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消費を最大化する所得税制(5)---消費税との比較:消費税で社会保障はできない

「最適」所得税制の話の5回目です。 今回は、消費税との比較をしてみます。

前回は、あるマクロ経済的な前提(税収と政府支出がいずれもGDPの20%で、かつ、民間投資が民間消費の33%)のもとで、税が所得税だけの場合に、民間消費を最大にする所得税制を求めました。

今回は、税が消費税だけの場合に、同じマクロ前提のもとで消費税率を決定します。 そして、GDPや、各家計の実効税率や可処分所得について、前回の所得税の結果と比較します。

その結果から読みとれる重要な点は、消費税単独で社会保障をやることは不可能である、ということです。

消費税の場合、低所得家計への扶助の財源を得るために、中間所得家計に大きな負担がかかります。 消費性向が低い高所得家計の税負担が非常に軽いためです。

その結果、民間消費を支える中間層が薄くなり、消費が低迷して民間投資も少なくなり、GDPの水準が下がってしまいます。 95%の比較的「平等な」低所得家計と5%の富裕家計に二極分化した社会ができあがります。

消費税単独でこのような結果になるのであれば、「消費税率を上げて社会保障に使う」ことが本当に可能なのか、疑問に思わざるを得ません。

こうした結果について順に説明します。


■低所得家計への給付額の仮定

前回、所得税を考えたときには以下のように、所得ゼロの家計にマイナスの税額(給付)を仮定しました。
・低福祉ケース...給付120万円
・中福祉ケース...給付240万円
・高福祉ケース...給付360万円

今回しらべる消費税の場合でも、低所得家計に以下のような給付を仮定します(図参照)。 収入が増えるにつれて給付額が一定の割合で減るようになっています。
・低福祉ケース...給付は最大で120万円
・中福祉ケース...給付は最大で240万円
・高福祉ケース...給付は最大で360万円

Supply
図1

このような逓減的な給付を考えるのは簡単のためです。 EITCのように、収入ゼロ付近の家計への給付が就労促進的なものになっているタイプの給付より、逓減的な給付のほうが望ましい、と主張するつもりはありません。


■消費税を等価な所得税に置き換えて考える

前回の分析の枠組みを使うために、消費税を等価な所得税に置き換えて考えます。

たとえば、(税引き前の)所得が600万円の家計が、500万円の(見かけの)消費をしたとします。 消費税率を25%と仮定しましょう。

このとき、真の消費額は400万円で、家計が払う消費税は100万円です。

この100万円の消費税を所得税であるとみなします。 つまり、所得600万円に所得税100万円がかかったとします。 この家計の可処分所得は 600-100 = 500万円 です。 (等価な)所得税の税率は 100/600 = 16.7% であったことになります。

500万円の可処分所得から、この家計は、真の消費400万円を行いました。 この家計の消費性向は 400/500 = 0.80 であったことになります。

上のような方法で、各家計が払う消費税を所得税であると見なし、可処分所得から真の消費が行われる、と考えると、前回の分析の枠組みをそのまま使うことができます(*1)。


■マクロ経済前提を満たす消費税率

マクロ経済前提から、一定と仮定する消費税率(と景気変数y0)が決まります。 それぞれのケースで以下のようになりました。 なお、所得の税率に対する弾力性eは0.20と仮定しました。

・低福祉ケース... 消費税率 49.2%
・中福祉ケース... 消費税率 88.7%
・高福祉ケース... 消費税率 131%

税収のすべてを消費税でまかない、かつ、低所得家計への給付があるので、非常に高い税率になっています。

なお、低所得家計への給付がなければ、消費税率は33.3%になります(マクロ前提からの帰結です)。


■消費税単独の場合の国内総所得(GDP)

消費税単独の場合の、一家計あたりの国内総所得を、前回の所得税の場合の結果とともに次の図に示します。

Gdp
図2

消費税単独の場合のGDPは、いずれのケースでも、所得税の場合の5割〜7割にしかなりません。

消費税単独の場合のGDPは、低福祉ケースで一番小さく、高福祉ケースで一番大きくなります。


■各家計の実効税率(消費税と所得税の比較)

各家計の実効税率は以下のようになります。 まず、中低所得家計から示します。

Erate1
図3

消費税単独の場合の実効税率は、低所得家計で低く、所得200万円〜600万円で最大(30〜50%)となり、それより所得が大きいとゆるやかに下がります。

前回の所得税の場合と比べると、低中所得家計の実効税率は、消費税単独の場合のほうが、所得税の場合より大きくなります。

次に、高所得家計の実効税率を見てみます。

Erate2
図4

消費税単独の場合の実効税率は、年収1000万円以上の高所得家計では、所得が増えるほど小さくなります。 たとえば年収1億円の家計では、実効税率は高福祉ケースでは35%、低福祉ケースでは17%です。 年収10億円以上の家計では、いずれのケースでも実効税率は25%以下となります。

これは、前回の所得税の場合とは対照的な結果です。 消費を最大化する所得税の場合には、高所得家計の実効税率は、所得が増えるほど大きくなり90%に近づきました。


■各家計の可処分所得(消費税と所得税の比較)

消費税単独の場合に、高所得家計の実効税率が低いからといって、可処分所得も多い、とは限りません。 国内総所得の水準そのものが低下しているからです。 それをみてみましょう。

まず、中低所得家計の可処分所得を見ます。

Dispoinc1
図5

消費税単独の場合、いずれのケースでも、80%をこえる家計の可処分所得が220万円以下、90%をこえる家計の可処分所得が350万円以下となっています(*2)。

前回の所得税の場合には、いずれのケースでも、85%をこえる家計の可処分所得が200万円以上となっていました。 対照的な結果です。

消費税単独の税制は、たとえ低所得家計への給付があっても、中低所得家計の可処分所得を押し下げます。

つぎに、高所得家計の可処分所得を見ます。

Dispoinc2
図6

ごらんのように、ごく一部の高所得家計に限り、消費税単独の場合の可処分所得が、所得税の場合を上回ります。 それぞれのケースでは次の家計が該当します。

・低福祉ケース...上位3%の家計(可処分所得750万円以上)
・中福祉ケース...上位5%の家計(可処分所得550万円以上)
・高福祉ケース...上位2%の家計(可処分所得1200万円以上)


■まとめ

税収と政府支出がともにGDPの20%で、かつ、民間投資が消費の33%である、という条件の下で、消費税単独の税制と、消費(あるいはGDP)を最大化する所得税制を比較しました。

消費税単独の場合のGDPの水準は、所得税制の場合の5〜7割と低くなります。 民間消費を支える中間層が薄くなるからです。

実効税率は、消費税単独の場合には中間層で高くなります。 所得税制の場合には高所得家計で高くなります。

可処分所得は、所得上位2〜5%の家計では消費税単独の場合の方が、所得税制の場合よりも多くなります。 他の大部分の家計では、所得税制の場合の方が可処分所得が(大幅に)多くなります。

消費税単独の場合、低所得家計への扶助を行っても、90%以上の比較的平等な低所得家計と、10%以下の高所得家計への、2極分解が起こります。

社会保障の主な財源として消費税を用いることは不可能に思えます。

消費税単独の場合、高所得家計の実効税率が小さいので、低所得家計への扶助は中間層が担わざるを得ません。 それは、民間消費の主役であるべき中間層の可処分所得や消費を抑制して、GDPの水準が低下します。

   *

前回は、とにかく国内消費を最大化すればいい、という前提で最適な累進所得税制を求めました。 年収10億円で実効税率が90%にもなる、高所得家計の痛みには全く配慮しませんでした。

今回は、消費税単独税制ということで、中低所得家計には非常につらい税制を扱いました。

いずれも、非常に極端な税制です。 「最適な」税制がこれらのいずれでもなく、中間のどこかにあることは論を待ちません。

では、中間のどのあたりに「最適な」税制があるでしょうか。

中間層の消滅と所得や富の格差の広がり、民間消費の低迷など、昨今の日本経済に起きている諸現象を見るとき、答は明らかであると思います。

消費税単独と、消費を最大化する累進所得税制の中間点よりも、より後者に近い側に「最適な」税制があるに違いありません。

しかし、後者の実効税率が最高で90%というのは、ちょっと高すぎるように思えます。 1960〜1970年代の高度成長期の日本では、限界税率の最高は75%でした。 1950〜1960年代の米国など、92%といった例もあるようですが(*3)。 (でも、いずれも、それぞれの国の経済の黄金時代ですね。)

最高税率はどのくらいが「最適」なのか。 また、低所得家計への給付額はどのくらいが「最適」なのか。

こうした問題に答えるには、なんらかの社会的な意志決定が必要になります。 数理的な議論だけで決めることはできません。

しかし、意志決定の根拠となる、いくつかの自然な価値判断の族(ファミリー)を提示して、それぞれの場合に、最高税率や税率表、給付額がどうなるのかを論じることはできます。

次回はそれをやる予定です。

------
注 *1) 一般に、(税引き前の)所得がyの家計が払う消費税額t=t(y)は、次のようにして求めることができます。

消費税率をaとします。 たとえば税率5%ならばa=0.05です。 また、可処分所得がzの家計の(真の)消費額をc(z)とします(第3回目の記事の式(3)参照)。 関数c(z)には、家計の消費性向の情報が含まれています。

この家計の可処分所得はy-tなので、真の消費額は c(y-t) です。 よって、消費税額は a*c(y-t) となります。 これが、 tと等しいので、

 t = a*c(y-t)

の関係が成り立ちます。 この式をtについての方程式とみて解くと、消費税額 t=t(y) が得られます。

低所得の家計には給付がある場合があります。 (税引き前の)所得がyで、金額sの給付を受ける低所得家計の場合、支払う消費税額をtとすると

 t = a*c(y+s-t)

の関係が成り立ちます。 これをtについての方程式とみて解くと、消費税額 t=t(y,s) が得られます。

この家計が払う消費税(から受け取る給付を控除したもの)に等価な所得税の額は、 t(y,s) - s となります。


*2) たとえば、高福祉ケースの場合、所得ゼロの家計に360万円の給付を行っているのに、同家計の可処分所得が約250万円になっているのはなぜなのか、と疑問に思われるかも知れません。

それは、この家計が支払う消費税を所得税と見なして360万円から差し引いたものを、この家計の可処分所得と見なしているからです。


*3) 米国では1920年代に最高税率が75%から25%に引き下げられてバブルが発生、10年をまたずそれが崩壊して大恐慌となりました。

その後、米国は最高税率を92%まで引き上げて、景気回復に成功します。

日本でも1980年代に最高税率が75%から段階的に引き下げられてバブルが発生。 消費税の導入と同時にバブル崩壊。 その後、「失われた20年」が継続中です。

こうした事情を、渡久地明の時事解説さんが「吉越税理士の景気回復理論」という記事で、グラフでわかりやすく説明しておられます。 財政赤字や累積債務の増加と、最高税率との関係も一目瞭然。 必見です。

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