« 日本周辺でも地震は夜間に多く発生する -T3 | トップページ | 地震波速度と最頻発生時刻の分布 (1)4つの地域別 -T5 »

震源域の直下では最頻発生時刻が遅い---流体が関与か -T4

前回の記事では、気象庁一元化震源リストの約6年分のデータを解析して、日本周辺でおきる地震の発生時刻に見られる次のような特徴を紹介しました。


  1. 地震は昼間より夜間に発生しやすい。 昼間の地震発生頻度は日平均より15%ほど少なく、夜間の発生数は15%ほど多い。
  2. 最頻発生時刻(Local Time)はおおむね真夜中頃であるが、地域や深さによって数時間の違いがある(*1)。
  3. 最頻発生時刻を震源の深さ別に大きく見ると、地表付近では午前0.5時頃で、深くなるにつれ最頻発生時刻は徐々に遅くなり、深さ100km付近(リソスフェアとアセノスフェアの境界?)で最も遅くて午前1.5時頃となる。 さらに深くなると最頻発生時刻は早まり、深さ200km付近で午前0.5時頃に戻る。
  4. 最頻発生時刻を細かく見ると、深さ20〜30kmのあたり(地殻とマントルの境界?)で最頻発生時刻が特異的に遅くなる(午前1.3時頃)。
  5. 最頻発生時刻の地域分布を見ると、複数のプレートが重なり合う地域では、深さ(プレート)によって最頻発生時刻が大きく異なることがある。

今回の記事ではさらに、日本周辺の4つの地域(九州、東北、北海道、小笠原諸島)について、それぞれ地震の最頻発生時刻の鉛直断面内の分布を詳しく調べます。

結果を先に述べますと、「大きな地震の震源域の直下には最頻発生時刻が遅い領域が存在する」ことがわかりました。

ところで、地震波トモグラフィーの手法による地震波速度の3次元分布から、震源域の直下にはしばしば地震波速度が小さい領域があることが知られています。地震波速度低下の原因として、流体(地下水(浅部)あるいはマグマ(深部)など)の存在が推定されます(*2)。

また、MT法による地下の電気伝導度分布の推定結果からは、震源域の直下にしばしば電気伝導度の大きな領域があることが知られています。高い電気伝導度の原因としてやはり、流体の存在が推定されています(*3)。

つまり、従来の研究で、震源域の直下にはしばしば(おそらく流体の存在が原因で)地震波速度が小さく、かつ、電気伝導度が大きい領域があることがわかっていました。

まさにその領域で「地震の最頻発生時刻が遅い」、つまり、その領域では真夜中より遅い時刻に地震が発生しやすいことがわかりました。(WSの知る限り、こんなことを言っているのは、いまのところ世界でこのブログだけですが…)

 

解析の対象とする4つの地域と期間

次の図1は、今回の解析の対象とする4つの地域(九州 Ky、東北 To、北海道 Ho、小笠原諸島 Og)を示しています。 防災科学技術研究所(Hi-net)による日本付近の最近の震央分布図に重ねて描きました。

Hinet_mod
図1

前回と同じく、気象庁一元化処理 震源要素(*)に記載された、2006/12/01〜2011/01/31の期間に発生したM0.0以上で震源の深さが200km以浅の地震 計492,038個を解析の対象とします。

 

九州地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図2は、九州地域の震源分布を南北-鉛直断面で示したものです。 地震の規模(マグニチュード)により点を色わけしています。

Sec_plot_ky
図2

図2は、北陸沖の日本海あたりから(透視できる目で)九州地方を眺めた図だとお考えください。 図の右側が北九州、左側が南九州です。 図のたて軸は深さで、図の上側が地表付近、下側が深さ200kmです。

図の横軸は「射影緯度(北緯)」となっています。 この意味を説明します。

少し戻って図1を見てください。 九州地域を囲う赤い四角枠Kyの中には北東から南西に向かう細線が何本も書かれています。 同じ細線上で発生した地震は、図2で同じ横軸の位置にプロットしてあります。

たとえば山陰沖の点Aで発生した地震を考えます。 点Aを通る細線と東経130度の経線(太い点線)との交点A'の緯度は北緯32度です。 そこで、この地震の震源(点A)の射影緯度は北緯32度であると決めています。

つまり、「射影緯度」というのは、どの細線上で地震が発生したかを表す数値です。

さて、図2を見ると、図の左上から中央下に向かって沈み込んでいくフィリピン海プレートと、図の中央上部から右上部にわたるユーラシアプレートの存在が想像できます。

最頻発生時刻の分布はどのようになっているでしょうか。

Mh_ky
図3

図3は、九州地域の最頻発生時刻の南北-鉛直分布です。

黄色の星印は、図2の震源分布で、M4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

ごらんのように、震源域の直下にしばしば、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。

 

東北地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図4は、東北地域の震源分布を東西-鉛直断面で示したものです。

Sec_plot_to
図4

図4は、伊豆半島あたりから(透視できる目で)東北地方を眺めた図だとお考えください。 図の右側が太平洋、左側が日本海です。

図の右上から左下に向かって沈み込んでいく太平洋プレートと、図の中央上部から左上部にわたる北米プレートの存在が想像できます。

次の図5は、東北地域の最頻発生時刻の東西-鉛直分布です。 黄色の星印はM4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

Mh_to
図5

やはり、震源域の直下にしばしば、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。

 

北海道地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図6は、北海道地域の震源分布を南北-鉛直断面で示したものです。

Sec_plot_ho
図6

図6は、千島列島あたりから(透視できる目で)北海道地方を眺めた図だとお考えください。 図の右側がオホーツク海、左側が太平洋です。

図の左上から中央下に向かって沈み込んでいく太平洋プレートと、図の中央上部から右上部にわたる北米プレートの存在が想像できます。

次の図7は、北海道地域の最頻発生時刻の南北-鉛直分布です。 黄色の星印はM4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

Mh_ho
図7

やはり、震源域の直下にしばしば、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。(射影緯度で北緯43度あたりでは少し不明瞭ですが)

 

小笠原地域の鉛直断面図---震源と最頻発生時刻

次の図8は、小笠原地域の震源分布を東西-鉛直断面で示したものです。

Sec_plot_og
図8

図8は、マリアナ諸島あたりから(透視できる目で)小笠原諸島を眺めた図だとお考えください。 図の右側がハワイ方向、左側が沖縄方向です。

図の右上から中央下に向かって沈み込んでいく太平洋プレートと、図の中央上部から左上部にわたるフィリピン海プレートの存在が想像できるはずなのですが、やや不明瞭です。

次の図9は、小笠原地域の最頻発生時刻の東西-鉛直分布です。 黄色の星印はM4.0以上の大きな地震の震源が集中している場所を示します。

Mh_og
図9

やはり、震源域の直下に、赤色の領域(最頻発生時刻が遅い領域)が存在することがわかります。

   *

このように、日本周辺の4つの地域では、震源域の直下にしばしば最頻発生時刻が遅い領域が存在します。

一方、従来より地震波トモグラフィーによる地震波速度分布およびMT法による電気伝導度分布の推定結果から、震源域の直下にしばしば(流体に起因すると思われる)低速度・高電気伝導度の領域があることが指摘されています。

両者の関連は非常に興味深いことだと思います。

   *

さて、どうして地下のある領域では最頻発生時刻が真夜中より遅く、他の領域では真夜中より早い、といったばらつきが生じるのでしょうか。

正直なところ全くわからないのですが、この現象を見て最初に思ったのは、なんか共鳴現象に似ているなあ、ということです。 たとえば、力学の最初で学ぶ、減衰力(速度に比例する抵抗力)を受ける調和振動子(バネ振り子)の強制振動を考えてみてください。

振動子の固有振動数をf0とし、外力の振動数をfとします。

fがf0より小さいときには、振動子の振動の位相は、外力より遅れます。 一方、fがf0より大きいときには、振動子の振動の位相は、外力より早くなります。

そこで、たとえば次のような想像ができます。

・地下で起きる何らかの周期現象X(イオン移動?)があって、それが地震発生に関与している。 現象Xの固有周期は、岩石が流体的な成分を含むか否かで、1日(=24時間)より長くなったり短くなったりする。

・一方、1日周期で振動する外力(たとえばFreund博士ご提案(動画の9分30秒あたりから11分30秒あたりを参照)の、電離層由来のグローバルな誘導電場のようなもの?)が現象Xに影響している。

   *

今回は以上です。

地震波トモグラフィーによる地震波速度分布の推定結果はHi-netで公開していただいているようです。 次回は、その地震波速度分布と今回の4つの地域の最頻発生時刻分布とを直接比較してみたいと思います。

MT法による電気伝導度分布については、同様な公開データ(3次元格子)が見つからなかったのですが、もしご存じの方がいらしたら、教えていただけましたら幸いです。

では。

------

*1) 最頻発生時刻の求め方(定義)については以前のこちらの記事をご覧ください。

*2), *3) 地震波トモグラフィーによる地震波速度分布やMT法による地下の電気伝導度分布と、地殻下部にある「やわらかいもの(低速度・高電導度)」や震源域などに関係のあるHPやpdfをいくつか列挙します(敬称略)。 これは容易に検索で見つかったもののリストで、完全なリストとはほど遠いものです。


------
*) 謝辞
この記事および同じカテゴリの最近の記事で取り上げた暫定的な分析には、Hi-netのHPからダウンロードした気象庁一元化処理 震源要素を使用しました。 気象庁一元化処理 震源要素は独立行政法人防災科学技術研究所、気象庁、及び、国立大学の地震観測データを使用して、気象庁が文部科学省と協力して整理したものです。 ここに記して感謝いたします。

|

« 日本周辺でも地震は夜間に多く発生する -T3 | トップページ | 地震波速度と最頻発生時刻の分布 (1)4つの地域別 -T5 »

地震電磁気12」カテゴリの記事

コメント

この本をご存じでしょうか?

地震の癖──いつ、どこで起こって、どこを通るのか?
http://www.amazon.co.jp/dp/4062725991

従来のプレート理論を一蹴し、マントル対流の熱移動が地震を引き起こすというプリューム理論を提唱しています。何かの参考になると思いますので是非ご一読を。

投稿: 佐藤 | 2012.01.16 08:58

佐藤様

コメントありがとうございます。

教えていただいた本「地震の癖──いつ、どこで起こって、どこを通るのか?」(角田史雄、講談社+α新書)を購入して読みました。

地球スケールでのマグマあるいは熱の移動が地震の原因であるという壮大な仮説には、なにがしかの真理が含まれているかも知れない、と感じました。 (仮説の実証の方法や、プレートテクトニクス理論を否定する論拠などには大いに不満が残ったのですけど。)

磁気と地震の関係や「地球型電子レンジ構造」というアイデアに関連して著者が早く検証したい、と述べておられる、「伊豆諸島で深さ600kmの深発地震が起きてから数日後に、なぜ火山島での火山性地震が始まるのか」という興味深い疑問、

また、

東北地方で巨大地震の発生前に、小規模地震の震源の飛び跳ねるパターンに見られる変化の特徴

などは、WSもしっかりと心に留めておこうと思います。

投稿: Wave of sound | 2012.01.30 23:51

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/52086/53702789

この記事へのトラックバック一覧です: 震源域の直下では最頻発生時刻が遅い---流体が関与か -T4:

« 日本周辺でも地震は夜間に多く発生する -T3 | トップページ | 地震波速度と最頻発生時刻の分布 (1)4つの地域別 -T5 »