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10.地表大気電場(平穏時)の平均的な日変化と季節変動

WSはいま、地震前兆として地表大気電場に「下方スパイク」(持続時間数分〜10分程度)が現れる可能性に関心をもっています。それで、柿岡地磁気観測所で公開されている大気電場データを統計的に調べています。

なにが「下方スパイク」であるのか、を明確に定義しようとしたときに、あらかじめ、通常の大気電場の日変化がどんなものであるか、を知りたいと思いました。

英国における次の研究
A J Bennett and R G Harrison (2007) Atmospheric electricity in different weather conditions
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/wea.97/pdf

のpdfの中にあった興味深い図(Figure3)に触発されて、1年間(2010年1月〜12月)の柿岡における地表大気電場(平穏時(*1)の平均値)の日変化を、季節による違いもわかるように図示してみました(図1)。

(脱線ですが、上記pdfのFigure1に渋いフィールドミルの写真があります。これを見てむしょうに、こんな測定器を自分で作ってみたくなりました。WSには自作の経験も回路技術もないのですが、勉強して時間をかけて経験を積めばいつかできるかも… いくらくらいかかるんだろう?)

Monthly_hourly2010
図1

横軸には1日の時刻をとっています。横軸の目盛は上段が世界時(UTC)、下段が日本時間です。

たて軸には季節をとっています。一番上が1月上旬で、一番下が12月下旬です。

各季節、各時刻の平均的な地表大気電場(平穏時)の大きさは色の濃淡(色調)で示しました。

BennettとHarrisonによる英国の大気電場の季節変化や日変化の説明(上記pdf)も参考にしながら、図1からなにが読み取れるかを考えます。

   *

まず、図の左半分と右半分を比べると、おおむね左半分では電場は小さく、右半分では大きいことが読み取れます。つまり、日本時間の正午から午後にかけて電場は小さく、深夜から明け方にかけて電場は大きくなります。

これには、対流によるエアロゾルの拡散と、それに連動した大気の電導度変化が1番効いていると思われます。

地面が太陽光で暖められて対流が盛んになる正午から午後にかけては、地表付近の汚染物質(エアロゾル)が対流で上空へと拡散するために、大気イオンのエアロゾルへの吸着が減って、地表近くの大気の電気電導度σが大きくなり、したがって地表大気電場Eは小さくなります。(局所的なオームの法則j=σEと、空地電流jがほぼ一定とみなせることによります。)

逆に、地面が冷えて対流が弱まる深夜から明け方にかけては、地表付近のエアロゾルが上空へと拡散しないので、大気イオンがエアロゾルに吸着し、地表近くの大気の電気電導度σが小さくなり、したがって地表大気電場Eは大きくなります。

   *

次に、図1を上から、上部、中部、下部の3つにわけて比べてみますと、上部と下部では大気電場の大きい部分が目立ち、中部では大気電場の小さい部分が目立つことがわかります。つまり、冬期には大気電場が大きく、夏期には小さくなっています。

これも、対流によるエアロゾルの拡散と大気の電気電導度変化で説明できます。

冬期には日射が弱いので対流も弱くなります。正午から午後にかけてのごく短い時間だけエアロゾルが対流で上空へ拡散するので、地表大気電場がその時間帯だけ小さくなりますが、一日の大半の時間は大気電場が大きい状態です。

一方、夏期には対流が強くなります。正午から夜遅くまで長い時間にわたって地表起源のエアロゾルは上空へと拡散し、地表近くの大気の電気電導度が増して、地表大気電場は小さくなります。

つぎに、季節ごとの地表大気電場の日変化を線グラフで見てみます。4月上旬、8月上旬、12月上旬の日変化を描きました。

Season_hour
図2

地表大気電場が最小となる時刻は、12月上旬は日本時間の13時ごろ、4月上旬は16時ごろ、8月上旬は深夜の1時頃となっています。これは、対流によるエアロゾルの上空への拡散の効果がそれぞれピークを迎える時刻なのだと思われます。ただし、8月上旬のデータは、夜間の陸風循環の影響もあるかも知れません。夜に、汚染物質(エアロゾル)をほとんど含まない海上空からの清浄な空気が陸上空へ移動し、それが上空から陸地へ降下してくるので、大気電場が小さくなっている可能性があります。

また、いずれの季節においても、朝の8時から9時にかけて地表大気電場が大きくなっています。これは交通要因と思われます。上記pdfで解説されている英国の事情と同じく、この時間帯は通勤時間帯です。車の排気ガス等による地表付近の高エアロゾル濃度が大きな大気電場をもたらしていると思われます。

夕方4時から5時にかけても大気電場のピーク(小規模ですが)がみられます。これも、通勤時間帯ということで説明が可能かも知れません。

また、UTC19:00前後(日本時間の朝4時前後)は全地球的な雷活動のピークで電離層電位が高いので、地表大気電場も大きくなりやすいはずです。図2をみると、主に冬期のデータにその影響が表れている可能性がありますが、夏期のデータから影響を読み取るのは難しいです。局所要因に覆い隠されてしまっているものと思われます。

   *

今回は以上です。次回は、地表大気電場の「下方スパイク」と地震活動との関係の話か、あるいは、地表付近の大気イオン濃度変動の電離層電子密度への波及について考えてみたいと思います。では。

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*1) 毎日の地表大気電場日変化のグラフ(pngファイル)から、約3分ごとの地表電場の最大値Emax、最小値Emin、平均値Eavをソフト的に読み取ります。このとき2つの条件
・最大値Emaxが正でかつ300V/m未満
・変動比率 (Emax-Emin)/Emax が0.5未満
がともに満たされていた場合に、この約3分間は「平穏時」であった、と呼ぶことにします。

なお、2010年の、3分ごとの大気電場の最大値Emaxの出現頻度分布は次のようになっています。

Max_stat
図3

また、3分間の変動比 (Emax-Emin)/Emax の出現頻度分布は次のようになっています。(変動比が0以上の範囲を図示。)

Ratio_stat
図4

変動比が1のところにやや異常なピークがあります(近傍の値から期待される頻度より5割ほど大きい)。これはおそらくWSが行った画像読み取り処理のノイズです。pngファイルのドットを電場の値に換算する際の四捨五入処理でEmin=0とされるデータ(Emaxが大きいケース)が影響していると思われます。

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