14. T1.地震は夜に多く昼に少ない---太陽が地震活動に影響?
以前の記事で地震電磁気現象についてのNASA Ames研究所のF T Freund博士の講演を紹介しましたが、博士の最近の講演
Living with a Star, Dangerously - Friedemann Freund
http://www.youtube.com/watch?v=Ndj85uAHrPg
がYoutubeにあがっています。 この動画の中で「地球上のどこでも、地震は真夜中に多くて昼間に少ない」という事実が紹介されていて、たいへん驚きました。
太陽が地震活動に影響しているなんて全く信じられない。 影響がありそうな物理プロセスの見当がつかないのですが、日本付近の地震の統計をWSがとってみても、確かにそうなっています。
動画から図を引用します。
図1 オーストリア・アルプスでの時間帯別地震回数(Freund博士の上記講演より)
(クリックで拡大。以下の図も同様)
長年にわたる統計でも、最近の群発地震の統計でも、地震活動の日変化は、夜中に地震が多くて昼間に少ない。ただし正午付近に小さなピークがある、という特徴を持っています。
日本周辺ではどうなのか
日本周辺でも地震は真夜中に多くて昼間に少ないのでしょうか。
防災科研Hi-netのHPからダウンロードさせていただいた気象庁一元化処理 震源要素で調べてみました。 約4年分(2006年12月〜2011年1月)のデータです(*)。
マグニチュード0.0以上の地震については、日本周辺でも真夜中に地震が多く、昼間に少ないことがわかります。 正午付近に小さなピークがある点も、上記アルプスのデータと同じです。
真夜中の地震頻度は平均的な値より15%ほど多く、昼間は逆に15%ほど少なくなっています。
地震発生頻度に見られるこうした偏りは、統計確率的なゆらぎでは説明ができないほど大きなものです。
なぜなら、各時間帯の平均発生数は約20000回なので、偶然に起こり得るゆらぎの大きさはおよそ、標準偏差で
シグマ σ ≒ √20000 ≒ 141 回
の程度ですが、観測された偏差はおよそ ±3000回 であって、偶然では説明がつかないからです。
(WSは地震計についてほとんど何も知りませんが、たとえば地震計の感度が夜間に上がり昼間に下がる、といった観測面に原因がある可能性も、まったく考えにくいことだと思います。)
地震が発生しやすい場所は太陽とともに移動するのか
上の図2では地震発生時刻は日本標準時で考えました。 しかし、たとえば明石市(東経135度)で正午に太陽が南中しているときに、千島列島(東経150度)では太陽が南中してからすでに1時間が経過していますし、逆に台湾(東経120度)では南中までまだ1時間あります。
もし、地震の発生頻度が太陽の方向に影響されているならば、地震が最も起こりやすい時間帯や起こりにくい時間帯は、経度によって違うはずです。
そこで日本周辺地域を、東経120度から153度まで、経度幅1度の34本の帯(おび)に分けて、約4年の解析期間内に観測された、各帯(おび)で発生した地震について地震が一番発生しやすい時間帯(「最頻発生時刻」と呼びます)を調べてみました。
ここでいう「最頻発生時刻」とは、全体として地震が発生しやすい時刻のことです。 詳しい「最頻発生時刻」の求め方(定義)を以下の図3で説明します。 例として5つの地震が発生した場合を考えます(実際には各帯(おび)で数千から数万個の地震が期間内に発生していますが)。
図3 ある期間内に発生した地震たちの「最頻発生時刻」の求め方
まず円を描いて、円周上にアナログ時計の文字盤のように0から23まで等間隔に目盛をつけます。
次に、地震が発生した時刻に応じて円周上に地震の数だけ点をつけていきます。 図3の例では、0時、3時、6時、9時、16時30分の5つの位置に印がつきます。
さらに、円の中心から、いま印をつけた円周上の各点に向けて矢印を描きます。矢印の長さはすべて円の半径と同じです。
最後に、これらの矢印の(平面ベクトルとしての)ベクトル和を求めます。このベクトル和が指し示す方向(時刻)を「最頻発生時刻」と定義します。
そうやって調べてみると、震源の経度と最頻発生時刻(日本標準時)の関係は次のようになりました。
最頻発生時刻は、真夜中の0時から午前2時ごろです。 東へ行くほど最頻発生時刻が早くなる傾向が読み取れます。
早くなる割合は経度1度につき0.0687時間、つまり、経度15度につき約1時間です。 15度は、ちょうど地球の自転により太陽が1時間に天空で描く角度です。
地震活動が活発な(あるいは不活発な)場所は太陽とともに動いて行くのではないか、と思われます。 それを確認するために、図4のたて軸を日本標準時ではなく、震源のlocal time(*1)でみた最頻発生時刻に取り替えて、描き直してみます。
注 *1) local time = 日本標準時 + (震源の東経 ー 135度)/15度
ごらんのように、グラフはほぼ横一直線になり、経度依存性が消えました。 このことは、地震活動が日本標準時よりもむしろ local time に関係していることを意味します。 その場所でのそのときの太陽の方向に関係している、とも言えます。
いったい、なぜ地震は真夜中に多いのでしょうか。
WSには全くわかりません。 紹介したFreund博士の動画には、博士のアイデアに基づく仮説が述べられていますので、興味のある方はごらんください。
以下では、地震活動が太陽の影響を受ける(ように見える)原因を探るために、役立つかも知れないいくつかの追加の情報を、今回の解析対象データから引き出してみます。
震源の深さは時間帯別地震回数と関係があるだろうか
このグラフは、震源の深さと最頻発生時刻(local time)との関係を調べたものです。 両者に明瞭な関係はみられません。
もし、太陽の影響がまず地表に現れ、それが地下へと(遅い速度で)伝わっていくならば、深い地震ほど最頻発生時刻が遅くなってもよさそうなものです。しかし、そのような傾向は見られず、むしろ、どちらかというと、深い地震ほど最頻発生時刻が早い可能性すらあります。
地表から地下100kmまでの作用伝達時間が数十分以上であるような過程は、太陽の地震活動への影響には無関係であろうと考えられます。
震源の緯度は時間帯別地震回数と関係があるだろうか
このグラフは、震源の緯度(北緯)と最頻発生時刻(local time)との関係を調べたものです。 両者に明瞭な関係はみられません。(北緯46度以北の区間は例外的に、観測された地震数が数百個と少ないので、信頼性が低いです。)
太陽潮汐(太陽の万有引力による潮汐)は時間帯別地震回数に影響しているだろうか
潮汐と言えば、月の引力による潮汐がまず思い浮かびますが、太陽の引力による潮汐力も、月の半分くらいの大きさをもっています。 もし、潮汐が地震活動に影響するするならば、local timeでみた時間帯別発生回数に、太陽潮汐の影響が表れるはずです(月の潮汐力の影響は、24時間周期で4年間もサンプリングすれば平均化されて打ち消される)。
太陽の潮汐力は半日(12時間)周期で変化します。 なので、地震活動に12時間周期の成分があるかどうかを見てみましょう。
このグラフの水色で示した数値(地震回数)を順に y(0), y(1), y(2), ... , y(23) とし、この数列のフーリエ成分の大きさと位相(偏角)(*2)を調べたのが次の図です。
ごらんのように振動数 2 day-1(12時間周期)の成分は小さくなっています。 むしろ、振動数 3 day-1(8時間周期)や振動数 4 day-1(6時間周期)の成分のほうが大きくなっています。 太陽潮汐の影響はあまり見られないようです。
日本周辺でも、アルプスでも、正午付近に小さな地震活動のピークが見られますが、このピークは太陽潮汐の影響ではない可能性が高いとWSは考えます。
注 *2) 各 t について y(t) をフーリエ成分 a_0, a_1, ... , a_23 で表す式は
式1
です。逆変換は k = 0, 1, 2, ... , 12 に対して
式2
となっています。 (注終)
マグニチュードが大きい地震(M3.0以上)も真夜中に多いのだろうか
上ではM0.0以上の地震について調べましたが、もう少しマグニチュードが大きい地震(M3.0以上)ではどうなっているでしょうか。
地震は夜間に多く昼間に少ないようにも見えます。 しかし、午前10時と午後6時あたりにもピークがあって、M0.0以上のデータほど昼夜の偏りが明瞭ではありません。
M3.0以上の地震は各時間帯の平均発生数が約980回なので、偶然に起こり得るゆらぎの大きさはおよそシグマ σ ≒ √980 ≒ 31 回 です。
±2σ程度の回数のゆらぎはごく当たり前ですから、このM3.0以上の地震たちについてはデータが少なすぎて、地震回数の昼夜の偏りについて確定的な結論を述べることはできません。
今回の分析はこれでおしまいです。では、また。
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*) 謝辞
この記事および同じカテゴリの最近の記事で取り上げた暫定的な分析には、Hi-netのHPからダウンロードした気象庁一元化処理 震源要素を使用しました。 気象庁一元化処理 震源要素は独立行政法人防災科学技術研究所、気象庁、及び、国立大学の地震観測データを使用して、気象庁が文部科学省と協力して整理したものです。 ここに記して感謝いたします。
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