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大地震の前には地震数の昼夜の違いが大きくなる(北アメリカ西部)-T9

みなさま、お久しぶりです。

大地震の前にはわずかな潮汐力でも地震の引き金に

「なゐふる」という日本地震学会の広報紙2012年10月号(pdf) p.2〜3 に、たいへん興味深い記事が載っていました。

巨大地震の前兆? 1 地球潮汐が「最後の一押し」
防災技術研究所 田中佐千子 氏

がその記事です。

ひずみが十分にたまった断層では、地球潮汐(=月や太陽の引力の場所による違い)のわずかな力が地震の引き金になる可能性が高い、とのこと。

2011年3月11日に発生した東北沖地震の前後に、周辺で発生した地震を調べたところ、1976年以降の約25年間は、地球潮汐と地震発生のタイミングに相関関係はみられなかったが、2000年ごろからこの相関関係が、東北沖地震の震源地付近で強くみられるようになり、東北沖地震の発生直前には極めて密接な関係が存在していたことが明らかになったそうです。また、東北沖地震の発生後には、相関関係は再びみられなくなったとのこと。

この記事を読んですぐにWSの頭に閃いたのは、

もしかしたら、地震発生数の日変化の振幅も、大地震の前後で変わるのではないか?

というアイデアです。


大地震の前には地震発生数の昼夜の違いが大きくなるのか?

最近の記事でお話ししておりますように、地球上のどこでも、地震は夜間に多く、昼間に少なくなっています。夜と昼の違いは数パーセントから十数パーセントで(場所や深さによります)、統計的に有意な違いです。

この日変化が生じる原因は(少なくともWSには)まだわかりません。わかりませんが、たとえば電離層に流れるSq電流が作る磁場など、日変化を示すなんらかの外部の原因があって、それが地震発生数に昼夜の違いを生んでいると思われます。

ひずみが十分にたまった地殻にとっては、わずかな潮汐力でも地震の引き金となる。それなら、地震発生数に日変化を生んでいるなんらかの外部の原因に対する反応が、ひずみのたまり具合によって違ってもよいはずです。おそらく、ひずみがたまるほど、反応が大きくなる、つまり、地震数の昼夜の違いが大きくなるのではないでしょうか。

そこで次の仮説を実際の地震データで確かめてみることにしました。

<仮説:大地震の直前には、震源の周辺で地震発生数の日変化の振幅(昼夜の違い)が大きくなる>

今回の記事では北アメリカ西部の地震について調べます。日本周辺についても後日調べてみる予定です。


対象地域と期間

対象とする地域(北アメリカ西部)は、図1の青枠の長方形で囲われた領域(西経160度から100度、北緯10度から70度)です。

Coast_and_eqs
図1

対象とする期間は、1997年1月1日から2012年12月3日までの約16年間です。

ANSSのデータベースに載っている、上記の地域で期間内に発生した、震源の深さ500km未満、マグニチュード0.0以上の地震を対象とします。


期間内にM7.5以上の地震は4つ発生

次の図2は、対象地域で期間内に発生した地震の数を、地震の規模別に示したものです。 地震数の対数と地震規模が直線的関係にあることが見てとれます(グーテンベルク・リヒターの関係)。

Eq_stat
図2

M7.5以上の地震は4つ発生したことがわかります。

アラスカ地域で1つ、BC(ブリティッシュ・コロンビア)地域で2つ、メキシコ地域で1つです。 それぞれのマグニチュード、発生地点、深さ、発生日をさきほどの図1に記入してあります。 これらを「大地震」と呼びます。

各々の大地震の震央を中心として「長方形」を描いてあります。これらの長方形の内部を、それぞれアラスカ地域、BC地域、メキシコ地域と呼ぶことにします。

この長方形は、たとえば、アラスカ地域の場合には、大地震の震央を中心として緯度幅が10度で、経度幅が緯度幅とほぼ同じ距離(10/cos(64度)度)となるように選んであります。

BC地域の場合には、発生した地震数が少ないので精度を確保するために、緯度幅は2倍の20度とし、経度幅は同様に決めました。

メキシコ地域の場合も同様の理由で緯度幅を20度としています。 ただしメキシコ地域の右端と下端は、西経100度と北緯10度のラインで切り取られています。

では、それぞれの地域で、大地震の前後に、地震発生数の日変化の振幅がどのように推移したのかを調べてみます。


アラスカ地域の日変化の振幅の推移

まずアラスカ地域から見てみます。

この地域では2002年11月3日にM7.9の地震が発生しました。この大地震までの4年間について、1年ごとに4つの期間に分けて、地方時でみた時間帯別の地震発生数の推移を示したのが次の図3aです。

Alaska_distri
図3a

赤色の棒グラフは地震の4年前から3年前までの1年間のM0.0以上の地震数を示しますが、このころは地震も少なく、地震発生数の日変化もはっきりしません。

しかし、大地震が近づくにつれて地震数が増えると同時に、日変化が大きくなる、すなわち、地震が昼に少なく夜間に多いという傾向がはっきりとみられます。
(紫色の棒は大地震直前の1年間の地震数を示しています。地震数が多いので、実際の地震数から200を引いて図示しました。)

上の棒グラフを、平均の地震数を100にスケールし直して表示したのが次の図3bです。 誤差棒は±2σの範囲を示します。(ポアソン分布を仮定し、各時間帯の地震数nに対してσ=√nとおきました。)

Alaska_distri2
図3b

タテに4つのグラフが並んでいますが、下へいくほど大地震に近い時期になります。

各グラフに記入した太い曲線は、24時間周期の三角関数で、地方時でみた地震発生時刻の確率分布をフィットしたものです(*1)。 Aの値はその振幅です。

また、各グラフの細い曲線は、24時間周期といくつかの高調成分(12時間周期、8時間周期、6時間周期)の和で、同様にフィットしたものです。

振幅Aの値は、大地震までの4年間に、4.0 → 3.0 → 7.4 → 11.1 と推移しています。 大地震前の3年間は、大地震が近づくほど、地震発生数の日変化の振幅が大きくなっていることがわかります。

次の図3cは、より長い期間(1997年〜2012年)について、上の図3bで見た地震発生数の日変化の振幅Aの推移を示したものです。

Alaska_amp_mix
図3c

タテに3つの図が並んでいますが、いずれも横軸は時間(年/月)です。

いちばん上の図はアラスカ地域の地震について計算した振幅Aの推移です。

中央の図はアラスカ地域以外の地震について計算した振幅Aの推移です。

いちばん下の図は、アラスカ地域およびアラスカ地域以外で発生した地震と規模を棒で示したもので、前者は青色、後者は赤色の棒で示しました。

大地震までの数年間、アラスカ地域では振幅Aが増加傾向にあったことが読み取れます。しかし、アラスカ地域以外ではそのような傾向は読み取れません。

これらの結果は、「M7.5〜8クラスの大地震の直前の数年間には、震源の周辺で、地震発生数の日変化の振幅が増加する」ことを強く示唆しています。

また、大地震の後では、大きくなった振幅Aが変動を繰り返しながら数年〜10年の時間をかけて、ゆっくりと減少していくように見えます。

アラスカ地域の考察の最後に、最頻発生時刻の長期推移も見ておきます。

最頻発生時刻とは、地震がもっとも発生しやすい時間帯のことです。 今回の記事では、上の図3bの各グラフの太い曲線(24時間周期の三角関数)が最大値をとる時刻と定義しています。 最頻発生時刻はたいていの地域で真夜中(0時とか1.3時とか-1時(=23時))になります。

Alaska_h_mix
図3d

アラスカ地域の最頻発生時刻は、大地震までの数年間に真夜中に収束していく傾向が見られます。 アラスカ地域以外の最頻発生時刻にはそのような傾向は見られません。


ブリティッシュ・コロンビア(BC)地域の日変化の振幅の推移

次にブリティッシュ・コロンビア(BC)地域についても同様に4つのグラフで見てみます。 いずれも見方はアラスカ地域と同じです。

Bc_distri
図4a

BC地域では2012年10月28日にM7.8とM7.7の2つの大地震が連続して発生しました。 大地震直前の3年間、この地域の地震数は徐々に増加し、日変化の振幅も徐々に大きくなっています。

Bc_distri2
図4b

地震発生数に見られる24時間周期の振幅Aの値は、大地震までの4年間に、7.5 → 4.0 → 11.4 → 13.9 と推移しています。 大地震前の3年間は、大地震が近づくほど、地震発生数の日変化の振幅が大きくなっていることがわかります。

Bc_amp_mix
図4c

より長い期間の推移をみると、大地震までの数年間、BC地域では振幅Aが増加傾向にあったことが読み取れます。しかし、BC地域以外ではそのような傾向は読み取れません。

この結果も、「M7.5〜8クラスの大地震の直前の数年間には、震源の周辺で、地震発生数の日変化の振幅が増加する」ことを強く示唆しています。

Bc_h_mix
図4d

BC地域の最頻発生時刻は、大地震までの数年間に大きくシフトして正午ごろに収束していく傾向が見られます。 BC地域以外の最頻発生時刻にはそのような傾向は見られません。


メキシコ地域の日変化の振幅の推移

最後にメキシコ地域についても同様に4つのグラフで見てみます。

Mexico_distri
図5a

メキシコ地域では2003年1月22日にM7.6の大地震が発生しました。 大地震直前の4年間、この地域の地震数は徐々に増加しています。

Mexico_distri2
図5b

地震発生数に見られる24時間周期の振幅Aの値は、大地震までの4年間に、5.2 → 32.3 → 6.6 → 12.3 と推移しています。

地震数が少なく振幅Aの推定誤差が大きいために、大地震が近づくほど、地震発生数の日変化の振幅が大きくなっているかどうかはわかりません。

Mexico_amp_mix
図5c

より長い期間の推移についても、推定誤差が大きいために、大地震までの数年間、メキシコ地域では振幅Aが増加傾向にあったかどうかはわかりません。しかし、期間内のほとんどの時期において、大地震が発生したメキシコ地域が、メキシコ地域以外に比べて、振幅Aの値がより大きかったとは言えます。

Mexico_h_mix
図5d

メキシコ地域の最頻発生時刻は、大地震までの数年間に大きくシフトして夕方3〜6時ごろに収束していく傾向が見られます。(もしかして大地震発生時刻へ収束していくのだろうか?) メキシコ地域以外の最頻発生時刻にはそのような傾向は見られません。

   *

今回は以上です。

今後は、より小規模な大地震(M7.0〜7.5)についても、地震直前に周辺地域で、地震発生数の日変化の振幅が大きくなるのかどうか。もしそうならば、日変化の振幅に影響の出る地域の広さや期間は、大地震の規模とどのような関係があるのか、といったことを調べてみる予定です。

また、日本周辺の地震についても調べてみたいと思っています。

では。

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注)
*1) より正確には、24時間周期といくつかの高調成分(12時間周期、8時間周期、6時間周期)の和で、地方時でみた地震発生時刻の確率分布をフィットしたものから、24時間周期の成分のみを取り出して描いたものです。 Aの値はその24時間周期の成分の振幅です。

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