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海水中や海底下の電位と電流の分布---海底下で起電力が生じる場合(5)

前回の記事では、周囲より電導度の大きい断層帯内で起電力が発生すると、地表の電位変化が大きくなることを説明しました。

今回は、海底下 数十キロで起電力が生じる場合に、電位分布や、地中や海水中を流れる電流がどうなるか、を考えます。 はじめに結果の概略を説明してから、詳しく見ていきます。

海水は、塩分濃度などにもよりますが、電導度が標準大地の約500倍〜1000倍と大きいので、海底下で起電力が発生する場合には、あたかも、海底を導体板(海水)で覆ったような状況になります。 つまり、海水がなければ生じるであろう、水平方向の電位差は、海面にはほとんど現れません。海面の水平電位差は小さくなります。

しかし、電位差が小さいといっても、電流も小さいわけではありません。海水は良導体なので、わずかな電位差でも大きな電流が流れます。 海水がない場合の地電流にくらべて、約100倍の電流密度で、海水中に水平方向の電流が流れるのです。 電流密度は海面からの深さにはよらず、ほぼ一様な電流になります。 底のあたりも海面近くもほぼ同じ電流密度です。 今回はこうした現象を説明しましょう。


■海底下 数十キロで鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合

水深数百メートルの海底下で、海面から数十キロ下のところで、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図1 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(双極子的な起電力)が生じているとしましょう。 海水の電導度は、他の部分(大地)の500倍、海の深さは L = 0.2km = 200m とします。 また、起電力が生じる深さは H = 40km とします。

起電力のために、周囲の地中や海中に電流が流れ、電流に沿った電位降下のために、地中や海中の各点の電位は違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の考え方は前回と同様です。


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図2 (クリックで拡大)

図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ 40km のところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。 奥の縁に海水(青色)があります。

先日の記事(2)で調べた海水がない場合とくらべると、電位分布が水平方向に引き締まっていることがわかります。 これは、電導度の大きい海水中を電流が好んで流れるからです。 双極子を上向きに出た電流が、海水にもっとも近い原点(x,y,z)=(0,0,0)に引き寄せられているのです。


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図3 (クリックで拡大)

図3は、図2の海水面付近の拡大図です。 海水面から深さ 10km のところまでの電位分布を示しています。 こんどは手前の縁に海水(青色)があります。 海水の厚みは 200m しかありませんが、その効果は地下 10km のところにも及んでいます。 水平方向の電位差は深いところでは大きく、浅くなるほど小さくなります。 海底面でも電位勾配に大きな不連続性はみられません。

海水面のところの水平電位差は小さく、海水がない場合の地表水平電位差の10分の1程度になることがわかります。 最初の記事(1)で、場所による地表面電位の違いが大気イオン濃度の異常の原因である、との仮説を述べましたが、海面上では、水平電位差による大気イオン濃度の異常は起こりにくい、と考えられます。 (しかし、あとで述べるように、海面上では電流が作る磁場による異常は起こりえます。)


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図4 (クリックで拡大)

図4は、図3と同様な海水面付近の、鉛直断面内の電流のイメージを、矢印で描いたものです。 厚み200mの海水中には水平方向に大きな電流が流れています。 その電流は、海底下の双極子からの上昇電流でまかなわれています。


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図5 (クリックで拡大)

図5は、電流の水平成分を示します。 図4と同様な海水面付近の、鉛直断面内の電流密度の水平成分を、立体的に示したものです。 海水の部分(奥)には、水平方向の大きな電流が流れています。 海水がない場合にくらべて約100倍の電流密度になっています。 海底下の大地(手前)は、海水中にくらべてずっと小さな電流密度です。


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図6 (クリックで拡大)

図6は、電流の上向き成分を示します。 断面は図5と同様ですが、今度は手前側に海水があります。 海底下(奥)では、双極子から大きな上向き電流が流れています。 その拡がりは、上で述べたように、海水がない場合にくらべて絞られています。 海水中(手前)では海水面に近づくにつれ、徐々に電流の上向き成分は小さくなります。 電流は水平方向に左右へと広がっているのです。

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図7 (クリックで拡大)

図7は、海水の厚み(海の深さ)と、電流密度の水平成分の大きさとの関係を示します。 海面付近から海底付近まで、5カ所の電流密度を示していますが、グラフが重なって区別がつきません。 つまり、海中では水平位置が同じなら、深さによらずどこでも、ほぼ同じ強さの電流が水平方向に流れることが分かります。

海水の厚み(海の深さ)が200mなら、電流密度の大きさは、海水がない場合に地表を流れる電流の密度の100倍にもなります。 海水の厚みが大きいほど、電流密度は小さくなります。 しかし、水深が1000mでも、電流密度の大きさは、海水がない場合に地表を流れる電流の密度の約30倍です。


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図8 (クリックで拡大)

図8は、図7では区別のつかなかった、海水面から海底までの5カ所の、電流密度の水平成分の大きさの違いを、相対比で示したものです。 海底面での電流密度の水平成分を1としています。

水平位置が同じなら、深さによらず、海水のどの部分でも、海底近くであろうが海水面近くであろうが、水平方向にほぼ同じ強さの電流が流れていることがわかります。 深さによる違いは0.1%未満です。

     *

このように、海底下で起電力が生じる場合には、海水の大きな電導度のために、海面での電位差は小さくなります。 そのかわりに、大きな水平電流が海水中を流れます。

したがって、海面上では、電位差による大気イオン濃度の異常は起こりにくくなりますが、海水中を流れる大きな電流が別の影響(電流が作る磁場など)をもたらす可能性がでてきます。

(もしかして、地震前に浮上する深海魚は、海水中を流れる電流に驚いて浮いてくるのでしょうか?)

次回は、地電流や海水中を流れる電流が作る磁場について考える予定です。 では。

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コメント

WS様、私も地震予知に興味を持っていて、この一連の記事が大変参考になりました。この記事の数値計算を発展させて、地震の時に発生する地電流が、地殻(および海水層)を経由して上空の電離層にどんな影響を与えるかを計算してみたいと思っています。地殻と電離層間のコンデンサーモデルを想定して計算できるのではないかと考えています。詳しい数値計算のやり方等をご教授いただけると幸いです。ご連絡をお待ちしています。

投稿: 岩田英経 | 2015.10.16 11:52

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