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4.雲の形と周囲の大気電場

前回と前々回の記事では球形の(おだやかな)雲の周囲の大気電場について考えました。

雲の内部は電気伝導度が小さいため、上空から地表へと向かう空地電流は雲を迂回して流れ、雲の上面には正電荷が、下面には負電荷が現れます。球形雲の内部の電場は外部の約1.5倍に強められ、雲の外部遠方では双極子的な電場が大気電場につけ加わることがわかりました。

でも、実際には雲は球形とは限りません。平べったい雲と背の高い雲では、どちらが周囲の大気電場をより大きく乱すのだろうか。そんな疑問がわいてきます。

今回は、球形でない雲を考えます。 知りたいのは、雲の形状によって周囲の電場がどのように変わるか、ということです。

いろいろ試行錯誤してみると、回転だ円体形の雲の場合には厳密に解けることがわかりました(*3)。その考察の結果を紹介します。

なお、記事では簡単に「雲」と書いていますが、ここでは「大気中の空気の塊で、周囲より電気伝導度が小さいもの」を「雲」と呼んでいるとお考え下さい。たとえば、エアロゾルに富んだ空気塊は、たとえそれが肉眼では雲に見えなくても、この定義では立派な「雲」です。

   *

考える状況---回転だ円体の形の雲

回転だ円体の形の雲(だ円体雲)が鉛直下向きの(遠方では)一様な大気電場(大きさE0=50V/m)の中にあります(*1)。地面の影響は考えません。

Situ
図1

だ円体の回転軸は中心を通る鉛直線です。雲の半径は、水平方向にR、鉛直方向にτRであるとします。以下ではおもにR=1kmの場合を考えます。

τ=1のとき雲は球形です。0<τ<1のとき雲は横長のだ円体で、τ>1のときは縦長のだ円体です。

簡単のため、外部の大気の電気伝導度はσ0で一定であるとします。また、雲内部の電気伝導度はσ1=0で、雲は全く電流を流さない、と仮定します(この仮定の妥当性については前回の記事を参照)(*2)。


まず、縦長の雲(背の高い雲)の周囲の電場を見てみましょう。


等電位面の様子(縦長だ円体雲の場合)

次の図は、縦長だ円体雲のまわりの等電位面(線)を、雲の中心を通る鉛直面内でみたものです。雲の水平半径は1km、鉛直半径は3kmです。(τ=3)

Cont_tate
図2

雲の内部では等電位面の間隔が外部よりわずかに狭くなっています。これは雲の内部では外部より電場が強くなっていることを示します。だ円体雲内部の電場は、球形雲の場合と同じく一様です。

外部の電場も雲の影響を受けています。


電場の鉛直下向き成分の様子(縦長のだ円体雲の場合)

図2と同じ鉛直面内で、電場の鉛直下向き成分の大きさを色の濃淡で表したものが次の図です。

Ez_tate
図3

雲の内部と左右で下向きの電場が大きく、上下で小さくなっていることがわかります。 雲の上下(「北極」と「南極」近くの外部)の部分が白く欠けているのは、この付近の電場がほとんどゼロになっているためです。


次に横に広がった雲の周囲の電場を見てみます。


等電位面の様子(横長だ円体雲の場合)

次の図は、横長だ円体雲のまわりの等電位面(線)を、雲の中心を通る鉛直面内でみたものです。雲の水平半径は1km、鉛直半径は0.33kmです。(τ=1/3)

Cont_yoko
図4

雲の内部では等電位面の間隔が外部より著しく狭くなっています。これは雲の内部では外部に比べて電場が非常に強くなっていることを示します。だ円体雲内部の電場はやはり一様です。

外部の電場も雲の影響を強く受けています。


電場の鉛直下向き成分の様子(横長だ円体雲の場合)

図4と同じ鉛直面内で、電場の鉛直下向き成分の大きさを色の濃淡で表したものが次の図です。

Ez_yoko
図5

雲の内部と左右で下向きの電場が大きく、上下で小さくなっていることがわかります。 雲のすぐ上下(「北極」と「南極」近くの外部)の電場はほとんどゼロです。 雲内部の電場は外部遠方に比べて非常に強くなることがわかります。

縦長の雲より横長の雲のほうが周囲の電場に大きく影響する理由は、後者の場合には空地電流が雲をより大きく迂回して流れなければならないからです。

実はτ=+0の無限に薄い雲(すなわち円盤状の雲)でも、電場への影響は消えません。この場合、雲内部の電場はいくらでも大きくなり、雲の「北極」と「南極」の電位差Vは

V = (4/π) E0 R

になります。


雲の形状と遠方の双極子電場の強さ

縦長の雲より横長の雲のほうが周囲の電場に与える影響が大きいことがわかりましたが、その違いを定量的に見てみます。

一様な電場中におかれただ円体雲には表面電荷が生じます。この表面電荷が周囲に作り出す電位φは、遠方では電気双極子が作る電位のように振る舞います。その双極子の強さをpとすれば

φ ≒ pz/r3

です(rは距離、zは鉛直座標)。この双極子の強さpは、だ円体雲の水平半径と鉛直半径(と外部電場)で決まりますが、その様子を濃淡図で描いたのが次の図です。

Dipole
図6

双極子の強さpは、半径1kmの球形雲の双極子の強さ(=1/2 E0 R3)を1として規格化して示しています。

色の濃淡はpの常用対数に対応しています。たとえば、2ならばp=100で、-3ならばp=0.001を意味します。

図を見ると、右下の部分(横長の雲)と左上の部分(縦長の雲)で違いがあります。

右下の部分(横長の雲)では、双極子の強さpは雲の水平半径が増えるほど大きくなりますが、雲の鉛直半径にはほとんどよりません。

左上の部分(縦長の雲)では、pはどちらの半径に対しても増加関数ですが、水平半径のほうにより強く反応して変わります。

こうした特徴は、図6と同じ図を等値線で書き直した次の図からも明瞭に読みとれます。

Cont_dipole
図6

詳しく計算すると、水平半径がR、鉛直半径がτRの縦長だ円体雲(τ≫1)の場合、

p≒1/3 E0 R3 τ

となり、pは半径比τに比例して増えることがわかります。

また、水平半径がsR、鉛直半径がRの横長だ円体雲(s≫1)の場合、

p≒2/(3π) E0 (sR)3

となり、pは半径比sの3乗に比例して急激に増えることがわかります。

つまり、横長の雲は縦長の雲より大気電場や空地電流を大きく乱します。


次回の予定

これまでは簡単のため外部遠方の大気電場は一様であると仮定してきました。次回は、大気電場が上空ほど弱くなることを考慮して、雲周囲の電場を考えてみる予定です。

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*1) 実際の大気電場は上空へ行くほど高度とともに指数関数的に弱くなります。しかし、ここでは厳密に解けるモデルを考えたいので単純化して、外部遠方の大気電場を一定であると仮定します。大気電場が高度に依存するケースについては次回の記事で扱います。

*2) ここでは雲内部の電気伝導度をゼロと仮定しています。しかし、雲内部の電気伝導度がゼロでなくても、一定値であるならば、第2回の球形雲のケースと同様にして厳密に解けます。

*3) だ円を長軸のまわりに回転させてできる面を長球面、短軸のまわりに回転させてできる面を扁球面と呼ぶそうです。

長球面座標、扁球面座標という直交座標系があって、それぞれ順に、今回の記事での縦長だ円体雲、横長だ円体雲の問題を解くのに使うことができます。

たとえば、長球面座標(u,v,φ)は

x = a sinh(u)sin(v)cos(φ)
y = a sinh(u)sin(v)sin(φ)
z = a cosh(u)cos(v)

となる座標系です。定数aは雲の形状(だ円の形)で決めます。

これらの座標系ではラプラス方程式が変数分離できるので、第2回の記事で扱った球形雲の場合(これは球面極座標で解きました)とほとんど並行に議論を進めることができます。

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