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安定成長と財政収支改善のための政策(3)---開放経済バージョン

新年あけましておめでとうございます。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

この年末年始、再分配政策による消費性向の向上が、国境を越える資本移動の比較的自由な昨今の開放経済下で、経済成長や財政収支にどのような効果をもつのか、いろいろと考えておりました。

WSにとってこの問題を考える糸口は、鎖国経済についてのマイモデル「限界税率・誘発投資モデル」を、開放経済に一般化することです(*)。 それも、Sさんのご提案により扱いやすくなったモデルの特徴(線型で斉次)を損なわない形でできればベストです。

あらわに金融セクターを導入することなく、しかし、国境を越える資本移動による、為替レート変化を通じたクラウディングアウトの、本質的な部分は取り込んだモデルを構成できたと思うので、報告します。

予想外のたいへん興味深い結果がいくつか得られました。

まず、消費性向βが0.65くらいのケースと0.70くらいのケースは、たった0.05しか値が違わないのに全く別の世界になります。 β=0.65の場合には、国境を越える資本移動がない経済ならば、どんどん経済が縮小してしまいます。 資本移動を自由にして海外の経済成長のおこぼれを頂くしか選択肢はありません。 しかし、β=0.70ならば国内経済の力強い成長力があるために、むしろ資本移動をある程度、制限した方が経済が成長します。

また、消費税を廃止する減税を行うケースでは、当初、財政赤字は膨れあがりますが、経済成長により財政赤字はどんどん縮小し3年目で逆転します。 10年目には財政赤字はGDP比1%まで減ります。(これは消費税廃止による消費性向アップの効果を考えない試算です。もし消費性向アップの効果も試算に含めるならば、おそらく財政は黒字化するでしょう。)

今回はこうした結果を示します。 モデルの説明から始めますが、グラフが出てくる辺りから見ていただいてもわかるように書ければと思っています。

ちょっと自画自賛かも知れませんが、このモデルは

・シンプルで、数学的な厳密解を構成できるので、徹底的に調べ尽くすことができる
・にも関わらず、パラメータに対する解の振る舞いは、決して自明とはいえない豊かさをもつ
・日本経済をデフレ状態から脱却させる方法についてヒントを示しているように見える

といった特徴をもつことを強調しておきます。

注*)これから後の部分で、閉鎖(or 鎖国)経済とか開放経済という言葉を使いますが、これは国境を越える資本移動に関してのものです。 財やサービスの貿易について、国境を閉じるとか開けるという話ではありません。

   *

■限界税率・誘発投資モデル(開放経済バージョン)

マクロ経済学では、国内総所得Yは以下の式で表されます。

 Y = C+I+G+(XーM)   (1)

ここでCは家計消費、Iは民間投資、Gは政府支出、Xは輸出、Mは輸入、(XーM)は貿易収支(純輸出)です。

資本移動は、主に貿易収支(X−M)の項を通じて総所得Yに影響を及ぼします。 そのメカニズムはこうです。

たとえば仮に、国内経済より海外経済のほうが景気がよいとします。 すると国内より海外のほうが実質金利が高くなるので、資本が海外へと流出します。 その際には円売り外貨買いが起きるので、円安になります。 円安になると、輸出が伸びて輸入が減りますから、貿易収支(X−M)は大きくなります(=黒字になります)。

逆に、国内経済より海外経済のほうが景気が悪いならば、貿易収支は赤字に振れるでしょう。

そこで、r0を海外の実質経済成長率、rを国内の実質経済成長率として、純輸出のGDP比が成長率の差(r0 ーr)の1次関数であると仮定します。 式で書くと

 (XーM)/Y = h1 + h2 (r0 ーr)

となります。 h1とh2は定数で、データから決めます。 h2は正の定数です。

国内経済の成長率は r= (1/Y) dY/dt と書けるので、上の式は

 (XーM) = (h1 + h2 r0)Y ー h2 dY/dt (2)

と書き直すこともできます(線型斉次)。

定数h2は、資本移動の自由度を表しています。 仮にh2の値が大きいと、国内と海外で少しでも景気(成長率)に差があれば為替レートが大きく動き、景気の差を埋めてしまいます(資本移動が自由)。 逆にh2の値が小さくてゼロに近ければ、 国内と海外に多少の景気(成長率)差があっても、為替レートの変動はわずかで、景気の差が許容されます(資本移動が制限的)。

   *

日本経済のh2の値を調べてみます。 次の図は、最近の日本の貿易収支のGDP比と、各国の実質経済成長率の推移です。

Trade_gdp

貿易収支は黒字でGDPの0%から2%までの範囲をうろうろしています。 海外と国内の実質成長率は、おおむね海外の方が高く、両者の差は0%から2%(直近は3%)までの範囲をうろうろしています。

成長率の差が貿易収支に現れるまでの間には、1〜2年ほどの遅れがあるようですが、両者は同期しています。 この遅れを無視すれば(*)、おおむね h2≒1 と考えてよさそうです。 今後の考察では、h2=1を現状の値と仮定しつつ、h2=0〜2の範囲でh2の値を変えたときのモデルの振る舞いを調べます。

実はh1の値にはあまり興味がありません。 上の式の h1 Y の項は、政府支出の項G=gYと同じ形をしているので、(モデルの上では)h1を係数gに含めて考えてしまっても良いからです。 しかし、そうはせず、ここではh1=0.01とおくことにします。 これは、海外と間に成長率差がない状態で、GDPの1%(約5兆円)の貿易黒字が出ると仮定していることになります。

注*)今後の分析では海外の成長率r0を一定と仮定するので、遅れを無視しても経済の振る舞いはほとんど変わらないと期待できます。 しかし、海外経済の急激な変動によるショックの影響を分析したければ、遅れを無視することはできません。 そうした場合には、貿易収支についても微分方程式の形にするか、あるいは、時間差に依存する積分核と内外の成長率の差のたたみ込み積分で貿易収支が決まるような形に、モデルを変更するべきでしょう。

   *

(1)式(再掲):

 Y = C+I+G+(XーM)

の右辺の残りの項は、これまでの閉鎖経済の場合の「限界税率・誘発投資モデル」と同じです。 すなわち、税収Tは、平均税率α1と限界税率α2を用いて

 T = α1 Y + α2 dY/dt

とします。 家計消費Cは、可処分所得(YーT)と消費性向βを用いて

 C = β(YーT)

とします。 民間投資Iは、国内消費誘発型に仮定し、金利の影響は考えません。 すなわち、平均投資性向γ1と限界投資性向γ2を用いて

 I = γ1 C + γ2 dC/dt

とします。 政府支出Gは、Sさんのご提案にしたがって、gを定数として

 G = gY

とします。 貿易収支(純輸出)は上の(2)式で述べたように(再掲)

 (XーM) = (h1 + h2 r0)Y ー h2 dY/dt

とします。 (毎年の)財政赤字Dは

 D = gY ー T

なので、財政赤字のGDP比 D/Y は

 D/Y = g ー α1 ー (α2/Y) dY/dt

となります。 以上が、「限界税率・誘発投資モデル(開放経済バージョン)」を構成する式です。


■モデルの特徴=線型斉次

上の式からCを消去することにより、国内総所得Yが満たす2階の常微分方程式(線型斉次!)を導くことができます。 結果は時間微分をプライム(')で表して

 Y'' + pY' + qY = 0

ただし、定数p、qは

 p=(1+γ1)/γ2 - (1-α1)/α2 + h2/(βα2γ2)

 q=[1-g-h1-h2r0 - β (1-α1)(1+γ1)]/(βα2γ2)

となります。
(qが定数となるのは、海外経済の成長率r0を定数とおいているからです。 r0が定数でない場合には、qは時間の関数q=q(t)と見る必要があります。)

これは線型斉次の微分方程式で、先日の記事 安定成長と財政収支改善のための政策(1) の注2で扱ったものと全く同じ形です。 なので、同じ手法で、経済が安定成長する条件や財政収支の状態を調べることができます。 すなわち

特性方程式(成長率λについての2次方程式)

 λ^2 + pλ + q = 0

が符号の異なる2実解をもち、かつ、負の解が0から十分に離れていることが、経済が安定成長できる条件です。 その場合、じゅうぶんに時間が経ったときの(毎年の)財政赤字のGDP比は、

 D/Y ≒ g ー α1 ー α2 r

となります。 ここでrは、特性方程式の正の解です。

以上の判定基準を用いれば、先日の記事のように9次元パラメータ空間の各点(各経済状態)にスコアを与えて、平均スコアを表すたくさんの射影図を書いて、この開放経済モデルの振る舞いを調べることが可能です。 それはあとでやります。 しかし、まずはいくつかの特徴的なケースで実際に国内総所得Yや財政収支の時間発展の様子をグラフに描いて見ます。

   *

■モデルのパラメータは9つ

モデルには経済状態を表す9つのパラメータが出てきます。 ここで表にまとめておきます。

パラメータ現状考察する値の範囲値を大きくする政策(*)
平均税率 α10.170.13 - 0.21消費税率アップ
限界税率 α20.650.45 - 0.85所得税率の累進性強化
平均投資性向 γ10.400.30 - 0.50長期的な投資を促進
限界投資性向 γ22.01.0 - 3.0消費の増減に投資が過敏
消費性向 β0.670.65 - 0.70再分配政策や将来不安の解消
政府支出比率 g0.200.10 - 0.30政府支出増
平均貿易黒字比率 h10.010.01 - 0.01外貨準備高の拡大
資本移動の自由度 h21.00.0 - 2.0資本移動の自由化
海外経済の成長率 r00.020.00 - 0.04海外経済の成長

注*) これは単に、どのような政策がそのパラメータ値を大きくするか、を記しただけです。 その政策が安定成長や財政収支の改善に役立つかどうかは、別の問題です。


■消費性向βによってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

次の図は、さまざまな消費性向の値について、GDP(国内総所得)Yの10年間の推移(実線)と財政赤字比率の推移(同色の点線)を示したものです。 消費性向以外の8つのパラメータについては、上の表の「現状」欄で示した値としています。 それゆえ、資本移動の自由度h2は h2=1.0 。 海外経済の成長率r0は年率2%で一定と仮定していることに注意して下さい。 初期条件は、Yの初期値を500兆円とし、初期成長率Y'を0%/年としています。 断らない限り、今後はこの初期条件を仮定し、他のパラメータの値は「現状」欄の値とします。

B

消費性向のわずかな違いによって、成長率が大幅に違ってきます。 消費性向βが0.67未満の場合には、経済が縮小することがわかります。 β=0.67のときはわずかな成長で、βがそれより大きいと成長率が増します。 β=0.69の場合には10年後のGDPは820兆円に達します。 下表を見るとわかるように、これはおよそ年率5%の成長率です。

Gdp10y

成長率が年5%だと、表からわかるように、GDPの約2%の貿易赤字が出ますが、現在の日本の所得収支(海外からの利子や配当などの受取)の黒字も同程度あるので、経常収支はちょうどバランスし、問題はありません。

ふたたびグラフに戻って、財政収支を検討します。 財政収支のGDP比は経済の成長率によって決まってくることがよくわかります。 成長率が高いと財政収支は改善し、成長率が低いと悪化します。 つまり、消費性向が低くて0.65程度だと10年後の財政は大赤字(GDPの約5%の赤字)ですが、消費性向が高くて0.70だと財政は黒字(GDPの約1%の黒字)です。


■資本移動の自由度h2によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか(β=0.67の場合)

次の図は、資本移動の自由度h2のさまざまな値について、GDP(国内総所得)Yの10年間の推移(実線)と財政赤字比率の推移(同色の点線)を示したものです。 消費性向以外の8つのパラメータについては、上の表の「現状」欄で示した値としています。 それゆえ、消費性向βは β=0.67 。 海外経済の成長率r0は年率2%で一定と仮定していることに注意して下さい。

H2

資本移動の自由度h2が大きいほど成長率は高くなるように見えますが、成長率は最大で年率約2%(=10年後のGDPが609兆円)で、これは海外経済の成長率です。 逆に、h2が小さいと経済が縮小します。 これは、消費性向が0.67と低く、国内経済に成長力がないために、資本移動を自由にして海外経済の成長のおこぼれにあずからないと、経済が回らない状態であることの結果です。 海外経済が順調に成長していれば問題はありませんが、ひとたび海外が不調になれば、その影響に翻弄されます。

財政収支(点線)を検討します。 財政収支は、資本移動の自由度h2が低いと目も当てられない惨状となります。 資本移動の自由度が大きいと、順調な海外経済に助けられて多少はましとなります。 すべては海外経済だのみといった経済状態であることがわかります。

では、消費性向がもう少し高いとどうでしょうか。 それを次に見てみます。


■資本移動の自由度h2によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか(β=0.69の場合)

次の図は、消費性向がβ=0.69の場合に、資本移動の自由度h2のさまざまな値について、GDP(国内総所得)Yの10年間の推移(実線)と財政赤字比率の推移(同色の点線)を示したものです。

H2_2

消費性向の向上幅はわずか0.02ですが、先ほどとは全く違った風景になっています。 今度は、資本移動の自由度h2が小さいほど成長率は高くなります。 逆に、h2が大きいと経済成長率が小さくなります。 成長率は最低でも年率約2%(=10年後のGDPが609兆円)で、これは海外経済の成長率です。

消費性向が0.69と高く、国内経済に成長力があるために、国境を越える資本移動をある程度、制限して内需中心に経済を回した方がよい状態であることの結果です。 海外経済の変動に翻弄されない状態です。

財政収支(点線)も、資本移動の自由度h2が小さいほど良好です。 h2が1.0以下の場合には財政は黒字になります。

   *

資本移動の自由度が小さく、鎖国経済に近いケースで消費性向が高いと、経済は爆発的に成長することがわかります。 たとえば、β=0.69でh2=0.25の場合(上の図の赤色の線の場合)だと、10年後のGDPは約2450兆円で、これは平均して年率17%の成長率です。 本当にこんな高成長が可能なのでしょうか。 それを総所得Y(t)が満たす微分方程式に戻って調べてみます。 実は、こうした高成長は、経済の不安定性を伴っていることがわかります。

次の図は、成長率が満たす特性方程式の2解(虚数解の場合にはその実部)が、消費性向によってどう変わるかを、さまざまなh2の値について示したものです。

Eigenvalues

たとえば、h2=0.25の場合(赤色の線)で、β=0.67のところを見て下さい。 大きい方の解は約26%/年、小さい方の解は約3%/年となっています。

小さい方の解は、経済ショックに対する耐性を示しています。 先日の記事の注2で説明した通りです。 つまり、成長率が年率+3%を下回るような「不況」がひとたび訪れれば、その後は、成長率が低下を続け、デフレスパイラルに突入して経済が縮小してしまいます。

一方、幸運に恵まれて成長率が年率+3%を下回ることがなければ経済は拡大を続け、じゅうぶんに時間がたつと、成長率は大きい方の解(今の場合には26%/年)の値になります。

リーマンショック後の経済の落ち込みを見れば、成長率が-6%/年に落ち込むことはあり得ます。 その場合にもデフレスパイラルに突入しないためには、小さい方の解は-6%/年より小さくないといけません(負の値で絶対値が大きくないといけない)。 図を見ると、h2=0.25の場合(赤色の線)でその条件が満たされるためには、消費性向βは0.69以上となる必要があります。

資本移動が多少自由になって、h2=0.50の場合(オレンジ色の線)ならば、消費性向βは0.674以上となれば条件が満たされます。 資本移動がもっと自由になって h2=1.0あるいは2.0の場合には、(図には現れていませんが)小さい方の解は年率-60%/年より小さいので、条件は常に満たされています。

まとめますと、資本移動の自由を制限すると、消費性向を高めることで国内経済の高い成長が可能です。 しかし、国内経済がショックに対しても安定であるためには、資本移動の自由を制限すればするほど消費性向は十分に高くないといけません。 それに対して、資本移動を自由にすると、(もし海外経済が安定しているならば)国内経済は安定化しますが、海外経済の成長率と同程度の成長しか見込めなくなります。 その場合、国内経済の成長率は、消費性向の向上に伴い、わずかに増加します。 海外経済が不安定ならば、国内経済はそれに翻弄されます。

注)ここで現れた、資本移動の自由を制限した場合の国内経済の高い成長率は、国内金利上昇による投資(住宅投資など)の抑制効果をモデルに組み込んでいないことの結果でもあります。 その効果を取り込めば、実際の成長率はおそらく図の半分くらいになるでしょう。 なお、日本経済はh2=1.0程度と述べましたが、中国経済はh2=0.5程度に相当していると思われます。

   *

■平均税率α1によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

次の図は、平均税率α1のさまざまな値について、GDP(国内総所得)Yの10年間の推移(実線)と財政赤字比率の推移(同色の点線)を示したものです。 他の8つのパラメータについては、前記の表の「現状」欄で示した値としています。

A1

非常に興味深い結果が得られました。 この図からは消費税率のアップやダウンの長期的影響を読みとれることに注意して下さい。 消費税率を5%上げれば、現在0.17である平均税率α1が0.03上昇して0.20になります。 逆に、消費税を廃止すれば、α1は0.03低下して0.14になります。

減税すれば経済は拡大し、増税すれば経済は縮小します。 これは当然の結果です。

興味深いのは財政収支の推移です。 減税(あるいは増税)にも関わらず政府支出を変えないので、たとえば減税のケース(α1を0.17より小さくするケース)では、当初は財政赤字が膨らみます。 たとえば、α1=0.13とするケースでは、当初、財政赤字のGDP比率は4%も悪化します。

しかし、経済成長に伴って、財政赤字は急激に縮小し、3年目で逆転。 10年目には財政赤字のGDP比は1%にまで減るのです。

それに対して、増税ケースでは、当初は財政赤字は減少します。 しかし、経済縮小に伴って財政赤字は急増し、3年目で逆転。 10年目には財政赤字のGDP比は増税前より増えてしまいます。 しかも、GDPは増えるどころが縮小してしまいます。

これらの結果は、平均税率以外の8つのパラメータが変わらないと仮定して導かれました。 実際には、消費税の減税に伴い、限界税率α2が増え、消費性向βが向上します。 こうした影響を考慮しても(というか、考慮すればすればするほど)、上記の結果は定性的には変わりません。 10年後の財政収支のGDP比は、消費税の増税により悪化し、消費税の廃止により向上するでしょう。

   *

消費税を財源にして消費性向を向上させるような政府支出を行えばよい(=福祉に使う)、という声をよく聞きます。 そういう人に申し上げたいのは、なぜ富士山に登るのに、日本海溝の底から登るようなことをするのか、ということです。 2合目か3合目から登る方がいいに決まっているではないですか。

消費性向を向上させるようなやり方で税金を取り、消費性向を向上させるようなやり方で支出する、これがベストです。 つまり、消費税などの間接税を可能な限り縮小し、累進性のある所得税や法人税などの直接税を税収の根幹に据え、中低所得層が潤うような形で政府支出を行うことが、経済を発展させる王道です。

消費性向を低下させるようなやり方で税金を取り(消費税)、消費性向を向上させるようなやり方で支出する、これはベストではない。 やり方によっては、より悪くなるかも知れない方法です。

高負担高福祉と言われる北欧諸国ですが、税収に占める直接税の割合は、日本より高いのです(参考記事)。 高福祉を支えているのは、所得税と、法人税と、企業負担です。 消費税が中心ではありません。

   *

では、残りのバラメータについても同様な図を順に示して、簡単にコメントします。

■限界税率α2によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

A2

「現状」の経済状態では、あまり成長率が高くないために、限界税率による違いはわずかになっています。 (閉鎖経済に近く、成長率が高いケースでは、限界税率の高さが経済に安定性をもたらしますが、成長はその分、抑えられます。)


■平均投資性向γ1(=c1)によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

C1

平均投資性向が高いほど、成長率が高くなり、財政収支も改善することがわかります。


■限界投資性向γ2(=c2)によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

C2

限界投資性向が高いほど、成長率が高くなり、財政収支も改善することがわかります。 資本移動の自由さがある程度、国内経済の安定をもたらすため、限界投資性向が高くても不安定にはなりません。 しかし、これは海外経済が安定成長している場合に限った話です。 鎖国経済についての従来モデルから類推すると、海外経済が不安定ならば、高すぎる限界投資性向は望ましくありません。


■政府支出比率gによってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

G

政府支出比率が高いほど、成長率が高くなり、財政収支も改善することがわかります。 当モデルには、国内金利の上昇が民間投資を抑制するメカニズムが含まれていないので、これは当然の結果です。 (ただし、内外金利差による円高が貿易収支を悪化させ、所得を抑制する効果は含まれています。)


■海外経済の成長率r0によってGDPや財政赤字比率はどう変わるか

R0

海外経済の成長率が年率0%〜4%の場合を調べています。 海外経済の成長率が高いほど、国内経済の成長率が高くなり、財政収支も改善することがわかります。

   *

■まとめ---開放経済バージョンのモデルの局所的観察からわかったこと

これまで、「現状」の経済状態の近辺でパラメータを変えて、10年先までの経済発展の様子を調べてきました。

現在の状態は、国内経済の成長力が弱く、海外の経済成長のおこぼれをいただくしかなく、海外経済の変動に翻弄される状態です。 しかし、消費性向を少し向上させるだけで、風景は一変します。 国内経済の力強い成長力のため、むしろ国境を越える資本移動の自由度をいくらか制限した方が、より成長率が高まり、財政収支も改善するのです。

こうした知見は、「現状」の経済状態の近くを局所的に調べて得られたものです。 しかし、モデルにはパラメータが9つあり、9次元のパラメータ空間のなかで経済の振る舞いが大局的にどうなっているのか、も見ておく必要があります。 前回の記事のように、射影図をたくさん描いて大局的な観察を行う予定ですが、それは記事を改めてやることにします。

では。

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