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現在の名目GDPの値は消費税約11兆円分だけ かさ上げされている?

表題の件について、これまで知らなかったのですが、GDPが消費税の分だけ かさ上げされていると考えると、これまで疑問だったことがうまく説明できる気がしています。

まずWSにとって何が疑問だったのか、というところから話を始めます。


■1997年の消費税率アップで税収が減ってしまったこと

以前の記事「消費税率アップという「苦い薬」はホントに良薬ですか、Yさん?」で1997年4月の消費税率アップ(3%→5%)では、総税収が増えるどころか、逆に減ってしまったという事実を紹介しました。

住宅投資や民間設備投資の急激な落ち込みなどにあらわれた景気悪化のために、所得税や法人税の税収が落ち込み、それらの税収減が、消費税収の増加を上回ったためです。

ちょっと数字を見ておきましょう。

いま、税制調査会の以下のホームページに、所得税関係の参考資料がたくさんアップされています。

税制調査会 第2回 専門家委員会(平成22年3月26日) 資料一覧
http://www.cao.go.jp/zei-cho/senmon/sen2kai.html

このなかに「資料(総論)pdf 707KB」というのがあって、その5ページ目に「主要税目の税収(一般会計分)の推移」のグラフ(下の図1)が載っています。

Tax_hist
図1

消費税率が引き上げられたのは平成9年度(1997年)です。 そこで、引き上げの前後ということで、平成7年度と平成11年度の税収(一般会計分)を比較してみます(*1)。

消費税の税収は、平成7年度に5.8兆円でしたが、平成11年度には10.4兆円となりました。 4.6兆円の増加です。

しかし、所得税と法人税の税収は減少しました。

所得税の税収は、19.5兆円から15.4兆円まで、4.1兆円減少しました。

法人税の税収は、13.7兆円から10.8兆円まで、2.9兆円減少しました。

その結果、これら3つの税収の和は、2.4兆円のマイナスとなりました。 消費税の増収(4.6兆円)より、所得税と法人税の減収(計7兆円)のほうが大きかったのです。

他の税も合わせた一般会計の税収全体では、51.9兆円から47.2兆円まで、4.7兆円減少しました。


■激減した民間投資

所得税と法人税の税収が大きく減少したのは、景気が悪化したためです。

次の図は1997年前後の5年間の、民間消費や民間投資、GDP(国内総生産)の推移を示します(*2)。

Cons_hist
図2

消費税率が+2%アップされた1997年の4-6月期以降、1999年までの間に民間投資が約30%も減少するなど、景気後退が起きたことがわかります。(単にかけこみ需要の反動と見なすには大きすぎる景気後退です。)

それで、WSの疑問というのは、これほどの景気後退が生じているにも関わらず、民間消費(緑色の実線のほうです。点線についてはあとで説明します)がほとんど減っていないことなのです。

いや、むしろ、民間消費がほとんど減っていないのに、なぜ民間投資だけがこんなにも落ち込んだのか、と言った方がわかりやすいでしょうか。

企業が設備投資を行うのは、消費者が買ってくれると期待して生産体制を整えるためです。 消費が維持されるならば、設備投資をここまで減らす理由がありません。

もちろん、民間投資には、国内消費だけでなく、政府支出や輸出の動向も影響を与えます。 それを確認してみましょう。


■政府支出や輸出額の推移では、民間投資の減少を説明できない

次の図は、1997年前後の5年間の、政府支出(*3)や輸出額、輸入額の推移です。

Gov_hist
図3

輸入額は国内景気(と為替レート)に反応して受動的に推移します。 ここでは政府支出と輸出額に注目します。

政府支出は1998年半ばまでの2年ほどの間、緊縮的でした(橋本構造改革)。 2年間で4%ほど支出が抑制されたことが読みとれます。 しかし、1998年半ば以降は増加に転じています。

この政府支出が4%ほど削減された2年間には、輸出は逆に20%ほど増えていました。 1995年の異常な円高の反動で、円安が進行していたためです。

政府支出と輸出を合わせて考えたとき、民間投資をここまで減らすほど、それらが景気抑制的であったとは考えにくいのです。


■疑問の答が(たぶん)見つかった

「国民経済計算の推計レビューの検討状況報告」
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/051117/shiryou3.pdf

という文書に、以下のような記述がありました。 色字の強調はWSです。 (...)はWSが省略したところです。

>>>>>
1. 利用者からの意見
(1) (...省略...)
(2) GDP測定と消費税の取扱いについて
(概要)我が国においてSNAの測定にあたり採用している生産者価格及び購入者価格の概念は、消費税を含んでいる。 最近のGDPは消費税により約11兆円上げ底となっており、今後消費税率が変動するたびに名目GDPが変動することになる。 また、消費税を含んでいないOECD等の諸外国との正確な国際比較を阻害する問題がある。 我が国における一般消費税の取り扱いについて、整理・検討をお願いしたい。

(対応等)⇒市場価格表示であるGDPは、93SNAの勧告において、控除可能でない付加価値型税(VAT)を含むとされる。我が国において、GDPに控除可能でないVATを含めているのは、国際基準におけるGDPの定義に沿ったものである。
 生産者価格表示の総付加価値については、93SNAの勧告において、購入者にインボイスされたVATを控除することとされているが、我が国では93SNAの導入の際に検討した結果、「産業連関表」に基づく生産者価格(インボイスされたVATを含む)から商品別にインボイスされたVATを控除することは困難であるため、93SNA勧告に従った生産者価格の導入は見送っている
<<<<<

えっと、もしかするとWSが何か勘違いしているのかも知れませんが、こういうことだと思うのです。

100円のものを買ったら、5%つまり5円分の消費税と合わせて105円を我々は支払うわけですが、これは

・100円=真の消費
・5円=消費税

と分けることができます。 本来は、真の消費額である100円をすべての人のすべての買い物について加えたものが民間消費になるべきです。

しかし、それらを統計上分離するのが困難なので、国民経済計算では消費税分を含めて105円を民間消費としてカウントしているらしいのです。

たとえば、2009年の場合、(持ち家の帰属家賃を除く)民間消費は229.5兆円となっています。

ところが、実は、このうち割合にして105分の5は消費税なので、真の民間消費は105分の100、つまり、218.6兆円であるということになります。

両者の差は消費税の分の10.9兆円です。 民間消費もGDPも、消費税約11兆円だけ真の値より かさ上げされています。

   *

そうするとどういうことになるでしょうか。

1997年4月以降は、それまで3%だった消費税率が5%に引き上げられました。

真の民間消費は、それまでは統計上の値の103分の100でしたが、それが105分の100になったわけです。

このことを考慮して、真の民間消費(*4)の推移を示したのが次の図の緑色の点線です。

Cons_hist
図4 (図2の再掲)

統計上の民間消費はほとんど変わりませんでしたが、真の民間消費は、1997年から1998年半ばにかけて約5兆円(割合にして2%ほど)減少していました。 この民間消費の減少に呼応して、民間投資が大幅に減ったのでしょう。

この時期には輸出が大幅に増えていましたが、国内景気の悪化を止めるまでには至りませんでした。 輸出企業が得た利益を国内に分配する仕組みが以前より弱まったのかも知れません(輸出戻し税やカイカクなどにより)。

以上が1997年前後に起きたことの定性的な分析です。 主張のいくつかには、本来は定量的な裏付けが必要です。 モデル化のよいアイデアが浮かんだら、後日、できればもっと定量的で説得力のある分析をしてみたいと思います。

-----

*1) 消費税率アップの前年である平成8年度はかけこみ需要の影響を受けているので、2年前の平成7年度を考えます。

また、所得税と法人税の税収は平成11年度で底を打ったあと、平成12〜13年度に一時的に増加しています。この増加の原因は、小渕政権下の財政出動などによる景気回復のほかに、平成12年度に扶養控除の割増が廃止されたことや同年度に郵便預金(定額貯金)の満期が集中した、といった一時要因です。

*2) ソースは「2000(12暦)年連鎖価格GDP時系列表(1980(昭和55)年〜)」
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe094-2/gdemenu_ja.html
の「名目原系列」です。

グラフの曲線は4期(1年間)の移動平均値を示しています。 ここで

・民間投資 = 民間住宅+民間企業設備+民間在庫品増加

とおいています。

*3) ここで

・政府支出 = 政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加

とおいています。

*4) 持ち家の帰属家賃を除く部分にだけ消費税がかかると仮定して、真の民間消費を計算しました。

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コメント

冗談ではなく、消費税の税率が上がると“自動”的にGDPが増大する!!:なんとも奇妙奇天烈なGDP統計手法(SNA) あっしら
http://www.asyura2.com/0406/dispute19/msg/377.html

 ご指摘のとおりだと思います。GDPには間接税が含まれており、従ってその分だけ“嵩上げ”されているという問題は、上記のあっしらさんの論考でも指摘されていました。★阿修羅♪というマイナーなサイトで書かれたものであったため、余り知られることのないまま埋もれてしまったようですが。
 93SNAだと、インボイス方式の付加価値税の場合は、控除が可能なのでしょうか? どのように控除するのか分からないので判断できませんが、いずれにせよ、付加価値税をGDPに含めるのは詐欺のように思えます。


*pdfファイルへのリンクが404になります。正しいアドレスは、http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/051117/shiryou3.pdfですよね。

投稿: 上田上葉 | 2010.03.30 11:41

上田上葉 様

コメントありがとうございます。公開が遅くなり、申し訳ありません。

ご紹介いただいた阿修羅♪サイトの記事は2004年のものですね。このサイトには年初にコメントをいただいたアルデさんも触れておられました。拍手ランキング経由でときどき見ていますが、この記事は知りませんでした。WSも埋もれてしまうのは残念な記事だと思います。

消費税によるかさ上げが、国民経済計算に登場する諸量にどのように現れているのか、まだWSはよく理解していません。今回の記事では民間最終消費の持ち家の帰属家賃を除く部分にだけ影響すると仮定しましたが、そう単純なものではないようです。

リンク先のpdfファイルを見ると、

・他の先進国は消費税(VAT)を控除してGDPを計算しているらしい
・「産業連関表」に基づく生産者価格(インボイスされたVATを含む)から商品別にインボイスされたVATを控除することは困難であるため、93SNA勧告に従った生産者価格の導入は見送っている

ということがわかります。

たぶん、消費税をインボイス方式にすれば商品別に生産者価格からの控除が可能になるのだと思います。でも、税を納める側でも集める側でも(不毛な)事務作業が激増しそうですね。

いずれにせよ、WSとしては、当面はサンプル調査等をもとに推計して、なんとかVATを控除した生産者価格でGDPを計算してほしい。そして将来的には、消費税がインボイス方式になるより、廃止されることを望みます。

PS リンクがおかしかった件、ご指摘ありがとうございました。訂正しました。

投稿: Wave of sound | 2010.04.10 11:21

[SNAにおける消費税の取り扱いについて]

>
> 他の先進国は消費税(VAT)を控除してGDPを計算しているらしい
>
いえ、これは出鱈目です。
ひどい勘違いで、日本以外でも通用しません。


本題に入る前に・・・

VATは、第1次所得の「生産・輸入品に課される税(純)」の一部として政府に配分されています。この存在を無視する事は所得の分配ルートを不明確にし、結局は需要分析などにも悪影響が及ぶと思います(それに、持ち家の帰属家賃よりは明確な実体があります)。

WSさんの「真の消費額は消費税を除いた部分だ」とする主張は、少なくとも国民経済計算の枠組みからは逸脱しています。そうではなく、『消費税込みの金額が真の消費額ではあるが、そのうち消費税額相当分の付加価値を企業や労働者から政府がピンハネしている』と捉えた方が実態に近いでしょう。

そういうわけで、“消費税で社会保障はできない”の記事で用いられた分析手法には、全面的に異を唱えさせていただきたい。むしろ『産業部門全体の中間投入コストが上昇して要素所得が圧迫される』という形でモデル化し、所得分配の変動や価格変化が与える影響を分析するのが筋ではないでしょうか?

> たとえば、(税引き前の)所得が600万円の家計が、500万円の(見かけの)消費をしたとします。 消費税率を25%と仮定しましょう。
> このとき、真の消費額は400万円で、家計が払う消費税は100万円です。
> この100万円の消費税を所得税であるとみなします。 つまり、所得600万円に所得税100万円がかかったとします。 この家計の可処分所得は 600-100 = 500万円 です。 (等価な)所得税の税率は 100/600 = 16.7% であったことになります。
> 500万円の可処分所得から、この家計は、真の消費400万円を行いました。 この家計の消費性向は 400/500 = 0.80 であったことになります。

この例の場合は、

・家計所得 600万円
・家計消費 500万円
・消費性向 500/600 = 0.833
・政府税収 100万円 ⇒ 再分配へ
・産業部門の要素所得 400万円 ⇒ 雇用者報酬と営業余剰へ分配

のように扱うべき、という事です。
税率変更があった場合、その波及経路は『産業部門が、中間投入コスト上昇をどれだけ市場価格へ反映させるか』によって変化するという事です。ここで「営業余剰0固定、コスト転嫁0固定」のケースがWSさんの所得税モデルと完全に一致します(逆に言うと、WSさんのモデルは非常に狭い範囲しか想定していません)。

実際には、産業部門は税額を販売価格へ転嫁するのが普通ですし、一般的な生産関数で営業余剰が0固定となる事はありえません。その場合の追加的な影響として、『(労働分配率一定なら)営業余剰に対する課税効果が生じる』『価格上昇により販売数量の変動が生じる』ことを反映する必要があります。

・・・別にこのモデルを使ったからといって、経済が良い方向に転がるというわけでもないのですがw
少なくとも、需要サイドに偏り過ぎた“所得税モデル”の視野を広げる事には役立つのではないでしょうか。

もうひとつ記事違いで恐縮ですが、“消費を最大化する所得税制”について。
以下の重要な視点が欠落しています。


1) 家計調査で把握していない世帯を含めると、家計部門全体の消費性向は既に約90%に達しています(※持ち家の影響は除去済/下記リンクが参考になります)。
http://www.jcer.or.jp/report/review/detail3734.html

これは既に「十分高い水準」ではないでしょうか?
また、高齢者世帯では「ストック取り崩しによる消費水準の維持(消費性向100%超)」が発生しているので、更なる高齢化により家計部門全体での消費性向が100%を超える可能性もあると想定しておくべきです。


2) より深刻なのが、住宅ローン返済世帯の消費性向に対する認識の甘さです(二人以上勤労者世帯において、住宅ローン返済世帯はその1/3を占める)。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/2009np/gaikyo/pdf/gk00.pdf

家計調査では、住宅ローン返済や貯蓄型保険料支払等の契約的金融支出を『可処分所得-消費支出(=黒字)』から支出するものとして扱います。すなわち、住宅ローン返済世帯の消費性向が低めとなる傾向があるのは『住宅ローン返済原資を手元に確保するため』であり、実際に余裕資金となる割合は契約的金融支出を家計黒字から控除した部分にとどまります。
http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpaa198501/b0015.html
http://www.stat.go.jp/data/kakei/2001np/gaikyo/126gk.htm

上記資料(平成21年 家計の概況)によれば、住宅ローン返済世帯における返済額/可処分所得の割合は20%に近く、これに貯蓄型保険料等の支払いを加えると、

『住宅ローン返済世帯の実質的な消費性向(=消費支出/{可処分所得-契約的金融支出})は90%台に達している』

という実態が明らかになります。


以上より、『家計調査サンプルの偏りや契約的金融支出を考慮し、実態に則った消費性向で計算し直すべき』ではないかと思います(おそらくは、結果に重大な変更が生じると予想しています)。

本題に入ります。

93SNAにおけるGDPの定義については、以下リンクを参照のこと。
http://unstats.un.org/unsd/sna1993/tocLev8.asp?L1=6&L2=13

"Deductible VAT"と"Non-deductible VAT"に関する解説は、以下リンクを参照のこと。
(OECDにも同じ用語解説がありますが、ソースは国連です)
http://unstats.un.org/unsd/sna1993/glossary.asp?letter=V

ESA95(欧州版SNA)の用語集(VATはカテゴリD211)・・・何故マルタ共和国?
http://www.nso.gov.mt/docs/ESA95_Glossary.pdf

OECD諸国の国連93SNA勧告導入状況(2000年11月時点。近いうちに2008SNA(93SNA Rev.1)へ移行する)
http://www5.cao.go.jp/2000/g/1115g-93sna/93sna-12.pdf

EurostatのFAQ、ならびに公表統計値(D2_M_D3が、日本版SNAの「生産・輸入品に課される税(純)」に対応。データベースでは、D21_M_D31(生産物に課される税(純) ←VATを含む)まで参照できます)
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/portal/page/portal/national_accounts/documents/FAQ_NA_1.pdf
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/portal/page/portal/national_accounts/data/database
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/portal/page/portal/national_accounts/data/main_tables

UKのGNIに関する資料(一部)。EUとの間で、VAT税率差による所得移転が発生しています。
http://www.statistics.gov.uk/downloads/theme_economy/ESA95_GDP_to_GNI.pdf

上記を踏まえ、キーワードに注目して以下を読み返してください。

[市場価格表示] ← at purchasers' prices
である
[GDP]
は、93SNAの勧告において、
[控除可能でない付加価値型税(VAT)] ← Non-deductible VAT
を含むとされる。
我が国において、GDPに控除可能でないVATを含めているのは、
国際基準におけるGDPの定義に沿ったものである。

[生産者価格表示] ← at producers' prices
の総付加価値については、93SNAの勧告において、購入者に
[インボイスされたVAT] ← Invoiced VAT
を控除することとされているが、
我が国では93SNAの導入の際に検討した結果、「産業連関表」に基づく
[生産者価格(インボイスされたVATを含む)]
から
[商品別にインボイスされたVAT]
を控除することは困難であるため、
93SNA勧告に従った生産者価格の導入は見送っている。


つまり、購入者価格(=市場価格)表示の総付加価値(=GDP)にNon-deductible VATが含まれているのは仕様通り(=質問者の指摘自体が誤り)だが、生産者価格表示の総付加価値(≠GDP)については制度的な制約により仕様に反したものとなっている(下記※1)、という回答です。

市場価格表示が過大評価されているのではなく、生産者価格表示が過大評価されているということは、『最終需要の分析には直接影響が無く、困るとすれば産業連関分析』と言い換えることができるでしょう。

また、GDPが市場価格表示であるという事は、結局どの国であろうと最終消費支出にはVAT負担が含まれるという事であり、結論として御説は当たっていないという事になります。

(※1) 各国のSNAが93SNAに準拠している場合、

産出額(生産者価格表示)
= 産出額(市場価格表示)-VAT(総)
= 中間投入(市場価格表示)+総付加価値(市場価格表示)-VAT(総)
= {中間投入(市場価格表示)-Invoiced VAT}+{総付加価値(市場価格表示)-[VAT(総)-Invoiced VAT]}

VAT(総)-Invoiced VAT = Non-deductible VAT

の関係が成立する事から、

○産出額(生産者価格表示) = 産出額(市場価格表示)-VAT(総)
○中間投入(生産者価格表示) = 中間投入(市場価格表示)-Invoiced VAT
○総付加価値(生産者価格表示) = 総付加価値(市場価格表示)-Non-deductible VAT
○VATをダミー産業として表示する

という形で正しい『生産者価格』が求められます。しかし制度的に商品別の『Invoiced VAT』を把握していない日本では、中間投入におけるVAT負担額を(産業連関レベルでは)容易に切り分けられません。

ここから先は「投げている」としか表現しようがありませんが、日本版SNAでは「どうせVATを正しく分離出来ないのであれば(整合性を重視して)分離はあきらめましょう」というふうに

★産出額(生産者価格表示) ~ 産出額(市場価格表示)
★中間投入(生産者価格表示) ~ 中間投入(市場価格表示)
★総付加価値(生産者価格表示) ~ 総付加価値(市場価格表示)
(★VATをダミー産業として表示できない)

で代用しているように見えます。(注:「総資本形成に関わる消費税控除」のみダミー産業で分離)

要素所得の計算では、VAT未分離の純付加価値から生産・輸入品に課される税(ただしNon-deductible VATを含む)を差し引く事で帳尻を合わせているので、所得は正しく算出されています。

投稿: 暇人 | 2010.08.25 12:46

WSさん

削除ありがとうございます。
御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。

以下について情報追加。

> あっしらさん
> http://www.asyura2.com/0406/dispute19/msg/377.html

呆れました。言ってる事無茶苦茶ですよ。
この方は『三面等価の原理』を知らないんですね。


リンク先の文中では、

> 「間接税」は、直接税や社会保険料を差し引いた家計可処分所得の消費支出や政府支出によって負担される

と言っておきながら(=三面のうち『支出』としては存在を認めている)、

> 他の要素に加味されているものだから、GDP統計に単独で取り上げる必要はない。

と言っているのは明らかな矛盾です(=三面のうち『所得』『生産』としての存在を認めていない)。否、矛盾どころでなく、異なる面をごちゃ混ぜにしている事にすら気付いていないのです。


三面の何れか一つにでも存在を認めれば、残り二面にも対応する値が必ず存在するというのが『三面等価の原理』から得られる結論です。

実際に計算してみれば誰でも確認できると思います。

投稿: 暇人 | 2010.08.27 02:31

暇人さま

93SNAにおける、GDPや総付加価値の概念についての大変わかりやすい解説をいただき、ありがとうございます。勉強になりました。

結局、定義の問題なのだと思います。 日本でも他の先進国でも、93SNAでのGDPは、生産者価格表示での総付加価値ではなくて、それに間接税(正確にはNon-deductible VAT)が上乗せされたものとして=定義=されている、ということですね。

この本題にはあとで戻ります。まず、他にコメントをいただいた2点についてお返事します。

   *

“消費税で社会保障はできない”の記事に関して

表題の記事での分析は、当ブログの一連の記事「消費を最大化する所得税制(1)〜(4)」に示した枠組みを使って、強引に「消費税」を分析してみたもので、実際の消費税と違っていることはもちろんです。その意味では「消費税負担と同様な税率カーブをもった所得税」を分析したもの、といったほうがよいかも知れません。

つまり、消費税の実効税率は、(家計ごとにばらつきはあるでしょうが平均すれば)高所得家計で低く低所得家計で高くなっている。ちょうどそのような税率をもった所得税単独税制を分析してみたらどうなるか、という話です。

WSの分析は「産業部門が税率変更の際の中間投入コスト上昇を全く市場価格へ反映させない」という特別なケーズにあっているとのご指摘は理解しました。しかし、こうした分析は一般均衡モデルなどを使わないと出来ないですね。将来の課題といたします。

しかしながら想像するに、消費税を価格に転嫁できる企業は強い企業であり、できない企業は弱い企業です。強い企業は高所得家計の、弱い企業は低所得家計の類似物ですね。ということは、WSのモデルは需要サイドに偏ったモデルではあるけれども、実は、企業部門も入れたちゃんとしたモデルの結果とそれほど違わない、という可能性もあるかも知れないですね。

つまり、GDPの概念が市場価格に基づいているために、間接税コストが上乗せされた分だけ、GDPの値じたいはWSの分析より高くなる。しかし、家計間の所得格差(各家計の所得どうしの相対的な比率)は、案外正しく出ているかも知れない、と想像します。

   *

“消費を最大化する所得税制”の記事での消費性向の値が変わった場合の影響について

家計調査の消費性向が実際よりやや低く出ていることは承知しています。
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2010/07/post-6b87.html

しかし、分析の結果求まる「最適な所得税制」の税率カーブは、実はそれを考慮してもあまり変わりません。

なぜかと申しますと、まず高所得側については、限界最高税率は所得の税率弾力性e(労働時間と余暇とのトレードオフ)で決まり、高所得家計の消費性向にはほとんどよりません。そのように家計の効用関数を仮定しているからです。

つぎに、低所得側については、給付額は低所得家計の厚生をどの程度考慮するかという社会的厚生関数の選択で決まり、これも消費性向(ほとんど1)にはよりません。

最後に、中間所得家計の税率については、総税収がGDPの20%に等しい、という制約のために、大きく動くことはできません(いま見たように低所得側と高所得側という両端での税率がほぼ固定されているので)。

と言うわけで、「中間所得家計では、所得上昇につれて消費性向が低くなる」という定性的特徴が失われない限り、最適税率カーブに大きな違いは生じません。

税率を所得額のみに連動させるのではなく、家族負担や住宅ローン残高などに応じて(税額控除などの形で)微調整すべきだとは思います。

家計部門の貯蓄率が低い件ですが、その影響については貯蓄を内生化したモデルで論じるべきですね。将来の課題です。ただ一方で、企業部門の貯蓄率が高いという「異常な」現状にも目を向けておくべきでしょう。

   *

本題に戻ります。たいへん丁寧な解説をありがとうございました。以下の式で頭の整理ができました。

GDP
= 総付加価値(市場価格表示)
= 産出額(市場価格表示)ー中間投入(市場価格表示)
= {歳出額(生産者価格表示)+VAT(総)}ー{中間投入(生産者価格表示)+Invoiced VAT}
= {歳出額(生産者価格表示)ー中間投入(生産者価格表示)}+{VAT(総)ーInvoiced VAT}
= 総付加価値(生産者価格表示) + Non-deductible VAT

93SNAでの「GDP(市場価格表示)」はその定義上、VAT負担を含んだものであり、日本も他の先進国もこの定義にしたがってGDPを計算している、と理解しました。

(ということは、間接税の税制が違う国どうしのGDPを比較したり、あるいは1つの国であっても間接税の税制が変更される前と後のGDPを比較する場合には、やはり注意が必要ということになるのですね?)

また、日本の国民経済計算では制度的な制約のために、総付加価値(生産者価格表示) については93SNAの仕様に反したものになっている。そのため、産業連関分析に問題が生じるかも知れないが、要素所得については正しく算出されている、という点もわかりました。

   *

WSがこの記事を書いたときの問題意識は、ある国の税制で直間比率が変わったとき、たとえば(税収を変えずに)所得税から消費税へと移行したときにGDPがかさ上げされるのかどうか、という点にありました。

簡単な例として、ジャガイモだけを生産する国を考えます。原価はゼロとします。80%の家計はジャガイモ生産に従事し、残り20%の家計は政府からのジャガイモ配給で暮らしています。生産量は毎年合計5億個で、自分が作ったジャガイモは全て1個100円で市場で売却しなければなりません。自家消費は禁じられています。貯蓄も禁じられています。この国のGDPは生産面から見れば500億円です。

さて、政府には、配給するためのジャガイモ(1億個とします)を買う資金(100億円)が必要です。それをすべて所得税でまかなう場合と消費税でまかなう場合を順に考えてみます。

まず、所得税の場合。80%のジャガイモ生産家計の手元には税引き前に500億円の売却代金があり、税引き後の所得は400億円です。市場ではこの400億円で4億個のジャガイモが購入されます。政府には100億円の所得税収があり、このお金を使って1億個のジャガイモが購入され、残り20%の家計に配給されます。1年間に生産されるジャガイモの数も、市場で売られるジャガイモの数も、買われるジャガイモの数も、すべて5億個です。この国のGDPは支出面から見ても500億円となります。

つぎに消費税の場合。ジャガイモの(税込み)市場価格が100円と定められているので、消費税率をrとすると消費税額はジャガイモ1個あたり100×r/(1+r)円。市場で売られるジャガイモの総数は5億個ゆえ、100億円の税収を確保するためには

5 × 100r/(1+r) = 100 つまり r = 0.25 = 25% となります。

80%のジャガイモ生産家計は5億個のジャガイモを1個100円で売って500億円の収入を得、そのうち100億円を消費税として政府に納めます。残り400億円で市場からジャガイモ4億個を購入して消費します。政府は消費税収100億円を使って市場でジャガイモ1億個を購入し、残り20%の家計に配給します。この国のGDPはやはり支出面から見ても500億円となります。

このように、所得税の場合も消費税の場合もGDPは同じ500億円となったのですが、この結果には(税制によらず)ジャガイモの市場価格が1個100円である、と仮定したことが効いています。

実際には、たとえば所得税のケースから消費税のケースへと税制を変えた場合には、ジャガイモの市場価格は変わると思われます。おそらく価格は上昇するでしょう。価格が上昇するならば、その分だけ名目GDPはかさ上げされてしまいます。ただし、その場合でも、実質GDPの値には依然として意味がありそうです。

デフレ下では実質GDPだけでなく名目GDPも見なければならない、という思いが最近は強かったのですが、間接税の税制変更の影響を受ける時期には名目GDPは良くない指標ですね。

   *

というわけで、記事本文の図2(名目値で描いてあったもの)を実質値をもとに表にしてみます。1997年4月に消費税率が3%→5%と引き上げられた前後の、GDP、家計消費、民間投資、政府支出、輸出、輸入の実質値の推移は次のようになりました。(1年後方移動平均、いずれも1995年1-3月期を100)

四半期 GDP 民間消費 民間投資 政府支出 輸出 輸入
1995/
1-3.   100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
4-6.   100.5 100.5 100.6 100.0 101.3 102.8
7-9.   101.0 100.8 100.4 101.2 102.4 106.5
10-12. 101.6 101.5 100.7 102.7 103.3 111.3
1996/
1-3.   102.3 102.2 100.7 105.1 104.4 115.9
4-6.   102.9 102.9 101.1 106.5 105.2 120.6
7-9.   103.4 103.4 103.0 106.6 106.6 123.9
10-12. 104.3 104.0 104.9 106.4 109.3 126.2
1997/
1-3.   105.2 105.0 108.4 105.2 112.1 127.9
4-6.   105.7 104.9 109.2 104.7 116.2 128.0
7-9.   106.0 105.0 108.9 104.7 119.1 127.9
10-12. 105.9 104.7 107.7 104.0 121.5 126.8
1998/
1-3.   105.2 103.8 105.9 103.5 122.0 125.3
4-6.   104.6 103.8 104.0 103.0 120.9 122.9
7-9.   104.2 103.8 101.8 102.6 120.2 120.4
10-12. 103.7 103.8 98.7 103.8 118.2 118.2
1999/
1-3.   103.6 104.1 96.7 105.7 117.2 116.9
4-6.   103.7 104.5 95.1 107.3 117.1 117.6
7-9.   103.6 104.7 94.6 108.6 118.2 119.3
10-12. 103.6 104.9 95.4 108.6 120.4 122.4

1年移動平均をとっているので半年ほどの遅れがあることに注意してください。

消費税率アップ前のかけこみ需要時に物価上昇が、アップ後に物価下落があったためだと思いますが、名目値(記事本文図2のグラフ)にくらべて変動幅がやや小さくなっています。しかし、定性的には大きな違いはないようです。

投稿: Wave of sound | 2010.08.31 23:55

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