたことの中に、訂正や補足を必要とするものが若干でてきました。

そこで、北欧諸国の税制、およびドーマーの定理について、訂正と補足をしておきたいと思います。最後に、道州制についても少し書きます。


■北欧諸国の社会保障を主に支えているのは消費税ではない

デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドといった北欧諸国の手厚い社会保障は有名です。医療費無料、大学院までの教育費無料、3年間95%の失業給付と無料の職業訓練などなど。そして消費税(付加価値税)の税率の高さ(22〜25%)も有名です。

そして、この2つから誤解が生まれます。北欧諸国の社会保障を支えているのは消費税である、という誤解です。WSも上記のレポートの第7節の注の中で、北欧諸国を念頭に「欧州諸国の税収の大きな部分を消費税が占めている」と書いてしまいました。

でも、実際は違います。次の図は、さまざまな税収がGDP(国内総生産)に占める割合を示します。
Netax_gdp
図1(クリックで拡大)

北欧諸国では、物品やサービスにかかる税(主に消費税)の税収が税収全体に占める割合は多くても3分の1なのです。では、なにが税収を支えているのでしょうか。

税収の半分を占めているのは、実は所得や利益にかかる税(主に所得税と法人税)なのです。

Netax
表2(クリックで拡大、ソース:JERTO)

表からもわかるように、高累進所得税と、法人税などの企業の負担が税収を支えています。(その他の税というのは資産税などです。)

中谷巌氏が大晦日にラジオで語っていましたが、デンマークの人はほとんど貯金をしないそうです。十分な年金(1人300万円/年くらい)が無条件で支給されるので、老後に備える必要がないからです。そうしたセーフティーネットによる将来不安のなさと、高累進所得税による再分配が、高い消費性向を生み、経済を支えているのでしょう。

日本も、現状の1.5倍くらい税金を払って、北欧諸国のような高福祉高負担に移行するのがよいのかどうか。さまざまな意見があるでしょう。仮にそうなるとしても、高負担は少なくとも北欧諸国の場合、高消費税という意味ではないということは、心に留めておくべきだと思います。


■ドーマーの定理

財政赤字と累積債務の問題を考えるとき、さけて通れないのがドーマーの定理です。この定理は

名目成長率が長期金利を安定的に上回っていれば
(たとえ基礎的財政収支が赤字であっても)累積債務は持続可能である

というものです。そのココロを簡単にいうと、累積債務が巨大で財政が赤字であっても、成長率が金利より高ければ、いずれは国の経済規模が大きくなって税収の伸びが利払い負担の伸びを上回るようになる、ということです。数式による証明は 上記のレポートの第2節に書いておきました。

さて、レポートでは、

a) 名目成長率が長期金利を上回っていれば、累積債務は持続可能
b) 名目成長率が長期金利を下回っていれば、累積債務は持続不可能

という意味のことを書いたのですが、この(b)は、厳密にいうと間違いでした(第2節の式3は合っているのですが、その解釈で見逃しがありました)。

名目成長率が長期金利を下回っていても、累積債務が持続可能となるケースがあります。それは、

c) 基礎的財政収支が黒字で、かつ、その黒字が「債務残高×(長期金利と名目成長率の差)」を上回っていれば、累積債務は持続可能

です。簡単にいうと、利払いに負けないくらい黒字を出して、がんがん借金を返せば大丈夫、というケースです。「2011年度までの基礎的財政収支の黒字化」という政府目標は、まさに(c)のケースでうまくいくように期待しているわけです。ほとんどの国民を内需不況下の増税で苦しめる、こんな路線の追求はWSの想定外でした。

家計や企業の常識では、黒字を出して借金を返すことは当然の行動です。しかし、国がそれをやろうとすると、歳出削減や税率アップということになる。国民は不景気と増税に苦しみ、結局、税収は期待したほど増えない。レポートで指摘したとおり、歳出削減や税率アップといった方法では、長期的には財政赤字のGDP比率は減らないのです。消費性向のアップだけが、財政赤字を減らす方法です。

「2011年度までの基礎的財政収支の黒字化」、いいかえると、(c)のケースでうまくいくように、との政府の試みは、2006年ごろまではうまく行っているように見えました。しかし、それは世界バブルによる税収増というメッキのおかげであったことが、現在、明らかになりつつあります。

財政赤字問題を解決するための正攻法は、やはり(a)のケースの追求ではないでしょうか。
亀井久興議員の演説にあるように、需要をふやしていく、そしてGDPを大きくして、国民所得をふやして、一人当たり国民所得をふやし、可処分所得をふやして、その個人消費の旺盛な力によって景気回復をさせ、税収増加をはかる、というのが本筋だと思います。


■道州制ってなんのメリットがあるの?

最後に、道州制について。あまり詳しくはないのですが、直観で書きます。

北欧諸国の税制を調べていたら、北欧諸国は人口規模が小さく、ちょうど道や州の規模。これくらいの規模が効率もいいし、福祉をやるにはちょうどいい。だから道州制がいい、という論説(暴論?)をチラホラみかけました。

でも、本当にそうなんでしょうか。

どう考えても、規模が拡大すれば住民サービスのきめ細かさは失われるし、住民自治も後退するでしょう。現状の市町村や都道府県でもWSは大きすぎると思っています。予算規模に問題があるなら、裁量の余地の少ない、制度的交付金を国から配ればいいはずです。

さらに問題なのは、中途半端に権限を委譲された州は、大企業の私的利益の追求に対抗できるのか、という点。

どういうことかというと、例えば、工場を立地するとします。企業としては当然、もっとも法人税が安く、道路建設や港湾整備やその他もろもろの便益を考慮して、優遇策をとってくれる州に立地するでしょう。州どうしは互いに競い合って、予算を企業誘致のために投入する。その結果、住民サービスは劣化し、住民税は増税され、社会保障は削減されることは目に見えています。

企業としては当然の行動が、地方を劣化させます。それに対抗できる主体は、現状では規模の点で、国家以外には存在しないのではないでしょうか。

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財政09」カテゴリの記事

コメント

【Wave of sound の研究日誌さん、皆様】

新年明けましておめでとうございます。

初めて、このコメントでご挨拶させていただきます。

アルデ、吉越先生からコメントいただいて以来、同じ主旨の皆様のブログを、何かと引用させていただき、川柳、短歌チックにさせて戴き、感謝いたしております。

想いは、是非、実現されることですが、社民党、共産党くらいしか賛意の発言がないように思います。

アルデ、昨年途中から、阿修羅が気に入っており、(2ちゃんねるのイメージと同列ではなく)格段に信頼性が高いのではと思っております。

http://www.asyura.us/hks/ranking_list.php?term=1

そこでは、累進税制とベーシックインカム(給付付き)などの声が出始めております。

● 4866 阿修羅など お勧めブログ 記事川柳 (01/01)
http://blog.livedoor.jp/arudebaran60y/archives/65267435.html

しかし、今ひとつ、拡がりが欠けているように思えて仕方がありません。民主党(たとえば、菅さん、藤井さん)やマスメディアが無視しておられるような気がしてなりません。

この点を何とかしなければ一点突破、実現に向かっていかないのではと思えます。

アルデ、昨年は、保坂展人さんのブログに該当川柳句の記事をトラックバックしたり、民主党や首相官邸、小沢一郎さんのブログに意見(別のテーマでした)を出したりするところまで来ていますが、如何せん、浅学非才、共感するものを紹介するくらいが精一杯で、かみ砕いて記事にしたり、戦略的に支持者を増やしたりすることはできそうにありません。せいぜい、自分のブログの訪問者を増やしたり、ミクシーのコミュニティー(人数の多いところ)に沢山参加しているくらいです。

ということで、今後ともどうぞよろしく、ご指導ください。失礼します。

投稿: arudebaran60y | 2010.01.01 10:03

arudebaran60y 様

新年明けましておめでとうございます。

はじめまして。 WSです。 消費税や累進所得税について本質的なことを、いつも気の利いた川柳に歌い込んでいただきありがとうございます。

累進強化や消費税廃止の話が現政権から聞こえてこないのは、とても残念です。 それでうまくいくという確信が持てないからなのか、あるいは、やる気だが高所得層も納得するほどの効果が出るまでには1〜2年かかると計算して、夏の参院選までは黙っているつもりなのか。 後者であってほしいと願っています。

アルデさんには昨年来、よくトラックバックをいただいているので、わたくしも何か一句作ってお返事しなければとずっと思っておりました。でも、うたごころが突然目を覚ますわけもなく、時間が経ってしまいました。 お粗末ながら、ここで勇気をふるって一句:

しょうひぜい
やめてはんとし
みなはっぴー
かがやくにほんに
こどものえがお

というわけで(^o^/;;、今後ともご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: Wave of sound | 2010.01.04 22:52

【Wave of soundさん】

こんばんわ。レスとレス句有り難うございます。

気を使って頂いて恐縮です。近々に記事化させて頂きたく、どうぞよろしくお願いします。

このブログの内容は、とても読みやすく、川柳にしやすいと思いましたし、川柳は要約した見出しのようなものですから、じっくり読むきっかけづくりになればと思っております。

今後も、こちらのブログを参照引用させてもらいつつ、紹介させてもらいたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。

なお、次の記事、如何でしょうか。累進税と組み合わせるといいのではとも思えるのですが。あるいは、将来的には年金との一元化など如何でしょうか。
専門的なお立場から、時期が来たら、ご意見を賜ればと思います。有り難うございました。

子ども手当所得制限なしって事は「子供版ベーシック・インカム」が実現したって事/次は、給付付き税額控除、そして完全BIへ
http://www.asyura2.com/10/senkyo76/msg/685.html

投稿: arudebaran60y | 2010.01.05 00:08

「最適税制」に関する記事にコメントさせてもらいました。そのとき、こちらの記事があることに気づきました。

道州制について、誤解があるのではないかと思われます。なんども自分の本を引き合いに出して申し訳ないのですが、『関西経済論 原理と議題』の第5章は「道州制について」です。275-337ページまで、えんえんと書きました。それは、日本経済に必要な需要創造を行なうには、国の一律の政策ではどうにもならないと考えるからです。道州制というと、行政組織のスリム化により「行政効率を上げる」、つまり「安上がりの政府をつくる」ということはがりが強調されます。しかし、道州制の本来のあり方は、そういうものではないと考えます。地方・地方に頭脳機能を構築して、各地方が創造性を発揮できるようにする。それが本来の道州制だとおもいます。そういう制度を入れないと、東京自体も、地方を支える重みに耐えられずに沈没するおそれが十分にあります。

ただ、ここにいう道州制が機能するためには、絶対必要な条件が2つあります。
(1)立法権
(2)財政自主権
です。

国の法律が、社会経済のあらゆることをがんじ絡めにしている現状では、条例で微調整しても意味がありません。国は、法律の作る領域を限定し、法律を作るときも、その網目をもっと緩やかにして、全国にどうしても必要な最低限の事項に限定するべきです。それ以上のことは、地方政府が、自分たちで稼ぎ出したお金で処置すべきで、税金も納めずに補助金だけもらうという「さもしい」精神を払式しなければなりません。自分たちのことは、自分たちできめる、それに必要なお金は自分たちで醵金する。そういう覚悟が必要です。

現在の道州制論議では、この根本が議論されずに、財源移譲ばかりが議論されていますが、国のお金を自由に使おうというきわめて勝ってな主張に思われます。

もちろん、地方によっては、国の最低限の基準も確保できないところもあるかもしれません。その場合は、政府間調整により、財源を移転します。しかし、これは自動的に行なうものであってはならないでしょう。まずは自助努力が必要です。

こうしたことが可能になるためには、地方にしっかりした頭脳機能が必要です。そうした一端を担うものが官僚です。良い官僚や政治家を形成できる地方は栄え、そうでない地方は苦しみます。

Wave of soundさんが指摘されるように、下手な税制では、地方自体が企業や住民から選ばれる(逃げ出される)ことになります。そのため、税制でも、地方独自で決めやすいものと、全国一律にやらないと効果のないものなどが出てきます。しかし、これは立法上の技術論です。そのためには、優秀な官僚やシンクタンク、研究者、ジャーナリストの質が問われることになります。

まあ、こうしたことがうまくいくには、最低20年ぐらいの試行錯誤が必要でしょう。しかし、そういう大きな改革に踏み切らないと、日本という国はなかなか良くならないのではないでしょうか。


投稿: 塩沢由典 | 2010.04.28 13:15

Wave of soundさん
税制を調べていてたまたま拝見しました。1つだけ間違いを指摘しておきます。スウェーデンの所得税は高累進とのことですが、実際は所得にかかわらない地方税30%、国税が所得により0~25%の累進です。つまり、実質30~55%の累進所得税です。スウェーデン大使館のホームページに載っています。日本は10%の住民税(低所得者は免除)、所得税が0~40%で実質0~50%です。つまり、スウェーデンは低所得者に厳しい低累進税制で、さらに18.5%の年金負担があるそうです。国民全員がすごい負担をして高いサービスを受けているのです。

投稿: | 2010.10.25 00:21

スウェーデンの所得税制についてのコメントをありがとうございます。

たしかにスウェーデンの所得税制はご指摘のように、収入によらず地方所得税が30%の定税率であるなど、一見すると累進度が低いように見えます。しかし

・所得税(国税)は年収が約360万円以下ならばゼロ。(1クローネ=12.3円で換算)
・0〜約40万円の基本税額控除
・0〜約50万円のEITC(勤労所得税額控除)
・0〜約20万円のInWorkTaxCredit(就労税額控除)
(参考:http://www.politiquessociales.net/IMG/pdf/dp3736.pdfのp40のグラフ)

など(給付付)税額控除の諸制度があって、全体としてかなり急な平均実効税率カーブ(同上、p38)を実現しているようです。

投稿: Wave of sound | 2010.10.25 20:34

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