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2.球形雲の内部と周囲の大気電場および電荷分布

前回の記事では、上空一面に薄く広がった雲がある場合の大気電場と電荷分布を扱いました。

雲の内部は周囲の大気より電気伝導度が小さいので、雲は上空から地表へと向かう空地電流(大気イオン流)を妨げます。そのため、雲の上部に正電荷が、下部に負電荷が集積します。 雲内部の電場は強められて外部の数倍から数十倍の大きさになることがわかりました。

しかし実際には、雲はびっしりと薄く広がっているとは限りません。途切れていたり孤立しているケースもあります。そうした場合には、空地電流の一部は雲を避けて流れるため、雲の上部と下部に現れる電荷も小さく、内部の電場の強まり具合も小さくなるはずです。

今回の記事では、厳密な計算ができる孤立した球形の雲の場合に、内部と周囲の電場がそれぞれどうなるか、また、雲の表面に現れる電荷はどうなるか、を考えます。


考える状況---孤立した球形の雲

半径R=1km の球形の雲が、鉛直下向きの一様な大気電場(大きさE0=50V/m)の中にある状況を考えます。簡単のため、外部の大気の電気伝導度はσ0、雲内部の電気伝導度はσ1で、いずれも一定(空間的に一定)であるとします(*1)。

Sphere_expla
図1

雲がなければ、次の図2に示すように、電場は一様で等電位面は等間隔です。鉛直下向きの一様な空地電流が流れています。

K10
図2 雲がない場合の電位分布

雲があると、空地電流の一部は雲を避けて流れます。雲の表面に電荷分布が現れ、そのため雲内部や周囲の電場も変わります。その様子は、オームの法則(j=σE)と電荷保存則(∇・j=0)から計算できます(*2)。


希薄な球形雲(k=0.5)の場合

雲の内部と外部の電気伝導度の比k=σ10が0.5の場合の等電位面(線)を、球形雲の中心を通る鉛直断面で見たのが図3です。

K05
図3 希薄な球形雲の電位分布

電場や空地電流の向きは、その場所での等電位線に垂直です。雲の周囲では空地電流の一部は、雲をさけるように(回り込むように)流れることがわかります。すぐあとで示しますが、雲の周囲の電場や電流の分布が少し変わったのは、雲の上面には一定量の正電荷が、下面には負電荷が現れるからです。

雲の内部の電場は下向きで一様な強さであることがわかります。等電位面の間隔が外部より狭くなっていることから、内部の電場の強さは、外部より強いことがわかります。

(注2で計算を示しますが、この場合には内部の電場は外部の1.2倍、一般には3/(2+k)倍になります。)


濃い球形雲(k=0.0)の場合

雲が濃いと、ほとんどの大気イオンが雲粒(エアロゾル)に取り込まれ、電場から力を受けてもほとんど動かなくなります。その結果、雲内の電気伝導度が小さくなります。

雲内の電気伝導度が外部と比べて小さくなるほど、雲の周囲の電場や空地電流の乱れも大きくなります。そこで、電気伝導度が事実上ゼロとみなせる濃い雲の場合(k=0.0)を見てみます。図4は、図3と同様な等電位面を描いたものです。

K00
図4 濃い球形雲の電位分布

k=0.5の場合と比べて、雲内の等電位線は狭く(電場は強く)なっています。周囲の電場の乱れも大きくなっています。

雲内部の電場は一様で、外部の電場のちょうど1.5倍になります。

雲の上側および下側の電場は弱くなっています。図からはわかりにくいのですが、雲の最上部(北極点)と最下部(南極点)のすぐ外側では、電場はゼロです。

このことから、北極付近の雲表面には正の面電荷が、南極付近には負の面電荷が現れていることがわかります。

たとえば北極点を考えてみますと、すぐ外側(上側)の電場はゼロ、すぐ内側(下側)の電場は下向きなので、電気力線は北極点から流れ出しています。これは北極点に正の電荷があることを示します(ガウスの法則)。


雲表面の面電荷分布---濃い球形雲(k=0.0)の場合

図5は、濃い球形雲(k=0.0)の雲表面の面電荷分布をガウスの法則から計算したものです。

Charge_density
図5

上半球面には正の面電荷が、下半球面には負の面電荷が現れることがわかります。

   *

このように、孤立した球形雲があると空地電流のために表面に電荷が現れて、雲内部の電場は外部の大気電場より強くなります。雲が濃いほど、すなわち、雲の電気伝導度が小さいほど電場は強くなります。しかし、電場の強さは最大でも外部の1.5倍です。薄く広がった雲の場合のように、数倍、数十倍になったりはしません。その理由は、孤立した雲の場合には、空地電流の一部が雲を避けて外側を流れることができるからです。


次回の予定

今回の記事では地面の影響は考えませんでしたが、実際にはこのような静電的な状況では大地は導体と見なせるので、地表の存在を考慮して問題を扱う必要があります。

次回は、球形雲が上空を通過した場合に地表の大気電場にどのような変動が起きるかを考察する予定です。では。

------

*1) 実際には、大気の電気伝導度は上空へ行くと指数関数的に増大し、大気電場は指数関数的に減少します。今回の記事で電気伝導度や大気電場を一定と仮定しているのは、厳密に解けるモデルを考えることで、「孤立雲の大気電場への影響」という現象を定性的に理解するためです。

*2) まず、雲の内部と外部で電気伝導度σが一定なので、それぞれの領域で電位φ=φ(x,y,z)がラプラス方程式 ∇2φ = 0 を満たすことに注意します。

(この事実は次のようにしてわかります。電流密度jは j = σ E = -σ∇φ (ここで E = -∇φ は電場)ですが、電流が定常的と仮定すると、電荷保存の式より ∇・j = 0 です。ここでσが一定であることを使うと、 ∇2φ = 0 が得られます。)

次に境界条件を考えます。雲の内部の電位をφ1、外部の電位をφ0とします。電位の連続性より、

φ1 = φ0 (雲の表面において)

でなければなりません。また、雲の表面を通る電流の連続性(電荷の保存)より

σ1∂φ1/∂n = σ0∂φ0/∂n (雲の表面において)

が成り立ちます(∂/∂n は雲表面の単位法線方向への微分を表します)。これらが境界条件になります。

半径Rの球形雲の中心を原点とする球面極座標(r,θ,Φ)をとると、ラプラス方程式の一般解で軸対称なもの(角度Φによらないもの)は

Eq1_2

と書けます。ここで AnとBnは係数、Pn(t)はn次のルジャンドル多項式です。

(和をn=0ではなく、n=1から始めた理由を説明しておきます。まず A0 は電位の基準点をずらすことに対応するので A0 = 0 とおいても一般性を失いません。また、 B0 はポテンシャルのうち距離に反比例する部分の係数、つまり全電荷を表しています。雲が全体として帯電していないならば、B0=0 です。今回は考察しませんが、もし全体として帯電している雲を考えるならば、B0≠0 としなければなりません。)

さて、雲の内部(r<R)で電位が発散してはいけない(有限でなければならない)ので、係数 Bn はゼロとおくべきです。そこで雲の内部の電位φ1を一般に

Eq2_2

と書くことができます(anは係数)。

また、雲の外部(r>R)では遠方(rが大)へ行くと電位は φ=E0 z = E0 r cosθ = E0 r P1(cosθ) (一様電場に相当)に漸近しなければなりません。このことより雲の外部の電位φ0を一般に

Eq3_2

と書くことができます(bnは係数)。

あとは、これらを境界条件に代入してルジャンドル多項式の直交性を使うと、係数an, bnについての連立方程式が得られ、それを解けば内外の電位が求まります。a1とb1だけがゼロでなく、n>1のすべての係数は消えます。

電位は次のようになります。(kは本文で定義した、内外の電気伝導度の比k=σ10です。)

内部の電位:
Eq4_2

外部の電位:
Eq5

球形雲表面(r=R)での面電荷密度ρは、ガウスの法則から次のように求まります。
Eq6

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