カテゴリー「地震・電磁気」の6件の記事

海水中や海底下の電位と電流の分布---海底下で起電力が生じる場合(5)

前回の記事では、周囲より電導度の大きい断層帯内で起電力が発生すると、地表の電位変化が大きくなることを説明しました。

今回は、海底下 数十キロで起電力が生じる場合に、電位分布や、地中や海水中を流れる電流がどうなるか、を考えます。 はじめに結果の概略を説明してから、詳しく見ていきます。

海水は、塩分濃度などにもよりますが、電導度が標準大地の約500倍〜1000倍と大きいので、海底下で起電力が発生する場合には、あたかも、海底を導体板(海水)で覆ったような状況になります。 つまり、海水がなければ生じるであろう、水平方向の電位差は、海面にはほとんど現れません。海面の水平電位差は小さくなります。

しかし、電位差が小さいといっても、電流も小さいわけではありません。海水は良導体なので、わずかな電位差でも大きな電流が流れます。 海水がない場合の地電流にくらべて、約100倍の電流密度で、海水中に水平方向の電流が流れるのです。 電流密度は海面からの深さにはよらず、ほぼ一様な電流になります。 底のあたりも海面近くもほぼ同じ電流密度です。 今回はこうした現象を説明しましょう。


■海底下 数十キロで鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合

水深数百メートルの海底下で、海面から数十キロ下のところで、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図1 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(双極子的な起電力)が生じているとしましょう。 海水の電導度は、他の部分(大地)の500倍、海の深さは L = 0.2km = 200m とします。 また、起電力が生じる深さは H = 40km とします。

起電力のために、周囲の地中や海中に電流が流れ、電流に沿った電位降下のために、地中や海中の各点の電位は違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の考え方は前回と同様です。


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図2 (クリックで拡大)

図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ 40km のところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。 奥の縁に海水(青色)があります。

先日の記事(2)で調べた海水がない場合とくらべると、電位分布が水平方向に引き締まっていることがわかります。 これは、電導度の大きい海水中を電流が好んで流れるからです。 双極子を上向きに出た電流が、海水にもっとも近い原点(x,y,z)=(0,0,0)に引き寄せられているのです。


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図3 (クリックで拡大)

図3は、図2の海水面付近の拡大図です。 海水面から深さ 10km のところまでの電位分布を示しています。 こんどは手前の縁に海水(青色)があります。 海水の厚みは 200m しかありませんが、その効果は地下 10km のところにも及んでいます。 水平方向の電位差は深いところでは大きく、浅くなるほど小さくなります。 海底面でも電位勾配に大きな不連続性はみられません。

海水面のところの水平電位差は小さく、海水がない場合の地表水平電位差の10分の1程度になることがわかります。 最初の記事(1)で、場所による地表面電位の違いが大気イオン濃度の異常の原因である、との仮説を述べましたが、海面上では、水平電位差による大気イオン濃度の異常は起こりにくい、と考えられます。 (しかし、あとで述べるように、海面上では電流が作る磁場による異常は起こりえます。)


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図4 (クリックで拡大)

図4は、図3と同様な海水面付近の、鉛直断面内の電流のイメージを、矢印で描いたものです。 厚み200mの海水中には水平方向に大きな電流が流れています。 その電流は、海底下の双極子からの上昇電流でまかなわれています。


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図5 (クリックで拡大)

図5は、電流の水平成分を示します。 図4と同様な海水面付近の、鉛直断面内の電流密度の水平成分を、立体的に示したものです。 海水の部分(奥)には、水平方向の大きな電流が流れています。 海水がない場合にくらべて約100倍の電流密度になっています。 海底下の大地(手前)は、海水中にくらべてずっと小さな電流密度です。


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図6 (クリックで拡大)

図6は、電流の上向き成分を示します。 断面は図5と同様ですが、今度は手前側に海水があります。 海底下(奥)では、双極子から大きな上向き電流が流れています。 その拡がりは、上で述べたように、海水がない場合にくらべて絞られています。 海水中(手前)では海水面に近づくにつれ、徐々に電流の上向き成分は小さくなります。 電流は水平方向に左右へと広がっているのです。

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図7 (クリックで拡大)

図7は、海水の厚み(海の深さ)と、電流密度の水平成分の大きさとの関係を示します。 海面付近から海底付近まで、5カ所の電流密度を示していますが、グラフが重なって区別がつきません。 つまり、海中では水平位置が同じなら、深さによらずどこでも、ほぼ同じ強さの電流が水平方向に流れることが分かります。

海水の厚み(海の深さ)が200mなら、電流密度の大きさは、海水がない場合に地表を流れる電流の密度の100倍にもなります。 海水の厚みが大きいほど、電流密度は小さくなります。 しかし、水深が1000mでも、電流密度の大きさは、海水がない場合に地表を流れる電流の密度の約30倍です。


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図8 (クリックで拡大)

図8は、図7では区別のつかなかった、海水面から海底までの5カ所の、電流密度の水平成分の大きさの違いを、相対比で示したものです。 海底面での電流密度の水平成分を1としています。

水平位置が同じなら、深さによらず、海水のどの部分でも、海底近くであろうが海水面近くであろうが、水平方向にほぼ同じ強さの電流が流れていることがわかります。 深さによる違いは0.1%未満です。

     *

このように、海底下で起電力が生じる場合には、海水の大きな電導度のために、海面での電位差は小さくなります。 そのかわりに、大きな水平電流が海水中を流れます。

したがって、海面上では、電位差による大気イオン濃度の異常は起こりにくくなりますが、海水中を流れる大きな電流が別の影響(電流が作る磁場など)をもたらす可能性がでてきます。

(もしかして、地震前に浮上する深海魚は、海水中を流れる電流に驚いて浮いてくるのでしょうか?)

次回は、地電流や海水中を流れる電流が作る磁場について考える予定です。 では。

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地電流と地表の電位分布---断層帯の場合(4)

前回の記事では、電導度の小さい火成岩からなる山地の近くでは電位変化が大きくなることを説明しました。

今回の記事では、周囲より電導度の大きい断層帯内で起電力が発生すると、地表の電位変化が大きくなることを説明します。


■断層帯の内部で鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合

水分に富んだ断層帯など周囲より電導度の大きな物質内で、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図1 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(双極子的な起電力)が生じているとしましょう。 断層帯の電導度は、他の部分の10倍、断層帯の幅は 2・L2 = 10km とします。

起電力のために、周囲の地中に地電流が流れ、地電流に沿った電位降下のために、地中の各点の電位は違ってきます。 もちろん、地表の電位も違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の考え方は前回と同様です。

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図2 (クリックで拡大)

図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ60kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。 電導度の大きな断層帯を地電流が流れるため、電位は、断層帯がない場合にくらべて大きくなっています。

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図3 (クリックで拡大)

図3は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面の電位は、断層帯のところで平べったくなっています。 電導度が大きいので、断層帯は周囲より完全導体に近く、内部での電位変化は小さくなります。

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図4 (クリックで拡大)

図4は、図1とは直交する鉛直断面(断層帯に沿った断面で、断層帯の境界面)内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 図2と図3にみられたような電位の折れ曲がりはみられません。

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図5 (クリックで拡大)

図5は、断層帯の幅 L2 によって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 幅 L2 が狭いほど、地表面の電位は高くなります。 断層帯がない場合にくらべて、電位が3〜8倍にもなることがわかります。 もちろん、ここでは、断層帯内で発生する起電力の大きさは一定であると仮定しています。 実際には、幅の広い断層帯をもつケースでは大きな起電力が生じるかも知れませんが、ここではそうした要因は考慮していません。

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図6 (クリックで拡大)

図6は、双極子的な起電力が発生する点の深さHによって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。

以前の記事で、地下の電導度が一定のケースでは、地表の電位は、深さHの2乗に反比例して減少することを述べました。

上の図6を見ると、断層帯があるケースでは、地表の電位は、それよりも緩やかに減少することがわかります。 実際、30km < H < 50km の範囲のグラフをべき乗関数でフィットしてみると、上から順に、電位は深さHのおよそ1.58乗, 1.40乗, 1.26乗に反比例することがわかります。

つまり、断層帯内で起電力が発生するケースでは、起電力発生場所が深くても(=震源が深くても?)、地表面電位に影響が現れやすい、ということです。

これは、断層帯の電導度が周囲より大きいために、地電流が3次元的(空間的)に広がって流れるのではなく、おもに板状の断層帯の部分に2次元的(平面的)に流れるためです。

     *

以上で、断層帯のケースの考察を終わります。次回は、海底下で起電力が生じる場合の海水の影響を考える予定です。

では。

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地電流と地表の電位分布---山地の近くの場合(3)

前回の記事では、地下の起電力によって、地殻や地表面にどのような電位分布が現れるのかを、もっとも簡単な、一様な電導度分布の場合について調べました。

今回の記事では、電導度の小さい火成岩からなる山地の近くでは電位変化が大きくなることを説明します。


■山地近傍の地下で鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合

まず、山地など、電導度の小さい物質の近くで、地下のある深さのところに、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図1 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(双極子的な起電力)が生じているとしましょう。 右側の地中に電導度の低い部分(山地)があります。 山地の電導度は、他の部分の10分の1、山地の幅は5kmとします。 山地というよりは、板状の貫入岩体と呼ぶ方が適当かも知れませんが。

起電力のために、周囲の地中に地電流が流れ、地電流に沿った電位降下のために、地中の各点の電位は違ってきます。 もちろん、地表の電位も違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の概略は注で示します(*)。

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図2 (クリックで拡大)

図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。 右側の電導度の低い部分(山地)に電流が妨げられるために、電位に段差が生じています。 双極子の真上の地表の電位は、山地がない場合にくらべて高くなっています。

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図3 (クリックで拡大)

図3は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面の電位にも、山地のために段差がみられます。

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図4 (クリックで拡大)

図4は、山地から起電力発生部までの距離L2によって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 距離が近いほど、双極子の真上の地表電位は高くなります。 電位は山地がない場合にくらべて10〜30%高くなることがわかります。


■地下で水平右向きの双極子的な起電力が生じる場合

つぎに、地下のある深さのところに、水平右向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。 図1と同様な状況ですが、双極子の向きだけが上向きでなく、右向きになった場合です。

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図5 (クリックで拡大)

図5は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ右の電位は+∞、すぐ左の電位はー∞になっています。 山地のところで電位に段差が見られます。

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図6 (クリックで拡大)

図6は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面では、起電力発生部の真上の点の右側に電位の高いところがあり、左側に電位の低い所があります。 真上の点の電位はゼロで、無限遠と同じです。 やはり、山地のところで電位に段差が生じています。

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図7 (クリックで拡大)

図7は、山地から起電力発生部までの距離L2によって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 距離L2が近いと、山地をはさんで電位に大きな段差が現れることがわかります。 距離L2が遠い場合には、山地がない場合とそれほど電位の様子は違いません。

     *

以上で、そばに山地(電導度の小さな部分)があるケースの考察を終わります。

そばに山地がある場合には、地電流が山地を避けて流れるために、山地近傍の電位に変化が現れました。 このように考えると、山地が片側ではなく両側にあれば、もっと大きな電位の変化が期待できるでしょう。 その一例は断層帯です。 断層帯は水分に富み、電導度が大きいので、周囲を自分より電導度の小さい物質で囲まれているからです。 次回は断層帯の内部で起電力が生じる場合を考察する予定です。

では。

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注*) 計算の概略

前回と同様に、電導度が一定の各領域の内部では、電位はラプラス方程式を満たします。

電導度の違う媒質が接している面(山地σ_2と標準大地σ_1との境界面)では、電荷保存則により、地電流の法線成分が連続でなければなりません。 この条件は
   σ_2 ∂_n φ_2 = σ_1 ∂_n φ_1

と書けます。 これは電位の勾配(空間微分)についての条件ですが、加えて、電位はもちろん、境界面で連続でなければなりません。

これに、前回の記事と同様、双極子近傍での境界条件と地表面でのノイマン境界条件を課して、各点の電位を求めます。

鏡像法を1回使うと、「y,z方向には電導度が変化しないケース」に帰着できます。 そこで、y,z方向にフーリエ変換し、x方向の微分方程式を解いて厳密解を求めることができます。 解の表式はあまり簡単ではありません。 たぶん鏡像法でも解けるでしょう。 (鏡像の双極子は無限個でてきますが)

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地電流によって地面に生じる電位分布---電導度一定の場合 (2)

前回の記事では、地下で生じる起電力によって地殻に流れる地電流が、地表面に電位差を作り、その電位差のために大気イオンが移動して、イオン濃度の異常が起きる、というWSのアイデアについて説明しました。

今回の記事では、地下の起電力によって、地殻や地表面にどのような電位分布が現れるのかを、もっとも簡単な、一様な電導度分布の場合について調べます。

地下で起電力が生じる仕組みについて、詳しいことがわかっていないのに、どうしてそんな考察が可能なのか、と疑問に思われるかも知れません。 もちろん、地殻に加わるストレスがいくらのときに、どれくらいの起電力が生じるのか、といった考察は今はできません。 しかし、たとえば、深さ60kmの地点である大きさの起電力が生じた場合と、深さ40kmの地点で同じ大きさの起電力が生じた場合で、地表での電位がどれくらい違うか、といった比較は可能です。 これから行うのは、そういった考察です。 なお、起電力や、それによって流れる地電流は、ともに直流的であると仮定します。


■地下で鉛直上向きの双極子的な起電力が生じる場合

まず、地下のある深さのところに、鉛直上向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図1 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、上向きに電流を流す働き(起電力)が生じているとしましょう。 双極子的な起電力というのは、その起電力発生部位が点とみなせるほど狭い領域に集中していることを意味します。

この起電力のために、周囲の地中に地電流が流れます。 地面は抵抗のある導体です。 地電流に沿った電位降下のために、地中の各点の電位は違ってきます。 もちろん、地表の電位も違ってきます。 その様子を図にしてみましょう。 電位を求める計算の詳細は注で示します(*)。

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図2 (クリックで拡大)

図2は、図1と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ上(奥)の電位は+∞、すぐ下(手前)の電位はー∞になっています。

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図3 (クリックで拡大)

図3は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面では、起電力発生部の真上の点の電位がいちばん高く、そこから離れるほど、電位が低くなります。

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図4 (クリックで拡大)

図4は、起電力発生部の深さHによって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 電位は起電力発生部の真上で最大になります。 その最大値は、起電力発生部が浅いほど大きくなります。 電位の最大値は、深さHの2乗に反比例して減少することが読みとれます。

起電力が浅いところで生じると、真上の地表での電位は大きくなりますが、電位が大きくなる地表の範囲は限られます。 一方、起電力が深いところで生じると、真上の地表での電位はそれほど大きくなりませんが、影響を受ける地表の範囲は広くなります。


■地下で水平右向きの双極子的な起電力が生じる場合

つぎに、地下のある深さのところに、水平右向きに双極子的な起電力が生じる場合を調べます。

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図5 (クリックで拡大)

図の矢印のところに何らかの理由で、右向きに電流を流す働き(起電力)が生じているとしましょう。

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図6 (クリックで拡大)

図6は、図5と同様な鉛直断面内の電位の様子を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 深さ40kmのところ(図の中央)に双極子的な起電力があり、双極子のすぐ右の電位は+∞、すぐ左の電位はー∞になっています。

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図7 (クリックで拡大)

図7は、地表面の電位を、高さ方向に電位をとって描いたものです。 地表面では、起電力発生部の真上の点の右側に電位の高いところがあり、左側に電位の低い所があります。 真上の点の電位はゼロで、無限遠と同じです。

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図8 (クリックで拡大)

図8は、起電力発生部の深さHによって、地表面の電位がどう変わるかを示したものです。 電位は起電力発生部の右側で最大、左側で最小になります。 その最大値は、起電力発生部が浅いほど大きくなります。 電位の最大値は、やはりHの2乗に反比例します。

さきほどと同様に、起電力が浅いところで生じると、地表での電位の最大値は大きくなりますが、電位が大きくなる地表の範囲は限られます。 一方、起電力が深いところで生じると、地表での電位の最大値はそれほど大きくなりませんが、影響を受ける地表の範囲は広くなります。


■地震の規模と、地表面に生じる電位差との関係

発生する地震の規模と、地震前兆としての地表面の電位変化との間には、どのような関係があるでしょうか。 起電力が生じるメカニズムがよくわからないので、いくつかの仮定をおいて、理論的な検討をしてみましょう。

地下での起電力(V)は震源付近で生じると仮定するのが自然でしょう。 つまり、「起電力発生場所≒地震の震源」です。

起電力の大きさ(V)は地殻に加わるストレスの大きさ(S)に比例すると仮定します(V ∝ S)。

ストレス(S)は、地震で解放されるエネルギー(E)の平方根に比例するでしょう(S ∝ √E)。

地表面電位の変化(φ)は、起電力の大きさ(V)に比例し、震源の深さ(H)の2乗に反比例します(φ ∝ V/H^2)。

以上をまとめて φ ∝ (√E)/H^2 。

地震のエネルギー(E)はそのマグニチュード(M)の指数関数です。 Mが2増えるとEは1000倍になります。 このことを用いて、上の式で計算される地表面の電位変化の大きさを表にしてみましょう。 電位変化は、規模M6.0の地震が深さ60kmの地点で発生する場合の、地表面の電位変化の大きさを1としています。

深さ  地震の規模(M)
  5.0 5.5 6.0 6.5 7.0
20km 1.60 3.80 9.00 21.34 50.61
40km 0.40 0.95 2.25 5.34 12.65
60km 0.18 0.42 1.00 2.37 5.62
80km 0.10 0.24 0.56 1.33 3.16
100km 0.06 0.15 0.36 0.85 2.02

表1 地表面の電位変化の大きさ(φ ∝ (√E)/H^2 の場合)

地表での電位変化の大きさは、地震の規模(マグニチュードM)が0.5増えると約2.37倍に、Mが1.0増えると約5.6倍になります。 また、震源の深さが2倍になると電位変化の大きさは4分の1に、深さが3倍になると9分の1になることがわかります。

     *

以上で、もっとも簡単な、地殻の電導度が一定の場合の考察を終わります。 もちろん実際には、地表で見られる地電位の変化は、地下の電導度分布(電気抵抗率の分布)の影響も受けて変わります。

次回は、地電流の流れにくい部分(電導度が小さな部分)がそばにある場合に、電位差が大きくなることを説明する予定です。 山地(火成岩質で電導度が小さい)が迫っている場所や、断層帯などの場合です。

では。

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注*) 電位を求める計算の詳細

電位、電場、地電流がともに定常的な場合を考えます。 場所xの電場をE=E(x)、地電流の電流密度をj=j(x)とすると、電流は電場に比例するので
(1)  j = σE

となります。 ここで、σ=σ(x)は、場所xでの電気伝導度です。

電場は、電荷分布によって生じるクーロン電場Ecと、起電力の原因である非クーロン電場E'の和です。
(2)  E = Ec + E'

ここで、非クーロン電場E'はごくせまい領域、つまり震源付近の起電力発生部分を除くと、ゼロです。 一方、クーロン電場Ecは、電位φ=φ(x)を用いてEc=-∇φと書けます。 よって
(3)  j = σ (-∇φ + E')

さて、地下の電荷密度をρ=ρ(x)とすると、電荷保存則より
   ∂_t ρ = -∇・j

ですが、今は定常状態を考えているので、左辺の時間微分はゼロ。 つまり、電流の発散はゼロでなければなりません。 式(3)の右辺の発散をゼロとおいて
(4)  -∇・(σ∇φ) = -∇・(σE')

を得ます。 これが電位φを起電力E'から決める方程式です。 ごく狭い起電力発生部の外側、つまり、E'=0となる場所では、右辺はゼロゆえ
(5)  -∇・(σ∇φ) = 0

が電位を決める式です。 さらに、今回の記事で仮定したように電導度σが一定のケースでは、式(5)は、ただのラプラス方程式 ∇^2 φ=0になり、φは調和関数となります。

地下の電荷密度ρ=ρ(x)は、ガウスの法則
(6)  ∇・E = ρ/ε_0

で決まります(誘電分極で生じる分極電荷を除いた電荷密度を考えるなら、∇・εE = ρ ですが)。 式(5)を用いると、ごく狭い起電力発生部の外側では
(7)  ρ = -ε_0 ∇^2 φ = ε_0 (∇lnσ)・∇φ

となり、電導度σが一定のケースでは、外部の電荷密度はゼロになることがわかります。

さて、今回の記事では地中の電導度σを一定と仮定しているので、外部の電位φはおなじみのラプラス方程式の解です。 これを解くためには境界条件が必要です。

まず、点とみなせるほどごく狭い起電力発生部(深さH)の近傍で、電位は電気双極子の周囲の電位のように振る舞うと仮定します。 これが「双極子的起電力」という言葉の意味です。

また、地表面z = 0ではノイマン境界条件 ∂_n φ = 0 (z = 0) を仮定します(nは地表面の単位法線ベクトル)。 式(1)からわかるように、これは、地電流が大気中に漏れ出さないという条件に相当します。 大地の電気抵抗は、大気の電気抵抗にくらべると無視できるほど小さいからです。

以上の境界条件を満たすラプラス方程式の解は、鏡像法で見いだすことができます。 起電力発生部の双極子と、地表面に関して対称な位置に鏡像となる双極子を配置すれば、地表面(z=0)での境界条件を満たす解を構成することができます。 上で図やグラフに示した電位は、こうして求めたものです。

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大気イオン地表面濃度の異常と地電流・地電位の関係---アイデア(1)

現在、NPO法人・大気イオン地震予測研究会(e-PISCO)さんが、観測された大気イオン濃度の異常に基づき、日本での直近(9月中旬以降)の大地震の予測(要注意情報)を発信されていますね。

地震に伴って、あるいはそれに先行して大気イオン濃度に異常が現れる、という報告は、先の阪神淡路大震災のときを含めて、いくつかあります。 しかし一方で、観測機器の管理状態による測定値のぶれや、気象条件などによる擾乱の影響が大きく、仮に、地震前に大気イオン濃度に何らかの異常が現れるとしても、それをノイズから分離して地震予知につなげるのは困難だろう、と考えている人が多いのが現状だと思います。

もう一つ、理論面での問題は、地震にともなって大気イオン濃度に異常が現れるメカニズムがよくわかっていないことです。 今回の記事では、そのメカニズムについて、WSが思いついた一つの理論的アイデアを説明します。 それは、地電流により地表面に生じる電位差、です。


■従来の説明の難点

e-PISCOさんのホームページでは、地震前の大気イオン濃度の異常を、圧力を受けた地殻に微細な亀裂が生じ、そこからラドンガスが放出される、というメカニズム(仮説)で説明しておられます。 放射性のラドンは、周囲の空気の分子を電離してイオンを生成できますし、それ自身、あるいは、放射改変で生じる鉛も、イオン(あるいはイオンを核として生じるエアロゾル)になれるからです。

WSは、断層帯の亀裂などを通って地中から放出されるラドンが地震前の大気イオン濃度に影響する可能性はあると思いますが、おそらく、それは濃度異常をもたらす主要なメカニズムではないだろう、と考えています。

この、ラドンが出てくるという仮説については、地下数十キロを震源とする地震の場合に、そのラドンが深いところから短時間でどのように地上に出てこれるのか、ということが問題になります。 もし仮に、海底を震源とする地震の場合に大気イオン濃度異常が生じるなら、この場合にはラドンが原因というのは極めて考えにくいように思います。


一方、静岡市で2002年2月から継続して毎日(すごい!)、大気イオン濃度を測定しておられるケロ君の地震予知さんは、「大気中では普通は-イオンより+イオンの方が多いんだ。ところで、地震が起きる前に大地が帯電するのは知ってる? 地面が-に帯電すると、地表から-イオンが飛び出してくる。+イオンは反対に地面に吸着され、イオン比は逆転するはず! これをイオン測定器で測定して地震予知をしようってわけだ。」と説明しておられます。 ラドンについての記述はありませんが、地面からイオンが出てくる、あるいは、地面にイオンが吸収される、という仮説です。

このあと説明しますが、このケロ君の地震予知さんの仮説は、イオンの移動が濃度異常をもたらす、という点ではWSの仮説と同じです。 しかし、WSは、地面と大気の間のイオン移動より、上空と地表付近の大気間、あるいは、地表付近でのイオンの水平移動がより重要である、と考えています。 その水平移動をもたらす原因は、WSの仮説では地面の帯電ではなく、地電流による電位降下で生じる、地表各点の電位差です。


■地電流による水平電位差がイオン濃度異常の原因(仮説)

WSのアイデアを図で説明します。

Concept
図1 (クリックで拡大)

地下のある部分になんらかの起電力(電流を流そうとする働き)が生じたとします。 その発生メカニズムはここでは問いません。 圧電効果なのか、流動電位なのか、あるいは別のものなのかは知りませんが、とにかく、起電力が生じたとしましょう。 起電力は、向きが交替する交流的なものではなく、直流的なものであると仮定します。

すると、地電流が流れます。 図のように、地電流は双極子の周囲の電場みたいに流れ、流れの詳細は地殻の電導度分布に依存します。

今後の記事で説明しますが、電導度が一様なら、地表での地電流の強さは起電力発生部の深さの3乗に反比例して急激に減少します。 しかし、断層帯のように水を含んだ電導度の高い板状の部分の内部で起電力が発生するならば、それを伝って地電流が上がってくるので、地表面でも地電流はかなり大きくなり得ます。

さて、電流が抵抗のある導体(地中)を流れると電位降下が生じます。 電流の方向に電位は下っていきます。 たとえば上図のような状況だと、起電力発生部の直上の地表面の電位は、周囲より高くなります。 (もし起電力の向きが図と逆なら、電位は周囲より低くなります。) このため、周囲より高電位である部分に、周囲の大気中から負の大気イオンが集積してきます。 どの程度の濃度異常が生じるのか、その見積もりはあとで行いますが、地表面電位が周囲より25mV(ミリボルト)ほど高いだけで、イオン濃度が1桁違ってきます。

地震の前に地電流(あるいは地電位)に変化がみられた、という報告(たとえば、2004年新潟県中越地震に伴う自然電位の異常変化の観測、田中康裕氏ほか)を地震前兆であったと信じるならば、1mあたり1mV程度の電位差が生じることはあり得る、と考えてよさそうです。

さて、こうして生じた高濃度のイオン塊は、風で水平方向へ運ばれて、数百キロ風下の地点でもイオン濃度異常として観測にかかるでしょう。

また、図のように、暖気と冷気が接する前線部分にたまたま高濃度のイオン塊が生じたならば、上空へと運ばれて、独特の形状や光学的特性をもつ雲(*1)を生成するかも知れません。

注 *1) 四川地震の直前に観測された彩雲(椋平虹)のようなものを念頭においています。


■地表面電位とイオン濃度の関係

地表面電位によってイオン濃度がどう変わるのか。 それを見積もってみます。

地表付近には、約100V/mの下向きの大気電場があります。 そのために話が複雑になってしまうことを避けるために、ひとまず接地された部屋を想像して下さい。 部屋の壁の電位はどこでも0Vで地面と同じです。 部屋の窓は開け放たれており、大気イオン濃度は、正イオンも負イオンも外界と同じで、1立方センチあたり1000個であるとします。 イオンどうしの対消滅(中和)などのプロセスは無視できるとします。

Tsutsu
図2 (クリックで拡大)

この部屋の中に、図のような小さな筒をおきます。 筒は大気イオンを吸収することも放出することもありません。 筒の電位は、真ん中が0Vで、左端では高く、右端では低く保ちます。

さて、この筒の内部のイオン濃度分布はどうなるでしょうか。

まず、正イオンを考えてみましょう。 筒の中には、電位が下がる向き、つまり、右向きの電場があります。 この電場から力を受けて移動するため、正イオンは筒の右側で高濃度、左側で低濃度となります。 こうして濃度差が生じると、高濃度の側から低濃度の側へと向かう正イオンの流れ(左向き)もできます。 電場からの力による流れ(ドリフト)と濃度差による流れがつり合うという条件で、定常状態に達したときの正イオンの濃度分布が決まります。

統計力学でよく知られているように、この場合の場所xの正イオン濃度n(x)はボルツマン因子を用いて表されます。(下図参照)

n(x) = n0 exp(-Zeφ(x)/kT)

ここで、n0は外での濃度(1立方センチあたり1000個)、Zは正イオンの価数、eは電気素量、φ(x)は場所xの電位、kTは熱運動のエネルギー(常温では約0.025電子ボルト)です。

Ion_densities
図3 (クリックで拡大)

図から読みとれるように、電位が-30mVの点では、正イオンが1価なら、濃度は3000個/cm^3を越え、正イオンが2価なら、濃度は10000個/cm^3を越えます。 逆に、電位が0mVより高い点では、濃度は外部の1000個/cm^3より小さくなります。

負イオンの場合は、電位の正負と濃度の関係が、正イオンの場合とは逆になり、高電位側で濃度が非常に大きくなり得ます。

実際には、地上付近では鉛直方向の大気電場の影響などがあり、イオンの輸送メカニズムは複雑です。 しかし、地表面電位に場所によって差がある場合には、この室内の筒と同様に、地表付近の大気イオン濃度に大きな違いが生じる、というのが、この記事で提案するWSの仮説です。


■イオン集積のメカニズム

高濃度にイオンが集積する際には、おそらく次の2つのプロセスが重要でしょう。 定量的な分析はいずれ行いたいと思っていますが、今回は定性的なアイデアを書きます。

まず、1つめのプロセスは、水平電位差によって起きるイオンの水平方向の移動(電場によるドリフト)です。 イオンの大気中での分子拡散係数は1×10^(-5) m^2/s 程度でとても小さいですが、中性大気乱流により運ばれるため、実効的な拡散係数は数桁大きいと考えられます。 また、個々のイオンの水平移動距離は小さくても、広大な領域のイオンが玉突きのように動いて、中央部に高濃度に集積することが可能です。

もう1つのプロセスは、鉛直方向のイオン移動です。 先ほどは無視しましたが、晴天域(静穏域)の地上付近には約100V/mの下向きの電場(大気電場)があり、この電場によって生じる大気イオンのドリフトにより、空から地面に向けて、単位面積(1m^2)あたり約2pA(ピコアンペア)の電流(空地電流)が流れています。 この電流は、1価のイオンならば、1平方センチあたり毎秒約1000個のイオンの流れに相当します。

地上付近で実際に、正と負の大気イオンが鉛直方向にどのように動いているのか、WSにはよくわからないのですが、おそらく、地表の状態によってさまざまなケースがあり得るでしょう。

たとえば、この毎秒1000個のイオンの流れを、正と負の1価のイオンが半分ずつ担っているならば、毎秒500個の正イオンが下向きに動き、500個の負イオンが上向きに動いているでしょう。 この正イオンは、おもに対流圏の大気中で宇宙線により電離生成されたものです。 では、地表から上空へ昇っていく負イオンはどこから来るのか。 おそらく、植物の気孔などから蒸発していく水分子のクラスターが負に帯電していたり、地面の突起物の電場が強くなった部分にぶつかった空気分子(N2, O2, ...)がはねかえる際に、負に帯電して去っていく、そんなプロセスがあるのだろうと思います。

また、毎秒1500個の正イオンが下向きに動き、同じく500個の負イオンも下向きに動いて、差し引きの正味で、毎秒1000個分の空地電流を担っている場合もあるでしょう。 これは、地面から負イオンが出て行きにくい状況で起きることで、移動にはおそらく中性大気乱流の介在が必要です。 この場合に降りてくる負イオンは、対流圏の大気中で宇宙線により電離生成されたものです。

このように、正と負の大気イオンの鉛直方向の移動にはさまざまなケースがありえます。 しかし、いずれの場合でも、地面が周囲より高電位になっている部分の上空では、正イオンの降下が抑制される一方、負イオンの降下が促進されて(あるいは上昇が抑制されて)、正イオンが減り、負のイオンが集積するでしょう。 逆に、地表が周囲より低電位になっている部分には、正のイオンが集積します。 この抑制と集積は、地面では水平電位差が生じているものの、1キロメートル上空ではほとんど水平電位差がなくなっている、という具合に、ある程度の上空で水平電位差がなくなるまで続き、地表付近のイオン比に大きな異常をもたらすでしょう。


■今後の予定

今回の記事に関連した、以下のような定量的考察をしていく予定です。 電位が厳密に求まる電導度分布のケースをいくつか考察します。 大域的な大気イオン濃度は、地電流(地電位)に対してローパスフィルタのように反応すると思われるので、DC電流、DC電場を考えます。

・(双極的な)起電力発生地点の深さと、地表面電位との関係...地下の電導度が一様ならば、地表面電位は、起電力発生部位の深さの2乗に反比例して減少します。

・地下の電導度分布と地表面電位の関係...火成岩質の山のそばなど、電導度の低いもので地電流が妨げられる地点(盆地の辺縁部など)では、地電位の変化が大きくなります。
 また、電導度の低い物質で囲まれた電導度の高い板状部分(断層帯など)の内部で起電力が発生する場合には、起電力発生地点が深くても、地表面の電位に大きな影響を与えます。

・海底下で起電力が発生する場合...海水の電導度は非常に大きく(標準大地の約1000倍)、これが静電遮蔽効果をもつため、海底下の起電力が海水面の水平電位差に影響することは事実上ありません。しかし、海水に流れる大きな電流が海面上空に作る磁場が、大気イオンの移動に影響を与える可能性があります。

では。

(参考)海底下を震源とする地震と地電流や雷など電磁的現象との関連については、以前、当ブログの地震関連の記事にコメントを下さったja7dphさんも、ご自身のホームページ 宮城県沖地震 前駆電波雑音の観測 で、たいへん興味深い推論をしておられます。

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静電気現象と地震の短期予知についての一考察

■はじめに

 数年前、関東地方で大規模地震があるとのFM電波観測に基づく串田氏の予測が世間を騒がせたことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。
 それ以来、私も、電磁的手法による地震予知の試みに関心を持って、ときどきウェブ上の情報を眺めていました。

 様々な現象を利用した予知が試みられています。電波の遠方への伝わり方の変化、静磁場の変化(地磁気の変化)、地電流の変化、などなど。

 さきほどふと、地震の前におそらく起きているであろう、これらの電磁気的現象はすべて、地下深部での静電気(まさつ電気)がもとになっていると考えれば、すべてのピースが1つに収まって説明できるのではないか、と閃きました。今日はそのアイデアのスケッチを定性的に書きとめておこうと思います。地震が天気予報のように予測される日がくるために、この考察が役に立つならば、とてもうれしく思います。

 この場で発表する、以下で説明するアイデアが新しいものなのかどうか、専門外のため、私にはわかりません。もし、すでに提案されていることをご存知でしたら、教えて頂ければ幸いです。

 グーグルなどで調べてみますと、地下での静電気の発生による、地表面の電荷密度分布から地震を予知しようと試みている方はすでにおられるようです。しかし、それと、他の現象(電波の伝搬異常、地磁気の変化、地電流、電離層の変化など)との関係を、統一的に解き明かすアイデアは見つかりませんでした。


■地震の発生メカニズム

 地震は外から力が加わる結果、地下の岩盤が割れ目(断層)に沿って滑ることで生じます。力が限界値を超えたときに滑るわけですが、最近ではどうも、力が限界値を超えるというより、限界値の方が下がって、滑りだす、と考える説が有力のようです。

 例えば、地下から高温高圧の流体(液体あるいは気体)が入り込んできて、接触面の状態が変化する結果、摩擦係数が下がって滑り出す、という説です。

 そのような地下の流体の存在は多くの地域で確認されているそうですから、地震のすべてではないにしても、上のようなメカニズムで起きる地震が相当数あることはおそらく事実でしょう。そこで、以下ではそのような地震に限定して考えてみます。


■静電気(まさつ電気)の発生

 岩盤の中(割れ目)に高圧の流体が入り込んでくるのですから、両者の間には摩擦が生じます。それは当然、摩擦電気を生じます。ちょうど、下敷きで服を擦ったときのように。ただし、相手は巨大な数キロメートルの岩盤ですから、大きさのスケールがまるで違います。生じる静電気の量も莫大です。以下では、数キロあるいは数十キロという長さのスケールでものごとを考えている点に注意して下さい。

 下敷きで服をこすると、材質にもよりますが、例えば下敷きはマイナスに、服はプラスに帯電します。同様に、流体が岩盤をこすると、瞬間的には岩盤と流体はそれぞれ逆の符号に帯電します。例えば、岩盤がプラスに、流体がマイナスに帯電するとしましょう。

 しかし、生じた電気はそのままその場所にたまるわけではありません。地面は抵抗を持った導体とみなせるので、岩盤も流体も電気を通します。プラスとマイナスは引き合い、接触面に集まってきて、中和します。しかし、抵抗があるので、移動には一定の時間がかかります。

 流体が岩盤の割れ目に流れ込み続けているとすれば、静電気が発生して電気がたまり続けようとします。このスピードと中和のスピードのバランスで、流体と岩盤の帯電量が決まります。

 地面の電気抵抗の大きさにもよりますが、電気の大部分はおそらく地表に現れるでしょう。なぜなら、導体の電荷は(自由電子が静止した状態では)表面にしか存在できないからです。(地面は導体と見なせることに注意して下さい)

 つまり、地下深くの岩盤に流体が進入してきた場合、その真上の地表に電荷分布が現れるでしょう。例えば、流体の真上にはマイナスが、その周囲(岩盤の真上)にはプラスが現れるでしょう。


■地電流

 この地表面に現れる電荷分布が生み出す効果を考えてみましょう。
 まず、上で見たように、電荷は止まっているのではなく、流れています(中和がおきている)。つまり、プラスに帯電した領域からマイナスに帯電した領域へと電流が流れています。地表面で仮に、マイナスに帯電した領域の周りをプラスに帯電した領域が取り巻いているなら、周囲から集まってくるような、放射状の電流(地電流)が観測されるはずです。
 

■生体電位

 また、電流があるということは、地中の電位が、電流の流れる方向へと下がっているということです。プラスに帯電した領域の電位は高く、マイナスに帯電した領域の電位は低い、といっても構いません。この電位勾配が、植物の根などを通して、生体電位の変化として観測できる可能性があります。


■地磁気の変化

 電流は磁場を作ります。地表のある領域(貫入の中心の真上)へと放射状に地電流が集まるならば、中心を(上から見て)反時計回りに回るような、渦巻く磁場ができます。地電流の向きが逆ならば、磁場が回る向きも逆です。

仮に、磁場は反時計まわりにできるとしましょう。日本付近では地球磁場は北を向いています。したがって、中心の東側では磁場は足し合わされて強めあい、中心の西側では弱め合います。これはそれぞれ、地磁気の増加、あるいは減少として観測できる可能性があります。地磁気の増減のこのような場所依存性は、放射状の地電流に加えて、ここで述べているアイデアの正しさを実証する有力な方法となるでしょう。

 江戸時代、大地震の前に永久磁石(磁鉄鉱)から釘が落下したこと(あるいは、鉄から磁石が落下したこと)が報告されています。これも、巨大な地電流が生む磁場のために、永久磁石の作る磁場が片側で弱められたためである可能性があります。


■電離層の変化と電波の伝搬異常

 地面に電荷分布が生じれば、それと向き合う電離層の下面に、反対符号の電荷分布が生じます。例えば、地面ではマイナスの周りにプラスがあるなら、電離層の下面では、プラスのまわりにマイナスがあるような電荷分布になります。この対応は(光速度で)瞬間的に起こります。こうした電荷分布は、電離層下面での電波の反射あるいは透過の特性に大きく影響します。一般的に言って、下面の電荷分布はその符号によらず、地表からの電波の透過を妨げ、反射率をあげることになるでしょう。

 震源からのイオンの放出が電離層の状態を変化させ、電波の反射状態が変わるという説がありますが、イオンの移動は空気分子との衝突で妨げられる可能性が高いと思われます。電離層の状態の変化はむしろ、地表面の電荷分布に対応して、電離層の下面に裏返した電荷分布が生じるため、と考えるのが自然ではないでしょうか。

 もちろん、地面の電荷分布と電位勾配が、震源近傍の地表(貫入の真上の地表)でのイオン濃度の異常を引き起こす可能性は十分にあるでしょうが。


■伝搬異常が地震の数ヶ月前に起きるのはなぜか

 串田氏のホームページを拝見した記憶では、FM電波の異常は、大規模な地震では、地震発生の数ヶ月前あるいは半年も前に起きることがあります。このような発生までの長い準備時間はどのように説明できるでしょうか。

 おそらく、大規模な地震では、流体の貫入の規模も大きく、流体は地下深くからゆっくりと時間をかけて上がってくるのでしょう。どんなに地下深くで貫入が始まっても、まさつがおきている限り、静電気は発生し、それにともなって地表面の電荷分布、さらには電離層下面の電荷分布は生じるはずですから、早い時期から電波に異常が見られるのでしょう。


■電磁波の放出

 震源からの事前の電磁波の放出がしばしば観測されているようです。仮に、ある地震を引き起こす貫入が長い目でみたときに一定のスピードでおきていても、細かく見れば断続的に起きているはずです。まず、岩盤のある部分を破壊し、次にこの隙間に入り込んで…と言った具合に。
 そのため、電荷分布や電流は小刻みにふるえ、電場が変化し、電磁波が生まれるでしょう。貫入が地下深くで起きている間は、透過性の高い波長の長い電磁波だけが地表まで届くでしょう。貫入が浅い領域まで進行してくると、波長の短い電磁波も地表に出てくることになります。このような電磁波のスペクトルの変化は、地震の発生時期の予測に有用でしょう。


■地震の予知に向けて

 以上、地震の前兆現象として言われている電磁的現象の相互関係を私なりに推察してみました。ご意見や提案、コメントを歓迎します。

 このアイデアに真実が含まれていれば、地表の電荷分布を知り、地域ごとの変化の規模と特徴を時系列で追いかけることで、貫入の規模や場所、地震の切迫度が予測できる可能性があります。

 地表面の電荷分布を知るには、それの裏返しである、電離層下面の電荷分布を地上からの電磁波的手法(レーダーなど)で観測するか、あるいは、さらにその裏返しである電離層上面の電荷分布を人工衛星からの電磁波的手法で決めるのがもっとも容易であろうと思われます。

 このアイデアを定量的に検証し、予測方法を確立出来る日が来ることを願っています。明日、小惑星イトカワからのハヤブサのサンプル回収が成功することを祈りつつ。
2005.11.25 Wave of Sound

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