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雇用の流動化は生産性を高めるか

先日の記事では、実質経済成長率と失業率の推移をもとに、ここ半世紀の日本の潜在成長率を推定しました(オーカンの法則)。 潜在成長率と同時に、雇用の不安定さを示す量(オーカン係数)も推定できました。 それらの推移(推定中央値)を再掲すると次のようになります(*1)。


■潜在成長率とオーカン係数の推移

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図 (クリックで拡大)

オーカン係数は、実質成長率が1%増す(減じる)とき、失業率が何%減る(増える)かを表します。 景気変動にともなって失業率がどれくらい大きく変動するか、を示す量です。 オーカン係数が大きいほど、雇用の状態が不安定である、と言えます。

グラフからわかるように、1980年以降、オーカン係数は上昇しています。 それにともなって、潜在成長率の低下が見られます。 この推移を見ると「雇用の流動性を高めれば、自分の能力を活かせる職場に人々が就くから、生産性が高まる(≒潜在成長率がアップする)」という主張の正当性は、非常にあやしいようです(*2)。

むしろ逆に、雇用の安定さが潜在成長率の高さと結びつくように見えます。

もちろん、相関関係があるからといって、ただちに因果関係がある、と結論することはできません。 しかし少なくとも、雇用を不安定にすれば潜在成長率が高まる、という因果関係はなさそうだ、とは言えるでしょう。


■雇用の不安定さ(オーカン係数)と雇用の流動性

オーカン係数は、厳密には「雇用の流動性」と同じではない、という反論があるかも知れません。 生産性の向上に意味があるのは、人々が自分の能力を活かせる職場に転職する頻度(流動性)であって、失業が増減する幅のことではない、という反論です。

そこで、オーカン係数ではなく、転入職率と潜在成長率との関係を見てみましょう。 転入職率のソースは、厚生労働省の雇用動向調査です。

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図 (クリックで拡大)

期間はやや短くて平成3年以降のデータしか手に入りませんが、転入職率が下がるときには潜在成長率がアップし、転入職率が上がるときには潜在成長率がダウンするという関係が、はっきりと見てとれます。 新卒採用や退職の影響を受けにくい30〜44歳の転入職率に限定しても、同様な傾向が見られます。

別の言い方をするならば、雇用の流動性と雇用の不安定さ(オーカン係数)はほぼ同じ意味、ということです。


■転職にともなう賃金の変化

なぜ、転入職の増加が生産性の低下を招いているのでしょうか。 次の図は、転入職者(30〜44歳)の賃金変化の推移です。

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図 (クリックで拡大)

1991年には40%以上の人が転職にともなって賃金が1割以上増えていました。 しかし、 1998年以降は20%程度の人しか賃金が1割以上増えていません。 より自分の能力を活かせる職場に転職した、というよりも、非自発的な転職が多くなったことが推測できます。

   ***

このように、雇用が流動化したほうが潜在成長率が高まる、という証拠は全くありません。

転職者が年に10%を越える状況では、多くの人にとってその転職は不本意なものです。 個々の企業の利益は一時的に増えるかも知れませんが、生産性の向上をもたらす転職ではないため総賃金が低下して、個人消費減という経路で景気は悪化し、国全体の経済の成長にはつながりません。

むしろ、ある程度景気がよく雇用が安定しているなかで、少数の人(年に5%程度)があえて成長産業に職場を求めて転職していく、という環境のほうが、潜在成長率がアップするようです。

累積債務や年金の持続可能性の問題を考えれば、名目成長率を3〜5%以上に保つ必要があります。 そのためには、この10年あまり、近視眼的に推し進められてきた政策である、雇用の非正規化を容認する流れをストップし、逆転しなければならない、と思います。 その逆転を可能にするマクロ経済政策(税、財政、金融)の組み合わせは存在します。

増税と緊縮財政で、過剰に企業どうしを競わせ、働く人を競わせ、子供たちを競わせ、男と女を競わせ、自治体どうしを競わせる。 そんなシバキあげ構造カイカクでは、社会や人々の潜在力は発揮されないのではないでしょうか。

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注 *1) 先日の記事でも触れましたが、2000年以降、雇用の非正規化が速いスピードで進行中なので、この時期の潜在成長率は1〜2%、低めに推定されている可能性があります。

*2) いまの日本経済の問題は生産力があり余っているのに需要が全く足りない、ことなので、「生産性のアップ」に注目することは、ディマンドサイダーであるWSの本意ではありません。 気になる方は、「生産性のアップ」と言う言葉を「賃金のアップ(=家計消費のアップ)」と読み替えて下さい。

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