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名目GDP成長率が1%アップすると税収はどれだけ増えるか

---これまでゼロ成長だったものが景気回復で年2%成長に転じたとすると、「総税収」は155.0兆円から162.8兆円まで1年間で7.8兆円アップします。2年目にはさらに3.2兆円、3年目にはさらに3.4兆円アップします---

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ブログの更新を長期にわたってお休みすると書いたばかりなのですが、休む前に記事にしておきたいテーマが2つほどあったことを思い出して、気になって仕方がないので、今回と次回の2回だけ追加で更新します。

名目GDP成長率が1%アップすると税収がどれだけ増えるのか、をさまざまな税で調べてみました。

ちょっと記事が長くなるので、結論に興味がある方は最後のほうの「■名目GDP成長率により税収はどう変わるか」という節をご覧ください。

(7/21付記:リーマンショックで激減した税収は回復しつつあります。注6に書き加えました。)

 
■税種別の税収の推移

まず、税の種類別に税収の推移をみます。 国民経済計算(SNA)の平成20年度確報のデータから作成しました。

Amount
図1

図1は、「直接税」, 「間接税」, 「その他の税」, 「社会負担」の4つに分けて、税収の推移をみたものです。

ここで税収と呼んでいるのは、国と地方と年金基金などを合わせた「一般政府」(国民経済計算(SNA)での「一般政府」)の歳入のことです。

4つの税目のそれぞれに、具体的にどのような税が含まれているかですが、たとえば、所得税や法人税は「直接税」に入れています。 消費税や固定資産税は「間接税」に入れています。 相続税や贈与税は「その他の税」に入れています。 「社会負担」というのは年金や健康保険の社会保険料です。 詳しくは注(*1)を見て下さい。

これら4つの税収の和を「総税収」と呼びます。 「総税収」は「社会負担(≒社会保険料)」を含みます。

「総税収」は1980年から1991年までの11年間に約2倍に増えて約150兆円に達しました。 それ以後(バブル崩壊後)の20年間は、景気変動と同期した幅20兆円ほどのゆらぎを除くとほぼ横ばいです。

この20年間、「総税収」は横ばいですが税目ごとの税収は変化しています。

「直接税」の税収は61兆円あったものが43兆円にまで減りました。「その他の税」も16兆円が12兆円に減りました。

それに対して「間接税」と「社会負担」が増えています。「間接税」は33兆円から39兆円に増えました。「社会負担」は41兆円から57兆円に増えています。

 

■税種別の税収割合(GDP比)の推移

次の図2は、税収のGDP(国内総生産)に対する割合を税種別に示したものです。景気変動と比較できるように、名目GDP成長率(オレンジ色の折れ線)のグラフを添えました。

Ratio
図2

「総税収」のGDP比は1980年には26%でしたが、その後に増加して1980年代半ばに30%を越えました。それ以降は30%付近をうろうろしています。その動きはGDP成長率と同期しています。

税目ごとに見ると、「直接税」の税収GDP比が、下は7.5%から上は13.5%まで景気変動と同期した大きな動きを示すのとは対照的に、他の税目の税収GDP比は安定した動きを示しています。

「間接税」と「社会負担」の税収GDP比がゆるやかに増え続けているのに対して、「直接税」と「その他の税」のそれは1990年から2003年ごろまで減少を続けました。2003年以降は横ばいです。

 

■「直接税」の税率(=税収GDP比)と名目GDP成長率との関係

図2の青色の折れ線、つまり、直接税の税収GDP比(これ以降は税収のGDP比を単に「税率」と呼びます)のグラフを見ると、名目GDP成長率y(t)が高いときには税率x(t)も高くなることが分かります。

そこで税率が以下のような式で表されると仮定しましょう。

税率 = ゼロ成長税率 + 税率弾力性・成長率 + 誤差

文字で書くと次のようになります。

x(t) = a(t) + b(t)・y(t) + u0(t) ... (1)

式(1)の意味するところは、もし時刻tの成長率がゼロならば税率は ゼロ成長税率a(t) に等しいが、成長率が年1%だと 税率弾力性b(t) のぶんだけ税率はa(t)より大きい。もし成長率が年2%だと税率はb(t)の2倍だけa(t)より大きい、ということです。

式(1)の右辺第2項(=税率弾力性・成長率)が景気変動に伴う税率変化を表すのに対して、第1項(=ゼロ成長税率)は景気変動にはよらない、その時々の税制に固有の税率を表すと考えることができます。

 

■「直接税」についての推定結果

時系列解析の手法を使って、式(1)に登場する ゼロ成長税率a(t) と 税率弾力性b(t) の推移を推定しました(*2)。「直接税」について推定した結果が次の図3と図4です。

Direct1
図3

図3は"ゼロ成長税率"の推定結果です。 「直接税」の"ゼロ成長税率"は1990年ごろ11%でしたがその後低下して2003年には7.5%まで落ち込みました。それ以降は増加して2008年には9.3%まで戻しています。 2003年以降に「直接税」のかなり大きな増税が行われたようです(*3)。

Direct2
図4

図4は"税率弾力性"の推定結果です。「直接税」の"税率弾力性"は0.32から0.34程度で過去約30年を通じてほぼ一定であることがわかりました。ちょっと戸惑う結果です。"税率弾力性"は税の累進性を反映するはずだからです。この30年間、累進緩和が進行したという印象があるのにどうしてでしょうか。

一般に、"税率弾力性"は税率表の累進性が強いほど大きくなると考えられますが、それだけではありません。仮に税率表の累進性が非常に強くても、国民所得が増えるたびに頻繁(ひんぱん)に税率表の見直しを行って増税感を解消するならば、"税率弾力性"は低くなります。

80年代には累進性は今より高かったが経済成長に伴ってたびたび税率表の見直しが行われていた。90年代以降は累進性は低くなったが税率表見直しの頻度は80年代より落ちました。両者の効果がほぼつりあって、一定の"税率弾力性"になったのかも知れません。

あるいは、90年代以降に累進緩和が進んだのは最高税率など高所得側だけで、中低所得側では税率階段の形状の変更がむしろ累進強化になっていた可能性も考えられます。

 

■税種別の"ゼロ成長税率"

次に示す図5は、"ゼロ成長税率"の推移を税種別に見たものです。いずれも誤差が小さいので、推計中央値のみを示しました。

Zero_rate
図5

「社会負担」の"ゼロ成長税率"は増加を続けています。「間接税」の"ゼロ成長税率"は1997〜1998年度に7%から8%にアップし、その後は横ばいです。

「直接税」の"ゼロ成長税率"は1990年から2003年まで低下を続けましたが、そのあと上昇に転じています。「その他の税」の"ゼロ成長税率"は小さいですが、「直接税」とよく似た動きを示しています。

「総税収」の"ゼロ成長税率"は、短期景気変動に伴う凹凸はあるものの、趨勢としては一貫して上昇傾向にあります。1981年度の26%から2008年度には31%まで増えました。この上昇はおもに「社会負担」の"ゼロ成長税率"の上昇を反映したものです。

 

■税種別の"税率弾力性"

次の図6は税種別に"税率弾力性"の推移を推定した結果です(*)。

E
図6

推定中央値のみを示しましたが、図4で見たように実際には「直接税」では+-0.05程度の推定誤差があり得ます。他の税種でも、「間接税」で+-0.02、「その他の税」+-0.03、「社会負担」で+-0.04、「総税収」で+-0.05程度の推定誤差があり得ます(いずれの誤差も単位は[年])。

「直接税」の"税率弾力性"はプラス(=累進的)で、「その他の税」もややプラスであるのに対して、「間接税」と「社会負担」の"税率弾力性"はともにマイナス(=逆進的)になっています。前者では所得が増えると税率が上がるのに対して、後者では税率が下がることがわかります。

「間接税」の"税率弾力性"(緑色の折れ線)が1997年ごろに下側へ0.02ほどシフトしているのは、消費税率アップ(3%→5%)によるものと思われます。一方、1990年の消費税導入時には「間接税」の"税率弾力性"のグラフに下側へのシフトは見られません。少し意外な結果ですが、これは消費税導入にともなって従来の物品税が廃止されたことや、消費税以外の"間接税"(企業が保有する自動車関係の税、法人事業税、不動産関連の税など)の税収がバブルで膨張して逆進性が一時的に薄まったためでしょうか。

(いわゆる消費税の税収は「間接税」全体の3分の1ほどに過ぎません。他の「間接税」がけっこう多額なのです。)

「社会負担」の"税率弾力性"(赤色の折れ線)が「間接税」のそれよりもさらにマイナス側にあるのは由々しき結果です。 社会保障といいながら負担の面では、貧者より富者のほうが保険料率が低くなっているということです。 国民基礎年金の保険料が定額であったり、健康保険の保険料に上限があるなど、現在の社会保険料が逆進的(あるいは人頭税的)な性格をもっているからだと思います。

今後10年ほどの間は「社会負担」が税収全体に占める割合が上がっていくのは避けられないので、社会保険料の逆進的性格を薄めたり、より累進的な税で置き換えることが望まれます。

(給付面で調整すればよい、という考え方にはWSは少し抵抗があるのです。 オーウェル的な管理社会になる恐れがありますし、富士山に登りたければ日本海溝の底から登る必要はなく、8合目から登ったほうが楽だからです。 負担面でできることをやって、どうしてもできない部分を給付面で調整するのがよいと思っています。)

 

■名目GDP成長率により税収はどう変わるか

というわけで、前置きが長くなりましたが、やっと結論です。式(1)をもとにして「GDP=500兆円」の場合に、成長率によって税収がどう変わるかを計算してみました。次の図7です。

Growth
図7

「直接税」の税収は成長率によって大きく変わり、成長率が高いほど多くなることがわかります。 名目GDP成長率(年率)が1%高いと「直接税」の税収は約1.7兆円増えます。

他の税も、「直接税」ほどではありませんが、成長率が高いほど税収は多くなります。 その結果、名目GDP成長率が1%高いと「総税収」が約2.3兆円増えることがわかります。

ひとつ注意してほしいのは、この結果は「GDP=500兆円」を仮定して出てきたものだということです。たとえば図7にあるように、名目GDP成長率が年2%の場合の「総税収」は159.6兆円ですが、これは、過去何年か年2%の成長が続いていて、この年度のGDPがちょうど500兆円であったならば、今年度の「総税収」は159.6兆円であることを意味しています。

もしも仮に「ずっとゼロ成長が続いていて昨年度のGDPが500兆円、「総税収」は155.0兆円であった。今年度から成長率が年2%にアップした」とすると、今年度の「総税収」は159.6兆円ではなく、それよりも多くなります。

なぜなら、今年度のGDPは500兆円の2%増しで510兆円だからです。この場合には今年度の「総税収」は(法人税収などの増加が景気回復に少し遅れることなどを無視すれば)162.8兆円になるでしょう(159.6×1.02=162.8)。

つまり、ゼロ成長だったものが景気回復で年2%成長に転じたとすると、「総税収」は155.0兆円から162.8兆円まで7.8兆円アップすることになります。

その後も名目で年2%成長が続くならば、税収も2%ずつアップしますから、毎年の「総税収」は

155.0兆円→162.8兆円→166.0兆円→169.4兆円→172.8兆円→...

最初の年度に比べた「総税収」の上昇幅は

0兆円→7.8兆円→11.0兆円→14.4兆円→17.8兆円→...

となります(*4)。

現在の消費税(税率5%)の税収が約13兆円であることと比べてみて下さい。

現在の税率を全くいじらなくても、名目2%成長が続くだけで3年後には「総税収」が現在より14.4兆円も増えるのです。 1年に1.3兆円ずつ社会保障費が増えてもへっちゃらですね。

 

■一方、消費税を増税すると...

一方、消費税率を10%に引き上げるとどうなるでしょうか。景気悪化で所得税や法人税の税収が減ります。1997年の経験からもわかるように消費税の税収は増えるでしょうが「総税収」が増えるかどうかは定かではありません。しかも、国の経済規模は縮小します。 財政再建には全くつながらず、国民生活を困窮に追いこむだけです。

 

■消費税率アップではなく、名目経済成長が必要

2003年以降、特別控除の廃止や社会保険料の増額などの形でかなり増税が行われてきました。更なる増税(=税率アップ)は全く必要ありません。むしろ必要なのは名目経済成長です。

リーマンショック後に税収が落ち込んでいるのは事実ですが、これは短期的な出来事です。景気回復にともなって税収の水準は自然に戻ってきます(*6)。短期的な出来事に、税率アップという長期的な制度変更で対応することは間違っています。(そもそも景気後退に増税で対応するという方向性が間違っています。景気後退期に必要なのは減税です。)

税制全体を見たとき税率はすでに足りています。 たとえば2006年度と2007年度の一般政府の財政収支をみると、プライマリーバランスだけでなく利息の純支払いを入れても黒字あるいはほぼ均衡財政でした。

問題はむしろ「間接税」と「社会負担」の逆進性が大きいことです(*5)。税制変更は、(平均)税率を上げるのではなく、これらの逆進性を緩和するためにこそ行うべきだと思います。

   *

次回は、名目GDP成長率が1%アップすると財政収支がどう変わるか、を考えてみたいと思います。


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*1) この記事での4つの分類:<直接税>, <間接税>, <その他の税>, <社会負担>のそれぞれがSNAのどの項目に対応しているかと、具体的な税の例を以下に記します。(参考:SNAの用語解説

(<直接税>とか<間接税>というのは、何種類かの税からなるグループに対してこの記事で便宜上つけた名前です。税を支払う主体をもとに分類した直接税や間接税などの用語とは必ずしも一致しません。)

おもに、次の2つの表から税額の値を拾っています。
・第1部フロー編 2.制度部門別所得支出勘定 (1)一国経済 4.一般政府
・第2部ストック編 2.制度部門別勘定 (3)一般政府

なお、以下の括弧内に添えた数字は2008年度の税額(単位:兆円)です。 国と地方にそれぞれどんな税があるか、については総務省HPの「国税・地方税の税収内訳(平成20年度決算額)」というpdfにわかりやすいグラフがあります。


<直接税> 「所得・富等に課される経常税(受取)」のことです。

 例)所得税(15.0)、法人税(10.0)、都道府県や市町村の個人住民税(12.6)、家計の負担する自動車関係諸税(3.4-x)、法人住民税(3.8)など


<間接税> 「生産・輸入品に課される税(受取)」から「補助金」を控除したものです。

 例)消費税(12.5)、関税(0.9)、酒税(1.5)、たばこ税(2.1)、揮発油税(2.6)、軽油引取税(0.9)、不動産取得税(0.4)、印紙税(1.1)、法人事業税(5.2)、固定資産税(8.9)、都市計画税(1.2)、企業の支払う自動車税(x)など


<その他の税> 「財産所得(受取)」+「資本税」+「その他の経常移転(受取)」から「一般政府内の経常移転」を控除したものです。

 例)利子(7.7)や配当(0.6)、地代、相続税(1.5)、贈与税(0.1)など


<社会負担> 「社会負担(受取)」のことです。

 例)社会保障基金への負担金(雇主負担分、雇用者負担分)、年金基金への負担金(雇主負担分、雇用者負担分)、無基金制度への負担金


*2) 推定の手法は、先日の消費性向の記事で用いたものとほとんど同じなので詳細は省きます。


*3) バブル崩壊から2003年まで「直接税」の"ゼロ成長税率"が低下しているのは、この時期の所得税減税や法人税減税を反映したものと思われます。2003年以降の"ゼロ成長税率"の上昇は、配偶者特別控除の廃止、定率減税の廃止などの増税によるものと考えられます。


*4) ちょっと欲張りすぎかも知れませんが、仮にゼロ成長からの景気回復後に名目GDPでみて年4%成長が続くならば、毎年の「総税収」は

155.0兆円→170.8兆円→177.6兆円→184.7兆円→192.1兆円→...

最初の年度に比べた毎年の「総税収」の上昇幅は

0兆円→15.8兆円→22.6兆円→29.7兆円→37.1兆円→...

となります。


*5) 「直接税」の分野でも、所得税では米国のように配当等を勤労所得と合算して課税する総合課税への移行、 また法人諸税では、労働分配率を税率と連動させるなど、雇用面等で国内で社会的責任を果たす企業を優遇する仕組みが必要であると思います。


*6) 財務省HPの「国庫歳入状況」で毎月の国税収入の状況を調べてみました。

Tax1_2
図8

リーマンショックでとくに法人税の税収が激減したことがわかります。

法人税の税収は1月と7月にピークがあり、所得税のそれは6月と9月にピークがあります。でもこのままでは長期的な推移が見にくいですね。簡易季節調整をしてみたのが次の図です。

Tax2
図9

2009年の秋から冬にかけて、法人税の税収がほぼゼロにまで落ち込みました。たしかに、もしこのままなら大変な事態です。

さらに6か月移動平均をとったのが次の図です。

Tax3
図10

どうやら法人税の税収はすでに回復しつつあるようです。図10では半分ほど戻した状態ですが、これは6か月移動平均なので、実際の税収の推移より3か月ほど遅れています。図9からもわかるように、法人税の税収はすでに2006年から2009年の平均水準を回復しています。

法人税収は7月がピークです。この7月で税収回復が鮮明になり、次のピークの1月にはおそらく平均水準を超えてくることでしょう。

所得税など他の税収は法人税より半年ほど回復が遅れるでしょうが、いずれ追いついてきます(すでに名目賃金はこの春から上昇に転じています)。

  *

2%程度の名目成長率が保たれている限り、現在の一時的な税収不足について心配する必要は全くありません。むしろ心配は為替レートです。

名目実効為替レートで見ると、2007年の水準に較べて現在約15%ほど円高になっています。この円高のために輸出が減り、製造業の空洞化をもたらして、長期的に成長率が下がることが心配です。

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