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7.地表大気電場のパワースペクトルと電場変動の原因(1)

晴れた日に地表大気電場が小刻みに変動するのはなぜか、という話の続きです。

今回は、地表の1観測点での大気電場時系列のパワースペクトルを見れば電場変動の原因がわかる、というアイデアについて考察します。測定データを扱うのではなくて、まずは理論的に調べます。


考察する時系列2つ

素材として、2つの大気電場時系列(モデルによる計算値)をとりあげます。

1つは帯電空気塊たちが上空の風で流されて生じる大気電場の時系列で、もう1つは周囲と電気伝導度の異なる空気塊たちが上空の風で流されて生じる大気電場の時系列です。

Efield_time
図1

いずれも前回の記事で説明したものと同様な方法で計算しました。風速の高度分布や箱のサイズ、周期境界条件についての仮定は、前回の記事のものと同じです。

グラフの2つの曲線は似ているようでもあり、違うようでもある。目で判別するのは困難です。そこで両者のパワースペクトルを比較してみます。


2つの時系列のパワースペクトルを比較する

Power
図2

データA(曲線A)のほうは、横軸にとった振動数fが増えるにつれてパワーは徐々に加速しながら下がっていくのに対して、データB(曲線B)のほうは振動数fが小さい領域(左側)ではほとんど一定で、ある振動数(≒0.002Hz)あたりから急激に下がっていくように見えます。

つまり、データAのパワースペクトルのグラフはゆるやかに曲がっているが、データBのそれはほとんど折れ曲がっているということです。

こうした特徴は理論的にうまく説明できるでしょうか?


パワースペクトルの理論値

電荷分布や電導度分布、風速分布があまり簡単ではないので、パワースペクトルの理論値を計算するのは容易ではありません。ここでは思いっきり単純化して、「第0近似での理論値」を求めてみます。

Exp_pt
図3

図3は決まった高度Hの直線上に、たくさんの点電荷がランダムに分布し、地表観測点にクーロンの法則にしたがって電場を作り出している、というモデルです。点電荷は帯電空気塊の理想化です。

電荷が風に流されるにつれ、地表電場も変動します。このモデルによるパワースペクトルの理論値を記号Fで表します。(*1)

Exp_di
図4

図4は決まった高度Hの直線上に、たくさんの電気双極子がランダムに分布し、地表観測点に電場を作り出している、というモデルです。電気双極子は、周囲と電気伝導度が異なる帯電空気塊の上面と下面に、外部大気電場により生じる異符号の面電荷の理想化です。

双極子が風に流されるにつれ、地表電場も変動します。このモデルによるパワースペクトルの理論値を記号Gで表します。(*1続き)


パワースペクトルAは2つの理論のいずれに合致するか

Power_fit1
図5

図5は、パワースペクトルのデータAを、理論FとGでそれぞれフィットしたものです。

理論Fのほうがよく当てはまっています。これは期待どおりの結果です。

点電荷モデルで生み出した時系列Aのパワースペクトルは、(単純化した)点電荷理論によるパワースペクトルの理論値Fのほうにより合致しています。(単純化した)双極子理論によるパワースペクトルの理論値Gにはあまり当てはまりません。(*2)


パワースペクトルBは2つの理論のいずれに合致するか

Power_fit2
図6

図6は、パワースペクトルのデータBを、理論FとGでそれぞれフィットしたものです。

理論Gのほうがよく当てはまっています(差はわずかですが)。これも期待どおりの結果です。

双極子モデルで生み出した時系列Bのパワースペクトルは、(単純化した)双極子理論によるパワースペクトルの理論値Gのほうにより合致しています。

ところで、どうして(データBには当てはまらないはずの)理論Fによるフィットは、理論Gによるフィットとほとんど差がないほど、うまくいっているのでしょうか。

おそらく、データBを生み出した電気双極子たちが、実際には一定高度ではなく、さまざまな高度に分布していることが効いています。理論Gによる曲線はある振動数付近で折れ曲がっていますが、この折れ曲がる振動数は双極子の高度によって違います。さまざまな高度に対応した理論曲線Gが足し合わされる結果、理論Fによるゆったりと曲がった曲線でもそこそこうまくフィットできてしまうのだと思われます。(*3)


結論

というわけで、1地表観測点での大気電場時系列のパワースペクトルの折れ曲がり具合を、理論曲線FまたはGと比較することで、大気電場変動の原因が、風に流される帯電空気塊たちなのか、あるいは、同じく風に流される、周囲と電気伝導度の異なる空気塊たちなのか、を判別できるであろう、というのが今回の記事の結論です。

次回の記事では、実際の大気電場時系列の観測データを用いて、2つの理論曲線F、Gとの比較を実行してみようと考えています。とはいっても、WSは自分で大気電場の計測を行っているわけではありません。インターネット上で入手可能な測定データをこれから探してみようと思います。


乱流、ブラント・バイサラ振動など

気になりながら、考察を後回しにして通りすぎてきたいくつかの点にコメントします。

1つは乱流によるゆらぎのことです。

これまでの記事では空気塊は上空の平均流(10m/s程度)のみによって流されると仮定し、乱流、すなわち、風速の平均流からのゆらぎ(0.5m/s程度)は無視してきました。

乱流の影響を考慮すると、パワースペクトルの、大きい振動数領域での減衰の様子が変わる可能性があります。

上で述べた理論値Fと理論値Gのいずれにおいても、振動数fが大きい領域では、パワーPがfの指数関数を含む f・exp(-2f/f0) の形で減少します。

いっぽう、乱流のエネルギースペクトルは、振動数fのべき乗 f-5/3 に比例して減少します。

乱流による移流を反映して、大気電場時系列のパワースペクトルも振動数fが大きい領域では、振動数fのべき乗に比例して減少する項が相対的に重要になる可能性があります。

もう1つはブラント・バイサラ振動の影響です。この振動は、安定度の高い大気層で生じる力学的な振動です。この振動が生じたときには、地表大気電場のパワースペクトルにも、特定の振動数のところでピークが生じると思われます。

では。

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*1) まず、上空の点電荷たちが作る地表電場のモデルを考えます。簡単のため大気の伝導度は高度によらず一定であるとします。

図3のように、決まった高度Hの直線上(x軸に平行で、x軸の真上)に、たくさんの点電荷がランダムに分布しているとします。地表の座標xにおける電場の鉛直下向き成分 E(x) は

Eq1_2

で与えられます。ここで q1, q2, ...は各々の点電荷の電気量に比例します。f(x)は単位電荷が水平方向にxだけ離れた地表点に作る電場の鉛直下向き成分です。

地表電場 E(x) のフーリエ変換を ^E(k) とします。kは波数です。

Eq2

ここで、点電荷の分布に依存する量 Q(k) を

Eq3

と定めました。

パワースペクトル P(k) は

Eq4

で与えられます。^f(k) は単位電荷が作る電場のフーリエ変換です。また、|Q(k)|2

Eq5

で与えられます。この量は点電荷がランダムに分布しているので簡単には評価できません。しかし、電気量q1, q2, ...も平均値ゼロのまわりに分布するランダムな量であることを考えれば、右辺の和でj≠lなる項はたいていの状況で互いにキャンセルすると期待してよいでしょう。

そこで大胆に、(適切な意味で「平均」をとれば)|Q(k)|2はkによらない定数である、と仮定することにします。

この仮定のもとでは、パワースペクトルの関数形を決めるのは ^f(k) であることになります。

さて、単位電荷が作る電場は

Eq6

なので、そのフーリエ変換は

Eq7

となります。ここで x = Hu と無次元の変数uを導入して、置換積分しました。

p = Hk を変数として表すと、パワースペクトルは次の関数 F(p) で決まります。

Eq8

2行目の近似形は、積分を少し変形したあとで鞍点法で評価したものです。

   *

次に、上空の電気双極子たちが作る地表電場のモデルを考えます。

図4のように、決まった高度Hの直線上(x軸に平行で、x軸の真上)に、たくさんの双極子がランダムに分布しているとします。地表の座標xにおける電場の鉛直下向き成分 E(x) は

Eq9

で与えられます。ここで s1, s2, ...は各々の電気双極子の強さ(符号あり)に比例します。g(x)は単位双極子が水平方向にxだけ離れた地表点に作る電場の鉛直下向き成分です。

Eq10

点電荷の場合と同様に考えていくと、双極子の場合のパワースペクトルは次の関数 G(p) で決まることがわかります。

Eq11


*2) データAのフィットの結果は、理論Fでは点電荷たちは高度H=1kmあたりに分布し、理論Gでは双極子たちは高度H=1.5kmあたりに分布しているというものです。この高度は次のようにして求めました。

図5で、理論Fによるフィットではf0=0.00151Hzとなっています。これは、時系列のパワースペクトルが|F(f/f0)|2に比例するとして、最小2乗法でパラメータf0を求めたものです。(ここでfは振動数です。記号の重複があってごめんなさい。)

このf0の意味を考えます。いまは上空の点電荷たちがv=約10m/sの風で流されてx軸に沿って動いているので、x軸上の電場E=E(x)は時間tが経つとE=E(x-vt)に変化します。つまり、時刻ゼロにおけるx軸上の電場分布は、原点x=0における時間軸上の電場分布と一対一に対応しています。それらのフーリエ変換どうしも対応しています。

f/f0 = p = H・k = H・2πf/v

∴ H = v/(2πf0) ≒ 1054 m

理論Gについても同様にして高度Hが計算できます。


*3) データBのフィットの結果は、理論Fでは点電荷たちは高度H=1.1kmあたりに分布し、理論Gでは双極子たちは高度H=1.7kmあたりに分布しているというものです。

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