消費税の真実---誰が消費税を負担しているか
このところ消費税率をアップして社会保障に使う、という声がよく聞こえてきます。
でも、それは、水を満々とたたえた大河には手を付けないで、たくさんの小鳥や小動物が憩う小川から大量の取水をするようなものです。
次に示す図1は、2007年の家計調査と2007年度の国税庁統計年報から推定した、家計の税引き前の所得(年収)と消費額です(*1)。 年収で20階級にわけ、それぞれの階級での中央値を示しました。
高所得側へ行くほど年収は急激に増えますが、消費額の増え方はそれほどでもありません(*2)。
その結果、消費税負担の年収に対する割合は低所得家計で重く、高所得家計では軽くなります。
次に示す図2は、家計を年収合計が同じ3つのグループに分けて、それぞれのグループの家計数や消費額の合計を示したものです。
3つのグループを順に、低所得家計のグループ、中所得家計のグループ、高所得家計のグループと呼ぶことにします。
まず、一番右側にある棒グラフを見てください。 これは、家計数でみたとき、低所得家計が全体の約60%を占め、中所得家計が約28%、高所得家計が約12%を占めることを示します。 (所得のシェアはどのグループも3分の1で同じです)
数では全体の約12%の家計が、税引き前の所得では3分の1を占めています。
消費額のシェアは真ん中の棒グラフでわかります。 低所得家計の消費は全体の約45%を占めます。 高所得家計の消費は全体の約22%にすぎません。
消費税負担は消費額に比例します。 消費税の負担は低所得家計に重く、高所得家計に軽くなります。 45割る22ですから、約2倍の違いです。
消費税を財源に社会保障を充実させるという主張は、高所得家計を隔離した再分配に他ならず、強い疑問を感じざるを得ません。 再分配には、消費税を廃止して所得税の累進性を強めるのが王道ではないでしょうか。
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注
*1) 推定の方法を簡単に記します。 まず、所得分布を推定しました。
2007年の家計調査(総世帯)のデータをべき分布を変形した関数y1でフィットして、高所得側をべき分布y2(国税庁統計年報(2007年度)の申告所得者のデータから決めたもの)に置き換えています。
推定された所得分布は、低所得側からの所得順位がp(ただしpは0以上1以下の実数)である家計の、税引き前の年収をy(万円)として
y = max(y1, y2)
ただし
y1 = A*p^a *(1-p)^(-b)
y2 = B*(1-p)^(-c)
ここで各定数は以下の値です。
a = 0.448
b = 0.316
c = 0.615
A = 510.5
B = 132.3
次に、消費性向を推定しました。 ふつう、可処分所得に対する消費性向を考えますが、ここでは税引き前の所得に対する消費性向を考えています。 家計調査のデータで可処分所得に対する消費性向がわかるのは勤労者世帯に限られるためです。
2007年の家計調査(総世帯)のデータをもとに、所得y(万円)の家計の(平均)消費性向βを
・β = 8.569 y^(-0.422)
と推定します。
これより、所得y(万円)の家計の消費額cons(万円)は
・cons = β*y = 8.569 y^(0.578)
で与えられます。
*2) 高所得家計の消費額が(税引き前の)年収にくらべて小さいのは、ひとつには(可処分所得に対する)消費性向が小さいためです。
他に、高所得家計は所得税などを多く取られるので、可処分所得が年収に占める割合が小さくなることも原因として挙げておくべきでしょう。 ただし、この指摘があてはまるのはだいたい年収1億円以下の家計までです。
年収が増えると所得税の実効税率が上がるのは年収1億円くらいまでで、それより高収入の人はかえって実効税率が低くなっています。 証券優遇税制などのためです。
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