もし、過去の地球の気温はおもに太陽活動(太陽磁場)で決まってきた、というスベンスマルクたちの説が正しいならば、CO2排出削減は必要ないのか。
いや、それでもやっぱり、CO2削減をしたほうがよさそうだ、という話をしたいと思います。
ポイントを先に述べますと、現在の大気中のCO2濃度は歴史的に未経験の領域にある。だから、将来を予測する上で、頼るべきは古気候からの類推ではなく、物理法則である。物理法則は(少なくとも100年くらいの間は)温暖化の進行を示す、ということです。
■古気候が示すこと
過去65万年にわたり、大気中のCO2濃度は180〜300ppmの範囲を変動してきました。それに同期して、気温も7℃くらいの幅で上下しています。氷期と間氷期が10万年を1サイクルとして繰り返されてきました。
その変動の様子は、たとえば南極ドームふじ氷床コア分析や東工大の丸山茂徳教授のpdf 異説、気球温暖化 の図3や図9に見ることができます(過去の気温は、いくつかの仮定の下で同位体比率から復元できます)。
気温の変化がCO2濃度の変化に先行している、という解釈もできるようです。丸山教授は、コーラを温めると泡(CO2)が出てくる、と説明しておられます。
気温が上がると海水に溶けていたCO2が大気中に出てくるのでCO2濃度があがる。それが(温室効果により)さらに気温の上昇をもたらします(説明はたとえばこちらの「化学的バランス」の項)。同じメカニズムが、気温が下がる場合には、CO2濃度が下がり、それがさらに気温の低下をもたらす、という働き方をします(*1)。
スベンスマルクたちの仮説が正しいなら、宇宙線量の変化が雲の量(反射率)を変え、まず地球の気温が少し変わります。この小さな変化が、上記のコーラ・メカニズム(正のフィードバック)により増幅されて、先の図のような温度やCO2濃度の変化を生み出していることになります。
■現在の高いCO2濃度は歴史的に未経験
2005年現在、CO2濃度は379ppmに達して増え続けています。過去65万年間の範囲180〜300ppmを上回り、21世紀末には2倍の600ppmに達する勢いです。
確かに、過去においては気温の変化がCO2濃度の変化に先行していたかも知れない。しかし、現在は、CO2濃度が気温に先行して、異常に上がっている状態です。こんな事態は未経験です。
将来を予測する上で、頼れるものは、確かな物理法則しかありません。
■CO2濃度倍増の帰結
CO2の温室効果は、100ppmにつき約0.4℃です。WSは正しいと思っていますが、この値については、いろいろ懐疑論があるようです。付録で少しふれるつもりです。
21世紀末までにCO2濃度がさらに300ppm増えると仮定すると、0.4℃の3倍で、約1.2℃の気温上昇になります。
話はこれだけでは終わりません。海水面の温度が1.2℃上がると、水の蒸散がさかんになり、大気中の水蒸気(H2O)が増えます。H20も温室効果をもち、その効果はCO2の約2倍、つまり、2.4℃の気温上昇を引き起こします。
詳しくは、たとえば ココが知りたい温暖化「水蒸気の温室効果」 をご覧ください。
(丸山教授は上記のpdfの中で、CO2の温室効果(100ppmにつき0.4℃)は認めておられるのですが、水蒸気に触れておられません。海の比熱が大きいから蒸散は起きないと考えて、無視しておられるのだろうか。このあたりがIPCCの見解との違いなのかも知れません。)
結局、CO2と水蒸気の効果をあわせて、約3.6℃の気温上昇が引き起こされることになります。
■予防原則
3.6℃というと大したことではない、という感じがするかも知れませんが、気温が平均で3.6℃上がるというのは、かなり強烈なことです。
たとえば、1993年の夏、日本は冷夏でコメの実りが悪く、タイなどの海外から輸入しました(平成米騒動)。この年の北日本の夏(6〜8月)平均気温は、平年より2℃ほど低かっただけです。
よく知られているように、気温上昇にともなって、海面上昇や極端な気候、農業や生態系への影響があります。現時点では正確な評価ができないけど、ちょっとまずい正のフィードバック(暖まった浅海底からメタンの泡がブクブク...とか)で温暖化が加速するおそれもあります。
約3.6℃の気温上昇がおきる可能性が高いならば、予防原則で、やはりただちに対策をとるべき、という結論が妥当であると思われます。
(近年のCO2濃度の急上昇がおもに、化石燃料の燃焼でもたらされたことは、O2濃度の減少や大気CO2の炭素同位体比から、ほぼ確定的です。対策の中心は、CO2排出削減ということになります。)
■抜けていた話
ここでスベンスマルクに戻ります。
上の話では、雲の量(地球の太陽光反射率)は一定と仮定して、大気の温室効果だけ考えていました。
でも、もし何らかの外的理由で雲が増えるなら、反射率が上がり、地球を冷やします。その冷却効果が温室効果を打ち消す、あるいは場合によっては、温室効果にうち勝って、気温が下がるかも知れません。そのような可能性があるのでしょうか。
上記のpdfで丸山教授はまさにそのような可能性を指摘しておられます。堆積物の分析からわかる過去数十万年の気温変化を見ると、明日にでも寒冷化が始まり、50年で7℃下がってもおかしくないそうです。
ということは、CO2などによる温室効果がたとえば4℃なら、それを引いて、気温が3℃下がることになるのだろうか。あるいは、地球はそんな中途半端な状態は許容せずに、やっぱり7℃下がるのだろうか。
ただ、寒冷化が明日始まるのか、もう少しあとなのか、あるいは100年以内に起きるのかどうか、を10年くらいの精度で求めるには、琵琶湖の堆積物などを用いた、あと数年のさらなる研究が必要だそうです。ご研究の進展を期待したいと思います。
■地磁気と気温変動の関係
寒冷化の開始はいつなのでしょうか。これから先は半分、WSの妄想です。
まず、地球磁場にも氷期-間氷期のサイクルと同じ約10万年の周期で変動する成分が含まれていることに注目します(こちらの文献「赤道インド洋……」も)。
地球磁場は現在、弱まり続けています。このペースで減少を続けると、あと1000年を待たずして、消失する計算になります(ソース:地磁気を研究することの重要性の2ページ目の右図)。
太陽磁場と同様、地球磁場も、飛来する銀河宇宙線を妨げるバリアの役割をしています。その地球磁場が弱まると、宇宙線がたくさん降りそそぎ、雲がたくさんできます。すると、反射率が上がる。つまり、地球は寒冷化するはずです。
地球磁場が半減するまで約500年、その頃から寒冷化が始まると仮定しても、暴論ではないでしょう(かなり、強引^^;)。
つまり、丸山教授のおっしゃる地球の寒冷化はおそらく500年先の問題。
一方、CO2による地球温暖化はここ100年の問題です。
ということは、現時点では寒冷化より温暖化への対策を急ぐべき、とWSは妄想します。(本文、おしまい)
■付録
IPCCの見解に対する懐疑はたくさん表明されていて、反論もなされています(たとえば「地球温暖化問題懐疑論へのコメント」)。
この付録では、CO2の温室効果が100ppmにつき約0.4℃、という見積もりに対する有名な懐疑論のひとつ(上記文献の議論15、下記)について、WSなりに直観的な説明による反論を述べてみたいと思います。
議論15. 二酸化炭素は地球放射の赤外線をこれ以上吸収しない。したがってさらなる温室効果を持たない
<WSの反論>
地表(*2)の熱は、宇宙に向かって開いた赤外線の窓から逃げます。窓が99%閉じられ、1%しか隙間がないとしましょう。その隙間をさらに0.5%閉じて半分にすることは、実は気温に大きな影響を及ぼします。それを比喩で説明します。
底に穴のあいたバケツに、水道の蛇口から一定のスピードで水を注ぎ続けます。穴が大きければ水はほとんど貯まりません。穴から漏れてしまうからです。
穴が小さければ、ある程度たまります。水面はある高さ(たとえば底から10cm)に保たれます。
穴の大きさを半分にすれば、さらにたくさんの水がたまります。水面はさきほどより高く(たとえば底から20cmに)保たれます。
穴の大きさが小さいほど、水面は高くなります。バケツがじゅうぶんに深ければ、水面は非常に高くなりえます。
もちろん、ここでバケツの穴は赤外線の窓に、水面の高さは地球の気温に対応しています。CO2濃度が増えると、すでに十分に狭い窓の隙間が、さらに狭くなる。でも、そのわずかな違いが、気温の大きな上昇をもたらします。これがまさにおとなりの惑星、金星で起きていることです。(おしまい)
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*1) 省略しましたが、水蒸気(H2O)の温室効果の方がより重要です。
*2) より正確には、対流圏上部。
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(2008.7.4付記)関連報道:屋久杉を使って1100年前の太陽活動の復元に成功
(2008.7.8付記)ブログ記事:増田耕一氏の読書ノート [本] 『地球温暖化』論に騙されるな!(丸山 茂徳, 2008, 講談社)
(2008.10.30付記)ブログ記事:丸山茂徳氏の地球寒冷化論への反論(関良基氏のブログ『代替案』、2008年10月16日)
---地球上の植物に関しては、現在までのところ地球温暖化正のフィードバック効果を加速させる要因にしかなっておらず、負のフィードバック効果が発生する兆候すら見えないのです。珊瑚も同様です。---
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