地震波速度と最頻発生時刻の分布(2)震源の深さ別 -T6
前回の記事では、地震波速度の遅い領域と速い領域の境界部分で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる、という関係があることを、4つの地域の鉛直断面図を見ることで確認しました。
今回の記事では同じ事実を、震源の深さ別に日本周辺の平面図で確認します。
やはり、「やわらかい」領域と「かたい」領域の境界付近で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる傾向が見られます。
解析の期間(2006年12月〜2011年1月)は前回までの一連の記事と同じです。
地震データは気象庁一元化震源、地震波速度のデータは防災科研(2011)による日本列島下の3次元地震波速度構造モデル(海域拡大版)を利用させていただきました。
では、震源の深さ別に地震波速度と最頻発生時刻(Local Time)との関係を見ていきます。
震源の深さとしては次の5つの区間を順に調べます。
・深さ0〜10km(上部地殻←ここでの名称はだいたいのイメージであって厳密なものではありません。以下も同様)
・深さ10〜25km(下部地殻)
・深さ25〜50km(地殻とマントルの境界付近)
・深さ50〜100km(上部マントル、リソスフェア)
・深さ100〜200km(上部マントル、アセノスフェア)
まずは深さ0〜10km(上部地殻)から。
深さ0〜10kmにおける地震波速度と最頻発生時刻
この深さ領域(上部地殻)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図1のようになっています。
図1には4つのグラフが描かれていますが、右上の図が最頻発生時刻の分布です。 他の3つの図は、それぞれP波速度、S波速度、速度比(S/P)の、深さによって決まる平均的な値からの偏差(ずれ)を示しています。 後者の単位はパーミル(‰)です(*1)。
右上の図で、最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる地域(青色や赤色)は、P波速度の低下率(左上の図)がプラスの地域とマイナスの地域の境界部に位置していることが読み取れます。
なお、この深さ領域(上部地殻)では、日本列島の陸地部でS波の速度が小さいようです。 おそらく堆積物等の間隙に地下水などが分布してS波の伝搬を妨げているためだと思われます。 P波速度は、西日本の花崗岩地帯や東北地方太平洋沿岸(沈み込むプレート部)で速くなっています。
次の図2は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。 経度、緯度ともに1度おきの格子点上の値をプロットしています。
図2にはグラフが3つありますが、いずれのグラフもたて軸は最頻発生時刻です。 横軸は、それぞれP波速度、S波速度、速度比(S/P)の偏差(ずれ)を示しています。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもに(P波やS波の)地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。 地震波速度が(平均より)速い地域や遅い地域では、最頻発生時刻はほぼ真夜中近くの数時間に限られることが読み取れます。
このことから、「やわらかい」領域や「かたい」領域の内部では最頻発生時刻はほぼ真夜中であるが、2つの領域の境界付近ではしばしば真夜中から大きくずれる、という特徴が読み取れます。
次に深さ10〜25km(下部地殻)を見ます。
深さ10〜25kmにおける地震波速度と最頻発生時刻
この深さ領域(下部地殻)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図3のようになっています。
この深さでは、日本列島の陸地部でS波の速度が大きくなっています。 (先ほどみた上部地殻ではS波速度が遅くなっていました。)
東北日本の東岸や日本海沿岸に最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる地域があります。 そうした地域はやはり、P波速度(やS波速度)が大きい領域と小さい領域の境界付近に位置しています。
次の図4は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。 地震波速度が(平均より)速い地域や遅い地域では、最頻発生時刻はほぼ真夜中近くの数時間に限られます。
次に深さ25〜50km(地殻とマントルの境界付近)を見ます。
深さ25〜50kmにおける地震波速度と最頻発生時刻
この深さ領域(地殻とマントルの境界付近)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図5のようになっています。
この深さでは、東北日本から西南日本の太平洋沿岸に沿って帯状に地震波速度の大きい領域(青色)が分布し、そのすぐ北側に地震波速度の小さい領域が帯状に分布しています。 前者は沈み込んでいく太平洋プレートやフィリピン海プレート(「かたい」領域)で、後者はプレートからしみ出して上昇する流体を含むもの(「やわらかい」領域)を表していると思われます。
両者の境界付近に、最頻発生時刻が真夜中より遅い領域(赤色)が分布しています。
最頻発生時刻が真夜中より早い領域(青色)は、おもに両者の境界付近にありますが、「かたい」領域の内部にも分布しています。
次の図6は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。 地震波速度が(平均より)遅い地域では、最頻発生時刻はほぼ真夜中近くの数時間に限られます。
次に深さ50〜100km(上部マントル、リソスフェア)を見ます。
深さ50〜100kmにおける地震波速度と最頻発生時刻
この深さ領域(上部マントル、リソスフェア)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図7のようになっています。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる領域(赤色や青色)はおもに、S波速度が大きい領域と小さい領域の境界付近に分布しています。
次の図8は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。
この深さの著しい特徴として、S波(あるいはP波)の地震波速度が(平均より)速い地域(=「かたい」地域)では、最頻発生時刻は真夜中より後であり、真夜中より前になることはほとんどない、と言えます。
最後に深さ100〜200km(上部マントル、アセノスフェア)を見ます。
深さ100〜200kmにおける地震波速度と最頻発生時刻
この深さ領域(上部マントル、アセノスフェア)における地震波速度と最頻発生時刻の水平分布は図9のようになっています。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれる領域(赤色や青色)はおもに、S波速度が大きい領域と小さい領域の境界付近に分布しています。
次の図10は、この深さでの地震波速度と最頻発生時刻の関係を散布図に表したものです。
最頻発生時刻が真夜中から大きくずれるのは、おもにS波(やP波)の地震波速度の偏差がゼロに近い地域です。
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このように、「かたい」領域と「やわらかい」領域の境界付近で最頻発生時刻がしばしば真夜中から大きくずれる傾向があること。また、「かたい」領域や「やわらかい」領域のそれぞれの内部では、最頻発生時刻が真夜中近くの数時間内に限られること、がわかりました。
今回は以上です。 次回は最頻発生時刻の時系列と大きな地震の発生との関係を調べてみる予定です。 最頻発生時刻の変化が地震の短期予知に有益な情報をもたらしてくれればよいのですが。 では。
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注
*1) 実際には、非線形な関数 f(x) = 10*atan(x/10) を使って変換することにより、±15‰を越える値も区間 [-15.7, +15.7]内に収まるようにして表示しています。
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