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1.薄く広がった雲の電荷分布と大気電場(1次元)

お久しぶりです。今回はサイエンス分野の記事を書きます。

3月の東北関東大震災の前に「前兆すべり」が観測できなかったそうです。しかし電磁気的な異常が地震発生前に検出されています。

SEMS(Seismo ElectroMagnetic Signals)研究会さんのサイトを見ますと、以下のような現象が報告されています。

・3月25日:8カ月前から電波異常 北大研究グループ観測 「地震前兆の可能性」(北海道新聞)
 (北海道で観測される)東北地方のFM放送の電波が強くなる電波異常が続いていた。観測したのは森谷武男博士(元北大助教授)のグループ。

・3月28日:大震災40分前上空の電子急増 チリ地震と類似「前兆か」(北海道新聞)
 東日本大震災の40分前、震源地上空の電子の量が局地的に増えていたことが、北大理学研究院の日置(へき)幸介教授(地球惑星物理学)の調べで分かった。上田誠也東大名誉教授は「電離層での電子の急増が巨大地震の前兆現象であれば、興味深い。地震予知の研究に役立つだろう」と期待する。

・5月2日:大地震、5~6日前に「前兆」 上空の電離層乱れる 電通大の研究グループが確認(日経)
 東日本大震災が発生する5〜6日前に、太平洋上空の電離層に著しい異常があったことが、電気通信大学の早川正士特任教授らの観測で分かった。早川氏によると、大きな地震の約1週間前に震源上空にある電離層が何らかの原因で乱れ、大気圏との境界面(高度約80キロ)が一時的に低くなる。この現象は地表と電離層の間を反射しながら進む超長波電波の到達時間を正確に測ることでとらえることができる。

   *

地震の前にこのような電磁気的な異常がつねに生じるのかどうか。電磁気的な異常が生じたあとで必ず地震が発生するのかどうか。地震発生前の地殻でおきる現象が、どのようなメカニズムで地表や上空での電磁気的な異常に結びついているのか。地震以外の原因で生じる電磁気的な異常と地震に起因する異常を区別できるのかどうか、など、これから解明すべき事柄は多いと思いますが、こうした現象についての基礎研究がもっと進展して、大地震の直前予知が可能になってほしいと願います。


地下での異常が電離層に波及するメカニズム(仮説)

WSはこの分野の文献をまだあまり読み込んでいないので誤解があるかも知れませんが、地震前の地下の異常が電離層に伝達されるメカニズムとしては、地殻からのラドンガス放出などの物質的な要因を考えるのが主流?のようです。

そうなのかも知れません。しかしWSには今回のような場合、ぶ厚い海水層をくぐり抜けてラドンが大気中に出てくるとはどうしても信じられないのです。 以前の記事でも書きましたが、WSは次のような非物質的なメカニズム(静電気的なメカニズム)を想像しています。

1. (これから起きる地震の)震央付近の地下で、圧力変化により双極的な起電力が生じ、(直流的な)地電流が流れる。
2. 地電流のため、地表面に水平電位勾配が生じる。つまり、震央付近の地表電位が周囲より高くなるか低くなる。
3. 大気イオン流(空地電流密度)に変化が生じる。
4. 電離層の電子密度や正イオン密度に変化が生じる。

現段階ではこれら4つのピースの各々を完成させ、それらを貼り合わせて全体像を理解したい、と思っています。

1.の起電力が生じる原因としては、火成岩を構成する石英などの鉱物内に普遍的に含まれる格子欠陥(過酸化架橋)により、鉱物が高圧下でp型半導体として振る舞うようになるという説(参考:火成岩の部分圧縮に伴う電気信号の発生)に魅力を感じます。すべりが生じなくても応力分布の非一様性があるだけで起電力が生じるからです。

2.は基本的にはオームの法則(j=σE)で話が尽きていて、理論的に難しい点はありません。(実際に地下の抵抗率を広域で調べたりするのは大変かも知れませんが。)

3.と4.の部分については、かなり時間を費やして手計算したりしているのですが、大気イオンの乱流拡散に絡む部分が難しくて、まだ定量的なモデルを作れていません。

当面は、1.の起電力が生じる部分についてはブラックボックスとしておき、3.と4.の大気イオンや大気電場に関する部分について勉強したり考察を深めたいと思っています。地表電位分布が変わった場合の電離層への影響という問題をいきなり考えるのは難しいので、気分転換に、関係のあるもう少し易しい問題に取り組みながら、よいアイデアが天から降りてくるのを待つつもりです。


薄く広がった雲がある場合の電気伝導度の高度分布(仮定)

今回は気分転換の1回目として、薄い雲の上面がプラスに下面がマイナスに帯電し、雲内部の電場は外部の10〜100倍に強くなる、というお話をします(参考:R G Harrison氏のpdf, ATMOSPHERIC ELECTRICITY AND CLOUD MICROPHYSICS, fig8)。

雲と電気現象といえばまず雷雲を思い浮かべる人が多いと思いますが、今回の話は雷放電を生むような激しい対流のある積乱雲の話ではなくて、霧のようにおだやかな雲の話です。

次の図は、上空一面に薄く広がった雲がある場合の電気伝導度の高度分布のモデル(仮定)です(*1)。

Cloud_cond
図1

赤い曲線は雲がない場合、他の3つの曲線は雲がある場合の電気伝導度を示します。雲は高度4km付近を中心として厚さ約1kmに渡って存在すると仮定しています。雲の「濃さ」として3通りの場合を考えています。

雲の部分で電気伝導度が小さくなっています。雲内では、電流を運ぶ大気イオンのほとんどが雲粒に捕捉されて重くて大きな帯電エアロゾルとなり、動きが鈍くなるためです。

なお、雲がない場合の赤い曲線を見ますと、高度が上がるほど電気伝導度が大きくなっています。これは上空へ行くほど空気が希薄になるので、電流を運ぶ大気イオンが自由に動き回れるためです。


大気電場の高度分布---薄く広がった雲がある場合

それぞれの場合に大気電場の高度分布がどうなるかはオームの法則から分かります(*2)。

Cloud_pg
図2

雲の内部では外部より電場が強くなること、また、雲が濃い(=電気伝導度が小さい)ほど電場が強くなることがわかります。

電気伝導度が外部の1/10のところでは電場はおよそ10倍に強くなりますが、正確は10倍に少し足りません。これは、雲があると電離層から地上までの全抵抗が増すために、雲がない場合と比べて空地電流が弱くなるためです。(電離層電位は、雲の有無によらず同じと仮定しています。)


電荷密度の高度分布---薄く広がった雲がある場合

電場がすでに求まっているので、電荷密度の高度分布がどうなるかはガウスの法則から分かります(*3)。つまり、電場がわき出すところには正電荷が、電場が吸い込まれるところには負電荷があります。

Cloud_density
図3

雲の上部はプラスに、雲の下部はマイナスに帯電することがわかります。上空から地表へ向かって電流が降りてきたとき、雲の上部でさえぎられるとその部分に正電荷が集積するのです。また、雲の直下からは電流が流れ出しますが、雲の内部は電流が流れにくいのでなかなか補充が間に合わず、その部分が負に帯電することになります。

そのようにして雲の上部と下部に生じた電荷分布が新たな下向きの電場を生み出し、雲内部の電場が強められます。その結果、やがて電流を流しにくい雲にも何とか外部と同じ大きさの空地電流が通じるようになる、というわけです。

図から読みとれるように、おだやかな雲の電荷密度は1立方メートルあたり数ピコクーロンと小さいです。1立方キロの体積で考えても総電荷はせいぜい数ミリクーロンです。雷の放電は1回あたり少なくとも数クーロンですから、雷を生むには全く足りない電気量ですね。しかし、雷雲での電荷蓄積が始まる初期に、ここで述べたようなおだやかな雲の電荷分離メカニズムがなんらかの役割を果たしている可能性はあるかも知れません。


孤立した雲の場合はどうか

上では空一面に薄く広がった雲を考えたので、上空から地表へと向かう空地電流には逃げ場がありませんでした。しかし、実際には雲はどこかでとぎれていて、晴天域が存在します。このように雲を迂回して空地電流が流れることが可能な場合には、大気電場や雲内の電荷分布はどうなるでしょうか。また、そのような雲が通過するとき、地表の大気電場にはどのような変動が見られるでしょうか。

こういった問題を、記事を改めて考察する予定です。


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*1) 小川俊雄氏の解説記事「地球をとりまく大気電場」(静電気学会誌、5, 6 (1981), 383-394)で紹介されているO H Gishらによる気球観測結果をもとに、高度z[km]における雲がない場合の電気伝導度σ1(z) [p Ω^-1 m^-1]として

σ1(z) = j1 / E1(z)

を仮定しました。ここで、j1[pA/m^2]は(高度によらず一定の)空地電流密度でj1=2.78です。また、E1(z)[V/m]は大気電場(下向き正)で次のように3つの指数関数の和で与えられます。

E1(z) = 10.26 exp(-z/8.26) + 38.6 exp(-z/2.67) + 81.8 exp(-z/0.22)

最初の指数関数は大気密度の因子(〜ボルツマン因子exp(-mgz/kT))、2つめの指数関数は大気イオンの水和(H2O分子の付加)の効果、3つめの指数関数は地上付近での大気イオンのエアロゾルへの吸着の効果を現しているとWSは考えています。

なお、電離層電位V0[kV]は次のようになります。

V0 = Integral(E(z), [z, 0, +∞]) = 205.8

*2) 大気電場E(z)の高度分布はどうなるか、はオームの法則j = σ(z)E(z)から分かります。jは高度によらず一定と仮定する空地電流密度で、伝導度分布{σ(z)}によって違います。電離層電位V0が不変であるという仮定からjの値が決まります。

V0 = Integral(E(z), [z, 0, +∞]) = j * Integral(1/σ(z), [z, 0, +∞]) = j * R

ここで R = Integral(1/σ(z), [z, 0, +∞]) は全気柱抵抗です。

∴ j = V0 / R

*3) 電荷密度分布ρ(z)はガウスの法則で決まります。今は1次元の問題を考えているので

-dE(z)/dz = ρ(z)/ε0

となります。(慣例にしたがって、大気電場E(z)の正の向きを下向き(z軸の負の向き)に選んでいます。)

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