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「昼より夜に微小地震が多い」のは人間活動の雑音が原因なのか -T12

11月の末、WSは天地がひっくり返るほど驚きました。 この1年あまりの努力が完全に無に帰する(かも知れない)瞬間を味わったからです。

昼と夜の地震発生数に見られる10パーセントほどの違いはなにが原因なのか。電磁的なものだろうか。そのメカニズムを解き明かして、可能ならば地震予測に役立てたい、というのがこの1年あまり、WSの頭の大きな部分を占める考えでした。
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どこか甘く、楽観的な想像を楽しみ、研究の道の厳しさを忘れたWSの浮ついた頭を思いっきりぶん殴ってくれたのは、zakzakというサイトに掲載された島村英紀博士の次の記事です。

難解な地震の法則性 「月の引力が地震の引き金を引く」説は?
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20131122/dms1311220726001-n1.htm

この記事のはじめのほうで、島村氏が次のようにさらっと書いておられる部分、これがまさに「じぇじぇじぇ〜」の大ショックだったのです。

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地震計の発明以後、しだいに地震のデータが集まってくると、
世界の地震学者が最初に取り組んだのは、地震の起きかたは
何によって左右されるのだろうという地震の「法則性」だった。

しかし、これはなかなかの難問であった。

最初の「発見」は、昼より夜の方が地震が多いことだった。
だが、これはまったくの間違いだった。
昼間は人間活動の雑音が高いために、昼間の地震が夜ほどは
検知できなかっただけだったのだ。
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なんですって?

*** 昼間は人間活動の雑音が高いために、昼間の地震が夜ほどは検知できなかっただけ ***

なんとまあ恐ろしいことを、あたかも当然のことのように、さらっと記述してあることか。これが本当なら、どこかのだれかの1年分の努力が無に帰するというのに(笑)。

   *

あまりのショックにしばらく放心状態でしたが、少し時間が経って冷静に考えてみると、この記事は逆に、WSの地震予測の構想を実現するうえで重要な要素である人間活動の雑音をちゃんと考えて補正せよ、と教えてくれていることに気づきました。

少し冷静になれたときに最初に思い出したのは、北アメリカ西部の微小地震データを解析したときの経験です。 記録された地震数に見られる昼夜の違いは、そのすべてが人間活動の雑音に帰するわけではない。 巨大地震の前には、その周辺地域で、地震発生数に見られる24時間周期の変動が明らかに乱れている、という強い確信がWSにはあるのです。

今回の記事ではまず、地震発生数に見られる昼夜の違いには、たしかに人間活動による雑音の影響らしきものが見られるという点を日米それぞれのデータで確認します。

規模の小さい地震ほど雑音の影響を受けやすいはずですが、実際にそうなっているのかどうか。また、土日は人間活動が低いので雑音の影響が少ないはずですが、そうなっているのか、といった点を確認します。

そのあとで、人間活動の雑音の影響はたしかにあるが、それを補正することで、地震発生数に見られる24時間周期の乱れがよりはっきりと見え、巨大地震の予測に役立つのではないか、という構想にふれます。

   *

§ 地震記録数にみられる24時間周期の変動を再考する

次に示すのは、以前の記事で紹介した、日本周辺の地震発生数(記録数)に見られる24時間周期の変動です。

Fig0
図1

夜には地震が多く、昼には地震が少ない。

明け方の6時、7時、8時と時刻が進むにつれて地震記録数が少なくなり、逆に、夕方の16時、17時、18時と進むにつれて地震記録数が増えるさまは、あたかも人間活動が活発になるようすや静かになるようすを表しているようです。

お昼の12時代、13時台に少し地震記録数が増えています。これはもしかして、お昼休みのために人間活動の雑音が減って、地震記録数が増えているのでしょうか。

WSはこれまで、この正午付近にみられる地震記録数の小さなピークはこの時刻に、電離層に流れるSq電流の渦の目の真下に日本周辺が位置することによる、電磁的な影響のためではないか、と夢想していました。 かりにそれが人間活動の雑音(=みんなお昼ご飯を食べているので機械は止まってるよ)で説明されてしまうならば、(WSにとって)なんともショッキングなことです。

   *

§ 地震の規模と昼夜別の地震数との関係

人間活動の雑音の有無が、昼と夜で地震記録数にちがいが生じる原因であるならば、より小さな地震ほど雑音の影響を受けやすいはずです。 大きな地震は少々の雑音があってもそれにうち勝って、地震として記録されるはずだからです。 それを日米の地震データでそれぞれ調べてみました。

次の図は、日本周辺の地震について、地震の規模ごとに、昼夜別に地震記録数を比べたものです。 気象庁一元化震源データを使用させていただきました。

Mag_count1
図2

赤色が昼間の地震数、緑色が夜間の地震数を示します。誤差棒は±2σの範囲です。

マグニチュード5以上の地震では、地震数に昼夜のちがいは見られません。 マグニチュード6以上の地震で見かけ上、差があるように見えますが、誤差の範囲内にとどまっており、差は統計的に有意ではありません。

一方、マグニチュード4未満の地震では、夜間の地震数が昼間の地震数を上回っています。 上の図2の左半分(地震規模の小さな部分)を拡大した図を次に示します。

Mag_count2
図3

昼間と夜間の地震記録数のちがいは統計的に有意で、その差は地震の規模(マグニチュード)が小さくなるほど大きくなっています。 これは、昼夜の違い(の大きな部分)は人間活動の雑音が原因であるという仮説と矛盾しません。

次の2つの図は、北アメリカ西部についての同様なグラフです。 ANSSデータを利用させていただきました。

Mag_count_us1
図4

Mag_count_us2
図5

北アメリカ西部の地震データでも、昼間と夜間の地震記録数のちがいは、微小な地震については統計的に有意で、その差は地震の規模(マグニチュード)が小さくなるほど大きくなっています。

これらのグラフを見るかぎり、人間活動の雑音が地震記録数に影響しているように感じられます。 でも本当にそうなのでしょうか。 もっとグーの音も出ないような決定的な証拠をつかめないでしょうか。

いろいろ考えてみて、「曜日」というファクター(因子)に気づきました。そうだ、もし、人間活動が影響しているなら、日曜日などの休日には雑音が少ないはずだ。だから、休日には記録される地震数は増えるであろう、と。

そこで曜日と地震数の関係を調べてみることにしました。

   *

§ 曜日と昼夜別の地震数との関係

次の図は、日本周辺での、曜日ごと昼夜別の地震記録数です。 12時間あたりに記録されるマグニチュード0.1以上の地震の平均数を示します。 とりあえず祝日は考慮していません。

Weekday_count
図6

ごらんのように、日曜昼間の地震数が夜間に匹敵するほど多くなっています。 土曜昼間も、平日昼間より少しだけ多くなっています。

休日は人間活動が低調なので雑音が少なく、記録される地震数が増えるであろう、という予想が当たりました。

次の図は、同様なグラフを北アメリカ西部について描いたものです。

Weekday_count_us
図7

やはり、土曜昼間と日曜昼間の地震記録数が、平日昼間より多くなっています。

人間活動による雑音が、昼夜の地震記録数のちがいに大きく影響していることがわかります。

   *

§ それでも、人間活動による雑音がすべてではない

人間活動による雑音が、昼と夜の地震記録数にちがいが生じる原因のすべてなのでしょうか。

WSにはそうではない、という確信があります。

それは、アラスカ州で2002年に起きたM7.9の巨大地震の前後5年間に、周辺地域の地震数にみられた24時間周期の乱れを分析した経験からきています(下図参照。関連記事はこちら)。

Fig1
図8

通常はおそらく人間活動による雑音のために、1日のうちで真夜中に地震記録数のピークをむかえます。図をみると、大地震が発生したあとの5年間は確かにそのようになっています。

しかし、大地震が発生する前の5年間は、地震記録数がピークをむかえる時刻が大きく乱れています。 この乱れは、人間活動による雑音以外のなんらかの別の要因によって起こされたのではないでしょうか。

   *

島村氏の記事のおかげで、人間活動による雑音という重要な因子に気づくことができました。

地震記録数にみられる24時間周期の変動から、この因子の影響を除外する(補正する)ことで、これまで雑音に埋もれて見えなかった、大地震の前兆につながるなんらかの因子を抜き出せるのではないか。

そのような方向で、探求を進めてみようと思います。

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