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地電流によって地面に生じる電位分布---電導度一定の場合 (2)

前回の記事では、地下で生じる起電力によって地殻に流れる地電流が、地表面に電位差を作り、その電位差のために大気イオンが移動して、イオン濃度の異常が起きる、というWSのアイデアについて説明しました。

今回の記事では、地下の起電力によって、地殻や地表面にどのような電位分布が現れるのかを、もっとも簡単な、一様な電導度分布の場合について調べます。

地下で起電力が生じる仕組みについて、詳しいことがわかっていないのに、どうしてそんな考察が可能なのか、と疑問に思われるかも知れません。 もちろん、地殻に加わるストレスがいくらのときに、どれくらいの起電力が生じるのか、といった考察は今はできません。 しかし、たとえば、深さ60kmの地点である大きさの起電力が生じた場合と、深さ40kmの地点で同じ大きさの起電力が生じた場合で、地表での電位がどれくらい違うか、といった比較は可能です。 これから行うのは、そういった考察です。 なお、起電力や、それによって流れる地電流は、ともに直流的であると仮定します。


■地下で鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合

まず、地下のある深さのところに、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図1 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(起電力)が生じているとしましょう。 双極子的な起電力というのは、その起電力発生部位が点とみなせるほど狭い領域に集中していることを意味します。

この起電力のために、周囲の地中に地電流が流れます。 地面は抵抗のある導体です。 地電流に沿った電位降下のために、地中の各点の電位は違ってきます。 もちろん、地表の電位も違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の詳細は注で示します(*)。

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図2 (クリックで拡大)

図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。

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図3 (クリックで拡大)

図3は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面では、起電力発生部の真上の点の電位がいちばん高く、そこから離れるほど、電位が低くなります。

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図4 (クリックで拡大)

図4は、起電力発生部の深さHによって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 電位は起電力発生部の真上で最大になります。 その最大値は、起電力発生部が浅いほど大きくなります。 電位の最大値は、深さHの2乗に反比例して減少することが読みとれます。

起電力が浅いところで生じると、真上の地表での電位は大きくなりますが、電位が大きくなる地表の範囲は限られます。 一方、起電力が深いところで生じると、真上の地表での電位はそれほど大きくなりませんが、影響を受ける地表の範囲は広くなります。


■地下で水平右向きの双極子的な起電力が生じる場合

つぎに、地下のある深さのところに、水平右向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図5 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、右向きに電流を流す働き(起電力)が生じているとしましょう。

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図6 (クリックで拡大)

図6は、図5と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ右の電位は+∞、すぐ左の電位はー∞になっています。

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図7 (クリックで拡大)

図7は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面では、起電力発生部の真上の点の右側に電位の高いところがあり、左側に電位の低い所があります。 真上の点の電位はゼロで、無限遠と同じです。

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図8 (クリックで拡大)

図8は、起電力発生部の深さHによって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 電位は起電力発生部の右側で最大、左側で最小になります。 その最大値は、起電力発生部が浅いほど大きくなります。 電位の最大値は、やはりHの2乗に反比例します。

さきほどと同様に、起電力が浅いところで生じると、地表での電位の最大値は大きくなりますが、電位が大きくなる地表の範囲は限られます。 一方、起電力が深いところで生じると、地表での電位の最大値はそれほど大きくなりませんが、影響を受ける地表の範囲は広くなります。


■地震の規模と、地表面に生じる電位差との関係

発生する地震の規模と、地震前兆としての地表面の電位変化との間には、どのような関係があるでしょうか。 起電力が生じるメカニズムがよくわからないので、いくつかの仮定をおいて、理論的な検討をしてみましょう。

地下での起電力(V)は震源付近で生じると仮定するのが自然でしょう。 つまり、「起電力発生場所≒地震の震源」です。

起電力の大きさ(V)は地殻に加わるストレスの大きさ(S)に比例すると仮定します(V ∝ S)。

ストレス(S)は、地震で解放されるエネルギー(E)の平方根に比例するでしょう(S ∝ √E)。

地表面電位の変化(φ)は、起電力の大きさ(V)に比例し、震源の深さ(H)の2乗に反比例します(φ ∝ V/H^2)。

以上をまとめて φ ∝ (√E)/H^2 。

地震のエネルギー(E)はそのマグニチュード(M)の指数関数です。 Mが2増えるとEは1000倍になります。 このことを用いて、上の式で計算される地表面の電位変化の大きさを表にしてみましょう。 電位変化は、規模M6.0の地震が深さ60kmの地点で発生する場合の、地表面の電位変化の大きさを1としています。

深さ  地震の規模(M)
  5.0 5.5 6.0 6.5 7.0
20km 1.60 3.80 9.00 21.34 50.61
40km 0.40 0.95 2.25 5.34 12.65
60km 0.18 0.42 1.00 2.37 5.62
80km 0.10 0.24 0.56 1.33 3.16
100km 0.06 0.15 0.36 0.85 2.02

表1 地表面の電位変化の大きさ(φ ∝ (√E)/H^2 の場合)

地表での電位変化の大きさは、地震の規模(マグニチュードM)が0.5増えると約2.37倍に、Mが1.0増えると約5.6倍になります。 また、震源の深さが2倍になると電位変化の大きさは4分の1に、深さが3倍になると9分の1になることがわかります。

     *

以上で、もっとも簡単な、地殻の電導度が一定の場合の考察を終わります。 もちろん実際には、地表で見られる地電位の変化は、地下の電導度分布(電気抵抗率の分布)の影響も受けて変わります。

次回は、地電流の流れにくい部分(電導度が小さな部分)がそばにある場合に、電位差が大きくなることを説明する予定です。 山地(火成岩質で電導度が小さい)が迫っている場所や、断層帯などの場合です。

では。

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注*) 電位を求める計算の詳細

電位、電場、地電流がともに定常的な場合を考えます。 場所xの電場をE=E(x)、地電流の電流密度をj=j(x)とすると、電流は電場に比例するので
(1)  j = σE

となります。 ここで、σ=σ(x)は、場所xでの電気伝導度です。

電場は、電荷分布によって生じるクーロン電場Ecと、起電力の原因である非クーロン電場E'の和です。
(2)  E = Ec + E'

ここで、非クーロン電場E'はごくせまい領域、つまり震源付近の起電力発生部分を除くと、ゼロです。 一方、クーロン電場Ecは、電位φ=φ(x)を用いてEc=-∇φと書けます。 よって
(3)  j = σ (-∇φ + E')

さて、地下の電荷密度をρ=ρ(x)とすると、電荷保存則より
   ∂_t ρ = -∇・j

ですが、今は定常状態を考えているので、左辺の時間微分はゼロ。 つまり、電流の発散はゼロでなければなりません。 式(3)の右辺の発散をゼロとおいて
(4)  -∇・(σ∇φ) = -∇・(σE')

を得ます。 これが電位φを起電力E'から決める方程式です。 ごく狭い起電力発生部の外側、つまり、E'=0となる場所では、右辺はゼロゆえ
(5)  -∇・(σ∇φ) = 0

が電位を決める式です。 さらに、今回の記事で仮定したように電導度σが一定のケースでは、式(5)は、ただのラプラス方程式 ∇^2 φ=0になり、φは調和関数となります。

地下の電荷密度ρ=ρ(x)は、ガウスの法則
(6)  ∇・E = ρ/ε_0

で決まります(誘電分極で生じる分極電荷を除いた電荷密度を考えるなら、∇・εE = ρ ですが)。 式(5)を用いると、ごく狭い起電力発生部の外側では
(7)  ρ = -ε_0 ∇^2 φ = ε_0 (∇lnσ)・∇φ

となり、電導度σが一定のケースでは、外部の電荷密度はゼロになることがわかります。

さて、今回の記事では地中の電導度σを一定と仮定しているので、外部の電位φはおなじみのラプラス方程式の解です。 これを解くためには境界条件が必要です。

まず、点とみなせるほどごく狭い起電力発生部(深さH)の近傍で、電位は電気双極子の周囲の電位のように振る舞うと仮定します。 これが「双極子的起電力」という言葉の意味です。

また、地表面z = 0ではノイマン境界条件 ∂_n φ = 0 (z = 0) を仮定します(nは地表面の単位法線ベクトル)。 式(1)からわかるように、これは、地電流が大気中に漏れ出さないという条件に相当します。 大地の電気抵抗は、大気の電気抵抗にくらべると無視できるほど小さいからです。

以上の境界条件を満たすラプラス方程式の解は、鏡像法で見いだすことができます。 起電力発生部の双極子と、地表面に関して対称な位置に鏡像となる双極子を配置すれば、地表面(z=0)での境界条件を満たす解を構成することができます。 上で図やグラフに示した電位は、こうして求めたものです。

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