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名目GDP成長率が1%アップすると財政赤字はどれだけ減るか

---名目GDP成長率が1%アップすると財政収支は約10兆円改善します。名目GDP成長率が年率3.3%を越えると一般政府(国と地方および社会保障基金を合わせたもの)の財政収支は黒字に転じます。---

前回の記事では、名目GDP成長率が1%アップするとどれだけ税収が増えるか、を調べましたが、今回の記事では、財政赤字がどれだけ減るか、を調べます。

   *

毎年の財政赤字額とはもちろん、政府支出額と税収の差のことです。(この不足分を政府は借金(国債発行)で補わなければなりません。)

このうち税収は、成長率が高いほど増えます。景気が良いとおもに所得税や法人税の税収が増えるからです。前回調べた通りです。

いっぽう政府支出額は、成長率が低いほど増えます。景気が悪いとしばしば景気対策のための財政出動が行われるからです。

両者の効果が合わさって、財政赤字額は成長率が高いほど減ることになります。その関係を定量的に調べます。

   *

調べ方ですが、政府支出額と成長率、税収と成長率、のそれぞれの間の関係を別々に調べて、両者をあわせて結論を導くのも1つの方法です。

しかし今回の記事ではそれはせず、財政赤字額と成長率の間の関係を直接みることにします。

毎年の財政赤字額は、政府がしている借金(=粗債務≒国債残高)の増加額から、政府の保有する貯金(=金融資産)の増加額を引いて求めました。いいかえると、政府の純債務の前年からの増加額を毎年の財政赤字額とみなしています。

 

■毎年の財政赤字額や利払い費のGDP比の推移

次の図は、政府(国と地方および社会保障基金をあわせた一般政府)の毎年の財政赤字(=純債務の増加額)のGDP比、および、利払い費(利息・配当の受取は控除)のGDP比の推移です。国民経済計算(SNA)の平成20年度確報をもとに計算しています。

B
図1

1980年代の後半(バブル期)には財政収支は黒字でした。バブル崩壊後、1990年代に財政赤字が拡大しました。ピーク時の赤字額は、利払いを除くとGDP比で約6%、利払いを入れて約7%でした(*)。2004年以降に財政赤字は急速に縮小して、2007年に財政収支は黒字に転じました。しかし、リーマンショックの2008年にはGDP比で10%を越える赤字に戻っています。

利払い費のGDP比は小さく、1990年以降のここ20年はつねに1.5%以下に収まっています。

注*) 財政赤字のピークは1998年と2004年ですが、これらには一時要因が含まれていると思われます。たとえば1998年には旧国鉄(現在のJR)の民営化に伴って約20兆円(GDP比約4%)の純債務が政府に引き継がれました。(2004年の財政赤字額も異常値と思われますが、WSは詳細を知りません。)

 

■毎年の財政赤字額のGDP比と名目GDP成長率

いま見た財政赤字のGDP比の推移を名目成長率とともにグラフにしたのが次の図です。

Ratio
図2

点線は5年移動平均相当のトレンドです。(トレンドはHPフィルタで同定)

トレンド(点線)を見ると、成長率が低下すると財政赤字のGDP比が大きくなるという相関関係が読みとれます。

トレンドではなくて、実際の値(実線)を見てもだいたい上記のような関係が見られますが、細かい凹凸までは一致しない部分があります。 財政出動の有無などには政治的要素も影響するので、相関が不完全なのは仕方のないところでしょう。

 

■財政赤字額のGDP比率(トレンド)と名目GDP成長率(トレンド)の関係

成長率が高いほど財政赤字が減るのであれば、成長率が十分に高いならば財政収支は黒字に転じるはずです。その境目の成長率はどれくらいでしょうか。

それを見るために、横軸に名目成長率(トレンド)、たて軸に毎年の財政赤字額(=純債務の増加額のGDP比、トレンド)をとって両者の動きをみたのが次の図です(*1)。

Xy
図3

1990年代の回帰直線をみると、名目GDP成長率がおよそ年率4.5%〜5.0%以上で財政収支が黒字化することがわかります。 2000年代の回帰直線でみると、黒字化する成長率はもっと低くて年率1.5%くらいです。

 

■財政収支が黒字化する成長率(財政均衡成長率)の推定

財政収支が黒字化する境目の成長率を「財政均衡成長率」と呼ぶことにします。 簡単なモデルを仮定し、時系列解析の手法を使って「財政均衡成長率」を推定したのが次の図の折れ線(ピンク色〜黄色)です(*2)。

Growth
図4

緑色の折れ線は実際の名目GDP成長率で、点線はトレンドです。 これらは参考のために添えました。

1980年代には名目成長率の水準はほとんど変わりませんでしたが、「財政均衡成長率」は徐々に低下しました。 その結果、1980年代後半には名目成長率が「財政均衡成長率」を上回りました。実際、この時期の財政収支は黒字でした。資産価格の上昇による税収増がこうした現象をもたらしたのでしょう。

1990年代には、名目成長率の低下とともに「財政均衡成長率」も低下しました。しかし、前者の低下スピードのほうが大きかったので、財政赤字のGDP比は拡大しました。

2000年代には、とくに2004年以降、名目成長率(トレンド)が(少しですが)緩やかに上昇しました。一方、「財政均衡成長率」はほとんど変わりませんでした。その結果、財政赤字のGDP比は縮小し、2007年には財政収支は黒字に転じました。こうした現象はおもに輸出の拡大によってもたらされたと思われます。

そのあと2008年に世界バブルの崩壊に伴って名目成長率が大きく低下し、財政収支は再び赤字に転じています。

 

■名目成長率の「財政均衡成長率」からの隔たりと財政赤字GDP比との関係

名目成長率が「財政均衡成長率」と等しいとき、財政収支はほぼ均衡します。

名目成長率が「財政均衡成長率」より低い場合には、両者の隔たりが大きいほど財政赤字GDP比は大きくなります。 財政赤字GDP比が両者の隔たりに比例すると仮定して、その比例係数(弾力性)を推定したのが次の図です(*2)。

E
図5

弾力性は約2.8で、過去30年を通じてほぼ一定であるという結果になりました。

2.8という数字の意味ですが、これはたとえば、名目成長率が「財政均衡成長率」より年率で1%低いと、GDP比で約2.8%(≒14兆円)の財政赤字が出る、ということです。仮に2%低いならばその2倍、つまりGDP比で5.6%(≒28兆円)の財政赤字です。

参考までに記しますと、消費税(税率5%)の税収が約13兆円です。名目成長率が1%上がると、(仮に「財政均衡成長率」が不変ならば)ほぼ消費税の税収の分だけ財政収支が改善します。改善するのは、景気がよくなると税収が増加することに加えて(景気対策のための)政府支出が減少するためです。

 

■名目GDP成長率と「財政均衡成長率」との関係

上では、もし「財政均衡成長率」が変わらないならば、名目成長率が1%上がると財政収支がGDP比で約2.8%(≒14兆円)改善すると述べました。

実際には、名目成長率が上がる(下がる)と「財政均衡成長率」も少し上がる(下がる)という関係が見られるので(図4参照)、財政収支の改善幅は上記の6割ほどになります。

次の図6は、横軸に名目GDP成長率(トレンド)を、たて軸に「財政均衡成長率」をとって両者の動きを見たものです。

Equi1
図6

青色の回帰直線からわかるように、およそ名目成長率が2.5%上がると「財政均衡成長率」が1%上がる、という関係があるようです。だいたい割合にして5分の2です。

なので、名目成長率が1%上がると「財政均衡成長率」が0.4%上がるために、両者の隔たりは0.6%だけ変わります。それにともなって財政収支はGDP比で約2.8×0.6≒2.0%(≒10兆円)改善すると考えられます。

現在は、だいたい名目GDP成長率が年率3.3%のところで財政収支が均衡するようです。

年率3.3%という数字は図6から読みとれます。青色の回帰直線とオレンジ色の直線(この直線上では名目成長率と「財政均衡成長率」が等しくなる)の交点での成長率です。

この名目成長率3.3%は、仮にインフレ率が1%なら実質成長率が2.3%で達成できます。 名目成長による財政の黒字化は十分に実現可能ではないでしょうか。

   *

次の図7は、横軸に(トレンドではない)名目GDP成長率そのものを、たて軸に「財政均衡成長率」をとって両者の動きを見たものです。

Equi2
図7

ほぼ青色の回帰直線に平行に推移しています。景気が良くなる(=成長率が上がる)と「財政均衡成長率」が少し上がり、景気が悪くなると少し下がる動きです。

しかし、例外も見られます。2つ挙げてみましょう。

1994年から1996年にかけては名目GDP成長率が年率1%から年率2%まで1%上がる間に「財政均衡成長率」もほぼ1%上がりました。回帰直線より急激な上昇です。(財政収支はほとんど改善せず)

また2005年から2006年にかけては名目GDP成長率は1%ほど上昇しましたが「財政均衡成長率」は逆に約0.5%下がりました。回帰直線に交叉する動きです。(財政収支は改善)

これらの例外はいずれも為替レートに関係があると考えられます。

 

■名目GDP成長率の「財政均衡成長率」からの隔たりと実効為替レートの推移

次の図は、名目GDP成長率の「財政均衡成長率」からの隔たり(赤色の折れ線)と実効為替レート(青または緑色の折れ線)の推移を示したものです。前者は(比例係数を無視すれば)財政赤字のGDP比を表す量であると考えても構いません。

Fx
図8

1994年から1996年にかけては円高による輸出の不調が財政収支の改善を妨げたと考えることができます。 また、2005年から2007年にかけては円安の進行による輸出の好調が財政収支の改善を促したと考えられます。

 

■まとめ

現在の「財政均衡成長率」はおよそ年率2%です。

経験的には名目成長率が上がると「財政均衡成長率」も少し上がるので、名目GDP成長率が年率2%では財政は均衡しません。しかし、「財政均衡成長率」の上昇は名目成長率の上昇より小さく、割合にして5分の2程度です。

名目GDP成長率がおよそ年率3.3%に達すれば一般政府の財政収支は均衡し、それより成長率が高いと財政収支は黒字になると考えられます。

為替レートについて言えば、円安は財政収支の改善を促進します。

 

■補足

これから来年にかけて一般政府の財政収支がどうなるかを考えてみます。図4を参考にしてください。

リーマンショック直前の2007年(暦年)には、名目GDP成長率と「財政均衡成長率」がともに年率1.5%でほぼ同じ、財政収支は黒字でGDP比1.5%でした。この財政黒字は瞬間風速的なゆらぎで、トレンド的にはほぼ均衡財政であったと考えてもよいでしょう。

2008年(暦年)にはリーマンショックで名目GDP成長率が年率-2.0%に落ち込みました。一方、「財政均衡成長率」は年率2.0%でした。実際の成長率は財政均衡をもたらす値に約4.0%足りませんでした。弾力性が2.8ゆえ、これはGDP比11.2%(≒56兆円)の財政赤字を意味します。実際、図1を見ると利払いを入れてGDP比11.7%の財政赤字が出ていますから、弾力性から計算した値とほぼ一致しています。

2009年以降の一般政府の財政収支のデータ(確報)はまだ手に入りませんが、名目GDP成長率が

2009年度 -3.7%/年
2010年度 +1.6%/年
2011年度 +1.7%/年

と推移すると仮定して(平成22年6月22日内閣府年央試算の値)、一般政府の財政収支をこの記事で行った分析に基づいて試算すると次のようになります。「財政均衡成長率」は図6の回帰直線(青色の直線)から計算しています。

   名目成長率 財政均衡成長率 財政赤字/GDP 財政赤字
2009年度 -3.7%/年 +0.5%/年  11.8%  59兆円
2010年度 +1.6%/年 +2.6%/年   2.8%  14兆円
2011年度 +1.7%/年 +2.7%/年   2.8%  14兆円

名目成長率の回復に伴って、財政収支が急速に改善することがわかります。

実際には、所得税(や法人税)の税収回復は景気回復にやや遅れますし、景気対策のためになされた財政出動の規模を景気回復時に急激に縮小することはできません。景気が回復しかけたときに急激に政府支出を減らすと景気が腰折れするからです。なので財政収支の改善はこの表の値より半年から1年ほど遅れるかも知れません。しかし、年率2%程度の名目成長率が維持されるならば、財政収支はいずれこの表の値に漸近していきます。

目先の増税や緊縮財政で財政収支を改善しようとしても、精一杯の努力をしてもせいぜい10兆円規模にしかなりません。さらに増税や緊縮財政で景気が悪化するために期待した税収増は得られません。しかし、名目成長率が1%アップすると同じ額(約10兆円)だけ財政収支が改善します。

景気回復初期にあわてて緊縮財政や増税に走って景気回復の腰を折らないこと、そして、円高を避けることが、今の局面で財政収支の改善のために重要です。


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*1) 財政赤字(=純債務増加額)は純利払いを含むほうで考えています。なお、利払いのGDP比率は小さいので、利払いを除いた財政赤字(プライマリーバランス)で考えても、これ以降の議論はほとんど同じです。
 

*2) 仮定するモデルは以前に日本の消費性向の過去30年間にわたる推移を調べた記事で用いたものとよく似ています。 ただし原数値ではなく、HPフィルタで推定した5年移動平均相当のトレンドを観測値として用いています。 第t期の一般政府の財政赤字GDP比(トレンド)をx(t)、名目GDP成長率(トレンド)をy(t)とします。

財政赤字GDP比の弾力性a(t)と財政均衡成長率b(t)が次のような状態空間モデルを満たすと仮定します。

観測モデル:
x(t) = a(t)・(b(t) - y(t)) + u0(t) ... (1)

システムモデル:
a(t) = a(t-1) + u1(t) ... (2)
b(t) = b(t-1) + u2(t) ... (3)

財政赤字GDP比(トレンド)x(t)と名目GDP成長率(トレンド)y(t)は以下のように28年分(t=1,2,3,...,28)のデータが与えられています(*3)。システムモデルは単純なトレンドモデルです。

u0(t)は観測誤差、u1(t)とu2(t)はシステムモデルのゆらぎ項で、互いに独立。時刻が違えば相関はなく、いずれも平均ゼロ、標準偏差が順にσ0, σ1, σ2の正規分布に従うとします。

a(0),b(0)の分布(初期分布)をいずれも正規分布であると仮定し、平均をそれぞれma, mb, 標準偏差をσa, σbであると仮定します。

7つのパラメータσ0, σ1, σ2, ma, mb, σa, σbをモンテカルロフィルタ(粒子フィルタ)の手法で最ゆう法で推定しました。 図4と図5に示したのは、パラメータを最適値にとったときのフィルタの結果です。(平滑化は行っていません。)
 

*3) 一般政府財政赤字GDP比と名目GDP成長率のデータは以下の通りです。2列目の財政赤字には純利払いを含めています。金額の単位は[兆円]、GDP比の単位は[%]、成長率の単位は[%/年]です。

暦年  財政赤字  財政赤字/GDP  純利払い  純利払い/GDP  名目GDP成長率
1981   12.488    4.783    3.388    1.298    7.238
1982   14.440    5.269    4.254    1.552    4.866
1983   16.269    5.707    5.532    1.941    3.925
1984   11.730    3.872    6.313    2.084    6.096
1985   7.843    2.410    6.734    2.069    7.141
1986   12.054    3.539    6.799    1.996    4.553
1987   -17.132    -4.837    6.836    1.930    3.919
1988   -10.048    -2.639    6.453    1.695    7.235
1989   -20.884    -5.092    5.789    1.411    7.433
1990   -4.823    -1.089    5.203    1.175    7.662
1991   -4.713    -1.004    4.669    0.995    5.843
1992   11.717    2.437    5.199    1.081    2.391
1993   16.330    3.376    5.427    1.122    0.607
1994   12.951    2.651    5.647    1.156    0.975
1995   22.041    4.451    6.122    1.236    1.365
1996   29.813    5.903    6.322    1.252    1.969
1997   31.589    6.126    6.385    1.238    2.084
1998   54.043    10.704    6.941    1.375    -2.105
1999   34.598    6.953    7.025    1.412    -1.452
2000   35.997    7.157    7.021    1.396    1.072
2001   26.322    5.288    6.617    1.329    -1.053
2002   26.656    5.425    6.501    1.323    -1.296
2003   18.268    3.726    6.139    1.252    -0.207
2004   36.912    7.407    5.458    1.095    1.625
2005   12.336    2.459    3.850    0.767    0.681
2006   3.506    0.691    2.881    0.568    1.116
2007   -7.782    -1.510    2.920    0.566    1.595
2008   59.257    11.731    4.091    0.810    -2.040

推定に用いた一般政府財政赤字GDP比(トレンド)x(t)と名目GDP成長率(トレンド)y(t)の値は以下の通りです。

暦年  財政赤字GDP比(トレンド)x(t)  名目GDP成長率(トレンド)y(t)
1981   5.146    6.454
1982   5.291    5.511
1983   5.082    5.133
1984   4.147    5.421
1985   2.718    5.605
1986   0.763    5.401
1987   -2.052    5.632
1988   -3.360    6.508
1989   -3.502    7.008
1990   -2.119    6.631
1991   -0.395    5.184
1992   1.483    3.217
1993   2.739    1.754
1994   3.523    1.225
1995   4.604    1.234
1996   5.905    1.204
1997   7.200    0.654
1998   8.259    -0.347
1999   7.811    -0.701
2000   6.961    -0.575
2001   5.982    -0.679
2002   5.332    -0.533
2003   4.799    0.069
2004   4.259    0.787
2005   2.546    1.081
2006   1.553    1.015
2007   3.091    0.365
2008   8.130    -1.020

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コメント

「財政赤字の持続可能性について」の数学的内容について、許容しがたい誤りがあるので指摘させていただきます。

第一部2章「持続可能となるための条件」中の(式3)

Bn/Yn = d/(a-r) + {(1+r)/(1+a)}^n * {B0/Y0 - d/(a-r)}

について、(1+r)/(1+a) > 1 の場合はn→∞において債務比率Bn/Ynが(文脈から考えてプラスに)発散すると主張されておりますが、これは全く正しくありません。


反証は非常に容易です。

(1)B0/Y0 < d/(a-r) となっている場合
-----------------------------------
式3第二項の符号が必ず負となり、n→∞においてBn/Yn→-∞(マイナス無限大)へと発散します。初期状態で正だったBn/Ynが十分遠い将来においてマイナス側へ発散するということは、有限の時間内で債務残高が0へ到達するということを意味します。

(2)B0/Y0 = d/(a-r) となっている場合
-----------------------------------
式3第二項は(無限大×ゼロ)の不定項となり、解析学的な検証なしに値を定めることはできなくなっています。私の見解では第二項の値は『ゼロ』であり、Bn/Yn = B0/Y0 の定常状態となります。


上記の反例は、ドーマー条件がプライマリーバランス正の領域において全く意味をなさない事を示すものです。

ドーマー条件に関する解説に共通して言えることですが、まともに計算結果を検証すれば気付いたであろう誤った思い込みがそのまま前提として利用され、後続の論理が破たんせぬまま誤った結論に達しています。

投稿: 暇人 | 2010.07.27 11:44

暇人さま

ご指摘ありがとうございます。

この部分は財政赤字のケース(d > 0)では問題ありませんが、財政黒字(-d > 0)のケースでは、確かに論理的な見落としがあります。あとで気が付いてこちらの記事
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2009/01/post-6bbf.html
に訂正を書いています。

正しくは次のようになるかと思います。(以下では B0 > 0 かつ 1 + a > 0 は仮定)

i) 成長率aが長期金利rより大きいとき(a > r)

 Bn/Ynはn→∞のとき一定値d/(a-r)に収束。B0やdの値によらず累積債務は持続可能です。


ii-1) 長期金利rが成長率aより大きく(r > a)、かつ、{B0/Y0 - d/(a-r)} < 0 のとき

Bn/Ynはn→∞のとき0に収束。よって持続可能です。

 これが見落としたケースです。第2の条件の分母を払うと -d Y0 > (r-a)B0 となりますが、この意味は「利払いに負けないくらいがんがん財政黒字を出して借金を返すケース」ということですね。


ii-2) 長期金利rが成長率aより大きく(r > a)、かつ、{B0/Y0 - d/(a-r)} > 0 のとき

 Bn/Ynはn→∞のとき+∞に発散。 このケースでは利払いによる債務の増加が止まりません。


ii-3) 長期金利rが成長率aより大きく(r > a)、かつ、{B0/Y0 - d/(a-r)} = 0 のとき

 Bn/Ynはnによらず一定値d/(a-r)に等しくなります。持続可能です。(「無限大×ゼロ」の不定形ではないような...)


iii) 長期金利rが成長率aと等しい(r = a)とき

 漸化式まで戻って考えますと、数列{Bn/Yn}が公差dの等差数列になることがわかります。よってdが0以下ならば数列{Bn/Yn}は単調減少または一定です(累積債務は持続可能。)。dが正ならばBn/Ynはn→∞のとき+∞に発散(持続不可能)となります。

   *

ケースii-1)を実現しようとして増税や歳出削減によって強引に財政黒字にもっていくのは代償が大きい(不況、失業etc)。 むしろケースi)のように財政はいくぶん赤字のまま、成長率を長期金利+αまでもっていって、経済成長により長期的に比率B/Yを下げていくほうが望ましい、というのがWSの考えです。

投稿: Wave of sound | 2010.07.29 10:44

御回答ありがとうございます。

考えの違いはあっても、この問題を真剣に研究する方と
話をさせていただけて感謝しています。

-------------------------------
本筋に入る前に、念のため以下を確認させてください。
"dY"は「財政赤字」ではなく『プライマリーバランス(の逆符号)』ですね?
財政赤字の累積式

> Bn+1 = Bn + r Bn + d Yn 1-2-(式2)

より、右辺第3項(+dYn)が財政赤字全体を指していると
右辺第2項(+rBn)の加算が二重カウントになってしまいます。
-------------------------------


>i) 成長率aが長期金利rより大きいとき(a > r)
>
> Bn/Ynはn→∞のとき一定値d/(a-r)に収束。B0やdの値によらず累積債務は持続可能です。

議論の方向性には影響ありませんが、d ii-1)、ii-2)、ii-3)

同意です。ii-3)については、

lim(n→∞)Bn/Yn = d/(a-r) + ∞ * 0

の形になっていませんか?


> iii)

同意です。


> ケースii-1)を実現しようとして増税や歳出削減によって強引に財政黒字にもって
> いくのは代償が大きい(不況、失業etc)。 むしろケースi)のように財政はいくぶん
> 赤字のまま、成長率を長期金利+αまでもっていって、経済成長により長期的に
> 比率B/Yを下げていくほうが望ましい、というのがWSの考えです。

ここまで来れば、建設的な議論の余地があると思います。

現在のように国債発行・流通環境が自由化している状況で『郵貯・生保等の長期保有主体
を無視した国債管理政策に実効性があるのか?』という議論も出てくるでしょう。また、
一部で好まれている「中央銀行による財政赤字の貨幣化」論についても、『プラス成長が
実現する(あるいは既に実現している)という前提条件において、マネタリーベースの膨張
のみならず金融市場全体の過剰流動性を長期的に放置する、というコミットメントが資産
市場にどれほどの悪影響を与えるのか?』という問題についても、バブル成長・崩壊の
再現という視点から研究する必要があると思います。

最近の例に共通している事ですが、当局が一般物価を監視している間に資産バブルが
先行してしまい、引き締めに転じた頃には大規模なバブル崩壊が避けられなくなって
いるように見受けられます(その類推で、現在の中国は極めて不確実性が大きくなって
きたという印象を受けています)。

まぁ、私はこの話題から離れて久しいので、本物の専門家がこうした話題を取り上げて
くれるのを待つだけですけどね。

それより、もっと単純な計算で気になった事なのですが、

lim(n→∞)Bn/Yn = d/(a-r) ただし、a>r,d<0

の領域を目指す財政政策を取ろうとした場合、持続可能なプライマリーバランス赤字は
どの程度の水準であるとお考えでしょうか?

例えば『名目成長率目標:2%、名目長期金利目標:1%、債務残高/GDPの収束
目標:400%』が政策目標として設定された場合、

d = (a-r) * B∞/Y∞ = (0.02 - 0.01) * 4 = 0.04 = 4%

となります。すなわち、各年GDP比4%以内にプライマリーバランス赤字を抑えないと、
政策目標の400%を超えて債務残高/GDP比率が上昇してしまいます。

既に現時点でのプライマリーバランス赤字がGDP比6%程度(要確認)なので、これを
維持しつつ『成長率2%、金利1%』を設定しただけでも、債務残高/GDP比率の
収束値は600%に達します。仮に、目標達成のために追加財政支出が年間10兆円以上
必要と言われれば、比率は800%に達するでしょう。

ここで設定する目標は政策の持続可能性という点で非常に重要であり、日本国債が信認を
保てるかどうかに関わってくると思います。

投稿: 暇人 | 2010.07.29 19:50

申しわけありません、誤記の訂正です。

誤> lim(n→∞)Bn/Yn = d/(a-r) ただし、a>r,d lim(n→∞)Bn/Yn = d/(a-r) ただし、a>r,d>0

「成長率>金利、かつプライマリーバランス赤字」の状態を論じているのですから、d>0ですね。

投稿: 暇人 | 2010.07.29 23:06

暇人さま

ここでのdはご指摘のようにプライマリーバランス(PB)赤字のGDP比率の意味で用いました。

また「無限大×ゼロの不定形」の件、了解しました。無限大というのは公比のべき乗の部分((1+r)/(1+a))^nを指しておられたのですね。いずれにせよこのケースでは、初期条件のもとで漸化式をまじめに解くと解が、Bn/Yn=B0/Y0=一定、となるということで。

   *

さて本題の

lim(n→∞)Bn/Yn = d/(a-r) ただし、a>r,d>0
の領域を目指す財政政策を取ろうとした場合、持続可能なPB赤字の水準

についてのご質問ですが、「純債務のGDP比率B/Yが200%以下」を基準に考えてみます。

(感覚的なものですが、B/Yが150%なら大丈夫。200%でもおそらく大丈夫。300%はちょっと危ないのではないか、あたりが目安かと思っています。)

すると、条件 d/(a-r) <= 2 が満たされなければなりません。差a-rが仮に1%ならば、dは2%以下である必要があります。一時的にdが2%以上になるのは構いませんが、長期トレンドではPB赤字のGDP比率dは約2%以下であることが望ましいでしょう。

(実は、このPB赤字の水準は2004年以降の増税によってすでに達成されています、成長率さえ通常レベルならば。唯一の問題は、この増税が逆進的であったために、デフレが強化されてしまったことだと思います。)

   *

一般に、条件 d/(a-r) <= 2 を満たすためには、分子のdを減らすか、分母のa-rを正でかつ大きくする必要があります。

分子のdを減らすには、経験的に名目成長率aを高めることがたいへん有効であることは、今回の記事で指摘した通りです。

また分母の差a-rを大きくするためにも、(少なくとも経験的には)名目成長率を高めることが有効です。小生のこちらの記事
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2008/03/8_5af6.html

の図1をみていただくとわかりますが、名目成長率aの高い国ほど差a-rが大きくなっています。aが増えてもrはそれほど増えない(成長率aが年率で1%/年ふえると金利rがおよそ0.5%増える)という関係があるためです。

こんな関係が成立する理由ですが、WSは国境を越える資本移動のためだと考えています。

(期待)実質成長率の異なるいくつかの孤立国があるとします。一般的には成長率が高いほど金利も高くなるでしょう。ここで国境を越える資本移動がおきるとしましょう。成長率の高い国には資本が流入して、少し金利が下がるでしょう。逆に成長率の低い国からは資本が流出して少し金利が上がるでしょう。その結果、(期待)実質成長率が高くなっても長期金利はそれほど上がらない、という現象が見られるのだと思います。

以上は実質成長率と実質金利での話ですが、両者に期待インフレ率を加えると、名目成長率aと名目金利rの間にも同様な関係が生じると思われます。

ただし、いま述べたaとrの関係は観察事実にすぎず、確固たる理論的基礎づけをせよ、といわれてもWSにはまだできないことを白状します。

   *

現在の日本の名目成長率と長期金利がともにおよそ年率1.0%で同じであるとします。
http://www.bb.jbts.co.jp/data/index_bei.html

いま見たように、aが1%上がるとrが0.5%上がりますから、
(a, r) = (1.0, 1.0), (2.0, 1.5), (3.0, 2.0), (4.0, 2.5), ...
のような関係が想定できます(数値の単位は%)。

あるいは現在の成長率aが年1.5%くらいであるとみなすならば
(a, r) = (1.5, 1.0), (2.5, 1.5), (3.5, 2.0), (4.5, 2.5), ...
となります。

いずれにせよ名目成長率aが3.0%ないし2.5%以上になるならば、差a-rを1.0%以上にできると思われます。

一方、名目成長率が年2.3%程度まで上がれば、dが2%以下という条件は満たされます
(理由:今回の記事で見たように経験的には、aが1%あがれば「PB収支/GDP」ではなくて「財政収支/GDP」そのものが2%改善します。財政収支はa=3.3%で均衡するので、aが2.3%以上ならば「財政赤字/GDP」が2%以下になります。このとき、dすなわち「PB赤字/GDP」はもちろん2%以下です。)

以上をまとめると、仮にPB収支が赤字であっても、名目成長率が年率2.5%ないし3.0%以上であれば、ドーマー条件(a > r)が満たされるのはもちろんのこと、純債務のGDP比B/Yが遠い将来において近づいていく値を200%以下に保てるであろうと考えます。

   *

PB収支が黒字(dが負)の場合も少し見ておきます(上の拙コメントのii-1のケース)。この場合、あらい言い方をすると、利払いを上回る黒字を出して借金を返し続ければ累積債務のGDP比は増えません(より正確には成長率aによる補正が入ります)。 その条件は

-d Y0 >= (r - a) B0

でした(Y0は初期GDP、B0は初期純債務)。現在の日本ではY0とB0はほぼ同じで約500兆円なので、上の不等式は

-d >= r - a

と同じだと思ってよいでしょう。

この不等式を成立させるためには、左辺の黒字比率-dを大きくするか、右辺の差r-aを小さくすればよいことになります。

先ほどみたようにa=3.3%で均衡財政なので、a=3.3%ならばPB黒字(-d > 0)です。一方、このときの右辺の値r-aを考えますと、「aが1%上がるとrが0.5%上がる」という関係より

(a, r)=(3.3, 2.15) または (3.3, 1.9)

程度であると予想されるので、r-aは負になるでしょう。ですから不等式は(余裕で)満たされます。

このPB黒字のケースをまとめますと、少なくとも名目成長率が3.3%以上ならば、PB収支は黒字で、純債務のGDP比B/Yは徐々に減少していく、と考えられます。

   *

以上のような理由でWSは、累積債務の持続可能性を高めるためには名目成長率を高める政策が望ましいと考えています。

「名目」成長率と断っているのは、もちろん、インフレ率で大幅に水増しして名目成長率だけを上げればよいという発想からではありません。

ご承知の通り、上で引用したサイトのBEIのグラフを見ると現在の期待インフレ率は年率マイナス1.0%程度です。

また、コアコアCPIは現在、年率マイナス1.5%でリーマンショック以降、ずっと低下を続けています。
http://pokemon.blog2.fc2.com/blog-entry-2137.html

企業は借りた借金を、名目の元本に利息を上乗せして返すわけですが、基本的には「デフレ=売り上げの継続的な減少」ということなので、デフレ下では新たにお金を借りて設備投資をしようという気にはなかなかなれないでしょう。(名目金利の非負制約による実質金利の高止まり)

また、賃金にもある程度の下方硬直性があるので、デフレ下では企業の人件費負担が重くなり、利益を設備投資に回す余裕がなくなります。

これらデフレの弊害を解消するためにはせめてマイルドインフレ(コアコアCPIで年1〜2%程度)に持っていく必要があります。それができれば、設備投資の回復から実質成長率が上昇するという好循環が始まります。

物価は基本的には貨幣的現象なので、金融緩和で物価を上げることはできるでしょう。その際にバブルを警戒しなければならないのはもちろんですが、現状を見るとそれは、真冬に熱中症の心配をするようなものではないでしょうか。

大きな氷の塊の一部だけを強力なガスバーナーで加熱すれば、氷が大部分は解けずに一部だけ融けてさらにそこだけ沸騰するかも知れません。そんな下手な加熱ではもちろんダメです。

巨大な電子レンジに大きな氷を入れて、全体をゆっくりと加熱して同時に融かし、適温のお湯にすればよいのです。

すなわち、税制をいじって所得税等の累進性を高めて(ただしこの段階ではトータルで増税にならないよう、総税収は変えずに)ビルトインスタビライザーを強化したうえで、大胆に金融緩和を行う、ということです。

   *

財政赤字と累積債務についての拙論説を丁寧に検討していただき、WSのほうこそ感謝いたします。なにかお気づきの点があれば、これからもご指摘をいただけましたら幸いです。

投稿: Wave of sound | 2010.08.01 09:51

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