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3.低い球形雲の周囲の大気電場と電荷分布

前回の記事では地面の影響を考えずに、孤立した球形の雲周囲の大気電場について考えました。

実際にはこのような静電的な状況では大地は導体と見なせるので、地表面の存在を考慮して問題を扱う必要があります。

今回は、球形雲が上空を通過した場合に大気電場にどのような変動が起きるか、を地面の影響を含めて考察します。

   *

本題に入る前に、どうしてこんな問題を考えるのか、という動機を説明します。大気電場の地表での測定値は、柿岡地磁気観測所の観測データなどを見ても、けっこう小刻みに変動するようです。(リンク先のページで「空中電気」を選択して「表示」ボタンを押すと指定した日時のデータが表示されます。) 例として2011年5月21日の日変化のグラフを引用します。

Kakioka

どうして地表での大気電場のグラフはこんなにケバケバなの? 小刻みに変動するの? というのがWSの素朴な疑問です。

ある地表の観測地点での大気電場に影響する要因には、いろいろあり得ます。大きな要因は

a. 地表面と電離層の間の電位差(+)
b. 観測地点から電離層までの全気柱抵抗(ー)
c. 観測地点付近の低高度での局所的気柱抵抗(+)
d. 観測地点上空の大気イオン正味電荷(+)

などでしょう。(末尾に添えた符号は、各要因が観測される大気電場を強めるか弱めるかを示します。)

このうち、a.とb.は、ゆっくりとした大気電場の変動には影響しても、上記のグラフのような小刻みな変動の要因とは考えにくいように思えます。この点は、水平方向に数十キロメートルほど離れた複数地点での大気電場の、時間分解能の高い同時観測ができれば明らかになるでしょう。

また、d.は、上空に正に帯電した空気塊がやってくれば地表では下向きの大気電場が強まり、負に帯電した空気塊がやってくれば大気電場は弱まる、という当たり前のことを言っているわけです。でも、そんな電荷密度のゆらぎが実際に、たとえば晴天時の大気中に存在しているのだろうか、という疑問があります。(火山灰には遠距離でも正に帯電しているものがあるらしく、昨年のアイスランドの火山の噴火時に興味あるデータが得られたみたいですが。参考pdf

それでWSとしては、d.も否定できないが、c.の可能性が一番大きいと思っています。

大気イオンを吸着する空気中のエアロゾルの量によって空気の電気伝導度は変わってくる。観測地点の上空には、伝導度の異なるさまざまな大きさの空気塊が存在していて、それらが観測地点の上空を通過することにより、地表での大気電場の小刻みな変動がもたらされているのではないだろうか、という仮説がc.です。

c.とd.のいずれが地表での大気電場の小刻みな変動をもたらしているのか。これを上で引用した日変化のグラフから、なんとか統計的に読みとれないものだろうか、と思案しています。

解明の手がかりになるかも知れない(ならない可能性もありますが)と期待して、低い球形雲が通過するときの大気電場の変動を、今回の記事で考察しています。


考える状況---地表面からある高さに浮かぶ球形の雲

考える状況は前回の記事の場合とほとんど同じです。 大地(導体)の存在を考えるところだけが違います。地表面の曲率は無視し、平面であると仮定します。

Situation
図1

半径R=1km の球形の雲が、鉛直下向きの(遠方では)一様な大気電場(大きさE0=50V/m)の中にあります。 雲の中心の高度はHです(はじめはH=2kmとしますが、あとで違った高度の場合も扱います)。雲の半径はつねにR=1km とし、それ以外の場合は考えません。

簡単のため、外部の大気の電気伝導度はσ0で一定であるとします。また、雲内部の電気伝導度はσ1=0で、雲は全く電流を流さない、と仮定します。

この最後の仮定について説明しておきます。 前回の記事では、内外の電気伝導度の比をk=σ10 とおき、いくつかのkの値について考察しました。その結果から、kの値が0.1, 0.01, 0.001と0に近づくと孤立雲周辺の大気電場は、ほとんど変わらなくなることを知っています。それで、今回は計算を簡単にするためにk=0と仮定することにします。


等電位面の様子(H=2kmの場合)

前回の記事の場合と同様に、空地電流は雲を避けて流れます。雲の表面に電荷分布が現れ、そのため雲内部や周囲の電場も変わります。その様子を、大地(導体)の存在を考慮して、オームの法則(j=σE)と電荷保存則(∇・j=0)から計算しました(*1)。

次の図は、等電位面(線)の様子を、雲の中心を通る鉛直面内でみたものです。

Contour
図2

雲の内部では等電位面の間隔が狭くなっています。これは雲の内部では外部より電場が強くなっていることを示します。

地表の電位はどこでもゼロです。


電場の鉛直下向き成分の様子(H=2kmの場合)

次の図は、雲の中心を通る鉛直面内での電場の鉛直下向き成分の大きさを、色の濃淡で表したものです。

Ez2km1
図3

雲の内部と左右で下向きの電場が大きく、上下で小さくなっていることがわかります。(雲の「南極」付近に白いマルが2つあるのは、雲表面で電場が急激に変化しているためにグラフ描画時に生じた計算上のノイズです。)

次の図は、電場が急激に変化している雲内部と雲近傍を隠して、雲から少し離れたところの電場の様子を描いたものです。

Ez2km2
図4

雲の左右に電場の大きい領域が、雲の上下に電場の小さな領域が広がっています。雲の上側と下側を比べると、地表面に近い下側のほうがやや、電場の弱い領域が広くなっています。そのわけは、上下の違いがもっと明瞭に見られるH=1.5kmの場合の図をあとでお見せする際に説明します。


電場のグラフ(H=2kmの場合)

次の図は、上の濃淡図で見た電場の様子をグラフで示したものです。 球形雲の中心からさまざまな距離xにある鉛直線上の電場の下向きの成分を横軸に、地表面からの高度を縦軸にとっています。

Ezfield
図5

雲の内部では電場は約75V/mで、外部遠方(50V/m)の約1.5倍となっています。

雲の外部の電場については、北極と南極付近の電場は弱く、雲の左右で電場は強く(75V/mに近く)なっています。雲から離れると電場は外部の値50V/mに近づきます。距離xが2km(雲の半径の2倍)になると、電場はほぼ50V/mであまり変化せず、最大でも50V/mから数パーセントしか変動しません。

雲外部の電場の一様電場からのずれは、基本的には電気双極子が作る場と同じです。電位のずれは雲からの距離の2乗に、電場のずれは距離の3乗に反比例して減少します。

雲の上側と下側の電場の様子は少し違います。雲の上下では電場は弱くなっていますが、弱い部分の広がりは下側のほうが上側より広くなっています。地面の影響です。


さらに低い雲の電場(H=1.5kmの場合)

雲の上下の電場の違いは、高度の低い雲で顕著になります。次の図は、高度H=1.5kmの雲の場合です。電場の鉛直下向き成分の大きさを濃淡図で示しています。

Ez15km1
図6

同じ状況で、雲の表面付近の電場変動の激しい部分を隠して、周囲の電場の様子を示したのが次の図です。

Ez15km2
図7

電場の弱い部分(青から紫色)が雲の下部から地面に向かって大きく広がっていることがわかります。雲の南極付近には、北極付近にくらべて電場の弱い部分が大きく広がっています。地面の効果です。

地表面と雲ではさまれた領域で電場が弱いのは、雲下部に現れた負電荷とそれが地表面に誘導する正電荷との間に上向きの電場が生じて、その分だけ外部からの下向きの電場が弱くなるからです。


雲表面の電荷分布

こうした、雲周囲の電場の乱れは、雲の表面に現れた面電荷(と、それが地表面に誘導する電荷)が作りだしています。次の図は、雲表面の面電荷密度の分布を、雲高度Hのいくつかの値について示したものです。

Rho1
図8

高度Hによる違いはほとんどありません。電荷分布のおおまかな様子は前回の記事で示した図とほとんど変わりないということです。

雲の北極付近には正電荷が、南極付近には負電荷が現れること。また、細かく見ると、現れる電荷の大きさは雲の高度が低いほど(わずかですが)小さくなることがわかります。地面の効果です。

この、雲の高度による違いを強調するために、地面がない場合に現れる面電荷密度との差だけを示したのが次の図です。

Rho2
図9

たとえば赤い曲線(H=1.25kmの場合)を見ますと、北極付近で -40pC/m2 となっています。 これは地面がないときに現れる正の面電荷密度(+664pC/m2、図8参照)より 40pC/m2 だけ少ない正電荷(+624pC/m2)が、H=1.25kmの場合に北極付近に現れることを示しています。

雲の高度が低いほど、雲表面に現れる電荷の量が減る理由は、空地電流(大気イオン流)の流れを考えるとわかります。

上空から地面に向かって流れる空地電流は、電気伝導度の小さい雲を避けるように回り込んで流れます。高度の高い雲の場合、上空から降りてきて雲を避けた空地電流は、雲を通り過ぎた後でもとの軌道に戻ってから地面へと進みます。しかし、低い雲の場合には、もとの軌道に戻る必要はなく、そのまま地面へと流れ込むことが可能です。その分だけ、電流の通り道を曲げる面電荷も少なくて済みます。


次回の予定

前回と今回は、厳密に(あるいはほぼ厳密に)解くことのできる球形の雲を考えました。次回は、厳密解が存在するもう1つの例として、うすい円盤状の雲のケースを考えてみる予定です。

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*1) 球形雲 x2 + y2 + (z-H)2 <= R2 の外側の大気中(z > 0)で電位 φ=φ(x,y,z) がラプラス方程式 ∇2φ = 0 を満たすことと、遠方で電位が一様電場の電位 φ = E0 z に漸近する点は前回と同じです。

前回との違いは地面の存在です。大地を導体と見なすので地面の電位はゼロで一定であると仮定します。

φ(x,y,z=0) = 0

また、今回は雲の電気電導率をゼロと見なすので、雲の外表面(球面)で電流と電場は表面に平行になります。つまり、外部の電位は球面上でノイマン境界条件を満たします。

∂φ/∂n = 0

この境界条件と遠方での漸近形を満たすラプラス方程式の解が、求めたい外部の電位です。

(ひとたび外部の電位がわかれば、雲内部の電位も簡単に求めることができます。内部の電位もラプラス方程式の解ですが、それは、外部の電位が決まれば表面での連続性の条件から決めることができるからです。)

解法は鏡像法を用います。求めたい外部の電位φは

φ(x,y,z) = E0 z + ψ(x,y,z-H) - ψ(x,y,-z-H) ... ☆

と表すことができるはずです。ここで右辺第1項 E0 z は外部からの一様電場の電位を表し、第2項 ψ(x,y,z-H) は球形雲表面に現れた面電荷が作る電位を表し、第3項 ψ(x,y,-z-H) は球形雲表面の面電荷に誘導された地表面の電荷が作る電位を表します。

電位φを上式のように表現することで、地表面での境界条件(φ=0)が自動的に満たされます(鏡像法)。

そこでψを求めたいわけですが、ψの物理的意味は表面電荷が外部に作る電位なので、遠方ではゼロに近づくはずです。よって、ψをラプラス方程式の軸対称な解と仮定すると、

Eq1_2

とおくことができます(式☆☆とします)。ただし、ここでは球面極座標(r,θ,Φ)

x = r sinθ cosΦ
y = r sinθ sinΦ
w = r cosθ = z - H

を使ってψを表現しました。和をn=1から始めたのは雲が全体としては帯電していないと仮定しているからです。(もし、面電荷の総和がゼロでない、全体として帯電した雲を考えるならば、和はn=0から始めなければなりません。)

あとは式☆を球面でのノイマン境界条件に代入してやると原理的には係数 bn たちが決まります。でも計算はけっこう大変です。

簡単に述べますと、まず、r=Rでの境界条件を使える形に式変形しなければなりません。そのために式☆の右辺の第三項ψ(x,y,-z-H)すなわちψ(x,y,-w-2H)を、式☆☆と同様な、球面関数で展開した形に直してやります。結果は(r < 2H のとき)

Eq2_2

となります(*2)。なんだかごちゃごちゃしていますが、あらたな係数 Aj たちが係数 bn たちの線型結合になっている点に注意して下さい。

これを球面 r=R でのノイマン条件に代入してルジャンドル多項式の直交性を使うと、係数の無限列 b = (b1, b2, b3, ...) についての線型の方程式が得られます。

WSにはこれを解析的に解くことができなかったので、この線型の方程式を有限次元の連立方程式で近似して数値的に求めました。つまり、ある自然数Nをとって

bN+1 = bN+2 = bN+3 = ... = 0

とおく近似をおこなって、残りの係数 bn たちを数値的に求めました。今回の記事の本文では N=10 として計算した結果を示しています。

ひとたび係数 bn たちや Aj たちが求まれば、電位の連続性から雲内部の電位が、ガウスの法則から面電荷密度ρが、それぞれ容易に求まります。

雲内部の電位:
Eq5

雲表面の電荷密度
Eq4

*2) このあたりの計算は、対称軸(z軸)上の場の値から展開係数を決める、というテクニックで省力化できます。Jacksonの電磁気学の教科書などに書かれています。

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