地電流と地表の電位分布---山地の近くの場合(3)
前回の記事では、地下の起電力によって、地殻や地表面にどのような電位分布が現れるのかを、もっとも簡単な、一様な電導度分布の場合について調べました。
今回の記事では、電導度の小さい火成岩からなる山地の近くでは電位変化が大きくなることを説明します。
■山地近傍の地下で鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合
まず、山地など、電導度の小さい物質の近くで、地下のある深さのところに、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。
図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(双極子的な起電力)が生じているとしましょう。 右側の地中に電導度の低い部分(山地)があります。 山地の電導度は、他の部分の10分の1、山地の幅は5kmとします。 山地というよりは、板状の貫入岩体と呼ぶ方が適当かも知れませんが。
起電力のために、周囲の地中に地電流が流れ、地電流に沿った電位降下のために、地中の各点の電位は違ってきます。 もちろん、地表の電位も違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の概略は注で示します(*)。
図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。 右側の電導度の低い部分(山地)に電流が妨げられるために、電位に段差が生じています。 双極子の真上の地表の電位は、山地がない場合にくらべて高くなっています。
図3は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面の電位にも、山地のために段差がみられます。
図4は、山地から起電力発生部までの距離L2によって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 距離が近いほど、双極子の真上の地表電位は高くなります。 電位は山地がない場合にくらべて10〜30%高くなることがわかります。
■地下で水平右向きの双極子的な起電力が生じる場合
つぎに、地下のある深さのところに、水平右向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。 図1と同様な状況ですが、双極子の向きだけが上向きでなく、右向きになった場合です。
図5は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ右の電位は+∞、すぐ左の電位はー∞になっています。 山地のところで電位に段差が見られます。
図6は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面では、起電力発生部の真上の点の右側に電位の高いところがあり、左側に電位の低い所があります。 真上の点の電位はゼロで、無限遠と同じです。 やはり、山地のところで電位に段差が生じています。
図7は、山地から起電力発生部までの距離L2によって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 距離L2が近いと、山地をはさんで電位に大きな段差が現れることがわかります。 距離L2が遠い場合には、山地がない場合とそれほど電位の様子は違いません。
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以上で、そばに山地(電導度の小さな部分)があるケースの考察を終わります。
そばに山地がある場合には、地電流が山地を避けて流れるために、山地近傍の電位に変化が現れました。 このように考えると、山地が片側ではなく両側にあれば、もっと大きな電位の変化が期待できるでしょう。 その一例は断層帯です。 断層帯は水分に富み、電導度が大きいので、周囲を自分より電導度の小さい物質で囲まれているからです。 次回は断層帯の内部で起電力が生じる場合を考察する予定です。
では。
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注*) 計算の概略
前回と同様に、電導度が一定の各領域の内部では、電位はラプラス方程式を満たします。
電導度の違う媒質が接している面(山地σ_2と標準大地σ_1との境界面)では、電荷保存則により、地電流の法線成分が連続でなければなりません。 この条件は
σ_2 ∂_n φ_2 = σ_1 ∂_n φ_1
と書けます。 これは電位の勾配(空間微分)についての条件ですが、加えて、電位はもちろん、境界面で連続でなければなりません。
これに、前回の記事と同様、双極子近傍での境界条件と地表面でのノイマン境界条件を課して、各点の電位を求めます。
鏡像法を1回使うと、「y,z方向には電導度が変化しないケース」に帰着できます。 そこで、y,z方向にフーリエ変換し、x方向の微分方程式を解いて厳密解を求めることができます。 解の表式はあまり簡単ではありません。 たぶん鏡像法でも解けるでしょう。 (鏡像の双極子は無限個でてきますが)
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