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6.風に流される空気塊(双極子)と地表大気電場変動

地表大気電場は、晴れた穏やかな日であっても小刻みに大きく変動しています。たとえば次の図のように。

Kakioka20101103
図1 柿岡地磁気観測所。2010年11月3日地表大気電場

どうしてこんなに激しく変動するのだろう?というのがWSの疑問です。それを解明すべく仮説を立てて、ここ数回の記事で予備的な考察をしてきました。

いま頭の中にある仮説を3つほど挙げてみます。

<電気伝導度仮説>
 (下の図2を参照)大気中にはエアロゾルに富んだ部分(電気伝導度が小さい塊)とエアロゾルが少ない部分(電気伝導度が大きい塊)が多数あり、それらが外部大気電場内にあるために電気双極子になっている。こうした電気双極子たちが風に流されて上空を次々に通過するので、地表大気電場が小刻みに変動する。

<電荷密度仮説>
 大気中にはプラスに帯電した部分とマイナスに帯電した部分が多数ある。こうした帯電空気塊たちが風に流されて上空を次々に通過するので、地表大気電場が小刻みに変動する。

<大気振動仮説>
 大気電場は地表に近づくほど強いので、(ガウスの法則を考えるとわかるように)大気は全体としてプラスに帯電しているが、その電荷密度は地表近くのほうが大きい。安定度の高い大気では、ある地点に地表付近の空気が集まったり離れたりするような振動(ブラント・バイサラ振動)がおきるので、その空気振動にともなって電荷が運ばれ、地表大気電場が変動する。

で、今回は、最初に挙げた<電気伝導度仮説>でどの程度、地表大気電場の変動が説明できるのかを考察します。


電気伝導度仮説(空気塊双極子移流モデル)とは

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図2 空気塊双極子移流モデル

大気中に、電気を通しやすい空気塊や通しにくい空気塊が散在しているとすると、そうした塊の表面に電荷分布が生じて、遠方から見ると電気双極子のようになります。

こうした空気塊が風に流されて観測地点の上空を次々と通りすぎていくので、地表での大気電場が変動する、というのが今回の記事で検討する仮説です。


風速の高度分布(仮定するモデル)

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図3 風速の高度分布(仮定するモデル)

地表近くでの平均風速は東向き(+x方向)であると仮定し、高度10mでの風速が5m/sであるとします。

上空へ行くほど風速は増し、高度100mくらいから高度2kmくらいまでは風向も回転します。

高度2kmくらいから上では平均風速でおよそ9m/sの東南東向きの風が吹いていると仮定します。

平均風速がこのような高度分布になるのは、上空では気圧傾度力とコリオリ力の釣り合いが風向を決める(地衡風)のに対し、地表付近ではそれらに加えてまさつ力の効果があるために、上空とは風向が変わるからです。

あと、図3に描いたのは平均風速の高度分布ですが、実際の風速は平均風速を中心としてゆらいでいます(乱流)。今回はこの乱流によるゆらぎの効果は無視することにします。風はつねに水平方向に吹くものとし、風速の鉛直成分はゼロであるとします。


電気伝導度の小さな空気塊たちが流れる場合の大気電場変動

次に示す図は、電気伝導度が周囲の0.5倍の球形の空気塊たち(半径1km)が流れる場合の大気電場変動の計算結果です。

大気の電気伝導度は σ=σ0 exp(z/(4km)) と高度zの指数関数であると仮定します。また、空気塊と周囲の電気伝導度は同じ高度で比較するものとします。

地面に、幅と奥行きがともに40km、高さが10kmの直方体をおき、その中に空気塊たちをはみ出ないようにランダムに配置し、図3で示す風速で流した場合の、箱の底面中心における大気電場変動をグラフに示しました。幅と奥行きの方向には周期境界条件をおいています。

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図4 電気伝導度が周囲の0.5倍の空気塊たち(半径1km)が流れる場合の大気電場変動(モデルによる計算結果)

グラフの横軸は全体で1日(1440分)です。最初の1時間分だけ拡大表示しています。

空気塊の数(密度)は、大気電場変動の標準偏差が約8V/mとなるように定めました。

期待通り、小刻みな変動がみられます。

でも、平均的な電場80V/mを大きく越えることは少ないのに、80V/mを大きく下回ることは多いようです。こうしたゆらぎの非対称性は、図1の柿岡の観測データには見られないものです。

この点を改善するために、電気伝導度の小さな空気塊だけでなく、電気伝導度の大きな空気塊も混じっているとして、計算し直してみます。


電気伝導度の小さな空気塊たちと電気伝導度の大きな空気塊たちが混じって流れる場合の大気電場変動

Radius10
図5 半径1kmの空気塊たち(電気伝導度は周囲の0.50倍と1.75倍、ほぼ同数)が流れる場合の大気電場変動(モデルによる計算結果)

今度はゆらぎの非対称性はほぼなくなったようです。

次に、空気塊の半径を変えて調べてみます。最初に少し小さな空気塊たち(半径0.5km)が流れる場合です。


半径0.5kmの空気塊たちが流れる場合の大気電場変動

Radius05
図6 半径0.5kmの空気塊たち(電気伝導度は周囲の0.50倍と1.75倍、ほぼ同数)が流れる場合の大気電場変動(モデルによる計算結果)

変動がより小刻みになりました。
(空気塊の数(密度)は大気電場変動の標準偏差が約4V/mとなるように決めています。8V/mに揃えたかったのですが、たいへん数が増えて計算量が多くなってしまうので。)

次により大きな空気塊たち(半径2.0km)が流れる場合です。


半径2.0kmの空気塊たちが流れる場合の大気電場変動

Radius20
図7 半径2.0kmの空気塊たち(電気伝導度は周囲の0.50倍と1.75倍、ほぼ同数)が流れる場合の大気電場変動(モデルによる計算結果)

変動は(小さな半径の場合と比較すれば)ゆったりしています。

こんな具合に見てくると、空気塊たちの電気伝導度や半径の分布をうまく仮定すれば、柿岡の観測データに近い時系列を作り出すことも可能ではないだろうか、と思えてきます。

そこで、3種類の半径をもつ空気塊が混じって流れる場合を計算してみました。


3種の半径の空気塊たちが流れる場合の大気電場変動

Radius_mixed
図8 3種の半径の空気塊たち(電気伝導度は周囲の0.50倍と1.75倍、ほぼ同数)が混じって流れる場合の大気電場変動(モデルによる計算結果)

計算結果には、ゆったりとした変動と小刻みな変動が混じってあらわれています。

次に、空気塊の電気伝導度の周囲からのずれを少し小さくして計算してみました。

Radius_mixed2
図9 3種の半径の空気塊たち(電気伝導度が周囲の0.70倍と1.30倍)が混じって流れる場合の大気電場変動(モデルによる計算結果)

ゆったりとした変動と小刻みな変動が混じってあらわれている点は図8と同様ですが、大気電場変動の振幅が小さくなりました。

   *

こんな具合にいくらでも観測データに似せたグラフは作れますが、これを続けてもキリがないことは明らかです。

空気塊の電気伝導度や大きさ(半径)の分布を決めるパラメータは非常に多いので、うまくやれば似たグラフはできてしまうでしょう。

小刻みな地表大気電場変動の発生原因として、<電気伝導度仮説>、<電荷密度仮説>、<大気振動仮説>のいずれが正しいのか。それを判定できるような特徴を、観測データから見つける必要があります。

観測データのパワースペクトルからそれを判定できるのではないか、というアイデアをいま検討しています。うまくいけば、次回はそれについて書いてみる予定です。

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