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消費を最大化する所得税制(3)---推定の方法

「最適」所得税制を決定する話の3回目です。

目標は、国内の消費(あるいは国内総所得)を最大化するような、所得税の税率表を求めることです。

その際、税収はGDPの20%であるという制限を置きます。 他の税はないものとします。

まず、どのような考え方で「最適」所得税を決定するのか、その方法について説明し、あとで結果を示します。 方法の説明の部分は数式が多くなります。

各家計の所得や可処分所得、さらに、それによって決まる消費額が基本になるので、それから話を始めます。


■各家計の所得

まず、各家計はそれぞれ所得獲得能力(nとします)を持っていると仮定します。

各家計の実際の所得yは、能力nだけはなく、その家計が直面する限界税率t'(y)と景気y0の影響を受けると仮定しましょう。

t(y)は所得yの家計に課される税額で、t'(y)は所得がyから少し増えたときに税額が増える割合(変化率)です。 また、y0を景気変数と呼びます。 景気変数y0はすべての家計に共通です。

所得が限界税率に依存すると仮定するのは、税が重いと労働意欲をなくして所得が減る効果を考えてのことです。(図参照)

Fig_ex1
図1

所得が景気の影響を受けると仮定するのは、同じ能力をもった家計でも、景気が良ければ収入が増え、景気が悪ければ収入が減る効果を考えてのことです。 (図参照)

Fig_ex2
図2

能力nの家計の所得yは次の式を満たすように決まると仮定します(右辺にもyが登場するので、yについての方程式になっています)。

y = y0 n (1-t'(y))^e  ...(1)

eは、所得の税率に対する弾力性と呼ばれ、税が重いと所得が減る効果の強さを表しています。多くの国でeは0.12から0.4程度の値をとり、日本では0.2弱であるとの推計があります(*1, *2)。

前回の記事でデータから推計した、家計の所得獲得能力n(ただし 0 <= n < +∞)の分布をf(n)で表します。 つまり、能力がnからn+dnの範囲にある家計の数はf(n)dnであるとします。 分布の両端ではべき分布(パレート分布)になるのでした。

能力nの分布は景気変数y0の影響を受けず、y0が変わっても不変であると仮定します。

分布関数f(n)の全区間にわたる積分は1であると規格化しておきます。

Integral(f(n), [n,0,+∞]) = 1

また、能力nの中央値は1であると規格化しておきます。

Integral(f(n), [n,0,1]) = 1/2

この規格化により、能力nは無次元量となり、所得の中央値がだいたいy0になります((1-t')^eの項を除いて)。

式1を見ると、t'(y)が0より大きく1未満の値を取るゆっくりと変化する関数ならば、景気変数y0が大きいほど所得yが大きくなることがわかります。 これは、景気がよいほど各家計の所得が増えることを表しています。


■各家計の可処分所得と消費額

所得yの家計の可処分所得zは、所得から税額を引いたものになります。 所得yの家計に課される税額をt(y)と書くと

z = y - t(y)  ...(2)

となります。

可処分所得zの家計の年間の消費額c(z)は、前回の記事で推定した消費性向を用いると

c(z) = 2.31 × z^0.808  ...(3)

と書けます(金額の単位は万円)。


■マクロな総所得Yや消費C、税収T

国内の各家計の所得や消費を合計した量を考えます。 まず、能力nの家計に対し、式1で決まる所得をy(n)と表すことにします。 明示的に書いてはいませんが、y(n)は実際には、景気変数y0や税率表{t(y)}にもよります。

総所得Yは、全家計でy(n)を足し合わせたものになります。

Y = Integral(f(n) y(n), [n,0,+∞])  ...(4)

家計消費c(z)の合計Cは次の式で与えられます。

C = Integral(f(n) c(y(n)-t(y(n))), [n,0,+∞])  ...(5)

総税収Tは次のようになります。

T = Integral(f(n) t(y(n)), [n,0,+∞])  ...(6)

税収は国内総所得の20%と仮定するので

T = 0.20 Y  ...(7)

の関係を要請します。 式7は、景気変数や税率表が満たさなければならない拘束条件です。


■民間投資Iと政府支出Gについての仮定

民間投資Iは消費Cに比例すると仮定します。 日本の場合、300兆円弱の家計消費に対して、民間投資は約100兆円です。 そこで

I = 0.33 C  ...(8)

の関係を要請します。 式8も、景気変数や税率表が満たさなければならない拘束条件です。

政府支出Gは、均衡財政を仮定して、税収Tと等しいとします。

G = T  ...(9)


■マクロ経済に関する恒等式

簡単のため、輸出入のない閉鎖経済を仮定します(*3)。 恒等式

Y = C + I + G

に、式8と均衡財政の式9を代入して、式7を用いると

Y = C + 0.33 C + 0.20 Y

これから

C = 0.60 Y  ...(10)

を得ます。


■「最適な」税率表を決める方針

景気変数y0と税率表{t(y)}が満たすべき拘束条件は、式(7)と式(10)です。 これらの拘束条件を満たすような y0と{t(y)} のなかで、消費Cを最大にするものを求めれば、それが求める税制{t(y)}になります。

式10より、そのような税制は、国内総所得Yも最大化しています。


■拘束条件の処理

簡単のため、家計の所得を以下の10個の区間に分け、それぞれの区間で限界税率が一定であるような税率表だけを考えます。

     所得   限界税率
区間1  0〜200万円  m1
区間2 200〜400万円 m2
区間3 400〜600万円 m3
区間4 600〜800万円 m4
区間5 800〜1000万円 m5
区間6 1000〜1400万円 m6
区間7 1400〜2000万円 m7
区間8 2000〜2800万円 m8
区間9 2800〜4000万円 m9
区間10 4000万円〜    m10
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所得ゼロの家計の税額  t0

また、所得ゼロの家計の税額をt0とします。 t0は一般にはマイナスです。 すなわち、所得ゼロの家計には税の徴収ではなく、給付が行われます。 t0は給付つきの税額控除に相当します。

たとえば、 t0=-120、 m1=0.20、 m2=0.30 の場合に、所得230万円の家計の税額を考えてみます。
収入のうち、最初の200万円にかかる税率は0.20なので、この部分の税額は40万円。
残りの30万円にかかる税率は0.30なので、この部分の税額は9万円。
一方、t0のために120万円の給付つき税額控除があります。
よって、この家計の税額は
-120 + 40 + 9 = -71万円です。 (71万円の給付)

もちろん、もっと収入の大きな家計の税額はプラスになります。 そうした税額(低所得家計はマイナス)をすべての家計について加え合わせると、国内総所得の20%になってほしいわけです。

上の税率表は (t0, m1, m2, ... , m10) の11個のパラメータで決まっています。 これに加えて、景気変数y0があります。 合計12個のパラメータがあります。

これら12個のパラメータは独立には選べません。 2つの拘束条件(式7と式10)を満たす必要があるからです。

最低所得層の福利厚生を表すt0は手で与えることにします。 t0 = -120, -240, -360の3通りの場合を考えます。

残り11個のパラメータを拘束条件を満たすように動かしながら、消費Cを最大にするパラメータの組を探すのは難しいので、かわりに

(y0, m1, m2, ... , ,m10) の11個のパラメータを自由に動かしながら

消費C から 拘束条件からのずれを表す量 を引いた量

を最大にするパラメータの組を探すことにします(*4)。

最大値の探索には、遺伝的アルゴリズムの一種である、DE (Dynamical Evolution) を用いました(参考リンク pdf)。

このようにして求めた、消費を最大化する税率表を次に示します。

(続く。 次回は結果を示します。)

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*1) 日本の課税所得の弾力性
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/30924823.html


*2) 能力nの家計の所得yを決定するこの式1は、以下の効用関数uから導くことができます。

u(z, y) = z - (y0 n)/(1+1/e) (y/(y0 n))^(1+1/e)

ここで、可処分所得zに、 z = y - t(y) を代入して、uが最大になること(du/dy = 0)を要請すると、式1が得られます。

効用uの式に現れた量 y/(y0 n) はだいたい労働時間(労働投入)です。 少ない労働時間で大きな可処分所得が得られる場合に、効用uが大きくなっています。


*3) 輸出や輸入の影響を考慮することも容易です。 たとえば、輸出Xを定数とし、輸入Mが総所得Yに比例するとして M = m Y (mは定数)と仮定すれば、恒等式

Y = C + I + G + X - m Y

より、

(0.80 + m) Y = 1.33 C + X

なる拘束条件を得ます。 これを式10の代わりに用いれば、輸出入の影響を考慮して、最適税制を推定することができます。

さらに、Xやmの値を実際より少し大きく設定することで、国内金利上昇によるクラウディングアウトの影響を近似的に取り込むこともできるでしょう。

*4) たとえば、拘束条件からのずれdを d = sqrt( (C/Y - 0.60)^2 + (T/Y - 0.20)^2 ) としたとき、 d > 0.001 ならば消費Cを実際より500兆円少ないとみなし、d > 0.002 ならば消費Cをさらに500兆円少ないとみなし、といった具合に、拘束条件からのずれを考慮した河岸段丘(を逆さまにした)形状の評価関数を用います。

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