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日本の家計消費性向の推移および景気変動との関係

家計の平均消費性向の過去約30年にわたる推移と、景気変動との関係を調べてみました。

わが国の家計の平均消費性向、つまり消費額合計が総可処分所得に占める割合は、ゆるやかな増加を続けています。

図1の緑色の折れ線は、国民経済計算(平成20年度確報)をもとに計算した家計消費性向の約30年間の推移を示します(*1)。 点線は長期トレンドです。 HPフィルタで同定した12年移動平均相当のトレンドなので、長期HPトレンドと呼ぶことにします。

Fig1
図1

この長期HPトレンドを見ると、消費性向はゆるやかに増加しているように見えます。1980年に約0.75であった消費性向は、2008年には約0.82となっており、28年間で0.07増加しています。4年で1%(=0.01)の増加ペースです。

この消費性向のゆるやかな増加は、ふつう、貯金を取り崩して生活する年金生活世帯(消費性向がたいてい1を越える)の増加が原因であると言われています。 実際、世帯主年齢別にみると、60歳以上の世帯がこの15年で約2倍に増え、世帯数の約5割、消費額の約4割(2006-08年平均、二人以上世帯)を占めるに至っています(参考:内閣府 今週の指標No.950)。

もちろん、それは否定できません。 しかし、消費性向のゆらぎと景気変動の関係を調べてみたところ、その解釈は現実の一面しか見ていないのではないか、と思えてきました。

むしろ、可処分所得が減り続けるにも関わらず、各家計は(必要最小限の)ある程度の消費を続けなければならないことの結果として、消費性向がゆるやかに増加している、という理解もまた適切であると思われます。

 
 
■予備的考察---消費性向のゆらぎと景気変動の関係

上の図1の青色の折れ線は、消費性向の前年差を示しています。 また、赤色の折れ線は、家計の実質可処分所得の前年比(%)を示しています(*2)。 点線はいずれも長期HPトレンドです。

長期HPトレンドからのずれ(=ゆらぎ)をみると、可処分所得伸び率と消費性向前年差が負の相関をもっている様子が読みとれます。

つまり、大まかな傾向として、可処分所得伸び率がトレンドより上にあるときには消費性向前年差はトレンドより下にあり、逆に、前者が下にあるときには後者は上にあるようです。

そこで、横軸に可処分所得伸び率のゆらぎを、縦軸に消費性向前年差のゆらぎをとって、両者の関係をプロットしてみたのが次の図2です。

Fig2
図2

少しばらけていますが、確かに、両者には負の相関が見られます。

以上は予備的な考察です。 本当は、今やったようにHPフィルタで同定した長期トレンドを差し引いたゆらぎについて、さらに相関を見るようなやり方はあまり望ましくありません。想定しているモデルが明確でないからです。

なので、HPフィルタのことはもう忘れて、以下では生データを直接扱うモデルを考えます。

 
 
■モデルを作ってみる---「家計が想定する所得伸び率」というアイデア

消費性向と景気変動の関係を説明する、次のようなモデルを考えます。

ひとまず、家計の可処分所得が伸び続けていた1980年代のような状況を想定して下さい。 各家計は毎年、ある程度の実質可処分所得の伸びを想定しています。その想定がたとえば前年比4%であるとしましょう。

さて、今年の所得が実際には前年比7%伸びたとします。 その家計は「この伸びは一時的なもので未来の伸びはもっと小さい」と考えるはずです。なので、所得が7%増えても消費を7%増やすことはないでしょう。消費も多少は増えるでしょうが、7%より小さいはずです。 つまり、この家計の消費性向は前年よりダウンするでしょう。

では、今年の所得の伸びが実際には4%よりずっと少なくて前年比1%しか伸びなかったらどうでしょうか。 今度は「この小さな伸びは一時的なもので未来の伸びはもっと大きい」と考えるはずです。なので、この家計の消費額の伸びは所得の伸びを上回り、消費性向は前年よりアップするでしょう。

このように各家計が可処分所得の伸びを想定して消費額を決める結果、国全体で見ても、家計可処分所得の伸びが大きいときには消費性向がダウンし、伸びが小さいときには消費性向がアップするでしょう。

その境目の実質可処分所得の伸び率を、「中立的所得伸び率」と呼ぶことにします。

たとえば、ある年(t)の、実際の家計可処分所得の伸び率y(t)が、中立的所得伸び率b(t)より2%大きいとします。このとき、消費性向は前年よりダウンします。 たとえば消費性向が前年より1%ダウンしたとします。 消費性向の前年差x(t)は-0.01です。

y(y) - b(t) = 0.02
x(t) = -0.01

両者の比(いまの例では 0.01/0.02 = 0.5)を一般に「(家計消費性向の)景気弾性係数a(t)」と呼ぶことにします。

 *

そこで一般に、消費性向の前年差x(t)が

消費性向の前年差 = -景気弾性係数・(所得伸び率ー中立的所得伸び率)+誤差

と書けると仮定します。 文字で書き直すと

x(t) = -a(t)・(y(t) - b(t)) + u0(t) ... (1)

と書けると仮定しましょう。

右辺の第1項-a(t)・(y(t) - b(t))は、すでに述べたように短期景気変動による消費性向の変化を示しています。 所得伸び率が中立的伸び率より大きい(小さい)ときには消費性向がダウンする(アップする)効果を現します。

右辺の第2項u0(t)は、誤差項です。

なお、上では所得が伸び続けていた1980年代の状況を想定しつつモデルの説明をしましたが、「中立的所得伸び率」や「景気弾性係数」の概念と式(1)は、実質可処分所得が増えなくなった1997年以降の状況にも適用できると仮定します。

 
 
■推定結果

時系列解析の手法を使って、景気弾性係数a(t)と中立的所得伸び率b(t)の推移を推定しました(*3)。結果を順に見てみます。

次の図3は、景気弾性係数a(t)の推定結果です。

Fig_a
図3

景気弾性係数は約0.73で、過去約30年を通じてほぼ一定であるとの結果になりました。

この約0.73という数字は次のことを意味しています。

「もし仮に中立的所得伸び率(≒家計が想定する所得の伸び率)が変わらないならば、家計可処分所得が前年より1%増える(減る)と消費性向は0.0073だけダウンする(アップする)。」

 
 
■可処分所得が増えたときに消費額はどうなるか

では、可処分所得が1%増えるときに消費額はどうなるでしょうか。

たとえば消費性向がはじめ0.8000で可処分所得が300兆円であったとします。消費額ははじめ240兆円です。

翌年、可処分所得は1%増えて303兆円になり、消費性向は0.0073だけ減って0.7927になります。その結果、消費額は303×0.7927=240.19兆円となります。つまり、約1900億円だけ消費が増えます。

可処分所得の3兆円の増加に対して、消費増が1900億円ですから、非常に少ないですね。 ほとんど増えないと言ってもよい数字です。

ただし、この結果は「可処分所得が変わっても中立的所得伸び率は不変である」と仮定して計算したものであることに注意して下さい。

可処分所得が1%増えたとき、もし家計がその所得増を恒久的な所得の伸びであると認識するならば、いいかえると、中立的所得伸び率(≒家計が想定する所得の伸び率)も同時に1%増えるならば、式(1)からわかるように、消費性向は0.800のまま変化しません。その場合には、3兆円の可処分所得の増加に対して、消費額は2兆4千億円増えることでしょう。

このように、「中立的所得伸び率」の動きがたいへん重要であることがわかります。

単なる可処分所得の増加ではなくて、家計が想定する所得伸び率(中立的所得伸び率)が同時にアップするような可処分所得の上昇こそが、(限界)消費性向を引き上げ、消費増につながります。

 
 
■中立的所得伸び率の推移

その「中立的所得伸び率」の推移を推定した結果が次の図です。

Fig_b
図4

1980年ごろに約3.5%/年であった「中立的所得伸び率」は、1980年代後半の不動産バブルの時期に徐々に上昇して1990年には約5.0%/年に達しました。この頃の家計は、1年あたり約5%ほど実質可処分所得が伸びると想定していたことになります。 所得が伸び悩む日本経済の現状からすると、想像するのが困難なほど高い値です。

その後、バブル崩壊に伴って「中立的所得伸び率」は急激に低下し、1994年には約2%/年まで落ち込みました。

そこでいったん底を打って1996年には約2.5%/年までわずかに上昇したものの、消費税率が5%に引き上げられた1997年以降、再び急激に低下して約0.5%/年まで落ち込みました。

その後は1%/年付近をうろうろする状態が続きましたが、リーマンショックに象徴される世界バブル崩壊に伴い、0%/年を割り込んで今に至っています。現在(2008年)の家計は、実質可処分所得が<減る>ことを想定している状態です。

この「中立的所得伸び率」の推計結果に実際の家計実質可処分所得伸び率を重ねてみたのが次の図です。

Fig_b2
図5

数年に1度、実際の所得伸び率が「中立的所得伸び率」を大きく下回る年(=景気に下方ショックが加わる年)があって、それに前後して「中立的所得伸び率」がぐんと低下することがわかります。

1980年から2008年までの28年間を全体としてみると、実際の所得伸び率が「中立的所得伸び率(推定中央値)」を下回る年が多くなっています。 式1によると、これは消費性向が徐々に上昇することを意味します。 つまり、家計が想定している所得伸び率よりも、実際の所得の伸び率が下回り続けているために、消費性向が徐々にアップしているという見方もできるわけです。

式1をもとに計算すると、家計が想定する所得の伸び(中立的所得伸び率の推定中央値)より実際の所得の伸びが小さいことによる消費性向の上昇分は、28年間で累計0.104と計算できます。これは図1から読みとれる消費性向の上昇分0.07(1980年0.75→2008年0.82)をよく説明しています。 やや過大評価になっているのは、所得伸び率の急激で大幅な減少時(1991年頃、1997年頃、2001年頃)には(家計が将来不安から)消費を過剰に抑制するために、消費性向が式1で表されるほどは上昇しなかったという、非線形効果のためであると思われます。

 
 
■民間消費を盛り上げてデフレ脱却をはかるには

家計の消費額が増えるためには、単に一時的に可処分所得が増えるだけではだめで、家計がその可処分所得の増加を恒久的なものだと確信する必要があります。

図5から読みとれるように、「中立的所得伸び率(≒家計が想定する所得伸び率)」が上昇するのは、1980年代に見られるように、何年間も継続して可処分所得が伸びるときです。

1997年や2001年のように景気回復初期に緊縮財政や増税あるいは金融引き締めを行って、ようやく回復を始めた家計可処分所得の伸びを抑え込んでしまったら、家計は所得増が一時的だと考えて消費増にはつながらず、「中立的所得伸び率」がアップするはずもありません。

日本の場合、国内で国債の消化ができているため、名目成長率が年4%まで回復したときの長期金利は年3〜3.5%程度になると考えられます。この状態はドーマー条件を満たしているので、累積債務の持続可能性は確保されます。

今回の景気回復局面では決して、13年前そして10年前の失敗を繰り返すべきではありません。早まって、緊縮財政や増税、金融引き締めに走らないでいただきたい、と願います。

(都合により、かなり長期にわたりブログ更新をお休みします。) 
 

----------
注 *1) 家計部門の(平均)消費性向は次の割り算の式で定義されます。

消費性向=消費額/可処分所得

右辺の分子にある消費額の定義や推定法、あるいは分母にある可処分所得の定義や推定法が違うと、消費性向の値も違ってきます。 国民経済計算(SNA)から計算される(よく引用される)消費性向の値(0.90〜0.95)と家計調査から計算される消費性向の値(0.70〜0.80)にずれが生じているのはそのためです。

持ち家の帰属家賃の扱いの違いや、家計調査において耐久消費財の消費額や不定期の財産所得に記載もれがある可能性などを考慮すると、両者の違いが説明可能とのことです。

(参考pdf:RIETI-SNAと家計調査における貯蓄率の乖離-日本の貯蓄率低下の要因-宇南山 卓

今回の記事では、SNAベースで分子と分母を次のように定義して消費性向を計算しました。

・消費額=持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出

・可処分所得=家計総可処分所得(固定資本減耗を含む)
 
 
*2) 実質可処分所得の伸び率を求める際には、持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出の(連鎖方式の)デフレータを用いて実質化を行いました。

実質可処分所得z(t)の前年比は、対数値の差分 ln(z(t)) - ln(z(t-1)) で計算しました。
 
 
*3) 消費性向の景気弾性係数a(t)と中立的所得伸び率b(t)が次のような状態空間モデルを満たすと仮定します。

観測モデル:
x(t) = -a(t)・(y(t) - b(t)) + u0(t) ... (1)

システムモデル:
a(t) = a(t-1) + u1(t) ... (2)
b(t) = b(t-1) + u2(t) ... (3)

消費性向前年比x(t)と所得伸び率y(t)は以下のように28年分(t=1,2,3,...,28)のデータが与えられています(*4)。システムモデルは単純なトレンドモデルです。

u0(t)は観測誤差、u1(t)とu2(t)はシステムモデルのゆらぎ項で、互いに独立。時刻が違えば相関はなく、いずれも平均ゼロ、標準偏差が順にσ0, σ1, σ2の正規分布に従うとします。

a(0),b(0)の分布(t=0での初期分布)をいずれも正規分布であると仮定し、平均をそれぞれma, mb, 標準偏差をσa, σbであると仮定します。

7つのパラメータσ0, σ1, σ2, ma, mb, σa, σbをモンテカルロフィルタ(粒子フィルタ)の手法で最ゆう法で推定しました。 図3と図4に示したのは、パラメータを最適値にとったときのフィルタの結果です。(平滑化は行っていません。)
 
 
*4) 推定に用いた消費性向前年比x(t)と所得伸び率y(t)のデータは以下の通りです。

年度 実質可処分所得 消費性向 実質可処分所得伸び率 消費性向前年差
1980 201.977 0.75497 no_value no_value
1981 208.896 0.74660 0.03368 -0.00838
1982 215.129 0.76012 0.02940 0.01352
1983 220.975 0.76114 0.02681 0.00103
1984 227.918 0.76058 0.03093 -0.00056
1985 236.309 0.76652 0.03616 0.00594
1986 242.751 0.77418 0.02689 0.00765
1987 251.601 0.78420 0.03581 0.01002
1988 266.423 0.78286 0.05724 -0.00133
1989 278.031 0.78281 0.04265 -0.00005
1990 289.470 0.79438 0.04032 0.01157
1991 305.122 0.77149 0.05266 -0.02289
1992 309.863 0.76929 0.01542 -0.00219
1993 310.333 0.77795 0.00152 0.00865
1994 319.790 0.77130 0.03002 -0.00664
1995 319.617 0.78819 -0.00054 0.01689
1996 325.590 0.79560 0.01852 0.00741
1997 325.723 0.78292 0.00041 -0.01268
1998 324.636 0.78344 -0.00334 0.00052
1999 325.735 0.78590 0.00338 0.00247
2000 322.044 0.80062 -0.01140 0.01471
2001 318.615 0.81790 -0.01070 0.01728
2002 320.994 0.81892 0.00744 0.00102
2003 321.130 0.82035 0.00043 0.00143
2004 323.766 0.82055 0.00817 0.00021
2005 329.063 0.81842 0.01623 -0.00213
2006 333.440 0.81681 0.01321 -0.00161
2007 331.784 0.83241 -0.00498 0.01560
2008 330.042 0.81519 -0.00526 -0.01722

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