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消費を最大化する所得税制(4)---推定結果

「最適」所得税制の話の4回目です。 今回は推定結果を示します。


■国内消費を最大化する限界税率の表

次に示す3つの図は、国内の消費(あるいは国内総所得)を最大化するような、所得税の限界税率の推定結果です。 最適な税率には1〜2%程度の誤差が含まれている可能性があります(*1)。

所得の税率に対する弾力性eの値が異なる、3つのケースを調べました。 順に
e=0.2 (図1)
e=0.3 (図2)
e=0.4 (図3)
のケースです。 (日本の家計では、弾力性eは0.2程度であると思われます。)

Mtrate020
図1

Mtrate030
図2

Mtrate040
図3

いずれの図においても、所得ゼロの人の税額t0が
t0=-120 (低福祉ケース)
t0=-240 (中福祉ケース)
t0=-360 (高福祉ケース)
の3通りの場合を示しています(所得の単位は万円)。

税額がマイナスなので、これは実際には給付がある、ということです(給付つき税額控除)。

たとえば、図1のt0=-120のケースでは、すべての家計に年120万円が給付された上で、(税引きや給付以前の)所得の各部分に、図の限界税率で定まる税が課されることになります。

図の限界税率はいずれも非常に高く見えるかも知れませんが、給付分(t0)があるので、(とくに中低所得層の場合)実効税率ははるかに低くなります(あとで示します)。 (限界税率とは、年収が1万円増えたとき、余分に納めなければならない税金の、1万円に対する割合のことです。) 

なお、今回の分析では簡単のため定額給付の場合を調べています。 定額給付のほうがEITC(勤労所得税額控除)のような仕組みより望ましい、と主張したいわけではありません。

では、図1(e=0.2の場合)を詳しくみてみます。

給付額(-t0)が120万円の場合(青色の棒)には、年収800万円以下の限界税率は約45%で一定です。 年収800万円以上では限界税率は徐々に高くなり、年収2000万円で約80%、年収4000万円以上では約96%となります。

給付額(-t0)が240万円と360万円の場合(黄色あるいはオレンジ色の棒)はよく似ています。 いずれも、年収1400万円以下では限界税率は70%台前半でほぼ一定です。 年収1400万円以上では限界税率はゆるやかに高くなり、年収4000万以上では約95%となります。

図2(e=0.3)と図3(e=0.4)の場合も、限界税率の年収に対する定性的な振る舞いは図1とよく似ています。 おもな違いは、弾力性eが大きいほど、高所得層の限界税率が下がることです。 年収4000万以上の限界税率は、e=0.2の場合には94〜96%でしたが、e=0.3の場合には93%、e=0.4の場合には90〜92%となります。


■消費を最大にする税制の場合の、実効税率の表

上では最適な限界税率の推定結果を示しましたが、実効税率(=税額/所得)はもっと低くなります。 上記の限界税率から計算される実効税率を次に示します。 まず、年収1000万以下の場合です。

Etrate1
図4

ごらんのように、中低所得層の実効税率は、おもに給付額(-t0)で決まり、弾力性eにはほとんど無関係となります。

年収400万円以下では、実効税率は高福祉ケース(t0=-360)で一番低く、低福祉ケース(t0=-120)で一番高くなります。 いずれのケースでも実効税率は20%以下です。

年収が400万円から900万円では、低福祉ケースと中福祉ケースの税率が入れ替わります。 実効税率が高福祉ケース(t0=-360)で一番低いのは同じですが、実効税率が一番高いのは中福祉ケース(t0=-240)となります。 実効税率は35〜45%です。

年収が900万円から約2000万円では(図5も参照)、さらに高福祉ケースと低福祉ケースが逆転します。 実効税率は低いほうから順に、低福祉ケース、高福祉ケース、中福祉ケースとなります。 実効税率は35〜65%です。

次に年収1000万円以上の場合の実効税率を示します。 (年収4000万円付近でやや凹凸が大きくなっています。 これは計算の便宜から、限界税率を階段状の関数で表していることによる、人工的な凹凸です。)

Etrate2
図5

高収入になるほど実効税率は高くなり、年収1億円では約80〜85%、年収10億円では約90%に達します。 高所得層の実効税率は、弾力性eによる違いが無視できなくなります。

たとえば、e=0.20の場合に注目しますと、年収2000万円以上では、実効税率は低い方から順に、高福祉ケース、低福祉ケース、中福祉ケースとなります(年収4000万円以上では、低福祉ケース≒中福祉ケース)。

3つのケースを比較すると、中福祉ケースは魅力に乏しいように思われます。 年収400〜2000万円の中所得層〜プチ高所得層の負担が、他のケースに比べて重いからです。

もう1つ、注目に値する事実は、年収900万円以上の高所得層で、高福祉ケースのほうが低福祉ケースよりも実効税率が低くなることです。 この少々意外な結果は、以下で見るように、再分配による需要増殖効果に関係があります。 高福祉ケースでは、低所得層の旺盛な消費が、国内総所得の水準を引き上げるのです。


■消費を最大化する税制の場合の可処分所得

消費を最大化する税制を採った場合の、可処分所得を次の図に示します。 まず、中低所得家計の可処分所得から。 限界税率を階段状の関数に選んでいるために、多少の人工的な凹凸が生じています。

Dispo_income1
図6

下位45%の家計では、可処分所得は高福祉ケース(t0=-360)で一番多く、次いで中福祉ケース(t0=-240)となり、一番少ないのは低福祉ケース(t0=-120)です。

上位55%の家計では、可処分所得は高福祉ケースで一番多く、次いで低福祉ケースとなり、一番少ないのは中福祉ケースです。 (可処分所得1000万円付近では、低福祉ケースのほうが高福祉ケースよりわずかに大きくなります。)

高所得層の可処分所得を次に示します。 高所得層の可処分所得は、弾力性eによる違いが無視できなくなります。

Dispo_income2
図7

e=0.2の場合に注目します。 可処分所得が1500万円以上となる所得層では、高福祉ケースの可処分所得が最も多くなります。 低福祉ケースと中福祉ケースはほぼ同じで、いずれも高福祉ケースの半分程度の可処分所得となります。

どうして、高福祉ケースのほうが低福祉ケースより、高所得家計の税負担が軽く、可処分所得が多くなるのでしょうか。 それは国内総所得の水準が違うからです。


■消費を最大化する税制の場合の国内総所得(GDP)

消費を最大化する税制を取った場合の、一家計あたりの国内総所得を次の図に示します(*)。

Gdp
図8

たとえばe=0.2の場合(青色の棒)に注目します(*2)。 一家計あたりの国内総所得は、低福祉ケースを基準として、中福祉ケースでは約1.03倍、高福祉ケースでは1.56倍となり、給付額(-t0)が大きいほど、国内総所得が増えることがわかります。

他の場合(e=0.3またはe=0.4)も同様で、高福祉ケースの国内総所得が一番多くなっています。

高福祉ケースでは、定額給付額は1家計あたり360万円と多いのですが、国民総所得も約1.6倍に増えるので、高所得層の税負担率はそれほど増えないことがわかります。

(*2月17日 付記:当初アップした一家計あたりのGDPの図に誤りがあったので差し替えました。 国内総所得ではなく、景気変数y0を縦軸にとってしまっていました。)


■まとめ

税収と政府支出がともにGDPの20%で、かつ、民間投資が消費の33%である、という条件の下で、消費(あるいはGDP)を最大化する所得税制を求めました。 他の税はないものとしています。

中低所得層の実効税率は、定額給付額でほぼ決まります。 高所得層の実効税率は、定額給付額に加えて、弾力性eの値によって違ってきます。

中福祉ケースは、相対的に中間層の負担が重く、あまりメリットがないように思われます。

高福祉ケースでは、GDPの水準が高くなるため、高所得層の負担率は低福祉ケースよりむしろ低く、可処分所得も多くなります。


■今後の予定

時間をみつけて、以下のような考察をしてみたい、と考えています。

・10代の子供を2人もつ家計のように、消費性向が高い家計が通常の家計と混在している場合に、家計のタイプごとに、最適な税率表を同時に決定すること。

・社会的厚生関数(ロールズ的な関数、あるいは、功利主義の関数、あるいは、それらの中間の関数)を用いて、定額給付額(-t0)も含めた「最適」税制を求めること

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注 *1) 各家計の所得yを求める際に、前回の記事で出てきた方程式1を何度も解く必要があります。 この処理に結構、時間がかかるので、少し精度を落として解いています。

*2) ある国の弾力性eの値は、人々の勤勉さや労働に対する価値観などによって決まるもので、政策によって容易に変えることのできるものではありません。 なので、eの違う値についてGDPの大きさを比較することにはほとんど意味がありません。

しかし、図8を見て、所得獲得能力の分布と給付額(-t0)が同じケースで、eの値が大きいほどGDPが大きいのはなぜか、という疑問を持たれた方のために、そのわけを書きます。

答は、需要によってGDPが決まる、というマクロ経済モデルを採用しているからです。

通常そうであるように限界税率が累進的ならば、eの値が大きいほど、実際の所得分布は所得格差が小さくなり、高所得層の消費性向が大きくなります。 そのために(景気変数y0が同じならば)eの値が大きいほど消費はGDPの大きな割合を占めます。 これは民間投資の拡大を促します。

仮定したマクロモデルでは、均衡状態で消費はGDPの60%を占めることが仮定されています。 そうなるためには、景気変数y0が大きくなって、高所得層の消費性向がじゅうぶんに低くなるまで所得が増える必要があるのです。

高所得層の立場からいうと、当初は重税感から仕事を減らし所得が減ったけど、思った以上に売り上げが伸びるので、もう少し働くことにした。 そうこうするうちに所得が増えて、結局、はじめより多くなってしまった、となるでしょう。

まとめますと、eの値が大きいほど、所得格差が小さくなって国全体の消費性向が上がるので、均衡GDPの水準が高くなるのです。

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