カテゴリー「気柱共鳴の物理」の14件の記事

2008年12月までの記事の一覧

いつのまにやら記事もかなり増えてきました。このあたりで2008年12月までの記事の一覧を作っておきます。

・気柱共鳴と開口端補正の記事
・その他のサイエンス記事
・日本の財政赤字と累積債務の記事
・外貨準備の記事
・その他の経済記事

の順にリストアップします。


気柱共鳴と開口端補正

気柱 1 はじめに
気柱 2 気柱共鳴と開口端補正の長さ
気柱 3 空気の粘性の役割
気柱 4 減衰しにくい定常波の形
気柱 5 指数減衰モード(1)
気柱 6 指数減衰モード(2)
気柱 7 開口端補正の長さ
気柱 8 円筒形の管の開口端補正
気柱 9 粘性の影響を無視した場合の理論値
気柱 10 粘性が効く管の太さ
気柱 11 レビンとシュヴィンガーの理論値の紹介
(続きはそのうち...)


【その他のサイエンス記事】

雑感 タイタンには生命が存在するのではないか
地球温暖化CO2原因説への懐疑論について(1)
地球温暖化CO2原因説への懐疑論について(2)
ケプラー問題と閉軌道
静電気現象と地震の短期予知についての一考察
(まだ記事は少ないですが、「地震、大気電場、雷」が現在のWSの最大の関心事です。)


日本の財政赤字と累積債務

日本の財政赤字と累積債務の持続可能性
言葉の力---亀井久興議員の演説
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日本の財政赤字(2)涙の一人あたり名目GDP成長率---OECD諸国で最低
日本の財政赤字(3)消費税率アップという「苦い薬」はホントに良薬ですか、Yさん?
日本の財政赤字(4)ガソリン暫定税率廃止でほかの税収は1.9兆円<増える>のですが...誰も言わないね
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日本の財政赤字(8)名目成長率が4%超なら累積債務は持続可能になる
日本の財政赤字(9)---ガソリン暫定税率廃止が税収に与える影響
(池田税制の復活による内需主導型成長で財政は黒字になる、というのがWSの持論です。)


【外貨準備の記事】

涙の2%---外貨準備に占める各通貨の割合を推定する(1)国富の流出
涙の2%---外貨準備に占める各通貨の割合を推定する(2)内需の喚起を
涙の2%---外貨準備に占める各通貨の割合を推定する(3)推定のアイデア
涙の2%---外貨準備に占める各通貨の割合を推定する(4)多変量解析
涙の2%---外貨準備に占める各通貨の割合を推定する(5)モンテカルロ粒子フィルタ
涙の2%---まとめ(6) ドル87.4% ユーロ12.3% (2007年9月)


【その他の経済記事】

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以上です。

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気柱11 レビンとシュヴィンガーの理論値の紹介

前回の更新からずいぶん時間が経ってしまいました。
11回目の今日は復習をかねて、空気の粘性を無視した場合の話で不十分だった点を補います。

具体的には、レビンとシュビンガーによる開口端補正の理論値を紹介し、それと、このブログの第9回で扱ったモデル1による理論値とを比較します。

■レビンとシュビンガーによる理論値 (空気の粘性は考慮せず)

以前お話ししたように、管壁がきわめて薄い円筒形の管の、空気の粘性を無視した場合の理論値については、1948年にレビンとシュヴィンガーが厳密な解を与えています。
http://prola.aps.org/abstract/PR/v73/i4/p383_1

_111


グラフの横軸は管の太さ(内径)で、縦軸は開口端補正の長さです。
具体的には、管の内径をa、開口端補正の長さをΔ、音の波長をλ、波数をk=2π/λとして、縦軸にはΔ/a、つまり、開口端補正の内径に対する割合をとってあります。
また、横軸にはka=2πa/λ、つまり波長に対する内径の割合(を位相に換算したもの)をとってあります。

レビンとシュビンガーの理論値では、音の波長に較べて管が十分に細い場合、つまり、グラフの左の方では、「開口端補正は半径の約0.61倍」になっています。また、管が太くなると、開口端補正の半径に対する割合は減少します。

例を見ておきます。音速は気温や湿度によって少し変わりますが、c=340 m/sであるとします。f=1000 Hzの音源で気柱共鳴の実験を行ったとすれば、波長はλ=c/f=34 cmです。内径a=2 cmの管なら、ka=2π×2 cm/34 cm≒0.369…なので、グラフの左の方をみて、Δ/a≒0.6であることが読みとれます。つまり、彼らの理論値によれば、この管の開口端補正の長さはΔ≒0.6×2 cm=1.2 cmということになります。


■モデル1による理論値(空気の粘性は考慮せず)

上のグラフには、このブログの第9回で扱ったモデル1による理論値も合わせて示しました。モデル1は、開口から放射される球面波の強さが向きによらないという単純化した仮定をおいたモデルです。

そのため、厳密な考察をしているレビンとシュビンガーの理論値からは当然ずれます。やりすぎと思えるほどの単純化をしたわりには、管の太さが増えると、開口端補正の半径に対する割合が減少するなど、傾向は正しく出ていますが…。

グラフの左のはしでは、モデル1の開口端補正は内径の0.5倍になっています。約0.61倍というレビンとシュビンガーによる理論値からは少しずれています。
また、全体に、彼らの理論値のグラフに較べて、モデル1の理論値は下にずれている、つまり、開口端補正が小さく出ています。
これは、モデル1では、開口付近で空気が実際より自由に運動できると仮定されているためと考えられます。


■空気の粘性を考慮するとどうなるだろうか

上では粘性の影響を考えませんでしたが、それを考えるとどうなるか、予想を述べます。

上のグラフで、横軸はそのままにして、縦軸にΔ/λ、つまり「波長に対する開口端補正の割合」をとって書き直したのが次の図です。

_112


管が太くなるにつれ、波長に対する開口端補正の割合は(非常に太い管の場合を除いて)増加することがわかります。

特に、非常に細い管では、上の割合はほとんどゼロになっています。図の左端近くの領域では、開口端補正は内径の0.5倍〜0.6倍なので、波長に較べて非常に小さいからです。

さて、Wave of soundの予想では、空気の粘性の影響は細い管ほど大きく現れます。非常に細い管では開口端補正は波長の8分の1、つまり0.125倍になるはずです。

ですから、粘性の影響を正しく考慮した場合には、上のグラフは修正されるはずです。グラフは左の方で再び上がり、左端では0.125のところで縦軸と交わるでしょう。全体として、グラフはU字型の谷の形になるはずです。その正しい形を求めることが、いまの研究課題です。

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気柱 10 粘性が効く管の太さ

10回目の今日は、粘性の影響が問題となる管の太さ(半径)についてお話しします。

気柱で共鳴がおきているとき、スピーカーなどから1秒間に入射するエネルギーと、管から出ていくエネルギーの量が同じになっています。エネルギーが出ていくメカニズムには主に2つがあると考えられます。管口からの音波の放射と、管壁での摩擦によるエネルギー散逸(熱の発生)です。管内の音の定常波は、これらのエネルギー散逸の合計が最小になるように各振動モードを重ね合わせたものです。

直観的には、音の波長に較べて太い管では、管口からの放射によるエネルギー散逸が主になり、逆に細い管では、粘性によるエネルギー散逸が主になる、と考えられます。

開口端補正もそれに応じて決まるはずです。
太い管では粘性の影響は小さいので、レビンとシュヴィンガーによる理論値、つまり「開口端補正≒半径×0.61」がよい近似となるでしょう。
それに対して細い管では粘性の影響が大きいので、このブログでお話ししているように(まだ理論が完全ではありませんが…)「開口端補正≒波長×1/8」がよい近似となるはずです。

そこで、両者の境目となる管の太さがどのくらいなのかを定性的に考えてみます。これは前回お話ししたモデル3(粘性の影響を考慮した単純化モデル)の考察のための下準備です。


■エネルギー散逸を見積もる(失敗編)

管の半径をa、空気の平均密度をρ、音波による空気の振動速度(の最大値)をV、波長をλ、音速をcとします。

管口から単位時間あたりに放射される音波のエネルギーPは、「単位体積あたりの振動エネルギー×音速×断面積」なので、およそ

P 〜 ρV × c × a

の程度です(1/2やπのような数係数はすべて1に置きかえています。量のおよその大きさを見積もるための大雑把な議論なので)。

また、粘性による単位時間あたりのエネルギー散逸Qは、「壁の面積×単位面積あたりの摩擦力×空気の速度」で、ここで、「単位面積あたりの摩擦力=密度×動粘性係数(ν)×速度勾配」なので、

Q 〜 aλ × ρνV/d × V

ただし、dは表皮厚(第3回参照)でd=√{ν/ω}〜√{νλ/c}です。

PとQの表式を較べると、Pは半径aの2次関数、Qは1次関数で、いずれも原点を通ります。aが大きいときにはPの方が急激に増えます。逆にaが小さいときにはPはQに較べて小さくなります。では、PとQの大小関係が入れ替わる半径aはどれくらいでしょうか。

もちろん、それは音の波長λなどの他のパラメータによって異なりますが、例えばλ=34 cmとしてみましょう。音速はおよそ340 m/sなので、これは振動数1000 Hzの音です。等式

P ≒ Q

を変形すると、

a/λ 〜 √{ν/(cλ)}

となるので、空気の動粘性率ν=1.5×10-5 m/sも用いて

a 〜 0.1 mm

を得ます。
非常に小さな値です。こんな細い管でないと粘性が効いてこないなんて、直観に合わない気がしませんか? 半径5ミリくらいの管でも、中で共鳴して空気が振動していれば、粘性の影響が大きい気がするのに…。

実はひとつ、考え忘れていることがあります。管端で起きることをよく考える必要があるのです。


■エネルギー散逸を見積もる(成功編…たぶん)

細い管では、中に音がこもります。管端からあまり外へ出て行かないのです。このため、管が細いほど、外部の音の振幅は内部に較べて小さくなります。

これは前回「気柱9」で中と外の波を接続したときの式を眺めていただくとわかるのですが、管が細い場合、管内の音が管外へと透過していくとき、透過波の振幅は管内の振幅の(数定数を除いて)およそa/λ倍になります。波が運ぶエネルギーは振幅の2乗に比例するので、上で求めた管口からのエネルギー放射のスピードPは、正しくは(a/λ)倍しなければなりません。つまり

P 〜  (a/λ) × ρV × c × a

となり、管口からの放射エネルギーは、管の半径aの2乗ではなくて4乗に比例することになります。

これに伴い、PとQが同程度の大きさとなる管の半径も異なってきます。同様な計算をすると

a 〜 0.1 × (λ × 4 [cm])1/6

が、粘性の効果と管口からの放射の効果が同程度になる管の半径であることがわかります。以下に表にまとめてみます。(c=340 m/sとしています)

振動数[Hz] 17000 6800 3400 1700 850 425 212.5
波長[cm] 2.0 5.0 10 20 40 80 160
半径[cm] 0.22 0.48 0.86 1.5 2.7 4.9 8.7


この見積もりは数係数を無視して大雑把に行ったので、正しい値は数倍あるいは数分の1くらいかも知れませんが、定性的な傾向は正しくつかめているはずです。

表からわかるように、放射と粘性の効果が同程度になる管の半径aは、音の波長が長いほど(振動数が小さいほど)大きくなりますが、ふつうの音(数千ヘルツから100ヘルツ)なら、境目の半径は数ミリから数センチです。微妙なことに、ちょうどよく高校での実験で使われるあたりです。

リコーダーのような細い管で、開口端補正が大きいという報告があるのは、やはり粘性の効果が効いているからではないでしょうか。この場合には開口端補正の値は波長のほぼ8分の1になる、というのが私の予想です。


■興味深い実験結果

北海道の札幌南陵高校化学部の皆さんの「ソプラノリコーダーの研究」という ホームページに、 リコーダー(半径0.4cm)の開口端補正と、塩ビ管(0.65cm)の開口端補正Δの実験値がのっています。

指穴をすべて閉じた場合の開口端補正は、リコーダーの場合にはΔ=2.3 cmで、明らかに管の半径a=0.4 cmより長くなっています。(閉管と考えて2Δを補正とみると、4.6 cm。なお、振動数(525 Hz)から計算される波長は66.3cm)

一方、塩ビ管の方はΔ=0.8 cmで、管の半径の1.2倍程度となっており、やはり理論値(半径の0.61倍)より大きくなっていますが、リコーダーほどではありません。

これらの実験値が(粘性の影響を無視した場合の)理論値からずれたのは、ともに粘性の効果によるものでしょう。半径の小さいリコーダーの方が粘性の影響が強く表れたものと思われます。

------ 付記(2008.6.27):空気の動粘性係数の値をひと桁まちがえていたので、表などの数値を訂正しました。定性的な結論は変わりません。なお、表皮厚の式にもミスプリ(分母と分子が逆)がありました。混乱した方がいらしたら、申し訳ありません。

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気柱 お知らせ(2月4日)

あまり考察する時間がとれなくなってきました。更新は数週間後になると思います。ときどきお越しくださっている皆様、申し訳ありません。

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気柱 9 粘性の影響を無視した場合の理論値その1

9回目の今日は、粘性の影響を無視した場合の、円筒形の管の開口端補正の理論値についてお話しします。

この理論値についてはすでに、1948年にレビンとシュヴィンガーが厳密な解を与えています。管の内径に較べて音の波長が十分に長い場合には、「開口端補正は半径の0.6133倍」になる、というものです。

ご承知のように Wave of Sound は、空気の粘性の影響を考慮すると開口端補正はもっと大きくなると考えており、このブログではその厳密な表式を見出すことを試みています。レビンとシュヴィンガーの方法に粘性の影響を取り入れることができればよいのですが、それはどうも難しそうです。彼らの方法では、粘性の影響を考慮する際に必要な、管内の定常波の具体的な表式を見出すのが大変だからです。

そこで今回は、やや単純化したモデルで、(粘性の影響を無視する場合に)開口端補正がどのように求まるのかを説明したいと思います。モデルが現実を正確に反映していないので、「半径の0.6133倍」という厳密な理論値は導出できず、「半径の0.5倍」になってしまうのですが、簡単であることと粘性の影響を考慮しやすいという点がこのモデルの利点です。

また最後に、モデルを現実に近づけるために、どのような変更が必要かについても述べます。


■今後の研究の予定

話を始める前に、今後の予定をお話しします。

  近似的なモデル 厳密なモデル
粘性を無視 モデル1 モデル2
粘性を考慮 モデル3 モデル4


今回取り扱うのは、モデル1です。これは近似的に現実の状況を反映したモデルで、かつ、粘性の影響を無視したものです。

モデル2は、粘性の影響は無視するものの、その他の点では正確に現実を反映しています。このモデルでの開口端補正の理論値は、レビンとシュヴィンガーの結果に一致するはずですが、取り扱いの仕方が異なります。

モデル3は、モデル1に粘性の影響を取り入れたもの。モデル4は、モデル2に粘性の影響を取り入れたものです。

モデル1(今回)→モデル2→モデル3→モデル4
 または
モデル1(今回)→モデル3→モデル2→モデル4

の順に考察を進めていくつもりです。モデル4での理論値の導出が最終的な目標です。


■反射による位相のずれと定常波の腹・節

開口端補正は、管内を伝わる音波が作る定常波の腹の位置に関係した概念です。そこで、あらかじめ、反射による位相のずれと定常波の腹の位置について復習しておきます。

2つの媒質が接していて、波がある媒質から別の媒質の側へと進もうとするとき、2つの媒質の境界では一般に反射と透過が起こります。このうち境界で反射して戻る波は、もとの波より振幅がやや小さくなっています。別の媒質へと透過していく波が入射波のエネルギーの一部を持ち去るからです。

では、反射波の位相はどうでしょうか。
これには大雑把に分けて2つの場合があります。入射波と同じ位相で反射する場合(自由端的反射)と、入射波と逆の位相(=πずれた位相)で反射する場合(固定端的反射)です。いずれの場合にも、もとの媒質中では互いに逆向きに進む2つの波(入射波と反射波)が足し合わされて(=干渉して)、進まない波(定常波)が生じます。

自由端的な反射では、境界の媒質は波によって動くことができるので、境界は定常波の腹になります。固定端的な反射では、境界の媒質は波によって動かず、境界は定常波の節になります。

反射波の位相が入射波に対してどのようにずれるか、ということが、定常波の腹の位置を決めている点に注意して下さい。


■気柱の開口端での反射波の発生

次に気柱の場合を考えます。
図のように管内を進んできた波(波1=入射波)が、開口のところから球面上に広がっていきます(波2=透過波)。しかし、それだけではありません。開口部から管内を逆方向に戻っていく波(波3=反射波)もあるはずです。



なぜ反射波があるのだろう、と疑問に思われるかも知れません。今の場合、管内も管外も媒質はどちらも空気で、2つの異なる媒質が接しているわけではないからです。

この場合に反射波が生じるわけを理解するには、音の伝わるメカニズムを考えるとよいでしょう。音は粗密波です。空気の密度が周囲よりわずかに大きいところができると、その部分の圧力が高くなり、まわりの空気を押しやります。その結果、もとの部分の圧力は下がり、まわりの空気が圧縮されます。それがさらにその周りの空気を圧縮し…ということが繰り返されて音は伝わっていきます。

いま、管内の空気は管壁でその動きが制限されています。一方、管外の空気は、そのような制限は受けていません。管外の空気は管内の空気より自由に動けるわけです。つまり、管外と管内はおなじ空気という媒質ではありますが、音の伝わり方に違いがあります。

この違いのために、管内を進んできて管外へと出て行こうする波は、管口のところで「つまずいて」しまいます(比喩的ですが…)。このときに反射波が生じます。


■反射波の位相のずれと開口端補正

この反射波の位相は入射波に対してどうずれているでしょうか。
開口のところの空気はほとんど自由に動けるので、あたかも開口部が自由端であるかのように反射波が生じるのではないか、と予想されます。

実際にもほぼその通りなのですが、厳密には開口部の少し外側に自由端があるかのように反射波が生じます。このずれる距離を開口端補正と呼ぶことはご承知の通りです。

ポイントは、開口部で反射して管内を戻っていく波(反射波)の、入射波に対する位相のずれさえ計算できれば開口端補正が計算できる、という点です。


■単純化したモデル

そこでこの位相のずれを、単純化したモデルで計算してみます。以下では、多少の物理数学の知識(特に、複素関数としての指数関数と、それによる波の記述)を仮定します。詳しくない方は、適当に斜め読みして、結論の部分で、位相のずれ(2δとします)から開口端補正(Δとします)が求まっている、という流れを把握していただければと思います。



x軸に沿って伸びた半径aの無限に長くてごく薄い円筒があるとし、開口部がx=0で、円筒はx<0の領域にあるとします。
円筒には、円錐台の側面の形をした無限に伸びた「つば」がついていて、その円錐の頂角はα、円錐台の側面の延長は、x軸上の正の部分にある一点Cで交わるとします。(以後はα=180度の場合を考えます。つまり、つばが円筒の外壁に密着した場合を考えるわけです)

φを音波の速度ポテンシャルとします(v=−grad φが速度場)。管内の音波はx方向に進む平面波であるとし、その波形をkを波数として

φ1 = A exp(ikx) + B exp(−ikx)

とおきます。ここで時間tに依存する因子exp(−iωt)は省略しています。この因子を考慮すれば、上の式で、Aは右向きに進む波(入射波)の複素振幅、Bは左向きに進む波(反射波)の複素振幅です。

次に、管外を考えます。
波長に較べて広い隙間を通る波はあまり広がらず、狭い隙間を通る波は大きく広がるという、波の回折の特徴を思いだすと、開口部を出て広がる波は、波長にくらべて管の半径が小さい場合には、球面上に大きく広がると考えてよいでしょう。管の半径が小さくない場合には、広がる球面波のエネルギーは前方に集中するので、波の強さが角度に依存するはずですが、今回は各方向に一様に広がると近似することにします。すると、広がる球面波の波形は

φ2 = C exp(ikr)/r

とおくことができます。ここでrはx軸上の点Cからの距離です。

この、管内と管外の2つの領域での波の表式がなめらかにつながる、という条件から、入射波と反射波の位相のずれがわかるのです。

では、この2つの表式をどのようにつなげばよいでしょうか。
ここでは、少々荒っぽい仮定を導入して、取り扱いが簡単になるようにしましょう。もちろん、以下の仮定は近似であって、現実の状況を正確に反映したものではありません。

管の断面積がπaであることに注目します。これと同じ面積をもつ球面の半径をbとすると πa2 = 4πb より b=a/2 となります。そこで、次の2つの仮定をおきます。

・x=0におけるφ1と、r=bにおけるφ2とが等しい(連続性)
・x=0におけるdφ1/dxと、r=bにおけるdφ2/drとが等しい(導関数の連続性)

具体的に式で表すと第一のものは

A + B = C exp(ikb)/b

第2のものは

ik(A − B) = (ikb − 1)C exp(ikb)/b2 

となります。両式からCを消去して

−B/A = (1−2ikb)-1

最後の式の右辺の複素数のargument(偏角)を2δとおくと、これが求める位相のずれです。 ちょっと計算すると、この半分、つまりδが(位相であらわした)開口端補正になることがわかります(注)。

δ = arctan(2kb)/2
  ≒ ka/2 ー (ka)3/6

よって、開口端補正の長さΔを波長λと管の半径aで表すと

Δ = λ×δ/(2π)
  ≒ λ/(2π) × (2π/λ) a/2 (1+ O((a/λ)2))
  = a ( c1 + O((a/λ)2))

ただし、c1 = 0.5 となります。

レビンとシュヴィンガーによる厳密解では c1 = 0.6133 なので、このモデルでの理論値は厳密解よりやや小さめになりました。その理由は2つあります。1つには、内部と外部の解をなめらかにつなぐ際に荒っぽい(天下り的な)仮定を導入したこと。もう一つは、開口部から管外へと広がっていく球面波の強さが方向によらないという近似を行ったことです。

これらの問題点は、モデル2において改善したいと思っています。

以上で、粘性の影響を考慮しない場合の開口端補正についての、単純化したモデル(モデル1)による理論値の話を終わります。

注:上で求めた位相のずれδが開口端補正を表していることを簡単に説明しておきます。
入射波をA exp(ikx) 、反射波をB exp(−ikx)とするとき、上では複素数−B/Aの偏角を2δとおきました。

さて、水面の位置を上下させて共鳴点を探る実際の気柱共鳴の実験では、入射波A exp(ikx) は、水面で反射して管口へと向かう波を表しています。また、管内には、管口で反射して管内に戻る波B exp(−ikx)に加えて、管外のスピーカーなどから管内に入射して、水面へと進む波が存在します。この波が、反射波B exp(−ikx)と同じ位相を持つように水面の位置を調節しているわけですから、結局、水面から管口へ進む波と、逆方向へと進む波はほぼ同じ振幅になっているはずです。ただし、両者の位相は2δだけずれています。

よって、管内の音波の波形(速度ポテンシャル)は、以下の量に比例するでしょう。

exp(+ikx) ー exp(2iδ ー ikx)

= 2i exp(iδ)sin(kx − δ)

速度場は、速度ポテンシャルの勾配なので、この量をxで微分した量

定数 × cos(kx − δ)

に比例します。この最後の表式は、定常波の腹が kx − δ = (πの整数倍)を満たす位置にあることを示しています。(説明終わり)

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気柱 お知らせ

公式にあらわれる発散の除去に手間取っています。 小さな進展や思いついたアイデアはこちらのホームページで報告しています。どうぞお越し下さい。

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気柱 8 円筒形の管の開口端補正

少し日が空いてしまいましたが、8回目の今日は、円筒形の管の開口端補正の長さについてお話しします。どんな順番で書くべきかちょっと迷いました。というのは、物理数学(波動方程式の円筒座標での分離やベッセル関数)を使わないで説明する方法を思いつかなかったからです。そこで、まず、最初に大まかな話の流れを図で説明してから、計算の概略を補足でつけることにしようと思います。


■円筒形の管内部の空気の振動状態

円筒形の管の内部の空気が、外からの決まった振動数の音波によって振動し、定常波が生じているとします。管の一方は空いており(開口)、他方は閉じている(あるいは水面などの存在によって固定端になっている)とします。管の長さは十分に長いとします。

細い管(外からの音の波長に較べて管の半径が十分に小さい管)では、管内の空気の振動はこれまでと同様、奥までとどく正弦波モードと、開口付近に局在する無数の指数減衰モードの重ね合わせになります。それぞれの振動モードでの空気の振動の様子を、管の断面で切って見てみましょう。

まず、正弦波モードの場合、空気は断面のどこでも一様に、管口から奥へ、奥から管口へと軸に沿った方向に振動しています。といっても、その振動の振幅は通常の音の強さならごくごく小さい距離ですが。これを次のような図で表すことにします。プラス記号はある時刻に空気が向こうに向かって動いていることを示します。もし、振動の半周期だけ後の時刻なら、手前に向かって動いていることを示すマイナス記号を書くべきでしょう。

_8_1.jpg



管壁に近い部分の空気も、中心付近と同様の振幅で振動しています。ただし、厚さ0.1ミリにも満たない表皮層の部分の空気だけは違います。管壁のごくごく近くの表皮層では管壁に近づくほど振幅は小さくなり、管壁に接するところの空気は動いていません。空気の粘性のためです(第3回参照)。上の図が示しているのは、表皮層の部分を除いた、管の内部の振動状態です。これから示す図も同様です。

次に、指数減衰モードの場合ですが、以下のようにさまざまな振動状態(無数)があります。太鼓の膜の振動に似ています。ただし違いもあって、太鼓の場合には縁のところが振動しないのですが(固定端)、今の場合には管壁のところの空気は振動します(自由端)。

_8_2.jpg



左上の図は指数減衰モードではなくて正弦波モードですが、比較のために入れてあります。

点線は節線(空気が振動しない場所)です。見てわかるように、節線には半径方向に放射状に走るものと、円形のものとがあります。

左の2つの図は、半径方向の節線がないモード、いいかえると、円周に沿って移動しても半径が同じなら振動状態が変わらない振動モード(軸対称な振動モード)です。これらのモードは、円形に広がる波と管壁から中心へと円形に縮む波とが重ね合わされた結果生じているものです(実際には波は管の軸に沿った方向にも進みますが今は断面に沿った方向の進行に注目しています)。もちろん、この下には、円形の節線が2本あるモード、3本あるモード、…などの図が続いています。

次に、他の図(中央や右側の4つの図)に注目します。これらは、半径方向の節線を1つあるいは2つもつ振動モードです。半径を一定に保ちながら円周に沿って移動すると、空気の振動の様子が違っています(軸対称でない振動モード)。ある時刻に、ある場所で空気が手前向きに動いているとして、別の場所では向こう向きに動いていることもあります。これらは、円周に沿って回転しながら広がる波と、逆方向に回転しながら中心に向かって縮む波とが重ね合わされた結果生じているものです。この右には、半径方向の節線が3本あるモード、4本あるモード、…などの図が続いています。

つまり、指数減衰モードは無数にあって、各モードは、半径方向の節線の数m=0,1,2,…と円形の節線の数n=0,1,2,…の組(m、n)で指定できます。ただし、(m、n)=(0,0)のモードだけは例外で、これはおなじみの正弦波モードです。

詳しく言うと、mが1以上のモード(軸対称でないモード)は、半径方向の隣り合う節線どうしがなす角度の半分だけ回転してやると(例えばm=1のモードなら90度、m=2のモードなら45度回転)、回転前とは独立な振動モードを表します。それらをm=ー1,m=ー2などと表すことにすれば、結局、指数減衰モードのそれぞれは、整数m=…、ー2,ー1,0,1,2,…と整数n=0,1,2,…の組(m、n)で指定できることになります(ただし(m、n)≠(0,0))。


■指数減衰モードの減衰率と(m、n)

上では断面で切って振動状態を見ましたが、管の軸に沿った方向に空気の振動状態はどう変化しているでしょうか。

答を言えば、断面図に現れる節線の数(mやn)が多いモードほど、管口から奥へと進むにつれ定常波の振動の振幅は急激に減衰します。これは、第6回で調べた、一辺が無限に長い長方形の断面をもつ管の場合と同様な結果です。


■開口端補正に影響しないモード

ここで紹介している仮説によると、指数減衰モードが正弦波モードとうまく打ち消し合って、管壁での摩擦熱の発生量を抑えるような各モードの重ね合わせの比率から、開口端補正の長さが決まります。

一辺が無限に長い長方形の管の場合には、指数減衰モードのうち、向かい合う2つの面で空気の振動方向が逆になっているような振動モードは開口端補正に寄与しませんでした。そのような指数減衰モードは、正弦波モードと一方の面で強め合うならば、他方の面では弱めあい、2つの面での効果が打ち消し合うからです。

同様なことが、円筒形の管でも起こります。軸対称でない指数減衰モード(mがゼロでないモード)は、開口端補正に寄与しないのです。管壁のある部分(例えば先ほどの図で+と書いたところ)でそれらのモードと正弦波モードが強め合っても、別の場所(ーと書いたところ)では弱め合うからです。

開口端補正に影響するのは、軸対称なモード(m=0,つまり、先ほどの図で一番左側の列にある無数のモード)だけです。


■軸対称な指数減衰モードの減衰率

そこで、n=1,2,…に対して、(m、n)=(0,n)のモード(軸対称な指数減衰モード)の減衰率pnを知る必要があります。この減衰率が、開口端補正を求める公式に現れるからです(第7回参照)。以下の補足で示すように、結果は

   pn = (ξn/a ) √{1 ー ( 2πa/(ξn λ) )2}

です。ここで、aは管の半径、λは音の波長、ξnは第1次ベッセル関数 J1(z) の正のn番目の零点です。ベッセル関数のグラフは例えばこのページで見ることができます。J1(z) は関数 sin(z)/√{z} をちょっと変形したような関数だと思ってみると、だいだいの様子が理解できます。

零点の値はξ1 ≒ 3.8、ξ2 ≒ 7.0、ξ3 ≒ 10.2、…となっています。関数 J1(z) は、第0次ベッセル関数 J0(z) を微分したものになっています。

   J1(z) = ー d/dz J0 (z)


■円筒形の管の開口端補正の長さを表す公式

あとは、第7回で述べた公式(*)にこの減衰率を代入すれば、円筒形の管の開口端補正がわかります。結果を開口端補正の長さΔのほうで示すと、次のようになります。軸対称な指数減衰モードのうち、最初のN個が励起されていると仮定しています。

   Δ = λ/8 − a × {A + B (a/λ)2 + C (a/λ)4 + …}

A、 B、 C、…は以下のような定数です。

   A = 2 {1/ξ1 + 1/ξ2 + 1/ξ3 + … + 1/ξN }
   B = 4π2/3 {(1/ξ1)3 + (1/ξ2)3 + (1/ξ3)3 + … + (1/ξN)3 }
   C = 定数 ×{(1/ξ1)5 + (1/ξ2)5 + (1/ξ3)5 + … + (1/ξN)5 }
   ……

管の半径aが波長λに較べて小さい管では、開口端補正の長さΔはaの一次関数でよく近似でき、aが0に近づく極限では波長の8分の1に近づきます。


■発散の問題

ベッセル関数の零点ξnは、だいたいnに比例して大きくなるので、係数Aは、長方形の管の場合と同様、N→∞の極限で対数的に発散してしまいます。この発散を処理して有限の答を得ることが目下の課題です。長方形の管のところで述べたアイデアを追究することで、実験結果を説明する公式を得ることが可能だと予想しています。


■補足(計算の概略)

上で省略した計算の概略をお話しします。多少の物理数学の知識を仮定します。

<問題の定式化>
管壁の近くの表皮層以外の領域では、弱い音波は、粘性項を無視した単純な線形の波動方程式

   ( c-22/∂t2 ー ∇2 ) ψ = 0    (1)

を満たすと考えることができます(cは音速)。ここでスカラー場ψは速度ポテンシャルで、空気の速度場vと

   v = ー∇ψ

の関係にあります(電位と電場の関係をイメージして下さい)。

(注:表皮層内では空気が渦巻くので、速度場はスカラー場ψの勾配∇ψだけで表すことはできず、もっと詳しい考察が必要になりますが、ここでは立ち入りません。)

空気は管壁を突き破っては動けないので、管壁のところでは、速度場vの管に垂直な成分は零でなければなりません。この条件を速度ポテンシャルψで表すと

   ∂ψ/∂n = 0 (管壁のところで)  (2)

となります。nは管壁に垂直なベクトル(法線ベクトル)です。速度場の管壁に平行な成分には制限はありません。結局、波動方程式(1)の定常解で、境界条件(2)を満たすものを求めれば、(粘性による管壁でのエネルギー散逸を無視した場合の)管内の定常波がわかります。

いま、半径aの管がx軸に沿ってx>0の方向に無限にのびていて、x=0の位置に開口があるとします。円筒座標をとり、中心軸(x軸)からの距離をr、角度をθとします。この座標系でラプラシアンは

   ∇2 = ∂2/∂x2 2/∂r2 r-1 ∂/∂r + r-22/∂θ2

となります。

<波動方程式の定常振動解>
波動方程式(1)の変数分離形の管内での解を通常のようにして求めることができます。いまは、定常振動解で、かつ、x方向に指数減衰し、かつ、角度θに依存しないものものに興味があるので

   ψ = cos(ωt) exp(ーpx) R(r)

とおき、(1)に代入すると R(r) が満たすべき微分方程式

   ( d2/dr2 r-1 d/dr + α2 ) R(r) = 0

ただし、α = √{k2 + p2}、k = ω/c を得ます。

この解は一般に R(r) = A J0(αr) + B Y0(αr) (A, Bは定数)と書けますが、ノイマン関数(第2種のベッセル関数) Y0(αr)はr=0で対数的に発散するので、速度ポテンシャルを表すには適しません。よって、R(r) = A J0(αr) となります。

境界条件(2)よりr=aにおいて d/dr J0(αr) = 0 が成り立つ必要があります。J0の微分はーJ1なので

   J1(αa) = 0

これを満たすαは無数にあります。すなわち、α=ξn/a (n=0, 1, 2, 3, …)。

関係α = √{k2 + p2}に代入すると、n=1,2,3,…に対し、減衰率pn

   pn = √{(ξn/a)2 ー k2}

であることがわかりました(これを少し変形すると、上で紹介した減衰率の表式に一致します)。

なお、n=0のモードは減衰率pnが純虚数になるのでx方向に減衰しません。もちろん、これは正弦波モードに対応しています。
(補足おわり)

   *

今後は、表皮層でおきることを詳しく考え、エネルギー一定の条件下で開口端補正を求める話を書いていく予定です。次回の更新はすこし遅れるかも。では。

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気柱 7 開口端補正の長さ

7回目の今日は、前回やり残した、開口端補正の長さを管の太さ(幅)で表す公式を導きたいと思います。引き続き、幅(一辺)がaで、他の辺が無限に長い長方形の管について考えますが、最後に、円筒形の管の場合の開口端補正の長さについてもお話しします。

材料はすべて揃っているので、あとは式に代入するだけなのですが、本題に入る前に、管口付近に局在するモードでの管内の空気の振動の様子について図で説明しておこうと思います。これは、出てきた公式の物理的意味を理解するために、あとで必要になります。


■指数減衰モードでの振動状態

7zu1.jpg


上の図は、n=1の指数減衰モード(管壁に垂直な方向の節の数nが1のモード)での、ある瞬間の管内の空気の速度を示しています。左端が開口で、右へ行くほど振動の振幅は小さくなります。半周期後には、各場所の速度は逆向きになります。

図からわかるように、壁のすぐそばの空気の振動は、上下の壁で逆向きになっています。
上の図は中央に1つだけ節があるモードの振動の様子ですが、一般に、壁と壁の間に奇数個の節があるモード(n=1,3,5,…)では、上下の壁で空気の速度が逆向きになります。

それに対して、壁と壁の間に偶数個の節があるモード(n=2,4,6,…)では、上下の壁で空気の速度が同じ向きになります。

また、節の数nが大きいモードほど、奥へ(右方向へ)の振動の振幅の減衰の仕方が急激になります。nが大きいほど、開口付近に局在しています。

なお、n=0のモードだけは特別で、奥へ行っても減衰しません。これはおなじみの正弦波モードです。振動の様子は第3回で示した図の周期的な繰り返しになります。


■開口端補正の長さを表す公式

前回、節の数がnであるモードの減衰率pnを求めました。結果は

   pn = (πn/a) {1 − (2a/(λn))2 }1/2

です。また、第4回で、無数にある指数減衰モードのうち、n番目のモードだけが励起可能な場合に、位相(角度)で表した開口端補正δが

   δ = π/4  ー θn  

ただし θn = 2 Arctan(k/pn)   (k=2π/λに注意)
   
であることを導きました。そして、指数減衰モードのうち、1番目からN番目までのすべてのモードが励起可能な場合には、位相で表した開口端補正が

   δ = π/4 − (θ1+θ2+…+θN)  (*)

と、各モードの寄与の単純な和になることもお話ししました(結果は簡単ですが、計算は大変なので、説明は省きました)。

重要なポイントを復習しておきます。波長λに較べて管の幅aが小さい場合にはθnたちは小さいので、δ≒π/4となります。位相2πが一波長λに対応するので、開口端補正の長さΔは、

   Δ = δ/(2π) λ ≒ λ/8

と、波長のほぼ8分の1になるのでした。

今回はさらに詳しく、上の式(*)の右辺のθnたちの効果もちゃんと考えたいと思います。しかし、その前に1つ、ちょっとした修正が必要です。


■節の数nの偶奇と開口端補正への寄与

第4回では、指数減衰モードでの空気の速度が、上下の壁のところで同じ向きであると仮定して議論を進めましたが、上で見たように、nが奇数のモードではその条件は成立していません。

計算してみるとわかるのですが、nが奇数のモードは開口端補正に全く寄与しないのです。これは、nが奇数のモードの場合、それが正弦波モードと上の壁で強め合うならば、下の壁では弱め合うからです。共鳴するときの正弦波モードの腹の位置は、管壁でのまさつ熱の発生量を最小にする位置ですが、それはnが奇数のモードがどの程度強く励起されているかには全くよらないことがわかります。

というわけで、(*)の式は以下のように修正しなければなりません。偶数番目のモードの寄与だけが現れるのです。

   δ = π/4 − (θ2+θ4+…+θ2m)  (**)

ただし、N=2m(mは自然数)とおきました。


■公式

あとは式(**)が幅aのどのような関数なのかを調べるだけです。いまは、幅aの波長λに対する比 a/λ が小さい量なので、この量で展開してみましょう。|ε|が微小なときの展開式

   (1+ε)n  =  1 + n ε + …

   Arctanε = ε − 1/3 ε3 + …

を用いることができます。結果を開口端補正の長さΔのほうで示すと、次のようになります。

   Δ = λ/8 − a × {A1 + A3 (a/λ)2 + A5 (a/λ)4 + …}

A1、 A3、 A5、…は以下のような定数です。

   A1 = 1/π  {1 + 1/2 + 1/3 + … + 1/m}
   A3 = 1/(6π)  {1 + 1/23 + 1/33 + … + 1/m3}
   A5 = 定数 × {1 + 1/25 + 1/35 + … + 1/m5}
   ……

幅aが波長λに較べて小さい管では、A3以降の項は無視できるほど小さいので、開口端補正の長さΔはaの一次関数でよく近似でき、aが0に近づく極限では波長の8分の1に近づきます。


■円筒形の管の場合

円筒形の管の場合にも結論から言えば、Δは、管の半径aの関数として上と同様な公式で与えられます。ただし、定数A1、 A3、 A5、…の値は異なります。先ほどは、これらの定数には、1,2,3,…という等間隔に並ぶ整数を、何乗かして分母においた分数の和が現れました。この等間隔の整数の起源をさかのぼると、上下の管壁が自由端になるという境界条件にたどりつきます。式で言えば

   d/dy cos(πy)  =  0

を満たす正の実数yがy=1,2,3,…であったということです。

円筒形の管の場合には、境界条件に、三角関数の代わりにベッセル関数 J0(ρ) が登場します。ベッセル関数というのは、円筒状に広がる波(離れるにつれ振幅は減衰する)を表す場合にいつも現れる関数で、三角関数の兄弟のようなものです。ベッセル関数という名で呼ばれる関数は無数にあって、添え字の0はそのうち「第0次」のベッセル関数であることを表す記号です。さて、

   d/dρ J0(ρ)  =  0

を満たす正の実数ρがρ=ξ1、ξ2、ξ3、…(こんどは等間隔ではありません)であるとして、これらが、1,2,3,…の代わりに円筒形の管のΔを表す公式に登場します。

また、一辺が無限に長い長方形の管では、指数減衰モードのうち、上下の壁のところで空気の動きが逆になっているモードは開口端補正に寄与しませんでした。これに類似したことは円筒形の管でもおこります。管の断面の円周に沿って回ったとき、ある場所では空気は奥の方へと動いているが、同じ瞬間に、円周の別の場所では管口へ向かって動いているようなモードは、開口端補正に寄与しません。こうしたモードは、管壁で反射しつつ、回りながら進む波に対応しています。そうしたモードは考える必要はなく、円周上の点が同じ位相で振動しているモードだけを考えればよいことになります。

円筒形の管については、また後日、詳しくお話しする予定です。


■発散の問題について

公式に現れた定数 A1 について、さらに考えるべきことがあります。励起される(節が偶数の)指数減衰モードの個数mが大きくなると、定数A1

    A1 〜 log m

のように振る舞います。mを無限大に近づければ、ゆっくりとではありますが、A1は発散してしまうのです( その他の定数 A3、 A5、…は有限値に近づくので問題ありません)。これは明らかにおかしな結果です。なにがまずかったのでしょうか。

発散が起きてしまった理由は、指数減衰の各モードは、(管壁でのまさつ熱の発生を最小にするような)任意の振幅をとることができる、と仮定したことです。これは、必要なら外からいくらでもエネルギーが供給される、と仮定したことにほかなりません。

実際には、指数減衰モードが期待した振幅で励起されるとは限りません。特に、節の数が大きなモードは、管口付近にしか存在しないため、励起されにくく、また、波の形がなめらかではないので、粘性によりエネルギーを失いやすいのです。


■発散の問題の解決法

こうした現実の物理的状況を取り入れる一番簡単な方法は、定数A1を計算する和においてmを無限大だとは考えずに、m=4とかm=7とか、他の適当なところで止めた有限和を考えることです。どこで止めるかは、(理論探求の放棄ですが)実験にあうように決める!(笑)

もう少しましな方法は、公式を天下り的に修正して

   δ = π/4 − (c2 θ2 + c4 θ4+ c6 θ6+…)

とすることです。ここで c2、c4、c6、…は「手でおく」定数で、最初の方は1に近い値をとりますが、あとへ行くほど減少して0に近づきます。各モードがどの程度期待どおりに励起されているかを表す定数です。これらの具体的な値は、モードが励起されるメカニズム(管壁の振動や音波の非線形性による他のモードとの相互作用)やエネルギー散逸のメカニズムを考慮して決めるとよいでしょう。この修正によって、定数 A1の発散をなくすことができます。

とはいえ、この方法で「手でおく定数」である c2、c4、c6、…を決める際には、管の材質で決まる(内部の空気の振動ではない)管自体の固有振動の周期など、気柱共鳴の現象とは無関係な物理現象の考察が必要になるので、不満が残ります。直観的には、そうした外部の環境要因とは無関係な、最大公約数的な公式がありそうに思えます。

より洗練された方法は、問題の設定自体を変えてしまうことでしょう。第4回では正弦波モードの振幅を一定と仮定しましたから、指数減衰モードがどれほど大きなエネルギーを持ってもよかったのです。これが問題を引き起こしました。

その代わりに、管内の定常波の総エネルギーを一定とおけばよいでしょう。その条件のもとで、管壁でのエネルギー散逸を最小にするように、正弦波モードの腹の位置(つまり開口端補正)と各指数減衰モードの振幅を決めれば、無限大はあらわれないはずです。計算上の困難があって、十分に調べていないのでまだあまり書けないのですが、研究が進んだらまた報告します。

では、今日はこれで。次回は、円筒形の管とベッセル関数の話をする予定です。

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気柱 6 指数減衰モード(2)

6回目の今日は、前回に引き続いて、気柱内の管口付近に局在する定常波のモード(指数減衰モード)についてお話しします。

今回の目標は、管の太さが指数減衰モードにどう関係しているのかを調べることです。

管が細い(あるいは幅が狭い)ほど、指数減衰モードの減衰率(管口から奥へ入るときに振幅が減衰する程度)が大きくなることを示します。これは、開口端補正の長さを管の太さで表す公式を導くための重要なステップです。

以下では、音の波長λは与えられた定数と考えます。音速(これは気温や気圧、湿度で決まります)と音源の振動数が与えられれば、λは決まるからです。


■斜めに進む波の、各方向への波長と波数

前回お話ししたように、管内に生じる定常波は一般に、逆方向に進む2つの波を重ねあわせたものとみなせます。そのうち、正弦波モードは、管の軸に沿った方向に進む波を重ね合わせたものですが、指数減衰モードは、管壁で何度も反射しながら斜め方向にジグザクに進む波を重ね合わせたものです。

6zu1.jpg


そこで、斜め方向に進む波に注目します。波の波長をλとします。これは、図の青線の間隔(ある時刻の、となりあう波の山と山の間の最短距離)です。

左右方向に歩いていったときの波の山どうしの間隔、つまり左右方向の波長λLや、同じようにして定義される上下方向の波長λTは、λとは異なります。図からわかるように、波の方向をθとして

   cosθ = λ/λL 、   sinθ = λ/λT

の関係があります。サインとコサインの間には cos2θ+sin2θ=1 の関係が常に成り立つので、上の式を代入すると (λ/λL) 2+(λ/λT )2=1 あるいは変形して

   (1/λL) 2+(1/λT )2 = (1/λ)2   (*)

の関係が、各方向の波長の間に成り立つことがわかります。

左右方向の波長λLは、上の式からわかるように、一般にはλより大きくなります。(実数の2乗は0以上であることを思い出して下さい。)図から考えても明らかですね。

ただし、真横に進む波では、図からわかるようにλTが無限大となるので、左右方向の波長λLとλは一致します気柱共鳴の実験で測定しているのはふつう、管壁で反射したりせずに真横に進む正弦波モードの波長ですが、この正弦波モードの場合にはλLとλは一致すると考えて構いません(注)。

注:管壁で課すべき境界条件が自由端条件でない場合には、λLとλは少しずれてきますが、今回は自由端境界条件を仮定することにします。


■管内を斜めに進む波の各方向の波長

2枚の広い平行な板が、距離aを隔てて向かい合っているとします。板は左右方向にのびているとします。この間に生じる定常波の、各方向への波長を考えます。板の所では、山は山として、谷は谷として反射されるとします(自由端境界条件)。まず、上下方向(板に垂直な方向)の波の波長を考えます。

この場合には、上下方向の波の波長λTは、板どうしの間隔aと関係してきます。なぜなら、板のところが(上下方向にみたときの)定常波の腹になるからです。

上下の板が腹で、中間に節が1つだけある状況では、間隔aはちょうど波長の半分ですから
   a = 1/2 λT

上下の板が腹で、間に節、腹、節と並ぶ状況では、間隔aはちょうど波長の2/2倍ですから
   a = 2/2 λT

上下の板が腹で、間に節、腹、節、腹、節と並ぶ状況では、間隔aはちょうど波長の3/2倍ですから
   a = 3/2 λT

一般に、間に節がn個ならぶ状況(振動モード)では、間隔aはちょうど波長の n/2 倍ですから
   a = n/2 λT
あるいは変形して
   1/λT = n/(2a) (n=1,2,3,…) (★)

となります。節の数nが多いモードほど、上下方向の波長λTは短くなります。

(この項と、関連する以下の部分にケアレスミスがあったので、ちょっと書き直しました。 10.14 記)

■左右方向の波長

左右方向(板に平行な方向)の波長λLは、上下方向の波長が決まれば自動的に式(*)から決まります(下に再掲)。
   (1/λL) 2+(1/λT )2 = (1/λ)2   (*)

節の数nが多いモードになるほど、λTが短くなり、λLは逆に長くなります。最初に示した図からわかるように、このことは、波の進む方向が、左右方向からだんだんと上下方向へと傾くことを意味します。つまり、上下方向の節の数が多いモードというのは、管の内壁で何回も反射しながら進む波に対応しているのです。

さて、図から明らかなように、上下方向の波長λTは、音の波長λを越えて小さくなることはできません。これを式★とあわせて考えると、十分に大きなnに対しては関係(*)を満たすような進行波は存在しないことがわかります。

この事情は、屈折の法則を満たす屈折角がない状況で全反射がおきることに似ています(前回の解説を参照)。この場合、遠方まで届く屈折光はなく、境界付近からわずかに漏れ出す光は、境界から離れると急激に減少するのでした。

気柱の場合には、これは管口付近にだけ存在し、奥へ進むと振幅が急激に減衰するモード(指数減衰モード)に対応しています。

ふつう気柱共鳴に使うのは、音の波長λに較べて細い管(aが小さい)です(λは数十センチ、aは数センチくらい)。そのような状況では、さらに興味深いことがおこります。式★からわかるように、そのような管では、n=1のモードに対してすら、λTは波長より十分に小さいのです。つまり、事実上すべての斜めに進む波が、指数減衰モードに対応することになります。奥まで届くのは、真横に進む正弦波モードだけです。


■波の式と波数

左右方向の座標をxとします。原点を適当にきめれば、ある時刻の、2枚の板から一定の距離のところの、座標xの場所における媒質の変位fは一般に

   f = A cos((2π/λL)x)

のように書くことができます。λは波の波長で、Aは定数です(Aの値は上下方向の座標によって違いますが、いまは縦座標は一定として考えています)。上の式で、座標xがλLだけ増えれば、ちょうど位相(=cosの中の角度の部分=(2π/λL)x)が、2π(一周)だけ増えます。波長には、位相が2πだけ変わる長さ、という意味があります。

指数減衰モードの減衰率を管の太さaで表すために、波数という量を考えます。波数とは、
   波数 = 2π/波長

で定義される量で、場所による位相の変化の度合いの尺度です。ちょうど、角振動数が
   角振動数 = 2π/周期

で定義され、時刻による位相の変化の度合いの尺度であるのと同様です。

関係(*)により、波の波数k(=2π/λ)、上下方向の波数kT(=2π/λT)、左右方向の波数kL(=2π/λL)の間には

   
2 = kT2 + kL2

の関係があります。よって kL = √{k2 − kT2}。これに式(★)を代入して、左右方向の波数を幅aと節の数nで表すと

   kL  =  √{k2 − n2 (π/a)2}   

さて、この式は、ルートの中が正の量であると仮定して得られたものです。しかし、先ほど述べたように、狭い管(今は2枚の板です)ではaが小さく、ルートの中は負の量ですから、波数kLは虚数になってしまいます。つまりiを虚数単位(i2 = −1)として

   kL = ±pi ただし p = √{ n2 (π/a)2 −k2 }

となるわけです。

この場合に、場所xの媒質の変位fを表す式

   f = A cos((2π/λL)x) = A cos(kL x)

には、なんらかの意味があるのでしょうか。


■オイラーの公式(指数関数と三角関数の関係)

実はこの問題は、数の範囲を複素数にまで拡張すると、三角関数と指数関数の間に関係が生じる、という深くて美しい数学に関係しています。その関係はオイラーの公式と呼ばれ、

   exp(iθ) = cosθ+ isinθ

と表されます。上の式でθ=πとおくと

   eiπ = −1

となり、円周率π、虚数単位i、自然対数の底eという、数学で重要な3つの定数の間にある、神秘的にすら見える関係式が現れます。詳しい説明は解説書にゆずり、ここではオイラーの公式を認めて話を進めます。

上の式は、指数関数を三角関数で表す式ですが、逆に、三角関数を指数関数で表す式を求めてみましょう。上の式でθを−θで置きかえて、関係cos(−θ)=cosθ、sin(−θ)=−sinθに注意すると

   exp(−iθ) = cosθ− isinθ

これを先ほどの式と各辺どうし加えて2で割って

   (exp(iθ) + exp(−iθ))/2 = cosθ

これで、コサインを指数関数で表す式が得られました。各辺どうし引いて2で割ると、サインを指数関数で表す式も得ることができます。

   (exp(iθ) − exp(−iθ))/(2i) = sinθ

さて、コサインを指数関数で表す式のθに、先ほどのkLx = ±pixを代入してみます。コサインは偶関数なので、±のどちらを代入しても同じですから、θ = pixとおくことにしましょう。するとi2 = −1 に注意して

   cos(pix) = (exp(i・pix) + exp(−i・pix))/2

        = (exp(−px) + exp(+px))/2
  
を得ます。この右辺の第1項は右方向へ減衰率pで減衰する指数減衰モードを表し、第2項は左方向へ同じ割合で減衰する項を表しています(注)。つまり、純虚数の波数は、減衰する定常波のモードの、減衰率を表していたのです。

注:ここでは簡単のためコサインしか考えていませんが、一般には、定常波の各モードの振幅はA cos(kL x) + B sin(kL x) のようにサインとコサインの重ね合わせで表されます。上のように波数kL が純虚数になる場合には、それは結局、exp(−px) と exp(+px)の重ね合わせになります。重ね合わせの重みは、水面の位置(x=L)で振幅がゼロになるように選ぶべきです(固定端)。そうすると、管口付近(x≒0)では、第1項の指数減衰モード exp(−px) が大きく、第2項のexp(+px)は無視できるほど小さくなります。


■指数減衰モードの減衰率pnと管の幅aとの関係

2枚の板が間隔aで向かい合っている「管」の場合に、第n番目の指数減衰モードの減衰率pnと「管」の幅aの関係は、いま求めたように、

   pn = √{ n2 (π/a)2 −k2 }

     = √{ n2 (π/a)2 − (2π/λ)2 }


となります(k=2π/λ)。ここで、nは板の間に存在する節の数を表します。

ふつう、波長λに較べて管の幅aは十分に小さいとみなせます。その場合には、|ε|≪1のときの近似式 √{1+ε} ≒ 1+ 1/2 ε− …を用いると、減衰率は

   pn = n (π/a) √{1 − (2a/(n λ))2 }

     ≒ n (π/a) (1 − 2 (a/(n λ))2 −…)

で近似できます。特に、a/λ ≒ 0のときには、pn ≒ n (π/a) であって、減衰率は幅aが減るとともに、幅aに反比例して増大します。管の幅が狭いほど、減衰率は大きいのです。

この結果は、2枚の平行板が「管」をなす場合に導かれたものですが、定性的には任意の形の断面をもつ管で成立します。

では今回はこれで。次回は、上の結果を基にして、開口端補正の長さΔを管の幅aで表す表式を導きます。できれば円筒形の管も扱いたいと思っています。

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気柱 5 指数減衰モード(1)

5回目の今日は、気柱内の管口付近に局在する定常波のモード(指数減衰モード)についてお話しします。

管内の定常波については、おなじみの正弦波モードだけに注目するのがふつうです。しかし、前回の考察で示したように、共鳴している気柱において開口端補正の長さが決まるメカニズムには、指数減衰モードが重要な役割を演じています。

前回の考察はちょっと式に頼りすぎ、あまり物理的イメージが伝わらなかったかも知れないので、今回は最初に、開口端補正の長さと指数減衰モードがどう関係しているのかを直観的に説明したあとで、指数減衰モードが生じるわけをお話ししたいと思います。


■開口端補正の長さを決める指数減衰モードの役割

指数減衰モードは管口付近に局在する定常波の振動モードです。その振幅は管口のところで一番大きく、奥へ入るにつれ急激に減少します。振幅の減少は単調で、正弦波モードのように、節(振動しないところ)はありません。

さて、開口のところが腹(つまり開口端補正がゼロ)であるような正弦波モードをコサインモード、開口のところが節(つまり開口端補正が波長の1/4)であるような正弦波モードをサインモードと呼ぶことにします。

現実の管に生じる正弦波モードは、コサインモードとサインモードをある割合で足し合わせたものです。後者の割合が大きいほど、開口端補正は長くなります。この正弦波モードに、さらに指数減衰モードをある割合で足し合わせたものが、管内の実際の定常波になります。

指数減衰モードは管口付近でだけ大きな値を持つので、コサインモードとの重なりが大きく、サインモードとはあまり重なりがありません。ですから、もし、コサインモードに指数減衰モードを逆の符号で重ね合わせれば、両者が打ち消し合って、管口付近で振幅の小さな定常波が生じることになり、管壁でのまさつによるエネルギー損失を小さく抑えることができます。これが、管口付近がだいたい(正弦波モードの)腹になる理由です。

しかし、さらに詳しく考えれば、指数減衰モードにコサインモードだけを(逆の符号で)重ねあわせるときより、少しのサインモードを追加で加える方が、よりエネルギー損失を小さくできるのです。これが、開口端補正が生じる理由です。

追加すべきサインモードの割合は、指数減衰モードの具体的な形によって決まります。このあとで見るように、その形は管の太さ(幅)によって変わるので、管の太さが開口端補正の長さに関係してくるのです。

管が太いと、指数減衰モードの振幅は管の奥へ進んでもゆっくりとしか減少しません。この場合にはコサインモードとの重なりが大きく、開口端補正はゼロに近くなります。逆に、管が細いと、指数減衰モードは管の奥へいくにつれ、急激に減少します。この場合にはサインモードとの重なりが相対的に増え、開口端補正は大きくなります。そして、管が無限に細い場合には、開口端補正の長さは波長の1/8になるのです。


■全反射とは

まず、管口付近に指数減衰モードが生じるわけを、高校物理でおなじみの全反射のたとえを使って直観的に説明します。そのあとで、同じことを数式を使って説明します。

全反射は、2つの媒質の境界で起きる現象です。普通は境界面で、透過と反射の両方が起きるのですが、波が入射する角度によっては、反射だけになって透過が起きない場合があります。それが全反射です。

例えば、透明な液体中を進んできた光が液面に斜めに入射した場合、ふつうは一部が液面で反射して液体中へと戻り、残りが空気中へと透過(屈折)します。反射する光は反射の法則(入射角=反射角)を満たす方向へと反射します。また、屈折する光は屈折の法則(スネルの法則)を満たす方向へと進みます。

図は、液面に入射する光線の一部を何億倍にも拡大したものです。光の波長(数百ナノメートル)が目に見えるくらいまで拡大しています。図の矢印が光の進行方向を、平行な線が光の波の山(や谷)を表します。

5zu1.jpg

空気中での波長:液体中での波長 = 2:1


屈折する方向は、図のように2つの媒質それぞれの中での波長の比率によって決まっています(図では、下側の液体中での波長が、空気中での波長の半分であるとしています)。

ここで、液面に入射する光が、上の図よりもっと浅い角度で入射するならば、空気中の波の進行方向をどのように選んでも、「空気中での波長:液体中での波長 = 2:1」という関係を満たすことができない、ということがわかると思います。この場合には、透過(屈折)は起きず、反射のみが起きます(図がごちゃごちゃするので、反射する波は書いていませんが)。

透過光がないといっても、実際には液面近くの空気中には、ごくわずかに光はもれだしています。しかし、その強度は液面から上へと進むと急激に減衰するので、空気中の離れたところまでは事実上、届かないのです。その様子を、ホイヘンスの原理から見てみましょう。

上の図からわかるように、液面には下方から次々に波がやってきます。ある時刻に、液面のある場所は山、隣は谷、その隣は山といった具合です。つまり、液面の各場所は少しずつずれた位相で、同じ周期で振動しています。それが新たな波源となって、球面上の波を四方八方に送り出します。

液面の下側の十分に離れたところには、水面の各部からの波が到達します。ある場所は、ちょうど液面各部からの波が同じ位相で到達して、強めあう点になっています。その場所がちょうど、反射光が到達するところで、反射の法則を満たす方向の延長上の点です。他のたいていの場所は、水面各部からの波がばらばらの位相で到達するため、波が打ち消し合ってしまいます。そのような場所は、反射の法則を満たす方向の延長上にはありません。

液面の上側、空気中の十分に離れたところでも同様な議論ができます。液面各部からの波が同じ位相で到達して、強めあう点がちょうど、屈折光が到達するところで、屈折の法則を満たす方向の延長上の点にあたります。

ところが、液面に下方から入射する光の角度が浅い場合には、液面の各点の振動の位相の場所による違いが、空気中の波の波長よりも速いペースで変わってしまうため、液面の上側の空気中の遠くの点で、液面各部からの球面波が同じ位相で到達して強めあうことが、決して起きなくなってしまうのです。そのために、屈折光(透過光)が遠方まで届きません。これが全反射です。

しかし、全反射が起きている場合でも、液面に十分に近い空気中の点では、ごくそばの液面からの球面波が、他の部分からの球面波によって打ち消されず、少しだけ残るので、いくらかは光が届きます。これが液面からわずかに漏れ出す光です(気柱での指数減衰モードに対応)。ただし、液面から離れると、液面の各部からの光がほとんど完全に打ち消しあうので、漏れ出す光の強度は急激に弱まります。


■指数減衰モードが生じるわけ---直観的説明

上で見た全反射では、波が斜めに進んでいます。実は、気柱内でも波は斜めに進んでおり、それが指数減衰モードの生じるわけに関係しているのです。

定常波は一般に、逆方向に進む2つの波の重ね合わせとみることができます。ふつう、気柱内の定常波は、気柱の奥の方へと進む波と、奥の固定端(水面など)で反射して管口に向かって戻る波を重ね合わせたもの、として説明されます。気柱内の定常波のうち、正弦波モードについてはこの理解でOKです。

一方、指数減衰モードの方は、管壁で反射しながら斜めにジグザクに奥の方へと進む波と、同様に反射しながら管口へと戻る波を重ね合わせたものとして理解できるのです。

5zu2.jpg


簡単のため、2枚の広い平面板が距離aを隔てて平行に向かい合っており、外から斜めに入射して、その間を反射しながら奥の方へと進む、波長λの波があるとしましょう。平面板は、波の山を山として反射するとします(自由端)。図がごちゃごちゃするので、右の方にある固定端で反射して戻ってくる波は書いていません。ちゃんと定常波が生じているなら、その戻ってくる波の山や谷は、上の図の入射波とうまく重なって、進まない波ができているはずです。山と山が重なるところは定常波の腹、山と谷だと節です。

さて、上の図の状況では板の間隔aに較べて波長λが小さいので、左の管口のところで、上端が定常波の腹で、下端も腹になっており(中央にも腹が一個あります)、自由端の条件を満たしています。

波長λが同じで板の間隔aが上の状況の半分になっても、上端が腹、下端も腹で、間には腹がない状態で、自由端の条件を満たすことができます。

では、半分よりほんの少しだけ板の間隔が狭くなったらどうでしょうか。この場合には、そのままでは自由端の条件を満たすことはできませんが、もし、波がもう少し下の方から深い角度で入射するならば、自由端の条件を満たすことができるでしょう。

では、もっと間隔aが狭くなったらどうでしょうか。この場合にはもはや、波が斜めからどのような角度で入射しようとも、自由端の条件を満たすことができません(注)。言いかえれば、反射を繰り返して奥へ進むにつれ、いろんな場所で反射した波どうしが打ち消し合って、振幅は急激に減衰するのです。これが管口付近に指数減衰モードが生じるわけの、直観的な説明です。

注:真横から波が入射する場合は例外的です。この場合には、自由端の条件は常に満たされます。これが正弦波モードです。

減衰の程度と間隔aとの関係の定量的な話をこのあと書くつもりだったのですが、眠くなってきたので、次回にします。では、今回はこれで。

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